ブリッジレポート
(2708) 株式会社久世

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ブリッジレポート:(2708)久世 vol.22

(2708:JASDAQ) 久世 企業HP
久世 真也 社長
久世 真也 社長

【ブリッジレポート vol.22】2018年3月期業績レポート
取材概要「久世社長のインタビューにもあった通り、19/3期は守りに軸足を置く。ただ、M&A効果に加え、大型の産直案件等で青果子会社の寄与が見込まれる等で・・・」続きは本文をご覧ください。
2018年6月20日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社久世
社長
久世 真也
所在地
東京都豊島区東池袋2-29-7
決算期
3月 末日
業種
卸売業(商業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2017年3月 61,570 568 663 487
2016年3月 67,193 439 593 485
2015年3月 68,044 -365 -199 -412
2014年3月 62,268 41 238 100
2013年3月 56,060 544 697 367
2012年3月 51,053 380 408 173
2011年3月 46,774 230 342 80
2010年3月 42,666 271 394 123
2009年3月 42,181 225 334 171
2008年3月 42,540 283 443 240
2007年3月 42,847 402 507 262
2006年3月 41,491 336 390 246
2005年3月 39,087 255 297 126
株式情報(6/13現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
936円 3,701,427株 3,464百万円 7.4% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
12.00円 1.3% 70.24円 13.3倍 1,627.49円 0.6倍
※株価は6/13終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
久世の2018年3月期決算と2019年3月期の見通しについて、久世社長のインタビューと共にご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
外食産業や中食産業向けの食材卸を中心に、グループで食材の製造・販売も手掛けている。取扱品目は約40,000アイテムに上り、冷凍・常温品はもちろん生鮮品から消耗品等のノンフードまで幅広い。グループは、同社の他、ソース・スープ類の製造・販売を手掛けるキスコフーズ(株)、ニュージーランドでソース類の製造を手掛けるキスコフーズインターナショナルリミテッド、生鮮野菜など農産品の仕入・販売を行う(株)久世フレッシュ・ワン、築地市場に基盤を持つ水産物仲卸大手の旭水産(株)、海外戦略の立案と情報収集の役割を担う久世(香港)有限公司、及び中国で業務用食材卸を手掛ける上海日生食品物流有限公司の連結子会社6社、水産物売買業の豊洲フーズ(株)及び中国で業務用食材卸売事業を手掛ける久華世(成都)商貿有限公司の非連結子会社2社。また、中京地区強化の一環として同地区に6,000店の取引先を有する酒類販売大手(株)サカツコーポレーションと、首都圏で病院・老人福祉施設向けの食材販売に強みを持つ東京中央食品(株)と、それぞれ業務提携をしている。
 
 
【経営理念とC&G活動の取組み】
「フードサービス・ソリューション・カンパニー」として「頼れる食のパートナー」を目指し、次の経営理念を掲げている。

私達は、明るい信頼される会社にします。
私達は、お客様の立場に立ち、最高の商品とサービスを提供します。
私達は、絶えず革新に挑戦し、たくましい会社にします。
私達は、お客様、お取引先の繁栄と株主、社員の幸福に貢献します。
私達は、そのために会社の成長と発展を果たします。
 
【事業内容】
事業は、食材卸売事業、食材製造事業、及びグループ会社向けが大半を占める不動産賃貸事業に分かれ、18/3期の売上構成比(連結調整前)は、それぞれ、92.5%、7.5%、0.2%(この他、調整額△0.3%)。また、販売チャンネル別では、居酒屋・パブ15.0%、ディナーレストラン・ホテル・専門店26.1%、惣菜・デリカ・ケータリング・娯楽施設・その他20.2%、ファーストフード・ファミリーレストラン・カフェ38.7%。
 
食材卸売事業
取扱が難しい生鮮品を含めた業務用食材全般に加え、割りばし、ナプキン、洗剤といった消耗品等のノンフードまでを幅広くカバーし、取扱品目は約40,000アイテムを数える。近年、プライベートブランド(PB)商品や生鮮三品の取扱いにも力を入れている。
 
食材製造事業
連結子会社キスコフーズ(株)が食品製造工場を有し、ソース、ブイヨン、スープ及び調理食品等の自社ブランド製品及びOEM製品の製造・販売を行っており、その子会社(久世の孫会社)キスコフーズ インターナショナル リミテッド(KISCO FOODS INTERNATIONAL LIMITED)が、ニュージーランド・クライストチャーチ市において、オリジナルのフォンドヴォー(仔牛骨、牛肉、野菜等を原料としたソース)やベシャメルソース(バターと小麦粉を原料としたホワイトソース)の製造を行っている。
 
【フードサービスソリューションカンパニーを標榜  -システムで運ぶ、つくる、考える 頼れる食のパートナー-】
同社は 「頼れる食のパートナー」 として、顧客へ様々な情報を提供し、顧客と共に、納品の方法、店舗経営、商品開発等について考え、問題の解決に取り組んでいる。目指すところは、「運ぶ」、「つくる」、「考える」それぞれの機能を総合的に組み合わせ、より高い付加価値を生み出す提案営業重視の「フードサービス・ソリューション・カンパニー」である。
 
「運ぶ」  多様な要望に応える事の難しさ
同社においては「個店向け配送」と「チェーン店向け配送」の2通りがあり、「個店向け配送」は、幅広い品揃えで様々な業態(洋食、和食、中華、ホテル、居酒屋、バル、カフェ、病院、商業施設等)に対応し、自社の物流センターから配送。一方、「チェーン店向け配送」はチェーン店独自の品揃えに対応し、自社の物流センターと外部倉庫を利用した久世全国ネットワーク(KZN)の併用で、北海道から九州まで全国にチェーン展開している顧客に食材を届けている。
 
 
「運ぶ」(配送)は食材専門商社としての根幹に関わる業務だが、時間指定、配送頻度、納品場所等、多様な要望に応えつつ、しっかりと収益管理していく事は実に難しい。昨今の店舗運営は生産性の向上を迫られる一方、労務管理に対する指導が強化されているため、店着時間がピンポイントで指定される事が多く、これに対応しようとすると物流コストが跳ね上がる。このため、納入価格、物流フィー、店着時間を総合的に勘案して取引条件を決める必要があり、オペレーションの難易度があがっている。
 
「つくる」  食材専門商社の枠を超えた事業展開で収益力の強化と顧客満足度の向上を両立
厨房での手間やコスト削減を念頭に新しいメニューやプライベート(PB)商品を開発し、顧客のニーズに合った商品提供を行っている。
 
「考える」  情報提供で顧客のビジネスを側面から支援
「顧客ニーズ」、「メニュートレンド」、「メニューの差別化」等を基本に顧客ごとのオリジナルメニューの開発やムリ・ムダのない調理オペレーションの提案、更には同社の商品を使用したメニューレシピやトレンド情報の提供等、日々の顧客支援に加え、プロ向け展示会「FOOD SERVICE SOLUTION」の定期開催で「食のヒントとなる情報」の発信も行っている。
 
「品質管理」  商品はもちろん、営業、物流、受発注等のサポート部門を含め、全ての業務で品質向上を推進
1981年に社内に品質管理部門を設け、取引先の品質に関する要望や問い合わせに対し、迅速に対応できる体制を構築しており、細菌検査、生産委託先工場の製造管理、商品規格書の作成・提供、物流センター、各営業拠点の衛生管理チェック等を実施している。また、2010年に「久世グループ品質方針」及びISO22000に基づいた久世グループの品質保証の仕組みである「久世クオス(久世QUALITY SYSTEM)」を策定し、新しい品質への取組みをスタート。13年4月には、キスコフーズ(株)が、同年8月には同社と久世フレッシュ・ワンが、それぞれISO22000の認証を取得した。商品の品質だけでなく、営業、物流、受発注等のサポート部門を含め、全ての業務の品質の向上を推進し、「お客様満足度No.1」を目指している。
 
 
1997年に外食市場は約29兆円とピークを迎え、2011年には23兆円を下回ったものの2015年には25兆円を超え、2016年もほぼ横ばいで伸長している。外食率も1997年にピークを迎えてから低下傾向にあるが、その一方で食の外部化は進んでおり2015年43.9%となっている。ちなみに、食産業は、内食、中食、外食に分かれるが、家庭内の食事等(スーパー)の内食市場は約38兆円、惣菜・弁当等の中食市場は約7.5兆円、そして、上記の通り、外食市場は約25兆円である。

外食の店舗数は、居酒屋、レストラン、ホテル、カフェ、給食など約60万店舗。一方、食材の提供も、冷食メーカー、畜肉メーカー、調味料メーカー、水産メーカー、農協等、数多い。店舗数(企業)もメーカー数も共に多いため、外食産業には情報・物流の仲立ちをする機能(専門卸=業務用食材卸)が不可欠。

業務用食材卸には、商品を届けるだけでなく、食材を調理してメニューを提供するためのノウハウやトレンド等の情報等が求められる。家庭用食材卸の機能は、商品を確実に届ける事であり(物流面の手伝い)、大規模化・システム化により効率化・合理化が図られている。主な企業は、三菱食品、国分、日本アクセス、伊藤忠食品、三井食品等、商社系企業が中心。一方、プロの料理人が調理を顧客とする業務用卸は、外食産業のきめ細かいニーズに対応する必要があり、きめ細かい対応が可能な独立系企業が多い。

業務用食品卸売業年鑑2017年版によると、業務用食材市場は全国で約4.7兆円。内訳は、首都圏(一都六県)約1兆9,800億円、中部圏(愛知・三重・岐阜・静岡)約4,850億円、関西圏(大阪・兵庫・京都・奈良)約9,600億円、その他。同社は首都圏売上高トップクラスだが、首都圏のマーケットシェアは未だ約3.1%(全国では約1.3%)にとどまり、首都圏はもちろん、三大都市圏で更なる成長の可能性を秘めている。
 
 
2018年3月期決算
 
 
前期比2.1%の増収、同17.7%の経常減益
売上高は前期比2.1%増の628億65百万円。同社を中心に、生鮮野菜など農産品の仕入・販売を行う(株)久世フレッシュ・ワン、築地市場に基盤を持つ水産物仲卸大手の旭水産(株)等の事業領域である食材卸売事業が同2.0%増、キスコフーズ(株)及びニュージーランドでソース類の製造を手掛けるキスコフーズインターナショナルリミテッドの事業領域である食材製造事業が同3.2%増。鮮魚輸出の好調もあり、海外輸出売上がグループ全体で同76%増の9.8億円と伸びた事も18/3期の特徴。PB商品の売上比率は8.8%と前年同期との比較で0.2ポイント上昇した。
営業利益は同24.5%減の4億29百万円。食材卸売事業における仕入価格の上昇及び食材製造事業における為替の変動(円安)と原材料の高騰(バターの世界的な高騰等)の影響で売上総利益率が19.1%と0.1ポイント低下した。一方、販管費は、物流環境の変化に対応するため、センター運営の自社化を本格的にスタートさせた事で庫内作業に関わる費用が増加(配送費の上昇に対し、生産性の改善が追いつかなかった)。効率化を目的に、大阪ディストリビューション(DC)を大阪天保山DCに統合した事も一時的なコスト増要因となった。

ただ、収益性の改善は進んでおり、売上総利益率については、第1四半期の18.7%から第4四半期の19.7%に改善し、販管費率については19.0%から18.6%に低下した。
 
 
 
16/3期に大口取引先との取引が終了する一方(居酒屋業態:16/3期26.5%→18/3期15.0%)、食事中心のチャネル開拓が進んでおり、ディナーレストランや専門店業態の売上シェアが上昇傾向にある(16/3期22.6%→18/3期26.1%)。
 
 
 
 
現預金と仕入債務の増加が目立つのは、期末が金融機関の休日だった影響で仕入債務の決済が翌期に期ずれしたため。この事が営業CFにも反映されている(19/3期期初に13~14億円の決済を行った)。自己資本比率27.1%(前期末27.5%)。自己資本比率は30%程度を適正水準と考えている。
 
 
営業CFの増加要因は上記の通り。投資CFについては、有形固定資産の取得、投資有価証券の取得、更には新規連結子会社の取得等が増加要因。財務CFについては、長期借入金の積み増しによる。
 
 
2019年3月期業績予想
 
 
前期比8.2%の増収、同30.4%の経常減益予想
売上高は前期比8.2%増の680億円。連結子会社化した上海日生食品物流有限公司の寄与20億円が織り込まれているが、この影響を除いても同5.0%増と高い売上の伸びが見込まれる。

利益面では、集中購買及びアイテム集約等の効果に加え、生鮮鮮魚等を扱う子会社の粗利率改善も見込まれ、売上総利益率が改善するが、更なる物流の効率化に向けた取り組みが一時的なコスト増要因となり、営業利益は3億30百万円と同23.1%減少する見込み。

配当は1株当たり12円の期末配当を予定している(予想配当性向17.1%)。
 
物流の効率化に向けた取り組み
同社のDCは外部委託の変動費センターと自社運営の固定費センターに分かれており、全国に店舗展開し、時間指定、配送頻度、納品場所等、個々に要望が多く混載が適さない大手チェーン向けは物流の増減を同社がコントロールできないため、外部委託の変動費センターが適し、3大都市圏で、“より狭く、より深く” 顧客開拓に取り組むエリア戦略の下で展開する顧客向けは混載を前提とし、同社の努力で固定費を賄う物流量を確保できるため自社運営の固定費センターが適している。しかし、現状では自社運営の固定費センターで大手チェーンの一部店舗向け物流を扱っているケースも少なくない。これまでは、物流コストが低く抑えられていたため、気にならなかったからだ。しかし、昨今の物流費の値上がりで問題が浮き彫りになってきた。このため、19/3期は自社運営の固定費センターが対応している一部大手チェーンの店舗等向けの物流を外部委託の変動費センターに移管する作業を進める。これにより、外部委託の変動費センターは特定顧客向け物流の専用センターとなり、顧客にしても物流を管理しやすくなる。

この取り組みにより、長期的には、事業拡大時に物流費の伸びを抑える事ができ、不況期には物流費を減少させる効果が期待できるが、今期は移管により変動費センターのコストが増える中で、一時的に自社運営の固定費センターの稼働率が下がり物流効率が悪化する。東京オリンピック・パラリンピックを控えて案件が増加傾向にあるこの時期こそが、固定費センターの稼働率を早期に回復させるチャンスととらえ、一時的な収益悪化を受け入れて、物流の効率化に取り組む。また、東京オリンピック・パラリンピック後をにらんで、早期に筋肉質な体質に改善させておきたいという思いもある。
 
 
新中期経営計画「第4次3ヶ年中期経営計画 Challenge NEXT ONE」
(19/3期~21/3期)
 
「第4次3ヶ年中期経営計画 Challenge NEXT ONE」がスタートした。同計画では、「システムで運ぶ つくる 考える “頼れる食のパートナー”」をあるべき姿として掲げ、「連結売上1,000億円」、「三大都市圏No.1」、「お客様満足度No.1」の達成に向けた取り組みを進めていく。当面の目標として、最終の21/3期に売上高770億円、営業利益10億円を達目指している。
 
 
「Challenge NEXT ONE」事業戦略  「変化への挑戦」、「収益改善」、「ひとりひとりのリーダーシップ」
ポイントは、「物流」、「情報システム」、「マーケティング」、「海外」、及び「グループシナジー」、の5つ。高効率でフレキシブルな物流網の構築と安定性・戦略性を備えた情報システムの構築、マーケティング強化、及び製造事業・生鮮生鮮事業とのシナジーにより、国内食材卸売事業を変化する事業環境に対応させ収益の改善を図る。また、輸出入事業と中国及びニュージーランドでの現地事業の拡大により海外の成長も取り込む。
 
 
物流については、外部委託の変動費センターと自社運営の固定費センターの役割分担等、中身を変えながらキャパシティを広げていく。全国物流、エリア物流、狭域物流(首都圏の小規模顧客密集エリアでの配送)、産直対応も含めた生鮮物流、のバランスの取れた高効率でフレキシブルな物流網の構築に取り組む。足元では、センター長の育成も進んでいる。

情報システムについては、災害時の事業継続性も念頭に入れた新基幹システムの構築と並行して、顧客管理、在庫管理、更にはCRMへと、順次、情報システムの整備を進めていく。現在、顧客管理システムの整備が進んでおり、従来、営業社員の裁量で決められていた販売価格が、顧客別・商品別のシステマチックな価格設定に変わった(取引状況、取引条件、事業性等を基に、情報システムが価格設定を支援する)。次のステップである在庫管理システムの整備も動き出しており、アイテム毎・商品毎の滞留日数や回転数等の在庫管理の精度が向上する。

マーケティングによる市場分析にも力を入れ、情報システムと連動させる事でPDCAを回していく。これにより営業効率の向上を図る他、魅力のあるPB商品の開発とプロモーション強化につなげる。また、「全てが揃う」から「顧客ニーズに応じた意志ある品ぞろえによるフルライン対応」へと意識改革にも取り組む。

更に、海外子会社も含めてグループシナジーを追及していく。旭水産が手掛ける日本産の鮮魚は、東南アジアに加え、中東でも人気が高まっており、日本からの直送を強みに事業を拡大させていく。また、中国では和食人気を反映して子会社の売上が伸びている。このため、国内卸売事業の主体である久世本体、青果を含めた生鮮子会社、更には製造子会社の連携を国内外で強化していく。
 
 
社長インタビュー 久世社長に聞く
 
JR大塚駅にほど近い閑静な住宅街の一角にある本社にお邪魔して、久世社長に今後の展望等についてお話を伺った。
 
久世社長は1972年9月27日生まれの45歳。1998年に東京経済大学経営学部を卒業。大学卒業後、社外で経験を積んだ後、2002年10月に同社に入社。2007年6月に取締役営業本部東京支店副支店長に就任。その後、キスコフーズ(株)代表取締役社長、同社常務取締役、同社取締役副社長を歴任。2017年6月、同社代表取締役社長に就任された。業務用食材卸としては首都圏トップクラス、創業84年の歴史を誇る久世の3代目である。
 
【18/3期の振り返り】
先ずは終わった18/3期について、お伺いしたいと思います。18/3期は第3次中期経営計画の最終年度でもあった訳ですが、営業減益を余儀なくされました。どのような背景があったのでしょうか。14/3期から15/3期にかけて原価率の上昇と物流費の増加で業績が悪化しましたが、16/3期にV字回復し、17/3期も順調に売上・利益を伸ばしました。18/3期も、このトレンドが続く事を期待していたのですが・・・。
 
久世社長
前回は円安による輸入食材の高騰と物流の効率性(遠隔地配送等)が問題でした。特に物流費です。今回も仕入原価と物流費が要因です。やはり物流費の問題が大きいのですが、前回とは内容が異なります。具体的には、九州、沖縄、長野等での遠隔地配送が不採算になっていましたから、不採算な配送をやめさせて頂く事で落ち着きました。昨今の運送会社さんの働き方改革の問題はご存知の事と思いますが、今回は物流費の絶対額の増加、単価の上昇が要因です。対策を講じていますが、効果が現れるまでには時間が必要です。仕入原価については、今回に限らず継続的な取り組みです。様々な要因から、常に仕入価格に上昇圧力がかかっていますから。
 
物流環境の変化が短期間で波及してきたと言う事ですね。しかもその影響が極めて大きかった。御社を理解するためには、物流の大切さを理解する必要がある訳ですね。原価率の上昇については、昨年秋以降の野菜価格の高騰も一因だったのでしょうか?
 
久世社長
昨年秋以降、野菜価格の高騰が大きな問題になりましたが、当社の食材卸売事業では輸入品も含めて4万アイテムを扱っていますから、原価率の上昇は、一つの要因だけでなく、様々な要因によります。例えば、原油価格が上がると、メーカーさんの製造コストが増えますし、包装資材の価格も上がります。もっとも、連結子会社で青果を扱う久世フレッシュ・ワンは、秋以降の野菜価格高騰の影響を大きく受けました。夏までは、過去にないくらい好調だったのですが・・・。
仕入価格の上昇に対しては、常に対応を迫られていると言えます。当社の業界では、基本的には上がったものは価格転嫁させて頂きますが、他社の動向や取引条件・取引状況等も踏まえて、お願いしますから、それほど単純なものではありません。また、お客様にお願いしてすぐにご理解頂けるケースもありますが、多店舗展開しているお客様等は時間がかかる事があります。
 
18/3期は、増収ながら、売上総利益率が低下する一方、販管費率が上昇した結果、営業利益が減少しました。しかし、四半期毎の売上総利益率と販管費率の推移をみると、期を追う毎に改善しています。取り組みの成果が現れつつありますね。
 
 
【「第4次3ヶ年中期経営計画 Challenge NEXT ONE」(19/3期~21/3期)がスタート】
期が変わり、新中期経営計画「第4次3ヶ年中期経営計画 Challenge NEXT ONE」がスタートしました。2020年の東京オリンピックを控えている事もあり、アクセルを踏み込んでいく訳ですね。
 
久世社長
個人的な思いとしては、攻めていきたいところなのですが、今は守りです。2年前から守りを固めるべく、仕組みを整える事に取り組んでいます。その一つが、お客様別、商品別、或いは物流の状況等の可視化・データ化による管理です。食材卸の業界は、一物多価です。お客様毎に取引条件が異なりますから、価格にも違いが出てきます。また、当社の商品アイテムは4万アイテムを超えます。
これまで当社は、各営業担当者がお客様毎に各商品の価格を決めていましたが、「NEXTプロジェクト」の一環として商品別・お客様別の管理を可能にするシステムを導入した事で、取引条件や取引状況等に応じて商品別に価格ガイダンスを示す事ができるようになりました。価格だけでなく、商品毎に在庫の回転率等もリアルタイムで把握できるようになりました。営業担当者が、こうしたデータの活用にも徐々に慣れてきた事に加え、管理する側も数字や経営指標での管理に習熟してきましたから、これを基にPDCAを回せる体制が整ってきました。今後は、マーケティングにも活かしていきたいと思います。19/3期も、この取り組みを続けて、しっかりと定着させたいと思います。
 
カンや経験に頼らず、システマチックにやって行こう、と言う訳ですね。手応えも感じつつあると・・・。
 
久世社長
人の情熱とシステムを連動させてやって行く必要があります。ただ、体質は良くなってきましたが、結果が出るのは、もう少し先になります。19/3期も、収益の追求と言うより、データの活用による不採算の見直し等の治療が続きます。そうでないと、2年後、3年後の利益体質を描き難くなります。ただ、東京オリンピックを控えていますから、急ぐ必要はあります。筋肉質の体質に改善させて、東京オリンピックを迎える事ができれば、手に残るものが違ってくると思います。
 
不採算の見直しと言うのは、取引先と商品の両面から、と言う事ですね。
 
久世社長
そうですね。ただ、お客様に非があった訳ではありません。そう提案してきてしまった当社に問題がありました。お客様ではなく、内部の問題です。もちろん担当者も、一所懸命、やってくれました。しかし、出てきた結果が芳しくなかったと言う事は、突き詰めれば、我々に責任があったと言う事です。この反省に立って、取り組みを進めています。
 
 
システムの強化と共に、物流センターの庫内作業の自社化にも取り組んでいます。現在、戸田と横浜で実施していますが、物流のプロに任せる事のどこに問題があったのでしょうか?
 
扱うのが食品ですから、賞味期限があったり、温度管理があったり、と特殊性が高く、しかも、お届け先はプロの料理人の方ですから要望も多く複雑です。このため、単に庫内作業に慣れているというだけでなく、食材の扱いに精通している必要があります。また、ピッカーの方一人一人が、「お客様のために・・・」という気持ちはもちろん、「自分のため、仲間のため、会社のために役割を果たしていこう」という気持ちを持って業務に当たる必要があります。当初はプロに任せた方が効率は良いのでしょうが、長期的には、必ずしも、そうとは言えないと思います。環境の変化に合わせて生産性をあげていく必要がありますから。同じ仲間としての意識を持って作業して頂く事が、大きな資産になっていくと考えています。

おかげさまで、庫内作業の幹部、いわゆるキーマンとなる方の定着率があがっていますし、大阪でトラブルがあった際、首都圏から応援部隊が駆けつける事で、お客様にご迷惑をかける事なく済んだ、と言う事もありました。トラブルが無くても、必要な時は、他のセンターの支援を行っています。庫内作業の自社化を行った戸田は、2年間で生産性が12~13%改善していますし、一人当たりのピッキング数(摘み取り数)も同じように改善しています。人材を確保して育成してく事、仲間意識を育んでいく事、が大切なのではないでしょうか。今後は、更にボイスピッキング等、技術面での強化も予定しています。庫内作業も、人の情熱とシステムの連動で回っていくようにしたいと考えています。
 
食材を扱う事の難しさ、プロの料理人を相手にする事の難しさ、があると。確かに、アパレルや日用雑貨などと比べると特殊ですね。そして、営業と同じように、庫内作業も、「人の情熱とシステムの連動」。
ところで、現在、9センターが稼働していますが、自社化しているのは、戸田と横浜です。将来的にはすべて自社化するお考えですか。
 
戸田と横浜は、他の7センターと比べて圧倒的に規模が大きく、この2センターで物流全体の2/5を扱っています。先ず、この2センターを安定させる必要があります。
 
当面は、戸田と横浜の2大DCに注力していく訳ですね。
システムと物流にマーケティングを連動させてていく事も中期経営計画のテーマの一つです。PB商品の開発にも活かし、顧客ニーズに基づいた意志ある品揃えでフルライン対応するお考えです。
 
久世社長
PB商品は、価格訴求と価値訴求でメリハリをつける事が大切だと考えていますが、これまでは、久世ブランドとして漠然としていたところがありました。価格訴求につきましては、商品の集約とお客様にもご協力を頂いての一括購買にチャレンジしています。価値訴求につきましては、北海道を謳った食材等の産地を謳える商品やストーリー性のある商品の開発を進めています。マーケットをみて、ニーズがあるか、ないかを見極めた上で、ラインナップを整備していく考えです。
 
価格訴求に加え、特徴やコンセプトを明確にした価値訴求により、競争力や存在感を高めていこうという事ですね。
海外も中期経営計画のテーマの一つです。昨年12月には業務用食材卸の上海日生食品物流有限公司を連結子会社化しました(出資比率31.1%→82.1%)。沿岸部の上海に営業拠点を確保し、成都、上海と、その間にある武漢、重慶を結ぶラインで事業を進めていくお考えですね。
 
久世社長
久世グループにおいて中国事業のボリュームはまだ小さいのですが、中国での外食の拡大を背景に、上海日生食品物流有限公司、久華世(成都)商貿有限公司(非連結子会社)共に高い売上の伸びを示しています。上海日生食品物流有限公司は、のれん償却費を吸収してわずかですが利益貢献しています。同社は上海の和食マーケットでは存在感があり、「上海で和食と言えば、上海日生」と言った感があり、声をかけて頂ける状況です。この強みを活かして、日系資本や現地資本の和食のチャネルに提案販売を行っていきたいと考えています。
 
5月初旬に中国の李克強首相が訪日されましたが、その際の安倍晋三首相との会談で、日本産食品の輸入規制を緩和するため協議体を設ける事で合意がなされた、との新聞報道もありました。
 
久世社長
非常にいい話ですね。千葉県の農産品等は輸入が禁止されていますが、実際のところは越境ECが活発に行われていますから。今は、成都、上海の子会社共に、日系資本、現地資本の現地の和食食材メーカーさんから仕入れていますが、事業を通して和食ファンの多さを感じていますから期待しています。

また、TPPにも期待したいですね。キスコフーズインターナショナルリミテッド(ニュージーランド子会社)からフォンドヴォー(仔牛骨、牛肉、野菜等を原料としたソース)やベシャメルソース(バターと小麦粉を原料としたホワイトソース)を輸入しています。ニュージーランド産加工品の輸入関税が引き下げられると事業がしやすくなります。
 
海外事業は、久世グループ全体からみると未だ事業規模は小さいものの、中長期で考えた場合、中国との関係改善やTPPの発効も追い風になり、成長ドライバーとして期待できる訳ですね。
 
【株主・投資家の皆様へ】
取り組みの進捗状況や今後の方針が良くわかりました。最後になりますが、株主や投資家の皆様にメッセージを頂ければ幸いです。
 
久世社長
AIやロボットの時代になっても、人と人が集い、お互いを理解するために、外食が果たす役割の大きさが変わる事はないと考えています。「モノ」の消費から「コト」の消費へ、と言われていますが、「コト」の消費により日常の幸せを求めるのであれば、むしろ外食が果たす役割は今よりも大きくなっていくのではないでしょうか。外食はコミュニケーションの場となり、街を作ります。私たち久世は、これからも外食を支える黒子でありたいと考えています。

今後の事業展開につきましては、「第4次3ヶ年中期経営計画」において、お示しした通りです。同業者さんとの競争に加え、Amazonさんの台頭やITを使用した鮮魚卸しさんの参入等で競争は更に激しさを増していくものと思いますが、敵は内にあり。先ずは守りを固め、徐々に守りから攻めに転じ、「第4次3ヶ年中期経営計画」を終える時には、より多くの成果が手に残るようにしたいと考えています。

最後になりますが、株主の皆様への利益還元につきましては、引き続き安定配当に努めていく所存です。もっとも、この基本姿勢を維持しつつ、収益が増えれば、しっかりと還元していきたいと思います。私たちの取り組みに、ご理解を頂き、引き続きご支援を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
 
― 取材を終えて -
流通ビジネスに限った事ではないのだろうが、ビジネスの根幹は「人」。意識改革と人事政策より「人」のモチベーションを高め・維持すると共に、システム化により生産性を高めていく。それが、“人の情熱とシステムの連動”であり、「システムで運ぶ つくる 考える “頼れる食のパートナー”」である。
余談になるが、売上高1,000億円という目標も通過点に過ぎないようだ。業務用食品卸売業年鑑2017年版によると、生鮮、飲料、食品からなる業務用食材市場は全国で約4.7兆円。このうち、首都圏が2兆円弱、中部圏が約4,850億円、関西圏が約9,600億円。同社は食品分野において首都圏でトップクラスだが、シェアは約3.1%にとどまる。しかし、市場は、生鮮、飲料、食品に分かれているため、現在、一つの店舗に、生鮮、飲料、食品の3つ物流が必要だ。非効率だが、これまでは物流費が安かったため問題視される事がなかったと言う。しかし、上昇する物流費への対応が課題となる中で、「3市場を横断する物流の一本化が避けられないのではないか」というのが久世社長の見立て。なるほど・・・、その時、磨き上げた物流機能が威力を発揮するという訳だ。実際、同社は、中京地区で、6,000店の取引先を有する酒類販売大手(株)サカツコーポレーションと業務提携しており、首都圏でも病院・老人福祉施設向け食材販売に強みを持つ東京中央食品(株)と業務提携をしている。取材後の雑談ではあったが、これらの提携の背景にある視点の高さに感嘆した。
 
 
今後の注目点
久世社長のインタビューにもあった通り、19/3期は守りに軸足を置く。ただ、M&A効果に加え、大型の産直案件等で青果子会社の寄与が見込まれる等で、売上の伸びは大きい。四半期毎の収益改善トレンドが良好な事もあり、守りに軸足を置きつつも、売上の伸びを、どれだけ利益に反映させる事ができるか注目したい。尚、四半期ベースで同社の業績を見る場合、第1四半期の利益水準は季節要因で他の四半期に比べて低くなりがちな事を頭に入れておこう。
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書       更新日:2017年06月27日
基本的な考え方
当社のコーポレート・ガバナンスの考え方は、経営理念を基本としております。

経営理念
私達は、明るい信頼される会社にします。
私達は、お客様の立場に立ち、最高の商品とサービスを提供します。
私達は、絶えず革新に挑戦し、たくましい会社にします。
私達は、お客様、お取引先の繁栄と株主、社員の幸福に貢献します。
私達は、そのために会社の成長と発展を果たします。

これらの考え方に基づき、当社は企業目的を達成し、企業価値を向上させるために経営の有効性と効率化を高め、変化する経営環境に対して迅速な意思決定や、意思決定に基づく機動性の向上を図っていく必要があると考えております。また、経営の健全性を高めるために、経営の監視機能として、内部統制システム構築による自主点検と内部監査による法令遵守(コンプライアンス)チェックがますます重要性を増してきていると認識しております。その上で、安定的な企業活動を継続していくために、コーポレート・ガバナンスの強化を図ってまいります。

同社は基本原則すべてを実施している。

【基本原則1 株主の権利の平等性の確保】
【基本原則2 株主以外のステークホルダーとの適切な協働】
【基本原則3 適切な情報開示と透明性の確保】
【基本原則4 取締役会等の責務】
【基本原則5 株主との対話】