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ブリッジレポート:(6160)ソディックハイテック vol.1

(6160:大証ヘラクレス) ソディックハイテック 企業HP
渡貫 雄一 社長
渡貫 雄一 社長

【ブリッジレポート vol.1】2008年3月期決算業績レポート
取材概要「今後の同社の成長を担うハイスピードミーリングセンタの強みは、特許を有するリニアモータ駆動技術、一部の企業しか持ち得ない数値制御技術、そ・・・」続きは本文をご覧ください。
2008年7月22日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社ソディックハイテック
社長
渡貫 雄一
所在地
横浜市港北区新横浜1-5-1
決算期
3月末日
業種
機械(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2008年3月 16,410 1,147 1,106 659
2007年3月 15,587 892 777 616
2006年3月 14,229 1,017 1,016 570
2005年3月 13,416 881 905 583
2004年3月 5,621 292 298 266
2003年3月 0 0 0 0
株式情報(7/7現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
40,200円 132,325株 5,319百万円 23.2% 1株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
- - 5,856.93円 6.9倍 23,525.65円 1.7倍
※株価は7/7終値。
 
ソディックハイテックの2008年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
高速・高精度リニアモータ駆動小型マシニングセンタ(以下、ハイスピードミーリングセンタ)の製造・販売、放電加工機やミーリングセンタの周辺機器・消耗品の販売、メンテナンス、技術コンサルティング、及び金型・成形製品の製造・販売を行なっている。グループは、同社の他、研究や海外での製造・販売等を行う子会社4社(うち連結子会社2社)及び関連会社2社により構成されている

2003年2月、ソディックグループで分散していた放電加工機のアフターサービス、メンテナンス、消耗品関係・金型、成形加工を1つに統括する(株)ソディック・サービスセンターとして設立された。その後、ソディックの関連会社3社、更にマシニングセンタ部門を買い取り、同年8月、社名を(株)ソディックハイテックに変更、放電加工機関連機器及び工作機械の開発・製造・販売を開始した。05年12月、大証ヘラクレスに株式を上場。
現在、議決権の41.5%を東証2部に株式を上場するソディックが、11.3%をソデッィクの創業者であり、ソディックハイテックの会長でもある古川利彦氏が、それぞれ保有している。
 
*マシニングセンタとは
マシンニングセンタとは、工作機械受注総額の約35%を占める代表的な工作機械であり、フライス加工(平面や溝等の加工)や中ぐり加工(工作物の穴の内面切削)、ねじ立て(下穴にめねじを切る事)等の切削加工に使われる。自動工具交換機能を持ち、目的に合わせてフライス加工、中ぐり加工、ねじ立て等の異種の加工を1台で行なう事ができる。具体的には、工具マガジンに、多数の切削工具を格納し、数値制御を行うコンピュータの指令によって、工具を自動的に交換し、機械加工を行う。つまり、マシンニングセンタとは自動工具交換装置を搭載した「NCフライス盤」であり、とかく自動工具交換機能に目がいきがち。しかし、新ラインアップ「HSシリーズ」に代表されるように、同社製品の最大の特徴は、リニアモータ駆動による「高速・高精度」。その技術を駆使して切削加工を行うため「ハイスピードミーリングセンタ」と呼び、他社の「マシンニングセンタ」と区別している。
尚、「NCフライス盤」とは、数値制御機能(正確な加工が可能)を搭載した「フライス盤」の事。切削用工具の刃先の動作を座標値(数値)によって定義し、その情報をもとにサーボモータが切削工具を動作(制御)させ加工が行われる。このNC(数値制御)をコンピュータが行うものを特にCNCと呼び、当初はNC(非コンピュータ制御)と区別していたが、コンピュータ制御が一般的となった今では、NC=CNCと考えていい。
余談ではあるが、代表的な工作機械である「旋盤」がワーク(加工対象物)を回転させて削るのに対して、「フライス盤」は刃物を回転させて固定したワークを削る。
 
<事業セグメント>
事業セグメントは、精密工作機械関連事業、サプライ品事業、サービス事業、精密金型・精密成形事業に分かれ、08/3期の売上構成比と事業内容は次の通りである。
 
 
尚、精密工作機械関連事業においては、リニアモータを使った高精度でコンパクト(立て型でストローク500mm以内)なマシニングセンタに特化している。大手の工作機械メーカーが汎用性の高い大型機の分野を中心としているのに対して、同社は高精度・小型の分野に特化する事で差別化を図っている。
 
新ラインアップ「HSシリーズ」
 
また、サプライ品事業では、放電加工機向けのワイヤ電極線を中心にイオン交換樹脂「エコイオン」、水加工液用フィルタ「エコフィルタ」 等を提供している。この他、サービス事業ではメンテナンス業務に加え、精密加工に関連する技術提供等の総合コンサルティングサービスを提供。精密機械の販売と共にサプライ品販売及びメンテナンスサービスを提供する連結子会社を中国(上海)に有する。
 
 
精密金型・精密成形事業では、世界最大級の電子部品サプライヤーである米タイコエレクトロニクス社の日本法人であるタイコエレクトロニクスアンプ(株)向けを中心に、精密コネクター等の精密金型及び精密成形品の製造・販売を行っている。海外拠点として、中国(蘇州)に製造・販売を行う連結子会社を有する。
 
成長戦略
 
(1)市場拡大が期待できるハイスピードミーリングセンタ「HSシリーズ」
今後の成長のけん引役として位置づけているのが、精密工作機械関連事業である。ハイスピードミーリングセンタの新ラインアップ「HSシリーズ」は、親会社のソデッィクが持つナノレベルの加工技術に、独自のリニアモータ駆動技術とCNC(Computerized Numerically Controlled:技術工作機械の動きをコンピュータにより数値制御する)技術を融合、世界で初めてX、Y、Zの3軸をリニアモータ駆動とする事で高速・高精度を実現した超精密小型マシニングセンタである。その販売は緒に付いたばかりであるが、市場の評価は良好で、同社の得意分野である自動車用精密金型分野はもちろん、これまで取引の無かった様々な分野から引き合いがあるという。例えば、超精密電子・光デバイス等のエレクトロニクス分野、DNAチップ加工等のバイオ・医療分野等である。超精密電子・光デバイス等のエレクトロニクス分野は、工作機械と言うよりも高精度な半導体製造装置をイメージするし、DNAチップと工作機械とは全く縁がないように思えるだけに驚きだ。
 
(2)高速・高精度を実現するリニアモータ
伝達ロスの大幅な削減と機械的直線運動の俊敏化、更には高速性が実現できる事から、リニアモータは高精度精密加工分野での採用拡大が期待されている。
廉価版の機械では、テーブル等の本体部分を動かす主要部分に、台湾製のボールねじ、直動ガイド等を使用しているが、寸法のずれや衝撃の原因となるバックラッシ(“あそび”のようなもの)や振れ回り、摩擦に起因するスティックモーション(ガイドとテーブルの間の摩擦に起因する輪郭誤差)等があるために寸法精度や形状精度に若干の難があった。一方、リニアモータを使った場合、こうした寸法精度や形状精度への不安が無い。加えて、既存の回転モータのような軸受け部分がないので駆動系をコンパクトにする事が可能で、回転モータを置くスペースが確保できない場合でも設置が可能である。リニアモーターカーに使われている事でよく知られているが、工作機械、宇宙船、加速器、サスペンションなど応用範囲は幅広い。拘束力不足で充分な減衰能が得られず重切削に難があったが(リニアモータ駆動形式は非接触に近いため、)、近年、ボールエンドミルを高速回転させ、微細ブロック切削送りを行なう加工方法により難切削材の加工も可能となっている。
 
(3)駆動時の熱処理とモータ制御で他社に先行
ただ、リニアモータの実用化に当たっては、駆動時に発生する熱の問題を解決する必要がある。言い換えると、いかに発熱を抑えて、高速に駆動させるかがポイント。リニアモータの将来性については工作機械大手各社も認めるところで、各社がリニアモータの採用に向けて研究開発を進めているが、大量に発生する発熱の問題が解決できていない。マシンニングセンタ事業で後発の同社は、他社との差別化を図るため、参入当初からリニアモータを使った高精度でコンパクト(立て型でストローク500mm以内)なマシニングセンタに特化してきた。このため、いち早く熱の問題を克服、既に特許も取得している。
 
 
また、モータ制御の問題もある。リニアモータの採用と共にCNCの自社開発にもこだわった。一方、工作機械大手各社のマシンニングセンタには高価な他社製CNCが搭載されており、工作機械大手といえども、モータ制御の分野で技術の蓄積やノウハウが無い。仮に、大手各社がリニアモータの熱の問題を解決できたとしても、他社製CNCを搭載した場合、「HSシリーズ」の2~2.5倍の価格設定をせざるを得ないと言われている。将来的にはリニアモータとCNCをセットにして工作機械各社に外販する事も考えている模様で、特定分に限った事とは言え、CNC大手供給会社の強力なライバルとなる可能性もあるわけだ。
 
(4)新機種投入で海外での販売拡大を図る
また、高精度・高付加価値技術をより市場の大きい汎用機に応用し、新たな顧客の獲得を目指す考え。超高精度加工を得意とする現行機種はハイエンドな技術分野の開拓には適しているが、高い成長を続けているBRICs市場の開拓には向いていない。このため、精度要求がそれほど高くないボリュームゾーンの新機種を投入し、BRICs市場の開拓を進める。大手工作機械メーカー等も注力している市場ではあるが、リニアモータ搭載によるコンパクト設計や自社製CNC搭載による価格競争力が強みとなる。
 
 
(5)当面は先行投資が続く見込み
成長期待の大きい精密工作機械関連事業だが、当面は先行投資が続く見込みで、この間、サプライ品事業とサービス事業が業績を支える。
例えば、「HSシリーズ」の増産に向けた福井工場の増改築工事が完了した08/3期の精密工作機械関連事業は、前期増収ながら、営業減益。一方、連結売上高の53%弱にとどまるサプライ品事業とサービス事業が、連結消去前営業利益の88%弱を稼ぎ出した。09/3期も開発投資に加え、販売強化等の先行投資が続き、サプライ品事業とサービス事業への依存が続く見込みだ。
 
2008年3月期決算
 
 
前期比5.3%の増収、同42.3%の経常増益。
増収により売上総利益が増加する一方、販売手数料率の引き下げ等で販管費が減少した事で営業利益は同28.6%増加した。デリバティブ費用(128百万円)が無くなり経常利益が同42.3%増加したものの、特別利益が減少(前期は関係会社株式売却益269百万円等を計上)したため、当期純利益は同7.0%の増加にとどまった。
 
<セグメント別動向>
 
精密工作機械関連事業において先行投資が続いたものの、価格引上げを行なったサプライ品事業やサービス事業で吸収、営業利益は高い伸びを示した。
 
精密工作機械関連事業
新ラインアップ「HSシリーズ」を発表し、各種機械展示会への参加等で拡販に努めた他、国内外の営業拠点の拡充や中国に新拠点を開設する等、販売体制の強化も図った。また、生産体制については、ハイスピードミーリングセンタの生産拠点である福井事業所の増改築工事が完了。ハイスピードミーリングセンタの生産能力を2倍に引き上げる一方、主軸の内製化を進める等コスト競争力の強化も進めた。
 
サプライ品事業
主力商品のワイヤ電極線やイオン交換樹脂「エコイオン」、水加工液用フィルタ「エコフィルタ」 の売上が好調に推移する中、原材料価格の高騰に対応した価格設定を実施した。
 
サービス事業
据付検収が減少したものの、海外パーツ販売が増加。補修パーツの価格改定を実施した。
 
精密金型・精密成形事業
原材料価格の高騰や精密部品需要への対応による原価上昇で営業利益が同61.3%減少。微細金型製作の研究や、国内外の生産拠点の効率性を高めるべく、中国などにおける生産体制強化のための再構築を行った事もコスト増の一因となった。
 
2009年3月期業績予想
 
 
前期比7.4%の増収、同18.0%の経常増益予想。
精密工作機械関連事業において営業面での先行投資が続くものの、サプライ品事業やサービス事業の値上げ効果が期を通して現れる。また、中国生産の増加など精密金型・精密成形事業の利益も増加する見込み。
ハイスピードミーリングセンタの販売は、188台(前期は160台弱)を見込む。
 
取材を終えて
今後の同社の成長を担うハイスピードミーリングセンタの強みは、特許を有するリニアモータ駆動技術、一部の企業しか持ち得ない数値制御技術、そして価格競争力。この強みを活かし、ナノ領域のハイエンド分野と成長著しいBRICs等をターゲットにした汎用機分野での販売を強化していく考え。しかし、どんなに優れた技術を持っていても、販売できなければ意味が無い。つまり、販売力が必要なわけだが、同社の場合、現状では技術先行の感があり、また、常識的に考えれば販売力強化は一朝一夕で成し得るものではない。
もっとも、あるアナリストに言わせると、「販売力とは、ブランド認知度×販売網」。そうであるならば、同社の場合、世界的なブランドであるソディックのブランド力を活用する事ができるし、放電加工機のサプライ品販売やメンテナンスで培ってきた販路が活用できる。要するに、既に販売強化の下地はできているわけだ。このため、現在取り組んでいる営業強化の成果が現れるであろう来期以降の業績には期待がかかる。短期志向が強い昨今ではあるが、3.2%の配当利回り(前期実績ベース)が期待できる事を考えれば、長く持っても悪くない。尚、同社は今期の配当予想を開示していないが、配当性向30%以上を設定目標として株主還元を実施していく考えだ。