ブリッジレポート
(8860) フジ住宅株式会社

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ブリッジレポート:(8860)フジ住宅 vol.10

(8860:東証1部,大証1部) フジ住宅 企業HP
今井 光郎 社長
今井 光郎 社長

【ブリッジレポート】フジ住宅 vol.10
(取材概要)
「大幅に見直された中期経営計画の数値目標はショッキングなものでした。この発表を受けて株価も下落し、大きな痛手を受けた株主の方もいらっしゃるかと思います。しかし、売上目標に見合った土地の仕入を行う必要・・」続きは本文をご覧ください。
企業基本情報
企業名
フジ住宅株式会社
社長
今井 光郎
所在地
大阪府岸和田市土生町1丁目4番23号
決算期
3月
業種
不動産業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2007年3月 52,221 4,233 4,090 911
2006年3月 41,333 3,229 3,196 1,312
2005年3月 43,954 3,208 2,799 1,661
2004年3月 34,387 2,034 1,891 684
2003年3月 32,905 1,198 1,028 545
2002年3月 33,419 899 692 297
2001年3月 31,433 2,928 2,681 1,503
2000年3月 34,268 1,596 1,117 -2,237
株式情報(5/8現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
460円 36,608,205株 16,840百万円 7.3% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
17円 3.7% 30.62円 15.0倍 376.23円 1.2倍
※株価は5/8終値、ROEは前期実績
※配当を除く1株当たりの指標は連結ベース
 
フジ住宅の2007年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
会社概要
 
地盤である大阪府下を中心に戸建分譲等、住宅・不動産事業を展開。主力の戸建分譲は、分譲ながら間取りや設備仕様等、建築基準法の範囲内で最大限に顧客の要望を取り入れる「自由設計方式」と50~200戸規模で街並みの統一性を重視した開発を行う「街づくり」に特徴があります。また、戸建分譲のノウハウを活かした中古住宅の改装販売も単なる中古住宅の流通とは異なる独自のビジネスです。同社の他、建築の設計管理・請負、及び賃貸管理を手がける連結子会社2社で企業グループを形成しています。
 
<事業概要>
現在の事業は、「分譲住宅事業(戸建・マンション)」、「土地有効活用事業(建築請負)」、「賃貸及び管理事業」、「不動産ファンド等向け賃貸マンション販売事業」、「中古住宅の販売及び仲介事業」に分かれます。
 
1.分譲住宅事業(戸建・マンション)
用地仕入・許認可の取得から、宅地造成、設計、建築、販売までの一貫体制を構築しています。もともと建売を中心に展開していましたが、02/3期前半に戸建住宅の販売不振に陥りました。その原因を分析する中で、同社の中心購買層(25~35才)のニーズが"洗練された外観デザインと自由な間取り、多彩なオプション仕様"にあるということがわかり、顧客の要望を最大限に取り入れる「自由設計方式」(大手の戸建分譲会社では対応が難しい)を導入しました。体制の変更に6ヶ月間を要しましたが、02年1月より販売が好転。以降も工夫を重ねながら、販売活動は順調に推移しています。また、03年1月以降、本格的に営業地域を拡大。より需要層が厚く、販売単価の高い大阪北部、兵庫県南部へ進出しました。
 
2.土地有効活用事業(建築請負)
対象顧客は既契約者、金融機関や既契約者からの紹介による土地所有者で、賃貸管理と分譲住宅事業のノウハウを活かして、美観性が高く、居住性に優れた木造賃貸アパート「フジパレス」、「エンフィールド」、RC造賃貸マンション「エフ・コンスパイヤー」、さらには2006年1月に木造賃貸住宅「フジパレス戸建」を商品化し、事業を展開しています。単なる建築請負ではなく、サブリースを前提とした土地所有者との運命共同事業として、徹底した市場調査・企画・設計・建築・竣工引渡後の建物の運営管理までのトータルルサポートシステムを顧客個々の状況に合わせた「安定・安全・安心」の事業として提案しています。
 
3.賃貸及び管理事業
賃貸マンションの建物管理や入居者募集、賃料回収、事務等の管理業務及び分譲マンションの管理組合からの運営受託等を、100%出資子会社フジ・アメニティサービス(株)が手掛けています。安定収益となるばかりでなく、事業のノウハウが土地有効活用事業や不動産投資ファンド等向け賃貸マンションの販売及び分譲マンションの建築に役立っています。
 
4.不動産ファンド等向け賃貸マンション販売事業
分譲住宅事業、土地有効活用事業、賃貸及び管理事業等で培ってきたノウハウを生かした事業です。建物の完成時点での引渡しだけでなく、新築物件を一定期間保有し、稼動実績を付けて販売する方式なども取り入れています。ただ、継続的に拡大を図る事業と言うよりも、需要動向を見ながら、臨機応変に対応していく事業です。
 
5.中古住宅の販売及び仲介事業
中古住宅再生事業としての手法を確立している改装付中古住宅「快造くん」が人気を博しています。地域密着型の営業による交差点単位での地域情報とその分析による物件の鑑定力、仕入、販売価格の査定の速度と正確性及びリフォームのマニュアル化による独自のノウハウが強みです。また、06年2月に新業態の中古住宅を中心とする豊富で鮮度の高い住まい探しの情報拠点として「お・う・ち・館」を開設し、物件情報の提供のみならず住宅ローン及び持家の売却相談や無料査定に至るまでの専門のアドバイザーによるコンサルティングスペースとして、住宅に関する地域のコミュニティセンターを目指した店舗運営を通じて業績への寄与を図る考えです。
 
2007年3月期決算
 
 
26%の増収、28%の経常増益と、事業は順調に拡大しました。ただ、所有土地に係る特損計上とこれに伴う繰延税金資産の取り崩しにより、当期純利益は911百万円にとどまりました。
 
 
不動産販売事業
売上高40,564 百万円(前期比26.3%増)、営業利益3,996 百万円(前期比19.4%増)
戸建住宅
売上高27,149 百万円(前期比6.8%増)
住宅間取りや設備仕様に対する様々な顧客ニーズに対応した自由設計及びオプション方式の住宅が引き続き順調に推移。パラモアⅡハートオブリゾート(岸和田市)73 戸、ユーロフォーラム舞子(神戸市垂水区)66 戸、パラモアⅢデイライフ・リゾート(寝屋川市)65 戸など779 戸(前年同期775 戸)の引渡しを行いました。
 
中古住宅
売上高5,733 百万円(前期比9.1%減)
改装付中古住宅「快造くん」の販売エリアを堺市に拡大。受注戸数(399 戸、前年同期396 戸)、受注契約高6,133 百万円(前期比4.2%増)を確保したものの、建売住宅の販売に注力した事もあり、売上高は前期実績を下回りました。
 
土地販売
売上高1,541 百万円(前期比297.5%増)
売上高1,541百万円のうち、1,272 百万円は昨年の中期経営計画で08/3期に売上予定であった不動産ファンド向けの賃貸マンション用地を賃貸マンションを建築せずに販売したものです。
 
不動産投資ファンド等向け賃貸マンション
売上は6,139 百万円(前年同期の売上はありません)
 
土地有効活用事業
売上高5,736百万円(前期比43.9%増)、営業利益760百万円(前期比113.4%増)
新商品の一戸建て賃貸住宅「フジパレス戸建」11 戸を含む53 件の引渡しを行いました。
 
賃貸及び管理事業
売上高5,661百万円(前期比13.0%増)、営業利益415百万円(前年比39.8%増)
土地有効活用事業にリンクした賃貸物件及び管理物件の取扱い件数が増加しました。
 
その他の事業
売上高258百万円(前期比11.5%増)、営業損失16百万円(前期比39百万円減)
中古住宅の仲介118 件(前年同期88 件)を成約したことで事務手数料収入が増加しましたが、人件費等諸経費の増加により営業損失となりました。
 
<特別損失>
市街化調整区域に土地(固定資産)を保有していましたが、市街化調整区域における大規模開発に対する規制が強化され、事業化が難しくなりました。回収可能見込額が帳簿価格を大きく下回ることとなり、今後の回復も見込めないことから、減損会計基準にもとづく減損損失930 百万円を計上しました。また、この減損損失計上に伴い、当該土地に係る繰延税金資産546 百万円の取崩しを行いました(法人税等調整額1,404百万円計上)。
 
2008年3月期業績予想
 
 
減収・減益の予想です。
都市部での急激な地価上昇等で、住宅不動産業界を取り巻く環境に不透明感が高まってきました。このため、事業の拡大に焦点を当てた攻めの経営を進めるよりも、守りに徹する時期であるとの判断です。売上高が減少する中、人財の採用と育成等の先行投資が利益を圧迫します。ただ、1株当たり配当金は、年間17円(うち中間配当8円)を維持する考えです。
 
中期経営計画
 
国土交通省が本年3 月22 日発表した公示地価は、住宅地・商業地ともに全国平均で1991年以来16年ぶりにプラスに転じました。大阪圏でも商業地が前年より8.3%上昇し、中には上昇率が40%を超える地点が現れるなど、都市部では事業化による採算ラインを度外視した価格で取引される事例が目に付くようになってきました。又、昨年7月と本年2月の2回に渡り日銀の政策金利が計0.5%引き上げられ、これに連れて市中金利も上昇しています。一方、個人所得はそれほど伸びていないため、地価等のコストの上昇分をそのまま販売価格に転嫁する事は難しい状況です。
このため、同社では、事業の拡大に焦点を当てた攻めの経営を推進するよりも、より確実な事業に徹する時期であり、一時的に業績を低下させても将来のさらなる業績の伸長に向けての優秀な人財の採用と育成等の時期と考え、これまで発表していた中期経営計画の数値目標の大幅な見直しを行いました。新たに設定された数値目標は次の通りです。
 
 
分譲住宅、土地有効活用及びこれに付帯する賃貸管理事業においては、03年1月に拡大した大阪府下全域、兵庫県南部、和歌山市の深耕に、中古住宅再生事業においては、05年に進出した堺市の深耕に、それぞれ取り組みます。また、分譲事業において、比較的地価が安定している大阪府及び兵庫県の郊外で、複数の大規模プロジェクトによる住宅の供給を本格化します。売上高は08年3月期(H20.3期)に減少が予想されるものの、09年3月(H21.3)期以降、拡大基調に転じる見込みです。
販売計画については、上記のように見直を行いましたが、「顧客満足日本一の達成とこれを促進するための経営基盤の強化」と言う従来の中期経営計画の基本方針は引き継ぎます。この一環として、設計・建築及び引渡後のアフターサービス体制の強化、将来に向けての優秀な人財の確保を進めていく考えです。このため、当面は、人件費を中心にした先行投資が負担となります。
 
 
分譲住宅事業
現在進行中の大規模6プロジェクト(計1,385 戸)が2010年3月期にかけて業績に寄与してきます。地域戦略として、大阪府北部、兵庫県南部地域の用地仕入れ及び住宅販売を強化すると共に、南大阪の東部(河内長野市、富田林市、藤井寺市等の近鉄南大阪線の沿線地域)へ本格的に進出します。ただ、地価動向を注視し、販売量の絶対数の用地確保を目的とせず、事業化による適正利益が確保できる用地の選別仕入れに徹します。
また、「さらなる顧客満足度向上」をテーマにした住宅づくりの一環として、建売住宅ではかなわない夢の実現を可能にする自由設計方式を継続します。このため、設備・仕様の各品目について、3,000 アイテムから成るオプション制度の充実を図ります。品質面では、建築工事の一定期間集中を避け、工事量を平準化する事で施工精度の向上を図ると共に、引渡後の定期巡回の人員増強によりアフターサービスを充実させていく方針です。
 
中古住宅事業
地価の上昇に伴う仕入価格の上昇で、中古住宅販売の粗利益率は低下しがちです。同社では、改装により付加価値を高める事で、未改装の中古住宅との差別化を図り利益率の維持向上に努めていく方針です。
また、昨年、堺事務所を開設した堺市(2006年4月1日政令指定都市)の市場深耕に努めると共に、段階的に営業地域を拡大させていく考えです。
 
土地有効活用事業
2007年3月期の前半に金利の上昇懸念から受注が低迷したため、2008年3月期は営業損失となる見込みですが、2007年3月期の後半以降、受注は回復傾向にあります。今後も大きな金利の上昇がないことを前提に、2010年3月期にかけて、土地有効活用事業の拡大が続くと考えています。
従来通り既契約者と銀行ルートでの提案営業を活動の中心としていきます。美観性が高く、居住性に優れた木造アパート「フジパレス」シリーズを主力商品として、低コストのRC 造マンション「エフ・コンスパイヤー」、一戸建て賃貸住宅「フジパレス戸建」の充実を図ります。また、分譲住宅事業の営業エリア拡大に伴い、当事業の営業エリアも拡大していきます。
 
不動産投資ファンド等向け賃貸マンション販売事業
リート及び不動産投資ファンド等への販売に際しては、物件の収益性を確実なものとするために、竣工後一定期間、同社が保有運営し、稼動実績を付けて販売します。一方、個人富裕層向けは竣工と同時の引渡しを原則とします。
 
都市部の土地は事業化による採算ラインを度外視した価格となっているために、2007年3月期は用地を仕入れを行いませんでした。又、物件の供給先であるJ リート及び不動産投資ファンドも、地価の上昇で不動産の収益性が悪化したことや、仕入時に想定した収益が得られない物件の増加、更には違法建築物件の選別が厳しくなったこと等で、仕入に関して慎重な姿勢を強めています。このため、不動産ファンド向け賃貸マンションは、現在建築中の3棟で休止します。今後地価が調整され、本来の収益還元法で取引される状況に戻れば、事業を再開する考えです。
但し、ファンド向けと同じビジネスモデルの個人富裕層向け小規模賃貸マンション・アパートの一棟売りについては、個人富裕層の資金運用の手段として多少の金利上昇傾向下でも需要が強いこと、一棟当たりの投資額が小額で事業リスクが低いこと、及び物件の立地を都市部に限定しないことから、今後も継続して進める方針です。
不動産ファンド向けの引渡しは、2008年3月期に2棟、2009年3月期に1棟を計画、個人富裕層向けは2008年3月期に6棟、2009年3 月期に7 棟、2010年3月期に5棟を計画しています。
 
賃貸及び管理事業
土地有効活用事業の請負工事受注物件及び販売した個人富裕層向け賃貸マンションの管理受注や、管理物件の大規模修繕提案の推進により、収益の拡大を図ります。また、経営の合理化と原価低減を含む収益性の向上にも取り組みます。
 
取材を終えて
大幅に見直された中期経営計画の数値目標はショッキングなものでした。この発表を受けて株価も下落し、大きな痛手を受けた株主の方もいらっしゃるかと思います。しかし、売上目標に見合った土地の仕入を行う必要がありますから、地価が高値にある時は割高な土地を抱え込むリスクが高まります。住宅・不動産業界に限った事ではありませんが、リスクの芽を未然に刈り取る事の大切さは、バブル崩壊後の10年で日本経済が学んできた事です。事業環境の変化を察知し、間髪を入れずに数値目標の見直しを行った同社の英断は、いずれ評価されるものと思います。