ブリッジレポート
(4955) アグロ カネショウ株式会社

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ブリッジレポート:(4955)アグロ カネショウ vol.10

(4955)アグロ カネショウ/櫛引博敬社長
2003年12月20日(土)

個人投資家向け企業説明会「ブリッジサロン」での、櫛引社長のお話をまとめました。



櫛引 博敬社長


同社の特徴

農薬マーケットが伸び悩む中で、同社が安定した収益を確保できる理由は、以下の3つの特徴にあります。

1.果樹・野菜向け農薬に特化
農薬の使用分野別の作付面積は、水稲が国の減反政策により毎年大幅に減少する一方、同社がターゲットとする果樹・野菜は、比較的穏やかな減少にとどまっています。

2.独自製品・差別化製品の開発
原体メーカー(農薬の有効成分を製造するメーカー)が多数社に卸し、同じ農薬製品が複数市場に出てくることにより、価格競争が起き易い製品はできるだけ扱わない方針を堅持しています。 独自品、また他社製品との差別化を図った製品の比率は、売上高の約50%に上ります。

3.最終需要家(農家)へのダイレクトマーケティング
「顧客=農家」という点を強く意識しており、創業以来「常に農家のために、農家とともに」を経営理念に営業展開。同業他社が農協との関係をベースにしているのと、一線を画しています。農家を担当するTCA(テクニカル・コマーシャル・アドバイザー)を全国に配置しています。
同社は「単に物を売るのではなく、農薬の使い方など技術を売る」企業です。農家は農薬(特に新製品など)を見せられただけでは買いません。使い方、効果を理解させることが必要です。そこでTCAは、農家を訪ね、説明会や講習会を開いています。全国5,000箇所に「展示圃」を設置し、散布の方法や注意点を実演によって説明し、実際の効果を見せています。また、中核農家を情報の受発信点と位置付け、技術普及スタッフによる直接指導を実践しています。
このように「展示圃」、「中核農家」を核に周辺農家を組織化し、農家の立場に立った情報を提供し、農家とのより深いコミュニケーションをとりながらダイレクトマーケティングを展開しています。

 

2003年12月期業績見通し

 
見通し
前期
売上高
7,100百万
7,792百万円
経常利益
-350百万円
150百万円
当期純利益
-500万円
41百万円

以下の要因により、減収・減益の見通しです。
1. 天候不良のため病害虫の発生が例年より少なかったことにより、需要が減少しました。
2. 農薬取締役法改正の影響で、その運用をめぐり、多くの農家が混乱したことにより、一時的な買い控えが起こりました。
3. 高水準の研究開発費が吸収できませんでした。

 

株価について

BPS(1株当たり株主資本)は中間期末1,582円であり、現在の株価約500円はバリュエーションからみれば割安であると考えています。 加えて、潤沢な内部留保により20円配当を継続する予定です。 配当利回りは、約3.8%に達します。

 

重点施策

1.トライアングル作戦
トライアングル作戦は、同社、販売店・JA、農家の3者間の相互コミュニケーションを緊密に行うことにより、今まで以上に顧客ニーズの機動的・迅速な収集、活用を可能とすることを目指した、営業技術普及活動です。
トライアングル作戦の背景としては、顧客である農家に「農薬を正しく理解してもらいたい」という願いがあります。自然環境との調和を図り、農薬を正しく使い、食糧生産に従事してもらうことが重要と考えています。
本社のほか8支店、8営業所を全国に配置し、76名のTCA担当者が各担当地域をカバー。農家、会員店、JA等とコミュニケーションを密にしてた営業活動を行っています。

2.適用作物の拡大
農薬は、その対象となる病害虫、対象作物に関して無制限に使用できるものではなく、農薬登録制度によってその対象病害虫、対象作物等が細かく規制されています。
農薬取締役法改正による制度改訂をチャンスと捉え、積極的に適用拡大を図ることにより、売上拡大を目指します。
主力のダニ剤「カネマイトフロアブル」では、平成15年、16年で「ぶどう」「すもも」「やまのいも」「あづき」等が予定されています。これによる売上増は平成15年、平成16年それぞれ45百万円程度と見込んでいます。

3.海外展開
「カネマイトフロアブル」は、現在韓国、台湾向けに輸出が始まっています。 また、南米エクアドル及びチリにおいて、2003年10月に登録が認可され、アメリカでも11月5日に非食用分野の登録が認可されました。
ヨーロッパでは2003年4月17日に登録申請を行いました。
アメリカ、ヨーロッパ向けにそれぞれ5-10億円程度の輸出が可能と考えています。

4.重点事業領域の強化
以下の4点を重点事業と位置付けて強化を進めます。
① 土壌処理剤及びダニ剤の研究開発強化
土壌処理剤
順調に研究開発が進んでおり、バスアミド、アルバリンに加え、園芸用線虫剤AKD-3088「ネマキック」は、平成16年の登録申請、平成18年登録取得に向け開発中です。販売開始後は年間20億円程度の売上を見込んでいます。

ダニ剤
カネマイトフロアブルに続いて、AKD-1102、AKD-2036、AKD-2115を開発中です。 「AKD-1102」は、果樹・園芸用の新ダニ剤です。多くの種類のハダニに高い効果を見込みます。最大の特徴は抵抗性(続けて何度も使うと効果がなくなる現象)がつきにくく、商品寿命が長いことです。平成17年の登録申請、平成19年登録取得に向け開発中です。販売開始後は年間15億円程度の売上を見込んでいます。

②生物農薬
今後期待される分野です。
2002年7月に三井物産と合弁でセルティス ジャパン株式会社を設立し、BT剤、フェロモン剤の販売を開始し、生物農薬部門の強化を図りました。
当面は、微生物を利用した害虫防除剤であるBT剤を、米国のセルティス USAから輸入し、国内で販売します。
営業を開始した2003年1月から12ヶ月で約1億4千万円の売上高を計上し、着実な立ち上がりとなっています。

生物農薬の市場規模は、国内市場では、果樹・野菜の園芸分野で30億円程度と果樹・園芸向け農薬全体の約2%とまだ少ないですが、世界市場では500億円と園芸分野の約5%を占めています。近い将来、国内でこの比率が10%、市場規模150億円、世界でも比率が15%、市場規模1,500億円まで成長すると見込まれています。

③特殊肥料分野への積極的な進出
海藻エキスなどを原料とする特殊肥料分野へ積極的に進出していきます。
モーニング:海藻エキスの植物活力素
野菜の硝酸態窒素を低減し、食味・食感の向上、日持ち向上といった効果があります。

フロリアード:塩化コリンと植物活力素
みかん、いちごの花や芽の生長を促進させる効果を持っています。

5.BASFの土壌処理剤事業の買収
2003年12月、ドイツの世界的メーカー「BASF」から、全世界で展開している土壌処理剤事業の営業権を買収しました。

背景
近年、海外の農薬メーカーの合従連衡が盛んに行われ、 その結果、膨張した製品ラインを整理するために、事業規模や効率性から不要な剤が放出される動きが強まっています。
同社はこうした中、土壌処理剤市場にビジネスチャンスを見出し、買収を決定しました。
また、合従連衡により力を増した海外メーカーは、複雑な流通構造となっている日本の農薬販売の仕組みの中で、同社の有する農家とのダイレクトチャネルを高く評価しています。今後は、同社を日本市場におけるパートナーと位置付けていくと予想され、これも同社の事業機会拡大につながると考えられます。

概要
買収した主要剤は、バスアミド(土壌防菌剤)、DD(土壌線虫剤)、ネマクロペン(土壌線虫剤:日本市場をターゲット)、メタム(土壌防菌剤:欧州市場をターゲット)などで、2002年度BASFの売上高は59億円となっています。
ベルギーに同社が60%出資して子会社設立し、アグロ カネショウ本体が、日本、韓国、台湾での販売を、この子会社がその他全ての地域での販売を担当します。

今後の見通し
土壌処理剤の国内市場は平成12年で478億円。同社は23億円で第5位でしたが、この買収により3位にアップすることになります。

土壌処理剤は今後以下の2段階で大きく成長していくことが期待されています。

1. 平成17年1月末に農薬として臭化メチルが原則使用禁止となり、その代替品としてバスアミドの需要が拡大すると見られています。
2. これにつづいて新製品「ネマキック」を含めた土壌処理剤のラインアップが出揃い、ポートフォリオが強化されます。

土壌処理剤は、防虫剤の使用量が天候などに左右されるのに対し、そうしたことが少なく安定的な使用量が読めることも大きな特徴です。
現在はバスアミドが全売上の20%程度ですが、将来的には土壌処理剤の売上構成比を50-60%に引き上げることで、同社の収益安定性にも大きく寄与することが期待されます。
櫛引社長は今回の買収によって「果樹・野菜のための薬剤構成がほぼできあがり、収益構造は大きく変化する」と、考えています。

 

2004年12月期業績見通し

<連結>
 
見通し
売上高
12,800百万円
営業利益
450百万円
経常利益
250百万円
当期純利益
150百万円

今期から連結決算が始まります。前期との比較はできませんが、今回の買収によって連結では黒字計上が見込まれます。

 

取材を終えて

今回の買収に対して、日本の農薬業界における反応は大きく、同社の動向に注目が集まっているということです。
土壌処理剤に加え、前述のように新しいダニ剤も3剤開発中で、「アグロ カネショウらしい」新剤を、2007年頃から2年おきにリリースしていく予定です。
前期、今期は単体では研究開発費負担が重く、赤字決算となる見込みですが、次の成長のための芽が着実に出始めた同社を引き続きフォローアップしていきたいと思います。