ブリッジレポート
(6890) フェローテック/山村 章社長
2002年8月19日(月)

フェローテックを訪問しました。
東京・京橋の本社応接室で、山村 章社長にお話を伺いました。


山村 章社長

設立の経緯

山村社長は慶応の工学部を卒業後、ただ企業に就職することに物足りなさを感じ、「自分の実力をきちんと見極めたい」、「もう少し勉強してみたい」との思いから、1967年アメリカ・ノースイースタン大学大学院へ留学しました。
修士課程終了後、当時の為替レートから見て有利なアメリカ企業に就職したわけですが、このアメリカでのビジネス経験が大きな財産になったようで、「ハーバード大学ビジネススクールよりも授業料が高く、密度の濃い『経営学』が勉強できた」と考えているそうです。


技術開発、資金集め、販売ルートの開発、投資家・従業員との折衝など、経営に関するありとあらゆる貴重な経験を重ねたころ、フェローフルイディクスという磁性流体を取り扱っている会社から日本進出の責任者として声がかかり、事業化を調査してみたところ非常に有望と考え、1980年に「日本フェローフルイディクス株式会社」を設立しました。
当初は製品を輸入していましたが品質が均一でなく、数量などもいい加減な場合が多く、日本企業の信用を得るには日本国内で生産をしなければならないと考え、米国の反対があったものの、「日本で物を売るには日本で作らないとお客さんは納得してくれない。経費はこちらで負担する」と、強力なリーダーシップを発揮し国内生産に踏み切りました。1987年にはMBO(マネジメントバイアウト)により米社から独立しました。

 

事業内容「磁性流体を応用したコンピュータシールで世界的No.1」

四季報などを見ると、「磁性流体応用製品」と出ていますが、どんなものなのかを簡単に説明します。
磁性流体とは、『磁性を持った液体』のことで、磁石によって引き付けられる性質を持っています。 磁性流体のスタートは、1960年代はじめ、NASAのスペースプログラムのプロセスに遡ります。当時NASAでは、無重力空間で宇宙船の液体燃料を補給する方法を研究していました。そこで、着目されたのが磁力で、「燃料中に鉄の微粉を混ぜ、磁力を使えば燃料移送ができるではないか」という発想から誕生しました。
同社は数多くの特許を取得するなど磁性流体に関する技術ノウハウが豊富で、その技術力は業界内でも定評があり、この磁性流体技術を応用したさまざまな製品を開発・製造しています。

<主力製品:コンピュータシール>
磁性流体技術を応用したコンピュータシールは、コンピュータの記憶装置であるハードディスクドライブ(以下HDD)のスピンドルモーターに装着され、コンピュータ内の保存データを保護します。同社のコンピュータシールは、モーター内部から発生する0.1μmという超微細物のゴミやチリ、蒸発物などのHDD記録面への侵入を防止し、内部で発生した静電気を逃がす導電性も有しHDDの機能を保護しています。同社のコンピュータシールは、HDD全体の約40%に装着されており(残り60%は保護機能を有していない)、コンピュータシールの市場シェア100%を占めています。

コンピュータシール

<真空シール>

真空シール
ICチップなど半導体製造工程には、さまざまな真空加工装置が求められます。真空シールは、この真空加工装置に装着され。製造工程中の真空チャンバー内への空気・蒸気・微粒子の侵入を防止しながら回転軸を通じて動力を伝えます。磁性流体の特性を応用した同社の製品は高度な密封性能を誇り、磁性流体シールにおいてトップシェアを誇ります。

<第二の柱:サーモモジュール>
電流を流すことで温度差を生じる半導体冷熱素子で、対象物を暖めたり・冷やしたりすることができます。最近では、代替フロンの冷却ユニットとして注目を集めています。利用分野は、エレクトロニクス、光通信、バイオテクノロジーなどの成長産業から、レジャー用品、小型冷蔵庫やDVD等の家電までの幅広い分野で採用されています。

サーモモジュール


<石英製品>
半導体製造プロセスに不可欠な高温作業に耐え、活性ガスとの化学変化をおこさない高純度のシリカガラス製品です。シリコンウエハーの薄膜生成・搬送・洗浄などの工程でウエハーをホールドする物です。原材料の調達から製造加工、販売までを行っています。半導体製造工程に必要な、あらゆる石英製品をラインアップしています。


三次元ダンパ

その他、レーザースキャナーに利用される『三次元ダンパ』、ハイファイスピーカー・カーコンポ用スピーカーに利用される『スピーカー用磁性流体』、VTR・FD・ハードディスク・磁気ヘッドなど磁性材の観察に利用される『磁区観察用磁性流体』など、多彩な分野で利用されています。

 

海外展開とグループ戦略

同社では、「適材適所、世界の各地域性に合った事業活動を行う」 を標榜するトランスナショナルな事業戦略を掲げています。日本・アメリカ・ヨーロッパ・アジアにグループ会社を配置し、グローバルな事業体制を確立しています。
アメリカは、フェローテック製品のマーケティングとR&D拠点としての役割を担っています。1999年に元の親会社・ナスダック企業であったフェローフルイディクス社を買収。開発機能強化と販売拡大を進めています。
日本は、本社をグループ全体のヘッドクオーターとして、世界中のグループ会社からの情報を集約し、次の事業戦略を構築しています。 アジア地域は重要な生産拠点です。中国に生産子会社が2社、工場が4つあり、ISO9002認証を取得するなど、万全の生産・品質管理体制を確立しています。
また、シンガポールにアジアマーケットへの販売拠点を設けるなど、高まる需要に応えています。 また、今後は、ヨーロッパ市場への事業展開を積極的に推進していきます。

 

中国でのCMS事業に期待

このように世界的なグループネットワークを確立し、グループ各社が有機的に機能することで効率的・合理的な事業経営を進めている同社ですが、今後大きく期待されているのが中国における生産体制です。
同社は10年前に中国へ進出しました。といっても従業員9名の小さな工場からのスタートでした。現在は、杭州市に2工場、上海に2工場を持ち、日本やアメリカで受注したコンピュータシール、サーモモジュールなどの量産品を製造しており、従業員も1500人に達します。
山村社長が今後もっとも力を入れていくのがこの中国工場によるCMS(コントラクト・マニュファクチュアリング・サービス:受託生産)事業です。CMSについてはご存知の方も多いと思いますが、企業が今までは自社の工場で生産していたものを外部の工場に生産を委託するもので、設備投資を抑えることができるというメリットがあり、企業経営の効率化が至上命題の現代、多くの企業に広まりつつあります。
同社にとっては、工場の稼働率を上げることができることに加え、モノ作りのノウハウを蓄積することができるという点が大きなメリットです。
現在は、洗浄事業が開始されまた日本企業からシリコンウェハーの受託加工も始まっています。8インチシリコンウェハーも視野に入っており、4−5年後にはシリコンウェハーだけで100−200億円の売上も期待でき、今後さらに生産能力を拡大する必要はありますが、現在の連結売上高約150億円を、今後4―5年で500億円、長期的には1000億円まで伸ばすことが可能になってきたと社長は考えています。

「中国でのビジネスというと様々な問題がおきやすいといわれていますが、御社がうまく展開している要因は何ですか?」との質問に対し、社長はまず「米国でビジネスマンとして育ってきた」ことを挙げられました。山村社長は、アメリカにおける長く豊富なビジネス経験から、現在の日本企業および日本企業のマネージメントに疑問を持っています。アメリカ人・中国人と比較し、日本人はビジネスに関する感覚がかなりズレていると考えているのです。
その一つとして、グローバルな環境で、思い切った権限委譲を行なって「やる気」を出させ、意思決定のスピードアップを図り、組織を引っ張っていくことが日本人にはできないという点をあげられました。
これに対し同社では、9名の小工場のときからマネージメントは、中国人留学生(現在中国工場の社長:賀賢漢氏)に全てを任せました。円滑な事業活動ができる環境づくりを推進することで、教育制度、人事戦略、インセンティブの与え方等、「やる気のある社員は、どんどん出世させ、愛社精神が育まれる職場環境」となっているそうです。
こうした現地人マネージャーの積極登用による思い切った権限委譲は中国に限らず、他の海外子会社においても行われています。

 

2003年3月期業績予想

<連結>
売上高
16,500百万円
前期比
+11.8%
売上総利益
6,150百万円
前期比
+ 1.6%
営業利益
1,250百万円
前期比
+36.5%
経常利益
1,210百万円
前期比
+23.0%
当期純利益
800百万円
前期比
+1,157百万円の黒字化
EPS
46.4円
   

2ケタの増収を予想していますが、主力製品の売上が減収となり、粗利率が低下します。 その分を、経費削減努力と効率化を目指した組織の統廃合によって販売管理費を抑制し、営業利益、経常利益ベースでは大幅な増益を予想しています。
また、前期はフェローテック精工解散に伴う関係会社評価損771百万円を特別損失として計上しましたが、今期はそれがなくなり、当期純利益も黒字に転換する予想です。

 

訪問を終えて

約1時間の取材でしたが、山村社長のCMS事業に対する取り組み姿勢、意欲が極めて強いことが印象的でした。中国が世界の生産工場となるのは今となっては明らかな潮流ですが、コストが安いからといってどの企業も簡単に進出して成功できるものではないことは、日米多くのケースで明らかです。
そんな中、小さな工場からコツコツと積み上げてきた同社の基盤の強さは大きなアドバンテージであり、アメリカの有力機関投資家も同社のCMS事業の将来性に高い評価を与えているということです。
山村社長の経営信条は「ボーダーレス」。グローバルな視点の中で、日本の企業と企業人に対し厳しい目を向けています。しかし、かといって日本を全て否定しているわけではないようです。現在の中国の状況は、「自分が大きくなるためには会社を大きくしなくては。自分が働かないと会社が伸びていかない」という、かつての高度成長の日本と同じであり、経済環境が変わってもそういう意識を日本人は持たなくては、ともおっしゃっていました。
なお付け加えると、山村社長のお兄さんはあの「よど号事件(1970年3月)」で乗客の身代わりに人質として機内に入った山村運輸政務次官(当時)。畑は違っても熱い血筋なのでしょう。

 
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