ブリッジレポート
(6090:東証マザーズ)ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ 企業HP
菅野 隆二 社長
菅野 隆二 社長

【ブリッジレポート vol.6】2016年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「前回のレポートでは、「前期中の実現を見込んでいた大うつ病性障害バイオマーカーの酵素法検査キット開発のマイルストーン獲得は今期にずれ込・・・」続きは本文をご覧ください。
2016年1月26日掲載
企業基本情報
企業名
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
社長
菅野 隆二
所在地
山形県鶴岡市覚岸寺字水上246-2
事業内容
代謝成分の網羅解析技術で創薬等研究開発を支援。バイオマーカー探索から診断薬開発も
決算期
3月末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2015年3月 686 -100 -17 -34
2014年3月 610 -12 5 1
2013年3月 496 -104 -93 -95
株式情報(12/9現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
866円 5,333,200株 4,618百万円 -2.2% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
0.00円 - 2.26円 383.2倍 297.51円 2.9倍
※株価は12/9終値。発行済株式数は9月30日現在。ROE、BPSは前期末実績。
 
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社の2016年3月期第2四半期決算概要等についてご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
研究機関や製薬企業等のメタボローム解析試験受託及びバイオマーカー開発を中心事業として展開する慶應義塾大学発のベンチャー企業。バイオマーカーを探索する基盤技術であるメタボローム解析技術で世界的に高い評価を受けている。メタボローム解析事業により着実に利益を生み出すと同時に、将来性豊かなバイオマーカー事業への投資および研究開発を進めるというビジネスモデルにより、安定した収益基盤の下で成長を目指している。
 
 
2001年慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授は、CE-MS法と呼ばれる生体内の低分子代謝物質(メタボローム)の測定方法を開発した。このメタボローム測定法は、それ以前の測定方法が多くの測定条件を用いるため、代謝物質全体を網羅的かつ効率的に測定することが困難だったのに対し、一斉に、かつ、網羅的に測定できる点で画期的な技術であった。

以前よりメタボローム解析技術は、生物学基礎研究から医薬品開発、疾病バイオマーカー開発等に用いられており、その社会的ニーズの拡大が見込まれていたため、このCE-MS法確立を契機に、事業化を目指して、曽我教授や同大学の冨田勝教授、慶應義塾大学等が中心となり、2003年7月に同社を設立。慶應義塾大学のアントレプレナー支援資金制度により出資を受けた慶應義塾大学発ベンチャー企業の第1号となった。

2008年には、ライフ・サイエンス分野で用いられる化学分析機器や電気・電子計測機器の開発・製造・販売・サポートを行う世界的企業Agilent Technologiesの日本法人で、以前より同社及び慶應義塾大学と取引のあった、アジレント・テクノロジー株式会社の代表取締役副社長の菅野 隆二(かんの りゅうじ)氏が社長に就任。
菅野社長は就任後、同社のコア技術に関する研究開発を進めつつ、より具体的な事業化の道やビジネスモデルの整備・構築に着手すると同時に、認知度向上と研究開発資金の調達による成長スピードの加速を目指して株式上場の準備を開始。2013年12月、創立10年目に東証マザーズに上場した。
 
【企業理念】
同社は自社の存在意義を以下の様に定めている。
「未来の子供たちのために、最先端のメタボローム解析技術を用いた研究開発により、人々の健康で豊かな暮らしに貢献する」
また、以下の5つの「共有の価値観」を掲げている。
 
【同社を見るポイント】
同社の事業内容は、重要なキーワードである「メタボローム解析」「バイオマーカー」の説明と共に、以下に記しているが、多数の専門的な用語も出てくるため、そこから読み始めると同社に対する理解が進みにくい場合があると思われる。
そこで、まず同社を見る際の3つのポイントについて簡単に触れておく。
 
①社会的存在意義の大きさ
バイオマーカーとは、特定の病気に関する現在の状態を測定する際に使われる体内の物質で、糖尿病の「血糖」、肝機能障害の「γ−GPT」、痛風の「尿酸」などが代表的。
同社は現在大きな社会問題となっている「大うつ病性障害」のバイオマーカーを発見し、その数値を簡便に測定する診断薬を開発している。
うつ病の患者数が年々増加傾向にあるのに対し、現在の病状を客観的に測定する方法が普及していないため、正しい治療を行えば治癒するはずの患者が治らなかったり、薬漬けになるなど大きな問題が指摘されている。
同社のバイオマーカーや診断薬が普及すれば、うつ病によるこれらの課題を解決し、社会的損失を減少させることが出来る。
この社会的な存在意義の大きさは同社を見る際に欠かすことはできない。
 
②高い技術力
複雑な人間の体の仕組みを調べ、バイオマーカーを発見するための技術が「メタボローム解析技術」であり、同社はこの技術で世界的に高く評価されている。
現在話題になっている大うつ病性障害のバイオマーカーは、あくまでも一例にすぎず、メタボローム解析技術により今後も、様々な新しいバイオマーカーを発見・開発することが期待される。
 
③安定したビジネスモデル
現時点での主力事業は売上の約8割強を占める「メタボローム解析事業」。研究機関や製薬会社等の研究開発を支援する事業であり、前2015年3月期で売上566百万円(前期比+9.7%)、営業利益313百万円(同+0.9%)と、着実に利益を上げている。
一方、中長期的に大きな成長が期待される「バイオマーカー事業」はまだ規模も小さく、損失の状況だが、メタボローム解析事業で生み出した利益を、バイオマーカー事業の成長のための投資に回すという、バランスのとれたビジネスモデルが既に構築されている点は、収益化に苦労している企業が多いバイオベンチャーの中でも大いに注目される。
 
【うつ病について】
同社の今後の成長ドライバーである「バイオマーカー事業」において、現在の代表的な対象疾病がうつ病である。うつ病および大うつ病性障害について、概要や日本における現状などをまとめてみた。
 
◎うつ病とは
気分障害の一種で、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、様々な理由から脳の機能障害が起きている状態。脳がうまく働いてくれないので、ものの見方が否定的になり、自分がダメな人間だと感じてしまう。そのため普段なら乗り越えられるストレスも、よりつらく感じられるという、悪循環が起きる。
中でも、「大うつ病性障害」は、ストレス源が除去された後もその状態が持続する状態を指し、その点で適応障害や一部の不安障害とは区別され、単純なストレス応答ではなく、脳機能の障害によると考えられている。
(ちなみに、大うつ病性障害とは、英語の「major depressive disorder」の和訳で、majorは「主たるもの」という意味合いであり、重篤なうつという意味ではない。)
 
◎日本におけるうつ病患者数
厚生労働省が3年ごとに全国の医療施設に対して行っている「患者調査」によると、1996年には43万人だったうつ病等の気分障害の総患者数は、2011年には95万人と15年間で2.2倍に増加した。
「患者調査」は、医療機関にかかっている患者数の統計データだが、うつ病患者の医療機関への受診率は低いことがわかっており、実際にはこれより多くの患者がいることが推測されると、と同省は記している。
 
 
また、うつ病患者は、一般的に女性、若年者に多いとされるが、日本では中高年でも頻度が高く、うつ病による社会経済的影響が大きい。
うつ病になる事は本人や家族にとっても不幸なことであるが、その属する会社等組織における生産性の低下や、自殺による社会的影響などを考慮すると、解決すべき大きな社会問題である。
 
◎うつ病の治療
うつ病と診断されれば、一般的には「抗うつ薬」による治療が行われる。
抗うつ薬には、SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)といったものから三環系抗うつ薬などいくつかのグループがあり、他に、症状に合わせて抗不安薬や睡眠導入剤なども使われる。
薬物治療では、主治医による処方された薬の効果と副作用についての説明の下、処方された量と回数を必ず守ることが重要と言われている。しかしうつ病患者には、症状がそれほど重くないと感じる、副作用が心配、などの理由から自分で量や回数を勝手に減らすケースが多く見られ、主治医は十分な効果が得られないと判断して薬の量を増す、もしくは別の薬に変えるなどの対応を取ることとなってしまい、信頼関係が構築できず治癒が遅れたり、過剰な薬の投与という結果に結び付いてしまう事も多い。
このため、うつ病であることまたは治癒されたことを示す客観的な評価基準が不可欠であり、同社が発見・開発中の大うつ病性障害バイオマーカーおよび診断薬は治療を迅速かつ適切に行うために極めて重要なものである。
 
【メタボローム解析とバイオマーカー】
同社の事業内容の概要を理解するには、「メタボローム解析」「バイオマーカー」という2つのキーワードについて一定程度の理解をしておく必要がある。
 
<メタボローム解析とは?>
人間をはじめとする生物は、筋肉や臓器、骨といった多様な機能を持つ器官から成り立つが、こうした器官はアミノ酸や脂質、核酸などの「代謝物質(メタボライト)」を共通の構成因子としており、代謝物質は全ての生命活動において欠かせない役割を担っている。

代謝物質は食事により供給され、運動など日々の活動の中で消費される。その機能に応じて体内や細胞内を移動し、多くの化学反応によって新しい物質へと作り替えられていく。
このような化学反応のことを「代謝(メタボリズム)」と呼ぶ。体温を調節したり、呼吸をしたり、心臓を動かしたり、食べ物を消化・吸収したり、古い細胞を新しい細胞に生まれ変わらせたりするのも、全て代謝の働きによるもの。
この新しい物質への作り変え「物質変換」は代謝経路という一定の規則により成り立っている。

人間の体の仕組みを探るための手法として有名なものが、遺伝子の解析を行う「ゲノミクス」である。
現在、生物の遺伝子情報(DNAの塩基配列)は自動的な解読およびコンピュータによる解析が可能になり、ヒトゲノムに関しては、ほぼ全ての情報の解読が終了したが、遺伝子の役割と病気との関係は解明できていない部分がまだまだ沢山ある。
そこで、人間の身体と病気との関係を解明するには、ゲノム解析による遺伝子に伴う情報のみでなく、代謝物質までを調査する事が必要であると考えられるようになり、全ての代謝物質を対象として解析を行う「メタボロミクス(メタボローム解析)」の研究、利用が盛んになっている。
 
メタボローム解析は主として以下のような分野で活用されている。
 
<バイオマーカーとは?>
人間の身体には、様々な機能を精緻に制御して、内的又は外的な影響を最小限にして、身体の状態を一定に保つ仕組みである「恒常性」が備わっている。
例えば、体温や心拍数が一時的に変化しても元に戻るという事などが「恒常性」の一例である。

しかし、病気に罹ってこの恒常性に異常が生じると、代謝物質等にも影響が及び、健康の時とは異なる状況が生まれる。この代謝物質等をバイオマーカーと呼び、バイオマーカーを測定することにより、特定の疾患に対する現在の状況を客観的に評価することができる。
バイオマーカーとして広く知られているものとしては、膵臓の機能指標となる血糖や肝機能の指標となるγ−GPT、腫瘍マーカーとして前立腺がんのバイオマーカーPSAや膵臓がんのバイオマーカーCA19-9などがある。

バイオマーカーは、病気に罹った状況をモニターすることを目的に古くから研究されてきたが、より高感度で一度に多くの物質を分析できる新しい方法が生み出され、様々な新しいバイオマーカーの研究成果が相次いで発表されている。メタボローム解析技術により、探索が進んでいるバイオマーカーには、以下のようなものがある。
 
 
【事業内容とビジネスモデル】
同社の代表的事業は「メタボローム解析事業」「バイオマーカー事業」の2つ。
基盤技術であるCE-MS法の優秀性を研究機関や製薬会社等に普及させながらメタボローム研究関連市場の拡大を図り、メタボローム解析事業を国内外へ展開し、収益基盤を確保している。

一方で、現在の主力事業である「メタボローム解析事業」で得られた利益を、将来の成長事業である「バイオマーカー事業」の研究開発に投資し、ここで得られた知的財産を、医薬品開発や疾病診断分野で実用化することによる、中長期的な成長を目指している。

それぞれの事業の収益構造や顧客は以下の通り。
 
 
①メタボローム解析事業
「2015年3月期 売上高 566百万円、営業利益 313百万円」
製薬会社や食品会社等の民間企業、および大学や公的研究機関などを顧客とし、メタボローム解析試験を受託している。
顧客は、解析する試料を同社へ送付。同社は試料から代謝物質の抽出、CE-MS法によるメタボローム解析等を行った後、試験結果を報告書として顧客に納品する。
メタボローム解析サービスで得られた代謝物質データは、製薬企業や大学、研究所では基礎生物学研究から薬剤効果及び毒性の評価等、食品企業では発酵プロセスの解析や機能性食品の機能評価等に用いられ、顧客の研究開発の進展に貢献している。
 
◎海外市場への展開
メタボローム解析受託サービスをアジアで展開するため、2011年6月に、韓国Young In Frontier Co., Ltd.と韓国内におけるメタボローム解析サービス等の独占的販売権供与契約を締結した。また、北米市場への展開のため、2012年10月には、医学研究の集積地である米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市に、販売子会社Human Metabolome Technologies America, Inc.を設立し、がん研究向け解析サービスC-SCOPEを主力商品として販売活動を展開している。販売促進活動の一環として、有力大学のがん研究者に同サービスを無償もしくは安価で提供し、技術的な評価を得て、北米市場への早期浸透を図っている。
 
◎がん研究向け解析サービス「C-SCOPE」
2012年8月、がん研究向け解析サービスである「C-SCOPE」を発表した。
C-SCOPEは、がん細胞内で変化している特定の代謝物質を、より高感度、より精密に測定するというニーズに対応したもの。独自に開発したがん細胞からの効率的な代謝物質抽出法および高感度分析法を技術基盤としている。

がんは1981年以降国内死因の第1位であり近年総死因の約3割を占めている。厚生労働省によると、がん研究費は年々増加の一途をたどり2012年には357億円が費やされ、有効な新規抗がん剤の開発は多くの製薬企業にとっても急務となっている。
がん細胞が正常細胞に比べて数倍から数十倍のブドウ糖を消費する「ワーバーグ効果」と呼ばれる現象は、80年以上も前に提唱されたが、当時は代謝物質の網羅的測定法が無かったことから研究が滞っていた。
メタボローム解析技術の劇的な進歩に伴い、近年がんの代謝を阻害する抗がん剤の開発が行われている。
同社のCE-MS法によるメタボローム解析は、がん生物学的な基礎研究から抗がん剤開発における臨床応用まで、それぞれの段階で活用できる有効な解析手法の一つと考えられている。
 
②バイオマーカー事業
「2015年3月期 売上高 20百万円、営業損失 81百万円」
同社は、疾患の早期診断や治療効果をモニタリングする際に重要な役割を果たすバイオマーカーに関する事業を将来の成長事業と位置づけ、大学や製薬、診断薬企業との共同研究開発を通じて、メタボローム解析技術を用いた新たなバイオマーカー探索や臨床検査薬の研究開発を進めている。
バイオマーカーの診断法を開発し、診断薬企業と協力して体外診断用医薬品として上市することや、製薬企業が行う新薬や既存薬適応拡大を目的とした臨床試験にその体外診断用医薬品を導入することを通じて得られる研究開発に係る協力金、医薬品が上市された時の製品売上ロイヤリティが同事業の売上となる。
 
◎知的財産に関する方針
知的財産権・契約担当者が、同社及び共同研究機関の指定特許事務所の弁理士と密接に連携し、すべてのプロジェクトの特許出願、審査請求業務を遂行する他、共同研究における契約の交渉及び契約書類の作成も担当している。発見された疾病バイオマーカーの特許化については、最大限の権利を行使できるよう努めている。
疾病バイオマーカーにより権利範囲が異なるため、発見された疾病バイオマーカーの化学構造を始めとして、診断や創薬での利用法、検出法と測定機器などを広く網羅するように特許出願書類を作成している。
また、各国の臨床検査薬と検査機器企業、製薬企業に関する情報に基づいてライセンス契約先及び市場を想定し、特許協力条約に基づく国際出願を行うことを原則としている。
 
◎バイオマーカー事業の例:大うつ病性障害バイオマーカー
同社では、特にうつ病など客観的診断が難しい中枢神経系疾患(気分障害や精神障害等)や、肝炎、糖尿病などを含んだメタボリックシンドローム等社会問題化している疾患とその関連疾患に焦点を当てて研究開発を進めているが、現在の代表的なものが、「大うつ病性障害」のバイオマーカーである。

大うつ病性障害の診断は、米国精神医学会の診断基準や世界保健機構(WHO)の基準に基づいて診断されるが、どちらの手法も医師や患者の主観が反映されているケースが多く、他の病気と異なり客観的な指標に基づく診断法が普及していない。
そこで、同社は、独立行政法人国立精神・神経医療研究センターとの共同研究により、大うつ病性障害の血液バイオマーカーを発見した。
患者と健康者約30名ずつの血液を収集し、CE-MS法を用いたメタボローム解析により成分の比較を行った結果、血漿中のリン酸エタノールアミン(PEA)濃度が、大うつ病性障害患者で固有に低下していることが分かった。
その後の解析により、PEAが精神疾患の中でも大うつ病性障害に特異的なバイオマーカーであることに加え、大うつ病性障害が治癒すると健康基準値まで戻ることも分かった。
 
 
なお、大うつ病性障害バイオマーカーに関しては、2013年9月に特許「うつ病のバイオマーカー、うつ病のバイオマーカーの測定法、コンピュータプログラム、及び記憶媒体」及び2015年1月に「エタノールアミンリン酸の測定方法」がそれぞれ日本で成立している。また、海外においては2015年2月に“Biomarker of depression, method for measuring biomarker of depression, computer program, and recording medium”が米国で成立している。
 
◎疾病バイオマーカーの発掘
バイオマーカーの発見において以下の3つのコネクションや制度を活用し、バイオマーカー開発パイプラインの拡充に努めている。
 
<受託解析もしくは共同開発顧客とのコネクション>
大学や企業から、バイオマーカー探索関連試験を受託している。また、試験実施の前後で共同開発の提案を受けることもある。
現在、糖尿病性腎症バイオマーカーの共同開発を進めている。
 
<研究者や医師への直接提案>
同社の研究員が、疾病バイオマーカー開発の研究計画を直接研究者や医師に提案し、医師の承諾及び所属機関と共同研究契約を締結の上、試験を実施している。対象となる疾病は患者数、同社解析技術の特長、社会貢献度、バイオマーカーの必要性等から選択している。大うつ病性障害のほか、非アルコール性脂肪性肝炎、繊維筋痛症のバイオマーカー開発を行っている。
 
<メタボロミクス先導研究助成制度>
同社ではメタボローム解析の有用性を広く社会に利用してもらうとともに、若手研究者の育成のために、大学院学生へのメタボローム解析助成制度(HMTメタボロミクス先導研究助成制度)を実施している。世界各国の大学院生から募集した研究テーマから、優れた提案に対し、無償でメタボローム解析結果を提供して研究を支援しており、過去4年間に14名の大学院生が表彰された。この研究成果には、バイオマーカー発見につながる研究も含まれ、感染症関連脳症バイオマーカーのように、同社と共同研究に発展した例もある。
 
 
 
2016年3月期第2四半期決算概要
 
 
増収も成長に向けた投資増で損失続く
売上高は前年同期比23.7%増の299百万円。メタボローム解析事業が国内外共に引き続き堅調だった。
営業及びバイオマーカー事業担当者など成長のための人員増(+3.1百万円)や研究開発投資増(+8百万円)など、販管費は増加し、引き続き営業損失となった。売上はほぼ計画通りで、損失幅は計画を下回った。
 
 
大口案件の獲得に積極的に取組んだほか、セミナー等を68回開催し医薬分野での販促に注力した。
米国ではDMや学会でのプロモーション活動に取り組んだ結果、SCOPEシリーズを中心に販売が好調だった。
ただ、大口受注が第3四半期にずれ込んだため、受注高、受注残高共に前年同期を下回った。
 
 
共同研究を進めてきたシスメックス(6869、東証1部)とライセンス契約を締結した。
大うつ病性障害の有償検査を行うことを目的としたうつ病臨床検査受託の拡大に取り組んだ。
 
 
現預金の減少等で流動資産は前期末に比べ2億円減少した一方、投資有価証券の取得により固定資産が同85百万円増加し、資産合計は同1億15百万円の減少。買入債務および長短借入金の減少等で、負債合計は同13百万円の減少。利益剰余金のマイナス幅が拡大し純資産は同1億2百万円減少した。
この結果、自己資本比率は前期末の90.9%から91.1%に上昇した。
 
 
売上債権が減少から増加に転じたこと、仕入債務が減少に転じたこと等から営業CFのマイナス幅は拡大した。
投資有価証券を取得したため投資CFのマイナス幅も拡大した。
新株予約権の行使に伴う株式の発行による収入が減少したが、長期借入金の返済額が減少し財務CFはほぼ変わらず。キャッシュポジションは低下した。
 
 
2016年3月期業績予想
 
 
業績予想に変更無し。増収で黒字転換を目指す。
業績予想に変更は無い。売上高は前期比3割増の9億円の予想。メタボローム解析事業での大型案件獲得を見込んでいる。
人員獲得、研究開発など成長投資を継続する。メタボローム解析事業の売上・利益増、バイオマーカー事業の損失縮小で黒字転換を計画している。
 
 
外部環境は良好
食品の機能性表示制度(※)の施行に伴い、分析結果を必要とする企業のメタボローム解析需要が増大することが予想されるほか、健康長寿につながる食と健康や予防医療に関する研究分野の予算が増大している。
また、国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」(※)の発足により、新薬創出支援と革新的医薬品などの開発が推進される体制が構築されつつある。
加えて、がん研究の分野においては、米国におけるがん研究費は日本の約18倍と、同社が手掛けるがん研究向け解析サービス「C-SCOPE」の北米における開拓余地は極めて大きく、同事業を取り巻く外部環境は良好である。
 
※食品の新機能性表示制度
2013年6月、日本再興戦略において規制緩和の一環として「国民が自らの健康を守るための的確な情報提供と、農産物の海外展開を視野に入れ、諸外国よりもわかりやすい機能性表示を促す仕組みを作る」ことを目的に、特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品に続くカテゴリーとして新設された制度。安全性や機能性について一定条件をクリアすれば、企業や生産者の責任で「体のどこにいいのか」や「どう機能するのか」を表示できるようになる。トクホ表示の取得には、製品そのものでの臨床試験が必要なため、費用や時間の面で負担が大きかったが、新制度では食品や機能性関与成分の研究論文の分析結果(システマティックレビュー)で十分なため企業負担は少ない。

※日本医療研究開発機構
「医療分野研究開発推進計画」に基づき、再生医療、がん、認知症など9つの分野を中心に医薬品や医療機器の分野で基礎研究の成果の実用化を加速させ、世界トップ水準の治療技術の実現を図るために発足した組織。文部科学省、厚生労働省、経済産業省の予算約1,400億円超を管理し、研究者たちに戦略的に配分する。
 
下期以降の取組み
アジア専任の営業スタッフを採用した結果、シンガポールを中心に開拓が進んでいる。引き合いが増加しており、包括契約も視野に入れて活動し、アジアマーケットの深耕を進める。
営業と学術営業の連携によるセミナーを前年同期の51回に対し、今上半期は68回開催した。多くのリード案件を獲得できたので、下期の受注に繋げる。
米国子会社は営業担当者採用効果で、今上期の受注額は前年同期比195.3%増と大幅に増加し、前期1年分を既に超過した。NIH(アメリカ国立衛生研究所)を中心に販促が順調に進んでいる。重点エリアを定めて知名度向上を図り、「C-SCOPE」の販売を拡大する。
引き続き国・政府の補助金が付く案件に参画して大型案件・包括契約の獲得を目指す。
ヨーロッパへの展開、解析業務の生産性改善による収益性の改善などにも取組んでいく。
 
 
うつ病血液マーカー診断キットの製品開発に着手
2015年9月28日、うつ病血液マーカー診断キットの製品開発に関し、シスメックス株式会社と特許通常実施権許諾契約を締結した。契約期間は特許満了までの約20年間。

前期にシスメックス社へ診断キットの仕様書を提出した後、今第1四半期には技術的に残された課題を解決し、ライセンス優先交渉期間中にライセンス契約を締結した。今後は引き続き事業化を推進する。
同契約の意味するところなど詳細は、「菅野社長に聞く」で後述する。
 
うつ病臨床検査の拡大による収益基盤の形成
うつ病バイオマーカーの認知度向上とこれを利用した大うつ病性障害の有償検査による事業機会の拡大のために、専門病院との連携による、うつ病臨床検査の受託を前期より開始した。
東横惠愛病院を含め関東圏で3病院と契約を締結している。プロトコルの手間など事業化スピードの点で課題はあるものの他の専門病院との提携を拡大し、引き続き検体数の増大、研究の深化を図り、収益基盤の強化を進める。
 
 
菅野社長に聞く
 
菅野 隆二社長に、両事業の概況、今後のビジョン等を伺った。
 
<大きく動き出したバイオマーカー事業>
シスメックス社とのライセンシング契約締結は、バイオマーカー事業の今後において極めて重要な一歩となる。同社とはこれまでうつ病血液マーカー診断キットの開発および事業化に関し様々な議論を進めてきた。結果的には当初の構想とはやや異なった契約内容となったが、当社としては2つの点で大変満足のいく契約を結ぶことが出来たと考えている。
先ず第一は、売上高2,600億円を超す日本を代表する検査機器・診断薬メーカーのシスメックス社に当社のバイオマーカーについての知見やノウハウが高く評価されたことだ。
そしてもう一つは、バイオマーカー事業に関する今後の事業戦略において、主体的かつ自由度の高いポジションを手に入れることが出来た点だ。
現在うつ病患者は日本全国で約100万人、うつ病も含めた精神疾患患者は約340万人いると言われている。当初は問診という既存のうつ病診断の補助手段としてこの100万人が対象となるが、うつ病と他の精神疾患との鑑別、薬剤の選択や投与・中止時期の判断など、治療のモニタリングが行われる中で検査対象患者数は拡大する。
さらに、次のステージでは患者の検査ではなく、健常者を対象とした健康診断検査にも用いられることとなるだろう。健康診断受診者数は約6,000万人であり、当社ではこのマーケットを最終的なターゲットとしている。
2015年12月1日から施行された改正労働安全衛生法(ストレスチェック義務化法)は、健康診断市場顕在化の大きなきっかけとなると思われる。また今年起こったドイツの民間航空機事故を契機に運輸会社等からの引合いも増えている。うつ病の社会問題化が一層深刻となる中で、同マーカーを使った健康診断市場は大きく成長するだろう。
また、海外のうつ病患者は3億人といわれており、とてつもない巨大市場が控えている。
当社は日本だけでなく米国、中国でもバイオマーカーに関する基本特許を登録しており、極めて大きなアドバンテージとなっている点も是非知っておいていただきたい。
 
 
 
こうした将来に向けた事業戦略やロードマップを当社自らが自由に描き、発表、実行することが出来るようになった点が今回の契約締結の最大の意義といえよう。
今期も事業化に向けた開発体制を整備するために、事業開発、臨床開発、製品開発担当者などを順次採用しているが、中でも臨床検査の測定体制構築は、当社自らが新たな事業領域を開拓する具体的なアクションの一つである。
今後はこうした自由度を持ちながら、シスメックス社とどのように協業を進めていくかも重要なポイントとなる。
 
<着実にスケールアップしているメタボローム解析事業>
日米とも案件の大型化が進んでいる。
まず日本では、メタボローム解析に国の予算が付き始めた。食品の機能性表示制度の施行に加え、TPP加盟を契機に日本の農産物の高付加価値化が求められている中で、品質や機能性を担保する客観的な情報としてのメタボロームの重要性が増している。
また、巨大な赤字を抱える医療保険財政の現状を踏まえ、「治療」から「健康・予防」に国民福祉の目標がシフトし、後者のための研究予算が拡大している点も大きい。
人間の身体の変化をモニターし、その時点のその人の状態を示すものがメタボロームだ。食事、運動、睡眠、ストレスで人間の代謝がどう変化するのかという研究の重要性がますます高まっている。
一方アメリカでは、がんに特化した市場開拓が順調に進んでいる。優秀な営業担当者を採用できたことも大きいが、加えてNCI(National Cancer Institute:国立がん研究所)で当社のがん研究向け解析サービス「C-SCOPE」が正式に認定されたことで当社の評価が一段と向上した点も見逃せない。
認知度、評価の向上とともに受注がスポットではなくトレンドとして増加しており、かつ大型化が進んでいる。
 
<現在の当社>
上場して2年が経ち、「バイオマーカー事業の始動」で、当社は今大きく変化する局面にある事を実感しており、ワクワクしながら日々ビジネスに取り組んでいる。
これまでの当社にはいなかったバイオマーカー事業のための優秀な人材を採用することが出来たこと、同事業において自由度を優先した今回のライセンス契約を締結することができたことが、この変化を生み出している訳だが、どちらも当社がベンチャーといえども上場企業であり、信用力の向上に加え、リスクを取った経営判断が可能であるため実現した。その意味で上場が成長のための重要なトリガーであることを改めて認識している。
うつ病バイオマーカーを自らの判断に基づくスピードとタイミングで世の中に送り出すことが出来るポジションにいる事は極めて重要だ。
「未来の子供たちのために、最先端のメタボローム解析技術をコアとした研究開発により、人々の健康で豊かな暮らしに貢献する」というビジョンの実現はもちろんだが、当社のうつ病バイオマーカーを日本発の世界のデファクトスタンダードとすることで日本人事業家としての誇りを世界に示したい。必ずや鶴岡に奇跡を起こす。
 
 
今後の注目点
前回のレポートでは、「前期中の実現を見込んでいた大うつ病性障害バイオマーカーの酵素法検査キット開発のマイルストーン獲得は今期にずれ込んでおり、今期どの時点で初めてのマイルストーンを獲得することが出来るか?に注目したい。」と書いたが、今回のシスメックスとのライセンシング契約締結は、当初の構想とは異なった着地となる。短期的な売上を取るか、それともフリーハンドを得て中長期的なより大きな果実を狙うのかという選択において後者を取ったという事を意味しており、同社の旺盛なチャレンジ意欲を示すものだ。
ただ株式市場は現時点ではその選択に厳しい評価を下した形となっている。今後は自由度を得た分、収益化に向けたより具体的な道程を示す必要があるだろう。一方で、バイオマーカー事業の将来性という夢の部分のみでなく、メタボローム解析事業の着実な拡大にもう少し注目してみても良いのではないかと考える。
 
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