ブリッジレポート
(4319) TAC株式会社

スタンダード

ブリッジレポート:(4319)TAC vol.17

(4319:東証1部) TAC 企業HP
斎藤 博明 社長
斎藤 博明 社長

【ブリッジレポート vol.17】2015年3月期業績レポート
取材概要「大幅な下方修正であった前期から一転しての今期の利益回復予想にも市場は残念ながらほとんど反応していない。毎期、様々な取り組みを打ち出して・・・」続きは本文をご覧ください。
2015年6月16日掲載
企業基本情報
企業名
TAC株式会社
社長
斎藤 博明
所在地
東京都千代田区三崎町3-2-18
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2015年3月 19,537 140 404 208
2014年3月 20,526 1,034 1,299 816
2013年3月 20,999 136 377 977
2012年3月 22,578 -606 -530 -799
2011年3月 24,575 465 283 -244
2010年3月 23,991 623 442 40
2009年3月 21,092 1,330 1,352 669
2008年3月 20,741 1,069 1,230 443
2007年3月 20,553 1,173 1,333 742
2006年3月 19,828 421 631 249
2005年3月 19,669 459 558 81
2004年3月 19,542 988 943 470
株式情報(5/29現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
213円 18,503,932株 3,941百万円 4.9% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
2.00円 0.9% 20.27円 10.5倍 236.95円 0.9倍
※株価は5/29終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROEは前期実績。BPSは直近決算短信より。
 
TACの2015年3月期決算概要等についてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
「資格の学校TAC」として、資格取得スクールを全国展開。社会人や大学生を対象に、公認会計士、税理士、不動産鑑定士、社会保険労務士、司法試験、司法書士等の資格試験や公務員試験の受験指導を中心に、企業向けの研修事業や出版事業等も手掛ける。
 
 
【沿革】
1980年12月、資格試験の受験指導を目的として設立され、公認会計士講座、日商簿記検定講座、税理士試験講座を開講。2001年10月に株式を店頭登録。03年1月の東証2部上場を経て、04年3月に同1部に指定替えとなった。09年9月には司法試験、司法書士、弁理士、国家公務員Ⅰ種・外務専門職等の資格受験講座を展開していた(株)KSS(旧・早稲田経営出版)から資格取得支援事業及び出版事業を譲受。これにより、会計分野に強みを有する同社の資格講座に法律系講座が加わると共に、公務員試験のフルラインナップ化も進んだ。2013年12月、小中高生向け通信教育事業を柱とする(株)増進会出版社と資本・業務提携契約を締結。2014年6月には医療事務分野への進出を狙いM&Aを実施。
 
【強み】
(1)試験制度の変化や法令改正へのきめ細かい対応
同社は、会社設立間もない頃から講師陣が毎年テキストを改訂し、試験制度の変化や法令改正にきめ細かく対応することで他社との差別化を図り受講生の支持を得てきた。事業が200億円規模になると、毎年発生するテキスト改訂コストを吸収することが可能だが、新規参入を考える企業はもちろん、同社よりも事業規模の劣る同業者にとっても、テキストを毎年改訂することは大きな負担である(ノウハウの蓄積が進み高い生産性を実現していることも強みとなっている)。
 
(2)積極的な講座開発と充実したラインナップ
同社は大学生市場の開拓も含めて積極的に新しい分野(新講座の開設)にチャレンジすることで業界トップに上り詰め、業界初の株式上場を果たした。また、09年には、Wセミナーの資格取得支援事業を譲受し、従来手薄だった法律系講座や公務員試験のラインナップを拡充した。法律系講座及び公務員講座は、会計系3講座(公認会計士、税理士、簿記検定)と共に3本柱を形成し、マーケットの大きい3本柱を中心に多様な講座をラインナップしている。
 
(3)受講生中心主義の下でのサービスの先進性
サービスの先進性も同社の強みである。教育メディアや講師を受講生が自由に選択できるシステムを、資格取得学校市場で最初に導入したのは同社である。その背景にある受講生中心主義の経営姿勢は、テキストの品質と共に、「資格の学校TAC」のブランド醸成に一役買っている。
 
 
ROEは、マージンの低下に加え総資産回転率も低下したため前々期に比べ大きく下落した。
先ずは今期以降、本格的な収益力回復を遂げることが出来るのか?がカギとなる。
2002年以降の平均ROEは10.5%と比較的高水準で推移している。
 
 
2015年3月期決算概要
 
売上高について
各講座の受講者は受講申込時に受講料全額を払い込む必要があり(同社では、前受金調整前売上高、あるいは現金ベース売上高と呼ぶ)、同社はこれをいったん「前受金」として貸借対照表・負債の部に計上する。その後、教育サービス提供期間に対応して、前受金が月毎に売上に振り替えられる(同社では、前受金調整後売上高、あるいは発生ベース売上高と呼ぶ)。損益計算書に計上される売上高は、「発生ベース売上高(前受金調整後売上高)」だが、その決算期間のサービスや商品の販売状況は現金ベース売上高(前受金調整前売上高)に反映され(現金収入を伴うためキャッシュ・フローの面では大きく異なるが、受注産業における受注高に似ている)、その後の売上高の先行指標となる。このため、同社では経営指標として現金ベース売上高(前受金調整前売上高)を重視している。
 
季節的特徴について
同社が扱う主な資格講座の本試験は、第2四半期(7月~9月)及び第3四半期(10月~12月)に集中しており、特に公認会計士・税理士講座等の主力講座においては、第2・第3四半期は試験が終了した直後で、翌年受験のための新規申し込みの時期となり、一方、第4四半期(1月~3月)及び第1四半期(4月~6月)は全コースが出揃う時期にあたる。
第2・第3四半期は、現金売上及び売掛金売上は多いものの受講期間に応じて前受金に振り替えられる一方、経費は毎月一定額計上されるため売上総利益率は減少する傾向がある。これに対して第4・第1四半期はこれらの前受金が各月に売上高に振り替えられる期になるため売上総利益率は増加する傾向がある。
 
 
前期比減収・大幅減益。計画にも未達
現金ベース売上高は前期比7.8%減の188億46百万円。発生ベース売上高は同4.8%減の195億37百万円。
講師料を中心に売上原価を同2.7%削減したが、販管費は本社ビル取得により賃借料が減少したが、修繕引当金繰入のほか、租税公課、支払手数料、のれん償却費が増加し前期を2.6%上回る72億51百万円となった結果、営業利益は同86.4%減少の140百万円となった。
営業外収益において円安に伴う保有債券の償還・売却により投資有価証券運用益3億45百万円があった一方、営業外費用においては支払利息の増加、支払手数料51百万円発生等があった結果、経常利益は同68.9%減の4億4百万円、減損損失が増加し当期純利益は同74.5%減少の2億8百万円となった。
決算発表に先立ち、業績予想の下方修正を行った。
 
 
【個人教育事業】
現金ベース売上高は前期比12.6%減少の118億46百万円。
講座全般にわたり、第1四半期から第2四半期は消費税増税の駆け込み申込みの反動で減少。第4四半期は、前年の駆け込み需要の有った前年度期比較で大きなマイナスとなった。
講師料、教材制作のための外注費、賃借料等の営業費用も減少させたが減収には追い付かず、10億44百万円の営業損失に転じた。となった。
発生ベースの売上高は同8.5%減少の125億1百万円、営業損失は3億90百万円だった。前期は営業利益536百万円。
 
【法人研修事業】
現金ベース売上高は前期比1.8%減少の41億80百万円。
法人研修事業セグメント売上高の約6割を占める企業研修は、地方の不採算案件を取りやめた影響をカバーすべく各分野にわたって営業を強化した結果、財務・会計分野で同1.7%増、経営・税務分野で同1.6%増、法律分野で同3.6%増、公務員・労務分野で同23.9%増、国際分野で同4.4%増等となったが、落ち込みをカバーすることはできず、同0.9%減少した。

大学内セミナーは、公務員、宅建、公認会計士が堅調で売上高が同10.2%増。税務申告ソフト「魔法陣」魔法陣事業は、消費税ソフトのバージョンアップ需要が伸び同14.7%増。地方専門学校へのコンテンツ提供は、消費増税前の駆け込みの反動で同14.3%の減少。提携校事業も主力の公務員、簿記、税理士等の講座が振るわず同9.2%の減少。

積極的営業展開によりコストが先行し、現金ベースの営業利益は同14.1%減少の10億58百万円となった。
発生ベースでは売上高42億17百万円(同0.5%減)、営業利益10億94百万円(同9.8%減)となった。
 
【出版事業】
売上高は前期比3.7%増加の23億21百万円。(同事業では、前受金調整がないため現金ベースと発生ベースの売上高は一致する。)
引き続き刊行点数を厳選し、TAC出版は457点(前期は452点)、W出版は157点(同160点)を刊行した。宅建・FPの4色カラーテキストが販売部数を伸ばすとともに、簿記の「みんなが欲しかった!簿記の教科書」もシリーズも好調だった。
一方、引き続き販売力の強化に努め、出版営業部員の書店への提案力の向上、大手書店との資格書籍フェアの開催等で、売り場におけるTAC出版の認知度向上に注力した。また、自社直販サイト「サイバーブックストア」の活性化、アマゾンでの販売強化などを進めた。前連結会計年度末に行った在庫絞り込みにより売上原価も改善したため、営業利益は倍増した。
 
【人材事業】
売上高は前期比26.4%増加の5億44百万円。営業利益は同93.4%減少の6百万円。
景気回復に伴う正社員志向の高まりにより登録スタッフが減少しており、人材派遣売上高は同31.2%減となった。一方、顧客企業の業績回復から会計業界も人手不足に転じており、監査法人や税理士法人、大手会計事務所等を中心に、会計士・税理士受験者向け就職説明会への出展が好調に推移しており、求人広告売上高は同8.4%増となった。人材紹介売上高は同10.9%減となった。以上の結果、(株)TACプロフェッションバンクの売上高は同10.8%減少の3億83百万円、営業利益は同25.6%減少の72百万円となった。

2014年6月に買収した(株)クボ医療及び(株)医療事務スタッフ関西の両社単体での合計売上高は1億68百万円。スタッフの派遣が安定せず人件費がかさんだこと、大口顧客の滞留債権を貸倒処理したこと、のれん償却費24百万円を計上したこと等により、連結決算への寄与が遅れている。また、関東圏でも両社のノウハウを活かすべく、(株)TAC医療事務スタッフを2014年12月に設立している。関西圏では、病院・クリニックを一括して業務受託すべく営業に注力。関東圏では、許認可取得を経て、今期から営業を開始しており、登録スタッフの募集及び顧客となる医科・歯科クリニック等からの問い合わせも順調に入り始めている。
 
 
【マーケット概要】
同社が取り扱う各種資格試験の2014年の本試験申込者は2,510千人(前年比 -8.3%)と、2010年の3,086千人をピークに4年連続して減少している。
主な資格マーケットは以下の様な概況となっている。

<会計系>
簿記検定は各級とも受験者数が減少し、全体では前年比9.1%減少した。
会計士も同17.8%減と受験者数の減少が続くが、監査法人をはじめ会計士業界は人手不足の状況となっており、今後の受験者数の増加が期待される。
税理士試験は長期低落中で、2014年の受験者数は同9.9%減少した。

<法律系>
法律系資格の申込者数は減少が続いており、2014年の申込者数は2005年比46.5%減少と、ほぼ半減となっている。
一方、司法試験予備試験の受験申込者数は前年比12.1%増となっており、2011年の試験開始以来、3年連続で増加した。

<公務員系>
リーマンショック後の2009年度より公務員の志望者が急増してきたが、2014年度はアベノミクスによる景気回復傾向を受けて申込者数は前年度に引き続き減少した。国家総合職・一般職の2014年度申込者数が同2.7%の減少なのに対し、地方上級は同4.6%減と景気回復に伴う申込者数の減少は地方公務員に色濃い。教員採用試験の申込者数は15万人前後で安定的に推移している。
(以下、同社動向。)
 
財務・会計分野
発生ベース売上高は前期比9.7%減少の30億72百万円。
新規株式公開件数の増加を背景に大手監査法人は一昨年から積極採用姿勢に転じ、業界では人手不足が続いている。平成26年試験の合格率は前年の8.9%から10.1%と上昇し、公認会計士試験の受験環境は良好になっている。
こうした中、公認会計士講座は、受験者数が減少してきた影響から再受験者向けの上級コースへの申込みが低迷しているが、新規学習者向けの入門コースは前年を上回り始めている。この結果、公認会計士講座の現金ベース売上高は前期比6.7%減となった。
簿記検定講座は、本試験受験者数の減少に伴い3級、2級受験者も伸び悩んでいるが、とくに単価の高い1級コースの低迷が影響し、簿記検定講座の現金ベース売上高は同6.9%減となった。
 
経営・税務分野
発生ベース売上高は前期比8.7%減の41億51百万円。
平成26年の税理士試験の受験申込者数は前年比で9.9%減の49,876名と大きく減少した。こうした状況の中、税理士講座では講義時間の見直し等、受講者ニーズを取り込んだコース作りに取り組んだが、一年を通して売上の回復は図れず、税理士講座の現金ベース売上高は同13.4%減となった。現在売上回復に向け、既存商品にプラスアルファのカリキュラムを加えて値上げを行うなどの取り組みを進めている。中小企業診断士講座は、過年度の大量合格の影響から再受験者が減少したほか、初学者向けコースが減少しており、現金ベース売上高は同9.4%減となった。
 
金融・不動産分野
発生ベース売上高は前期比6.0%増の27億78百万円。
景気回復及び金融緩和により不動産市場も活性化してきたのに伴い、不動産分野は好調だった。長く低迷が続いた不動産鑑定士講座の現金ベース売上高は同2.6%増となった。また、宅建主任者講座も、本試験受験者数が同1.6%増となったことを受けて、現金ベース売上高は同9.8%増となった。マンション管理士講座は、管理業務主任者とともに本試験受験者数の減少が続き、現金ベース売上高は同11.1%減となったが、建築士講座は開講3年を経過し、認知度が向上したことに加え、製図コースが好評で、現金ベース売上高は同62.6%増となった。
金融分野はまちまちの結果となった。FP講座は、リニューアルした出版物が引き続き好評で売上を伸ばしたが、個人向け講座が低迷したため、現金ベース売上高は同1.7%減となった。証券アナリスト講座はCFA対策コースが牽引し、現金ベース売上高は同5.8%増となった。ビジネススクール講座は、法人研修の伸び悩み、事業再生士補講座の低迷により、現金ベース売上高は同7.3%減となった。企業研修向けのヒューマンスキル講座も低迷し、同18.8%減となった。
 
法律分野
発生ベース売上高は前期比10.4%減の18億15百万円。
平成27年度の司法試験予備試験出願者数は12,543名(前年12,622名)と、依然高水準を維持しており、人気を集めている。
「4A基礎講座」は初心者から受験経験者まで幅広く支持を集め、4A講座関連のオプションコースも人気となり、消費増税の反動を受けながらも現金ベース売上高は前年並みを確保した。司法書士講座は、上級コース及び単科コースが堅調だったが、入門系コース及び答練コースが不調で、現金ベース売上高は同11.9%減となった。弁理士講座は、従来の大量合格路線を転換し本試験が難化したため、受講者数が減少し、現金ベース売上高は同16.3%減となった。行政書士講座も、20~30代の受講者を中心に伸び悩み、現金ベース売上高は同14.9%減となった。法律関連、通関士講座も低調で、現金ベース売上高は微減となった。
 
公務員・労務分野
発生ベース売上高は前期比3.7%減の51億55百万円。
社会保険労務士講座は、平成26年度試験の受験申込者が前年比10.1%減の57,199名と大きく減少する一方で、前年までの本試験の難化傾向から一転して合格者数が4,156名(同55.9%増)と大幅増となったため、急激に集客が鈍くなり、現金ベース売上高は同10.5%減となった。
公務員講座は、民間企業の就職状況が好転していること、採用時期が民間と同時期になったことから、民間及び公務員試験における併願がしにくくなり、受講者数が減少している。国家総合職・外務専門職コースは現金ベース売上高が同5.2%減、国家一般職・地方上級コースは同12.9%減となった。注力中の教員試験対策講座の売上の伸びも低調だった。
 
情報・国際分野
発生ベース売上高は前年同期比8.9%減の13億30百万円。
情報処理講座は個人講座中心に伸び悩み、現金ベース売上高は同7.8%減となったが、CompTIA講座は同2.2%増と堅調に推移した。米国公認会計士講座は受験環境が厳しくなってきており、TOEICコースやBATICコースのほか、米国税理士コース(EA)、米国公認管理会計士(USCMA)コースと多様化しているが、現金ベース売上高は同14.1%減となった。
 
医療・福祉分野
発生ベース売上高は1億58百万円。
2015年3月期に医療事務スタッフの派遣を行う(株)医療事務スタッフ関西、診療報酬明細書(レセプト)のチェックを行う(株)クボ医療を買収した。両社のノウハウを得ながら関西圏の拠点から医療事務講座を開講。首都圏においても医療事務講座を開講するとともに、(株)TAC医療事務スタッフを設立し新年度から登録スタッフの募集開始している。また、(株)トーハン・コンサルティングと介護資格の講座運営について提携し、施設提供の形で協力している。前期の医療・福祉分野の売上高は、ほぼ医療事務スタッフ関西とクボ医療に係るもの。今期以降は、医療事務スタッフ派遣等の人材事業売上と医療事務講座の講座売上が計上される。
 
その他
売上高(現金ベース売上高=発生ベース売上高)は前年同期比3.6%減少の10億75百万円。
人材子会社TACプロフェッションバンクが行う人材ビジネスについては、景気回復に伴う人手不足により、夏・冬に開催する会計業界向け就職説明会への出展が好調だったが、企業における経理・財務部門や会計事務所への派遣・紹介に関しては、登録者数の減少により売上が低迷し人材事業売上は同11.6%減となった。税務申告ソフト「魔法陣」の売上高は、消費税ソフトのバージョンアップを中心に好調だった。その他、各拠点での受講申込みが低調なため、受付雑収入が同12.5%減となった。
 
 
個人・法人を合わせた講座別では、公務員講座が昨年に引き続き受講者数においてトップとなっている。国家一般職・地方上級コースが同5.8%増となったほか、国家総合職・外務専門職コースが消費税増税前の駆け込みの反動があったものの、ほぼ前年並みを確保した。公認会計士講座は会計士不足を背景に入門系コースが増加しつつあるが、通年では同6.1%減となったほか、簿記検定講座が同9.0%減、税理士講座が同9.2%減と低調だった。法律系講座の受講者数減少も厳しく、「4A基礎講座」が好調な司法試験講座は前年並みとなったものの、司法書士講座、弁理士講座、行政書士講座はそれぞれ同11.1%減、同18.1%減、同10.0%減となった。
一方、景気回復と不動産市況の活況及び金融業界の採用回復等を受け、宅建主任者講座が同1.1%増、証券アナリスト講座が同29.4%増、ビジネススクールが同23.3%増など、金融・不動産分野が受講者数を伸ばした。また、CompTIA講座も同17.2%増と好調であるとともに、BATIC講座も新試験制度がIFRS(国際財務報告基準)前提に変更されることもあって、同6.0%増と好調だった。
法人受講者は、自治体等の委託訓練が同6.7%減、提携校が同14.6%減となったが、大学内セミナーが公務員を中心に同2.6%増、通信型研修が同11.9%増と好調で、法人受講者全体ではプラスとなった。
 
 
現預金等の増加で流動資産は前期末比1億61百万円増加した。本社ビル取得に伴う有形固定資産およびM&Aに伴うのれんの増加などで固定資産も同25億12百万円増加し、資産合計は同26億73百万円増加の213億4百万円となった。
本社ビル取得にあたり借入を行ったため有利子負債残高は同34億18百万円増加の78億19百万円となり、負債合計も同24億54百万円増の169億17百万円となった。純資産は利益剰余金の増加で2億20百万円増加の43億87百万円。
この結果、自己資本比率は前期末より1.7%低下の20.6%となった。
 
 
利益の減少等で営業CFはマイナスに転じた。本社取得により投資CFもマイナスに転じた。短期借入金減少額の縮小、長期借入金の増加で財務CFのプラス幅は拡大。キャッシュポジションは若干上昇した。
 
(6)トピックス
◎大規模公開オンライン講座提供サイトに講座を開講
一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)公認の日本発大規模公開オンライン講座提供サイト「gacco」に、同社の簿記講座が開講されることとなった。(2015年4月23日開講)

「gacco」は誰でも無料でオンライン受講できるサイトとして2014年2月に開設され、これまで34講座で受講者を募集し、会員数は10万人を超え、のべ受講登録者数は約22万人。会員の半数以上は社会人で、実践的な実務・資格講座に対するニーズが高い。
同社は、簿記、行政書士向け憲法、宅建向け民法を皮切りに様々な講座の開設を予定しているほか、企業の社員研究に導入することも検討している。

以前より展開しているオンライン教育サービス「オンスク.jp」とともに、資格取得者層のすそ野拡大を図る。
 
 
2016年3月期業績予想
 
 
微増収ながらも大幅増益
現金ベース売上高は前期比8.0%増の203億61百万円を予想。事業の性格上、一定規模の拠点ネットワーク維持のためには売上高の維持・拡大が不可欠であり、金融・不動産分野、教職員対策講座など堅調な講座を拡大させると共に、新規講座の開発やアライアンス強化で売上拡大を目指す。
営業利益は同348.8%増の630百万円。本社ビル取得に要した一時的な諸費用がなくなること及び賃借料の削減などで、販管費が前期より減少し大幅増益を見込む。
配当は前期より1円増配の2.00円/株を予定。予想配当性向は9.9%。
 
(2)主な取り組み
①売上高の維持。新たな売上の創出
下記のような日本商工会議所との連携による簿記受験者層の掘り起こしや、医療事務コースの本格開講や医療系人材事業の推進を進めるほか、グローバル化進展の中法人中心とした語学事業にも取組む。
 
<高等学校日商簿記学習支援プログラムを開始>
日本商工会議所と連携して「高等学校日商簿記学習支援プログラム」を2015年4月から開始した。

1.プログラムの推進目的
18 歳人口の減少に直面する中、就職や国家資格合格に直結する簿記教育の有用性を見直す大学が増加している。
高校時代に日商簿記検定試験を取得した生徒を、推薦やAO 入試などで優遇するほか、入学金・施設設備費など学費の一切を免除する等の制度を設けて、日商簿記合格者の入学を推奨している大学もある。
また、出題区分の改定によりこれまで1級の範囲における出題だった連結会計や税効果会計が2級に移るなど、簿記教育の現場へのその影響は大きいと同時に、実務に即した改定であり、日商簿記検定の社会的貢献がこれまで以上に高く評価される事も予想される。
ただ、一方で、簿記教育に直接携われる教諭は不足しており、日商簿記検定の資格取得のための学習機会を大きく改善する必要性が高まっている。

こうした環境下、同社は日本商工会議所と連携して、日商簿記検定試験の高等学校向け教育支援の一環として、個人向け・法人向けに販売している自社の日商簿記教育コンテンツの基本講義部分を高等学校向けに無償で提供することとした。
これにより、全国の高校生が日商簿記という有効なスキルを習得して活躍することを支援すると同時に、日商簿記検定試験のより一層の普及促進、簿記受験者層の掘り起こしを図る。

2.プログラムの概要
日商簿記検定試験の普及を目的として、全国の高等学校に向けて、① 無料講義プログラム(Web 講座、DVD 講座およびDVD・Web 速習講座)、② 使用テキスト・問題集等(TAC 出版刊)の割引販売、③ 自由にカスタマイズ可能なオプションプログラム(直前対策講座、コンサルティング等)など、様々な学習支援プログラムを提供する。
また、有料で講師の派遣も行う。

<医療系人材事業の推進>
新たな収益としてM&Aや子会社設立によって基盤整備を行った医療系人材事業について、今期より本格的な立上げを目指す。
TACの医療事務講座修了者を、子会社の(株)TAC医療事務スタッフ、(株)医療事務スタッフ関西、(株)クボ医療を通じて病院、クリニックへ医療事務員として人材を派遣するほか、レセプト点検サービスの拡充を提供する。
 
②成長のための投資(新規事業の開拓)
ビジネスシナジーの見込めるM&A案件へさらに積極的に取組む。
 
③コスト削減の継続的な取り組み
引き続き業務効率化・標準化の推進により外注費や人件費を抑制する。
講師料の見直しも継続する。
また、スクールの規模を最適化し賃借料を削減する。
 
 
今後の注目点
大幅な下方修正であった前期から一転しての今期の利益回復予想にも市場は残念ながらほとんど反応していない。
毎期、様々な取り組みを打ち出している同社だが、やはり具体的な売上・利益への貢献が不明確・不明瞭な点がその大きな要因であろう。
そうした意味では、増進会出版社グループとの業務提携の一環として、公認会計士および公務員の通信講座申し込み受け付けが2015年2月より始まったことは注目される。同社として発表時(2013年12月)よりその将来性を大きな期待を持ち、アピールしていたアライアンスの具体的な第一弾だけにどういう進捗となるか、投資家としても大きな期待を以て見守りたい。