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(7776) 株式会社セルシード

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ブリッジレポート:(7776)セルシード vol.4

(7776:JASDAQ) セルシード 企業HP
長谷川 幸雄 社長
長谷川 幸雄 社長

【ブリッジレポート vol.4】2011年12月期第1四半期業績レポート
取材概要「これまでの医療を根本的に変革する大きな可能性を秘めた新しい再生医療が現実のものとなりつつある。11/12期のスタートは順調であり、軌道に沿・・・」続きは本文をご覧ください。
2011年5月31日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社セルシード
社長
長谷川 幸雄
所在地
東京都新宿区若松町33-8 アール・ビル新宿
決算期
12月末日
業種
精密機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年12月 66 -1,204 -1,002 -1,009
2009年12月 87 -785 -788 -790
2008年12月 61 -778 -644 -650
2007年12月 40 -809 -614 -616
2006年12月 23 -672 -464 -470
2005年12月 34 -412 -336 -343
2004年12月 53 -257 -214 -215
株式情報(5/18現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,305円 5,324,934株 6,949百万円 - 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
-円 - - - 302.33円 4.3倍
※株価は5/18終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
セルシードの2011年12月期第1四半期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
東京女子医科大学の岡野光夫教授が開発した日本発の「細胞シート工学」を基盤技術とし、この技術に基づいて作製した「細胞シート(細胞をシート状に組織化したもの)」を用いて従来の治療では治癒できなかった疾患や障害を治す再生医療「細胞シート再生医療」の世界普及を目指している。事業は、温度応答性細胞培養器材及びその応用製品の開発・製造・販売を行う「再生医療支援事業」と各種用途向けに様々な種類の細胞シートを開発・製造・販売する「細胞シート再生医療事業」(売上計上は11/12期以降)に分かれる。
 
再生医療支援事業
細胞シート再生医療の基盤ツールである温度応答性細胞培養器材及びその応用製品を開発・製造(多額の設備投資を必要とする一部の工程は外部委託)し、世界各国の大学・研究機関等に提供している。当事業は細胞シート再生医療事業の提携先開拓のための戦略的な意義をも有し、収益だけを目的とした事業ではない。
細胞シート再生医療事業
細胞シート再生医療医薬品(各種用途の「細胞シート」)及びその応用製品を販売する。現在、東京女子医大、大阪大学、及び東海大学と共同で5つの再生医療製品パイプライン(新薬候補)の研究開発を進めている。
 
 
 
2011年12月期第1四半期決算
 
 
前年同期比74.6%の増収、3.0億円の経常損失(前年同期は43百万円の損失)
事業化準備段階にある細胞シート再生医療事業の売上は無かったが、昨夏に発売した新規商材 細胞タイトジャンクションリアルモニタリングシステム「cellZscope」の寄与で再生医療支援事業の売上が前年同期の16百万円から28百万円に増加した。利益面では、研究開発費(136百万円→175百万円)を中心にした販管費の増加で営業損失が増加したものの想定の範囲内。営業外損益の悪化は補助金収入の減少(226百万円→0.8百万円)によるもので、この他、資産除去債務会計基準の適用に伴う影響額6百万円を特別損失に計上した。
 
 
尚、細胞シート再生医療事業では、欧州における角膜再生上皮シートの事業化準備を中心に5つの細胞シート再生医療医薬品パイプラインの研究開発を進めており、いずれも通期目標に沿って進捗している。このうち最も研究開発が進んでいる角膜再生上皮シートでは、欧州での販売承認へ向けた欧州医薬品庁(EMA)への申請準備と人道的使用(Compassionate Use)制度の活用準備が進行中だ。また、米国での細胞シート再生医療全般の事業展開を視野に入れ、11年2月にLos Angeles Biomedical Research Institute at Harbor-UCLA Medical Centerと共同研究契約を締結した(後述)。
 
 
(2)第1四半期のトピックス
①LA BioMedとの共同研究契約締結
2月に米国最大規模の非営利医学研究所の一つであるLos Angeles Biomedical Research Institute at Harbor-UCLA Medical Center (以下、LA BioMed)と、再生医療基盤技術である細胞シート工学を用いた再生医療に関する共同研究契約(契約期間:2年間)を締結した。
LA BioMedは1952年にカリフォルニア州トーランス市に設立された非営利・独立の医学研究所。150人を超える主任研究員の主導の下で、癌、遺伝病、感染症など様々な疾患領域に対する新しい医療の開発を目的にした研究プロジェクトを進めている(研究テーマ数は1,000以上)。UCLA医学部(David Geffen School of Medicine at UCLA)と学術面で連携している他、医学研究以外にも若手研究者の育成、予防接種の実施や幼児への栄養指導等、地域医療への貢献にも力を入れている(このため、ロサンゼルス南部地区の医学・医療をリードする重要機関として位置付けられている)。
共同研究は新原豊博士(UCLA医学部教授)を中心とするチームによって進められ、同社はこの共同研究を通じて、欧州で事業化準備段階にある角膜再生上皮シートの米国での早期事業化はもちろん、米国における細胞シート再生医療事業全般の推進につなげていく考え。
 
②(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、J-TEC)との自家培養角膜上皮共同研究開発
1月にJ-TEC社と自家培養角膜上皮に関する「個別共同研究開発契約」(契約期間:3年)を締結した。両者は昨年10月に共同研究開発基本契約を締結し、(株)セルシードが保有する細胞シート工学の技術・ノウハウを基盤とした再生医療製品及び関連製品の共同研究開発を進めていたが、この活動の中で、従来J-TEC社が研究開発を進めてきた自家培養角膜上皮の細胞培養基材として(株)セルシードの温度応答性細胞培養器材を使用したところ有効性が期待できる基礎データが確認された。この結果を受けて、今回改めて、(株)セルシードが保有する細胞シート工学をJ-TEC社の自家培養角膜上皮の開発に応用する旨の「個別共同研究開発契約」を締結する事となった。
尚、J-TEC社は日本初の再生医療製品(自家培養表皮「ジェイス」)の事業化に成功した実績を有し、また、商業レベルの再生医療製品製造能力を備えた設備を保有する唯一の日本企業。J-TEC社は、今回締結する「個別共同研究開発契約」に基づいて製品仕様を一部変更した上で自家培養角膜上皮の研究開発を推進し、速やかに同製品の安全性適合確認申請を提出する方針。
(株)セルシードは(かねてより上述の優れた実績と設備を有するJ-TEC社との共同研究開発を重要戦略項目の1つと位置付けて取り組んできたが)、今回の「個別共同研究開発契約」の締結で日本における細胞シート再生医療事業(角膜再生関連)の具体的な第一歩を踏み出す事となった。
 
③心筋再生パッチ基本特許の成立
細胞シート工学による心筋組織再生(「心筋再生パッチ」を用いた心疾患治療技術)に関する下記基本特許が、1月に欧州で、3月に日本で、それぞれ成立した。
「心筋再生パッチ」は同社の細胞シート再生医療医薬品パイプラインの中でも最大の市場ポテンシャルを有するもので、今回成立した基本特許は、その技術の基本コンセプト(心筋組織の細胞を培養して作製した細胞シートを移植する事によって弱った心機能を改善させる技術)を示すものだ。拡張型心筋症や重度の虚血性心疾患を抱える患者については、現在、本質的な治療法が確立されていない(治療法としてはドナー心臓移植があるがドナー数が限られている。このため現在の治療は、ドナー心臓移植を待つ間の「繋ぎ」としての治療がもっぱら)。
一方、「心筋再生パッチ」(心筋様細胞シート)は、この課題を抜本的に解決する事を目的とした細胞シート再生医療製品であり、患者本人の細胞を培養・増殖した「心筋再生パッチ」を患部に添付する事により新機能の回復を図る。同社は現在、共同研究先と共に「心筋再生パッチ」の実用化へ向けた研究開発を進めており、今回の特許成立は「心筋再生パッチ」の革新性を示す証左の1つと捉える事ができる。
尚、欧州での特許成立は、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、スウェーデン、フィンランド、ギリシャの10カ国。また、拡張型心筋症とは左室の拡張を伴った左心室の機能不全。通常はうっ血を伴う心不全徴候を示すが、低心拍出量状態を現す倦怠感を示す事もある。また、虚血性心疾患とは冠動脈の閉塞や狭窄で心筋への血流が阻害され心臓に障害が起こる疾患の総称で、狭心症や心筋梗塞が含まれる

この他、1月にNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で、同社の取締役であり、また、「細胞シート工学」の第1人者である岡野光夫教授が紹介された。
 
 
2011年12月期業績予想
 
(1)Emmaus Medical Inc.との「共同研究開発基本契約」及び「米国における角膜再生上皮シート共同開発・事業化契約」の締結
同社は、4月8日にEmmaus Medical Inc.(以下、エマウスメディカル。所在:米国カリフォルニア州トーランス)との間で、「共同研究開発基本契約」及び「米国における角膜再生上皮シート共同開発・事業化契約」を締結した。
 
①エマウスメディカルについて
エマウスメディカルは、新原豊博士(UCLA医学部教授)等によって03年に米国カリフォルニア州で設立された企業で、同氏が発見したL-グルタミン(筋肉に多く存在するアミノ酸の一種)の効能を難病(鎌形赤血球病、短腸症候群等)の治療に応用する事を使命としている。既にL-グルタミンを短腸症候群に対する治療薬として上市しており、現在、鎌形赤血球病を適応症とする治験(第3相臨床試験)が進行中だ。
エマウスメディカルの事業は米国のみならず日本を含めた世界各国で注目を浴び始めており、世界最大の製薬企業であるファイザー(株)でCEOを務めたヘンリー・マッキネル(Henry A. McKinnell Jr.)博士も同社の社外取締役に名を連ねている。尚、エマウスメディカルの11年3月末の資本金は1,380万ドルで、(株)セルシードの発行済株式の2.7%を保有する株主でもある(10年12月末現在)。
 
②使命と志を同じくするベンチャー企業同士が対等の精神で相互の強みを共有しながら持続的に協業
(株)セルシードとエマウスメディカルは、日本人によって創出された革新的な医療技術を基盤としている事、先端医療の世界普及を通じた社会貢献を使命としている事、世界的な事業展開を志向している事、更には日本人を経営トップに有する医療ベンチャー企業である事等、多くの共通点を有している。加えて、(株)セルシードが日本発の再生医療プラットフォーム技術を有し、欧州を皮切りに事業展開を進めようとしているのに対して、エマウスメディカルは米国に強力なネットワークと研究開発拠点を有し、既に製品も上市している。また、アフリカなど新興国への進出も視野に入れており、両社は研究開発及び世界的事業展開の両面で補完関係にあると言える。
 
③契約の概要と業績への影響
「共同研究開発基本契約」は、細胞シート工学を基盤技術として細胞シート再生医療医薬品の米国での共同研究開発に関する基本合意であり、共同研究開発の具体的な内容は別途個別の契約で定める事になる。ただ、今後本契約及び本契約の下で締結する個別契約に基づいて、(株)セルシードは細胞シート再生医療研究開発に関する知見やノウハウをエマウスメディカルに提供する事になるため、その対価の一部として850万米ドル(直近の為替レート換算で約720百万円に相当)を一時金として受領する(本契約の契約期間は、本契約の発効日から本契約の下で締結される全ての個別契約が終了する日まで)。また、「共同研究開発基本契約」の下で締結される個別契約の第1弾である「米国における角膜再生上皮シート共同開発・事業化契約」の締結に伴い、150万米ドル(直近の為替レート換算で約127百万円に相当)の一時金収入も発生する(共同開発に先だって開示する角膜再生上皮シート研究開発成果パッケージの対価の一部として受け取る)。
「共同研究開発基本契約」に伴う一時金850万米ドルについては、現在、会計上の取り扱いを確認中であるため11/12期の業績予想に織り込んでいないが、個別契約に伴う一時金150万米ドルについては、11/12期第2四半期決算に反映する予定であり、これを踏まえて期初に発表した業績予想を上方修正した(後述)。
 
 
売上高2.0億円、経常損失14.3億円を予想
売上高は前期比15.4%増の202百万円を予想しており、内訳は、再生医療支援事業が68百万円、細胞シート再生医療事業が134百万円。角膜再生上皮シートの米国展開に伴う個別契約の一時金収入は当初から業績予想に織り込んでいたが、一時金の額が期初予想を27百万円上回ったため、通期の細胞シート再生医療事業の売上予想を期初予想の107百万円から上方修正した。一方、再生医療支援事業については、前期に発売した新規商材の販売が期初予想を上回って推移しているものの、東日本大震災に起因する電力供給・物流・取引先の状況の変化など不安定要因が存在する事を考慮し期初予想(68百万円)を据え置いた。利益面でも、上記の細胞シート再生医療事業の売上予想の修正に伴い同事業の利益予想を27百万円上方修正する一方で、再生医療支援事業の利益予想を据え置いた。
 
 
 
細胞シート再生医療事業における契約一時金(127百万円)収入の前倒し計上を上期の業績予想に織り込んだ他(期初予想では下期の計上を予定していた)、再生医療支援事業についても、新規商材の販売を踏まえて上期の売上高を32百万円(期初予想:17百万円)に上方修正した。利益面では、上記の売上要因により、細胞シート再生医療事業の利益予想を127百万円、再生医療支援事業の利益予想を3百万円、それぞれ引き上げた。
 
 
下期の計上を予定していた契約一時金収入が上期に前倒し計上されるため、修正された下期の業績予想は期初予想を下回る。
 
(4)第2四半期以降に予定されているトピックス
角膜再生上皮シート関連では、フランスでの治験最終結果の確認がなされ、これを基に欧州薬事承認申請を提出する予定。また、人道的使用制度に基づく製品提供を開始する他、エマウスメディカルとの米国共同開発及び事業化契約に伴う一時金の支払いを受ける。
細胞シート再生医療パイプライン関連では、エマウスメディカルとの共同研究開発基本契約に伴う一時金の入金が予定されており、食道再生上皮シートの臨床研究や軟骨再生シート臨床研究開始準備が完了する予定。
 
 
 
取材を終えて
これまでの医療を根本的に変革する大きな可能性を秘めた新しい再生医療が現実のものとなりつつある。11/12期のスタートは順調であり、軌道に沿って進む歩みにブレがない事が安心感を誘う。実際、今期中に欧州での人道的使用が始まる上、角膜再生上皮シートの薬事承認申請も既にカウントダウンに入っている状態。来期以降を見通すと、12/12期は欧州での角膜再生上皮シート事業で人道的使用にかかる売上拡大が期待できる事に加え、一部の国で販売承認に基づく売上も見込まれる。また、欧州10カ国(1月)と日本(3月)で基本特許が成立した心筋再生パッチ事業にかかる商談が進んでいる模様で、商談がまとまれば5億円前後の一時金収入が期待できる。13/12期は、欧州各国での薬価の決定を受けて欧州域内での角膜再生上皮シート事業の販売が本格化する。
同社の事業の成功は投資家へのリターンだけでなく、難病に苦しむ多くの患者のQuality of Life 向上を通して社会貢献につながるもので、明るい未来への架け橋ともなる。多くの患者を救うべく、コスト削減・高付加価値の医薬開発に向けた更なる研鑽に期待したい。