ブリッジレポート
(4955) アグロ カネショウ株式会社

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ブリッジレポート:(4955)アグロ カネショウ vol.8

(4955)アグロ カネショウ/櫛引 博敬社長
2003年5月10日(土)


名古屋で開催したブリッジサロンにおける、櫛引社長のお話を報告します。

会社概要

  • 農薬専業のメーカーとして、40年ぶりの上場(2000年9月7日)
  • 自社開発に重点を置いた他社とは異なる戦略を採用
  • 強固な財務体質。無借金。豊富な手元流動性。
  • 株主資本比率 75.5%

櫛引 博敬社長


手元流動性については、有効な活用を求める声もありますが、リスクの高い新薬研究開発を手がけており、機動的に投入できる資金をある程度確保しておく必要があります。ただ、必要額以上は、株主へ積極的に還元する方針です。

 

日本の農薬市場概要

2002農薬年度の各社の売上高ランキングは、合併・統合等で上位メーカーのランキングはかなりの入れ替わりが見られますが、このなかで同社は21位となっています。

日本の農薬市場は、2002農薬年度で3,353億円となっています。
各剤別の売り上げ割合は、害虫防除剤、除草剤が各30%、病害防除剤が26%です。 農薬の出荷金額は、全体では減少傾向。
しかし減少の割合の大きいのは水稲で、同社が主要市場としている果樹、野菜の分野では、比較的減少傾向は穏やかとなっています。

 

日本の農作物の作付面積

穀物類・イモ類
水稲が全体の81%を占めています。穀物類・イモ類は最近10年間で、面積は18%減少し210万haと大幅減。

主要果樹
作付け面積は24万haで、その主要作物は「かんきつ」31%、「りんご」18%となっています。10年前との比較では、面積では16%の減少に止まっています。内容的にはオレンジの輸入自由化の影響から、かんきつ類の比率が低下しています。

主要野菜類
作付け面積は35万haで、10年前から15%の減少となっています。
野菜についてはその作付け状況は多岐にわたり、一番大きなものが「だいこん」で12%となっています。野菜については、近年の安価な輸入野菜の急増問題がかなり影響を及ぼしているのと考えています。

その他の作物
面積約10万ha。主要なものは「茶」でその半分を占めています。
同社はこの分野でも全ての作物に商品を提供しています。
10年間で、作付面積が36%と大幅に減少しています。内容では、桑が10年前にはお茶に次いで大きな比率を占めていましたが、近年では6%と大幅に減少。絹の需要の減退がそのまま桑の葉の需要減に繋がっていると考えられます。

東海地区(同社の営業区分の7県:静岡、愛知、岐阜、三重、富山、石川、福井)での耕作物の状況は、以下のようになっています。

  • 「穀物類・イモ類」の作付面積は、全国の11.3%を占めており、81%が水稲で、全国平均の比率と同じ
  • 「小麦」「ばれいしょ」の比率が低い
  • 「主要果樹」の面積では、全国の8.9%を占めている。銘柄状況をみますと、49%が「かんきつ」で静岡および愛知、三重で作られている「温州ミカン」がその主体。(静岡の温州ミカンは、愛媛、和歌山に次ぐ産地)
  • 全国では第2位の「りんご」が少ないのも特徴。
  • 「主要野菜類」の作付け面積は全国の9.9%
  • 「キャベツ」の比率が第1位(全国ではだいこんが1位)、「すいか」が第4位(全国では第9位)。いずれも知多半島で大規模に栽培されているもので、名古屋という消費地と気候、土地が適している。
  • 「その他の作物」の作付け面積は全国の30.8%。その主なものは「お茶」。全国一の「お茶」の産地である静岡がその大部分を占めている。
  • 「たばこ」、「桑」の比率が低いのは、それぞれ産地が特定されていて(「桑」 は主に関東、東北の各県、 「たばこ」は主に九州の各県)当地では少なくなっている。


無登録農薬問題

昨年起きた無登録農薬問題について説明されました。

問題の経緯
2002年7月、山形県で無登録の農薬「ダイホルタン」と「プリクトラン」を販売していた2つの業者が農薬取締法違反と毒物及び劇物取締法違反の容疑で逮捕されました。
その後、8月には、山形の業者に販売していた東京の業者が、農薬取締法違反の容疑で逮捕され、その業者が山形県以外の業者にも販売していた事実が判明しました。
農水省は、関係する都府県に対し、販売業者等への農薬取引法に基づく立入検査を早急に実施するよう指導。この指導は、当初32都府県に対してでしたが、その後、全国47都道府県に拡大されました。
その立入検査等の結果、全国で多数の無登録農薬の販売・使用が確認されました。
こうした問題を受け、スーパーや外食各社は取扱う青果物の調達先を見直す動きが相次ぎました。
イトーヨーカ堂や西友などでは、無登録農薬が使われていた恐れのある野菜・果物の販売を見合わせて、直接取引している生産者組合や農協に対し、無登録農薬を使っていないとの確認書・検査証の提出を求めました。
外食産業では、すかいらーくが、食材として使う全ての青果物を、急遽再検査しました。

以上の結果を踏まえ、国は、これまで農薬取締法の対象は、無登録農薬の販売だけで、使用は対象外となっていましたが、農薬取締法を改正し、無登録農薬を使用した農家に対しても新たな罰則を設けるなど、規制を強化する方針を固め、農薬取締法の一部改正について、2002年12月に国会で可決し、2003年3月10日から施行されることになりました。

改正の内容
(1)無登録農薬の製造及び輸入の禁止
以前は、無登録農薬の販売だけを禁止していましたが、今後は、製造及び輸入を禁止することとし、個人輸入を含めて、水際での監視の徹底が図られます。

(2)輸入代行業者による広告の制限
輸入代行業者が、インターネット等を通じて、無登録農薬の個人輸入を勧誘している状況にかんがみ、これらの者による広告を制限します。

(3)無登録農薬の使用規制の創設
一部農家が無登録農薬と知りながら、これを使用していた実態を踏まえ、無登録農薬を農作物等の防除に用いることを法的に禁止します。

(4)農薬の使用基準の設定
農薬の使用に伴って、作物への残留等の問題が発生することを防止するため、農林水産大臣及び環境大臣は、使用者が遵守すべき基準を定めることとし、この基準に違反して農薬を使用してはならないようにします。

(5)法律違反の罰則の強化
同じ生産資材である飼料等に比べ、農薬に係る法律違反の罰則が低いこと、罰則があるにもかかわらず無登録農薬の違法販売が行われていたことを踏まえ、農薬取締法の罰則を飼料安全法と同等のレベルまで引き上げます。
特に、法人の販売等に係る義務違反については最高刑を1億円とします。

これらの法律が施行されることにより、無登録農薬の使用は、厳重に規制され、全ての農家が、登録農薬を使うようになると考えられます。
このことは、同社のような正規の農薬メーカーにとっては、無登録農薬によって不当に占められていた市場の開放となり、該当する薬剤については市場の拡大、販売の伸長に繋がると期待しています。

 

同社の特徴

農薬マーケットが伸び悩む中で、安定した収益を確保している要因として、以下の5点があげられます。

1.果樹・野菜向け農薬に特化
農薬の使用分野別の作付面積は、水稲の作付面積が国の減反政策により毎年大幅に減少する一方、同社のターゲットである果樹・野菜の作付面積は、比較的穏やかな減少にとどまっています。

2.独自製品・差別化製品の開発
原体メーカー(農薬の有効成分を製造するメーカー)が多数の会社に卸し、同じ農薬製品が複数の名で市場に出てくることがあります。そうした製品は価格競争が起き易く、同社はできるだけ扱わない方針をとっています。
独自品、また他社製品との差別化を図った製品の比率は、売上高の50%に上ります。

3.TCA(技術と経営のアドバイザー)の役割
TCAはTechinical Commercial Advisorの略です。
アグロ カネショウは「単に物を売るのではなく、農薬の使い方など技術を売る」企業であり、「製品を売るのではなく、技術を売れ」と櫛引社長は指導しています。
製品販売にとどまらず、農薬使用にあたっての技術と、それに伴なって農家経営までをアドバイスしてゆくことを営業方針としています。
このために全国に8支店8営業所をおいて、展示圃を展開、農家説明会を実施し、200以上の得意先と取引をしています。

4.最終需要家(農家)へのダイレクトマーケティング
一般的に他の農薬メーカーは、卸商、全農へのマーケティングに終始しているところが多いのが現状です。しかし同社は、真の意味での需要家である農家へのダイレクトなマーケティングに重点を置いています。
創業以来「常に農家のために、農家とともに」を経営理念に営業展開しており、同業他社が農協との関係をベースにしているのと、一線を画しています。
1960年には、地域別の販売会社の展開に注力し、農家を担当するTCAを全国に配置しています。
農家は農薬(特に新製品など)を見せられただけでは買いません。使い方、効果を理解させることが必要です。そこでTCAは、農家を訪ね、説明会や講習会を開いています。全国5,000箇所に「展示圃」を設置し、散布の方法や注意点を実演によって説明し、実際の効果を見せています。また、中核農家を情報の受発信点と位置付け、技術普及スタッフによる直接指導を実践しています。
このように「展示圃」、「中核農家」を核に周辺農家を組織化し、農家の立場に立った情報を提供し、農家とのより深いコミュニケーションをとりながらダイレクトマーケティングを展開しています。

5.商系流通に比重
同業他社が全農、全農県本部を通じた販売が約半分程度を占めているのと比較して、同社の場合は会員店(当社の経営理念を理解して頂いている卸商)を通じての販売が約9割となっています。
この流通経路のなかで根本的に違うのが情報の流れです。同社の場合、TCAを通じた営業活動があります。これによって情報は最終需要家の農家・栽培者・使用者のところにダイレクトに提供されます。
他社の場合は購入・販売依頼はメーカーから卸へ、卸から小売店へという上から下への依頼という形になります。
一方同社の場合購入・販売依頼は最終需要家から沸きあがってくる形になります。このことは需要の喚起につながると同時に、末端情報の汲み上げにつながり、同社の大きな強み・特徴となっています。

 

業績の推移および利益配分に関する考え方

農業を取り巻く環境は引続き厳しい状況にあります。
同社も例外ではなく、主力のダニ剤「カネマイトフロアブル」、新規害虫防除剤「アルバリン」は健闘したものの、土壌消毒剤の「バスアミド」は競争の激化もあり減収となり、昨年の売上高は前年対比微増に止まりました。こうした環境においても将来に向けての開発投資に積極的に取り組んでおり、研究開発費用の増加のために、前期は減益となりました。

同社の業績は、新規剤の上市・適用拡大に伴なって伸びてゆく傾向が顕著で、平成3年から4年にかけての伸びは「バスアミド」の食用作物への適用拡大、「キノンドー」「コロナ」などのフロアブル剤、「テルスター」の水和剤・スプレー剤の登場に伴なう伸びとなっています。また平成11年、12年の伸びは新型のダニ剤「カネマイトフロアブル」の上市の時期にあたります。
今期の業績は、前期に引き続き伸び悩みの状況にありますが、ちょうど成長のステップの踊り場にあると考えています。

平成12年12月期の上場記念配当、50周年記念配当を含めた30円配当を、平成13年12月期には上場記念配を普通配当15円に加えて普通配当20円として配当を行いました。
今期も前期に引き続き利益の水準は低いと予想されますが、20円配当を継続する予定です。これは、利益の減少が構造的なものではなく、将来のための研究開発費が前期及び今期に集中することによってもたらされた、あくまでも一時的なものであることから、安定的な配当を継続することが望ましいと考えているからです。
また、無借金経営を続けており、財務内容は健全な状況にあるため、今後とも安定的な配当を継続する考えです。

 

今後の重点施策

以下の5つの重点施策を推進していきます。

1.トライアングル作戦
同社、販売店・JA、農家の3者の関係を従来の同社と会員店・JA、同社と農家のつながりから、3者相互のコミュニケーションをつなげることにより、今まで以上に顧客ニーズの機動的・迅速な収集、活用が可能となることを目指した、営業技術普及活動です。
この背景としては、「農薬を正しく理解してもらいたい」という願いがあります。自然環境との調和を図り、農薬を正しく使ってもらい、食糧生産に従事してもらうことが重要と考えています。
農業振興の中核である農家が各地域でそれぞれ主体となって活動できるよう支援してゆくことが重要であると考え、「農家との対話を密に」をモットーに活動しています。
農家との対話を通じて情報を収集・整理し、また情報交換を行うことによって信頼関係を築き、ひいては農家の自発的行動を促し、同社の収益拡大につなげようと日々努力しています。
このための体制として、本社のほか8支店、8営業所を全国に配置し、76名のTCA担当者(営業技術普及担当者)が各担当地域をカバーし、農家、会員店、JA等と日々コミュニケーションを密に営業活動を行っています。

2.海外展開
主力のダニ剤であるカネマイトは、現在韓国、台湾向けに輸出が始まっています。
またアメリカでは、2002年11月末に登録申請が受理されました。
カネマイトは、米国において薬害リスクが低い農薬であるとの認定を受けたことにより、通常より早く18ヶ月以内には登録が予定されています。
ヨーロッパでは2003年4月に登録申請しました。
また南米でもコロンビア、エクアドルで2003年中に登録認可予定です。
アメリカ、ヨーロッパではそれぞれ5-10億円程度の輸出が可能と考えています。
販売体制に関しては、商社を利用する計画です。同社のヨーロッパ事務所は、ヨーロッパで製品の販売を行うにあたり、登録取得のための現地法制度上の必要性から設置しているもので、販売拠点ではありません。

3.適用作物の拡大
農薬は、その対象となる病害虫、対象作物に関して無制限に使用できるものではなく、農薬登録制度によってその対象病害虫、対象作物等が細かく規制されています。
ただ、その対象病害虫、対象作物は「適用拡大」の申請を行うことにより広げることが出来ます。
この適用拡大により、販売対象が広がり売上増を期待することができます。
カネマイトフロアブルでは、平成15年、16年で「ぶどう」「すもも」「やまのいも」「あづき」等が予定されています。これによる売上増は14年15年各々45百万円程度の見込です。

4.M&A
まだ大規模なM&Aの実績はありません。
しかしM&Aは時代の流れとして機会があれば取り組む方向で、常に外への情報収集のアンテナは高く掲げています。
最近のM&Aの実績としては、「菱陽商事からの営業の一部譲受け」(平成15年4月)があります。
菱陽商事は、同社の取り扱っていたサンキャッチ、ハイタック、フルハート等の植物調整剤の製造元でしたが、菱陽商事の「経営資源のコア事業への集中化」という目的と、同社の「植物調整剤の更なる充実と経営改善」という目的が合致し、実現したものです。

5.事業特化の推進
資本の効率的な活用と農業の概要、農薬市場を考慮して、以下の3つの方向に特化して行く方針です。
(1) 土壌病害虫防除剤への特化
2005年に臭化メチル剤の全廃が決まった状況にあって、代替剤としての剤が望まれていること、また特に土壌病害虫防除剤の分野は需要が拡大する分野でもあることから、開発の重点分野としています。バスアミド、アルバリンに続く剤の開発を進めています。

(2) ダニ剤への特化
創業以来得意としてきた分野であり、また創業者の遺志でもあります。現在カネマイトフロアブルが好調ですが、次の剤の開発を進めています。

(3) 生物農薬への特化
今後期待される分野です。2002年7月に三井物産と合弁でセルティス ジャパンを設立し、BT剤、フェロモン剤の販売を開始し、生物農薬部門の強化を図りました。

 

有力新製品上市の見通し

現在、大型の新剤の開発をを2剤並行で進めています。

コードネーム「AKD-3088」
1つ目の事業特化方針にあった園芸用線虫剤で、平成16-17年の登録申請に向け開発中です。販売開始後は年商20億円程度を見込んでいます。

コードネーム「AKD-1102」
2つ目の事業特化方針にあった果樹・園芸用の新ダニ剤です。
多くの種類のハダニに高い効果を見込みます。最大の特徴は抵抗性(続けて何度も使うと効果がなくなる現象)がつきにくく、商品寿命が長いことです。平成19年の登録申請に向け開発中で、販売開始後はこれも年商20億円程度を見込んでいます。

 

新薬販売までのスケジュールとコスト

新規の薬剤が開発されてから実際に農薬として監督官庁の認可を得て、販売にいたるまで最短でも約8年以上の年月がかかります。
主要な開発費用でも、安全性・環境影響試験を主体に15億円以上の費用がかかります。これは日本国内だけを対象とした場合で、国が異なると別途費用がかかります。

 

生物農薬への対応

2002年7月に三井物産とともに、生物農薬を主体として取り扱う会社、セルティス ジャパン株式会社を設立しました。
資本金5000万円で、三井物産、同社がそれぞれ50%出資しています。
当面の取扱商品は微生物を利用した害虫防除剤であるBT剤で、米国のセルティス USAから輸入、販売することとします。農薬市場への販売は同社が行います。BT剤については、第1船が今年1月に到着し営業が本格化してきています。
将来的には三井物産の世界に張り巡らした情報網も利用し、新規に微生物を利用した病害虫防除剤、植物由来の病害虫防除剤等を開発してゆくことを目指しています。

生物農薬の市場規模
国内市場:果樹・野菜の園芸分野で30億円(園芸農薬の約2%)
世界市場:果樹・野菜の園芸分野で500億円(園芸分野の約5%)
近い将来この市場規模は、国内150億円(同比率は10%)、世界1,500億円(同比率15%)になると予想されています。

 

経営理念

経営理念は「我が信条」として、4つの責任を上げています。

  • お客様に対するもの
  • 社員に対するもの
  • 地域社会、社会全体に対するもの
  • 株主に対するもの

この経営理念にのっとり、現状に満足することなく、これからも更なる成長を図り、投資家や株主の期待にそえるよう、尚一層の努力を続けていく考えです。