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廣島 武 X 保阪 薫
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2011年02月24日

財務戦略は株主へのメッセージ

クロネコヤマトの宅急便でお馴染みの「ヤマト運輸」を子会社に持つヤマトホールディングス株式会社(ヤマトHD)が、先週の17日に資本効率を高めるための、ある施策をリリースしました。


株主が提供してくれた資本に対し、どれだけのリターンを返しているかを表すROE(株主資本利益率)の向上とEPS(一株あたり純利益)の拡大通じて、企業価値の向上とマーケットにおける投資家の評価を高めることを目指すものです。

ヤマトHDが今回採用する仕組みは「リキャップCB」(CBとは、転換社債のことです)と呼ばれており、その実施により企業は、


・ROEの向上

・EPSの増加


という効果を見込むことができます。


この仕組みの重要性は、「資本効率を向上させますよ」、「現在の株価は割安と判断していますよ」という企業側のメッセージを投資家に伝えることにあると言えるでしょう。


実はこの仕組みはリーマンショック以前に、主として米国企業が取り入れており、日本企業でも2008年6月に初めてヤマダ電機が採用したものです。
リーマンショックを契機に、ROE向上よりも企業存続のための手元資金の確保が優先され下火になっていたのですが、景気回復に連れて企業側にも前向きな姿勢が戻ってきた証拠といえそうです。


<CBを発行して、自社株買い> 

では、具体的に、どうやって株主が「得する」のか見てみましょう。


同社はこの仕組みに関して4本のリリースを行っていますが、要約すると以下のようになります。

・新株予約権付社債(転換社債)を総額200億円発行する。
・発行して調達した資金を使って上限300億円とする自社株買いを実施する。


このスキームを実施する狙いを以下のように述べています。少々長いですが、引用します。


「当社グループは、株主価値の拡大を目指す財務戦略として、一部の自己資金に加え、負債性資金を活用した自己株式取得の実施が最も有用なスキームであり、以下の特徴を有する本新株予約権付社債は、当社の財務戦略を実現する上で最適な調達手法と考えております」

「まず、本新株予約権付社債はゼロ・クーポンで発行するため、機動的な財務戦略を低コストで実現することが可能となります。また、本新株予約権付社債は時価を大きく上回る水準に転換価額を設定することで、発行後の1 株当たり当期純利益(EPS)の希薄化を極力抑制し、既存株主の皆様に配慮した設計としております。

加えて、本新株予約権付社債には120%転換制限条項を付与しており、発行後一定期間にわたり株式への転換可能性を抑制するなど負債性を高めた設計としております。なお、本新株予約権付社債の転換時には保有自己株式(今後の取得分も含む)を活用することを想定しております」

「当社グループは、主に低コストかつ負債性を高めた本新株予約権付社債を活用して自己株式の取得を行うことで、自己資本利益率(ROE)や1 株当たり当期純利益(EPS)など資本効率の向上をはかることが可能と考えております」
(同社リリースより)


<四季報使って、効果を試算>

具体的にどういう流れでROEの向上、EPSの拡大につながるかを、最新版四季報の数値を使って見てみましょう。
(仕組みをご理解いただくことを目的としていますので、簡便な計算式を使っています。また小数点以下の処理により、誤差も生じます)



おさらいですが、ROEは純利益÷株主資本で算出されます。
これだけでも、企業の優秀さの指標になりますが、企業の強みや財務戦略を分析するのにROEをさらに3つの要素に分けると便利です。その要素とは、


・売上高利益率(純利益÷売上高×100)

・売上高回転率(売上高÷総資産)

・レバレッジ(総資産÷株主持分、株主持分比率の逆数)

です。

早速計算してみると、、、


data110223-1.JPG


data110223-1-2.JPG

この結果、ROEは、6.3991%、EPSは70.50円となります。


<転換社債発行後>

転換社債200億円を発行することで、「資産の部」(バランスシートの左側)の「現金」と、「負債の部」(右側)が200億円増加します。

data110223-2.JPG

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今回の転換社債はゼロクーポン(利率がゼロ)のため、支払利息は発生せず、利益への影響はありません。総資産が増加するため売上高回転率は低下しますが、負債の増加でレバレッジが上昇。3つを掛け合わせたROEは6.3960%とほぼ変わりません。EPSも変わりません。

<自社株買い実施後>

上限である300億円の自社株買いを実施すると、「資産の部」の「現金」と「資本の部」の「株主持分」がそれぞれ300億円減少します。

data110223-3.JPG


発行済株式数は、仮に2月17日の終値1315円で300億円の自社株買いを行ったとすると、30,000百万円÷1315円=22,813千株減少することになります。      

data110223-3-2.JPG


売上高回転率、レバレッジともにスキーム前よりも上昇した結果、ROEは6.7906%に上昇します。
また、EPSも発行済株式数の減少により、74.12円に向上します。


ただ、転換社債全額が株式に転換されれば発行済株式数は約3%増加しますし、自社株買い300億円を実行する時、いくらの株価で何株買い付けられるかによって、当然ROE、EPSの水準は変わってきます。


同社の株価は、発表翌日の2月18日に前日比55円高の1370円で寄付き、高値1395円までありました。また当日に同社は23億円の自社株買いを実施したことをリリースしています。


その後、エジプト、リビア問題などによる市場環境の悪化に引き摺られて、発表前の株価を割り込んでしまっていますが、中長期的には株主を意識した財務戦略として他社にも広がることが予想され、注目していきたいと思います。

カテゴリー : 保阪 | 投稿者 : invb | 2011年02月24日 18:12

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社長プロフィール
代表取締役社長
廣島 武
1963年生まれ。駒沢大学経営学部卒業。1985年三洋証券株式会社入社。日本インベスターズ証券を経て、2000年当社設立。三洋証券時代より、個人投資家への資産運用アドバイス業務に一貫して従事。
代表取締役会長
保阪 薫
1961年生まれ。京都大学法学部卒業。1984年野村證券株式会社入社。シティバンク・プライベートバンク、日本インベスターズ証券などを経て、2000年当社設立。
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