ブリッジレポート
(2468) 株式会社フュートレック

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ブリッジレポート:(2468)フュートレック vol.11

(2468:東証マザーズ) フュートレック 企業HP
藤木 英幸 社長
藤木 英幸 社長

【ブリッジレポート vol.11】2009年3月期業績レポート
取材概要「昨秋以降の厳しい事業環境については、今さら説明するまでも無いが、こうした中で同社は09/3期に5期連続の増益を達成し最高益を更新した。その原動・・・」続きは本文をご覧ください。
2009年6月9日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社フュートレック
社長
藤木 英幸
所在地
大阪市淀川区西中島 6-8-31
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2009年3月 1,777 404 415 221
2008年3月 1,598 264 277 159
2007年3月 1,253 249 256 162
2006年3月 1,443 173 165 99
2005年3月 1,059 69 79 33
2004年3月 907 9 6 -1
2003年3月 736 12 12 3
2002年3月 435 17 34 29
株式情報(6/2現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
240,000円 23,282株 5,588百万円 10.8% 1株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
3,700.00円 1.5% 12,885.49円 18.6倍 92,135.62円 2.6倍
※株価は6/2終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
フュートレックの2009年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
携帯電話用音源IPライセンス事業を中心に、分散音声認識技術を用いた音声認識事業、車載用ソフトウエアの受託開発、各種センサー等の受託開発、及びカード事業を手掛けている。携帯電話用音源IPライセンス事業では、音源LSI(音を鳴らすための半導体)の開発・販売を行なっているが、LSIを製造して売るのではなく、LSIの設計データとそのLSIを駆動させるためのソフトウエア(組込ソフトウエア)を知的財産権化(IP化)して販売している。

LSIの設計やセンサーの受託開発からスタートした同社だが、ソフト音源や分散音声認識技術などソフトウエア分野へ活動範囲を広げており、既に、ソフトウエア技術をベースにした音声認識システムや音声翻訳サービスの売上が連結売上高の1/3を占めている。中期的にはハード・ソフトの技術をベースにサービス分野を強化する事で、「技術開発型会社」から「技術開発型サービス会社」へと業態を進化させていく考え。
 
<事業の概要>
事業部制を敷いており、音源事業及び車載用ソフトウエア受託開発の第一事業部、センサー等の開発を行なっている受託開発事業とメモリー・カードへの書き込みを行なうカード事業の第二事業部、音声認識事業の第三事業部に分かれる。09/3期の売上構成比は、それぞれ51.3%、14.5%、34.1%。更に、10/3期から第4事業部として、UI(ユーザーインターフェイス)ソリューション事業を開始した。
 
第1事業部 携帯電話音源IPライセンス事業、車載用ソフトウエアの受託開発事業
第2事業部 自動車向けセンサーを中心にした受託開発・新規IP開発、メモリー・カードへの書込み事業
第3事業部 音声認識ソフトウエアの開発
第4事業部 「使いかたナビ®」(後述)の提供及びUI開発
 
<企業グループ>
同社の他、車載用ソフトウエア受託開発の株式会社 シンフォニック(事業区分は第1事業部)、及び音声認識ソフトウエア開発や音声認識サービスを提供する株式会社 ATR-Trek(同 第3事業部)の連結子会社2社。
 
2009年3月期決算
 
 
前期比11.1%の増収、同49.8%の経常増益。
音源関連や車載関連が苦戦する中、音声認識事業が伸長。厳しい事業環境の中、過去最高益を更新した。
売上高が期初予想に届かなかったのは、携帯電話の生産台数減少で音源IPのロイヤルティ(生産台数に応じて支払われる)が期末にかけて減少した事や、昨秋以降の急激な自動車販売の落ち込みで車載用ソフトウエアや自動車向けのセンサー等の受託開発が落ち込んだため。ただ音声認識事業の売上増と経費の見直しにより、営業利益以下の各利益段階で期初予想を上回った。
配当は、当初予定していた1株当たり2,300円を上方修正、前期比1,100円増配の2,700円を予定している。
 
 
第1事業部(音源事業・車載用ソフトウエア受託開発)
国内市場における携帯電話の音源搭載台数は、携帯電話販売における割賦販売方式導入や国内消費低迷により、前期の23,029千台から19,355千台へ3,673千台減少した。キャリア各社が、年度末にかけて端末の在庫整理を進めたため、ロイヤルティ収入が落ち込んだ。一方、ローエンド・タイプ音源が多い海外市場は9,100千台と同3,871千台増加した。この結果、ワールドワイドでの搭載台数は、前期の28,258千台から28,457千台へわずかに増加した。
車載用ソフトウエアの受託開発は、昨秋以降の急激な自動車業界の収益悪化の影響を受けて減少した。
 
第2事業部(受託開発・カード事業)
売上の内訳は、受託開発事業が前期比3.9%減の154百万円、カード事業が同10.5%減の104百万円。受託開発事業は、(株)インストームが連結対象から除外された事に加え、メーカーの予算見直しでセンサー等の受託開発が減少した。カード事業では、英語リスニング用模擬試験ビジネスが順調に推移したものの、一般書込みビジネスが減少した。
 
第3事業部(音声認識事業)
音声認識フロントエンド・ソフトウエアのランニングロイヤルティ収入が通期で寄与した他、新たに開発したソフトウエアのイニシャルフィーの売上もあり、大幅な増収となった。尚、音声認識フロントエンド・ソフトウエアはNTTドコモの2008年秋冬モデル22機種中18機種に搭載された。
 
(3)音声認識事業の特徴
音声認識事業は、06年12月に(株)国際電気通信基礎技術研究所(以下、ATR)との業務提携を受けて、07年4月に受託開発事業(第2事業部)から分離・独立した。音声認識とは、機器に向かって話しかけると(音声入力)、機器が言葉を聞き分け、語彙を特定し、文字等に変換するもの。
 
①分散型音声認識方式
「分散型音声認識方式(Distributed Speech Recognition:DSR)」を採用しており、音声認識の作業を端末とセンターの専用サーバで分散処理している事が特徴(このため、分散型音声認識方式と言う)。先ず、端末側(音声認識のフロントエンドエンジンを搭載)で音声から特徴量を抽出しパラメータ化する。そして、パケットとしてサーバへ送り、サーバ(バックエンドエンジン)で認識を行う。パラメータ化する際に同社の技術の特徴でもあるノイズリダクション技術により周囲の雑音等は排除され、豊富なデータベースを有するセンターの専用サーバが処理するため、高い認識精度を実現できる。サーバに蓄えられているデータベースは認識精度に大きな影響を与える重要な要素で、このデータベースが豊富な程、認識精度が高まる。
 
 
パラレルデコーディング技術
ATRの開発実績に基づく音声認識エンジンは、話し声を複数の認識器に同時に入力し、その中から最善の結果のものを選ぶ事ができる。複数の認識器は、複数の話す早さ、複数の話者年齢、性別、ノイズの大小等さまざまな組合せが可能で、使う人の違いや、ノイズ環境の違いがあっても、常に正確な認識を行う事ができる。
ノイズリダクション
周辺の音をどれだけカットできるかは、音声認識が雑踏でどれだけ使えるかに大きく影響する。同社の音声認識は、ATRの高性能ノイズリダクション技術を採用している。
 
音声認識技術を使う事で、音声入力によりセンターから必要なデータ(例えば、地図等の情報)をダウンロードしたり、画面を見ながら必要な情報を音声で絞り込んだり、更には音声でのWEBサーフィン等も可能になる。07年11月から、NTTドコモの携帯電話にフロントエンドエンジンが搭載されている他、バックエンドエンジンをゼンリンデータコム(「ゼンリン地図+ナビ」の地図アプリ向け)等へ販売している。
 
②コンテンツプロバイダ事業を拡大
音声認識事業では、システムの使用許諾契約時に発生するイニシャル収入、端末の生産台数やサービス数に応じたロイヤルティ収入が収入源となるが、フュートレックグループ自身もコンテンツプロバイダとなり事業を拡大させていく考え。
 
現在、音声翻訳サービス「しゃべって翻訳(英語・中国語)」、音声入力メール及び音声クイック検索をNTTドコモ向けに提供している。
 
 
音声入力メール及び音声クイック検索(09年5月サービス開始)
「音声入力メール」とはメール画面で「音声で入力する」を選択して、携帯電話に話しかけると、話した文章が題名またはメール本文として入力される、というもの。ハイブリッド型音声認識エンジンを使用した音声入力メールでは、サーバを利用した分散音声認識エンジン(DSR)と、携帯電話内だけで認識処理を行うスタンドアローン型の音声認識エンジン(LSR)を組み合わせて使用している。このため、「宙(そら)ちゃん」等の固有名詞を端末の電話帳データから検索できる(DSRのみを使用して音声入力メールを行っている機種もある)。
 
 
 
また、「音声クイック検索」はクイックメニューから立ち上げ、音声で検索したいワードを入力することで簡単にiモードサイトからの検索が可能になるサービス。 この「音声クイック検索」にも、サーバを利用した分散音声認識エンジン(DSR)が採用されている。
 
(4)第4事業部(UIソリューション事業)
(株)カナックからライセンス供与を受け、「使いかたナビ®」の提供を開始する。「使いかたナビ®」とは多機能な電化製品を使いこなすために、ユーザーが機能名を知らなくても、画面上から思いついた言葉で簡単に機能と使用方法を検索し、操作に直結するソフト。ユーザーインターフェース(UI)に焦点をあて、同社の持つ音声認識技術との融合により「便利」や「楽しさ」を追求していく考え。
 
 
①検索の仕組み
「使いかたナビ®」の検索の仕組みは、入力された言葉を文節に区切り、検索キーワードを抽出する。そして、搭載されている10,000語以上の辞書によりキーワード検索を行い、ヒットしたものの中から重要な順にソートして表示する。
 
 
同社では、これまで業務領域としてこなかった家電業界への進出の足がかりとしてとらえており、同社の持つ音声認識技術との融合により、新しいタイプの電子ヘルプ機能の創造を目指している。
 
2010年3月期業績予想
 
 
前期比6.9%の増収、同20.4%の経常増益予想。
携帯電話、車載関連共に厳しい事業環境が続くと見ている。このため、第2事業部が車載用センサー関連の開発の減少で落ち込む他、第1事業部もロイヤルティ収入の伸び悩みと車載用ソフトウエアの受託開発の低迷で前期比微減収となる見込み。ただ、新たに立ち上げた第4事業部(UIソリューション事業)の寄与で吸収、連結売上高は同6.9%増加する見込み。増収効果等で営業利益率も改善し、同23.7%の営業増益が見込まれる。
配当は、1株当たり1,000円増配の3,700円を予定している。
 
 
第1事業部(音源事業・車載用ソフトウエア受託開発)
国内の音源搭載台数は前期並みの約19,000千台を想定。海外は需要の変動が大きく予想が難しいものの、単価が低いため影響は軽微。車載用ソフトウエアの受託開発は低迷が続く見込み。
 
第2事業部(受託開発・カード事業)
英語リスニング模擬試験用を中心にカード事業の堅調な推移が見込まれるものの、自動車業界向けが中心の受託開発事業の落ち込みが響く。
 
第3事業部(音声認識事業)
大口の開発案件が少ないためイニシャル(初期許諾料)収入が減少するものの、ロイヤルティ収入の増加で吸収、前期比微減収にとどまる見込み。
 
第4事業部(UIソリューション事業)
「使いかたナビ®」のライセンスの販売と、それに対するランニングロイヤルティの収益を見込んでいる。
 
取材を終えて
昨秋以降の厳しい事業環境については、今さら説明するまでも無いが、こうした中で同社は09/3期に5期連続の増益を達成し最高益を更新した。その原動力となった音声認識事業はロイヤルティ収入がベースとなっているため、音源事業同様に安定した収益が期待できる。加えて、音声認識技術の応用範囲の広さを活かす事で様々なコンテンツの開発が可能なため、事業の拡大余地も大きい。
また、新規事業であるUIソリューションについても潜在成長力の大きい事業と考える。例えば、パソコンや周辺機器等の取扱説明書はCD-ROM化やWeb化が進んでおり、携帯電話販売等ではコスト削減を目的に紙ベースの取扱説明書を廃止する動きも見られる。このため、今期よりサービスを開始する「使いかたナビ®」は、ユーザーの利便性向上に加え、コストを削減したいメーカー側のニーズにも合致したものと言える。加えて、音声認識技術との親和性が高い事も特徴であり、更なる利便性の向上や新たなコンテンツの開発が期待される。
※「使いかたナビ®」は株式会社カナックの登録商標です。