ブリッジレポート
(6498) 株式会社キッツ

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ブリッジレポート:(6498)キッツ vol.3

(6498:東証1部) キッツ 企業HP
堀田 康之 社長
堀田 康之 社長

【ブリッジレポート vol.3】2011年3月期上期業績レポート
取材概要「売上には底打ち感があるものの、この上期は原材料高やバルブ事業における売価政策が響いた。売価政策では、石油精製・石油化学向け商品の一つで・・・」続きは本文をご覧ください。
2010年11月24日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社キッツ
社長
堀田 康之
所在地
千葉市美浜区中瀬1-10-1
決算期
3月末日
業種
機械(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年3月 96,592 6,976 6,248 3,079
2009年3月 127,095 7,188 6,475 3,396
2008年3月 149,274 11,615 10,525 6,290
2007年3月 149,512 11,342 10,652 9,973
2006年3月 107,631 9,673 9,132 8,070
2005年3月 95,705 9,627 8,513 5,804
2004年3月 73,802 4,181 2,962 1,598
株式情報(11/9現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
325円 113,062,043株 36,745百万円 6.0% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
7.00円 2.2% 27.41円 11.9倍 464.40円 0.7倍
※株価は11/9終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
キッツの2011年3月期上期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
バルブを中心とした流体制御機器・装置の総合メーカー。バルブは、「水道メータ周り」、「ガスメータ周り」、「給湯器」等でよく目にするが、家庭だけでなく、あらゆる産業設備に使われており、同社は素材からの一貫生産を基本に、青銅、鋳鉄、ダクタイル、ステンレス鋼等を素材に数万種をラインナップしている。また、バルブの部材として使用される伸銅品の外販を行っている他、フィットネス事業やホテル事業等も手掛けている。東洋バルヴ(株)、(株)清水合金製作所など連結子会社31社と共にグループを形成しており、海外売上高比率は20.9%。バルブでは国内トップ。伸銅品では国内2位のポジションにある。
 
<事業セグメントの概要>
事業は、バルブ事業、伸銅品事業、及びサービスその他の事業に分かれ、10/3期の売上構成比は、それぞれ73.1%、16.8%、10.1%。
 
バルブ事業
キッツグループのコア事業であり、上下水道・給湯・ガス・空調等のライフラインや石油・化学・紙パ・半導体等の産業分野において、流体制御機器として重要な役割を担うバルブや継手を中心に、製造・販売している。
伸銅品事業
伸銅品とは、銅に亜鉛を加えた「黄銅」、すず及びりんを加えた「りん青銅」、ニッケル及び亜鉛を加えた「洋白」等の銅合金を、溶解、鋳造、圧延、引抜き、鍛造等の熱間または冷間の塑性加工によって、板、条、管、棒、線等の形状に加工した製品の総称。キッツグループの伸銅品事業は、黄銅製の材料を用いた「黄銅棒」を生産販売している。この黄銅棒は、バルブの部材を初め、水栓金具、ガス機器、家電などの部材として使用されている。
その他
総合スポーツクラブの経営(フィットネス事業)、ホテル・レストラン経営(ホテル事業)、及びガラス工芸品の販売を行っている。
 
 
 
2011年3月期上期決算
 
 
原材料高や売価政策によるバルブ事業の採算悪化が響き、5.4%の営業減益
売上高は前年同期比11.2%増の513.4億円。主力のバルブ事業が、建設設備、機械装置、及び半導体関連をけん引役に国内で増加した他、アジア向けも倍増。伸銅品事業も、需要回復に加え、銅相場高騰に伴う製品価格の上昇もあり、売上が大きく伸びた。一方、営業利益は27.9億円と同5.4%減少。原材料高やバルブ事業における売価政策の影響等で売上総利益が小幅な増加にとどまり、子会社の増加等による固定費の増加を吸収できなかった。ただ、有利子負債の減少による金融費用の減少(△1.0億円)等で経常利益は25.8億円と同0.8%増加。特別損益の改善や法人税等調整額(1.3億円)の計上による税負担の減少等で四半期純利益は13.1億円と同10.7%増加した。為替レートは、1ドル=91.02円(前期通期実績93.71円)、1ユーロ=119.24円(同130.51円)。電気銅建値は681,000円/トン(同620,000円/トン)。

主要子会社では、建築設備向けの回復で東洋バルヴの売上・利益が増加した他、半導体製造設備向けを手掛けるキッツエスシーティーが売上の急増で営業損益が黒字転換。一方、原材料高で青黄銅バルブ等を手掛けるキッツタイが増収ながら大幅減益となった他、石油精製・石油化学向け鋳鋼バルブを手掛けるキッツ閥門(中国)が、生産量の減少により赤字。また、前期に買収した独ペリン社も利益計上には至らなかった。
 
 
 
バルブ事業
国内外で売上が増加した。国内(前年同期比6%増の256億円)では、主力の建設設備市場が改善した他、機械装置関連市場や半導体関連市場も増加し(特に半導体関連市場は同2.2倍と急進)、水(上下水道向け)市場、石油精製・石油化学市場、食品製紙市場等の減少をカバーした。海外(同8%増の108億円)では、北米が同41%減少したものの、アジア向けが同94%増加した他、欧州も昨年12月に子会社化した独ペリン社の寄与で同11%増加した。
利益面では、売上の増加に加え、コストダウンも進んだものの、原材料高、費用増、売価政策の影響を吸収できなかった。特に、需要減と売価政策による鋳鋼バルブ(石油精製・石油化学向け商品の一つ)の収益悪化が響いた。
 
伸銅品事業
キッツメタルワークスが手掛ける伸銅品事業は、需要増による販売量の増加(黄銅棒市場全体で前年同期比16%増)と銅相場高騰に伴う製品価格の上昇で売上が伸長。売上増による操業度の向上と工場の統廃合効果で営業利益も増加した。
 
その他
政策効果(高速道路料金の土日一律1,000円)の剥落等でホテル事業(ホテル紅や)の売上が減少したものの、前期に開設した新店舗の寄与によるフィットネス事業の売上増で吸収。利益面でも、ホテル事業の落ち込みを、フィットネス事業でカバーした。
 
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
上期末の総資産は前期末比30.2億円減の945.0億円。売上債権の回収が進んだ事等を受けて、有利子負債の削減を進めた。CFの面では、売上の回復に伴う運転資金の増加で営業CFが大幅に減少したものの、設備投資が小幅減少した事もあり、11.2億円のフリーCFを確保した。ただ、有利子負債の削減に伴い財務CFが27.7億円のマイナスとなった事や換算差額△1.9億円の計上もあり、現金及び現金同等物の上期末残高は78.9億円と前期末比18.4億円減少した。
 
 
 
2011年3月期業績予想
 
 
前年同期比6.4%の増収ながら、同20.9%の経常減益見込み
下期は3セグメント全てで売上が増加するものの、バルブ事業とその他の売上予想をわずかに下方修正する一方、価格上昇が続く銅相場を踏まえて伸銅品事業の売上予想を上方修正した。利益面では、原材料高や売価政策、更には円高の影響による輸出製品の価格下落等で売上総利益が減少。子会社の増加による固定費の増加を吸収できず、営業利益が同17.8%減少する見込み。予想との比較では、コスト削減が当初の想定以上に進むものの、売上の伸び悩みに加え、想定を超える原材料高や円高等が負担となり営業利益が同16.4%期初予想を下回る見込み。
 
 
下期の事業別セグメントの見通しが上期との比較で説明されており、要約すると次の通り。
バルブ事業は売上高387.9億円を見込んでおり(上期は364.0億円)、このうち国内は上期比16億円(6%増)の増収。需要低迷で石油精製・石油化学市場の苦戦が続くものの、半導体関連市場が引き続き好調を維持する他、建築設備市場や機械装置関連市場も価格下落を数量増でカバーし上期の水準を維持する。また、季節要因により水(上下水道向け)市場の売上が上期比15億円程度増加する見込み。一方、海外は上期比8億円(7%)の増収を見込んでおり、アジア向けが同4億円増加する他、上期は大幅な減収となった大型プロジェクト物件も増加する見込み。この他、銅相場の上昇が製品価格に反映される伸銅品事業で上期比増収(97.3億円→102.6億円)を見込む一方、閑散期に入るホテル事業やスポーツクラブ事業で同減収を見込んでいる(その他全体で52.0億円→45.9億円)。
利益面では、バルブ事業の営業利益を43.1億円(上期は35.8億円)としている。銅相場の想定価格を引き上げた事が2億円程度の減益要因となる他、価格下落も織り込んだものの、増収効果と原価低減で吸収する。増収効果及び生産性の向上で伸銅品事業も営業増益(2.9億円→3.0億円)が見込まれるものの、その他の営業利益が減少する見込み(2.7億円→1.2億円)。
 
 
(2)通期連結業績予想
通期では前期比8.7%の増収、同12.0%の経常減益予想。配当は1株当たり年7円(上期末3円、期末4円)を予定している。
 
 
 
取材を終えて
売上には底打ち感があるものの、この上期は原材料高やバルブ事業における売価政策が響いた。売価政策では、石油精製・石油化学向け商品の一つである鋳鋼バルブの不振の影響も大きかったようで、下期も利益の圧迫要因として残る模様。同社では同バルブの価格競争力を強化し利益改善を図るため、日本の生産体制の見直しと中国での生産増強などを実施する考えだが、石油精製能力の削減が進む国内で需要回復を期待し難く、海外も米国での需要低迷が続いており、需給の改善には時間が必要なようだ。
また、鋳鋼バルブに限らず、国内での政治の機能不全と急激な円高に加え、長引く米国の景気低迷、更には蒸し返される欧州での金融不安等、依然として国内外で景気の先行き不透明感は強く、景気感応度が高い同社にとって引き続き、下期も厳しい事業環境が続く見込み。ただ、未だ規模は小さいものの、タイ・インドネシアが前年同期比150%の増収、中国が同50%の増収と、成長市場であるアジア戦略は着実に進捗している。中国向けでは、新たに中国戦略室を設置し従来の高級品市場に加え、ミドルマーケットへの新規参入を加速していく考え。アジア市場の成長を取り込む事で早期の成長軌道への回帰を目指している。