ブリッジレポート
(3778) さくらインターネット株式会社

プライム

ブリッジレポート:(3778)さくらインターネット vol.10

(3778:東証1部) さくらインターネット 企業HP
田中 邦裕 社長
田中 邦裕 社長

【ブリッジレポート vol.10】2017年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「既存サービスが当面の売上成長をけん引すると共に利益の源泉となり、新たな成長分野が中長期の成長を担保する事になるが、共に強みとなる・・・」続きは本文をご覧ください。
2016年12月6日掲載
企業基本情報
企業名
さくらインターネット株式会社
社長
田中 邦裕
所在地
大阪市中央区南本町1-8-14 堺筋本町ビル
決算期
3月 末日
業種
情報・通信
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2016年3月 12,086 976 822 553
2015年3月 10,576 964 857 516
2014年3月 10,045 736 633 353
2013年3月 9,482 867 812 479
2012年3月 9,164 873 808 556
2011年3月 8,584 1,225 1,194 572
2010年3月 7,812 748 723 567
2009年3月 7,106 392 349 374
2008年3月 6,478 85 -25 -632
2007年3月 4,703 -271 -346 -493
2006年3月 2,758 210 197 105
2005年3月 1,930 133 132 70
株式情報(10/26現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
994円 34,709,956株 34,502百万円 13.2% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
2.50円 0.3% 16.42円 60.5倍 127.46円 7.8倍
※株価は10/26終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
さくらインターネットの2017年3月期上期決算と通期の見通しについて、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
東京(西新宿、東新宿、代官山:いずれもフロア単位の賃借)、大阪(堂島:フロア単位の賃借)、北海道(石狩:土地建物保有)の3エリアでデータセンターを運営し、サーバの設置スペースと電源やネットワーク回線等を提供するハウジングサービスとサーバ環境(コンピュータリソース)をインターネット上で提供するホスティングサービスを手掛けている。多くのホスティングサービス事業者がインフラ(データセンター施設)を外部に依存するのに対して、同社はインフラを自社で保有する事で高収益を追求しており(価格競争力の源泉となる)、このインフラをハウジングサービスの提供にも活用する事で稼働率を上げ固定費リスク(インフラ保有リスク)を軽減している。
 
【企業理念】
同社は、下記のミッション、ビジョン、バリューを企業理念として定め、これを実現することによって、全てのステークホルダーから価値ある企業として支持される事を目指している。
 
コーポレート・ミッション  使命
私たちは、人々とビジネスの可能性を広げるデータセンターサービスの提供を通じ、インターネットによってひらかれる創造性と驚きに満ちた未来の実現に貢献します。
コーポレート・ビジョン  目指す姿
サービス 高品質で低価格なITプラットフォームと革新的で面白いインターネットサービスの提供
インフラストラクチャー スケールメリットと柔軟性を兼ね備えたコスト競争力の高いITインフラの実現
テクノロジー 価値あるサービスの実現とインターネットの発展に寄与する先進的な技術の探究
コーポレート・バリュー  重視する価値観
・質の高いサービスを生みだす絶えざるイノベーション
・コストパフォーマンスを支える卓越したオペレーション
・すべての活動のベースとなる良質なコミュニケーション
 
【沿革】
1999年8月、レンタルサーバサービスと専用サーバサービスの提供を目的とした、さくらインターネット(株)として設立、同年10月に大阪(大阪市中央区)と東京(京都豊島区)にデータセンターを開設し、ハウジングサービスを開始した。2005年10月に東証マザーズに株式を上場した。2008年2月に双日(株)と資本提携し(持分法適用会社となる)、2011年2月には双日(株)のTOBに賛同し資本関係を強化すると共に(連結子会社となる)、改めて業務提携契約を締結。同年11月にはクラウドコンピューティングに最適化した日本最大級の郊外型大規模データセンターを北海道石狩市に建設。2015年4月にレンタルサーバをメインとするホスティング事業、SSL サーバ証明書発行、ドメイン取得等のサービスを提供している(株)Joe's クラウドコンピューティングを子会社化した。
 
【事業内容】
事業は、ハウジングサービス、ホスティングサービス、及びその他サービス(ドメイン取得サービスや回線・ネットワーク関連サービス等)に分かれ、16/3期の売上構成比は、それぞれ21.3%、68.2%(専用サーバ22.5%、レンタルサーバ23.3%、VPS・クラウド22.4%)、10.4%。
 
ハウジングサービス
同社が運営するデータセンター内に、顧客所有の通信機器類を自由に設置できるスペースと、インターネット接続に必要な回線や電源などを貸与するサービス。ラック単位で設置スペースを貸し出す「ラック貸し(回線、電源等も提供)」が中心だったが、自社で土地建物を保有する石狩データセンターの稼働に伴い「スペース貸し」(大規模ハウジング)を開始した
 
ホスティングサービス
専用サーバサービス、レンタルサーバサービスの物理ホスティングと、VPSサービス、クラウドサービスの仮想ホスティングに分かれる。
 
専用サーバサービス
同社が所有する物理サーバを専用で利用できるサービス(「さくらの専用サーバ」)。専門知識を要するサーバのメンテナンス等の負担があるものの、独自にサーバの設定が可能である事や、ソフトウェアのインストールに制約が無い事等、レンタルサーバサービスと比べて自由度の高い点が特徴。専用サーバは、クラウド・VPS等の仮想サーバの普及により売上が減少していたが、新サービスの導入以降、パフォーマンスの安定性や高性能なDB・ストレージの活用といった機能面でのメリットやクラウドに比べ規模拡大に伴い料金が増加しにくいコスト面での優位性から、特に高速処理が要求されるAI分野での利用等で見直されつつあり、クラウド(仮想サーバ)と専用サーバ(物理サーバ)を併用する顧客も増えている。
尚、新サービスはクラウドサービスの対抗商品として2012年2月にサービスを開始した。物理サーバをクラウドのように利用できる一方、仮想化技術を用いた通常のクラウドに比べて性能やセキュリティが各段に優れる(最少プランは従来価格のままでサービススペックを2倍以上に引き上げた)。台数制限がなく、複数台構成も可能で、申し込みから最速10分で利用できる。
 
レンタルサーバサービス
同社が所有する物理サーバと豊富な機能をメンテナンス不要で利用できるサービス。1台の物理サーバを専用で利用できるサービス(「さくらのマネージドサーバ」)と1台の物理サーバを複数の顧客が共同で利用するサービス(「さくらのレンタルサーバ」)を提供。サーバの設定やソフトウェアのインストールに一定の制約があるものの、専門知識を要するサーバのメンテナンス等は同社が代行するため、利用者は作業負担を大幅に軽減する事ができる。
 
VPS・クラウドサービス
仮想化技術により、物理サーバ上に複数の仮想サーバを構築し、そのひとつひとつが専用サーバのように利用できるサービス。基本的に仮想サーバ1台毎の単体契約となるサービス(「さくらのVPS」)と、契約の中で複数台サーバの申し込みとそのネットワーク設定を可能とし、日割や時間割での課金が可能なサービス(「さくらのクラウド」)を提供。物理サーバ(専用サーバサービスやレンタルサーバサービス)よりも自由度が高く、かつコストパフォーマンスに優れる。
 
 
 
2017年3月期の重点課題と取り組み状況
 
ビジョン(各サービスの位置付け)
安定成長が期待でき比較的収益性も高い専用サーバ及びレンタルサーバをベースロードと位置付けて注力し、その上で成長のけん引役としてVPS・クラウドに取り組んでいく。また、昨年から取り組みを始めたIoTやAI等の分野は3~5年後に爆発的な市場の成長が期待できる分野であり、中長期的な観点から取り組んでいく。
 
中期成長のけん引役となる新規分野での取り組み
総務省「平成26年度版情報通信白書」等によると、2009年時点でインターネットに接続されているPC、スマートフォン、タブレット等の端末数は16億個で、IoT関連は9億個だが、2020年にはPC、スマートフォン、タブレット等は73億個に対し、IoT関連は260億個に拡大すると言う。同社は、インターネットに接続される端末数の増加に伴い発生するデータセンター需要を手軽さと価格競争力を強みに取り込んでいく考え。具体的には、工業分野ではなく商業向け(コンシューマー向けや生活向け)のIoTに軸足を置き、スタートアップ企業や中小企業をターゲットに、参入しやすいサービスの提供や事業化の支援・促進に力を入れる。特定のソリューションではなく、インターネットにふさわしい「オープン」をキーワードに、様々な企業との連携を通じながらプレゼンスを高めていく。
一方、AI・ディープラーニングの分野では、技術を支えるプラットフォーマーとして、技術・ノウハウを持つ企業との提携や自社での技術・ノウハウの蓄積に努め、廉価な高火力コンピューティングを提供していく。実績面でのアドバンテージを確保する事が重要であると言う。
 
 
ビジョンと新規分野における取り組みを踏まえ、前16/3期に成果の出た施策を継続すると共に、IoT、AI分野に注力していく考え。17/3期の重点課題として、売上高の成長、サービス・技術・運用強化、コストの最適化、組織力・人材力の強化の4項目をあげると共に、具体的な施策を示している。
売上高の成長については16/3期の取り組みを継続する。サービス・技術・運用強化では、自社の開発活動を強化すると共に、高い技術や先進技術を持った企業への出資もしくは提携にも力を入れていく。「インターネット・ビジネスは技術とスケールメリットによって成長していく」と言われており、スケールメリットに加えて、自社技術の強化と外部からの取り込みで技術力を高めていく。また、コストの最適化では、売上に連動しないコスト構造の構築とオペレーションの確立に取り組んでいく。一方、組織力・人材力の強化では、新卒の獲得に注力する他、人材見合いで即戦力の採用も継続する。
 
 
単体の従来ビジネスの成長に加え、子会社の寄与もあり、売上の成長が続いている。

利益面では、16/3期の2Q、3Qのように先行投資が負担になる事もあるが、機会損失の発生を避けるべく、低金利を利用して先行投資を続けていく考え。
 
 
2017年3月期上期決算
 
 
前年同期比10.8%の増収、同20.5%の営業増益
売上高は前年同期比10.8%増の65億23百万円。首都圏でのデータセンター増加による競争激化でハウジングが同5.8%減少したものの、新規顧客開拓と既存顧客の利用増でVPS・クラウドサービスが前年同期比42.5%増と順調に伸びた他、レンタルサーバも同5.8%増加。旧サービス利用者の減少を新サービスの利用者獲得で吸収して専用サーバも同1.2%増加した。また、近年力を入れているドメイン取得サービスやSSL取得サービス(独自ドメインによるサーバ証明書の取得代行)等、利益率の高いその他の売上も同14.4%増加した。

利益面では、エンジニアの増員及びデータセンター増床・サービス機材増加に伴う減価償却費・リース料等の増加で売上原価が同6.9%増加した他、基幹システムの内製化に伴うエンジニアの増員や体制見直し(カスタマサポート費用を売上原価から販管費に振り替え)による販管費の増加を吸収して営業利益が5億88百万円と同20.5%増加。支払利息の増加や投資有価証券評価損の計上等の影響を吸収して最終利益は3億18百万円と同14.8%増加した。
 
予想との差異
一部サービスの見直しに伴う関連機器のスポット販売の未発生等により売上高がわずかに下振れしたものの、利益面では、当該機器分の売上原価が未発生となった他、先行投資費用、広告宣伝等、電力費(燃料調整費)等、営業費用全般に保守的な予想を立てていた事もあり、各利益段階で期初予想を大きく上回った。
 
 
 
 
上期末の総資産は前期末に比べて2億18百万円増の188億06百万円。借方では、石狩データセンター3号棟建設の中間金支払等で現預金が減少する一方、同棟建設にかかる建設仮勘定が増加した他、ゲヒルン(株)の子会社化やシステム開発で無形固定資産が増加した。貸方では、純資産やサービス機材等増加に伴いリース債務が増加する一方、借入金の返済等で有利子負債が減少した。自己資本比率は24.8%(前期末23.8%)。
尚、石狩データセンター3号棟の建設工事は順調に進んでおり、本年12月の竣工・引渡し、来年春の稼働を予定している(本格稼働は夏頃)。2017年1月から減価償却が始まるが、当初の償却負担は軽い。本格稼働以降、サーバを中心に償却負担が重くなる見込み。
 
 
セキュリティ・エンジニア集団のゲヒルン(株)を子会社化。セキュリティとレンタルサーバ・クラウドのサービス強化
2016年5月27日付けで、セキュリティコンサルティングやウェブサイトの脆弱性診断サービス等を手掛けるゲヒルン(株)を100%子会社化した(76株を1億50百万円で取得)。

ゲヒルン(株)は、「安全」をキーワードにセキュリティコンサルティングやウェブサイトの脆弱性診断サービス等を提供しており、セキュリティ・キャンプ(後述)実施協議会の顧問でもある代表取締役の石森大貴氏をはじめ、数々のセキュリティ・コンテストで入賞歴を持つエンジニアを擁している。さくらインターネット(株)は、ゲヒルン(株)のセキュリティ技術を活用し、セキュリティサービスのラインナップを拡充すると共に社内のセキュリティ体制を強化し、ユーザーへの安心・快適なIT インフラサービスの提供に取り組んでいく考え。
また、ゲヒルン(株)はウェブアプリケーション等のソフトウェア開発力も高く、セキュリティとユーザビリティに優れたレンタルサーバ「GWS(Gehirn Web Services)」の提供も行っている。このため、さくらインターネット(株)は、ゲヒルン(株)のソフトウェア開発力を活かし、自社のインフラ上でゲヒルン(株)が開発したソフトウェアを提供する等で、レンタルサーバサービスやクラウドサービスのラインナップ拡充も図っていく。
尚、セキュリティ・キャンプとは、若年層の優秀なサイバーセキュリティ人材の早期発掘と育成を目的とした経済産業省とIPA が主催するイベントで、これまでに数多くの将来有望な人材を輩出している。
 
 
VPSクラウドが前四半期比6.2%増と増収をけん引。レンタルサーバも堅調に推移し、先行投資負担を吸収
前四半期比6.2%の増収となったVPS・クラウドサービスを中心に売上が増加。継続的な機能改善やサービス追加等でレンタルサーバが同1.8%増と堅調に推移した他、ここ1~2年の付帯サービス強化の成果で、その他の売上も同4.1%増加した。レンタルサーバは現状の収益性も高いが、認知度の向上と高付加価値化で更なる単価の引き上げを図る考え。

一方、専用サーバは同1.5%の減収。現在、クラウドサービスの対抗商品として投入された新サービス(2012年2月にサービス開始)とホスティングサービスの黎明期から提供している旧サービスが混在しており、ユーザーは、新サービスが2/3~3/4を占め、旧サービスが1/3~1/4。新サービスは、物理サーバをクラウドのように利用できる一方、仮想化技術を用いた通常のクラウドに比べて性能やセキュリティが各段に優れる(クラウドのようにシステムがブラックボックス化されていない事も評価されている)。また、台数制限がなく、申し込みから最速10分で利用が可能だ。AI関連等、高い処理能力が要求される分野を中心にユーザーが増加傾向にあるが、現状では、旧サービスのユーザーの減少が全体の伸びを抑えており、四半期ベースでは売上が減少する事もある。ただ、徐々に底打ち感が出てきている。

利益面では、データセンター増床・サービス機材増加に伴う減価償却費・リース料の増加や販売用機材の増加等による売上原価の増加や、成長加速に向けた人材投資に伴う人材紹介料及び人件費の増加等による販管費の増加を吸収して営業利益が2億97百万円と同1.7%増加。EBITDA(=経常利益+支払利息+減価償却費)は6億77百万円と同2.2%増加した。

尚、第2四半期は第1四半期に比べて気温が高いため、空調等の電力費が増加する。また、人員の増強と処遇改善に継続的に取り組んでいく考え。
 
 
 
 
第2四半期は、税金等調整前利益や減価償却費等の増加で営業CFが第1四半期比増加する中、大きな投資がなかったため(第1四半期は石狩データセンター3号棟建設の中間金支払等)、投資CFのマイナスが1億18百万円にとどまり、6億23百万円のフリーCFを確保した。借入金の返済やリース債務の支払等で財務CFが3億95百万円のマイナスとなったものの、第2四半期末の現金等残高は第1四半期末に比べて2億27百万円増加した。
 
 
さくらのレンタルサーバは国内トップクラスの契約件数を誇り、継続的な機能改善やサービス追加等で利用中件数は右肩上がりの成長が続いている。
 
 
専用サーバの平均単価は16年6月にかけて上昇したが(16年3月及び同年6月)、これは初期費用の増加によるもので一時的な上昇。同9月は、ほぼ平常値に戻った。
 
2017年3月期業績予想
 
 
前期比20.0%の増収、同8.6%の営業増益
売上高は前期比20.0%増の145億円。引き続きVPS・クラウドで高い売上の伸びが見込める他、専用サーバやレンタルサーバも堅調な推移が見込まれる。ただ、下期は既存分野やAI分野で複数の大口案件の受注・売上を見込むチャレンジングな計画(田中社長)のため下振れ懸念がある。
営業利益は同8.6%増の10億60百万円。変動費や減価償却費・リース料及びエンジニア人件費等の増加で売上原価が同18%強増加する中、広告宣伝費や人件費等を中心に販管費も同30%強の増加が見込まれるが、増収効果で吸収する。尚、上記の大口案件については利益貢献を見込んでいないため、受注の期ずれ等で売上に至らない場合でも利益面での影響はない。

配当は前期と同額の1株当たり2.5円の期末配当を予定している。
 
 
投資計画
設備投資は90億円を計画している。内訳は、データセンター関連43億円(石狩データセンター3号棟30億円、同3号棟以外12億円、その他設備1億円)、サーバ及びネットワーク機器40億円、IoT関連1億円、その他(システム等)6億円。尚、石狩データセンター3号棟への投資は約43億円を計画しているが、このうち約13億円は16/3期に実行済みである。
 
人員計画
エンジニアの獲得は一区切りが付いたが、将来の成長のための人材獲得は一定数継続する考えで、17/3期の新規採用は新卒8名を含む37名を予定している。尚、上期末の従業員数は前期末に比べて41名増の380名(エンジニア32名増、営業・販促1名減、管理1名減、Joe's社1名増、ゲルヒン社10名増)。
 
(2)既存サービスと新たな成長分野での取り組み
既存サービス
・ レンタルサーバサービスの拡大
・ サービスプラットフォーム化の推進
・ サービスの機能拡充
・ パートナーシップ施策の継続

・ レンタルサーバサービスの拡大
「さくらのレンタルサーバ」には、スタートアップ企業や個人などロングテールの「さくらのレンタルサーバ」と法人向け「さくらのマネージドサーバ」の2つのサービスがあり、この8月に契約件数が40万件を突破した。継続的な機能の改善やサービスの追加に加え、競合の淘汰が進んでいる事もあり、現在も利用件数を伸ばしている。

・ サービスプラットフォーム化の推進
幅広いラインアップの中でサービス間の移行や併用を容易にする事で顧客利便性を向上させ解約防止・新規顧客獲得につなげると共に、プラットフォーム統一による社内リソースの効率化を目的にサービスプラットフォーム化を進められている。この一環として、10月より、「さくらのVPS」(石狩第1ゾーン)と、「さくらのクラウド」、「さくらの専用サーバ」、「ハウジングサービス」、及び「リモートハウジング」を接続する“ハイブリッド接続”を開始した。“ハイブリッド接続”とは、複数の異なるサービスをレイヤ2ネットワークで接続し同一セグメント化する事で、仮想サーバと物理サーバのハイブリッド利用(併用)を可能にするサービス。仮想サーバと物理サーバを1つのインフラシステムとして、それぞれのメリットを活かし、より柔軟性のある高品質なインフラを低価格で構築できる。

・ サービスの機能拡充
10月に、「さくらのクラウド」のオプションサービスとして、高速コンテンツ配信サービス「ウェブアクセラレータ」を開始した(7月から9月にかけて、「さくらのクラウド」、「さくらの専用サーバ」、「さくらのVPS」でβテストを実施)。このサービスは、国内最大級バックボーンのスケールメリットと石狩データセンターが有するアジアNo.1のコスト競争力を活かし、高速配信を安価で実現すると共に、Webサイトのアクセス集中による表示速度の低下やサーバーダウンを防ぐ。βテストでは、一般財団法人 日本気象協会及び(株)ALiNKインターネットが運営する気象情報サービス「tenki.jp」の「豪雨レーダー」等、複数の法人で実施された。気象情報のWebサービスは公共性が高いため、安定性と共に急なアクセス増でのスパイクトラフィックにも耐えうる強靱なインフラ性能が要求される。

・ パートナーシップ施策の継続
9月末の「さくらのビジネスパートナー」の登録件数は53社。7月に(株)構造計画研究所と提携して、「さくらのクラウド」上で米SendGrid社の高速・高到達率のクラウド型メール「SendGrid」の提供を開始した他、10月に(株)フレクションコンサルティングとの提携の下、「さくらのレンタルサーバ」、「さくらのマネージドサーバ」、「さくらのメールボックス」上で、ビジネスに必要な機能が一元化されたグループウェア「TeamOn for SAKURA」β版の提供を開始した。尚、パートナーシップに基づくビジネスは手数料等を見返りにパートナーから顧客紹介を受けるものではなく、ホスティングサービスにパートナーのサービスを乗せて提供する事でサービスの高付加価値化・単価アップを目指すもの。パートナーには、サービスを提供するためのシステム開発等で報いる。
 
新たな成長分野での取り組み
・ IoT Platform
・ 高火力コンピューティング

・ IoT Platform
11月に「さくらのIoT Platform β」のサービスを開始する(10月より受付け開始)。「さくらのIoT Platform」は、モノとネットワークでデータを送受信するための通信環境(通信モジュールと通信インフラ)、データの保存、及びデータ処理に必要なシステムを一体で提供するもので、IoTの活用に際して開発負担が重い通信とデータ連携をカバーするサービスである。4月から提供している「さくらのIoT Platform α」で機能開発を完了しており、今回の「さくらのIoT Platform β」のサービス開始となったが、17/3期中に正式版のサービスを開始する。
 
 
正式版のサービスでの課金ポイントは、プラットフォーム初期費用(通信モジュール費用)、プラットフォーム利用やデータ蓄積(クローズ、プライベート)にかかる月額利用料、及び他社へのデータ転送時をイメージしており、ユーザー間のデータ取引に対する課金も検討している。正式版のサービスでの月額利用料は、通信モジュール1台に付き100円(4万Relation Pointを含む)を予定しているが、「さくらのIoT Platform β」では月額利用料金を無料とし、正式版のサービス開始後も1年間は無料。通信モジュールや通信モジュールとクラウドをつなぐ通信環境では既にライバルが多いが、通信モジュール、通信環境、クラウドプラットフォームをセットにして提供するのは同社のみ。しかも、通信モジュール、通信環境、クラウドプラットフォームでコストをシェアできるため、それぞれを単体で扱うライバルに対して同社は強い価格競争力を有する。

「さくらのIoT Platform」の共創パートナーとして、日本IBM(株)(IBM Bluemix)、アマゾンジャパン合同会社(amazon web service)、(株)ZEALS(BOT TREE)、ヤフー(株)(my Things)、(株)ウフル(Milkcocoa)が参画しており、共創パートナーのサービスと「さくらのIoT Platform β」を連携して利用できる。また、正式版のサービス開始に当たって、日本マイクロソフト(株)(Windows Azure)が参画予定であり、Every Sense,Inc(データ交換サイトEvery Sense)とデータ流通市場について協議していく。

・ 高火力コンピューティング
9月に巨大な計算資源を圧倒的なコストパフォーマンスで利用できる「高火力コンピューティング」の1シリーズとして、「さくらの専用サーバ 高火力シリーズ」の提供を開始した。このサービスは、AI等、大量の計算資源を必要とする技術分野のコンピューティング需要の取り込みを目的としたもので、現在、国、自治体、教育機関、大企業の研究開発部門等での利用が中心だが、今後、膨大なデータを大量の計算資源を使って処理するAI・機械学習、映像制作、計測分析等の分野での利用拡大が見込まれている。

「高火力コンピューティング」は、安くて(安価)、速くて(高性能)、すぐに使える、をサービスのコンセプトとし、強みは、①長年のサーバ運用のノウハウと技術力、②垂直統合型の社内体制によるニーズへの即応力、③国内トップクラスのバックボーンによるスピードと安定性、そして④大規模でコスト効率高い石狩データセンターによる拡張性と価格競争力。現状では国内において競合できる企業はいない(同等の競争力を得るためには3~5年が必要とみられている)。

「さくらの専用サーバ 高火力シリーズ」では、NVIDIA社 Tesla M40 を搭載したフラッグシップ「Teslaモデル」と、よりコストパフォーマンスに優れた「Quad GPU モデル」を提供する。12月末までに新プランを投入する予定で、17/3期中に、時間、CPU、ストレージ等に応じた課金を開始する予定。
 
 
 
今後の注目点
既存サービスが当面の売上成長をけん引すると共に利益の源泉となり、新たな成長分野が中長期の成長を担保する事になるが、共に強みとなるのは、国内最大級バックボーンのスケールメリットとアジアNo.1を誇る石狩データセンターのコスト競争力である。成長分野と誰もが認めるAIやディープラーニング等の分野では、データを蓄積して高速で解析・学習し結果を転送する環境が不可欠なため、低コストで高性能なサーバを迅速に立ち上げる事ができる同社の優位はAIやディープラーニング等の成長分野でも揺るがない。IoT Platformでは、既に説明した通り、通信モジュール、通信環境、クラウドプラットフォームをセットで、かつ安価で提供できる事が強みであり、通信環境に限れば、他社の利用料が数百円から数千円であるのに対して同社の利用料は数十円だ。また、高火力コンピューティングでは、既に海外系のクラウドベンダーの大半がライバルの状態で、電力コストに限れば、米国西海岸と国内では競争にならないが、消費者データ等を扱う場合、データのオーナーシップやコンプライアンスが問題となり、この点で国内にデータセンターを持つ事が強みになる。
上記の強みに加え、「さくらのビジネスパートナー」の登録件数やIoT Platformの共創パートナーをみると、“さくらインターネット”のブランドがIT企業やITベンチャーに浸透しつつあるように思われる。同社の今後の展開に期待したい。
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書        更新日:2016年6月27日
基本的な考え方
当社のコーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方は、当社が企業規模を拡大していくのに並行して、経営管理組織の整備を推進し、各部門の効率的・組織的な運営及び内部統制の充実を図ることであり、その基本姿勢を基に現在まで努力してまいりました。特に、インターネット業界は、目に見えない多数の利用者に対して通信施設を開放しており、世界中のインターネット利用者を市場として成立している事業でありますので、他業界以上の大きな社会的責任を背負っております。当社におけるコーポレート・ガバナンスの確立は、このような社会的責任を果たしていくことを可能にする経営基盤であると考えております。
 
<実施しない主な原則とその理由>
原則4-9 独立社外取締役の独立性判断基準及び資質
株主総会招集通知、有価証券報告書及びコーポレート・ガバナンス報告書に記載しております。今後選任基準を策定することを検討いたします。
 
<開示している主な原則>
原則1-7 関連当事者間の取引
関連当事者との取引については、少数株主の利益保護のため、関連当事者以外と取引を行う場合と同様、当社の社内諸規程に基づいて取引の可否を決定しております。なお、関連当事者との取引については、より慎重に判断を行うためにその取引金額の多寡に関わらず、取引内容についてその取引の合理性や取引条件の妥当性等の検証を行い、その結果を取締役会に報告し、取締役会において十分に審議しており、少数株主の利益を害することとならないよう体制を整えております。
 
原則3-1 情報開示の充実
(1)企業理念、経営戦略、経営計画
   企業理念や中期的な目標をホームページや説明会資料にて開示しております。
    企業理念  :https://www.sakura.ad.jp/corporate/corp/ideology.html
    説明会資料 :https://www.sakura.ad.jp/ir/library.html
(2)コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方について
   本報告書 I.1の「基本的な考え方」に記載しております。
 
原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針
当社は、取締役(CFO)をIR担当取締役とするとともに、経理財務部にIR担当者を配置しております。株主や投資家に対しては、四半期毎に決算説明会を開催しております。決算説明会の資料及び説明会の動画を弊社ホームページに掲載することにより、個人投資家に向け当社に対する理解度向上に向けた取り組みを行っております。
株主との対話(面談)の対応は、経理財務部のIR担当者が行っております。また、株主の希望や面談を行う株主の株式数に応じて、社長や取締役(CFO)が面談に対応しております。
なお、対話を通じた株主からの意見については、適時開示担当部署が集約し、経営陣に共有する仕組みを構築しております。投資家との対話の際は、当社の持続的成長、中長期における企業価値向上に関わる事項を対話のテーマとすることにより、インサイダーの情報の管理に留意しております。