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ブリッジレポート:(4634)東洋インキSCホールディングス vol.1

(4634:東証1部) 東洋インキSCホールディングス 企業HP
北川 克己 社長
北川 克己 社長

【ブリッジレポート vol.1】2015年3月期業績レポート
取材概要「「印刷」と一言だけを耳にすると、デジタル化による強い向かい風というイメージを持つ。日本国内の新聞や雑誌の発行部数の減少を見れば当然であ・・・」続きは本文をご覧ください。
2015年6月30日掲載
企業基本情報
企業名
東洋インキSCホールディングス株式会社
社長
北川 克己
所在地
東京都中央区京橋3-7-1
決算期
3月末日
業種
化学(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2015年3月 286,684 18,210 19,411 13,304
2014年3月 279,557 19,728 20,553 12,260
2013年3月 248,689 17,547 18,468 8,714
株式情報(6/19現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
525円 298,322,735株 156,619百万円 6.9% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
15.00円 2.9% 40.22円 13.1倍 694.62円 0.8倍
※株価は6/19終値。株式数は直近決算短信の期末株数より。ROE、BPSは前期末実績。
 
東洋インキSCホールディングス株式会社の会社概要、2015年3月期決算概要、今後の成長戦略などをご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
国内印刷インキ首位。インキ製造の原材料である顔料や樹脂加工技術を活かし、液晶用カラーフィルター材料、電磁波シールドフィルム多角的に製品を展開。国内外67社の連結子会社、12社の持分法適用関連会社でグループを構成。世界24か国で事業を展開している。「中期経営計画SCC-III」において「スペシャリティケミカルメーカーからサイエンスカンパニーへの変革」を標榜。新製品の開発と海外展開の加速による成長を目指している。
 
【沿革】
1896年(明治29年)、創業者 小林鎌太郎が東京日本橋で個人経営の「小林インキ店」を開業したのが始まり。1907年(明治40年)に東洋インキ製造株式会社に改組。明治期に入り、読売新聞(1874年創刊)、朝日新聞(1879年H創刊)を始めとした多数の新聞や雑誌が創刊されたほか、富国強兵の下、教育水準向上のための教科書の制作を始めとした政府関係の印刷物も増加し印刷用インキの需要は急拡大していった。
当初は輸入品が中心であったが、良質な国産インキへの転換が国策として推し進められる中、高い技術力を持った同社は、民間印刷会社に加え、大蔵省印刷局を始めとした政府機関への納入も拡大し、輸出も増加した。また、原材料の顔料・樹脂から印刷用インキまでの一貫製造にもいち早く取り組んだこと、創業時から、印刷会社最大手の1社となった凸版印刷株式会社との関係が深かったことなども成長の背景として挙げられる。関東大震災、太平洋戦争といった困難な時期を切り抜け、戦後高度経済成長期に再び急成長を遂げ、1961年(昭和36年)東証2部上場を経て、1967年(昭和42年)、東証1部に上場した。
印刷インキにとどまらず、顔料、樹脂など原材料の生産・加工で培った多様な技術を活かし、液晶フィルム部材など他分野に事業領域を拡大している。グループ力の拡大とさらなる成長のため2011年(平成23年)持株会社制度に移行し、社名を東洋インキSCホールディングス株式会社とした。
 
【経営理念など】
企業グループとしてのブランドの原点を示すとともに、グループの社員各人が常に心に留め、企業人として相応しく行動するための規範として、経営哲学・経営理念・行動指針の三部からなる「東洋インキグループ経営理念」を、1993年4月に制定した。
2014年4月には、行動指針に新たに「株主の満足度向上」を追加。すべてのステークホルダーの満足度向上を目指してゆく。
 
 
この理念体系は理念カード(クレド)として全社員が常に携帯し、毎週部単位で行われる5分間ミーティングで読み合わせ、ディスカッションを行うなどして繰り返し確認し、より深い理解、実践を図っている。
また、海外も含めたグループ企業一体化のためにグローバル社内報を発行しているが、そのトップページには必ず「東洋インキグループ経営理念」を掲載。上記クレドも、「日・英」版に加え、「中・英」版もあり、経営理念の全世界的な共有・浸透に注力している。
 
【市場環境】
◎概要
(市場動向)
日本の印刷産業の生産金額はデジタル化の進展、活字離れ等の要因を背景に、新聞、雑誌など出版印刷を中心に減少傾向にある。
一方で、ポスター、カタログ、チラシ、POPなど商業印刷は底堅く、食品・医薬品などの包装紙、プラスチック容器に使われる包装印刷は2004年から2014年までのCAGR(年平均成長率)は+3.4%と堅調に拡大している。
 
 
一方、海外、特に新興国では、紙を対象物とした印刷(オフセット印刷)、食品パッケージなど主にフィルムを対象物とした印刷(グラビア印刷・フレキソ印刷)、共に今後の成長が予想されており、同社もその需要取り込みに注力している。
印刷機のイノベーションが進む中、クオリティーの向上に伴いローカルインキでは対応しきれない部分も多く、優れた日本製インキ需要は今後も高まることが予想されるという事だ。
 
(印刷会社と印刷インキ会社)
経済産業省「平成25年工業統計表・産業編」によれば、2013年の印刷・同関連業の事業所数は全国で27,026だが、うち98.5%にあたる26,626事業所は従業員数100人未満の中小企業である。
 
 
同社の顧客である印刷会社は印刷インキを購入して印刷を行うが、単純に印刷インキと紙をセットして機械を動かせば印刷できるというものではない。印刷会社が直面する「初めての紙を使用する際のインキの選択」、「特別な色を出す」、「今まで以上の高級感を出す」といったニーズや、印刷効率の向上や環境対策といった課題に対し、印刷インキ会社は顧客ニーズに合致した新製品の紹介や、様々なアドバイスを印刷会社に提供している。
国内約27,000社のうち、殆どの印刷会社は、こうしたソリューション無しにはスムーズに業務を進める事は難しく、印刷産業において印刷インキ会社は極めて重要な役割を担っている。
このため顧客である印刷会社は同社との直接取引を求めており、その結果、同社国内売上の8割近くが顧客への直接販売となっている。こうした顧客との強固な関係性は同社の大きな特徴となっている。
 
◎同業他社
インキ事業を展開する主な上場企業は同社を含め6社。
(4631)DICは世界規模でトップ企業であるのに対し、同社は国内インキ首位で、各品目別でもほとんどが1位か2位となっている。グローバルベースでは3位にランキングされている。(2位は欧州企業)
(4633)サカタインクスは同社の第2位株主で、主に物流面での相互補完を図り2000年に資本業務提携契約を締結している。
今期の営業利益率は6社中最も高いが、ROEは最大手DICを下回り、PBRは1倍未満となっている。
 
*売上高、営業利益は各社の今期予想。ROE、PBRは前期実績。単位:百万円、倍。時価総額は2015年6月19日終値ベース。
*サカタインクスは決算期変更のため予想は参考値。
 
【事業内容】
◎「印刷インキ」について
同社の主要製品のひとつである印刷インキについて、「原材料」、「種類と用途」などを以下にまとめてみた。
 
 
この3つの原材料を混ぜ合わせて各種インキを製造する際に高度な分散技術が必要となる。
また、同社は創業以来これら原材料の製造を手掛ける過程で、様々な用途開発を進めて事業領域を拡大してきた。
 
 
◎事業セグメント
「色材・機能材関連事業」、「ポリマー・塗加工関連事業」、「印刷・情報関連事業」、「パッケージ関連事業」の4セグメントで構成されている。
このうち、「印刷・情報関連事業」は主に紙への印刷に使用する平版用インキ(オフセットインキ等)、「パッケージ関連事業」は食品包装などフィルムへの印刷に使用するグラビアインキやフレキソインキなど、、「色材・機能材関連事業」は印刷インキの原料でもある顔料をコア素材とし展開した製品、「ポリマー・塗加工関連事業」はこれもインキの主原料である樹脂とその設計技術から展開した事業である。
 
 
 
 
 
印刷インキの主たる原材料である有機顔料を母体として、色材技術、有機化学合成技術、高度な分散技術との融合によって様々な分野で使用される材料を提供している。中でもインキや塗料の製造で蓄積された技術の結集によるナノレベルの分散加工技術から、さらに機能を高めた液晶カラーフィルタ材料を生み出した。
さらに分散加工技術は、有機顔料だけではなくCNT(カーボンナノチューブ)などの無機素材にも展開され、二次電池材料など新たなエネルギー分野への事業拡大にも繋がっている。営業利益の約4割を構成している。
 
 
 
中核素材の機能性樹脂にさまざまな機能を付与した製品を開発している。長年にわたって培われた独自技術を用いて新たな機能を創造し、エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア関連などの分野において、新たな需要の開拓、市場の創造を目指している。
 
 
 
グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷などの、パッケージ向け印刷用インキおよび機器を取り扱っている。
食品包装などの分野では消費者の安心・安全のためにインキの水性化など環境に配慮した製品開発にも注力している。
 
 
 
創業以来の中心セグメント。紙への印刷に使用する印刷インキが中心製品。
印刷インキの提供だけに留まらず、機械・機器の販売、印刷工程の効率化サポート、カラーマネジメントやカラーユニバーサルデザインに関する支援やツールの提供なども行っている。
 
◎海外展開
大きな成長を期待し難い国内市場では高付加価値製品による収益性向上を進める一方、今後成長が期待できる海外市場の開拓に製造、販売両面で積極的に取組んでいる。
海外生産体制は前中期経営計画中にほぼ完成し、原料調達、生産共に現地で行っている。
2015年3月末現在、49社の海外子会社、50ヶ所の工場を有し、世界24か国で事業を展開している。
 
 
 
 
決算短信内、「目標とする経営指標」の項目において、売上・利益の拡大と共に、高付加価値企業としてROA・ROEの向上にも言及している。
マージンおよび効率性(総資産回転率)の向上によるROEの上昇が望まれる。
 
【特徴と強み】
①高い技術力
前述の様に、同社は印刷インキの原材料である顔料や樹脂も自社で生産を続けてきた。こうした技術力が高品質な印刷インキ生産のベースとなっているのはもちろんのこと、液晶用カラーフィルター材料や接着剤・粘着剤など、事業領域や製品の拡大に繋がっている。
 
②優れた課題解決能力
同社が印刷インキ国内首位の地位を築いている大きな背景の一つが印刷会社に対する高い課題解決能力だ。
印刷インキの製造・供給のみでなく、版作り、画像など「印刷」に関連する要素全般に関して古くから研究を続けており、これが顧客に対する技術提案力やサービス力、ひいては顧客満足度の向上に繋がっている。
 
③環境に対する取り組み
同社では、CO2の削減とともに、Non-VOCインキや水性インキ、UVインキなどの環境調和型インキにもいち早く取り組んできた。新興国においても環境規制は一段と強化されており、ニーズは拡大している。また化学物質管理への取り組みや他社に先駆けたスイス条例対応製品のラインナップ化など安全・安心への取り組みも進んでいる。
 
④経営戦略の独自性
M&Aについては、同社がもつ技術力を新しい市場に展開するうえで、シナジー効果が期待できる場合には選択肢のひとつとして考えている。また、輸送マイレージの削減、現地品の利用など、効率性向上と社会的貢献の両面から海外市場における「地産地消」のポリシーを印刷インキ業界ではいち早く打ちたてて実践してきた。
 
 
2015年3月期決算概要
 
 
増収ながらも原材料高騰などで減益
売上高は前期比2.5%増の2,866億円。全セグメントが増収だった。営業利益は同7.7%減の182億円。ポリマー・塗加工関連、パッケージ関連を中心に価格改定を実施、円安による7億円の増益要因はあったが、原材料価格の高騰(22億円)、固定費の増加(6億円)、販売数量の減少(2億円)などの減益要因が上回った。
期初計画に対しては、売上、利益共に下回った。
 
 
☆色材・機能材関連事業
増収・減益だった。
<化成品>
汎用顔料は、国内では消費税率引き上げの影響が残り、印刷インキ用、塗料用とも低調だったが、海外は東南アジアなどでの拡販が進み増収だった。円安による原料価格高騰により減益となった。
 
<表示材料>
高機能顔料や液晶ディスプレイカラーフィルター用材料が、海外は台湾や韓国で好調に推移し、中国での拡販も進んだが、国内需要は低調で減収だった。液晶パネルの価格競争激化の中で、部材へのコストダウン要請が一層厳しくなり、利益は減少した。
 
<着色剤>
プラスチック用着色剤は、国内では消費税率引き上げや天候不順の影響があったが、容器分野でのシェアが拡大した他、中国や韓国、東南アジアでも、容器用や事務機器関連の拡販が進んだ。また太陽電池関連部材の新製品が寄与し増収・増益となった。
 
☆ポリマー・塗加工関連事業
増収・増益だった。
<塗工材料>
広告サイン用は量販店の改装需要の獲得などで堅調に推移し、スマートフォン用保護フィルムや半導体研磨用テープも伸長したが、主力の電磁波シールドフィルムが中国では伸張したが国内や韓国では低調で、増収・減益となった。
 
<粘・接着剤>
接着剤は、国内や韓国での太陽電池用が低調な一方、包装用は国内や中国、東南アジアが伸長した。
粘着剤は、国内でのラベル用が後半低調に推移したが、東南アジアでの自動車や家電用、韓国・台湾でのディスプレイ用は伸長した。樹脂は、印刷インキ用や建築土木関連が低調だったが、太陽電池用の拡販が進んだ。
原材料高騰を受け価格改定を実施したが、利益を補うには至らず減益となった。
 
<塗料樹脂>
国内ではコンビニエンスストアでのカウンターコーヒーの普及で、コーヒー系の飲料缶向けは低調だったが、ビール系飲料缶向けが伸長したことに加え、東南アジアでの拡販も進み増収増益となった。
 
☆パッケージ関連事業
増収・減益だった。
<国内グラビアインキ>
国内のグラビアインキは、出版用の構造的減少傾向が続いたことに加え、主力の包装用が夏場の天候不順以降伸
び悩み、建装材用も後半低調に推移した。グラビアのシリンダー製版事業は後半需要が落ち込み、グラビア関連の機器販売も減少した。
価格改定を行ったが原材料価格高騰の影響が大きく減収・減益となった。
 
<海外グラビアインキ>
東南アジアやインドで包装用ボリュームゾーン向けの環境対応インキの拡販が進んだ。一方、北米の建装材用インキは後半伸び悩んだ。
 
☆印刷・情報関連事業
増収・減益となった。
<オフセットインキ(国内)>
高感度UVインキやタッチパネル用ハードコート剤などの高機能製品の拡販が進んだ。しかしデジタル化に伴う情報系印刷市場の縮小という構造的不況に加え、消費税率引き上げが大きく影響し低調だった。グラフィックアーツ関連機器及び材料は、自社開発した紙面検査装置の拡販が進んだが、国内オフセット印刷市況の低迷に伴い、その他の機器や材料販売が低調だった。
価格改定を実施したが、減収減益となった。
 
<オフセットインキ(海外)>
中国が低調だった一方、東南アジアやインドは堅調だった。2013年4月に買収したアレッツグループを活用し、グローバルなUVインキの事業拡大を進めた。またブラジルや、インドでの新工場の稼働により供給体制の整備も進んだ。価格改定を実施したが、先行費用の発生や原材料価格の高止まりで増収減益となった。
 
 
現預金、売上債権増などで流動資産は前期末に比べ111億円増加。固定資産は建物及び構築物、投資有価証券の増加などで同165億円増加し、資産合計は同276億円増加の3,642億円となった。
短期借入金の減少、長期借入金の増加で負債合計は同5億円増加の1,505億円。
純資産は利益剰余金及び円安に伴う為替換算調整勘定の増加などで同271億円増加の2,137億円となった。
自己資本比率は前期末の53.7%から3.2ポイント上昇し、56.9%となった。
 
 
利益の増加、のれん償却額の増加、退職給付信託返還額の発生などで営業CFのプラス幅は拡大した。
有形固定資産及び有価証券の取得による支出は増加したが前期にあった連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出がなくなり投資CFのマイナス幅は縮小した。この結果フリーCFのプラス幅も拡大した。
短期借入金の減少、長期借入金による収入額の減少により財務CFのマイナス幅は拡大した。 キャッシュポジションは上昇した。
 
 
2016年3月期業績見通し
 
 
増収増益を予想
売上高は前期比4.6%増の3,000億円を計画。全セグメントにおいて増収を見込む。
営業利益は同9.8%増の200億円の予想。海外インキ市場の需要拡大と新拠点における販売強化による数量増効果(18億円)、原材料価格下落効果(10億円)、為替効果(8億円)などが、高機能製品出荷減(-10億円)、固定費増(-9億円)を上回る。色材・機能材関連以外は2桁の増益を見込んでいる。
配当は0.50円/株増配の15.00円/株を予定。予想配当性向は37.3%。

今期のグループ経営方針として、以下の3点を掲げている。
1.イノベーションの連続的打ち出しとマーケティング力の向上に努める。
2.グローバルネットワークを攻めと守りの両面から強化する。
3.経営資源の価値向上、グループ各社の価値増大を図る。


中期経営計画最終年度となる来期の、売上高3,600億円、営業利益360億円、当期純利益200億円という目標に向け、海外生産の加速、製品開発力の強化によって上積みを図る。
 
 
☆色材・機能材関連事業
増収・減益を計画。
「カラーフィルター事業に次ぐビジネスモデルの創出」をテーマとする。
重点施策として、①新製品・新素材・新ビジネスモデルの創出、②生産プロセス・ビジネスモデル改革による収益改善、③開発スピードアップによる競争力の向上を掲げている。
表示材料に関しては、液晶市場は今期も5%程度の伸びを見込んでおり、用途拡大を進めると共に、中国市場の成長に合わせた経営資源のシフトを進める。
 
☆ポリマー・塗加工関連事業
増収・増益を計画。
「成長戦略の3本柱であるエレクトロニクス・エネルギー・ヘルスケアの高付加価値品の拡販」をテーマとする。
重点施策として①成長戦略の推進、②事業基盤の強化を掲げている。
川下分野への本格展開、グローバルSCMの強化、技術ネットワークのグローバル拡充を進める。
製品としては、電磁波シールドフィルム、光学フィルム関連製品、UV製品の拡販に力を入れる。
 
☆パッケージ関連事業
増収・増益を計画。
「拡大する新興国のパッケージ需要の取り込み」をテーマとする。
重点施策として、①販売強化、②事業基盤の強化を掲げている。
中国、インドを中心としたアジアにおけるグラビアインキの販売強化や中国、ブラジルの海外新拠点の事業拡大による稼動率の向上を目指していく。製品としては、国内市場において環境対応型高性能ラミネートインキと表刷りインキの拡販などでシェア拡大を目指す。
 
☆印刷・情報関連事業
増収・増益を計画。
「新拠点における販売力強化と稼働率の向上」をテーマとする。
重点施策として、①販売強化、②事業基盤の強化を掲げている。
インド、ブラジルにおける事業拡大、グローバル対応による生産プロセスの標準化に取り組む。
国内市場は引き続き縮小が予想されるが、枚葉インキ(※)の新製品や高感度UVインキの拡販を目指す。
新市場であるトルコ、中央アジアへのマーケティングも強化する。
※:枚葉インキ:印刷機に1枚1枚が切り離されている枚葉紙をセットして印刷する枚葉印刷に使用するインキ。
 
 
今後の成長戦略
 
(1)中期経営計画SCC-III
同社は、SCC(サイエンスカンパニーチェンジ)と名付けた中期経営計画を2008年4月からスタートさせ、2014年4月からはその3期目にあたる「SCC-III エボリューションプラン」(2014年4月から2017年3月)が始まった。
 
 
◎事業ドメインと技術プラットフォーム
SCC-IIIにおいては、「スペシャリティケミカルメーカーからサイエンスカンパニーへの変革」を標榜しており、そのために、3つの事業ドメインと、5つのテクノロジープラットフォームを定め、ホールディングスの持つ研究所「グループテクノロジーセンター」と国内外グループ各社の事業部門が連携して、基礎研究や製品開発を行っていく。
 
<事業ドメイン>
それぞれの事業ドメインには注力すべき重点分野を設定し、時代の変化や市場のニーズに合わせた製品を継続的に開発し、提供する。現時点での進捗は様々であるが、『サスティナビリティーサイエンス』における二次電池関連部材の開発は今期より実績が出始めているという。
 
 
<TPF(テクノロジープラットフォーム)の拡張>
TPF(テクノロジープラットフォーム)とは、新たな開発を進める際の基礎・基盤となる技術集積および基盤技術の事を言う。
同社では、現有素材をスペシャリティ素材へと進化させる『スペシャリティマテリアル』、スペシャリティ素材に独自の加工技術で高機能化・高付加価値化を施す『素材プロセッシング』、多様化・高度化市場ニーズに合わせ素材を加工する『部材コンバーティング』の従来の3つのTPFから発展させ、より顧客に近い視点から製品の検証を行い、開発に反映する『モジュールデザイニング』、意匠性、設計、組み合わせなどの提案を行いながら、利用者にとって価値のある製品を作り上げる『ソリューション』の2つを加え5つのTPFに拡張した。
 
 
◎事業セグメント別施策
4事業セグメントをバランスよく拡大させることを目指している。
現在営業利益の約4割を占める液晶用カラーフィルター材料を中心とした「色材・機能材関連事業」は、成長性は高い反面、景気動向に影響される部分が大きい。これに対し、印刷インキはさほど大きな成長は期待できないものの、好不況の波は小さい。印刷・情報、パッケージセグメントを海外、特に新興国市場の開拓を「地産地消」により進めて安定収益のベースとしつつ、色材・機能材、ポリマー・塗加工セグメントで高付加価値の新製品を開発・販売し成長を追求してゆく。
 
 
 
◎海外展開
SCC-IIIでは海外売上高比率50%を目指している。(2015年3月期43%)
インドおよびブラジルの印刷インキ現地生産体制は前中計期間中にほぼ完成した。今期以降は生産量拡大を加速させると共に、アジア地域やアメリカにおける接着剤の生産・販売を強化し多角化を進める。
また、新市場開拓においては、メコン川流域やメキシコでのマーケティング、将来的な現地生産を視野に入れたトルコでの営業を展開する。
新興国市場においては、国内同様のハイスペック製品に加え、高品質・環境対応といった同社ならではの特長付けをしたミドルスペックのボリュームゾーン製品もコストダウンを図りながら拡販に取組んでゆく。
また、先進国においては日本製印刷機械の導入が欧米で伸びていることから、同社が強みを持つUVインキの拡販に努める。2013年4月に子会社化したアレッツインターナショナル株式会社(現東洋アレッツインターナショナル株式会社)が強みを持つパッケージ用UVインキも強力な武器となる。
 
◎経営基盤の強化
上記のような事業拡大に取り組むと同時に、コストダウンを中心とした「モノづくり強化」、CO2排出量削減などの「環境経営促進」、ダイバーシティ拡大による「人材の育成・活用」、グローバルレベルでの統合システム導入による「経営効率化」など、経営基盤の強化にも努める。
 
 
(2)投資家へのメッセージ
当社は経営理念にあるように生活文化創造企業として常に生活者の視点に立った製品開発を目指している。
当社の名前をご存じなくても、身も周りの様々な場面で当社製品が使われている事を是非知っていただきたい。
今後も単にインキメーカーとしてではなく、サイエンスカンパニーとして当社の顧客企業のさらに先を見据え、世の中に不可欠とされる製品バリュエーションの幅を拡大していく考えだ。
また、行動指針に昨年より「株主価値の向上」を新たに加えたように、企業、社員の意識変革も大きく進んでいる。
新製品開発と海外展開により着実な成長を目指していく当社を、是非中長期の視点で応援していただきたい。
 
 
今後の注目点
 
「印刷」と一言だけを耳にすると、デジタル化による強い向かい風というイメージを持つ。日本国内の新聞や雑誌の発行部数の減少を見れば当然であるが、市場環境の項目で述べたように、出版印刷が持続的な下降局面にあるのに対し、商業印刷は横這いで、包装印刷は堅調な伸びを見せている。また生産金額を見ると、商業印刷は出版印刷の約2倍、包装印刷は出版印刷を追い越している。
確かに「印刷」分野において日本市場は大きな成長は見込み難いが、製品力と技術提案力によってシェアを拡大させることで安定的に利益を確保することが出来る市場であると言えるだろう。一方海外に目を移すと、新興国では生活水準の高まりとともに、特に食品包装などの分野で成長が期待できると言える。
ただ、投資家はさらに高い成長を求めていることも確かである。また、色材・機能材セグメントの営業利益が全体の約4割を占めるという事業構造も低PER,PBRの一因でもあろう。その点で、特に海外売上の拡大や、同社がもつ素材・技術力を活かしたエネルギー関連やヘルスケア関連製品の展開など、液晶用カラーフィルター材料に次ぐ利益の柱がどのように立ち上がってくるのかを注目したい。