ブリッジレポート
(8860) フジ住宅株式会社

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ブリッジレポート:(8860)フジ住宅 vol.18

(8860:大証1部,東証1部) フジ住宅 企業HP
今井 光郎 社長
今井 光郎 社長

【ブリッジレポート vol.18】2009年3月期業績レポート
取材概要「過去数年間、売上高が減っている割には在庫が減っていなかったが(08/3期は16億円減、09/3期は18億円減)、10/3期は在庫を55億円削減する考えで・・・」続きは本文をご覧ください。
2009年5月26日掲載
企業基本情報
企業名
フジ住宅株式会社
社長
今井 光郎
所在地
大阪府岸和田市土生町1丁目4番23号
決算期
3月
業種
不動産業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2009年3月 45,300 2,584 2,388 1,361
2008年3月 48,793 2,723 2,413 2,097
2007年3月 52,221 4,233 4,090 911
2006年3月 41,333 3,229 3,196 1,312
2005年3月 43,954 3,208 2,799 1,661
2004年3月 34,387 2,034 1,891 684
2003年3月 32,905 1,198 1,028 545
2002年3月 33,419 899 692 297
2001年3月 31,433 2,928 2,681 1,503
2000年3月 34,268 1,596 1,117 -2,237
株式情報(5/7現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
275円 31,999,029株 8,800百万円 9.5% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
4.00円 3.6% 23.41円 11.7倍 446.59円 0.6倍
※株価は5/7終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
フジ住宅の2009年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
地盤である大阪府下を中心に戸建分譲等、住宅・不動産事業を展開。主力の戸建分譲は、分譲ながら間取りや設備仕様等、建築基準法の範囲内で最大限に顧客の要望を取り入れる「自由設計方式」と50~200戸規模で街並みの統一性を重視した開発を行う「街づくり」に特徴がある。この他、金融機関とタイアップした土地有効活用事業、賃貸・管理事業、不動産ファンドや個人投資家向けの賃貸マンション販売事業、及び戸建分譲のノウハウを活かした中古住宅の改装販売等も手掛けている。各事業の内容は次の通り(下記の他に「その他の事業」が売上高の約0.5%を占める)。
 
(1)分譲住宅事業(戸建・マンション)   09/3期売上構成比53%
用地仕入・許認可の取得から、宅地造成、設計、建築、販売までの一貫体制を構築しており、「自由設計方式」と「街づくり」が特徴。地価上昇に伴う事業リスクの高まりから6年前にマンション用地の仕入を停止。
 
(2)中古住宅の販売及び仲介事業          同 21%
「快造くん」のブランド名で展開している中古住宅の再生・販売が中心。地域密着営業により交差点単位での地域情報を収入し分析する。物件の鑑定力、仕入・販売価格の査定の速度と正確性、更にはリフォームのマニュアル化による独自のノウハウ等が強み。
 
(3)不動産ファンド等向け賃貸マンション販売事業  同 2%
不動産ファンドや個人投資家を対象とした事業。不動産ファンド向けは、地価上昇によるリスクの高まりから、05年秋以降、土地の仕入を行っていない。現在は、資金運用手段として根強い需要があり、立地も都市部に限定されない個人投資向けに絞り事業展開している(以下、個人投資家向け1棟売賃貸マンション事業として表記する)。
 
(4)土地有効活用事業(建築請負)         同 9%
遊休地の有効活用を目的とした賃貸マンション・アパート等の建築提案を行なっている。市場調査・企画・設計・建築・竣工引渡後の運営管理までを一貫してサポート。金融機関や既契約者からの紹介案件が多い。
 
(5)賃貸及び管理事業               同 14.5%
100%子会社フジ・アメニティサービス(株)が手掛けている。安定収益源となるばかりでなく、土地有効活用事業や不動産投資ファンド及び個人投資家向け賃貸マンションの販売等との相乗効果も高い事業。
 
2009年3月期決算
 
 
前期比7.2%の減収、同1.0%の経常減益。期初の予想を超える厳しい事業環境が続く中、前期並みの経常利益を確保すると共に、受注契約高(同4.4%減)、売上高及び各利益段階で期初予想を上回った。
売上の面では、景気悪化等で比較的単価の高い自由設計住宅が落ち込んだものの、低価格の建売住宅販売や新事業所のオペレーションが軌道に乗った中古住宅が伸びた他、木造アパート「フジパレス」を中心に土地有効活用事業も伸長。賃貸及び管理事業も堅調に推移した。
利益面では、収益性の高い土地有効活用事業の売上伸長や子会社への事業集約効果による賃貸・管理事業の利益率改善により売上総利益率が1.0ポイント改善。一方、広告宣伝費の削減により販管費を前期並みに抑えた事で、営業利益は同5.1%の減少にとどまった。支払利息や補修工事の減少でほぼ前期並みの経常利益を確保したものの、税効果会計の影響等で税負担が増加したため(前期は極端に税負担が少なかった)、当期純利益は同35.1%減少した。
 
(2)事業別動向
①不動産販売事業
受注契約高は期初計画(31,029百万円)を上回る32,922百万円(前期比8.9%減)、売上高は同13.9%減の34,576百万円、営業利益は同33.6%減の2,090百万円となった。
 
戸建住宅
事業リスクを抑えた小規模の新築建売住宅の販売が順調に推移した事で受注総戸数(639戸)が期初計画(620戸)を上回ったものの、景気悪化等による主力の自由設計住宅の落ち込みが響き、受注契約高は21,877百万円と前期比5.5%の減少、売上高も24,021百万円と前期比11.2%減少した。
 
中古住宅
受注契約高は前期比21.0%増の9,864百万円、売上高は同15.9%増の9,279百万円。堺店(07年1月開設)、フジホームバンク大阪店(08年6月開設)の運営が軌道に乗り、受注戸数及び引渡し戸数共に増加した。
 
個人投資家向け1棟売り賃貸マンション
受注契約高は前期比77.5%減の1,013百万円、売上高は同75.8%減の1,170百万円。不動産投資ファンド向けの物件が無くなり、個人投資家向けのみとなったため案件が小型化した(個人投資家向け案件のみの比較では、売上高は同28.2%減)。不動産投資ファンド向けは前期で物件の売却を完了しており、当面事業化の計画は無いが、個人投資家向けは、資金運用手段として個人富裕層を中心に根強い需要がある。また、立地も都市部に限定されないため、物件確保が比較的容易なため、今後も需要の旺盛な堺市を中心に供給を継続していく考え。
 
②土地有効活用事業
従来の木造アパート「フジパレス」、戸建賃貸住宅「フジパレス戸建」に加え、08年11月に、高齢化社会の新しい土地活用事業として「フジパレスシニア」(低賃料タイプ高齢者専用住宅)の販売を開始した。シャープ(株)の進出で堺市周辺は1Kクラスの賃貸物件が不足しており事業環境は良好。また、「フジパレスシニア」も、09/3期末までの5ヶ月間で10棟(1,952百万円)を受注する等、順調な立ち上がりを見せた。この結果、受注契約高が4,485百万円と前期比49.2%増加。売上高も3,994百万円と同75.8%増加したものの、「フジパレスシニア」の立上げに伴う先行投資で営業利益は734百万円にとどまった。
 
③賃貸及び管理事業
管理戸数の増加により売上高が6,530百万円と前期比6.0%増加。子会社への事業集約効果もあり営業利益は541百万円と同16.5%増加した。
 
④その他の事業
中古住宅の仲介手数料やローン事務手数料等の計上で売上高は198百万円と前期比1.1%増加。事務の合理化による経費の削減効果等で営業利益は35百万円と同92.8%増加した。
 
 
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー
営業CFが黒字である上、金融機関からの信頼も厚く手元資金は潤沢である。
 
 
期末総資産は前期末比1,197百万円増の49,904百万円。新興不動産会社の破綻が相次いだ事もあり、無担保の短期資金を調達し、現預金残高を前期比3,557百万円(119%)増やし資金調達力をアピールした事が資産増加の要因。尚、資金の回転が早い小規模の新築建売住宅や中古住宅等の事業が拡大している事から調達は長期から短期にシフトした。また、仕入債務の減少は、外注先への配慮から手形を現金払いに変えたため。
 
 
支払手形廃止の影響を吸収して営業CFが増加する一方、設備投資を住宅館の設置や改装等に絞り込んだため投資CFのマイナスが縮小し、フリーCFが大幅に増加。期末にかけて現預金を積み増した事で財務CFも増加し、現金及び現金同等物の期末残高は6,547百万円と前期末比3,557百万円増加した。
 
2010年3月期業績予想
 
 
前期比2.9%の減収、同45.6%の経常減益予想。
厳しい事業環境が続くとの想定の下、不動産販売事業は自由設計方式の大型分譲を抑制し、事業期間が短く資金負担も軽い低価格の新築建売住宅や中古住宅「快造くん」を軸に展開する。管理物件の増加で賃貸及び管理事業が堅調に推移する他、当期の引渡予定物件を前期に引渡したため若干の減収が見込まれる土地有効活用事業も高水準の売上高を維持する見込み。利益面では、新たに設定した在庫管理指標(後述)を達成するべく、在庫の削減を進めるため売上総利益率が低下する一方、在庫削減目標の達成に向けて販売促進費が増加するため販管費がわずかに増加する。
 
 
中期経営計画
 
今回発表された中期経営計画は、向こう3年間は現状の厳しい事業環境が続くとの想定の下、売上・利益の拡大よりも、経営基盤(財務体質及び営業体制)の強化に重点を置いて策定された。言い換えると、今後更に大きな景気変動の影響を受けたとしても、存続可能な経営体質の確立に主眼が置かれている。尚、中期経営計画は毎年見直しが行なわれ、必要に応じて数値目標が修正される。今回発表された計画は、極めて厳しい事業環境を想定したものである。
 
(1)経営基盤の強化に向けた取組み
不動産・住宅の開発販売会社の安定経営のポイントの一つは、棚卸不動産(以下、「在庫」)の「質」と「量」の調整に尽きる。ただ、「質」は変動する地価の動向に左右されるため、その調整が難しい。実際、同社においても、平成バブルの絶頂時には簿価に等しい額の含み益のあった在庫が、わずか2年後のバブル崩壊時には一転して多額の含み損を抱えたという苦い経験を持つ。また、昨年のファンドバブル崩壊からリーマンショックに続く世界同時不況でも、短期間で不動産の「質」が大きく低下した。このため、成長を急いだあまり大量の在庫を抱えた(量の確保に固執した)新興不動産会社を中心に倒産が相次いでいるが、同社は平成バブルの教訓を活かして量の確保に固執せず、価格高騰時の無理な仕入れ(高値買い)を自粛したため、地価下落の影響を最小限に抑える事ができた。こうした経験を踏まえて、同社は安定成長と景気変動の大波を受けても揺らぐ事のない経営体質(倒産しない会社づくり)の構築を目指して、次に示す独自の在庫管理指標を設定し在庫量をコントロールする。
 
具体的施策
①売上高に対する在庫の倍率、在庫に対する借入金の倍率、及び純資産に対する在庫の倍率の指標を設定し、在庫を調整する事で経営の安定化を図る。尚、本中期経営計画では、この3つの指標を2011年3月期までに達成し、以降これを維持する。
 
 
 
②経営の多角化による収益構造の転換(脱デベロッパー事業の強化)
・土地の保有に伴う値下がりリスクを軽減するため、在庫の回転の早い中古住宅事業、土地を保有しない土地有効活用事業及び安定収益源の賃貸・管理事業の比率を更に高める。
 
将来目標値…売上高構成比50%以上
 
 
・その他、脱デベロッパー事業の施策(数値目標は設定していない)
将来の事業化を睨んで、同社住宅の既購入者へのリフォーム、建替えのテスト・マーケティング、及び高齢者専用賃貸住宅「フジパレスシニア」の運営を通じたシルバー関連市場のマーケティングを実施すると共に、景気低迷期に市場に放出される格安(高利回り)の収益物件を取得し、将来の安定収入源とする。
 
(2)次の景気上昇局面で確実に成長するための営業体制の確立
次の景気上昇局面での業績の向上をより確かなものとするため、資金調達力を活かして、低価格の中・大型開発用地等の好物件の確保を継続するものの、同時に在庫削減、CS活動、及び営業地域の拡大に取り組むと共に、人財投資を継続する事で景気回復後の業績の伸長をより確実なものとする。
このうち在庫削減については、現在の地価の不安定な状況下で、先ずは現状保有する物件の販売を優先し、本中期経営計画の売上げに対応する用地仕入においては、開発に長期間を要しない完成宅地や小規模建売用地を中心に仕入れを進める。
また、営業地域の拡大については、中古住宅事業において、従来の大阪府南西部の泉州地域限定の事業展開から、07年1月に堺店、07年8月に泉北店を開設して堺・泉北地域へ進出、次いで08年6月に大阪店を開設して大阪市まで営業地域を拡大した。この結果、09/3期の売上高は、拡大前の07/3期と比較して62%の増加と順調に推移している。今後も大阪店を拠点に、周辺地域へ進出する予定で、市場の把握と体制整備が出来次第、順次重要拠点に新規事業所を開設していく。
 
 
 
取材を終えて
過去数年間、売上高が減っている割には在庫が減っていなかったが(08/3期は16億円減、09/3期は18億円減)、10/3期は在庫を55億円削減する考えで、期末在庫は294億円に圧縮される見込み。過去の期末在庫と翌期以降の売上高との関係から考えると、440億円~450億円程度の売上高を想定した場合、250億円~300億円程度が適正在庫と思われるが、今期末にはほぼこの水準に収斂するわけだ。
08年から09年にかけて多くの上場不動産会社が破綻したが、共通している事は過去数年間での在庫と有利子負債の急激な増加であり、もちろん営業キャッシュ・フローも悪化した。同社は今期で3期連続の減収・減益が見込まれるが、急激に不動産市況が悪化する中で損失を計上する事も無く、また、営業キャッシュ・フローも改善させてきた。加えて、金融機関との関係も良好で手元資金も潤沢だ。
今後、在庫コントロールを厳格化する事で、好況時の成長力が相対的に若干見劣りする可能性はあるが、住宅・不動産各社の株価が上昇すれば、当然、同社の株価も上昇する。一方、過去の経験から、好況と背中合わせとも言える破綻リスクが極小化されるため、長期保有の投資家にとって歓迎すべき施策であろう。今期は減配を予定しているものの、現在の株価は配当利回り3.6%の水準にあり長期保有に耐えうる水準と考える。