ブリッジレポート
(6090:東証マザーズ)ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ 企業HP
菅野 隆二 社長
菅野 隆二 社長

【ブリッジレポート vol.1】2014年3月期業績レポート
取材概要「病気と自らの身体の先天的な関係を診断するものとして誰もがすぐに頭に浮かぶのは「遺伝子検査」だろう。最近では、米国の有名女優がこの検査を基に・・・」続きは本文をご覧ください。
2014年7月22日掲載
企業基本情報
企業名
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
社長
菅野 隆二
所在地
山形県鶴岡市覚岸寺字水上246-2
事業内容
代謝成分の網羅解析技術で創薬等研究開発を支援。バイオマーカー探索から診断薬開発も
決算期
3月末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2014年3月 610 -12 5 1
2013年3月 496 -104 -93 -95
株式情報(6/25現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
2,256円 5,253,700株 11,852百万円 0.2% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
0.00円 - 5.70円 299.27円 7.5倍
※株価は6/25終値。発行済株式数は直近臨時報告書より(発行済株式数から自己株式を控除)。ROE、BPSは前期末実績。
 
東証マザーズ上場、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社の会社概要、今後の展開等について、ご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
研究機関や製薬企業等のメタボローム解析試験受託及びバイオマーカー開発を中心事業として展開する慶應義塾大学発のベンチャー企業。バイオマーカーを探索する基盤技術であるメタボローム解析技術で世界的に高い評価を受けている。メタボローム解析事業により着実に利益を生み出すと同時に、将来性豊かなバイオマーカー事業への投資および研究開発を進めるというビジネスモデルにより、安定した収益基盤の下で成長を目指している。
 
【沿革】
 
2001年慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授は、CE-MS法と呼ばれる生体内の低分子代謝物質(メタボローム)の測定方法を開発した。このメタボローム測定法は、それ以前の測定方法が多くの測定条件を用いるため、代謝物質全体を網羅的かつ効率的に測定することが困難だったのに対し、一斉に、かつ、網羅的に測定できる点で画期的な技術であった。

以前よりメタボローム解析技術は、生物学基礎研究から医薬品開発、疾病バイオマーカー開発等に用いられており、その社会的ニーズの拡大が見込まれていたため、このCE-MS法確立を契機に、事業化を目指して、曽我教授や同大学の冨田勝教授、慶應義塾大学等が中心となり、2003年7月に同社を設立。慶應義塾大学のアントレプレナー資金制度により出資を受けた慶應義塾大学発ベンチャー企業の第1号となった。

2008年には、ライフ・サイエンス分野で用いられる化学分析機器や電気・電子計測機器の開発・製造・販売・サポートを行う世界的企業Agilent Technologiesの日本法人で、以前より同社及び慶應義塾大学と取引のあった、アジレント・テクノロジー株式会社の代表取締役副社長兼ライフ・サイエンス・化学分析統括本部長の菅野 隆二(かんの りゅうじ)氏が社長に就任。
菅野社長は就任後、同社のコア技術に関する研究開発を進めつつ、より具体的な事業化の道やビジネスモデルの整備・構築に着手すると同時に、認知度向上と研究開発資金の調達による成長スピードの加速を目指して株式上場の準備を開始。2013年12月、創立10年目に東証マザーズに上場した。
 
【企業理念】
同社は自社の存在意義を以下の様に定めている。
「未来の子供たちのために、最先端のメタボローム解析技術を用いた研究開発により、人々の健康で豊かな暮らしに貢献する」

また、以下の5つの「共有の価値観」を掲げている。
 
 
【同社を見るポイント】
同社の事業内容は、重要なキーワードである「メタボローム解析」「バイオマーカー」の説明と共に、以下に記しているが、多数の専門的な用語も出てくるため、そこから読み始めると同社に対する理解が進みにくい場合があると思われる。
そこで、まず同社を見る際の3つのポイントについて簡単に触れておく。
 
①社会的存在意義の大きさ
バイオマーカーとは、特定の病気に関する現在の状態を測定する際に使われる体内の物質で、糖尿病の「血糖」、肝機能障害の「γ−GPT」、痛風の「尿酸」などが代表的。
同社は現在大きな社会問題となっている「大うつ病性障害」のバイオマーカーを発見し、その数値を簡便に測定する診断薬を開発している。
うつ病の患者数が年々増加傾向にあるのに対し、現在の病状を客観的に測定する方法が普及していないため、正しい治療を行えば治癒するはずの患者が治らなかったり、薬漬けになるなど大きな問題が指摘されている。
同社のバイオマーカーや診断薬が普及すれば、うつ病によるこれらの課題を解決し、社会的損失を減少させることが出来る。
この社会的な存在意義の大きさは同社を見る際に欠かすことはできない。
 
②高い技術力
複雑な人間の体の仕組みを調べ、バイオマーカーを発見するための技術が「メタボローム解析技術」であり、同社はこの技術で世界的に高く評価されている。
現在話題になっている大うつ病性障害のバイオマーカーは、あくまでも一例にすぎず、メタボローム解析技術により今後も、様々な新しいバイオマーカーを発見・開発することが期待される。
 
③安定したビジネスモデル
現時点での主力事業は売上の約9割弱を占める「メタボローム解析事業」。研究機関や製薬会社等の研究開発を支援する事業であり、前2014年3月期で売上516百万円、営業利益311百万円と、着実に利益を上げている。
一方、中長期的に大きな成長が期待される「バイオマーカー事業」はまだ規模も小さく、損失の状況だが、メタボローム解析事業で生み出した利益を、バイオマーカー事業の成長のための投資に回すという、バランスのとれたビジネスモデルが既に構築されている点は、収益化に苦労している企業が多いバイオベンチャーの中でも大いに注目される。
 
【うつ病について】
同社の今後の成長ドライバーである「バイオマーカー事業」において、現在の代表的な対象疾病がうつ病である。うつ病および大うつ病性障害について、概要や日本における現状などをまとめてみた。
 
◎うつ病とは
気分障害の一種で、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、様々な理由から脳の機能障害が起きている状態。脳がうまく働いてくれないので、ものの見方が否定的になり、自分がダメな人間だと感じてしまう。そのため普段なら乗り越えられるストレスも、よりつらく感じられるという、悪循環が起きる。
中でも、「大うつ病性障害」は、ストレス源が除去された後もその状態が持続する状態を指し、その点で適応障害や一部の不安障害とは区別され、単純なストレス応答ではなく、脳機能の障害によると考えられている。
(ちなみに、大うつ病性障害とは、英語の「major depressive disorder」の和訳で、majorは「主たるもの」という意味合いであり、重篤なうつという意味ではない。)
 
◎日本におけるうつ病患者数
厚生労働省が3年ごとに全国の医療施設に対して行っている「患者調査」によると、1996年には43万人だったうつ病等の気分障害の総患者数は、2008年には104万人と9年間で2.4倍に増加した。
「患者調査」は、医療機関にかかっている患者数の統計データだが、うつ病患者の医療機関への受診率は低いことがわかっており、実際にはこれより多くの患者がいることが推測されると、と同省は記している。
 
 
また、うつ病患者は、一般的に女性、若年者に多いとされるが、日本では中高年でも頻度が高く、うつ病による社会経済的影響が大きい。
うつ病になる事は本人や家族にとっても不幸なことであるが、その属する会社等組織における生産性の低下や、自殺による社会的影響などを考慮すると、解決すべき大きな社会問題である。
 
◎うつ病の治療
うつ病と診断されれば、一般的には「抗うつ薬」による治療が行われる。
抗うつ薬には、SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)といったものから三環系抗うつ薬などいくつかのグループがあり、他に、症状に合わせて抗不安薬や睡眠導入剤なども使われる。
薬物治療では、主治医による処方された薬の効果と副作用についての説明の下、処方された量と回数を必ず守ることが重要と言われている。しかしうつ病患者には、症状がそれほど重くないと感じる、副作用が心配、などの理由から自分で量や回数を勝手に減らすケースが多く見られ、主治医は十分な効果が得られないと判断して薬の量を増す、もしくは別の薬に変えるなどの対応を取ることとなってしまい、信頼関係が構築できず治癒が遅れたり、過剰な薬の投与という結果に結び付いてしまう事も多い。
このため、うつ病であることまたは治癒されたことを示す客観的な評価基準が不可欠であり、同社が発見・開発した大うつ病性障害バイオマーカーおよび診断薬は治療を迅速かつ適切に行うために極めて重要なものである。
 
【メタボローム解析とバイオマーカー】
同社の事業内容の概要を理解するには、「メタボローム解析」「バイオマーカー」という2つのキーワードについて一定程度の理解をしておく必要がある。
 
<メタボローム解析とは?>
人間をはじめとする生物は、筋肉や臓器、骨といった多様な機能を持つ器官から成り立つが、こうした器官はアミノ酸や脂質、核酸などの「代謝物質(メタボライト)」を共通の構成因子としており、代謝物質は全ての生命活動において欠かせない役割を担っている。

代謝物質は食事により供給され、運動など日々の活動の中で消費される。その機能に応じて体内や細胞内を移動し、多くの化学反応によって新しい物質へと作り替えられていく。
このような化学反応のことを「代謝(メタボリズム)」と呼ぶ。体温を調節したり、呼吸をしたり、心臓を動かしたり、食べ物を消化・吸収したり、古い細胞を新しい細胞に生まれ変わらせたりするのも、全て代謝の働きによるもの。
この新しい物質への作り変え「物質変換」は代謝経路という一定の規則により成り立っている。

人間の体の仕組みを探るための手法として有名なものが、遺伝子の解析を行う「ゲノミクス」である。
現在、生物の遺伝子情報(DNAの塩基配列)は自動的な解読およびコンピュータによる解析が可能になり、ヒトゲノムに関しては、ほぼ全ての情報の解読が終了したが、遺伝子の役割と病気との関係は解明できていない部分がまだまだ沢山ある。
そこで、人間の身体と病気との関係を解明するには、ゲノム解析による遺伝子に伴う情報のみでなく、代謝物質までを調査する事が必要であると考えられるようになり、全ての代謝物質を対象として解析を行う「メタボロミクス(メタボローム解析)」の研究、利用が盛んになっている。
 
 
<バイオマーカーとは?>
人間の身体には、様々な機能を精緻に制御して、内的又は外的な影響を最小限にして、身体の状態を一定に保つ仕組みである「恒常性」が備わっている。
例えば、体温や心拍数が一時的に変化しても元に戻るという事などが「恒常性」の一例である。

しかし、病気に罹ってこの恒常性に異常が生じると、代謝物質等にも影響が及び、健康の時とは異なる状況が生まれる。この代謝物質等をバイオマーカーと呼び、バイオマーカーを測定することにより、特定の疾患に対する現在の状況を客観的に評価することができる。
バイオマーカーとして広く知られているものとしては、膵臓の機能指標となる血糖や肝機能の指標となるγ−GPT、腫瘍マーカーとして前立腺がんのバイオマーカーPSAや膵臓がんのバイオマーカーCA19−9などがある。

バイオマーカーは、病気に罹った状況をモニターすることを目的に古くから研究されてきたが、より高感度で一度に多くの物質を分析できる新しい方法が生み出され、様々な新しいバイオマーカーの研究成果が相次いで発表されている。メタボローム解析技術により、探索が進んでいるバイオマーカーには、以下のようなものがある。
 
 
【事業内容とビジネスモデル】
同社の代表的事業は「メタボローム解析事業」「バイオマーカー事業」の2つ。
基盤技術であるCE-MS法の優秀性を研究機関や製薬会社等に普及させながらメタボローム研究関連市場の拡大を図り、メタボローム解析事業を国内外へ展開し、収益基盤を確保している。

一方で、現在の主力事業である「メタボローム解析事業」で得られた利益を、将来の成長事業である「バイオマーカー事業」の研究開発に投資し、ここで得られた知的財産を、医薬品開発や疾病診断分野で実用化することによる、中長期的な成長を目指している。
 
①メタボローム解析事業
「2014年3月期 売上高 516百万円、営業利益 311百万円」
製薬会社や食品会社等の民間企業、および大学や公的研究機関などを顧客とし、メタボローム解析試験を受託している。
顧客は、解析する試料を同社へ送付。同社は試料から代謝物質の抽出、CE-MS法によるメタボローム解析等を行った後、試験結果を報告書として顧客に納品する。
メタボローム解析サービスで得られた代謝物質データは、製薬企業や大学、研究所では基礎生物学研究から薬剤効果及び毒性の評価等、食品企業では発酵プロセスの解析や機能性食品の機能評価等に用いられ、顧客の研究開発の進展に貢献している。
 
◎海外市場への展開
メタボローム解析受託サービスをアジアで展開するため、2011年6月に、韓国Young In Frontier Co., Ltd.と韓国内におけるメタボローム解析サービス等の独占的販売権供与契約を締結した。また、北米市場への展開のため、2012年10月には、医学研究の集積地である米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市に、販売子会社Human Metabolome Technologies America, Inc.を設立し、がん研究向け解析サービスC-SCOPEを主力商品として販売活動を展開している。販売促進活動の一環として、有力大学のがん研究者に同サービスを無償もしくは安価で提供し、技術的な評価を得て、北米市場への早期浸透を図っている。
 
◎新サービス「C-SCOPE」
2012年8月、がん研究向け解析サービスである「C-SCOPE」の販売を開始した。
C-SCOPEは、がん細胞内で変化している特定の代謝物質を、より高感度、より精密に測定するというニーズに対応したもの。独自に開発したがん細胞からの効率的な代謝物質抽出法および高感度分析法を技術基盤としている。

がんは1981年以降国内死因の第1位であり近年総死因の約3割を占めている。厚生労働省によると、がん研究費は年々増加の一途をたどり2012年には357億円が費やされ、有効な新規抗がん剤の開発は多くの製薬企業にとっても急務となっている。
がん細胞が正常細胞に比べて数倍から数十倍のブドウ糖を消費する「ワーバーグ効果」と呼ばれる現象は、80年以上も前に提唱されたが、当時は代謝物質の網羅的測定法が無かったことから研究が滞っていた。
メタボローム解析技術の劇的な進歩に伴い、近年がんの代謝を標的とした抗がん剤の開発が行われている。
同社のCE-MS法によるメタボローム解析は、がん生物学的な基礎研究から抗がん剤開発における臨床応用まで、それぞれの段階で活用できる有効な解析手法の一つと考えられている。
 
②バイオマーカー事業
「2014年3月期 売上高 15百万円、営業損失 48百万円」
同社は、疾患の早期診断や治療効果をモニタリングする際に重要な役割を果たすバイオマーカーに関する事業を将来の成長事業と位置づけ、大学や診断薬企業との共同研究開発を通じて、メタボローム解析技術を用いた新たなバイオマーカー探索や臨床検査薬の研究開発を進めている。

バイオマーカーの診断法を開発し、診断薬企業と協力して体外診断用医薬品として上市することや、製薬企業が行う新薬や既存薬適応拡大を目的とした臨床試験にその体外診断用医薬品を導入することを通じて得られる研究開発に係る協力金、医薬品が上市された時の製品売上ロイヤリティが同事業の売上となる。
 
◎知的財産に関する方針
知的財産権・契約担当者が、同社及び共同研究機関の指定特許事務所の弁理士と密接に連携し、すべてのプロジェクトの特許出願、審査請求業務を遂行する他、共同研究における契約の交渉及び契約書類の作成も担当している。発見された疾病バイオマーカーの特許化については、最大限の権利を行使できるよう努めている。
疾病バイオマーカーにより権利範囲が異なるため、発見された疾病バイオマーカーの化学構造を始めとして、診断や創薬での利用法、検出法と測定機器などを広く網羅するように特許出願書類を作成している。
また、各国の臨床検査薬と検査機器企業、製薬企業に関する情報に基づいてライセンス契約先及び市場を想定し、特許協力条約に基づく国際出願を行うことを原則としている。
 
◎バイオマーカー事業の例:大うつ病性障害バイオマーカー
同社では、特にうつ病など客観的診断が難しい中枢神経系疾患(気分障害や精神障害等)や、肝炎、糖尿病などを含んだメタボリックシンドローム等社会問題化している疾患とその関連疾患に焦点を当てて研究開発を進めているが、現在の代表的なものが、「大うつ病性障害」のバイオマーカーである。

大うつ病性障害の診断は、米国精神医学会の診断基準や世界保健機構(WHO)の基準に基づいて診断されるが、どちらの手法も医師や患者の主観が反映されているケースが多く、他の病気と異なり客観的な指標に基づく診断法が普及していない。
そこで、同社は、独立行政法人国立精神・神経医療研究センターとの共同研究により、大うつ病性障害の血液バイオマーカーを発見した。
患者と健康者約30名ずつの血液を収集し、CE-MS法を用いたメタボローム解析により成分の比較を行った結果、血漿中のエタノールアミンリン酸(EAP)濃度が、大うつ病性障害患者で低下していることが分かった。
その後の解析により、EAPが精神疾患の中でも大うつ病性障害に特異的なバイオマーカーであることに加え、大うつ病性障害が治癒すると健康基準値まで戻ることも分かった。
 
 
なお、大うつ病性障害バイオマーカーに関しては、2013年9月に特許「うつ病のバイオマーカー、うつ病のバイオマーカーの測定法、コンピュータプログラム、及び記憶媒体」が日本で成立している。
 
◎疾病バイオマーカーの発掘
バイオマーカーの発見において以下の3つのコネクションや制度を活用し、バイオマーカー開発パイプラインの拡充に努めている。
 
<受託解析もしくは共同開発顧客とのコネクション>
大学医学部又は公的研究所等から、バイオマーカー探索関連試験を受託している。また、試験実施の前後で共同開発の提案を受けることもある。
現在、糖尿病性腎症バイオマーカーの共同開発を進めている。
 
<研究者や医師への直接提案>
同社の研究員が、疾病バイオマーカー開発の研究計画を直接研究者や医師に提案し、医師の承諾及び所属機関と共同研究契約を締結の上、試験を実施している。対象となる疾病は患者数、同社解析技術の特長、社会貢献度、バイオマーカーの必要性等から選択している。大うつ病性障害のほか、非アルコール性脂肪性肝炎、繊維筋痛症のバイオマーカー開発を行っている。
 
<メタボロミクス先導研究助成制度>
同社ではメタボローム解析の有用性を広く社会に利用してもらうとともに、若手研究者の育成のために、大学院学生へのメタボローム解析助成制度(HMTメタボロミクス先導研究助成制度)を実施している。世界各国の大学院生から募集した研究テーマから、優れた提案に対し、無償でメタボローム解析結果を提供して研究を支援しており、過去4年間に14名の大学院生が表彰された。この研究成果には、バイオマーカー発見につながる研究も含まれ、感染症関連脳症バイオマーカーのように、同社と共同研究に発展した例もある。
 
 
 
2014年3月期決算概要
 
 
増収・経常黒字転換となるも売上、利益ともに計画は下回る。
売上高は前期比23%増の610百万円。メタボローム解析事業において、がん研究用解析プラン「C-SCOPE」が大きく伸びた。経常利益以下は黒字に転換した。ただ、解析事業において受注が当初計画を下回り、一部大型案件が次期に繰り越されたこと等から解析事業の売上は計画に33百万円届かなかった。また、売上原価が増加した事に加え、上場前に実施した株式分割の幅を当初予定の1:100から1:300に変更したため目論見書の印刷費用が増加したこと等もあり、利益も計画に届かなかった。
 
 
売上高は前期比141百万円増加の516百万円。
医薬、臨床分野での営業活動に注力した結果、がん研究用解析プラン「C-SCOPE」が前期比140百万円と大幅に増加した。C-SCOPEは2012年10月から本格的に販売を開始したため、前期2013年3月期の実績はほぼゼロ。
米国子会社は製薬企業向けの売上が徐々に増加している。「C-SCOPE」が増加傾向にあり、第4四半期に大型受注2件を獲得した。
セミナーを大小合わせ55回開催したほか、展示会や学会に11回参加し、延べ参加者数は2,000名を超えた。引合いの獲得に貢献している。
 
 
大うつ病性障害のバイオマーカーについて2013年9月に特許が国内で登録された。
シスメックス株式会社(東証1部 6869)とうつ病診断キットを共同で開発する契約を締結した。酵素反応を用いて簡便に診断できるキットの開発に注力する。
慶應義塾大学より肝疾患のバイオマーカーを導入。うつ病に続く開発シーズとして同大学より開発権を取得した。今期よりNEDO助成金を活用して本格開発に着手する。想定よりも早く進展しているという事だ。
糖尿病性腎症や線維筋痛症など、大うつ病性障害のバイオマーカーに続くシーズ技術の開発を進めた。
 
 
上場に伴う資金調達で、現預金および有価証券がそれぞれ、7億円、6億円増加した。
株主資本も大幅に充実。自己資本比率は前期の40.8%から88.0%に上昇した。
 
 
黒字化に伴い営業CFはプラスに転じた。フリーCFもマイナス幅が縮小。上場に伴う株式の発行で財務CFはプラス幅が大きく拡大した。キャッシュポジションも大きく上昇。
 
 
2015年3月期業績予想
 
 
解析事業、バイオマーカー事業とも増収・増益
2014年6月12日、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「平成25 年度イノベーション実用化ベンチャー支援事業」に採択されたことに伴い、業績予想を修正した。
肝疾患診断キット開発のため、研究開発費が43百万円増加するため、営業利益は下方修正。一方、補助金収入として66百万円を営業外収入として見込んでいるため、経常利益は上方修正となった。本事業で購入した設備については、圧縮記帳を行う見込みで、これにより法人税等調整額が9百万円増加する計画。
 
 
(外部環境認識)
最近10年間の網羅解析に関する関連論文数は、DNA(ゲノミクス等)、タンパク(プロテオミクスなど)、RNA(トランスクリプトミクス等)と比較し、メタボローム及びメタボロミクス関連論文の増加が顕著で、代謝に関する関心、研究が急速に進んでいることが明らか。
そうした中、メタボロームに関するグローバル市場は、2ケタ成長が今後も続くと予想されている。同社が手掛けるメタボローム解析キットを含むアプリケーション市場の成長率は2017年まで年率14.9%で成長するとの調査もある。現時点での同社シェアはまだ小さく、成長機会は大きいと考えている。
中でも、全てのがんを対象とした『がん研究用解析プラン「C-SCOPE」』は、米国のがん研究費は日本の18倍以上と巨大なこともあり、米国市場における開拓余地は大きい。
 
(活動計画)
①営業体制の強化
国内市場のシェア拡大のため、営業担当者を4名採用し9名体制へ増強する。
米国での製薬企業への拡販のため、製薬企業営業担当者を採用する。C-SCOPEを北米で拡販する。
 
②新解析プランの発表
「F-SCOPE」の発表。ラベル解析(ある物質がどのように代謝されているかトレースする)を新規に投入する。
がん研究、発酵生産向け解析プランをリリース。メタボローム研究の全体の5%程度の規模だが増加傾向にある。米国市場における差別化製品として注力する。
 
③積極的な販売活動
がん研究と再生医療をターゲットに、前期同様積極的にセミナーの開催や学会等での展示活動を展開する。
再生医療の分野では共同研究も展開する。
 
 
(肝疾患バイオマーカー開発について)
大うつ病性障害のバイオマーカーに次ぐバイオマーカーとして、肝疾患バイオマーカーの開発が、NEDOに採択されたことも含め、順調に進んでいる。
新規導入したマーカー「γ−GGP(グルタミルペプチド)」は、キャリア(無症候性)も含め、全ての肝臓疾患で健常者との違いを示すことが分かった。
既存のマーカー「血清ALT」の場合は、キャリアや肝硬変では正常範囲になってしまい、見過ごされていた。
このため、全ての疾患を見ようとすると、数種類のマーカーで検査しなければならず、時間もお金もかかってしまう。
これに対し、「γ−GGP(グルタミルペプチド)」であれば、安く、迅速かつ正確に診断できる。(従来であれば総額12,000円必要だが、「γ−GGP」であれば2,000円。)
現在日本には脂肪肝患者 1,500万人のほか、肝硬変患者30万人、肝がん患者が5万人いる。一方、B型、C型などウィルス感染者が280〜350万人いるが、未検者が60%以上と言われている。こうした肝臓疾患患者の早期発見により肝硬変や肝がん患者数の減少が期待される。
また世界では肝炎ウィルス感染者は6億人以上と言われており、同バイオマーカー活躍の余地は極めて大きい。
 
 
菅野社長に聞く
 
菅野社長に、同社の優位性、今後の展開、投資家へのメッセージなどを伺った。
 
<メタボローム解析技術における同社の優位性>
「メタボローム解析に関しては、当社、米国メタボロン社を含め約3社がメインプレーヤー。その中で当社は水溶性代謝物の解析に関しては約9割の解析率と、網羅性において最も優れており、外部からも高く評価されている。」

「それを示す一例が創業直後からの味の素(株)との関係。同社はアミノ酸生産の過程で発酵技術を使用しているのだが、目的とするアミノ酸を生産するには、代謝の研究が極めて重要なため、世界中から様々な情報を収集していた。そうした中、当社の解析技術、中でも水溶性代謝物をほぼ全て測定できる点を高く評価していただき、創業間もない当社と共同研究契約を締結していただいた。」

「人間の細胞の大部分は水分で構成されており、生体内に存在する代謝物質も水溶性の代謝物質が多いと言われている。そのため、特にガンの研究には水溶性代謝物の解析が不可欠。」
「がん研究用解析プラン「C-SCOPE」は、当社の高い技術力をベースに大きな差別化を発揮し、着実に巨大な米国市場での実績が積み上がっている。営業体制強化のため、製薬会社のスタッフを採用したが大変優秀な人材を確保できたと喜んでいる。」
 
<大うつ病性障害バイオマーカーの展開>
「大うつ病性障害バイオマーカーは、予定通り2019年3月期を目途とした保険収載に向けて開発及び事業化を進めて行くが、その他に大きな事業機会もあり得るのではないかと思っている。」

「その一つが、今国会で成立した、労働安全衛生法の一部を改正する法律、所謂『ストレスチェック義務化法』。
同法は、「医師又は保険師による心理負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施」を義務化するとともに、「労働者が希望した場合は、医師による面接指導の実施及び面接記録の保存」を義務化したもの。」

うつ病のチェックを、病気になってから検査するのでなく、健常者が健康診断として受診することになれば、その市場規模は検査とは比較にならない程大きくなることが予想される。事業化に向けた検討を進めて行く。」
 
<参考:インベストメントブリッジ>
同法は、うつ病など精神障害の増大に対応するもので、法案は公布から1年半以内に施行されることとなり、いまのところ2015年後半からの義務化と想定されている。現時点では義務化のみで罰則規定は無いものの、コンプライアンスが重視される現在、大半の事業所が実施するものと言われている。
 
<経営について>
「バイオベンチャーといえども、株主から大事なお金を預かっている以上、赤字を出してはいけないと考える。黒字を継続しつつ、将来大きく変身するような材料を追求するという形が望ましい。当社に限らず、バイオベンチャーは皆そうした考えで経営にあたるべきだと思う。」

「そういう意味で、当社は解析事業の黒字をバッファーに、バイオマーカー事業への投資を進めて将来の大きな成長を目指した経営を行っている。」
 
<投資家へのメッセージ>
「当社の技術力の高さや、バイオマーカー事業の将来性には大いに期待していただきたいが、少し時間はかかるので、長い目で見て欲しい。ただ、その間も解析事業でしっかりと利益は生みだす。投資家に安心感と夢の両方を与えたいと考えている。また、バイオマーカー事業で利益が出るようになれば、累損解消も進むため、なるべく早い段階で配当を実施したい。」

「先般ある機会に株主となった方から、『知り合いにうつ病の患者がいるが、是非御社の技術でそういう人を助けてあげてください。応援しています。』と言われ、当社の社会的な存在意義や株主を始めとしたステークホルダーに対する責任を更に一層強く感じている。そうした応援団を一人でも多く獲得したい。それが、当社の強さに繋がる。」

「そうした意味で、財務的な価値のみでなく社会的な価値も伴った企業であることを是非理解していただきたい。」
 
 
株主総会報告
 
同社は、2014年6月28日(土)、上場後初めてとなる第11回定時株主総会を、山形県鶴岡市の本社 メタボロームキャンパス レクチャーホールで開催した。

同社が山形県鶴岡市に本社を置いたのは、慶應義塾大学生命先端科学研究所が鶴岡市の熱心な誘致によって開設されたことによる。同社は同研究所の隣接地に本社研究所を構えている。
鶴岡市は、「世界最先端のサイエンスを鶴岡で生み出し、世界に向けて発信する」ことを目指しているが、同社の上場は、その具体的成果の一つとなった。
菅野社長は「鶴岡に奇跡を起こす。」ことを目標としている。
鶴岡での取り組みを地方活性化のモデルとし、地方が中心となって日本を再興させる先鞭になりたいと考えている。
そのため、地元鶴岡に対する感謝を深く現わすとともに、一人でも多くの人に鶴岡に来て、同社の施設を見てもらいたい、今後も続く鶴岡の奇跡を是非注目してもらいたいと希望している。

そうした同社の想いの下で開催された株主総会には、38名の株主が参加した。
株主からは、①うつ病の診断キッドを開発している会社は他にもあると聞いたが、他社との大きな違いやHMTの優位性はどこにあるのか? ②うつ病のバイオマーカーだけでなく、認知症のバイオマーカーには取り組んでいかないのか? ③人材の確保と育成についての考え方はなど、積極的な質問がなされた。

また、先日、うつ病の検査を行ったが、検査をした病院は数値で色々検査結果を説明してくれて非常にわかりやすかったので、同社バイオマーカーを用いたわかりやすい診断方法を早く広めてほしいと言った意見もあった。
 
 
総会後、会社説明会とラボ見学会を実施。2班に分かれ研究所を見学した。1台3〜4千万円するメタボローム解析装置が40数台1ヵ所に揃っているのは画期的なことだそうで、国際メタボローム学会で訪れた海外の研究者も大変驚いていたという。
同社創業メンバーの一人、慶應義塾大学先端生命科学研究所の冨田勝所長が解析装置について説明を行った。(上・右写真)

2014年3月末時点での株主数5,481名中、山形県の株主が約360名、うち鶴岡市の株主数が約180名とのこと。今後も地元株主を増やしつつ、同時に全国から一人でも多くの株主に鶴岡へ来ていただきたいと、菅野社長は考えている。
 
 
今後の注目点
病気と自らの身体の先天的な関係を診断するものとして誰もがすぐに頭に浮かぶのは「遺伝子検査」だろう。
最近では、米国の有名女優がこの検査を基に乳房切除・再建手術をしたことで話題になった。また、日本でもSNS大手のディー・エヌ・エー(東証1部 2432)が個人向けの遺伝子解析サービスに参入するなど、急速に身近なものとなっている。
しかし、本文中でも触れたように、ヒトゲノムの内容はほぼ100%解読されたものの、遺伝子と実際の病気との関係性には不明な点が多く、より正確に判断しようとすればメタボローム解析と組み合わせる事が必要と考えられ始めているという。また、遺伝子は一度検査すれば、通常は一生結果が変わることは無いが、メタボロームは年齢等、その時の状況で変化するため、病気を随時モニタリングするに当たり、メタボローム解析およびバイオマーカーの果たす役割は、遺伝子検査以上と言えるかもしれない。

ストレスチェック義務化に伴うビジネスチャンスの広がりにも期待しつつ、安定したビジネスモデルの下、バイオマーカー事業が本格的に離陸するのがいつ頃になるかを注目していきたい。
 
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