ブリッジレポート
(2468) 株式会社フュートレック

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ブリッジレポート:(2468)フュートレック vol.15

(2468:東証マザーズ) フュートレック 企業HP
藤木 英幸 社長
藤木 英幸 社長

【ブリッジレポート vol.15】2010年3月期業績レポート
取材概要「Googleの音声認識技術への積極的な関与もあり、今後、音声認識は携帯電話やスマートフォンに必須の技術になっていくものと思われる。実際、同社の音・・・」続きは本文をご覧ください。
2010年6月16日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社フュートレック
社長
藤木 英幸
所在地
大阪市淀川区西中島 6-1-1
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年3月 1,996 530 540 315
2009年3月 1,777 404 415 221
2008年3月 1,598 264 277 159
2007年3月 1,253 249 256 162
2006年3月 1,443 173 165 99
2005年3月 1,059 69 79 33
2004年3月 907 9 6 -1
2003年3月 736 12 12 3
2002年3月 435 17 34 29
株式情報(6/16現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
111,000円 46,564株 5,169百万円 13.9% 1株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
2,100.00円 1.9% 6,442.75円 17.2倍 51,641.71円 2.1倍
※株価は6/16終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
フュートレックの2010年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
音声認識ソフトウェアの開発及び付随するサービスシステム開発の音声認識事業、「使いかたナビ®」とその検索技術の提供及びUI(ユーザーインターフェイス)関連開発のUIソリューション事業、及び携帯電話用音源IPライセンス事業の音源事業を中心に、各種センサーや車載用ソフトウェアの受託開発等の基盤事業や英語リスニング模擬試験用メモリーカード書込みのカード事業を手掛ける。音源とは、あらゆる楽器の音色を再現できる電子音再生装置で、携帯電話用音源IPライセンス事業では、音源LSI(電子音再生LSI)の開発・販売を行なっているが、LSIを製造して売るのではなく、LSIの設計データとそのLSIを駆動させるためのソフトウエア(組込ソフトウェア)を知的財産権化(IP化)して販売している。音声認識ソフトウェアの開発や音声認識サービスを提供する(株)ATR-Trekと共にグループを形成している。
 
<事業セグメント>
社会の変化に柔軟に対応して、その時代に求められる商品を追求し継続的に発展していく会社を目指している。LSIの設計やセンサーの受託開発からスタートした同社だが、携帯電話用音源IPライセンス事業へ展開し株式を上場。その後、(株)国際電気通信基礎技術研究所(以下、ATR)との業務提携により音声認識事業へ進出。さらに(株)カナックからライセンス供与を受けた「使いかたナビ®」(電子ヘルプ機能)を用いたUIソリューション事業へ展開し業容を拡大してきた。今後、ハード・ソフトの技術をベースにサービス分野を強化する事で「技術開発型会社」から「技術開発型サービス会社」へ変貌を遂げると共に、新規事業の展開により企業価値の増大を図っていく考え。
 
 
<今後の成長を担う事業>
(1)音声認識事業
音声認識とは、機器に向かって音声で入力すると、様々な発音・声質から言葉を聞き分け、語彙を特定し、文字等に変換するものである。携帯電話では既に音声翻訳サービス及び音声入力メールサービスが提供されているが、今後は、さまざまな分野でのサービスの実現が期待されている。
 
①分散型音声認識方式
同社の音声認識では、分散型音声認識方式を採用しており、携帯電話内で特徴量を抽出し、外部のサーバー(高性能CPUを有する)を使用して認識を行なう。このため、単語やコーパス(文書のつながり)のデータが豊富で正確な認識が可能。
 
 
②音声認識収益の3本の柱
音声認識事業では、フロントエンドエンジンの販売に加え、バックエンドシステムの販売や自社でのコンテンツプロバイダ事業の展開によって収益を追求していく。
 
 
③同社技術の優位性
同社グループの音声認識エンジン及びノイズリダクションは、世界トップクラスの技術を有するATRとの業務提携によるもの。同社の音声認識エンジンは、話し声を複数の認識機に同時に入力し、その中から最善の結果のものを選ぶ。複数の認識機は、複数の話す早さ、複数の話者年齢、性別、ノイズの大小など様々な組合せが可能で、使う人の違いやノイズ環境の違いがあっても、正確な認識を行う事が可能。また、ATRの高性能ノイズリダクション技術を採用しており、雑音の多い屋外での使用時に特に力を発揮する。
 
(2)UIソリューション事業
「使いかたナビ®」とは、多機能な電化製品を使いこなすために開発された電子ヘルプ機能。使いたい機能の名前がわからない場合でも、思いついた言葉で検索ができ、操作を説明する画面まで導いてくれる。
 
 
従来、同社の業務領域でなかった「家電業界進出への足がかり」と捉えており、音声入力による検索等、同社の持つ音声認識技術との融合により、新しいタイプの電子ヘルプ機能の創造を目指している。
 
 
2010年3月期決算
 
 
新規事業の寄与で増収・増益
売上高は前期比12.3%増の1,996百万円。携帯電話販売の減少により音源事業の売上が減少した他、自動車業界の苦戦で受託開発も減少したが、09年5月に音声認識ソフトウェアが搭載された事も貢献し音声認識事業の売上が大きく伸びた他、「使いかたナビ®」の検索技術がNTTドコモの携帯電話に採用され、UIソリューション事業も順調に立ち上がった。利益面では、増収効果とコスト削減により営業利益率が3.9ポイント改善。営業利益は同31.3%増加した。
配当は1株当たり創業10周年の記念配250円を含む2,100円を実施する。
 
 
第1事業部(音源事業)
売上高は前期比13.2%減の791百万円。NTTドコモとの音源IPライセンス契約に基づき、同社からロイヤルティ収入を得ており、一定の売上が確保できる体制となっているが、割賦販売方式導入や国内消費低迷による携帯電話販売の落ち込みを反映して売上高が減少した。
 
第2事業部(受託開発・カード事業)
売上高は前期比24.9%減の194百万円。このうち、受託開発部門は同43.3%減の87百万円、カード部門は同2.2%増の106百万円。受託開発部門は主要顧客である自動車業界の低迷の影響を受けた。
 
第3事業部(音声認識事業)
売上高は前期比16.7%増の708百万円。NTTドコモの09年夏モデルに、サーバーを利用した分散音声認識(DSR)とスタンドアローン型の音声認識(LSR)の2種類の音声認識ソフトウェア(携帯電話に話しかけると話した文章が題名またはメール本文として入力される「音声入力メール」に利用されている)が搭載され、ランニングロイヤルティ収入の増加につながった。
 
第4事業部(UIソリューション事業)
売上高は302百万円。(株)カナックから「使いかたナビ®」(電子ヘルプ機能)のライセンス供与を受け、新たな商品として今期より事業化した部門である。NTTドコモの携帯電話に「使いかたナビ®」の検索技術が搭載され、イニシャルフィーやランニングロイヤルティ収入を計上した。
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
期末総資産は前期末比365百万円増の2,786百万円。借方では、増収に伴う売上債権の増加やソリューション事業関連の仕掛品の増加に加え、余資運用に伴い有価証券や投資有価証券が増加。貸方では、利益の増加で未払法人税や純資産が増加した。CFの面では、無形固定資産投資の減少等で投資CFのマイナス幅が縮小したものの、運転資金の増加による営業CFの減少をカバーできずフリーCFが前期の161百万円から49百万円に減少。配当の支払い等で財務CFがマイナスとなったものの、現金及び現金同等物期末残高はほぼ前期末並みの水準を維持した。
 
 
 
2011年3月期業績予想
 
 
前期比5.2%の増収、同7.5%の経常減益予想
ランニングロイヤルティ収入の増加や総務省の採択プロジェクト関連(注)の売上が計上される音声認識事業の売上が大きく伸びる他、受託開発・車載用ソフトウェア開発も受注が回復傾向にある。ただ、イニシャルフィーの減少を想定している事に加え(不確定要素を排除した結果)、音声認識及びUIソリューション分野を中心に研究開発費を積み増すため、営業利益が同5.7%減少する見込み。配当は年2,100円を予定している。

(注)総務省による「地域の観光振興に貢献する自動翻訳技術の実証実験」の関西地区実施団体として採択を受け、実証実験を実施した(09年12月14日~10年2月28日)。
 
 
音声認識事業分野
売上高は前期比43.3%増の1,015百万円を予想。ランニングロイヤルティ収入の増加が見込まれる他、総務省の採択プロジェクト関連の売上が計上される。また、大口の開発案件の引き合いもある。
UIソリューション事業分野
売上高は前期比21.0%減の238百万円を予想。ランニングロイヤルティ収入の増加が見込まれるものの、イニシャルフィーによる収入を保守的に見積もったため減収予想となった。新たな業界での事業展開を進めており、不確定要素が多いため保守的な予想となった。
音源事業分野
携帯電話出荷台数の減少を想定しており、売上高は同22.9%減の610百万円を予想。搭載機種の減少でパナソニックが開発した音源(3Dオーディオ)の販売が減る事も減収要因。
基盤事業分野(受託・車載)
組織変更に伴い従来の受託開発と車載用ソフトウェア開発を一つの事業分野に集約した。自動車業界向けソフトウェアやサービスの開発により、売上高が126百万円と前期比44.2%の増加する見込み。
カード事業分野
売上高は前期比2.6%増の109百万円を予想。11/3期も英語リスニング模擬試験用のビジネスを中心に堅調な推移が見込まれる。
 
(3)今後の取り組み
上場時には携帯電話向け音源事業を主力とした同社だが、近年では携帯電話の出荷台数が減少する中で新規事業の育成により売上を伸ばしている。変化を続ける事で更なる成長を目指している。
 
 
①非携帯電話業界への積極展開
09年12月のGoogleの音声認識参入発表を契機に、「音声認識」への注目度が高まっている。こうした中、同社の音声認識事業においては、そのインフラと言うべきフロントエンドソフトが着実に広がっている。今後、音声認識技術をコアとしたITソリューションの提案を強化し、新たなサービスや技術を創出しロイヤルティ収入の種としていく考え。また、音声認識事業や「使いかたナビ®」のように携帯電話業界以外にも提案できる商品が出そろってきた事から、今後は非携帯電話業界へも積極に展開していく考え。
 
 
 
環境変化に対応し横断的に活動できる機能的な組織とするため、従来の事業部を廃し3本部制(営業本部、技術本部、管理本部)に組織を再編した。

営業本部 営業担当者全員が同社の全ての商品を把握し無駄のない営業体制を組む
技術本部 技術者の枠を取り除き、横のつながりを強化すると共に、技術の重複を取り除き融和を図る
管理本部 社長室を新設し、販売戦略や新たなビジネスへのチャレンジを推し進める
 
 
 
取材を終えて
Googleの音声認識技術への積極的な関与もあり、今後、音声認識は携帯電話やスマートフォンに必須の技術になっていくものと思われる。実際、同社の音声認識エンジンの搭載は現在NTTドコモの端末に限られているが、他の携帯キャリアからも引き合いが来ているようだ。また今後、スマートフォンにも高い認識率を誇る同社の認識エンジンが採用される可能性もある。
減益を見込む今期の業績については、携帯電話の割賦販売が導入されて3年目を迎え、足下、買い替えの動きが出てきたようで、携帯電話の出荷が同社の想定を上回っている模様。また、業績予想には織り込んでいないものの、年央にはNTTドコモが7~9月に予定している下取りキャンペーン効果も期待できる。音声認識事業においても、不確定要因を排除したため業績予想に織り込まなかったが、大口の開発案件の商談も進んでおり、まとまれば売上予想が上振れる可能性もある。要するに上方修正の余地を多分に残した業績予想である事を付け加えておきたい。