
渡部社長は1979年3月に東京大学経済学部を卒業し、日本長期信用銀行に入行。支店業務、国際金融、本店営業等、企業金融にかかわる業務全般で経験を積まれた後、人事部門に勤務。2000年以降は、日本興業銀行を経て、セブン-イレブン・ジャパンで人事部門を、楽天証券では人事にとどまらない管理部門全体を、それぞれ管掌。2007年9月にヒューマン・アソシエイツ(株)の代表取締役社長に就任された。
【市場動向と強み】
人材紹介事業
御社の資料を拝見すると、人材紹介市場は2018年度予想で2,690億円。今後、年率7~8%の成長が見込まれています。
渡部社長 :人材の流動化が進みますから、ポテンシャルとしては、グロスで、その程度の成長力があるのではないでしょうか。ただ、我々が注力している経営階層の人材紹介は、より高い伸びが期待できると考えています。「グロスで」と付け加えたのは、そのためです。投資ファンドが事業会社等を買収した際、経営者を交代させる事はよくある事ですし、事業会社も、企業買収や新たな事業展開に伴い、人材を外部に求めるケースが少なくありません。
経営階層の人材紹介は市場の成長を上回る伸びが期待できるとの事ですが、ピラミッドの頂点に位置するような方が対象になるのですから難易度も高いのでしょうね。どのようにして、紹介する人材をスカウトするのでしょうか。
渡部社長 :人材紹介サービスには、登録型とサーチ型があり、当社は両方に対応しています。登録型は、転職を希望される方にWebサイト等で登録していただき、コンサルタントが転職を斡旋します。当社グループでは、A・ヒューマンが登録型サービスを提供しています。紹介させていただく人材は、求人広告の外部サイトに登録されている方とA・ヒューマンの自社サイトに登録されている方になります。
サーチ型は、“エグゼクティブサーチ”や“ヘッドハント”等とも言われ、社長や部長以上の経営階層や上級専門職層といった求人依頼に対応します。当社グループでは、AIMSとバイリンガル・グローバル人材のOptiaがサーチ型のサービスを提供しています。コンサルタントが独自のネットワークを使ったり、様々なルートからコンタクトをとったりして、企業の要望にあった人材をスカウトします。求人のニーズは、ダイレクトメールや電話でのご案内を通して能動的に掘り起こしていく事が基本ですが、最近では、Webサイトや電話での問い合わせが増えています。幹部人材が不足する中で、当社の人材サーチ力とマッチングの実績が評価されてきているのだと思います。
求人ニーズについては、一度実績を作ると、リピートと言うのでしょうか、更なる取引につながるのでしょうね。
渡部社長 :おっしゃる通りです。しっかりと実績を残す事が営業基盤の強化・充実につながります。それができているのだと思います。
エグゼクティブサーチのAIMSやミドルマネジメント層を対象とするA・ヒューマンは、様々な業界で勤務経験のある方をコンサルタントとして採用しているそうですね。人材紹介事業は総じてコンサルタント個々の営業力に頼るところが大きいのでしょうか。
渡部社長 :会社の力とコンサルタント個々の力の両方の要因があるのでしょうが、やはり会社の力、信用力が大きいと思います。スカウトされた方は、先ず当社について調べます。自分をスカウトした会社が信用に足る会社かどうかです。当社であれば、20年来の実績がありますし、この4月には上場もさせていただきましたから、安心していただけると思います。会社をご評価いただいた後は、コンサルタント個々の力が要求されます。当社に限らず、営業はどの会社もそうなのでしょうが、水際でお客様とコンタクトをとる社員の力が強くなければなりません。このため、実務経験とコンサルタントとしての適性を有する方の確保に力を入れています。実務経験に基づく専門性のあるコンサルタントによるサービスで同業他社との差別化を図っています。
前期末時点のコンサルタントの出身業界別の内訳は、人材ビジネス27%、金融20%、機械製造16%、消費流通13%、IT7%、サービス4%、メディカル4%、石油4%、ファッション4%、と多種多様です。当社は、同業他社と比較し、コンサルタントの職務経験を重視しています。コンサルタントの専門性を重視している、と言い換えてもいいかも知れません。単なる“紹介”ではなく、企業と候補者の双方と接して、業種や産業について議論をしながらマッチングさせていきますから、専門性が必要になります。
専門性を重視した採用活動とコンサルティングにより差別化を図っている訳ですね。そして、その戦略が奏功してますね。ところで、よく競合する企業、あるいは特に意識している企業等はあるのでしょうか。
渡部社長 :同業者は沢山あります。AIMSはリテーナーハウスといって、リテーナー契約(注:個別・専属契約による固定報酬型契約)の下、難易度の高い求人依頼に応えています。この分野は外資系ビッグ5と言われる、スペンサースチュアート、ラッセル・レイノルズ、エゴンゼンダー、コーン・フェリー・インターナショナル、ハイドリック・アンド・ストラグルズが強く、国内企業も5~10社あります。リクルート(証券コード6098)さん、ジェイエイシーリクルートメント(同2124)さん、その他、派遣等を中心とする人材サービス会社が直接またはグループ企業を通して間接的に手掛けています。ただ、人材不足の時代ですから、競合を意識する事はありません。人材紹介事業は「人材を探す事ができれば、OK」というところがありますから。むしろ、そこの方が問題ですね。社員が全て外国人でバイリンガル・グローバル人材にフォーカスしているOptiaも、同じような業態の会社が5~10社くらいあります。やはり、競合企業を意識するというよりは、候補者をご紹介できるかどうか、が問題です。ただ、候補者の取り合いになっていますから、その面で競合と言えば競合ですね。
メンタルヘルスケア事業
人材紹介事業は競合企業を意識するよりも、候補者のサーチ力に磨きをかける事が大切という事ですね。もう一つの事業の柱であるメンタルヘルスケア事業についてお聞きします。御社の資料によると、2016年度に109.6億円だったEAP(Employee Assistance Program)・メンタルヘルス市場が2022年度にかけて年率5.8%成長、56.8億円だったストレスチェック制度関連市場が同8.9%成長、全体で同6.9%の成長が見込まれています。
渡部社長 :世の中の需要としては、その程度の成長率で伸びていくだろうと考えています。市場化される面では、ですね。メンタルヘルスケアでは、大企業では内製化するケースもありますから、我々が売上を上げる規模としては、それでいいのかわからない面があります。ただ、ポテンシャルとしては、その程度の成長力がある、と考えていいのではないでしょうか。当社としては、より高い成長を目指しています。
労働安全衛生法の改正がストレスチェックの追い風になっているようですね。改めて事業の特徴を説明して頂けますでしょうか。
渡部社長 :メンタルヘルスケア事業では、現場型出張カウンセリング、ストレスチェック・組織分析、休業者・復職者支援プログラム、研修、CISM(注:Critical Incident Stress Management、特別サポート)、組織コンサルテーションと言ったメンタルヘルスケアに必要なサービスをワンストップで提供している事と全国約80名の専属カウンセラーによる「現場型」カウンセリングを特徴としています。
ご存知のように、2015年12月1日施行の改正労働安全衛生法で、2016年11月末を期限に労働者数50人以上の事業所に対してストレスチェックが義務化されたため、市場が活性化され当社の受注も拡大しました。ストレスチェックは毎年11月末を期限に企業側が実施を検討するため、その影響で、当社は第2四半期・第3四半期の売上が第1四半期・第4四半期よりも大きくなる傾向があります。
カウンセラーの方はどのような方なのでしょうか。
渡部社長 :当社のカウンセラーの採用条件は、産業カウンセラーや臨床心理士の有資格者で、かつ、企業勤務の経験がある事。
業務委託という形態をとっていますが、品質の維持・向上には絶えず取り組んでいます。カウンセラーの方には、定期的に東京で研修を受けていただいていますし、2003年にEAP事業者として日本で初めて取得したISO9001(国際品質認証)の認証を現在も維持しています。こうした取り組みの下、約80人の専属カウンセラーが日本全国の現場に出張してカウンセリングを行っているのですから、サービス品質は高いと思います。
単に業務委託契約を結び任せているのではなく、御社が主体的に品質の維持・向上に努めているのですね。日本全国の現場に出張してカウンセリングを行っている「現場型」カウンセリングが特徴との事ですが、「現場型」カウンセリングは珍しい事なのでしょうか。
渡部社長 :同業他社の場合、全国対応はしていたとしても、首都圏以外は外部に委託している、といったケースが多いように思います。また、人材紹介を手掛ける会社は数多いですが、同じヒューマンリソース関連のサービスであるメンタルヘルスケアを手掛けている人材紹介会社は当社以外になく、当社のユニークなところです。当社は優良企業を中心に付加価値の高いエグゼクティブ層向けのサービスを提供しているという人材紹介会社としての強みに加え、他の人材紹介会社にない独自性を有している訳です。
【成長戦略】
メンタルヘルスケアに対する関心の高まりは時代の要請のように感じます。御社は、この分野でしっかりした経営基盤を持っていますから、他の人材紹介会社とは単純な比較はできないという事ですね。また、経営階層の人材紹介をきっかけにメンタルヘルスケアのニーズを汲み上げ、メンタルヘルスケアサービスを提供している中で人材ニーズを汲み上げる、と言ったシナジーも期待できると思います。こうした強みや特徴を活かして、今後どのように事業を展開していくのでしょうか。
渡部社長 :人材紹介事業はコンサルタントを増員し、専門性を強みに市場の成長を上回る成長を目指します。メンタルヘルスケア事業では、EAPカウンセリングとストレスチェックによる成長に加え、M&Aにも対応していきます。また、新規事業として、アセスメント事業とコーチング事業の育成にも取り組みます。組織としてオーガニックに伸ばしていく事を基本とし、メンタルヘルスケア事業でのM&Aと新規事業により成長を加速させていきたいと考えています。社内に有するリソースとマーケットの拡大余地を考えると、最も高い成長が期待できる事業がメンタルヘルスケア事業ではないでしょうか。
なるほど。人材紹介事業は子会社3社がターゲットを定めて事業展開していますが、成長をけん引するのは、どの子会社でしょうか。
渡部社長 :量的にはボリュームゾーンであるA・ヒューマンが最も伸びると思いますが、政策的には、メンタルヘルスケア事業や新規事業とのシナジーが期待でき、エッジが利いて企業に食い込んでいく事ができるAIMSを伸ばしていきたいと考えています。量としてはA・ヒューマン、率としてはAIMSといったイメージでしょうか。
A・ヒューマンをけん引役としつつも、経営階層と深いつながりをつくる事ができるAIMSがキーになる訳ですね。メンタルヘルスケア事業は、どのような成長イメージでしょうか。
渡部社長 :基本的には、これまでと同様にオーガニックに伸ばしていきたいと考えています。そのためにEAPをコアに、横展開を進めます。メンタルヘルスケアに対する意識の高まりや環境の変化に加え、労災認定件数の増加等もあり、EAPカウンセリングは引き続き堅調な推移が期待できます。また、ストレスチェックにより、新しいお客様が増えましたから、単にストレスチェックのスコアを出すだけでなく、そこから出てきた問題点や抽出された課題についてのコンサルサービスを提供していきたいと考えています。
ストレスチェックは、第1フェイズの導入が進み、これからこの結果を活用する第2フェイズに移行していくという事ですね。強いニーズを感じているようですね。
渡部社長 :おっしゃる通りですし、こちらからも提案させていただきます。ストレスチェックを導入されたお客様は、とりあえず法律をクリアするために導入されました。今後、継続していく事になりますが、どう活かしていくか、が課題になってきます。ストレスチェックの結果を踏まえた組織分析や職場環境改善活動等のフォローアップサービスの提供でニーズに応えていきます。それが成長戦略の一つです。
もう一つはM&Aです。当社は6つのサービス(注:現場型出張カウンセリング、ストレスチェック・組織分析、休業者・復職者支援プログラム、研修、CISM、組織コンサルテーション)を提供していますから、ワンストップでお客様のニーズに応える事ができます。EAPサービスを提供する会社は多いのですが、小規模な事業者さんも多く、ニーズがあってもEAP以外のサービスは難しい状況です。お客様のニーズが多様化する中で、こうした同業者さんを当社が包摂する事で、そのお客様に様々なサービスを提供できれば、お互いにシナジーを出せると思います。ですから、M&Aも一つの柱として考えていきたい、と言う事です。もっとも、現状では、ヘルスケアでのM&Aの実績はありませんから、数億円規模の売上の会社を対象にして、実績を積み上げていきたいと思います。
一気通貫のサービス体制がM&Aにおいてもポイントになるのですね。アセスメント(経営層等を中心とした人材の能力・適性の評価)事業とコーチング(能力向上のための教育、経営意識の改革)事業を二本柱とする新規事業はいかがでしょうか。
渡部社長 :AIMSはエグゼクティブサーチを専門としていますから、経営者や役員の方と常にコンタクトをとっています。その中で、「来年の役員選任に当たって部長クラスのアセスメントをやってくれないか」とか、そういう方への「研修やコーチングをやってくれないか」といった依頼を受ける事があります。以前からあった事で、間違いなくニーズはありますし、最近、それが増えています。これまでは外部に委託していましたが、今後は社内に取り込んでいこうという事です。先ほどお話したエグゼクティブサーチ企業等は、現在、人材紹介よりもアセスメントの事業規模の方が大きくなっていると聞いており、かなり高い対価で、サービスを提供しているようです。コーチングはアセスメントと一体となって提供される事が多いので、コーチングも同様にニーズがあると考えていいでしょう。
【投資家へのメッセージ】
新規事業は既存事業のノウハウが活用でき、シナジーも期待できる訳ですね。しかも、エゴンゼンダーの実績を考えると、エグゼクティブサーチよりも大きなマーケットかも知れない。お話を伺っていて、興味は尽きないのですが、頂いた時間が参りました。最後に株主や投資家の皆さんへメッセージをお願いします。
渡部社長 :少子高齢化が進展する我が国においては、政府の「働き方改革」に示されているように、働きやすい職場環境の整備や適材適所を実現する労働市場改革により、労働力を確保し生産性を向上させる事が不可欠です。当社は、会社設立以来、外からの「適材適所を実現する人材紹介」と内からの「ビジネスケアによる環境整備を支援するメンタルヘルスケア」により、社会のニーズに応える事ができるサービスを提供してきました。時にはFace To Faceで、お互いを理解しあう事が必要なビジネスですから、必ずしも規模の優位が効かない分野です。今後、これらの事業を更に伸ばし、その上で、新規事業を追加する事で、お客様に対して付加価値の高いサービスをパッケージで提供できる強みを更に強化していきたいと考えています。
上場を機に株式公開企業としての責任を自覚し、更なる業容の拡大と共に皆様方に信頼され、広く社会に貢献できる企業となるよう、役員はじめ従業員一丸となって一層精励してまいる所存です。
なるほど。外的能力の適材適所を実現する人材紹介と内面の環境整備によるモチベーションの向上を支援するメンタルヘルスケアは、「企業における人材の価値の向上」というミッションの実現だけでなく、政府が進める「働き方改革」の考えにも合致し、社会貢献という性格も有する訳ですね。長時間にわたり、丁寧なご説明をいただき有難うございました。渡部社長とヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス株式会社の益々のご活躍とご発展をお祈り申し上げます。