ブリッジレポート
(3189) 株式会社ANAP

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ブリッジレポート:(3189)ANAP vol.11

(3189:JASDAQ) ANAP 企業HP
家髙 利康 社長
家髙 利康 社長

【ブリッジレポート vol.11】2016年8月期業績レポート
取材概要「前回レポートの当欄で、「今回の組織変更は「守りから攻めへの転換」を告げる同社からのメッセージと捉えることができる。」と記したが・・・」続きは本文をご覧ください。
2016年11月29日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社ANAP
社長
家髙 利康
所在地
東京都渋谷区神宮前2-31-16
決算期
8月末日
業種
小売業(商業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2016年8月 7,078 -60 -68 -20
2015年8月 8,115 -485 -459 -884
2014年8月 8,844 -480 -459 -386
2013年8月 8,590 402 621 261
株式情報(11/14現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
402円 4,085,132株 1,642百万円 -1.6% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
0.00 - 13.57円 29.6倍 300.35円 1.3倍
※株価は11/14終値。発行済株式数は直近期決算短信より(発行済株式数から自己株式を控除)。
ROE、BPSは前期末実績。
 
株式会社ANAPの2016年8月期決算概要、家髙社長へのインタビューなどについてご紹介します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
10~20代の女性を主要顧客層とし、「ANAP」ブランドを中心としたカジュアルファッションを提供。常にお客様目線を大切にし、おしゃれを楽しみたい女性のニーズに応えるため、欲しいものが手頃な価格でいつでも手に入る、ファッションを「オンタイム」で楽しめる「現在(いま)」を提案することを企業理念として掲げている。「ブランド認知度の高さ」、「オンラインショッピングサイトの販売力」も大きな強み。大手ショッピングモールを中心とした店舗販売と、自社サイト「ANAPオンラインショップ」を通じたインターネット販売が収益の柱。
 
 
1992年、現 取締役会長の中島 篤三氏が「株式会社エイ・エヌアートプランニング」を設立し、小売業をベースとしたマーケット・イン型企業として店舗を展開。個性的でリーズナブルな普段使いの衣料品を展開する「ANAP」は、ファッションに敏感な10代~20代の女性から高い支持を得る。
一方、当初より同社専務取締役であった現 代表取締役社長の家髙 利康氏が運営する「株式会社ヤタカ・インコーポレーテッド」は、製造・卸によるプロダクト・アウト型企業として自社ブランドを展開していたが、フランチャイズとして「ANAP」ブランドの販売にも参画し、フランチャイズ11店舗を出店。両社は緊密な協力関係を構築していった。
両氏ともにファッション業界を取り巻く時代の変化を感じる中、お互いの強みを融合させることにより強力なシナジー効果を追求することができ、それが今まで以上に顧客目線を重視した経営に繋がると判断し、2006年8月、両社は合併。翌2007年、社名を現在の「株式会社ANAP」に変更した。

「ANAP」をメインブランドとしながら、コンセプトの異なる多種多彩なサブブランドを展開して、幅広い顧客ニーズをとらえると共に、原宿、渋谷など首都圏を起点としつつ、イオンモールなど大型ショッピングモールへの出店も進めて全国へ店舗を展開。
2002年1月には独自の自社ブランド販売サイト「ANAPオンラインショップ」を開設するなど、業界の中でもインターネット販売にいち早く着手し、2013年9月には、(株)スタートトゥデイ(東証1部、3092)が運営するアパレル専門ネット通販「ZOZOTOWN」への出店も開始。2013年11月、東京証券取引所JASDAQ市場に上場した。
 
【企業理念など】
企業理念として以下のコンセプトを掲げている。
常にお客様目線を大切にし、おしゃれを楽しみたい女性のニーズに応えるため、欲しいものが手頃な価格でいつでも手に入る、ファッションを「オンタイム」で楽しめる「現在(いま)」を提案します。
 
【市場環境】
同社の主要顧客層は10代~20代の女性。同社の調べによれば、アパレル業界においては市場全体の約6割強を占める婦人服市場に属している。
また、婦人服の販売チャネルでは、百貨店が下降傾向にあるのに対し、専門店、ネット販売等が上昇傾向にあり、今後もインターネットを通じた販売の比率(EC化率)も上昇が予想されている。

こうしたことから、同社では後述するように、インターネット販売の売上構成比の拡大を目指して様々な取り組みを進めている。
 
【事業内容】
メインブランド「ANAP」を中心に、リーズナブルにおしゃれを楽しみたいという、多様なニーズをとらえるため、幅広い年齢層から支持されている全国ブランド、定番もの、流行もの、個性的アイテムまでコンセプトの異なるサブブランドを数多く展開している。豊富なアイテム数とリーズナブルな価格設定が特長となっている。
近年は新しい年齢層のKIDSやGIRLに注力しながら、アクセサリーやバック、小物類についてもブランドとして扱っている。2016年8月末現在、ANAPを始めとした20の主要ブランドを展開。これを店舗、インターネット、卸の3形態で販売している。
 
 
(1)店舗販売事業
「2016年8月期 売上高 3,058百万円(売上構成比 43.2%)、セグメント利益 146百万円」
「ANAP」とそのサブブランド等からなるANAPブランドの主要な販売チャネルとして原宿や渋谷等に位置する路面の旗艦店舗、各地のファッションビルおよび郊外に位置する大型ショッピングモールへの出店など、全国に52店舗を展開している。(路面店11、ファッションビル5、ショッピングモール36。2016年8月末現在)
「顧客にANAPブランドの魅力を実感してもらうためのチャネル」として重視すると同時に、「市場動向、流行、顧客ニーズを掴むためのアンテナ」、「インターネット販売への導線」として位置づけている。
 
 
 
(2)インターネット販売事業
「2016年8月期 売上高 3,641百万円(売上構成比 51.4%)、セグメント利益 689百万円」
業界に先駆けて2002年1月より「ANAPオンラインショップ」としてANAPブランドのショッピングサイトの運営を開始した。2016年8月末の会員数は82.4万人。うち、過去1年以内に購入実績のあるアクティブ会員数は12.8万人となっている。

常時1万アイテム以上の自社商品を品揃えしながら、ANAPカラーを全面に押し出したPOPなデザインのサイトで、ターゲットとする年代層が興味を持つ音楽や映画等の海外エンターテイメント情報を提供している。
ファッション雑誌を見ているかのような感覚や、ウィンドウショッピングを楽しんでいるかのような感覚になれることを意識して、掲載商品をコーディネートし、顧客が自ら着用した姿をイメージしやすくするといったサイト作りに力を入れている。
 
 
同サイトはいわゆるセレクト型のインターネットショッピングサイトとは異なり、システムに詳しい家髙社長自らが深く関わり自社開発したシステムによって構築されたサイトである点が大きな特徴となっている。
受注管理、売上管理、在庫管理、購入分析などを自社で一元的に管理している他、自社開発であるため、新たな機能の追加や従来機能の改善が容易であるというメリットがある。例えば、オンラインショップ担当スタッフが発案した顧客に楽しんでもらうためのアイディアや、顧客からのリクエスト等を即座にサイト上に反映して表現することができる。同社の商品戦略を機動的に実現する重要な仕組みとなっている。

同サイトにアクセスしてみると、例えば、「期間限定の均一セール」、「会員限定の送料無料キャンペーン」といったイベントが行われていることが分かるが、その内容は随時、極論すればアクセスの度に異なっており、その動的コンテンツのためにユーザーにとって魅力的なWebsiteとなっている。
こうした仕組みも自社開発したシステムによる自動プログラミングで実行されているため、極めて効率的にキャンペーンを展開することが出来るようになっている。

また、消費者のユーザビリティーを常に考慮し、使用デバイスとしてもPC、携帯を経ていち早くスマートフォン、タブレットへの対応も進めてきた。スマートフォンではデータ量の大きい画像への対応が必須だが、クラウドの利用などでこの課題をクリア。この結果、スマホ・タブレット受注割合は2016年8月期で88.6%と極めて高い。

同社では中期的な経営目標として「インターネット販売事業の売上構成比50%超」を掲げてきたが、想定以上のスピードで構成比は上昇しており、前期より「60%以上」を目標としている。

そのためには自社サイトのみでなく様々なサイトに多くのアイテムを出品する必要があるとの考えから、2013年9月には、(株)スタートトゥデイが運営するアパレル専門ネット通販「ZOZOTOWN」への出店も開始した。同様な理由で、卸売販売としてネット通販大手「Amazon」にも出店している。
加えて、2014年5月28日からは、クルーズ株式会社が運営するファストファッションサイト「SHOPLIST.com by CROOZ」における販売を開始している。
 
(3)卸売販売事業
「2016年8月期 売上高 305百万円(売上構成比 4.3%)、セグメント利益 -0.5百万円」
全国のセレクトショップ向けに卸売販売を行っている。「ANAP」の各ブランドは他社バイヤーに対しセレクト商品を納品し、「Factor =」、「AULI」のブランドについては展示会受注によって商品を納品している。
 
 
2016年8月期決算概要
 
 
店舗リストラで減収。経費削減、固定資産売却で損失は大幅に縮小
売上高は前期比12.8%減の70億78百万円。インターネット販売は引き続き好調だったが、店舗販売事業における店舗リストラクチャリングによる退店の影響で減収となった。
在庫圧縮で粗利率は1.6ポイント改善した。店舗減により固定費も大幅に減少した。販管費が同18.2%減少した結果、営業損失は大きく縮小した。不採算店舗の収益性低下に伴う減損損失142百万円を特別損失に計上した一方、特別利益に保険解約返戻金38百万円、固定資産売却益137百万円を計上したため、当期純損失も大きく改善した。
 
 
 
◎店舗販売事業
厳格な採算管理に基づき17店舗退店し、2016年8月末の店舗数は52店舗となった。退店により減収となったが、固定費圧縮により前年同期の営業損失から営業利益に転換した。
今期の退店予定は現在未定だが、収益改善が見込めない店舗が発生した場合は速やかに退店する。

2016年4月に行った組織変更と共に再生プロジェクトを始動させた。
主要な取り組みは以下の通り。
 
 
◎インターネット販売事業
他社サイト取扱高は、「ZOZOTOWN」、「SHOPLIST.com by CROOZ」が順調に推移している。
自社サイトも改善傾向にあり、増収増益となった。
自社サイトにおいては、動画サイトのリリース、スマートフォンアプリの導入、他社商品(カラーコンタクトレンズなど)取扱いの開始など、様々な取り組みを進めた。加えて、新規サイトの立上げも検討している。
売上高構成比(EC比率)は通期でも50%を超えた。下のグラフの様に、他社を大きく上回るEC比率となっている。
早期の60%以上達成を目指している。
 
 
年間通しすべての会計期間で店舗販売事業売上高を上回った同事業は、売上高構成比も前年同期を大きく上回った。
 
 
 
◎卸売販売事業
カジュアルファッション市場の低迷による既存取引先への販売が減少し減収となった。
 
 
固定資産売却などにより現預金が増加、在庫圧縮でたな卸資産が減少し、流動資産は前期末に比べ1億58百万円増加した。建物など有形固定資産の売却、敷金及び保証金の減少等で固定資産は同7億9百万円減少し、資産合計は30億58百万円となった。
主に有利子負債が同4億51百万円減少し、負債合計は18億31百万円となった。
損失計上による利益剰余金の減少、自己株式の増加等で純資産は同66百万円減少し、12億26百万円。
この結果、自己資本比率は40.1%と、前期末より4.3%上昇した。
 
 
純損失額及びたな卸資産の減少などで、営業CFはプラスに転じた。有形固定資産の売却により投資CFのプラス額は拡大し、フリーCFはプラスに転じた。
財務CFは短期借入金の減少、自己株式取得額の増加によりマイナス幅は拡大した。
キャッシュポジションは上昇した。
 
 
2017年8月期業績予想
 
 
 
増収・黒字転換へ。
売上高は前期比ほぼ変わらずの70億95百万円ながらも、店舗リストラ効果、インターネット販売事業への経営資源集中などで下期より黒字転換へ。配当は無配を継続予定。
 
(2)今後の取り組み
以下のような経営方針を掲げている。
 
 
店舗販売に関しては、「自社ビジネスの原点は店舗にある」との考えから店舗の立て直し・再成長化に取り組む。
卸売販売においては、EC卸売販売を強化する。ライバルが少ないカテゴリーであるKIDS、GIRLを中心に推進する。
また急速な拡大が続いている「越境EC」についてもどこで展開するかを含め事業化を検討している。
 
 
家髙社長に聞く
 
◎再生リストラクチャリングについて
4月に着手した組織変更を含めた再生リストラクチャリングへの取り組みは着実に変化を生み出し、成果に結び付いている。
まず社員一人一人へのヒアリングを行い、課題の抽出を行った。これを1回だけでなく何度か繰り返すと、会社の現状および社員各自の置かれた状況についての理解が深まり、社員の意識が大きく変化していった。
自分が会社に対して何ができるのか、何をしなければならないのかをより深く主体的に考えるようになってきた。
そうした中、「多品種少ロット」という当社のイメージを崩さずに、適正な在庫量を維持するためにはどうすべきかを徹底的に議論した上で、型数を3割削減した。
もちろん型数を3割削減しても売上は維持しなければならないのだから、前年の型番別の売上データを徹底的に分析してSからCまでランクに分けて売上、利益を確保できるように選別を行った。このデータビジネスへの本格的な取り組みも再生リストラの大きなカギとなっている。
ANAPのアイデンティティとも言える「多品種少ロット」は、これまでは何の疑問も無く当たり前に取組んできたものだが、そのイメージを維持しつつもこうした施策に踏み出すことができたのは、社員の意識変化に負うところも大きい。
「多品種少ロットビジネス」からの転換を始めとした新しい店作りは順調に進んでいる。店舗の雰囲気の変化は業績の変化にもつながっており、3-7月の各月の損益は黒字化するなど、大きく改善している。
 
◎インターネット販売事業について
インターネット販売事業の売上高構成比は想定以上に早い段階で50%を超えた。今後も収益率の高い同事業に経営資源を集中し、売上高構成比60%以上を目指す。
他社サイトを通じた売上は好調に増大しているが、自社サイトの強化にも積極的に取組んでいる。
動画サイトの立上げ、アプリのリリース、他社商品の取り扱いを始めたが、現在他社の複数ブランドを集めた新規サイトの立上げを検討している。
まだ詳細はお話しできないが、いかにしてスピーディーに認知度を向上させることができるかがカギとなるため、様々な手法を検討中だ。
 
◎ANAPの原点=店舗
前々期から店舗の閉鎖を進め、一方でインターネット販売事業の拡大に注力しているが、当社の原点は店舗にある。
楽しく買い物がしやすい、お客様に優しい店舗作りは、購買心理の変化等を常に把握するなど、お客様と我々の関係性を一層強化するのに欠かせない。
実はECで成功するためには単に商品が多い・良いと言ったことでは不十分で、消費者の様々な購買心理を読解した上で適切なタイミングで販売戦略・戦術を実行することが絶対的に必要だ。
これに関する当社のノウハウは大手EC企業にも引けを取らない。
原点である店舗と、店舗から吸収する購買心理を読解した上でのインターネット販売、この組み合わせこそが当社最大の強みであり、当社ならではのポジションを構築している。
 
◎投資家へのメッセージ
株主・投資家の皆様には、今迄ご迷惑をお掛けしてきたことを深くお詫び申し上げます。
ただ、当上期は店舗整理の影響も残り、損失を計上予定であるものの、再生プロジェクトは着実に進行、方向性は明確になっており、通期では4期ぶりの黒字転換となる見通しです。
「店舗とECのコンビネーション」という当社ならではの強みに更に磨きをかけ、新たな経営体制・組織で成長路線への回帰を目指す「新生ANAP」の今後に是非注目・期待していただきたいと思います。
 
 
今後の注目点
前回レポートの当欄で、「今回の組織変更は「守りから攻めへの転換」を告げる同社からのメッセージと捉えることができる。」と記したが、メッセージ通り店舗リストラという守りだけでなく、「多品種少ロット」路線の転換という言わば攻めの姿勢も見せ、これが結果として足元の業績改善に結び付き始めたようだ。
同社の場合、春夏が強く秋冬が弱いという傾向があるため当上期はまだ損失予想としているが、再生プロジェクトの進展で足元では営業利益増で進捗している。
今期から本格攻勢に転じる「新生ANAP」に注目したい。
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書
同社は最新のコーポレートガバナンス報告書を2015年12月4日に提出している。
また、JASDAQ上場企業として、「当社はコーポレートガバナンス・コードの基本原則に則り、実施しております。」と記している。