ブリッジレポート
(5162) 株式会社朝日ラバー

スタンダード

ブリッジレポート:(5162)朝日ラバー vol.34

(5162:JASDAQ) 朝日ラバー 企業HP
渡邉 陽一郎 社長
渡邉 陽一郎 社長

【ブリッジレポート vol.34】2016年3月期業績レポート
取材概要「今年2月の16/3期決算予想の業績下方修正と中期経営計画(V-1計画)の見直し以降、株価が大幅に下落するなど株式市場における同社の評価が低下・・・」続きは本文をご覧ください。
2016年7月19日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社朝日ラバー
社長
渡邉 陽一郎
所在地
埼玉県さいたま市大宮区土手町2-7-2
決算期
3月 末日
業種
ゴム製品(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2016年3月 5,976 237 235 131
2015年3月 6,059 114 122 328
2014年3月 5,677 286 296 160
2013年3月 4,789 135 139 76
2012年3月 5,010 243 211 72
2011年3月 4,806 161 117 21
2010年3月 4,667 125 91 41
2009年3月 4,904 46 14 -80
2008年3月 6,284 414 325 211
2007年3月 5,314 399 375 176
2006年3月 4,578 366 353 209
2005年3月 4,057 251 251 147
2004年3月 3,449 233 211 112
2003年3月 3,154 172 159 75
2002年3月 2,907 98 85 10
株式情報(5/31現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
628円 4,471,308株 2,807百万円 3.7% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
13.00円 2.1% 34.44円 18.2倍 792.79円 0.79倍
※株価は5/31終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期実績。
 
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
小型電球やLEDに被せる事で様々な発色を可能にする被覆用ゴム製品を主力とする。自動車の内装用照明を中心に、携帯用通信機器、電子・電気機器、産業機器、スポーツ用等、幅広い分野で利用されている。シリコーン(ゴム状の合成樹脂)材料の配合技術と調色技術に強みを有し(色と光のコントロール技術)、シリコーンゴムに蛍光体を配合したLED用ゴムキャップは、LEDの光を波長変換して色調や輝度を調節できるため、10,000色以上の光を出す事やLEDの課題である光のばらつきを均一化する事が可能。また、医療・衛生用ゴム製品や硬質ゴムと軟質ゴムの複合製品等も配合技術を活かしてそれぞれの用途にあったゴム質を実現している。

グループは、同社の他、ゴム・プラスチック等の研究開発を行う(株)朝日FR研究所、米国の販売会社ARI INTERNATIONAL CORP.、及び工業用ゴム製品の販売を手掛ける朝日橡膠(香港)有限公司、10年7月に設立した工業用ゴム製品の製造・販売を手掛ける東莞朝日精密橡膠制品有限公司、及び12年1月に設立した工業用ゴム製品の開発・設計・販売を手掛ける朝日科技(上海)有限公司の連結子会社5社からなる。
 
 
 
 
【事業内容と主要製品】
事業は、自動車のスピードメーターや内装照明の光源向けの「ASA COLOR LED」や各種センサ向けのレンズ製品「ASA COLOR LENS」、或いは弱電製品に使われる応用製品、更にはスポーツ用ゴム製品(反発弾性、高摩擦抵抗等を追及した高品質の卓球ラケット用ラバー)等の工業用ゴム事業、点滴輸液バッグ用ゴム栓や真空採血管用ゴム栓、プレフィルドシリンジ(薬液充填済み注射器)向けガスケット等、使い捨てのディスポーザブル用ゴム製品の医療・衛生用ゴム事業に分かれ、15/3期の売上構成比は、それぞれ80.8%、19.2%。 今後は、RFIDタグ向け新製品、マイクロTAS製品などの新製品の販売拡大が期待される。
 
・ASA COLOR LED
ASA COLOR LEDとは、LEDの光と色のばらつきを解消する商品。青色LEDに蛍光体を配合したシリコーン製キャップを被せることで、自動車内装照明用に10,000色以上の均質な光を提供。
 
ASA COLOR LED
 
・医療用ゴム製品
点滴輸液バッグ用ゴム栓、真空採血管ゴム栓、薬液混注ゴム栓、プレフィルドシリンジ(薬液充填済み注射器)向けガスケットなど、医療現場で用いられるディスポーザブル商品に使用さる。安全性の高い材料を開発し、独自のコーティング技術で“漏れない”と“滑る”を両立し、注射速度の微妙な調節が可能。
 
プレフィルドシリンンジ向けガスケットのイメージ
 
・マイクロ流体デバイス
マイクロ流体チップは、ゴムと金属、ゴムと樹脂を接着させる技術で独自の積層流路を形成し、複雑な分析に対応可能。
 
 
・RFIDタグ用ゴム製品
RFIDタグ用ゴム製品は、溶剤を使わずに接着させる“分子接着・接合技術”を応用し、IC チップやアンテナ部をゴム素材で覆い、折り曲げに強く、耐水性、耐熱性に優れた、柔らかい小型のIC タグを提供。
 
RFIDタグ用ゴム製品イメージ
 
 
中期経営計画
 
新中期経営計画を策定するにあたり、独自の新製品開発による成長を描くため、中期3ヶ年の2回分である2020年を見据えたビジョン「AR-2020VISION」を制定。
AR-2020VISION
・技術革新を基盤に、新しい価値を創造し続ける企業になる。
・現在の仕事に慢心せず、常に変革を求め、経営環境の変化に応じ継続的に磨きをかける。
・人財こそが、事業運営の要とし、人材の育成を行う。
このビジョンの実現に向けて、最初のステージである15/3期~17/3期の中期経営計画(V-1計画)を作成。
中期経営方針として、①既存事業の質・量の持続的成長、②新市場・新分野への事業展開、③2020年に向けた事業基盤の強化と整備と定め、最終年度である17/3期に数値目標である、売上高80億円、営業利益8億円の達成を目指す内容といていた。
 
中期経営計画(V-1計画)の見直し
同社は、ライフサイエンス分野のマイクロ流体デバイス製品について、最終年度の連結売上高目標を12.5 億円としていたが、売上比率を高く設定していた主力案件の受注が大幅に少なくなる見込みとなったことや、他の開発案件の量産開始も遅れる見込みとなったことにより、2016年2月23日に中期経営計画(V-1計画)の見直しを発表した。
 
 
(1)今後の事業戦略と新しい売上目標
自動車分野
17/3期の売上高目標は当初の37億円から36億円へ修正。主力ASA COLOR LEDは、新タイプによる材料費削減で利益率を改善させる。加えて、接点ラバー、Oリングは、海外向けのスイッチ用ラバー、スイッチ用防水カバーの受注拡大を図る。
 
 
医療分野
17/3期の売上高目標は当初の13億円か11億円へ修正。プレフィルドシリンジ(薬液充填済み注射器)用ガスケットなどの拡大を図る。前期までに設備投資を行った分野であり、V-1計画では新製品の開発期間と位置付け、今後の成長に向けた要素技術の深を進める他、ライフサイエンス分野とのシナジー効果を生み出す。
 
 
ライフサイエンス分野
17/3期の売上高目標は当初の16.5億円から4億円へ修正。卓球ラケット用ラバーは、顧客の要求に着実に応えていく。マイクロ流体デバイスは、診断医療用チップを研究・開発する各社との事業化準備は継続的に進行中。中期V-1計画立案段階よりも2~3年ほど量産化時期が後倒しになっているものの、今期から一部の新規顧客と診断分野の製品で量産がスタートする予定。
 
 
その他分野
17/3期の売上高目標は当初の13.5億円から10億円へ修正。主力RFIDタグ用ゴム製品は、新タイプの生産がスタートし、今期は3.5億円の売上げ見通し。(前期実績3億円)。その他、白色レジストインクなどシリコーン応用製品の受注が増加する見込み。
 
 
 
2016年3月期決算
 
 
前期比1.4%の減収、同92.8%の経常増益
売上高は、前期比1.4%減の59億76百万円。売上面では、工業用ゴム事業の売上高が前期比0.9%減少。自動車内装照明向けのシリコーンゴムキャップ付きLED「ASA COLOR LED」の受注は16年3月期第2四半期から海外市場向けに受注が増加。一方、機能製品であるRFIDタグ用ゴム製品は新タイプへの切り替えに伴う顧客の在庫調整が長引いたため海外向けの受注が大幅に減少した。加えて、スポーツ用ゴム製品である卓球ラケット用ラバーの受注についても第3四半期以降回復基調にあるものの、第2四半期までの顧客在庫調整の影響で減少した。また、医療・衛生用ゴム事業の売上高も前年同期比3.3%減少。プレフィルドシリンジ用ガスケットの受注が堅調に推移したものの、採血用・薬液混注用ゴム栓の新機種切り替えによる受注調整により受注が減少した。
営業利益は、前年同期比107.4%増の2億37百万円。工業用ゴム事業のセグメント利益は、同27.0%の減益となった。RFIDタグ用ゴム製品と卓球ラケット用ラバーなどの売上減少が影響した。一方、医療・衛生用ゴム事業のセグメント利益は、各種の収益性向上の取り組みにより同1.3%増加した。RFIDタグ用ゴム製品などの収益性の高い製品の売上減少により売上総利益率は、24.1%と前期比1.8ポイント低下。一方、前期に計上した役員退職慰労金引当金繰入額が減少したことなどにより、売上高対販管費率が同3.9ポイント低下した。また、前期に特別利益に計上した受取保険金3億12百万円がなくなったことにより、親会社株主に帰属する当期純利益は同60.0%の減益となった。
 
 
15/3月期の特殊要因(販管費の役員退職慰労引当金繰入額等2億1百万円と特別利益の受取保険金3億12百万円)の計上がなかったと仮定した場合、各利益指標とも大幅な減益となった。
 
 
16/3期第4四半期は、ASA COLOR LED、卓球ラケット用ラバーなどの受注の増加と収益改善効果が奏功し、16/3期の中で最も売上高と営業利益の水準が高い四半期となった。
※15/3Qと4Qは、取締役2名逝去による役員退職慰労引当金繰入額等の特殊要因が影響。
 
 
 
海外売上は前期比22.0%の増加となったものの、国内売上が同4.9%減少した。
 
 
ASA COLOR LEDは、16/3期第2四半期から海外市場向けに受注が増加傾向。卓球ラケット用ラバーも、顧客の大幅な在庫調整により受注が減少したが、16/3期の下期から受注が戻ってきた。ディスポーザブル用ゴム製品は、プレフィルドシリンジ用ガスケットの受注は好調に推移したものの、採血用・薬液混注用ゴム栓の新機種切り替えによる受注調整により受注が減少した。RFIDタグ用ゴム製品は、新タイプへの切り替えに伴う顧客の在庫調整が長引いたため売上が大幅減少したものの、3月より新タイプの量産がスタートした。
 
 
売上高は、RFIDタグ用ゴム製品の受注が大幅に減少し減収となった。15/3期は、期中に逝去した取締役2名分の役員退職慰労引当金繰入額を販管費に計上していたため、16/3期は営業利益と経常利益が増益となった。一方、受取保険金を特別利益に計上していたことから当期純利益は大幅な減益となった。これら特殊要因を除くと連結業績同様に減収減益の内容であった。
 
 
朝日FR研究所は、研究を委託する会社であり影響は小さい。ARI International Corpは、自動車向けゴム製品の販売が主であるが、新規製品の採用拡大と北米市場の回復により売上高が回復。香港の貿易拠点である朝日橡膠(香港)有限公司は、RFIDタグ製品の日本向けの販売が減少した。一方、東莞朝日精密橡膠制品有限公司が収益性の改善により大幅な増益となった他、朝日科技(上海)有限公司も、現地企業への販売拡大により黒字基調が定着してきた。
 
 
16年3月末の総資産は15年3月末比3億36百万円減88億48百万円。資産面では繰延税金資産、未収入金等が、負債・純資産面では仕入債務や役員退職慰労引当金等が主な減少要因。
 
 
CFの面から見ると、前期と比較で、税金等調整前当期純利益や役員退職慰労引当金の減少などにより営業CFの黒字が縮小したものの、有形固定資産の取得による支出の減少などにより投資CFの赤字が縮小しフリーCF が黒字へ転換した。一方、長期借入金の返済の増加や自己株式取得による支出の拡大などにより、財務CFが赤字となった。
16/3期の設備投資は5億19百万円円(15/3期4億44百万円)、減価償却費は4億25百万円(同4億22百万円)。
 
 
2017年3月期業績予想
 
 
前期比3.7%の増収、同2.4%の経常減益予想
17/3の会社計画は、売上高が前期比3.7%増収の62億円、経常利益が同2.4%減益の2億30百万円。
売上面では、ASA COLOR LEDをはじめとした自動車関連製品、RFIDタグ用ゴム製品、卓球ラケット用ラバー、白色レジスト材などのシリコーン応用製品などの受注が増加する他、医療・衛生用ゴム事業の受注も増加する見込み。
利益面では、売上の増加による利益増加、継続した原価低減活動の実施によるコスト削減等により営業利益が増加する。売上総利益率は、0.5ポイント上昇の24.6%、売上高対販管費率は、0.2ポイント上昇の20.3%の会社前提。この結果、営業利益は、前期比14.0%増益の2億71百万円となる見込み。一方、為替差損等の影響により経常利益は減少する予想。
また、1株当たりの配当は、16/3期と同額の年間13円(上期末3円、期末10円)の計画。
 
 
 
新工場「白河第二工場」建設による設備投資額8億40百万円を計画。
今期の設備投資計画12億50百万円の事業分野別内訳は、自動車分野1億77百万円、医療分野1億25百万円、ライフサイエンス20百万円、その他分野50百万円、システム等37百万円、新工場8億40百万円。
また、法人別では、同社12億円5百万円、東莞朝日精密橡膠制品45百万円の予定。
 
(3)新工場「白河第二工場」の建設
2016年6月着工、2017年2月竣工の予定。「平成27年度福島医療・福祉機器開発・事業化事業費補助金」の補助対象事業として採択され、補助金の交付を受ける。医療分野向け解析・診断用製品が製造できる工場として完成させるとともに、医療機器やライフサイエンス分野への積極的な深耕により主力工場へ育てる計画。
 
 
白河第二工場の竣工により、今後、コア技術と生産場所の再配置が可能となる。今後の同社製品の付加価値と競争力の向上に貢献するものと期待される。
 
 
今後の注目点
今年2月の16/3期決算予想の業績下方修正と中期経営計画(V-1計画)の見直し以降、株価が大幅に下落するなど株式市場における同社の評価が低下している。期待されていたマイクロ流体デバイスの量産の後倒しにRFIDタグ用ゴム製品の販売不振が重なり厳しい内容と言わざるを得ない。しかし、こうした環境下にはあるものの、同社の第4四半期決算において明るい内容も確認できた。主力ASA COLOR LEDの受注が16/3期第2四半期から海外市場向けに増加に転じた他、卓球ラケット用ラバーも16/3期の下期から受注が回復している。更に、新タイプへの切り替えに伴う顧客の在庫調整が長引いていたRFIDタグ用ゴム製品も3月より新タイプの量産がスタートした他、白色レジストインクなどシリコーン応用製品の受注も好調となってきた。これら製品は収益性の高い製品であり、17/3期の業績回復へ寄与するものと予想される。一度下がった株式市場の評価を高めるためには四半期毎の決算でしっかりと期待以上の数値を上げることが要求される。主力製品の販売回復により業績回復傾向を示せるのか17/3期第1四半期の業績動向が注目される。
また、残念ながら一部ユーザーの量産が後倒しとなってしまったマイクロ流体デバイスではあるが、診断医療用チップを研究・開発する各社との事業化準備は引き続き進行している。また、17/3期から一部の新規顧客と診断分野の製品で量産が開始となる予定である。当初の予定より業績拡大の時期は後倒しとなったものの、引き続き将来性の大きな事業であることには変わりない。引き続き今後のマイクロ流体デバイスの量産化に向けた動向が注目される。