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(2660)

ブリッジレポート:(2660)キリン堂 vol.17

(2660:東証1部,大証1部) キリン堂 企業HP
寺西 忠幸 会長兼社長
寺西 忠幸 会長兼社長

【ブリッジレポート vol.17】2011年2月期業績レポート
取材概要「ここ数年業績は伸び悩んできたが、マツモトキヨシHDとの連携、中国進出、ソシオンの子会社化による医療モールの展開など、攻めの動きが出ている・・・」続きは本文をご覧ください。
2011年5月17日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社キリン堂
代表取締役会長兼社長
寺西 忠幸
所在地
大阪市淀川区宮原4-5-36
決算期
2月
業種
小売業(商業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2011年2月 100,465 1,118 1,537 188
2010年2月 104,964 1,232 1,527 -443
2009年2月 106,695 1,781 2,030 500
2008年2月 106,098 2,321 2,530 804
2007年2月 72,803 1,312 1,651 577
2006年2月 66,690 1,308 1,574 753
2005年2月 58,165 745 985 414
2004年2月 48,281 1,084 1,283 607
2003年2月 39,144 1,095 1,215 577
2002年2月 33,274 868 982 253
2001年2月 28,192 718 742 341
2000年2月 25,537 535 596 309
株式情報(4/28現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
415円 11,331,205株 4,702百万円 1.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
20.00円 4.8% 10.59円 39.2倍 906.32円 0.5倍
※株価は4/28終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
キリン堂の2011年2月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
関西基盤のドラッグストアチェーン … 関西ではトップクラス
小商圏に立地する地域密着型のドラッグストアをチェーン展開する。キリン堂は関西を中心に北陸や四国、関東にも店舗展開している。ドラッグストアを主力に、調剤薬局にも力を入れている。2011年2月15日現在、キリン堂直営店が229店、FCが3店、ジェイドラッグが2店、ニッショードラッグが77店のグループ計311店を展開する。キリン堂はこれまでM&Aを積極的に行っており、91年に調剤薬局チェーンのメディネットを買収(04年に吸収合併)、96年にはジェイドラッグ、ニッショードラッグを子会社化している。キリン堂は、関西を基盤に成長、6,000~8,000世帯の小商圏に1店舗出店し、ドミナントを築こうと力を入れ、関西では業界トップとなっている。キリン堂とニッショードラッグの違いは、キリン堂が売場面積300坪の郊外型大型店(スーパードラッグストアと名付けている)を主力としているのに対し、ニッショードラッグは売場面積150坪の比較的小型な店舗を住宅地に展開している点だ。さらにニッショードラッグはキリン堂に比べ、雑貨等の売上構成比が高く、医薬品、健康食品、化粧品という粗利率の高い分野のウエイトが相対的に低い。今後はこのニッショードラッグでも医薬品、健康食品、化粧品分野の拡販を狙っている。
 
 
会長が社長に復帰 … 「顧客第一」への仕組み作りと社員教育にシフト
ドラッグストアの事業展開において、3年前までは売上志向の拡大戦略をとってきた。売上拡大のための商品戦略や売場戦略を強めすぎたため、顧客への本来のサービスという点では課題が蓄積していった。さらにこの間、市場は変化し、ドラッグストア業界は成熟色を強めていった。顧客第一の質的サービスを基本とする当社にとって、創業者である寺西忠幸会長は売上拡大だけではこの局面を乗り切れないと判断し、社長に復帰することを決断した。2年前に会長兼社長に就任し、以来事業の見直しに力を入れてきた。
 
未病、セルフメディケーションへのサービスを目指す … 「楽・美・健・快」を追求
寺西(会長兼)社長は創業以来、人々が「未病」、つまり病気にならないようにサポートすることをテーマに事業展開してきた。一人ひとり自らが健康に配慮して適切な対応をするというセルフメディケーションのためのサービスを心掛けてきた。それによって、生活を楽しく美しく健康で快適にすごせるようにと「楽・美・健・快」を事業の基本としている。健美舎は1973年に設立され、健康食品を手掛けてきた。現在は、医薬品や健康食品、化粧品等の企画販売を手掛け、生産は外部にアウトソーシング(OEM)している。
 
M&Aも積極化 … ニッショードラッグなどを子会社化
2006年にニッショードラッグを子会社化した。同じ関西を中心としながらキリン堂よりも小さい店で住宅地に立地している。そのほかにもM&Aを手掛けているが、現状では一人当たり売上高という生産性指標でみると、やや人員が多い。これに対して、寺西社長は人員を意図的に削減するのではなく、人を活用して拡大均衡にもっていこうとしている。一方、関西地域での競合をみると、従来は当社グループが他社を引き離してトップであったが、2位のアライドハーツ・ホールディングス(アライドハーツ・HD)が合併し、ココカラファインホールディングス(ココカラファインHD)に入った。ココカラファインHDに属する旧アライドハーツ・HDとセガミメディクスを合計すると当社グループに肉薄してくる。関西ではキリン堂グループがトップであったが、今年からはキリン堂グループとココカラファインHDのトップ争いになる。
 
市場成熟、業界再編の中で構造改革を推進
寺西社長はいかに、お客様に向き合い、サービス向上に努めるかに力を入れており、そのための構造改革に取り組んでいる。さらにここ数年、顧客第一主義を徹底するため、主体性をもった従業員を育てる社内教育を行っている。構造改革では、店舗内の無駄な作業に時間を費やすのではなく、その時間を顧客への接客や説明に対応できるように作業改善を行うため、売場改装を進めている。この店舗作業改善をバックアップするのが新物流センターと、今期導入予定の需要予測型の自動発注システムだ。自動発注システムも1個売れたら1個発注するのではなく、予想販売数量を一括で発注することで補充頻度が下がるため、作業効率の改善が期待される。現在キリン堂は、小商圏に合った店作りで、繰り返し客に来てもらえるような仕組み作りを徹底しようとしている。月次の売上をみると、既存店はこの2年間、ずっと前年割れを続けてきた。売上も大事だが、それ以上にビジネスの仕組みを顧客に向け、付加価値を高めるようにした。それが進展をみせ、売上、利益の落ち込みにも歯止めがかかってきている。
 
地域コミュニティの中核として存在感を高める
キリン堂とニッショードラッグの展開地域は、大阪や兵庫を中心に関西に拡がっている。販管費の配賦の仕方にもよるが、粗利率の高い商品分野の売上構成ウエイトを高めることで、営業利益段階での利益貢献が大きくなると考えてよい。また、大阪の高槻市に新しい物流センターを開設し、昨年12月より順次稼動を始めている。今までの門真市の物流センターは配送センター的な役割だけで、十分な在庫管理機能を持っていなかった。新センターは店舗の棚ごとの納品を可能にし、返品や回収にも対応できる。これによって、店舗効率が大きく高まることになる。
 
 
 
中期計画
 
連結経常利益30億円を目指す … 342店へ
今回の中期3カ年計画(連結)では、前期の経常利益15.3億円に対して、今期18.5億円、2年目26.7億円、3年目32.2億円を目指している。そのための施策の基本は、既存の事業で収益を上げていくことである。新たな布石としては、マツモトキヨシHDとの連携、中国進出、在宅医療での独自展開が注目される。中期計画では新規出店を1年目11店、2年目11店、3年目11店を予定し、3年後には342店にする方向である。この間、全社的な販管費はおさえて、粗利率の向上により経常利益の拡大に結び付けようとしている。当社グループは毎年3カ年の中期計画をローリングしてきた。09年2月期の時には2015年2月期で売上高2,000億円、店舗は500店、経常利益率3%という計画を打ち出していたが、2011年2月期にはこうした中期計画を一旦取り下げた。従来の拡大志向の事業展開ではなく、効率を高めるための内部固めに入ったのである。出店すれば売れるという考えではなく、地域で信頼される店舗作りにシフトする必要があった。チラシで安さを追求するのではなく、接客の時間をいかに作っていくかに仕組みを変えようとしている。処方せん取扱い店舗は、311店中46店である。既存店舗は調剤スペースを有しているので、クリニックの開業状況を見ながら、調剤併設店舗を増やしていく方針である。3カ年計画では、調剤売上高を現在の60億円から100億円にもっていくことを目標にしている。また、PB商品のウエイトは現在商品売上の8.7%であるが、これを10%にもっていきたいと会社側では考えている。健康食品、化粧品、雑貨などでマーケティングを強化していく。今期は新たに45アイテムのPB商品の開発を計画している。
 
 
マツモトキヨシHDと連携 … PB商品の強化
当社はドラッグストア業界最大手のマツモトキヨシHDとPB商品の開発で連携をとることにした。資本提携や業務提携という強いものではない。当社の強みである健康食品をはじめ、PB商品の企画で顧客志向のものを量産できれば、コストを下げることができ、収益性は高まる。ここを狙っている。まずは互いにメリットのあるビジネスで一定の成果を上げることが先決で、そこがうまくいけば次の展開にも広がってこよう。マツモトキヨシHDとはPB商品の共同開発、相互供給を行うことで合意している。店舗の立地が両社でさほど競合せず、PB商品のバッティングも少ない。そこでまず既存のPB商品をやりとりして、その後に共同開発に入る考えである。マツモトキヨシHDとの連携について、寺西社長は協業と資本の論理は分けて考えている。PB商品を共同で開発し、そこで生産効果を出し、コストを下げて、顧客に提供しようとしている。300店規模(当社グループ)と、1,200店規模(マツモトキヨシ)ではボリュームが違うからである。
 
中国進出を計画 … 合弁会社を設立
ドラッグストアを中国で展開する方針を固めた。中国でのビジネスは人がポイントだといわれるが、中国の王氏と合弁会社(JV)「麒麟堂美健国際貿易(上海)有限公司」を設立した。合弁会社には王会長(董事長)自身が20%ほど出資している。当社からは、役員を専任で出し、今期中に事業化を具体化する予定である。商品の品揃え、物流ネットワークなど課題はあるが、事業拡大の余地は大きい。まず、JVを保税区に設立し、日中の貿易からスタートさせ、今後、中国でドラッグストアを展開する計画である。中国には日本でいう問屋がないので、商品のロジスティックス(物流)をどうするかを検討している。中国では医薬品の販売を行うのではなく、日常生活の便利性も提供できる日本のようなドラッグストアを展開したいと考えている。今期中にモデル店を1店出す予定である。
 
在宅医療で独自展開 … ソシオンヘルスケアマネージメントとの協業
ソシオンヘルスケアマネージメント(ソシオン)を買収し、子会社化した。6,000~8,000世帯の小商圏に店舗を出すことによって独自のドラッグストアを成立させると同時に、ソシオンを活用して、医療モール、在宅医療で地域コミュニティの中核になろうとしている。ソシオンは医療法人との結びつきが強く、さまざまなコンサルティング事業を手掛けてきた。ソシオンの子会社化に当たっては、OPEパートナーズが出資していた株を5.9億円で取得した。ここからのれんが発生するが、当社ではのれんを10年で償却していく。ソシオンは、在宅医療サポートを手掛けている。大阪で1,000人、名古屋で600人、東京で400人をサポートしており、今期から京都でも在宅サポートをスタートさせる。また、近鉄のあやめ池で医療モールをプロデュースしている。遊園地の跡地を活用して、高齢者を意識した住宅開発を行おうという計画に対して、その中に複数の医療施設を呼び込んで医療モールを作ろうというものである。近鉄のあやめ池の医療モールは8つの診療所を開業し、当社は調剤薬局を2カ所に作る計画だ。ここには来年有料老人ホームもできる予定である。
 
新たな差別化になるか … 医療ネットワーク作り
こうした医療モールを手掛けたいというヘルスケア企業は多いが、ドクターとの結びつきが強くないと中身の充実した施設(モール)とはならない。ソシオンはこの分野で独自のノウハウを有しており、強みを発揮している。こうしたモールができれば、調剤薬局が必要になり、生活用品を取り扱うドラッグストアも役に立つ。ソシオンを活用して、在宅医療のネットワークを強化する考えだ。生活者、患者とドクター、調剤薬局を結び付けて、かかりつけの新しい仕組みを作ろうとしている。こうした試みが上手くいくと、当社の差別化戦略としては重大な意味をもってこよう。ソシオンは患者の目線でサービスを提供することを考える。薬局、薬剤師とドクターを結び付けるのは、もちろんだが、施設在宅も視野に入ってこよう。施設とドクターを結びつけ、多面的な展開でサービスの質と効率を高め、ビジネスとして成立させることを考えている。ビジネスとして成り立たなければ、在宅医療といっても掛け声だけになってしまう。京都での在宅施設では、認知症の入居者への対応も考慮する。つまりその方々の物販に対するニーズに応えるということだ。在宅患者、施設サービス、ドクター、基幹病院、薬局薬剤師がうまく連携できるシステム作りが求められ、ソシオンはこれを担っていく。このシステム化ができるとキリン堂にとって、明確な差別化戦略となる。
 
 
当面の業績
 
2011年2月期の業績は底入れ
ここ数年の業績をみると、売上は伸び悩み、経常利益はダウントレンドにあった。2年前からの業務の見直しで、売上志向ではなく、サービス向上にシフトしてきたことが、収益面では必ずしもプラスに働かなかった。しかし、2011年2月期は、減収ながら経常利益は横ばいをキープし、業績は底入れする局面に入ったと言えよう。今2012年2月期(連結)は20%経常増益を目指している。2011年2月末のグループ店舗数は311店で、うち処方せん取扱店舗数は46店である。この1年では8店出店したが、8店退店したので、全体の店舗数は変わっていない。
2011年2月期(連結)は売上高1,004億円(前期比△4.3%)、経常利益15.3億円(同+0.7%)、税引利益は1.8億円(黒字化)となった。減収となったのは、主力のキリン堂で既存店客数が前期比△5.4%、既存店客単価が同△0.8%となった影響が大きい。商品カテゴリー別では、花粉症やインフルエンザが、それ以前に比べて少なかったので医薬品が同△11.1%となった反面、調剤は同+5.1%となった。販管費ではチラシの削減など、コスト削減効果や営業の見直し効果もあり改善した。粗利率は品目別の売上構成の変化や値入改善で、同+0.1%アップとなった。当期純利益は黒字となったものの、減損損失が4.4億円ほど発生したことなどがマイナスとして響いた。
 
 
2012年2月期(連結)は20%経常増益を狙う
2012年2月期(連結)は売上高1,041億円(前期比+3.6%)、経常利益18.5億円(同+20.3%)、当期純利益1.2億円(同△36.3%)を見込んでいる。当期純利益が減益となるのは、会計上の資産除却債務など、特別損失11億円の発生を織り込んでいる。資産除去債務は会計ルールの変更に伴い、店舗などの資産を除去する時に要する費用を見積もるもので、一時的に大きく発生する。今期は、上期に5店、下期に6店の出店を計画している。退店も2店ほどあるので、2012年2月末には9店舗増えて320店になる予定である。そのうち1店は、ソシオンが開発をリードする医療モールへの出店である。今期の既存店売上高伸長率は、キリン堂が前期比+2.1%、ニッショードラッグが同+0.1%、を前提とする。前期まで進めてきた構造改革の3本柱、①タスクフォースによる売場改装、②新物流センター、③需要予測型自動発注システム、が効果を発揮してくるからである。2月から既存店売上高伸長率が前年同期比でプラスになってきた。3月もプラスである。花粉症関連商品の伸びと、大震災に伴う駆け込み需要が出ていることによる。本来の顧客サービス向上がどこまで発揮されてくるかは、もう少し見定める必要があるが、今期の業績には期待がもてる。
 
特別損失は今期で一巡
2010年2月期は、会計ルールの変更に伴うたな卸し評価損の発生により当期純利益ベースで赤字となった。2011年2月期は店舗の減損損失のほか、退職給付改定損などが発生した。今2012年2月期は、店舗の資産除却債務が発生する。これらによって、表面の税引き利益は低く抑えられているが、キャッシュ・フローベースでは必ずしもマイナスとはなっていない。こうした大きな影響は今期で一巡するものとみられるので、来期からはかなり正常に戻ってこよう。
 
安定配当志向 … 配当額重視
当社は、配当性向よりも配当額を重視して安定配当を行う方針である。多少業績が変動しても、配当額は安定して確保したいという考えである。過去を見ると、配当額は少しづつ増えてきており、直近3カ年は1株当り年間20円の配当を実施、今期も年20円を予定している。これで株主に還元していく方向にある。
 
 
取材を終えて
ここ数年業績は伸び悩んできたが、マツモトキヨシHDとの連携、中国進出、ソシオンの子会社化による医療モールの展開など、攻めの動きが出ている。これらが、すぐに大幅増益に結び付くわけではないが、事業の拡がりをもたらすという点では注目出来よう。業績は底入れしており、上向き方向にある。中期3カ年計画の達成については期待がもてる。課題はマネジメント人材の強化である。寺西(会長兼)社長が陣頭指揮をとり、人材育成に力を入れているが、ここでの登用と強化が一段と求められよう。社員教育では、店長、ブロック長が自らの責任部署についてコミットできるようになることが求められる。3ヵ年計画が順調にいけば、ROEも9%を越えてこよう。