ブリッジレポート
(4319) TAC株式会社

スタンダード

ブリッジレポート:(4319)TAC vol.3

(4319:東証1部) TAC 企業HP
斎藤 博明 社長
斎藤 博明 社長

【ブリッジレポート vol.3】2012年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「同社は11月14日に予定されている公認会計士試験の合格発表や11月20日に実施される11月期簿記検定試験の受験者数に注目している。公認会計士試験・・・」続きは本文をご覧ください。
2011年11月15日掲載
企業基本情報
企業名
TAC株式会社
社長
斎藤 博明
所在地
東京都千代田区三崎町3-2-18
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2011年3月 24,575 465 283 -244
2010年3月 23,991 623 442 40
2009年3月 21,092 1,330 1,352 669
2008年3月 20,741 1,069 1,230 443
2007年3月 20,553 1,173 1,333 742
2006年3月 19,828 421 631 249
2005年3月 19,669 459 558 81
2004年3月 19,542 988 943 470
株式情報(11/2現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
177円 18,234,832株 3,228百万円 - 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
1.00円 0.6% 6.31円 28.1倍 176.29円 1.0倍
※株価は11/2終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
TACの2012年3月期上期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
「資格の学校TAC」として、資格取得スクールを全国展開。社会人や大学生を対象に、公認会計士、税理士、不動産鑑定士、社会保険労務士、司法試験、司法書士等の資格試験や公務員試験の受験指導を中心に、企業向けの研修事業や出版事業等も手掛ける。グループは、同社の他、人材紹介・派遣事業の(株)TACプロフェッションバンク(TPB)、2008年2月に設立され保険関係の企業研修に特化した(株)LUAC、資格取得に関連した出版事業を手掛ける(株)早稲田経営出版(W出版)、TAC出版(単体)とW出版の営業支援を手がける(株)TACグループ出版販売、及び中国大連でBPO(Business Process Outsourcing)を手掛ける太科信息技術(大連)有限公司の連結子会社 5社。なお、W出版は09年9月に(株)KSS(旧・早稲田経営出版)から「Wセミナー」ブランドの資格取得支援事業及び出版事業を譲受した際、「Wセミナー」ブランドの出版事業を行うために吸収分割によって新たに設立された。このため、社名は同じだが、旧・早稲田経営出版とは別会社である。
 
<市場動向と同社の強み>
矢野経済研究所「教育産業白書(2010年版)」によると、09年の資格取得スクール業界の市場規模は2,370億円で、10年は前年比5.5%増の2,500億円と予想している。いわゆる「柔らか系」の資格が苦戦するものの、就職難を反映した大学生のダブルスクール傾向の高まり等が市場拡大の原動力になるという。
同社は、会社設立間もない頃から講師陣が毎年テキストを改訂し、試験制度の変化や法令改正にきめ細かく対応することで他社との差別化を図り受講生の支持を得てきた。ノウハウの蓄積や生産性の改善に加え、事業規模が250億円に達する今となっては毎年発生するテキスト改訂コストを吸収することが可能だが、新規参入を考える企業はもちろん、同社よりも事業規模の劣る同業者にとっても、テキストを毎年改訂することは大きな負担である。また、受講生中心主義の下、教育メディアや講師を受講生が自由に選択できるシステムを他社に先駆けて導入してきたが、近年のモバイルを含めたインターネットの普及で、テキストの品質と共に、こうした取組みや経営姿勢が口コミで広がりやすくなっている点も追い風だ。加えて、Wセミナーの資格取得支援事業を譲受けしたことで、従来手薄だった法律系講座や公務員試験のラインナップを大幅に拡充できた。ラインナップが一気に拡大し、当面の負担増にはなるものの、いずれも高い評価を受けていた事業だけに中長期で考えれば大きな財産となろう。
 
 
2012年3月期上期決算
 
売上高について
各講座の受講者は受講申込時に受講料全額を払い込む必要があり(同社では、前受金調整前売上高、あるいは現金ベース売上高と呼ぶ)、同社はこれをいったん「前受金」として貸借対照表・負債の部に計上する。その後、教育サービス提供期間に対応して、前受金が月毎に売上に振り替えられる(同社では、前受金調整後売上高、あるいは発生ベースの売上高と呼ぶ)。前受金調整前売上高(現金ベースの売上高)とは、受注産業における受注高に似ており(現金収入を伴うため、キャッシュ・フローの面では大きく異なるが)、その後の売上高の先行指標となる。損益計算書に計上される売上高は、前受金調整後売上高(発生ベース売上高)だが、同社では経営指標として前受金調整前売上高(現金ベースの売上高)を重視している。
 
 
震災後の厳しい事業環境の中、公認会計士講座の苦戦もあり現金ベース売上高が10.4%減少
同社が重視している現金ベース売上高は前年同期比10.4%減の116.8億円。東日本大震災による大学学事日程のズレで期初に大学生向け営業が十分にできなかったこと、震災後の消費マインドの落込み、合格者の就職難による主力の公認会計士講座の苦戦、更には長期コースの一括払い申込みから短期コースの分割申込み(分納)へのシフト等が要因。消費マインドの落ち込みや公認会計士講座の苦戦は当初の想定以上に厳しく、また、分納を希望する受講生も増加傾向にあり、現金ベースの売上高は期初予想を9.1%下回った。

一方、発生ベース売上高は同7.3%減の123.9億円。前受金戻入額が前受金繰入額を大きく上回った結果、前受金調整額が正味で7.0億円と同2.1倍に拡大し、発生ベース売上高を押し上げた。

営業利益は同41.6%減の6.1億円。経費節減に努めた結果、売上原価、販管費共に減少したものの、減収の影響をカバーできなかった。ただ、特別損失が減少したため(593百万円→4百万円、前年同期は資産除去債務会計基準の適用に伴う影響額5.1億円等を特別損失に計上)、四半期純利益は3.4億円と同41.3%増加した。
 
 
(2)分野別動向
市場動向
申込者数からみた近年の資格試験市場は、安定志向の高まりや就職難を背景に公務員試験の人気が高まっており、特に地方公務員上級試験の伸びが大きい。また、公認会計士や税理士に比べると比較的合格しやすい中小企業診断士に人気があるほか、社会保険労務士も堅調。宅建取引主任者の人気も回復傾向にある。
一方、ロースクールを含めた司法試験は政策的な合格者数の引き上げに伴う合格者の未就職問題から04年には約74千人だった申込者数が11年には20千人弱に減少。公認会計士も同様の問題が発生しており、今後の申込者数は楽観を許さない。実際、11年の同社の公認会計士講座の受講者数は前年同期比でほぼ半減。また、公認会計士資格取得に向けたエントリー試験と位置付けることができる簿記検定試験の受験者が、11年2月期本試験は前年同月比4.0%減とマイナスに転じ、同年6月期本試験は18.7%減となりマイナス幅を拡大させている。
 
 
財務・会計分野    公認会計士講座、簿記検定講座共に苦戦
発生ベース売上高は前年同期比16.2%減の27.3億円。受講者数は同25.9%減の25,895人。講座別では、主力の公認会計士講座は、再受験者向け上級コースが比較的底堅く推移しているものの、大手監査法人への就職状況の改善が見られないことから新規学習者が減少しており新規学習者向け入門コースが苦戦。現金ベース売上高が同25.0%減少した(講座受講者数:同46.1%減)。簿記検定講座の現金ベース売上高も同6.4%減少した。ただ、6月期本試験後の同講座の申込状況は力強さには欠けるものの持ち直しつつあるという。
 
経営・税務分野    税理士講座が夏以降苦戦、中小企業診断士講座は堅調
発生ベース売上高は前年同期比0.5%増の28.4億円。受講者数は同5.4%減の28,059人。税理士講座は、夏の本試験後の申込状況が芳しくない等、夏以降変調。分納制度を利用する本科生申込者の増加もあり、現金ベース売上高は同10.0%減少した(講座受講者数:同4.3%減)。一方、中小企業診断士講座は前年同期並みの現金ベース売上高を確保。同講座は社会人が時間を有効活用するための「朝トクゼミ」が好評で、ニュースで紹介された効果もあり受講者を集めた。
 
金融・不動産分野    金融関連及び不動産鑑定士講座の苦戦が続く一方、
            宅建主任者の人気が回復
発生ベース売上高は前年同期比5.7%減の13.5億円。受講者数は同2.9%増の24,833人。金融関係資格は全般に苦戦が目立つ。主な講座の現金ベース売上高は、FP講座が同12.3%減、証券アナリスト講座が同6.2%減、ビジネススクール講座が同15.2%減。不動産関係資格では、受験者減少で市場が収縮している不動産鑑定士講座の現金ベース売上高が同25.2%減少(講座受講者数:同23.8%減)する一方、緩やかな景気の持ち直しや震災後の復興の流れに乗り宅建主任者講座が同3.6%増加した(講座受講者数:同13.9%増)。
 
法律分野    全般に低調な推移
発生ベース売上高は前年同期比5.3%減の12.4億円。受講者数は同10.0%減の13,089人。全体に低調な推移となり、現金ベース売上高は、司法試験講座が同14.6%減(講座受講者数:同45.4%減)、司法書士講座が同6.5%減、弁理士講座が同8.4%減(講座受講者数は同18.4%増)、行政書士講座が同8.8%減。一方、通関士講座は現金ベース売上高が増加した。
 
公務員・労務分野    需要は強いものの、
            現金ベースでは震災の影響で苦戦
発生ベース売上高は前年同期比9.7%増の27.2億円。受講者数は同4.6%増の28,069人。一方、現金ベースでは東日本大震災の影響を強く受けた。具体的には、国家一般職(同Ⅱ種)・地方上級講座がほぼ前年同期並みを維持したものの、国家総合職(旧国家Ⅰ種)・外務専門職講座は、震災後の大学学事日程のずれ込みで開講時期と大学の授業がうまくマッチしない状況が続き同7.6%減少。景気悪化に強い社会保険労務士講座も同2.8%減少した(足下、回復傾向基調が鮮明)。
 
情報・国際分野    日本での試験実施やIFRS関連で
           米国公認会計士講座に人気
発生ベース売上高は前年同期比13.7%減の8.5億円。受講者数は同12.9%減の10,676人。日本受験が可能になったことやIFRS(国際財務報告基準)関連での人気の高まりで米国公認会計士講座の現金ベース売上高が同10.1%増加したものの、企業研修の中止・後ろ倒しの影響で情報処理講座が同23.8%減少。CompTIA講座も低迷した。
 
その他
売上高(現金ベース売上高=発生ベース売上高)は前年同期比39.7%減の6.3億円。Wセミナーの営業譲受に伴い計上された前受金の戻入れが終了に近づいており、この上期は前受金戻入れ(売上高として計上)が同3.3億円減少した。この他では、講座に帰属しない出版物(TACBOOK等)が堅調に推移したものの、人材子会社TACプロフェッションバンクが行う人材ビジネスの売上高が同14.3%減少した他、税務申告ソフト「魔法陣」が同15.9%減。講座売上の減少に伴い受付雑収入等も減少した。
 
 
2010年以降開講講座では、年金アドバイザーの人気が高かったほか、国家一般職及び地方上級に新規設定した理系(技術職)コースの反応も良好だった。2011年の同社が取扱う資格講座の本試験受験申込者数の合計は簿記検定の申込者の減少が響き減少する見込みだが、今後も成長が期待できる資格試験分野を継続して開拓する考え。
 
 
個人教育事業は、会計系主力講座の不振、震災後の消費マインド低迷、短期コースへのシフト等により売上高が減少。スクールの最適規模と家賃の削減を検討しているほか、教材費等のコスト削減にも取り組む考え。現金ベースでは、売上高が前年同期比11.0%減の82.5億円、営業損失2.2億円(前年同期は2.6億円の利益)。

法人研修事業では、コンテンツ提供(教材を自社製作できない地方の専門学校向けのOEM)が1.9億円と前年同期比20.3%増加したほか、公務員人気に加え、Wセミナーを統合し地方の法律系講座に対するニーズ取込みが進んだ提携校(16校)が2.2億円と同0.8%増加。自治体の委託訓練が伸びた魔法陣・委託訓練等も4.2億円と同7.5%増加した。一方、東日本大震災の影響を大きく受けた企業研修が12.7億円と同13.9%減少(足下回復基調にあるものの、第1四半期が前年同期比8.7%減収、第2四半期が同6.3%減収と回復は緩やか)。学事日程のズレ等で大学内セミナーも2.5億円と同17.0%減少した。
なお、コンテンツ提供では、税理士68.5%増、行政書士40.0%増、情報処理55.9%増等、全体的に好調。コンテンツの強さが光った。また、苦戦を強いられた企業研修だが、宅建(20.3%増)や行政書士(8.8%増)が増加した。

出版事業は10/3期下期以降、TAC出版と子会社の早稲田経営出版が展開する「Wセミナー」ブランド(W出版)の二本立てで展開しており、この上期の売上高(連結修正前)はTAC出版が7.3億円、W出版が2.3億円。

人材事業では、市場の縮小を受けて、求人広告(前年同期比12.4%減)、人材派遣(同20.1%減)、及び人材紹介(同22.5%減)の各事業で売上が減少したものの、コスト削減により第2四半期に利益転換。第1四半期の損失をカバーして上期全体でも利益を確保した。
 
2012年3月期業績予想
 
 
通期業績予想に変更はなく、前期比1.4%の減収、同27.3%の経常減益予想
2012年3月期通期の連結業績予想については、「公認会計士試験の合格者数(11月14日発表予定)及びその後の就職状況並びに講座への申込状況や、12月の税理士試験合格発表後の講座申込状況を見極める必要がある」として、期初に発表した業績予想を据え置いた。配当は1株当たり1円の期末配当を予定している。
なお、同社の業績は上期偏重で下期は損失計上となることも少なくない。
 
 
(2)今後の経営戦略
厳しい事業環境を踏まえ、固定費の削減を進めると共に、資格マーケットの深堀りに取り組む。
 
 
 
取材を終えて
同社は11月14日に予定されている公認会計士試験の合格発表や11月20日に実施される11月期簿記検定試験の受験者数に注目している。公認会計士試験の合格発表では、4大監査法人の新規採用が前年比1割減の690人程度(日経新聞朝刊)と予想される中、金融庁が適当としている1,500~2,000人の合格者数が生じるのか否かがポイントで、11月期簿記検定試験では、震災の影響で受験者数が大きく減少した6月期に対する回復の度合いがポイントとなる。
なお、日経新聞電子版によると、金融庁が、公認会計士の資格取得に必要な実務要件を緩和する検討に入ったという。具体的には、試験合格後に義務付けている「実務経験」について、資本金5億円未満の上場企業で働いた場合等も認める他、パートや派遣による勤務でも資格を取得できるようにする等の検討がなされているようで、早ければ来年4月にも実施される。公認会計士試験と同様の問題を抱えている司法試験もそうだが、その社会的な意義の大きさは言うまでもない。制度的な混乱が質の低下を招く前に対応策が必要だが、公認会計士試験においては、ようやく動きが出てきた。同社の事業環境も徐々に回復に向かうものと思われる。