ブリッジレポート
(4773)

ブリッジレポート:(4773)エー・アンド・アイ システム vol.1

(4773)エー・アンド・アイ システム/ 岡 良貴社長

2002年4月30日(火) エー・アンド・アイ システムを訪問しました。
日本橋箱崎にある本社で岡社長にお話を伺いました。

会社の沿革

同社は1987年に日本IBM 35%、エービーシ(現:富士ソフトABC)65%の合弁で設立されました。
都市銀行の第三次オンライン構築で、同社は富士銀行のオンラインシステムを構築、その後の保守運用も手がけたのが始まりです。
岡社長は技術面の責任者としてこのプロジェクトを統括していました。
その後、金融・保険、官公庁、NTTのビッグプロジェクトに相次いで参加するなど実績を積み、業容を拡大していきました。


岡 良貴社長


日本IBMは、現在でこそサービス、システム開発において世界でダントツの位置にありますが、当時はハードウェア販売が中心で、営業職がエリートの会社でした。
技術畑の岡社長はそうした現状に物足らなさを感じていた中、エービーシの都合から出向者を戻し、株主比率を下げる状況が生じ、その放出分を従業員が保有することになりました。
その時点で、当時取締役だった岡社長は「技術者を大事にする会社作り」を目指して、出向から転籍へと立場を明確にし、株式の公開を目指すこととしたのです。
経営陣が転籍をしたことでスタッフもその意気込み、真剣さを感じることとなり、その後の同社の社風にも大きな影響を与えたといえそうです。
現在、日本IBM、富士ソフトABCともに23.7%の株主ですが、IBMの事業戦略においては、イコールパートナーとして相互協力する「自主独立企業」という位置付けとなっています。

 

事業内容

四季報などを見ると「システム開発」と書いてありますが、より詳しくは以下のような内容です。

①システム開発サービス
金融・公共・流通等の先進的システム開発で培われた技術を擁したSE(システム・エンジニア)により、システムの開発/構築に関して、設計/開発/導入/教育/保守等の各種サービスを提供しています。
ホスト系からオープン系、それらを結ぶネットワーク系等、幅広い分野にわたりサービスを実施します。
売上構成比は37.3%です。(平成13年3月期。以下同じ)
<システム開発事例>
都市銀行第三次オンラインプロジェクト
官公庁プロジェクト
メディア関連(新聞社)プロジェクト

②ネットワーク・ソリューションサービス
平成7年にインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)事業を開始して以来、「Webアプリケーション構築」、 「ネットワーク構築」、「セキュリティ関連」、「ファイアウォール研修」など、顧客のインターネットを中心としたネットワークに関する幅広いニーズに対応したサービスを提供しています。
またこれに加え、アプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)事業および、インターネット・データセンター(IDC)事業を開始。 特にIDC事業の拡充に注力していく方針です。これらの3事業の共通プラットフォームとして喜多方アクシス事業所にインターネット・プロダクション・センターを開設しました。
売上構成比は34.8%です。

③システム・インテグレーション
顧客の要望に応じた情報システム構築を一括して引き受けています。既存の製品ではカバーしきれない独自の要求に対し、インターネット/イントラネット環境における豊富な経験と最新のIT技術を生かし、問題解決を推進しています。
売上構成比は26%。

④コンサルティングサービス
同社では、銀行、ノンバンク、クレジットカード、生保、損保など金融分野を中心に長年にわたるシステム開発で培った豊富な経験と実績を持ったコンサルタントが、情報技術(IT)の観点から顧客のビジネスを競争優位に導くための実現性のある情報戦略および情報化計画を策定するコンサルティング・サービスを提供しています。
売上構成比は約2%です。

 

安定した顧客基盤

同社は以下のように日本を代表する大企業と直接取引きを行っており、安定した顧客基盤が一つの特徴です。
<金融>
日本銀行、富士銀行、東京三菱銀行、UFJ銀行、中央三井信託、明治生命、東京海上火災、富士総研など
<公益・公共>
郵政省、国税庁、福島県庁、喜多方市役所、NTT、NTTデータ、日本経済新聞社など
<流通・サービス>
三菱商事、ITF、グッドウィル・グループなど
<IBMグループ>
日本IBM、日本IBM関連会社
日本IBM関係からの売上構成は平成13年3月期で44%でしたが、平成14年3月度は34%と今後は30%台で推移する見込です。これは、IBMヘの依存体質から脱却し、自主独立路線、高収益路線への志向です。IBM関連技術を武器にIBMのお客様に直接ソリューションサービスを提供し、より高収益を目指す 戦略と言えます。
2000年度決算ベースでIBMの営業利益率は約13~14%で、世界の他企業と比較すると合併後のHP+コンパック 約4%、富士通 約4%、NEC 約4%弱、日立 約2%と、IBMの一人勝ちの状況となっています。
ハード中心からサービス(ソフト、システム)中心へといち早く転換したのが大きな要因です。
IBMとの資本関係があるが故に、この、一人無人の野を行くIBMの持つ先端の技術、システムを取り入れることができるということも、同社にとっての大きなアドバンテージといえそうです。

 

特徴・強み:抜群のビジネス安定性

同社事業の特徴・強みは、
上記のとおり、

  • 安定した顧客基盤
  • 世界No.1のIBMと組んでいる

ことに加え、同社が中心的に取り扱うシステムの性格から来るビジネスの安定性があげられます。
同社の扱っているのはいわゆる「基盤系」というもので、システムを正常に動かすための根幹の部分で、これがあってこそ各種アプリケーションなどが機能するのです。
歌舞伎や演劇で言えば「舞台装置、大道具、小道具」といったもので、いわば裏方さんともいえるでしょう。 この舞台の上で活躍する役者は一見華やかではありますが、人気、好き嫌いによる浮き沈みが常です。
これに対し同社は「基幹系」を「幅広い業種」で取り扱っていることから、景気変動や流行に左右されにくい、変動の少ないビジネスを継続していくことができる仕組みとなっているのです。

またこの経営の安定性を生み出すための鍵はプロジェクトの「品質管理」と「人材育成」が経営の最重要テーマと捉え、これを過去15年間の経営の過程で構築した社内的な仕組みにも岡社長は大きな自信を持っています。
これはどちらも同社が社内オリジナルで構築したものですが、社長を始めとした管理者はプロジェクトの「品質管理」と「人材育成」プロセスを常にリアルタイムでチェックすることができ、何か問題が生じたときでも素早く適切な対応が取れるようになっており、同業の専門家が見ても非常に優れた仕組みと評価されるものだそうで、他社には真似のできないものということです。
そこにこそ「増収増益」が自然体に達成できる経営基盤があると自信を持っています。

 

事業戦略

同社の事業戦略は大きく分けて2つになります。
①コンサルティングから運用保守までの一貫したソリューション(問題解決方法)の提供
同社では、「コンサルティング」→「設計」→「開発・構築」→「導入」→「運用・保守」と、全工程をカバーしてシステムに関する高付加価値の問題解決方法を提供していくことにこれまでと同様、今後も引き続き注力していきます。
どんな時代を通じても変わらないこの戦略を「不易」と呼んでいます。
この一貫ソリューション(複合サービス)を本当に提供できるのは、情報サービス産業上場企業(約100社)の中でも同社を含めて実際は4分の1ぐらいと岡社長は見ています。

②ストックビジネスへの志向
①とも関連してきますが、一貫サービスの中でも「運用・保守」の部分、ハウジングサービスの拡充を図っていきます。
システム開発ビジネスの沿革を振り返ると、まずSE(システムエンジニア)を派遣する「人月提供」から始まりました。つまり「SE一人一ヶ月いくら」というもので、顧客からすればそのSEの能力に拘わらず料金を支払わなければならないという不合理な点があります。
当然次にはSEの数に対してではなく、「成果物」に対して支払うこととなり、それが更に進んで、インターネットを核とした情報システムの需要が膨大になるに伴い、「ソフトウェアやサービスの使用量」に対して支払う時代となってきています。企業がソフトやサービスを電気、ガス、水道といったモノと同様に扱うようになってきたということです。
そしてこの面での需要に対応するものが、ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)やIDC(インターネットデータセンター)といった、アウトソーシングサービスであり、同社はこれらをストックビジネスと呼んでこの拡充を図り、より高付加価値のソリューション提供を勧めていく戦略です。
ストックビジネスというのは、同社が一旦アウトソーシングを顧客から受託すれば、その高い技術力、品質を提供することができるため、よほどのことがないとライバルに奪われることがないという意味です。 公開時の資金調達によって10億円でIPC(インターネットプロダクションセンター)を福島県喜多方市に建設して、IDC事業、ASP事業を推進していきます。

 

電子自治体構想

同社が手がけているビジネスは数多いのですがその中で最も注目されるのが「電子自治体支援」です。 同社は2001年1月、「サービス向上」、「コスト削減」を掲げる白井市長が市政を司る福島県喜多方市の基幹業務システムを一括業務委託方式で受注しました。
これまでは市職員が行っていた住民登録、国民健康保険、印鑑証明、年金などのシステム管理を同社が喜多方市に建設したIDCで請け負うものです。
同社のIDCと庁内LANを専用線で接続することで、市としては庁舎内にサーバーを自前で設置する必要がなくシステム導入経費を大幅に削減できる上、ハード、ソフトのバージョンアップ、運用、監視も委託することで最終的には年間約3000万円の節減が可能だということです。
将来的には市内の一般家庭、企業がインターネットによって結ばれて、住民票の登録や印鑑証明の発行などが市役所の窓口に行かなくても可能になっていくでしょうし、モバイルから行政に関する各種情報をノンストップで収集できるようになります。
こうした姿が「電子自治体」、「電子政府」というもので、今後全国的に拡大していくことが確実視されており、先行して実績を残している同社の大きな事業の柱となる可能性が高いといえそうです。

 

技術者の働き甲斐を大事にする職場環境

前にも書きましたが、同社は創業時から技術職を大事にすることをモットーとしており、岡社長の言葉によれば「SEの天国を作る」ことを目標にしています。
その中で注目されるのが「エグゼクティブ・コンサルタント職」という人事制度です。
これはSE職の最高位として「エグゼクティブ・コンサルタント職」を設け、役員と同等の給与待遇を保証するものです。現在50歳代、4名のエグゼクティブ・コンサルタントがいますが、みな一人で収益に多大な貢献をしており、役員を上回る年収の方もいるそうです。
人数の上限はあるのですかという質問に対しては、「自分で売上を立てているんだから何人いてもいいんですよ。それより問題は僕ら役員連中だね。コストだけだから」と冗談めかしてお答えになりました。

 

訪問を終えて

「低成長下でも生きていける会社、社員を育てたい」というのが岡社長の想いです。
競争が厳しく、低成長を余儀なくされる社会の中で、社員一人一人が自分と会社の明日を考え、真剣に社会と向き合い、自分自身が構造改革を進める必要性を、「自律と創造」という言葉で日頃から社員に説いているそうです。
そうした中で、一人一人が自律と創造を達成できればこれが株主に報いることになると考えています。
そして、「あくまでも会社の主役は社員であり、そのための環境作りが社長の仕事」ともおっしゃっていました。 岡社長が投資家の皆さんにまず理解してもらいたいのが、上にも書いた「事業の安定性」。
派手な売上、利益の伸びはないかもしれませんが、安定した増収・増益を達成する事業構造、仕組み、背景に是非注目してみてください。
一方、経営の生産性を示す営業利益率も6.6%(平成14年3月期実績)、7.6%(平成15年3月期見通し)、10.8%(平成16年3月期見通し)、12.3%(平成17年3月期見通し)となり、間も無く、情報サービス産業上場企業の中でも「一軍入り(営業利益率10%超)」が実現できる見通しです。因みに同産業上場企業約100社の中で営業利益率10%超は平成13年3月期決算で12社です。
それに伴い、一株あたり当期利益も40円(平成14年3月期実績)、56円(平成15年3月期見通し)、94円(平成16年3月期見通し)、118円(平成17年3月期見通し)となります。また、それに伴い配当政策も一株あたり12円(平成13年3月期および14年3月期実績)、15円(平成15年3月期予定)と増配の傾向です。
また、流動性の向上、認知度の向上を目指したステップアップも検討中とのことです。
株主、投資家を大事にする気持ちが強く伝わる1時間半の取材でした。