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(6166) 株式会社中村超硬

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ブリッジレポート:(6166)中村超硬 vol.2

(6166:東証マザーズ) 中村超硬 企業HP
井上 誠 社長
井上 誠 社長

【ブリッジレポート vol.2】2017年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「厳しい事業環境の下、第2四半期業績は大幅な下方修正を余儀なくされた。ただ、通期予想に関しては据え置いている。会社側の想定通り・・・」続きは本文をご覧ください。
2017年1月10日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社中村超硬
社長
井上 誠
所在地
大阪府堺市西区鶴田町27-27
決算期
3月末日
業種
機械(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2016年3月 6,836 1,435 1,440 1,221
2015年3月 5,123 819 926 1,077
2014年3月 3,617 -373 -415 -423
2013年3月 4,453 -389 -435 -492
株式情報(12/12現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,270円 4,673,900株 5,936百万円 32.5% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
10.00円 0.8% 30.07円 42.2倍 1,208.79円 1.1倍
※株価は12/12終値。発行済株式数は直近決算短信より。ROE、BPSは2016年3月末実績。
 
株式会社中村超硬の2017年3月期第2四半期決算概要等についてご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
太陽電池に用いられるシリコンウエハの製造工程の一つであるスライス加工で使用されるダイヤモンドワイヤの開発・製造・販売が主力事業。細いピアノ線にダイヤモンドの粒を強く固定した糸状の工具であるダイヤモンドワイヤは、シリコンウエハ(※1)の低コスト化をもたらすものとして急速に普及しており、同社は世界シェア2位のリーディングカンパニー。ダイヤモンドワイヤの製造販売に加え、関連会社にてダイヤモンドワイヤによるスライス事業(※2)も手掛ける独自のビジネスモデルも大きな強み。新規事業の早期立ち上げにも注力中。
 
ウエハ(※1)
電子材料の塊(インゴット)から目的に応じて薄くスライスされた板状の機能部品。シリコン、サファイア、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)など、用途に応じて様々な材質がある。ICチップや太陽電池に多く用いられるのがシリコンウエハ。
スライス事業(※2)
2013年9月に中超デバイス・テクノロ.ジー株式会社(持分法適用関連会社)へ事業譲渡
 
【1-1 沿革】
1954年10月大阪府堺市においてミシン用の小ネジを作る会社として創業した「中村鉄工所」が前身。
1970年12月に超硬合金を用いた切削工具、耐摩工具である超硬工具を主に取り扱う「株式会社中村超硬」を設立した。1988年には超硬工具からダイヤモンドへ主材料を転換し、1993年にはダイヤモンドノズル(※1)の開発・製造・販売を開始。IT産業の製造革新の下支えとなり業容は大きく拡大した。ITバブル崩壊後の2004年にはエネルギー産業をターゲットとして現在の主力製品であるダイヤモンドワイヤの研究開発をスタートさせ、2010年には販売を開始。ダイヤモンドワイヤの製造販売だけでなく、スライス事業も手掛けてリーマンショックの苦境を乗り越え、2015年6月、東証マザーズ市場に上場した。
 
ダイヤモンドノズル(※1)
先端に焼結ダイヤモンドを使用したノズル。電子部品をプリント基板に装着したりする際に用いられる。ダイヤモンドを使用する事がノズルの長寿命化や電子部品の保持能力、画像認識への有効性の向上、実装率向上につながっている。
 
【1-2 経営理念】
 
【1-3 市場環境】
地球温暖化の原因と言われている温室効果ガス削減のために再生可能エネルギーの利用が世界的に進められているが、その中でも太陽光発電は有効な発電方法と位置付けられ、発電を行うための太陽電池市場は今後も先進国、新興国ともに着実な成長が見込まれている。
 
 
一方、足下の地域別生産能力見通しにおいては、欧州、米国、日本が横這いなのに対し、中国が生産量、伸び率ともに断然のトップとなる。
 
 
ダイヤモンドワイヤの世界シェアは、旭ダイヤモンド工業株式会社(6140、東証1部)が第1位で、同社は第2位と世界市場は日本企業がリードしているが、近年では中国メーカーも台頭している。
 
 
【1-4 事業内容】
1.セグメント
同社の事業は電子材料スライス周辺事業、特殊精密機器事業、化学繊維用紡糸ノズル事業の3事業セグメントで構成されている。
 
 
(1)電子材料スライス周辺事業
太陽電池の製造工程におけるシリコンインゴットのスライス加工で使用するダイヤモンドワイヤの開発・製造・販売を行っている。
 
① ダイヤモンドワイヤとは?
同社のダイヤモンドワイヤは、太陽電池パネルのメイン部品となる太陽電池セルに使われるシリコンウエハの製造工程のうち、スライス加工工程において使用される。
ウエハ一枚分の大きさに合わせて直方体に切られたシリコンインゴットを薄くスライスする際に用いる工具が「ダイヤモンドワイヤ」。細いピアノ線にダイヤモンドの粒を強く固定した髪の毛より細い糸状の切断工具である。
スライス加工機で、短い間隔で並べられたダイヤモンドワイヤが高速回転するガイドローラーによって走行し、インゴットをスライスしていく。3~4時間で2000~3000枚のシリコンウエハが製造される。その後、シリコンウエハは洗浄・品質検査を行い、処理を施されセルとなり、太陽電池モジュールに組み込まれる。
 
 
② シリコンウエハのスライス方法
シリコンウエハのスライス方法には、主として「遊離砥粒方式」とダイヤモンドワイヤを用いた「固定砥粒方式」の2種類がある。
 
 
カーフロス(※)
切断溝幅(切り代)のこと。カーフロスは材料のロスとなるため、太陽電池パネルの製造コスト低減のためできるだけ小さくする必要がある。
 
以上のように、「加工速度の向上」、「低いランニングコスト」、「カーフロスの低減」、「ワイヤ使用量の削減による環境負荷軽減」といった点から、ダイヤモンドワイヤを用いた「固定砥粒方式」への転換が進み、需要も増大している。
 
 
加えて、1つのインゴットから製造できるシリコンウエハの枚数を増大させることは、生産性の向上、原価低減の観点からウエハメーカーにとっては重要なポイントであるため、ダイヤモンドワイヤの細線化にも積極的に取組んでいる。
同社ではΦ(※)100μmが主流であったダイヤモンドワイヤの線径をΦ80μmとし、その後も、Φ70μm、Φ60μmへの細線化に取組んでいる。
Φ(※)
直径を示す記号。ファイ。

また、関連会社「中超住江デバイス・テクノロジー株式会社」では、中村超硬のダイヤモンドワイヤを用いたスライス事業を手掛けている。(詳細は、【1-5特徴・強み】の項目参照)
 
(2)特殊精密機器事業
ダイヤモンドや超硬合金、セラミックスなど耐摩耗性の高い硬脆材料を用いた特殊精密部品、工具の開発・製造・販売を行っている。
主要製品は、自動車部品やベアリング製造用工作機械に用いられるダイヤモンド部品、液晶テレビやスマートフォン、タブレット等の電子機器の製造に必要な電子部品実装用の産業機械に用いられるダイヤモンドノズルなど。
特殊精密部品・工具の他、実装機用ノズル等を洗浄する装置などの開発・製造・販売も行っている。
 
(3)化学繊維用紡糸ノズル事業
主に、化学繊維用紡糸ノズル及び周辺部品、不織布用ノズル・同装置等の設計・製造・販売を行っている。
同社は、1928年に創業して以来、化学繊維用(レイヨン製造用)ノズルを国産化し、化学繊維の紡糸ノズル専業メーカーとして事業展開してきた。紡糸ノズルは、不織布、炭素繊維などの製造において繊維の品質を決定づける基幹部品。その製造にあたっては微細加工(孔(あな)あけ加工、パンチング加工)及び工具・冶具の製造に関して繊細な技術が必要となるが、同社では、長年にわたり同事業に特化してきたことにより多くの技術的蓄積を有し、市場のニーズに対応している。
 
【1-5 特徴と強み】
①スライス事業も手掛ける独自のビジネスモデル
前述のように関連会社「中超住江デバイス・テクノロジー株式会社」では、中村超硬が製造したダイヤモンドワイヤを用いてシリコンインゴットをスライス加工し、太陽電池用シリコンウエハを製造・販売している。
中超住江デバイス・テクノロジーは量産検証結果を中村超硬にフィードバック。中村超硬ではこのフィードバックを基に、ダイヤモンドワイヤの改良、高度化に取り組んでいる。
「ダイヤモンドワイヤを作る技術」と「ダイヤモンドワイヤを使う技術」をグループとして併せ持つシナジー効果により、顧客であるシリコンウエハメーカーに対し、様々な技術支援を行う事が可能であり、顧客の信頼獲得を通じた顧客拡大の大きな武器となっている。

この事業モデルは他に例が無く、同社グループの大きな特長である。
 
 
 
2017年3月期第2四半期決算概要
 
 
業績下方修正。営業損失へ。
売上高は前年同期比37.3%減の19億33百万円。主力商品であるダイヤモンドワイヤの販売において、主要顧客との販売単価の交渉過程で生じた取引量の減少、中国における太陽電池用シリコンウエハ市況の悪化、競争激化による価格の下落と円高の進行などが大きく影響した。
新規顧客への販売量拡大に取り組んだが、主要顧客向け販売量低下をカバーできなかった。
減収に伴い、営業利益以下損失に転じた。2016年8月に第2四半期及び通期予想を下方修正。第2四半期の着地は修正予想も下回った。
 
 
<電子材料スライス周辺事業>
減収・営業損失
顧客分散に向けた営業活動の強化により顧客数は増加しているが、主要顧客との間で生じた取引量の減少をカバーできなかった。

<特殊精密機器事業>
減収・営業損失
実装機向けノズル、工作機械向け耐摩工具ともに出荷状況は堅調。継続的な原価低減に努めた。

<化学繊維用撚糸ノズル事業>
減収・増益
国内外ともに各種ノズルの受注進捗に遅れが見られ売上高は減少したが、固定費削減等により増益となった。
 
 
在庫が増加し、流動資産は前期末比10億48百万円増加した。設備投資による有形固定資産の増加などで固定資産は同12億74百万円増加し、資産合計は同23億22百万円増加の125億48百万円となった。
長短期借入金の増加などにより負債合計は同5億78百万円増加の57億31百万円。
純資産は、利益剰余金が減少したが、資本金、資本剰余金の増加により同17億44百万円増加68億16百万円となった。この結果、自己資本比率は前期末に比べ4.7ポイント上昇し、54.3%となった。
 
 
損失計上、在庫の増加で営業CFはマイナスに転じた。
一方、有形固定資産の取得による支出が増加し、投資CFのマイナス幅は拡大し、フリーCFもマイナスに転じた。
株式発行による収入により財務CFのプラス幅は拡大した。
キャッシュポジションは減少した。
 
 
2017年3月期業績予想
 
 
市場動向を見極める必要から通期業績予想は据え置き。
第2四半期実績は8月発表の修正予想を下回ったが、通期予想は据え置いている。
その理由としては、以下の2点を挙げており、その動向を見極める必要があると会社側は考えている。
 
◎太陽電池市場の環境
2016年前半、太陽電池用シリコンウエハは生産過多により在庫調整に入り、価格の下落、稼動率の低下に見舞われた。これに伴いダイヤモンドワイヤの需要が減少している。一方で下期に入り価格底打ち、稼動率回復傾向が見え始めている。
 
◎構造改革について
太陽電池シリコンウエハには発電効率の高い単結晶型シリコンウエハと、低コストである多結晶型シリコンウエハがある。
 
 
この2市場における同社の戦略は以下の通りだ。

①ダイヤモンドワイヤの最大市場であり一方で競争の激しい単結晶型シリコンウエハ向けにおいては、品質重視の大手ユーザーを開拓し、現在は評価ステップを順調にクリアしている。
またダイヤモンドワイヤの細線化(Φ70μm、Φ60μm)でリードしており、市場から性能の安定性で高い評価を受けている。こうした実績をベースに、中国外を含む複数の大手ユーザーとの本格的取引が近いうちに始まると見込んでいる。

②一方、多結晶型シリコンウエハ向け市場は、規模は単結晶型の2倍以上となるものの、多結晶型シリコンウエハは割れやすく加工性に劣るためダイヤモンドワイヤの普及が進まず競合も少ない。
同社は高性能ワイヤの開発と、スライス周辺での技術革新を進め、ダイヤモンドワイヤによる多結晶シリコンウエハ加工における課題の解決を進めている。
こちらもこの実績を元に、大手多結晶シリコンウエハメーカー複数社での採用が決まり、販売が開始される見込みである。
 
 
新規事業について
 
ダイヤモンドワイヤに次ぐ新たな収益の柱を打ち立てるべく、2つの新規事業の早期事業化に取り組んでいる。
 
①マイクロリアクター関連事業
化学品生産のために使われている従来の「バッチ式」と呼ばれる技術は、各種原材料を混合して加熱・冷却により目的の化学品を作り出すが、大容量を一度に合成できる反面、均一に混ざりにくい、危険がある、大規模設備で莫大なエネルギーを消費する、多量の廃棄物を排出するなど課題も多い。

これに対し、数十から数百μmの微細な流路が設けられたマイクロリアクター(微小反応器)と呼ばれる機器の中で、その流路が合流し、流れのなかで混合、加熱・冷却、分離が行われ理想的な化学反応が起こり化学品の生産が行われるフロー合成技術は、省エネでかつ安全という大きなメリットを持ち、社会的な需要が急速に高まっている。

同社では、ダイヤモンドノズルやダイヤモンドワイヤの研究・開発・製造の過程で取り組んできたナノテクによる金型作りの技術を活用してこのマイクロリアクターシステムの事業化を目指している。

具体的には、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)バイオメディカル研究部門と、医薬品創製の効率化に繋がる自律型自動合成装置の共同開発に着手した。

医薬品の創製には数十万の化合物合成を行う基礎研究の段階で人手による多大な時間と労力が必要であり、結果として製薬メーカーの競争力低下、薬剤費高騰という課題が浮かび上がっている。
こうした現状に対し、医薬候補品の解析・設計・合成を行う365日24時間自動運転可能な「自律型合成装置」を開発してこれらの課題を解決しようというのがこのプロジェクトである。

開発を目指す「自律型合成装置」は従来の10分の1以下というスピードで医薬候補品を創出し、新薬開発期間の短縮や国際競争力の強化に寄与する。

2016年9月には新たな拠点として「フロー合成研究所」を開設し開発体制を強化した。
まず第1段階としては、製薬会社や公的機関からの化学品の合成や研究を受託し、これら受託合成や受託研究による事業を開始する。
第2段階では創薬に関する知見の集積による医薬ベンチャーの創出を目指している。
 
 
②ゼオライト関連事業
ゼオライトとは、シリカ(二酸化ケイ素)とアルミナ(酸化アルミニウム)を主成分とし、無数の穴を持つ多孔質構造が特長で、1gでテニスコート1面分以上という大きな表面積を持つ物質。
その特長から、「吸着」、「イオン交換」、「触媒」といった機能を持っており、排気ガスを浄化する自動車用排ガス処理触媒などの化学分野、放射性セシウムの吸着材などの環境分野、マスクなどに用いられる抗菌剤などの生活分野など様々な場面で用いられている。
一般的にはミクロンサイズの粒子が流通しているが、粒子径をナノサイズ化することにより、飛躍的にこれらの基本性能が向上し、新たな用途への展開が期待できる。
ただし、これまでのナノ粒子製造手法では製造コストが高く、具体的な市場評価が進んでいなかった。

そうした中、同社ではマイクロリアクター関連事業同様に長年培ってきたナノテクノロジーと、東京大学が保有する「粉砕・再結晶化」技術を活用して、ゼオライトのナノ粒子化のための革新的プロセスの開発に着手した結果、低コストで直径が通常のゼオライトの100万分の1となる「ナノサイズゼオライト」の製造に成功した。
(この「粉砕・再結晶化プロセス」は特許出願中。)

2016年4月にはプレ量産を開始し、日本、中国の展示会に出展したところ問い合わせが多数寄せられている。
2016年8月には、同社と東京大学で共同研究を行っている研究課題「ゼオライトナノ粒子の製造方法と粒径制御技術」が、国立研究開発法人科学技術振興機構の研究成果最適展開支援プログラム「A-STEP」の一つであるステージⅢ(NexTEP-A タイプ)に採択された。

A-STEP は大学・公的研究機関などで生まれた国民経済上重要な科学技術に関する研究成果を基にした実用化を目指すための研究開発フェーズを対象とする技術移転支援プログラム。
大学等の研究成果からシーズ候補を企業の視点から掘り起こして、シーズとしての可能性を検証して顕在化させるフェーズという実用化に向けた研究開発の初期段階から、顕在化したシーズの実用性を検証する中期のフェーズ、さらには製品化に向けて実証試験を行うために企業主体で企業化開発を実施する後期のフェーズまで、それぞれの研究開発フェーズの特性に応じた複数の支援タイプにより実施しており、ステージⅠ、ステージⅡ、ステージⅢの3つのステージから構成されている。
同社が採択されたステージⅢ(NexTEP-A タイプ)は、「大学等の研究成果に基づくシーズを用いた、企業等が行う開発リスクを伴う規模の大きい開発を支援し、実用化を後押しすることで、大学等の研究成果の企業化を目指す。」ことを目的としている。

今回の決定により、共同研究の進展に弾みがつくものと会社側は考えている。また、研究開発費が助成される(開発成功時全額年賦返済、または不成功時10%返済)ことから、当該共同研究に係る資金負担によるリスクが軽減される効果も期待できる。

今後は、積極的なPR活動、市場の早期創出、低コスト中量生産体制の確立などを通じて、産官学連携で事業化に向けた開発を加速する。
 
 
 
今後の注目点
厳しい事業環境の下、第2四半期業績は大幅な下方修正を余儀なくされた。
ただ、通期予想に関しては据え置いている。
会社側の想定通り、市況好転が継続、単結晶および多結晶シリコンウエハにおける大型ビジネスが進展により投資家の期待、信頼にこたえることができるか?、注目される。