ブリッジレポート
(4043:東証1部) トクヤマ 企業HP
横田 浩 社長
横田 浩 社長

【ブリッジレポート vol.1】2017年3月期業績レポート
取材概要「前17年3月期、追い風を生かし、想定以上のスピードで過去の清算を完了させることができた同社だが、株価は16年3月期決算および中期経営計画の発表・・・」続きは本文をご覧ください。
2017年6月27日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社トクヤマ
社長
横田 浩
所在地
東京都千代田区外神田1-7-5 フロントプレイス秋葉原
事業内容
多結晶シリコンを始めとする半導体関連製品の情報・電子分野、メガネ関連材料や歯科材料などの生活・医療分野、資源環境事業等を含む環境・エネルギー分野を主なフィールドとして事業を展開する総合化学メーカー。1918年創業。
決算期
3月末日
業種
化学(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2017年3月 299,106 39,720 33,998 52,165
2016年3月 307,115 23,071 17,725 -100,563
2015年3月 302,085 19,530 12,920 -65,349
2014年3月 287,330 20,270 14,965 10,218
株式情報(6/16現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
500円 347,821,096株 173,910百万円 58.5% 1,000株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
4.00円 0.8% 36.72円 13.6倍 305.49円 1.6倍
※株価は6/16終値。発行済株式数、BPSは直近期決算短信より。ROEは前期実績。
 
トクヤマの2017年3月期決算および中期経営計画概要、横田代表取締役社長執行役員へのインタビューなどをお伝えします。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
ソーダ灰、苛性ソーダなど幅広い用途に用いられる必要不可欠な基礎化学製品、多結晶シリコンを始めとする半導体関連製品、国内第4位の生産量のセメントのほか、メガネ関連材料やジェネリック医薬品原薬などを展開する総合化学メーカー。1918年創業。多様な特有技術から生み出される先端製品、高度に統合・集積された徳山製造所の競争力などが大きな強み。
 
【1-1 沿革】
1918年にガラスの原料であるソーダ灰(炭酸ナトリウム)の国産化を目指し、創業者 岩井勝次郎により「日本曹達工業株式会社」として設立された。現在でもソーダ灰製造を継続する唯一の国産メーカーである。
1938年にはソーダ灰事業の副産物を生かした湿式法によるセメント製造を開始した。
第二次大戦後、無機関連事業を伸張させた後、高度経済成長時代に入ると、塩化ビニルやポリプロピレンなど石油化学関連事業を拡大させた。
2度のオイルショックを経た後は、電子材料・ファインケミカルなど高付加価値分野へ進出。1984年には、現在では世界トップスリーに入る多結晶シリコン事業に進出した。また、1985年には電子部品の放熱材料として用いられる窒化アルミニウム粉末を独自開発の製法である還元窒化法により製造を開始した。
以降も、メガネレンズ材料や歯科器材など生活・医療分野、環境・エネルギー分野などへ事業フィールドを拡大させてきた。

ただ、2009年にマレーシアに設立した連結子会社「トクヤママレーシア」における多結晶シリコン事業が市況下落により大幅に収益が悪化。これにより15年3月期、16年3月期に多額の減損損失を計上し無配に転じた。
こうした状況に対し、2016年5月には「財務基盤の再建」に向けた種類株式の発行による資金調達を実施。
同時に、「あらたなる創業」に向けたビジョンの下、5年間の中期経営計画「再生の礎」を策定・発表し、組織風土の変革、事業戦略の再構築などの重要課題に取り組んでいる。18年3月期には4期ぶりの配当を予定している。
 
【1-2 経営理念など】
1989年に制定された「基本理念」、「行動指針」の抜本的な見直しを行い、2016年の中期経営計画「再生の礎」策定時に、新たに「存在意義、「目指す姿」、「価値観」からなる、あらたなる創業に向けた「トクヤマのビジョン」を制定した。
2018年に創業100年を迎える同社が、次の100年に向けて「トクヤマ再生の礎」を築き、持続的成長を遂げていくためには、改めてトクヤマの存在意義と進むべき方向性を明確にする必要があると考えた。
事業戦略をはじめとする会社の活動の大本は、このビジョンに繋がっている。
 
 
【1-3 事業内容】
事業セグメントは化成品、特殊品、セメント、ライフアメニティー、その他の5つ。(報告セグメントは前者4つ。)
 
 
◎化成品
<概要・主要製品>
ソーダ灰、苛性ソーダ、塩化カルシウムなど、幅広い用途に用いられ、各産業において必要不可欠な基礎化学製品を取り扱っている。
また、苛性ソーダの製造工程で発生する塩素と水素は多結晶シリコンの製造工程で使用されるなど、効率的な事業運営が行われている。
「顧客に選ばれ続けるトクヤマを実現する」という部門目標のもと、顧客企業個々のニーズに見合った安定的かつタイムリーな製品・サービスの提供に努めている。
 
 
 
 
<基本方針と施策>
顧客ニーズに沿った、高品質及びコスト競争力に優れた基礎化学素材及びサービスを提供することにより、顧客の事業発展に貢献するとともに、中核事業として安定的かつ、継続的な収益向上に貢献する。
 
 
◎特殊品
<概要・主要製品>
取扱製品群は、エネルギー、エレクトロニクス、環境など多方面に亘る。半導体に使われる高純度多結晶シリコンは、世界有数のシェアを有する。またその副生物から製造する乾式シリカはシリコーンゴムや複写機トナーなどに使用されている。放熱性に優れた窒化アルミニウムは、半導体製造装置のほか、インバーター、LEDなどの省エネルギー分野で、電子工業用高純度薬品は半導体、液晶パネルの製造などで使用されている。
 
 
 
 
<基本方針と施策>
顧客から選ばれ続ける製品の供給と開発品の提案により事業と収益の拡大を図る。
 
 
同社が製造している世界シェア20%の多結晶シリコンや放熱材用窒化アルミニウムなど半導体製造プロセスに不可欠な様々な半導体関連製品は、同社が長年かけて開発・蓄積してきた様々な特有の要素技術の組み合わせから創出された先端材料であり、どれも世界的に極めて高い競争力を有している。
 
 
半導体製造分野では半導体の大容量化・小型化に伴う 半導体の微細化・3次元化が急速に進んでいる。
同社の「半導体用高純度多結晶シリコン」、「電子工業用高純度薬品」は、歩留まり悪化を引き起こす不純物、残渣物を極限まで低減させた超高純度材料であり、微細化・3次元化を進める半導体メーカーから高い評価を得ている。

また、半導体の安定した動作に不可欠な放熱材料においても同社製品の評価は高い。
近年、車載用、産業機器、電鉄向けパワーデバイスの高出力化・小型化に伴い放熱材料の需要が急増しているが、同社では、窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウムセラミックス、窒化ホウ素など、独自の還元窒化法により開発された不純物の極めて少ない高熱伝導率の放熱材料を供給している。

上の図の様に、原料から最終製品に至る半導体製造プロセスにおいて、「点」ではなく、多様な先端製品を「面」で供給することで、より大きな事業機会を創出し、需要を取り込んでいく考えだ。
 
◎セメント
<概要・主要製品>
1938年、徳山製造所内の副産物の有効活用という観点でスタートした。徳山製造所南陽工場で製造するセメントやセメント系固化材など関連製品は、生コンクリートやコンクリート二次製品として、住宅・ビル・ライフラインを支える構造物、港・橋・道路など社会資本となり人々の暮らしを支えている。 社内だけでなく、社外からも廃プラスチックや家庭ゴミを燃やした後の灰など多くの廃棄物を受け入れ、セメントを製造する工程で原料や熱エネルギーとして利用しており、資源循環型社会の形成に貢献している。
 
 
<基本方針と施策>
事業環境の変化に柔軟に対応し、最適な製造・販売・物流体制を整備・構築する。輸出拡大による廃棄物処理収益の最大化、原価低減による競争力強化を図る。
 
 
2013年6月に買収したトクヤマニューカレドニアは、営業利益、キャッシュ・フローともに4期連続で大幅黒字を継続している。クリンカ(セメントの製造過程でできる塊状の物質で、粉砕してセメントを作る。)の輸出先としてもセメント部門の収益改善に寄与している。

中長期では人口減に伴う国内需要の縮小が不可避であるため、安定した輸出先の確保による販売数量の増大、セメント工場の稼働率向上、廃棄物受け入れ拡大を目指し、トクヤマニューカレドニアに続く海外粉砕工場の展開を検討・推進していく。
 
 
◎ライフアメニティー
<概要・主要製品>
トクヤマ本体が手掛けるファインケミカル事業とNF事業および、グループ会社が開発・製造・販売するイオン交換膜、歯科材料、臨床検査システム、ポリオレフィンフィルム、樹脂サッシ等から成る。
ファインケミカル事業では、同社の強みである有機合成技術から生まれた、メガネ関連材料やジェネリック医薬品原薬・中間体を中心に事業展開をしており、NF事業では、水は通さず空気や湿気は通すというフィルムを製造販売している。
海外グループ会社としては、中国はじめ新興国で急速に需要が伸びている紙おむつ用の通気性フィルムの製造販売を担っている上海徳山塑料などがある。
 
 
 
<基本方針と施策>
顧客起点の開発・製造・販売体制の確立・強化により、国内外の市場で優位なポジションを獲得。事業の拡大を図り、人々の生活・健康(QOL)の改善に貢献する。
 
 
同セグメントでは、フォトクロミック材料(調光材料)の成長に力を入れている。

フォトクロミック材料とは、太陽光(紫外線)を照射すると無色からグレーやブラウンなどに発色し、照射を止めると再び無色の状態に戻る樹脂材料。
近年では、スポーツウェア・ドライブウェア用途に加え、有害紫外線への意識の高まり、高齢化にともなう緑内障など眼の疾患増加を背景に、フォトクロミック材料の使用が増大している。

同社製品は、「赤・青・黄の3原色発色による豊富なカラーバリエーション」、「速い発色および退色速度」、「夏場の高温下でも十分な発色性能」、「優れた耐久性」、「紫外線を99%以上カット」といった特長を持っている。
こうした特長を訴求し、製品仕様に関する顧客ニーズへの対応など細やかな顧客対応や製品ラインナップの拡充によりシェア拡大を図るとともに、視認性向上、紫外線遮蔽などの特長を活かした新規用途の開拓も進める。
 
 
◎その他
報告セグメントである「化成品」、「特殊品」、「セメント」、「ライフアメニティー」に含まれない事業セグメントで、海外販売会社、運送業、不動産業などを含む。
 
【1-4 研究開発】
「化学技術で暮らしに役立つ価値を創造する」という研究開発の理念に基づき、①顧客起点をベースに事業にコミットした研究開発の推進、②特有技術の深耕と新技術との融合によるオンリーワン、ナンバーワン技術の創出、③技術を基軸としたマーケットインによる独自製品の創出、の4つを目指して研究開発に取り組んでいる。

高齢化社会の到来、環境重視、ICT技術の飛躍的発展・普及などを見据え、化学メーカーとしてこれまでに培ってきた無機や有機の材料合成、高純度化、結晶・析出、粉体制御、焼結などの特有技術をベースにしつつ、更に新たな技術を融合して、先端材料で世界トップとなる研究開発を目指している。

研究開発拠点として「開発センター(つくば研究所)」(茨城県つくば市)、「分析・解析センター(徳山総合研究所)」(山口県周南市)を持ち、東西2拠点体制を敷いている。
「開発センター(つくば研究所)」では、中長期的な視点に立った先端技術開発、基盤技術としての分析解析技術開発、複合材料を特徴とする歯科材料分野、高付加価値製品をターゲットとした有機ファインケミカル分野の研究開発を行っている。

徳山製造所内に立地する「分析・解析センター(徳山総合研究所)」は、徳山地区の研究・開発の拠点。
徳山地区の開発グループのみならず様々な研究・開発チームが集まることによって得られるシナジー効果や、ものづくりの現場である製造部にも近く情報交換が容易といったメリットも大きい。
 
 
同業他社に比較し、売上規模は下位に属するが、2桁の営業利益率と収益性は高く、株価評価は上位に属する。
今後はトクヤママレーシアの整理を終えた通常ベースでのROA、ROEの推移を注目したい。
 
【1-6 特長と強み】
①多様な特有技術から生み出される先端製品
有機・無機合成、高純度化、粉体制御、結晶・析出、焼結、電解、精製、焼成、資源再処理など長年に亘って蓄積・磨き上げてきた特有技術をベースにしつつ、更に新たな技術を融合して、無機薬品、セメント、シリカ、シリコン、窒化アルミニウム、半導体用高純度薬品、レンズ材料、イオン交換膜、各種フィルムや樹脂、センサ材料、歯科材料等の先端製品を生み出してきた。

例えば、放熱材で幅広く用いられている窒化アルミニウム粉末を創り出す還元窒化技術は同社のオリジナル。
不純物の極めて少ない良質な同社の窒化アルミニウム粉末はその競争力の高さから70%の世界シェアを有している。
また、現在では世界最高レベルの高純度を実現し、世界のトップスリーに入る多結晶シリコンも、自社の電解プラントから生成される水素と塩素の有効活用を目的に進出したものであり、極めて幅広く、奥の深い技術基盤がこのような飛躍を可能にしたと言えるだろう。
 
②高度に統合・集積された徳山製造所の競争力
特有技術により生み出される製品の低コストでの製造、世界中への供給のために不可欠なのが徳山製造所。
国内有数の港湾インフラと自家発電所を有する徳山製造所は、以下のような特長を持っている。
 
国内第8位の発電量の自家発電所により、競争力あるコストで電力を使用することができる。
無機・有機化学、セメント、電子材料などの工場が複合的に集積し、原料・製品・副産物・廃棄物を相互に有効活用することが可能である。
セメントキルン(セメントの焼成に使う窯)への自社廃棄物受入れによりゼロエミッションを実現している。また、周南コンビナートの外部企業の廃棄物も受け入れており、環境面での社会貢献も果たしている。
 
 
また、大型輸送船も着岸可能な水深10メートル以上の天然の良港も有しているため、原材料および製品の大量搬入・搬出も可能。
徳山製造所における高度に統合・集積された高効率の生産・供給体制は同社競争優位性の源泉となっている。
 
 
2017年3月期決算概要
 
 
減収も稼働率改善、製造コスト減少等で大幅な増益。
売上高は前期比 2.6%減の 2,991億 6百万円。多結晶シリコンなどの販売数量が増加し特殊品は好調だったが、石化製品の販売価格軟化、セメントも国内は軟調で減収となった。
ただ、トクヤママレーシアの稼働率改善、原燃料価格下落などで粗利率は大幅に改善。減価償却費の減少等もあり、営業利益は同72.2%増の397億20百万円。
 
 
 
 
 
 
ガスセンサの製造・販売を行うフィガロ技研株式会社の株式の一部を譲渡したことに伴い、第2四半期より連結から除外している。
 
 
売上債権の増加などで流動資産は前期末比28億円増加。固定資産は、繰延税金資産、投資有価証券の増加などで同201億円増加し、資産合計は同230億円増加の4,244億円となった。
長短有利子負債の減少で、負債合計は同526億円減少の2,884億円。
利益剰余金の増加、A種種類株式の発行などにより純資産は同757億円増加.。
この結果、自己資本比率は前期末の12.8%から17.1%上昇の29.9%となった。
 
 
損失から利益に転じた一方、法人税等の支払額が増加し、営業CFのプラス幅は縮小した。
有形固定資産の取得による支出の拡大、投資有価証券の売却による収入の減少等で投資CFはマイナスに転じ、フリーCFのプラス幅は縮小した。
長期借入金の返済による支出額の減少などで財務CFのマイナス幅は縮小。
キャッシュポジションは低下した。
 
(4)トピックス
◎単元株式数の変更および株式併合を実施
全国証券取引所は、「売買単位の集約に向けた行動計画」に基づき、2018年10月1日までに国内上場会社の普通株式の売買単位(単元株式数)を100株に統一することを目指している。
同社は東京証券取引所に上場する企業として、この趣旨を踏まえ、普通株式の単元株式数を1,000株から100株に変更することとした。
変更予定日は2017年10月1日。

また、この単元株式数変更にあたり、投資単位を適切な水準に調整することを目的として、5株を1株に併合する株式併合を実施することとした。
2017年10月1日をもって、同年9月30日(実質上9月29日)の最終の株主名簿に記録された株主の所有株式5株につき1株の割合で併合する。
 
 
2018年3月期業績予想
 
 
増収減益を予想
売上高は前期比0.3%増の3,000億円の予想。塩ビモノマー、セメントなどの販売数量が増加するほか、石化製品等の販売価格是正が進む。
営業利益は同9.4%減の360億円を計画。数量増効果40億円はあるものの、原燃料および修繕費などのコスト増加80億円を見込んでいる。
当期純利益は同75.1%減少の130億円の予想。トクヤママレーシア譲渡に伴う特別損失を計上する。
配当は4.00円/株の復配予定している。予想配当性向は10.9%。
 
 
 
 
中期経営計画「再生の礎」
 
【1-1 沿革】で触れたように、15年3月期、16年3月期に多額の減損損失を計上し無配に転じた同社は、新たな利益成長の原動力が必要であることから、2016年5月、「あらたなる創業」に向けたビジョンの下、5年間の中期経営計画「再生の礎」を策定・発表した。
組織風土の変革、事業戦略の再構築などの重要課題に取り組んでいる。
 
(1)中期経営計画「再生の礎」概要
①現状認識
無機化学・有機化学を事業基盤とした当社は、1970年代のオイルショックを経て、スペシャリティケミカル分野への進出や海外展開を推し進め、事業を拡大してきた。
2000年代後半に特殊品事業の収益性が上昇する一方で、化成品やセメントを中心とする汎用品事業は、国内の市場縮小の影響を受け、収益性が低下してきた。
高効率な製造所、国内屈指の自家発電能力などの創業来の強みを生かした化成品、セメント等を基盤とし、スペシャリティケミカル分野へ進出を図り、高純度化、粉体制御、有機・無機合成、結晶・析出、焼結など、新たな強みを培ってきた。
一方、スペシャリティケミカル分野で蓄積された技術力を、半導体向け多結晶シリコン以外の事業の拡大に十分に結びつけることができていなかった。新規事業創出の空白期間ができてしまった。
ネット有利子負債は2009年には実質無借金に近い水準まで低下したものの、その後マレーシアへの巨額投資に向けた資金調達により急速に増加し、財務体質も大幅に悪化。15年度のD/Eレシオは4.7倍まで上昇した。
 
こうした現状認識の下、伝統事業では国内汎用品市場の縮小、電子材料事業では成長率の鈍化が予想される中、以下の反省点を克服し、新たな利益成長の原動力を創り出すことが不可欠であると考えている。
 
「徳山製造所への過信と依存」
「内向き思考、待ちの姿勢の蔓延」
「コーポレートガバナンスの弱体化」
「全社及び各部門の戦略方向性が不明確」
 
②経営方針
以下の「トクヤマのビジョン」をベースに、事業体質の転換、仕事のやり方の抜本的な見直しを経営戦略の柱とし、2025年度までの達成を目指す。
 
 
 
 
(成長事業のドライバー)
成長事業では、先端分野において培ってきた特融技術を活用し、社会のニーズに応える製品開発を行う。
分野としては、ICT、ヘルスケアに期待している。
ICT分野においては、放熱材料の窒化アルミニウム生産ラインの増設、窒化ホウ素の事業化、多結晶シリコンの増産に取り組む。
ヘルスケア分野においては現在展開中の歯科器材、診断薬分野を核に、M&Aも視野に入れながらさらなる成長を目指している。

(部門横断的コスト削減活動)
原燃料、修繕費、物流費といった主要コスト項目削減のため、従来とは異なる部門横断的なアプローチや戦略的な設備投資実施によるコスト削減を目指す。
2020年に目標とする全社コスト削減額は40億円。

(研究開発)
既存事業の拡大、及び特有技術を活かした新規領域への展開を実現するため、研究開発体制を顧客ニーズに立脚したものへと転換する。
研究開発人員もコーポレートではなく、事業部やグループ会社のウェイトを高め、より一層外を向いた研究開発を進める。

(設備投資計画と戦略的投資枠の設定)
2016〜2020年度5年間累計設備投資は960億円を計画。うち26%を多結晶シリコン高品質化対応、放熱材料拡充など新増設へ振り向け成長への足場作りを進める。
同時に成長事業の拡大や、伝統事業の競争力強化を目的とした戦略的投資枠200億円を別途設ける。内訳は、伝統事業に65%、成長事業に35%。
 
③重点課題と施策
4つの重点課題と施策を掲げ取り組みを進めている。
 
 
(2)中期経営計画「再生の礎」の進捗
①重点課題の成果と今後の施策
<1.組織風土の変革>
再生のための最重要ポイントと考えている。

17年3月期は、社長による社内対話を始めとしたビジョン浸透のための活動、基幹職人事制度の改定、外部専門家による講演会を通した人材育成などを行った。

今後は、ビジョン浸透のための活動を継続しつつ、総合人事制度の改定、人材育成制度の改革、社外人材の積極採用を進める。
 
<2.事業戦略の再構築>
成長事業では世界トップ、伝統事業では競争力で日本トップを目指している。

17年3月期は、半導体用多結晶シリコンプラント再稼働、窒化アルミ増産、太陽電池用多結晶シリコンおよびガスセンサ事業の持分譲渡、ソーダ灰と塩ビ事業合理化、電解フル稼働による収益改善、セメント輸出増大による稼働率改善、徳山製造所における部門横断的コスト削減活動「BRIGHTII」の開始、財務指標や重要課題に関するPDCA管理の徹底を進めた。

今後は、半導体用多結晶シリコンの微細化に対応した品質差別化と増産、電子工業用高純度薬品(IPA、現像液)の能力増強を図る。
特に、微細化対応は同社の競争優位性を十分発揮できるフィールドであり、更なる拡大を目指す。
また、研究開発体制再構築とオープンイノベーションによる事業領域拡大にもスピードを重視して臨む。
 
<3.グループ経営の強化>
従来はグループ各社の位置付けが不明瞭だったが、事業子会社においては本体からの人材面による強力なサポートによるグループの成長戦略への貢献、機能子会社においては、徳山製造所と一体でのコスト削減活動を通じたコスト削減によるグループへの貢献と、位置付けや役割を明確にする。

17年3月期は、事業の位置付けおよび存在意義の再検証、子会社フィガロ技研の持分譲渡、トクヤママレーシアの譲渡決定、子会社サン・トックスのスクラップアンドビルド、同じく子会社エイアンドティーの工場増強など大きな進展があった。

今後は、事業子会社との資本および人材における一体運営、微多孔質フィルム関連の中国2社およびエクセルシャノンの収益改善を進める。トクヤママレーシアに関しては2017年5月31日付で譲渡が完了した。
 
<4.財務体質の改善>
利益の積み上げによる自己資本の回復や財務基盤の早期安定化を図る。

17年3月期は、A種種類株発行による財務基盤強化、有利子負債301億円削減、D/Eレシオ3.06ポイント減少(改善)といった成果を見ることができた。

今後は有利子負債の更なる削減、金利負担軽減、事業収益積上げによる資本充実を図る。
A種種類株に関しては2017年6月14日に取得および償却が完了した。
 
②設備投資
17年3月期の173億円に対し、18年3月期は207億円を予定している。
そのうち、増設・拡販投資は前期の62億円に対し、今期は78億円を計画。

半導体関連材料の品質改善投資、窒化アルミ粉末増産のほか、子会社サン・トックスにおけるポリオレンフィルムの最新鋭設備導入、同じく子会社エイアンドティーの江刺工場増設などを進める。
 
③研究開発
前期75億円、今期90億円と高水準の研究開発を継続する。
 
 
 
横田代表取締役社長執行役員に聞く
 
横田代表取締役社長執行役員に、自身のミッション、中期経営計画の進捗、株主・投資家へのメッセージなどについてお話を伺った。

横田社長は1961年10月生まれの55歳。労務管理、海外を含む営業などを歴任後、2015年3月社長執行役員、同年6月代表権を持つ社長執行役員に就任した。
あらたなる創業に向けた「トクヤマのビジョン」を掲げ、中期経営計画「再生の礎」遂行による同社再生を強力なリーダーシップで牽引している。
 
Q:「2015年3月に社長に就任し、新たな経営体制をスタートされましたが、ご自身のミッションは何であると考えていますか?」
A:「人作りに尽きる。組織風土変革を通じ社員の意識を「顧客志向」、「外向き姿勢」に変えることが、明日の当社を担う人材を創出することにつながる。」
 
社長としてのリーダーシップの発揮と共に、人作りに尽きると考えている。
現在遂行中の中期経営計画の重点課題の一つ「組織風土の変革」はまさに、トクヤマの再生に向けた人作りだ。

トクヤママレーシアにおける巨額な減損損失により大変苦しい状況に陥った当社だが、それはあくまでも一つの事象であり、より根深い問題は当社が本来持っていたはずの「顧客重視の志向」や「外向きの姿勢」という大切な企業風土が失われ、「内向き志向」が社内に蔓延していたことだと考えている。

長年培ってきた多岐に渡る優秀な特有技術や、徳山製造所という競争力の高い事業基盤があるだけに、発想がプロダクトアウト型に偏り、市場や顧客ニーズに対する意識が希薄化していた。
残念ながらこの約20年間、多結晶シリコン以外に目立った収益の柱となるような新製品を一つも創出することができなかったことがそれを示している。

そうした反省に立ち、組織風土の変革を通じ社員の意識を「顧客志向」、「外向き姿勢」に変えることが、明日の当社を担う人材を創出することだと考えている。
 
Q:「具体的には経営トップとしてどんなことに取り組んでいらっしゃいますか?」
A:「ビジョンの趣旨を全社員に直接説明したことに加え、風土改革には課長クラスの意識改革が不可欠であるため座談会形式の意見交換、指導に取り組んだ。今後も継続して実施する。」
 
長年染みついてきた風土や意識を変えるのは安易なことではなく、まず経営トップが自ら行動を示しながら牽引していくことで、リーダーやそのメンバーたちに大きな影響を与えられると信じている。

このため、中期経営計画の初年度である前期2016年度は、上半期において「トクヤマのビジョン」をトクヤマグループの社員全体に深く浸透させるため、社員に直接主旨を説明した。
下半期からは、課長クラスを対象に座談会形式で、業務の改革、仕事の改革、意識の改革などに関する意見交換や現場指導に取り組み、合わせて基幹職人事制度も改定した。
組織の要である基幹職、とくにメンバーに直接指導する課長クラスの意識改革がない限り、ビジョンの浸透もなく、それに基づいた風土変革も成功しない。
この活動は、今後も進捗管理を合わせて毎年継続して行いたいと考えている。
 
Q:「日頃社員には具体的にどんなことをお話ししているのですか?」
A:「お客様の期待に応えられているのか?を常に意識して仕事に取り組んでほしい。」
 
とにかく今までの「当たり前」や「常識」を見直せということだ。
その際の重要な視点は、お客様の期待に応えられているのか?ということ。
自分では従来通りに進めている当たり前の仕事が、実はお客様には十分な満足を与えられていないとか、同業他社のパフォーマンスからは劣っているということに気付かない、これがまさに「内向き志向」だ。

これを改革するために、社員には、「①自分の仕事の価値は何か?」、「②誰に対してその価値を提供しているのか?」、「③価値の受け手は満足しているのか?」、「④それを相手に確認したのか?」、「⑤結果どうだったか?」の5つを常に考えて仕事してほしいと言っている。
この5つのポイントを明確にしたうえで何を改善、改革しなくてはいけないかを毎日考えることで、必ず仕事の成果に変化が生まれてくる。

部署や職種によって一様ではないが、社員の意識はずいぶん変わってきたと感じている。
特に、新しいビジネスが立ち上がり、お客様からの評価も高い部署ではメンバーの目の色も変わってきている。
もちろん組織風土変革はまだまだ道半ばではあるが、変化が生まれつつあることは嬉しい限りだ。
若手社員の積極登用なども含め、強力に進めていきたい。
 
Q:「新しい中期経営計画に取り組んで1年がたちました。手応えはいかがですか?」
A:「過去の清算は当初想定した以上のスピードで進めることはできた。利益も大幅に増加し、全社あげての努力で追い風を活かすことができた。」
 
トクヤママレーシアの処理、優先株の消却など、過去の清算は当初想定した以上のスピードで進めることはできた。
原燃料コスト減少などの追い風もあり、営業利益は期初の見通しを大幅に上回り、もちろん実力以上の結果ではあったが、全社あげての日々の地道な努力で追い風を活かすことが出来たと考えている。
配当については、今期も中期経営計画に沿った利益計画達成が見込まれることから、2018年3月期の中間配当および期末配当はそれぞれ2円、合計4円/株と、4年ぶりの復配を予定している。
ただ、当然だがまだまだ満足できるものではない。成績表でいえば60点、なんとか「可」が取れたという感覚だ。
 
Q:「御社にとっての生命線ともいうべき研究開発への取り組みはいかがでしょうか?」
A:「研究開発は重要な経営戦略の一つであるという位置づけを改めて明確にしたうえで、マーケットニーズに対応し、当社の強みが十二分に発揮できるテーマや方向性を絞り込んでいく。」
 
残念ながら研究開発については、重要な経営戦略の一つであるという意識がこれまで経営サイドにおいて必ずしも明確ではなかった。
また、開発の現場においても、内向き姿勢であるがゆえマーケットのニーズと対峙していないために開発の出口に向けたストーリーが描かれていなかった。
こうしたことが、研究開発の停滞、新製品開発の遅れの大きな原因だったと分析している。

そこで、まず研究開発は重要な経営戦略の一つであるという位置づけを改めて明確にしたうえで、取締役会では、どれだけの経営資源を投入し、どういうテーマ・方向性で研究開発を進めれば当社の強みが発揮できるのかという視点で議論を行うようにした。

また同時に、研究開発の現場では新たに任命した開発部門長が有志を集めて、当社が強みを持つ要素技術は何か、製品が内包する強みは何かを明確にしたうえで、マーケットや顧客のニーズに立脚してどういう方向性で研究開発を進めて行くべきかについて頻繁に議論を行っている。
現場スタッフの真剣な議論から生まれてくるストーリーや方向性が具体的に出てくれば、社内の意識も大きく変革するのではないかと大いに期待している。

経営としては、現場の意見をベースに議論を進め、決定した研究開発を実際に進めていくために不足している資源があれば、それをどう調達するかが重要な責務だと考えている。
人なのか、金なのか、技術なのか、M&Aも含めて外部とコラボレーションしながらスピード重視で進めていく。

研究開発体制の強化は、社員の意識改革と同様、トクヤマ再生のための重要な取り組みであり、こちらも経営が力強くリードしていく。
 
Q:「それでは最後に、株主や投資家へのメッセージをお願いいたします。」
A:「中期経営計画の目標達成と、当社が目指す姿の実現に向けて、全社を挙げて邁進していく。株主、投資家のみなさんには、ぜひ当社の今後に期待していただきたい。」
 
中期経営計画において「伝統事業は競争力で日本No.1」、「成長事業は特有技術で世界No.1」をかかげているが、伝統産業はキャッシュの源泉であるので、事業基盤をしっかりとブラッシュアップし、愚直に効率性を追求し続ける。

一方成長産業では、ICT関連をどれだけ伸ばすことができるかがポイントだ。特に当社が強みを持つ高純度化技術を用いて最先端デバイスのニーズに対応できる開発と製品の研究を進めていく。
こうした戦略の下、投資を今までにないスピード感をもって「数字に変える。」努力を続けていく。

中期経営計画の目標達成と、当社が目指す姿の実現に全社を挙げて邁進していく。
株主、投資家のみなさんには、ぜひ当社の今後に期待していただきたい。
 
 
今後の注目点
前17年3月期、追い風を生かし、想定以上のスピードで過去の清算を完了させることができた同社だが、株価は16年3月期決算および中期経営計画の発表があった2016年6月を底にTOPIXを大きく上回る良好なパフォーマンスを示している。負の遺産の思い切った整理と、収益性を重視する今後の方向性を株式市場は評価しているということであろう。
今後は、中期経営計画の確実な進捗について、数値面はもちろんのこと、横田社長が最大の課題と認識し、注力中の「組織風土の変革」がどのように成果を上げるのかをぜひ注目していきたい。
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2016年6月27日
 
 
 
 
 
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