ブリッジレポート
(7242) カヤバ株式会社

プライム

ブリッジレポート:(7242)KYB vol.3

(7242:東証1部) KYB 企業HP
中島 康輔 社長
中島 康輔 社長

【ブリッジレポート vol.3】2018年3月期業績レポート
取材概要「中計における2020年3月期の目標「売上高3,980億円」に対し、2019年3月期見通しは「売上高4,150億円」と、好調な建機市場を背景に売上高は前倒し・・・」続きは本文をご覧ください。
2018年6月13日掲載
企業基本情報
企業名
KYB株式会社
社長
中島 康輔
所在地
東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービル
決算期
3月末日
業種
輸送用機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 税引前利益 当期純利益
2017年3月 355,316 19,247 18,852 14,544
2016年3月 355,320 4,327 2,825 -3,161
2015年3月 370,425 13,591 15,852 7,052
2014年3月 352,710 18,170 21,032 12,761
株式情報(6/1現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
5,200円 25,748,431株 133,891百万円 8.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
150.00円 2.9% 649.83円 8.0倍 7,055.40円 0.7倍
※株価は6/1終値。発行済株式数、ROE、BPSは前期実績。
 
KYBの2018年3月期決算、中島社長へのインタビューなどをお伝えします。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
独立系油圧機器国内最大手企業。油圧技術をベースに、「四輪車」、「二輪車」、「建設機械」、「産業車両」、「航空機」、「鉄道」、「特装車両」など幅広い分野で製品や技術を提供している。 四輪車用ショックアブソーバで国内シェア46%、グローバルシェア14%など、多くの製品で高いシェアを有する。 【1-1 沿革】 1919年11月に発明家であり創業者である萱場資郎が開設した「萱場発明研究所」がルーツ。 1927年1月に個人経営の萱場製作所を創業し、航空機用油圧緩衝脚、カタパルト等を製作した。 1935年3月に株式会社萱場製作所を創立。 第二次世界大戦終結後、1956年6月に製品の販売・サービスを目的に萱場オートサービス㈱を設立。 1959年10月には東京証券取引所に株式を上場した。 1974年7月、米国にKYB Corporation of Americaを設立し、北米の市販市場へ進出。この後、積極的にアジア、ヨーロッパなど海外市場へ進出する。 1985年10月に商号をカヤバ工業株式会社に変更。 2015年10月にはブランドイメージをより強固にすることを目的に、商号をカヤバ工業株式会社からKYB株式会社に変更した。 【1-2 企業理念・経営理念】 ◎ロゴ 2015年に商号を「カヤバ工業株式会社」から「KYB株式会社」に変更した意図にあるように、同社ではKYBブランドをグローバルベースでより強固なものとしたいと考えている。 そのため、下記のように「KYB」のロゴにもその意味、想いを込めている。
(ロゴに込めた意味) 心地よい日差しと植物の伸びやかな成長そして時代の風にしなやかに対応するイメージを表現しています。Bには液圧を象徴するデザインを付加し、斜体文字によりスピード感、先進性、成長性、革新性を表わしています。 (カラー) 愛、情熱、熱意等の意味を表わす「赤」。太陽の暖かさ、熱さと生命を育む力強さが時代を切り開くイメージを与えます。「KYBレッド」とお呼びください。 (同社WEBSITEより) ◎KYBブランドステートメント
精緻な品質や確かな技術という製品の特性をステートメントで表現している。 一般生活者や取引先へ確かな品質を提供することが、ステークホルダーの「Advantage(優位性)」につながるだけでなく、確かな品質によって社員の一人ひとりが世の中を変えていくことを実感できる、モノづくりの喜びが社員の「Advantage(長所)」ともなるという意味が込められている。 ◎経営理念 人々の暮らしを安全・快適にする技術や製品を提供し、社会に貢献するKYBグループとして、下記の経営理念、経営ビジョンを掲げている。
【1-3 同社を取り巻く環境】 (1)市場環境 同社の業績に大きな影響を及ぼすのは、自動車市場と建設機械市場。 同社では2市場の現在及び今後についてそれぞれ以下のように認識している。 ①自動車市場 自動車の世界需要は、東南アジアをはじめとした新興国が牽引し微増の見込み。 国内自動車販売は一定量の需要が見込めるが、米国との貿易赤字解消交渉の影響は不透明。 市販市場は新興国中心に拡大見込み。 同社は新車用ショックアブソーバ(SA)を、Tier1として自動車メーカーに直接供給しているほか、アフターマーケット向けにも代理店などを通じて部品商、修理工場などに供給している。 同社では前者を「OEM」、後者を「市販」と呼んでいる。 アジア、中東などでは日本車の人気が高く、市販市場は同社にとって重要なマーケットである。
②建設機械市場 中国市場は、全国的なインフラ需要の高まりと更新需要により活況。 欧米市場は、都市型建機としてのミニショベル需要が好調。 インド市場はインフラ投資旺盛で成長持続。 6t以上のショベルカーは高需要が継続、6t未満に関しては堅調な市場拡大が続くと会社側では見ている。 (2)競合状況 ①AC事業 国内では、ホンダが33.4%の株式を保有するショーワ(7274、東証1部)、日立のグループ会社である日立オートモーティブ(非上場)などが競合となる。 グローバルでは独・Sachs、米・Tennecoなど。Sachs社は歴史も古く、欧州系自動車メーカーとの関係が深い。 市販市場の同社シェアは約2割弱。国内ではトキコ(日立製作所がM&Aし非上場。現在は日立オートモーティブの一ブランド)、グローバルではMonroe(Tennecoの市販ブランド)など。 二輪車用ショックアブソーバではホンダとの関係が深いショーワ、ステアリングではジェイテクト(6473、東証1部)、日本精工(6471、東証1部)等と競っている。 ②HC事業 同社で最も売り上げ比率が高いパーツであるシリンダでは、中国メーカーなどが力を伸ばしている。 同社が高い技術力を有するコントロールバルブでは、ナブテスコ(6268、東証1部)など、走行モータではナブテスコ、不二越(6474、東証1部)などが競合である。 また日本の最大手建設機械メーカーは多くのパーツを内製化している。 【1-4 事業内容】 (1)セグメント 事業セグメントは四輪車用・二輪車用油圧緩衝器、パワーステアリング等で構成される「AC事業」、建設機械向けを中心とした産業用油圧機器からなる「HC事業」、コンクリートミキサ車など特装車両、航空機向け機器、システム製品、電子機器などを取り扱う「その他」の3つ。 ①AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業 四輪車用油圧緩衝器、二輪車用油圧緩衝器、四輪車用油圧機器、その他製品で構成されている。
<主要製品> ◎四輪車 (ショックアブソーバ) 車体の振動を吸収する役割を持つ製品で、スプリングを伴い、車体とタイヤの間に取り付けられている。 自動車には、乗り心地や操縦安定性を向上させる機構である「サスペンション」が搭載されている。 サスペンションの機能は主に路面の凹凸を車体に伝えない緩衝装置としての機能と、車輪、車軸の位置を決め、車輪を路面に対して押さえつける機能の2つがある。 基本的には、車軸の位置決めを行うサスペンションアーム、車重を支えて衝撃を吸収するスプリング、スプリングの振動を減衰するショックアブソーバ(ダンパ)で構成される。 自動車は路面の凸凹からくる衝撃に対しスプリングを縮めることで吸収するが、スプリングの特性上、一旦収縮したスプリングは元の位置に戻ろうと反発する。 特にスプリングの上端にはボディー、下端には重量のあるタイヤやブレーキなどを含むサスペンションがつながっており、スプリングは慣性力により元の位置に戻る以上に伸び、縮みを繰り返してしまう。 この余分な揺れをできるだけ早く抑え、車体を安定させるのがショックアブソーバの役割である。 ショックアブソーバが適切に機能している車両は、 スプリングの無駄な動きを抑え、乗り心地を確保 ブレーキ性能が向上 コーナリングがスムーズ など、快適な運転を実現することができる。 スプリングの縮みや伸びの作動を制御し、振動を抑える働きをする力のことを「減衰力」というが、この「減衰力」を作り出すのに大きな役割を果たしているのが、同社が創業以来培い、磨き上げてきた「油圧技術」である。 ショックアブソーバ本体筒にはオイルが入っていて、その筒の中をピストンが移動する。 ピストンには穴があけられており、揺れと合わせピストンが移動する時に穴を通過するオイルの抵抗が「減衰力」となる。また、車体の揺れの度合い、速さなどによりピストンが移動するスピードが変化するが、ピストン移動速度が速いほど「減衰力」は大きくなる。これを「減衰力特性」という。 優れた技術に支えられた同社のショックアブソーバは世界中の多くの自動車メーカーに評価され、後述するように高いシェアに繋がっている。 また、ショックアブソーバは走行距離や経年により劣化し、その機能が低下するため、通常は初年度登録から5年以上、または走行距離10万km以上で交換が必要と言われている。 この交換需要=市販市場も同社にとっては大きな事業機会となっている。 (ステアリング) 自動車の「走る」、「曲がる」、「止まる」という基本機能の一つの「曲がる機能」を分担するのがステアリング装置。 ドライバーが行うハンドルの回転を、油圧式のパワーアシストユニットでサポートし、タイヤを操舵する「油圧式ステアリング(PS)」と、ハンドルの回転を、モータ、コントローラ、トルクセンサ等からなる電動タイプのパワーアシストユニットでサポートし、タイヤを操舵する「電動ステアリング(EPS)」がある。 「PS」は、油圧の力により、わずかな操作でのステアリング操作が可能で、危険回避にも素早く対応できるなど安全運転に不可欠な装備。 一方、バッテリーを動力源とした「EPS」電動タイプは、自動車のエンジンを動力源とした「PS」に比べ、自動車の燃費を向上させることができる。 ◎二輪車 (サスペンション) 路面のコンディションを問わず、車体への突き上げを最小化させ、快適性を追求している。 *リアクッションユニット 車体の姿勢を保ち、路面からの振動、衝撃を吸収することで乗り心地を向上させる。 ②HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業 産業用油圧機器、その他製品から構成されている。 <主要製品> ショベルカーなど建設機械の駆動系機構は、下の図にあるようにコントロールバルブ、ピストンポンプ、走行モータ、旋回モータ、シリンダなどの各パーツで構成されているが、各種アクチュエータ(油圧や電動モーターによって,エネルギーを並進または回転運動に変換する駆動装置)を制御し、走行、旋回、アームの屈伸などの動作をスムーズに行うのが、建設機械の「頭脳」であるコントロールバルブ。 同社のコントロールバルブは、お家芸の油圧技術に電気制御を組み合わせることにより高度な制御を可能としている。 また、同社はこれらのパーツを全て製造している数少ないメーカーである。 全てのパーツを自社で製造しているため、建機メーカーに対してシステム提案ができる点が、同社の大きな競争優位性となっている。 ③その他 特装車両、航空機用油圧機器、システム製品、電子機器などから構成される。 コンクリートミキサ車は、高い混錬、排出性能を誇り、国内シェアは約85%を占めている。 航空機においては、各種アクチュエータ、軽量化アキュムレータ、ホイールブレーキなど、信頼性の高い製品を提供している。また、同社独自の油圧技術を活かした免震および制震用ダンパのシェアは国内トップとなっている。 (2)顧客・商流 ◎顧客 主要顧客は以下の通り。 このうち、グローバルベースでトヨタ製自動車の約6割には同社のショックアブソーバが搭載されているほか、日産で約3割、ホンダで約1割など、高いシェアを誇っている。 ◎商流 前述のように、新車向けOEMと、中古車向け市販という2つの商流でショックアブソーバの供給を行っている。 売上高はOEMの方が大きいものの、自社ブランドで販売をしている市販用製品は収益性も高く、同社としては今後もグローバルに拡大を狙う市場である。 同社の市販用ショックアブソーバは現在世界を走行している日米欧自動車の約9割に搭載が可能である。 このカバー率の高さを支えているのが、トヨタをはじめとした大手自動車メーカーとの強固な関係だ。 (3)グローバルネットワーク 日本を含む24か国にグループ会社48を有し、強固なグローバルネットワークを構築している。 (4)研究開発 (体制) 日本、北米、欧州、中国、タイの5極に開発拠点を設け、グローバルな最適開発・生産体制を確立している。 日本以外の開発拠点は基本的には、モデル製品の開発、性能向上・低コスト化など商品力向上のための開発を手掛け、長期的視点に立った研究開発は日本において、基礎技術研究所(神奈川県相模原市)、生産技術研究所(岐阜県可児市)2つの技術研究所を中心に取り組んでおり、独創性に優れた先行技術等の研究開発を行っている。 また、工機センター(岐阜県可児市)に生産技術研究所や各工場で培われた生産設備設計のノウハウを集約し、先進性および信頼性の向上を図った設備、治工具の内製化を強化・推進している。 また、電子技術センター(神奈川県相模原市)では、電子機器の設計・評価技術の集約を行い、開発力を高め、製品開発から試作評価、そして量産までがスムーズかつスピーディに実施できるような体制を整えている。 製品の高機能化・システム化については、独自開発のほかに、顧客あるいは関連機器メーカーとの共同研究開発を推進しており、産学交流による先端技術開発にも積極的に取り組んでいる。 (R&D費推移) 13年3月期以降、売上高に対するR&D費の水準についての意識を高め、現在は2%程度で推移している。 (注力分野) 性能向上、高機能化・システム化への対応や軽量化・省エネ・環境負荷物質削減などエネルギーや環境問題に配慮した製品開発を進めているが、生産技術力の強化も図っている。 また、グローバル化の加速に伴い、国際感覚を身につけた人財の育成や、標準化されたマネジメントシステムの構築を含めた戦略的なグローバル生産・販売・技術体制の完成を目指している。 近年特に力を入れているのが自動運転に関連した製品開発だ。 その一つが、EPS(電子ステアリング)とショックアブソーバの統合技術。 ドライバーの技量や判断にかかわりなく、様々な路面状況でも自動的により快適、スムーズな運転を可能にする技術は自動運転車には絶対に不可欠なものと考えている。 また、「ステアリング・バイ・ワイヤ」も今後重要性が増大する技術であるとみている。 通常はステアリング操作はステアリングシャフトを通じステアリングギアボックス、タイヤへと伝達されるのに対し、 「ステアリング・バイ・ワイヤ」は、電子信号によってステアリングの操作を伝達するもの。 タイヤから伝わる振動が少ないので疲れにくく、強い横風が吹き、車体が左右に持っていかれた場合、今までのステアリングであれば運転手が意図してステアリングの操作により復元させなければならなかったが、「ステアリング・バイ・ワイヤ」であれば自動的にアジャストされるなどのメリットがある。それに加え、「ハンドルは右前」である必要がなく、デザイン、機能を含め自動車の在り方を大きく変える可能性に注目が集まっている。 実用化にはまだ課題が残るものの、独創的なEPS技術として更なるブラッシュアップを進めている。 【1-5 特長と強み】 ◎様々な製品で高いシェア 四輪用ショックアブソーバのOEM供給で国内シェア46%、グローバルシェア14%のほか、建設機械用油圧機器シリンダのグローバルシェア30%、コンクリートミキサ車国内シェア85%、免制震ダンパ国内シェア45%など、多くの製品で高いシェアを有している。 ◎優れたコア技術 この高シェアは、世界最大手の地位をフォルクスワーゲンやGMと競っているトヨタ自動車における社内シェアがグローバルベースで約6割であることが示すように、同社製品に対する顧客の信頼度の高さによるものであり、この信頼のベースは創業時より100年という長い時間の中で培い、磨き上げてきた「油圧」についての優れた技術力に他ならない。 ショックアブソーバや免制震用油圧ダンパに代表される「振動制御技術」と、ショベルカーのコントロールバルブや電動パワーステアリングに代表される「パワー制御技術」の2つのコア技術が多くの顧客に高く評価され、様々な場面で広く用いられている。 【1-6 株主還元】 連結配当性向30%以上を目指しつつ、DOE 年率2%以上の配当を基本とすることとしている。 これにより、業績の下落局面はDOE2%による安定配当を、業績拡大局面では利益に応じた株主還元を行う。 2020年3月期のROE目標10.0%を掲げている。 2019年3月期の総資産回転率及びレバレッジが不変、予想売上高当期利益率が4.0%の場合、今期ROEは9.1%となり、目標達成にはもう一段の収益性向上が必要となる。
 
 
2018年3月期決算概要
 
HC事業が好調で増収増益。期初計画を大きく超過。 売上高は前期比10.4%増の3,924億円。AC事業、HC事業ともに増収で、特にHC事業は中国建機市場の活況を受け約2割の増収と好調だった。 セグメント利益は同16.0%増の216億円。営業利益は同8.5%増の209億円。 2018年2月に持分法適用関連会社の合弁解消に伴う費用の発生等を見込み営業利益、税引前利益を下方修正した。 売上、利益ともに期初予想を大きく上回ったが、第4四半期に入って北米市販市場の数量減等が要因となり、利益は修正後の予想には及ばなかった。 ショックアブソーバが欧州などで四輪、二輪ともに堅調で増収だったが、人件費増などで減益となった。 中国での建機需要が引き続き旺盛。人件費も増加したが増収効果で吸収し、増益。 建機市場好調の中国や、四輪車向けが好調な欧州で売上増となった一方で、米国は四輪車向けが低調だった。 海外売上高比率は53.5%から54.5%に上昇した。 現金等、営業債権等の増加で流動資産は前期末比306億円増加。有形固定資産が増加したが繰延税金資産の減少などで非流動資産はほぼ変わらず、資産合計は同312億円増加の4,125億円となった。 営業債務等の増加で流動負債は同240億円増加。借入金の減少などで非流動負債は同97億円減少し、負債合計は同143億円増加の2,258億円。 利益剰余金の増加などで資本合計は同169億円増加し、1,867億円。 この結果、親会社所有者帰属持分比率は前期末の43.1%から0.6ポイント上昇し、43.7%となった。 営業債権、棚卸資産の増加などで営業CFのプラス幅は縮小。投資CFのマイナス幅は縮小。フリーCFのプラス幅は拡大。配当金の支払い増などで財務CFのマイナス幅は拡大した。キャッシュポジションは良化した。
 
 
2019年3月期業績予想
 
増収増益 売上高は前期比5.8%増の4,150億円の予想。建機市場が今期も好調で、四輪用緩衝器の数量増も寄与する。 セグメント利益は同1.9%増の220億円、営業利益は同14.4%増の239億円の予想。固定費の増加で微増にとどまる。為替の前提は前年度1USD=110.85円に対し、今年度は105円、ユーロは前年度129.70円に対し、128円。 年間配当金は前期と同じく150円/株の予定。予想配当性向は23.1%。 AC事業は米国の回復を見込む。また今期より連結対象となるブラジル拠点分の売上、コストが加わり、為替も下押し要因で微増益。 HC事業は建機需要好調で増収見込みだが、需要増に伴う人件費増や増産対応による固定費増で減益の見込み。 (3)設備投資計画 革新的モノづくり、最適生産体制確立を目指した投資を継続する。 18年3月期の設備投資実績は184.9億円で計画196億円を若干下回った。一方、減価償却費は169.9億円で計画160億円を上回った。
 
 
将来を見据えた取り組み
 
(1)進捗状況 2017年5月に発表した2020年3月期の目標「売上高3,980億円、セグメント利益260億円」に対し、2019年3月期見通しは「売上高4,150億円、セグメント利益220億円」と、好調な建機市場を背景に売上高は前倒しで達成の見込みである。一方、「ROE10.0%、セグメント利益率6.5%」との目標に対してはまだ課題が残っていると会社側は認識している。 (2)各事業の取り組み 「持続的成長」、「収益基盤の安定化」、「経営課題の解決」に取り組み、2020年度以降、できるだけ早期にグループ売上高5,000億円達成、格付けA取得を目指すなか、各事業における取り組みは以下のとおりである。 ①AC事業 「顧客の需要地のシフトに合わせた拠点統廃合と高付加価値品の開発・拡販により成長軌道を描く」ことを中期方針とし、以下の課題に取り組んでいる。 *抜本的構造改革の完遂 EPS事業については、生産ラインとしては国内工場に限定されており、顧客ニーズのあるグローバル拠点での製品供給には、十分に対応出来ていなかった。一方、巨大市場の中国では、欧米系メーカーに加え、民族系メーカーのプレゼンスが高まっているが、民族系メーカーでは油圧式から電気式への転換が進んでいる。 こうした中、EPSのグローバルな製品供給体制の構築と、拡大する中国市場への参入を進めるために、中国民族系EPSメーカー最大手湖北恒隆汽車系統集団有限公司(湖北恒隆社)とEPS 製品の開発・生産・供給における業務提携契約を締結した。 出資比率はKYB33.4%、湖北恒隆社66.6%。2018年6月の事業開始、同年9月の製造開始を予定している。 同社は開発技術、生産技術のマネジメントを担当し、湖北恒隆社は営業を担当する。 短期的には、中国でのEPS市場拡大への追従、EPSラインナップの拡大、中国部品活用による日本国内での原価低減、中長期的には、中国市場からグローバルへの展開を目指す。 また、両社がもつ各種リソースを最大限活用して、中国市場におけるEPS拡販、エコカー市場(EV/PHV/FCV)向け製品や自動運転技術向け製品の開発などにも対応していく。 この他、二輪事業の再編の加速、インドでの内製化を強化する。 *収益基盤の安定化 量販向けショックアブソーバ(SA)のグローバル仕様統合化、革新的モノづくりによる生産性向上、ビッグデータ活用による発注精度向上に取り組んでいる。 革新的モノづくりによる生産性向上については、新興国での人件費が上昇する中、人手によらない生産体制の構築が不可欠と考えている。そのために、IoTやAIを活用し、品質の向上も追求したライン構築を進め、2026年には完全無人化を実現することを目指している。 また、顧客の要求する性能とコスト要求を同時に満たす次世代ショックアブソーバの開発にも取り組んでいる。 要求性能を見据えた商品開発の中で、ハイスペックへ仕様・部品を統合化して高性能・低コストを実現し、アイテム数で30%、製品コストで20%の削減を目指している。 *持続的成長 2018年4月に欧州テクニカルセンター(ドイツ・ミュンヘン)が操業を開始した。 また将来に向けた高付加価値品の開発や拡販にも取り組んでいく。 ②HC事業 「市場変動に左右されない安定した売上高、利益の確保」を中期方針に掲げ、ショベルを基盤としながら、攻めきれていない成長市場への拡販を強化する。 抜本的構造改革の完遂については、中・大型向けコントロールバルブラインの移管による効率化及び生産性の向上や、相模工場へのモーター製品の集約による効率化を進めている。 収益基盤の安定化については、高需要に対応した生産・納入体制整備のため、ライン増強投資の前倒し、追加投資による能力増強、休止ラインの再稼働、取引先能力確保と支援、調達先拡大などを行っている。 また、前回レポートでも紹介したように、攻めきれていない成長市場への拡販活動にも注力している。 6t以上のショベルカーは需要による変動が大きいのに対し、建築、道路工事、農林・造園など幅広い用途に用いられるSSL(スキッドステアローダー)、CTL(コンパクトトラックローダー)などは、北米市場が全世界の8割を占め、住宅着工件数に比例して需要が安定的に増加しているが、まだまだ攻め切れていない。 今後、日系メーカーへの拡販、次期モデルチェンジを見据えた北米市場への展開、仕様の近いコンパクトホイールローダーへの展開などによりシェア獲得を目指していく。 (3)2030年以降の将来に向けた自動車機器ソリューション 同社では中計の先、2030年以降を見据えた自動車機器についての長期の事業展開について以下のように考えている。 *バッテリーEV(電気自動車)と自動運転の普及と自動車メーカーの取り組み 各種調査によれば、現在1%に満たないバッテリーEVの普及率は2030年10%、2050年86%と大きく上昇すると予測されている。 また、自動運転システムに関しては、レベル3(条件付自動運転)、レベル4(高度自動運転)の新車市場は2030年には2,000万台まで拡大する。レベル5(完全自動運転)の登場は2030年以降。 電気自動車では、バッテリーを床下に組み込むことで自動車の重心を低くすることができ、走行安定性が向上するとともに、より広い室内空間を確保することができる。 また自動運転車は、運転手を運転動作から解放することからより快適な室内空間を提供することとなる。 こうした流れを受け、各自動車メーカーはモーターショーにおける車両コンセプトとして、「車室空間の拡大」を挙げて様々なアイデアを生み出だしている。 そこでKYBでは、この「車室空間の拡大」に、自社の技術やノウハウによって創り出す快適な乗り心地を付加することで良質な「居心地」を実現することを自社のソリューションと位置付けている。 つまり、「走っているのを感じさせない究極のサスペンション」、「横加速度を抑制する車両ダイナミクス制御」、「車室空間を最大化できるサスペンションレイアウト」などにより安全・安心・快適を提供し、これまでのクルマに求められる性能である「走る・曲がる・止まる」に、「書ける・読める・酔わない」という性能を新たに加え、最適な「居心地」を追求するというものだ。 そのために、2030年の「サスペンション&ステアリング統合システム」の実現に向け、省スペースを実現するサスペンションモジュール、左右独立操舵によるステアリングラック軸の排除、サスペンションとステアリングの協調制御などの開発に注力する。 現在5%程度の電子制御サスペンションの装着率は2032年には18%まで上昇すると見られており、「振動制御技術」と「パワー制御技術」の2つのコア技術にさらに磨きをかけて、EVと自動運転の登場によって新たに生まれる市場を力強く開拓していく考えだ。
 
 
中島社長に聞く
 
中島代表取締役社長執行役員に足元の状況、将来に向けた取り組みなどを伺った。 Q:「両事業の足元の事業環境や対応について教えてください。」 A:「AC事業は、自動車生産台数自体はグローバルでは引き続き堅調な推移となっているが、様々な変化が出ており、きめ細かく対応していく必要がますます増大している。 HC事業については、非常に好調ではあるが、大きな需要変動が避けがたいのが実情であり、様々な局面を想定した対応を行っていく必要がある。」 (AC事業) 自動車生産台数自体はグローバルでは引き続き堅調な推移となっているが、車種ではセダンからSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル、スポーツ用多目的車)への流れ、地域別では新興国の中でもアフリカへヨーロッパメーカーが積極的に進出しているほか、EVや自動運転において新たなプレーヤーの登場など、様々な変化が出ており、きめ細かく対応していく必要がますます増大している。 (HC事業) 中国市場中心に非常に好調で、更新需要も出てきている。当社での生産もほぼフル操業の中、顧客からは2020年まではこの状況が続くことを前提とした対応を要求されているが、この事業は大きな需要変動が避けがたいのが実情であり、様々な局面を想定した対応を行っていく必要がある。 特に、攻めきれていない成長市場への拡販活動は重要だ。6t以上のショベルカーは需要による変動が大きいのに対しSSL(スキッドステアローダー)、CTL(コンパクトトラックローダー)などは需要が安定的に増加しているが、まだまだ攻め切れていない。日系メーカーへの拡販などによりシェア獲得を目指していく。 Q:「長期視点での2030年以降の将来に向けた自動車機器ソリューションについてポイントをお話しください。」 A:「軽量化のための生産技術の高度化と、「振動制御技術」と「パワー制御技術」の2つのコア技術にさらに磨きをかけて、新たに生まれる市場での優位性を確立する。」 EVや自動運転が主流となっていく中では、「車室空間の拡大」と「快適な居住性」が求められる。 当社が得意とする「振動制御」が大きな役割を果たすことになるが、電子制御技術にも対応すると同時に、自動車メーカーの要求する軽量化にも取り組んでいく必要があり、従来の鉄のみではなくアルミや樹脂との融合など、生産技術の高度化も不可欠だ。 「振動制御技術」と「パワー制御技術」の2つのコア技術にさらに磨きをかけて、2030年に向けシャシ統合システムを完成させ、EVと自動運転の登場によって新たに生まれる市場での優位性を確立する。 Q:「前回のインタビューで、課題として、「稼ぎ切れていない」つまり、多額の投資を行ってきたが、収益性の面で課題の残る拠点がまだまだ多いという点を挙げていらっしゃいましたが、現状はいかがでしょうか?」 A:「残念ながらまだ道の途上だ。本来の収益性を生み出すにはIoTやAIの活用は不可欠だ。2026年の完全無人化を目指して革新ラインロードマップを着実に進行させる。」 残念ながらまだ道の途上だ。人件費の上昇もあり、生産過程における人手の構成をもっと考えないと本来の収益性を生み出すことは難しい。 そこで、IoTやAIの活用は不可欠だ。 2026年の完全無人化による加工費30%減を目指して革新ラインロードマップを着実に進行させる。 Q:「では最後に株主や投資家へのメッセージをお願いします。」 A:「株主や投資家の皆さんが当社に期待している収益性の向上については、これまでに蓄積してきた技術を更に進化させ課題を克服し、その期待に応えたい。また、社会に貢献し、世の中に求められる企業の一翼を担っていく考えなので、引き続き中長期の視点で応援していただきたい。」 株主や投資家の皆さんが当社に期待しているのは収益性の向上であるという点は十分理解している。 そのためには「振動制御技術」をベースに、効率的な生産方法の確立、付加価値の向上、顧客に対する競合優位性のある提案などに全力で取り組んでいく。課題はあるが、これまでに蓄積してきた技術を更に進化させ、課題を克服し、期待に応えたい。 また、80年の技術の蓄積という当社最大の強みを活かして社会に貢献し、世の中に求められる企業の一翼を担っていく考えなので、引き続き中長期の視点で応援していただきたい。
 
 
今後の注目点
中計における2020年3月期の目標「売上高3,980億円」に対し、2019年3月期見通しは「売上高4,150億円」と、好調な建機市場を背景に売上高は前倒しで達成の見込みであるが、株価の反応は鈍い。 会社側も認識しているように、「ROE10.0%、セグメント利益率6.5%」という収益性目標に対する遅れがその要因であろう。引き続き収益性向上に向けた取り組みとその実績を期待したい。
 
 
 
<参考1:2017中期経営計画>
 
同社は今期2017年度(2018年3月期)を初年度、2019年度(2020年3月期)を最終年度とする3年間の中期経営計画を策定、実行中である。 (1)数値目標 「A GLOBAL KYB -CHALLENGE & INNOVATION-」のスローガンの下、2017年度は「抜本的構造改革の完遂」、2018年度及び2019年度は「持続的成長」、「収益基盤の安定化」、「経営課題の解決」に取り組み、2020年度以降、できるだけ早期にグループ売上高5,000億円達成、格付けA取得を目指している。 ショックアブソーバの売上本数は前期7,200万本(OEM 70%、市販 30%)を、2020年度は8,800万本(OEM 68%、市販32%)へ引き上げる。 ポイントは以下の通り。 ポイントは以下の通り。 ③その他 ポイントは以下の通り。
 
 
<参考2:コーポレートガバナンスについて>
 
◎コーポレートガバナンス報告書 最終更新日: 2018年2月14日 <基本的な考え方> 当社は、持続的な成長と企業価値向上の実現を通してステークホルダーの期待に応えるとともに、社会に貢献するという企業の社会的責任を果たすため、取締役会を中心に迅速かつ効率的な経営体制の構築ならびに公正性かつ透明性の高い経営監督機能の確立を追求し、以下の経営理念および基本方針に基づき、コーポレートガバナンスの強化および充実に取り組むことを基本的な考え方としております。 (経営理念) 「人々の暮らしを安全・快適にする技術や製品を提供し、社会に貢献するKYBグループ」 1. 高い目標に挑戦し、より活気あふれる企業風土を築きます。 2. 優しさと誠実さを保ち、自然を愛し環境を大切にします。 3. 常に独創性を追い求め、お客様・株主様・お取引先・社会の発展に貢献します。 (基本方針) 1. 当社は、株主の権利を尊重し、平等性を確保する。 2. 当社は、株主を含むステークホルダーの利益を考慮し、それらステークホルダーとの適切な協働に努める。 3. 当社は、法令に基づく開示はもとより、ステークホルダーにとって重要または有用な情報についても主体的に開示する。 4. 当社の取締役会は、株主受託者責任および説明責任を認識し、持続的かつ安定的な成長および企業価値の向上ならびに収益力および資本効率の改善のために、その役割および責務を適切に果たす。 5. 当社は、株主との建設的な対話を促進し、当社の経営方針などに対する理解を得るとともに、当社への意見を経営の改善に繋げるなど適切な対応に努める。