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(7776) 株式会社セルシード

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ブリッジレポート:(7776)セルシード vol.5

(7776:JASDAQ) セルシード 企業HP
長谷川 幸雄 社長
長谷川 幸雄 社長

【ブリッジレポート vol.5】2011年12月期上期業績レポート
取材概要「角膜再生上皮シート事業の収益化に向けた取り組みが着実に進んでいる。来12/12期は欧州での角膜再生上皮シート事業で人道的使用にかかる・・・」続きは本文をご覧ください。
2011年9月6日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社セルシード
社長
長谷川 幸雄
所在地
東京都新宿区若松町33-8 アール・ビル新宿
決算期
12月末日
業種
精密機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年12月 66 -1,204 -1,002 -1,009
2009年12月 87 -785 -788 -790
2008年12月 61 -778 -644 -650
2007年12月 40 -809 -614 -616
2006年12月 23 -672 -464 -470
2005年12月 34 -412 -336 -343
2004年12月 53 -257 -214 -215
株式情報(8/18現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,061円 5,324,934株 5,650百万円 - 1株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
- - - - 250.11円 4.2倍
※株価は8/18終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末の実績。
 
セルシードの2011年12月期上期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
東京女子医科大学の岡野光夫教授が開発した日本発の「細胞シート工学」を基盤技術とし、この技術に基づいて作製した「細胞シート(細胞をシート状に組織化したもの)」を用いて従来の治療では治癒できなかった疾患や障害を治す再生医療「細胞シート再生医療」の世界普及を目指している。事業は、温度応答性細胞培養器材及びその応用製品の開発・製造・販売を行う「再生医療支援事業」と各種用途向けに様々な種類の細胞シートを開発・製造・販売する「細胞シート再生医療事業」(売上計上は11/12期以降)に分かれる。
 
再生医療支援事業
細胞シート再生医療の基盤ツールである温度応答性細胞培養器材及びその応用製品を開発・製造(多額の設備投資を必要とする一部の工程は外部委託)し、世界各国の大学・研究機関等に提供している。当事業は細胞シート再生医療事業の提携先開拓のための戦略的な意義をも有し、収益だけを目的とした事業ではない。
 
細胞シート再生医療事業
細胞シート再生医療医薬品(各種用途の「細胞シート」)及びその応用製品を販売する。現在、共同研究先と5つの再生医療製品パイプライン(新薬候補)の研究開発を進めている。
 
<製品パイプラインと11/12期上期末の進捗状況>
 
 
2011年12月期上期決算
 
 
7月15日の修正値に沿った着地
売上高は43百万円。温度応答性細胞培養器材及び昨夏に発売した新規商材 細胞タイトジャンクションリアルモニタリングシステム「cellZscope」の売上が期初予想を上回るペースで推移。一方、細胞シート再生医療事業では、売上計上こそ無かったものの、6月に角膜再生上皮シートに関する販売承認申請における欧州医薬品庁(EMA)の申請受理確認、収益化に向けた歩を進めた。ただ、現状では研究開発費を中心にした販管費の負担が重く、639百万円の営業損失。営業損失が前年同期比で増加したのは、販管費の過半を占める研究開発費が117百万円強増加(263百万円→380百万円)したためだ。もっとも、経費の節減により研究開発費を除く販管費は減少(286百万円→271百万円)し、予想が保守的だった事もあり、営業損失は1Q決算時に縮小修正した予想を大幅に下回った。

尚、売上高が予想を大きく下回ったのは、上期に見込んでいたEmmaus Medical Inc.(以下、エマウスメディカル社)からの契約一時金150万米ドル(日本円換算額127百万円)の売上計上を下期に変更したため(「米国における角膜再生上皮シート共同開発・事業化契約」に関する技術供与作業が下期に終了する見込みとなった事による)。
 
 
(2)細胞シート再生医療事業の研究開発進捗状況
 
細胞シート再生医療事業では、現在、角膜再生上皮シート、心筋再生パッチ、食道再生上皮シート、歯周組織再生シート、及び軟骨再生シートの5つのパイプラインの研究開発を進めている。このうち3つ(心筋再生パッチ、食道再生上皮シート、歯周組織再生シート)にいては、実際の患者に対する臨床結果を確認する段階(臨床試験又は臨床研究)にあり、角膜再生上皮シートについては、6月に欧州医薬品庁(EMA)からの販売承認申請の受理確認を済ませ、米国展開の準備も進んでいる。

心筋再生パッチは根本的な治療法が確立されていない拡張型心筋症(厚労省の特定疾患に指定されている難病)及び虚血性心疾患(心筋梗塞等)を適応症としており、太腿から採取した筋芽細胞を原料として作製した細胞シート(心筋再生パッチ)を患部に移植して治療する。既に10例の患者に心筋再生パッチを移植。

食道再生上皮シートは食道癌除去後の食道上皮再建を適応症としており、食道上皮にできた癌を除去した後に起きる炎症反応と食道狭窄(食道の一部が狭くなった状態。食物を飲み込む時の障害や嘔吐等の症状がある)を抑制・防止する事を目的とした再生医療医薬品パイプライン。口腔粘膜上皮細胞を原料として作製した細胞シート(食道再生上皮シート)を食道癌除去後の患部に移植して、早期に炎症反応を抑制し、かつ食道狭窄も防止する治療を始めており、既に10例の患者への移植を完了。今期中に治験準備に入る予定。

歯周組織再生シートは歯周病を適応症としており、歯周病によって失われた歯周組織の再生を目的とした再生医療医薬品パイプライン。歯(セメント質)と歯茎双方の再生に関わる歯根膜細胞を原料として作製した細胞シート(歯周組織再生シート)を歯周病患部に移植することによって、歯周病によって失われた歯周組織の再生を図る。今期中に臨床研究を開始する予定で、現在、臨床研究対象患者の選定準備等を進めている。

軟骨再生シートは軟骨欠損や変形性関節症を適応症としており、患者自身の軟骨細胞を培養して作製した細胞シート(軟骨再生シート)を患部に移植し、軟骨表面を根本的に再生する事を目的とした再生医療医薬品パイプライン。現在、今期中の臨床研究開始に向け、データ・書類の整備を進めている(臨床研究の開始について、厚生労働省で審議が進められている)。
 
(3)トピックス -角膜再生上皮シートの日米三極同時研究開発推進体制と各種特許の成立-
①角膜再生上皮シートの日米三極同時研究開発推進体制
角膜再生上皮シート事業において、日米欧三極での同時研究開発推進体制の構築を進めており、欧州では6月に欧州医薬品庁(EMA)の販売承認申請受理を確認、米国では4月にエマウスメディカル社と共同開発及び事業化契約を締結。更に日本では、「自家培養角膜上皮」の開発を進めている(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、J-TEC社)に細胞シート工学を導出した。
 
①-1 欧州:欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請を提出
欧州における角膜再生上皮シート販売承認を得るために欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請を提出し、6月にEMAよりその受領確認を得た。事前相談においてEMAからポジティブなサイエンティフィック・アドバイス(承認取得に向けたEMAの指導)を受けている事もあり承認の取得に不安は無いが、審査期間はケース・バイ・ケース。この審査期間中に申請者に対して質問が提示され回答に要する期間次第だが、遅くとも来12/12期末までには承認を得る事ができると見られている。

尚、欧州(EU:欧州連合)の薬事規制では、再生医療製品は従来型医薬品と区分の異なる「先端医療医薬品(ATMP:Advanced Therapy Medicinal Product)」に分類されており(角膜再生上皮シートはATMPに指定されている)、その薬事審査はEU加盟各国の薬事規制当局ではなくEUレベルの薬事行政を司るEMAが担当している。EMAの薬事審査において対象疾患に関する安全性・有効性を認められた医薬品候補は最終的に欧州委員会の販売承認を取得する事になるが、この欧州委員会の販売承認はEU加盟国を中心とする欧州30ヶ国において正式な薬事承認としての効力を有する。このため、角膜再生上皮シートが欧州委員会の販売承認を得た場合、5億人以上の総人口を有する欧州30ヶ国での販売が認められる事になる(但し、各国での薬価の決定を待つ必要がある)。
 
①-2 米国:エマウスメディカル社との提携及びLA Bio Medとの共同研究契約締結
・エマウスメディカル社との提携
4月にエマウスメディカル社(米国カリフォルニア州トーランス)との間で、細胞シート再生医療医薬品の米国での「共同研究開発基本契約」及び「米国における角膜再生上皮シート共同開発・事業化契約」を締結した。この提携により、(株)セルシードはエマウスメディカル社が有する米国での医薬品研究開発ノウハウや人的ネットワークはもちろん、エマウスメディカル社の資金の活用が可能となり、(株)セルシード自身の米国拠点の構築及び米国展開を加速する事ができる。

締結した契約は、細胞シート再生医療医薬品の米国での研究開発の包括的な契約である「共同研究開発基本契約」(具体的な研究開発内容は別途個別契約を締結して定める)と、個別契約の第一弾である「米国における角膜再生上皮シート共同開発・事業化契約」の二つ。後者にかかる契約一時金150万米ドルを、現在進めている技術供与作業が終了する今下期に受領(売上計上)する予定で業績予想にも織り込んでいる。一方、前者にかかる契約一時金850万米ドルについても、今期中に受領(入金)する予定だが、現在、会計処理上方法を確認中のため業績予想には織り込んでいない。

尚、エマウスメディカル社は、新原豊博士(UCLA医学部教授)等によって03年に米国カリフォルニア州で設立された創薬ベンチャーで、同氏が発見したL-グルタミン(筋肉に多く存在するアミノ酸の一種)の効能を難病治療に応用する事を使命とする。既にL-グルタミンを短腸症候群(小腸広範切除に起因する吸収不良)に対する治療薬として上市しており、現在、鎌形赤血球病(遺伝性の貧血症)を適応症とする治験(第3相臨床試験)が進行中だ。エマウスメディカルの事業は米国のみならず日本を含めた世界各国で注目を浴び始めており、世界最大の製薬企業であるファイザー(株)でCEOを務めたヘンリー・マッキネル(Henry A. McKinnell Jr.)博士が同社の社外取締役に名を連ねている。尚、エマウスメディカルの11年3月末の資本金は1,380万ドルで、(株)セルシードの株主でもある(11年6月末現在)。
 
・LA Bio Medとの共同研究契約締結
2月に米国最大規模の非営利医学研究所の一つであるLos Angeles Biomedical Research Institute at Harbor-UCLA Medical Center (以下、LA Bio Med)と、再生医療基盤技術である細胞シート工学を用いた再生医療に関する共同研究契約(契約期間:2年間)を締結した。

LA Bio Medは1952年にカリフォルニア州トーランス市に設立された非営利・独立の医学研究所。150人を超える主任研究員の主導の下、癌、遺伝病、感染症など様々な疾患領域に対する新しい医療の開発を目的にした研究プロジェクトを進めている(研究テーマ数は1,000以上)。UCLA医学部(David Geffen School of Medicine at UCLA)と学術面で連携している他、医学研究以外にも若手研究者の育成、予防接種の実施や幼児への栄養指導等、地域医療への貢献にも力を入れており、ロサンゼルス南部地区の医学・医療をリードする重要機関として位置付けられている。

共同研究は新原豊博士(UCLA医学部教授)を中心とするチームによって進められ、同社はこの共同研究を通じて、欧州で事業化準備段階にある角膜再生上皮シートの米国での早期事業化はもちろん、米国における細胞シート再生医療事業全般の推進につなげていく考え。
 
①-3 日本:J-TEC社との提携
1月にJ-TEC社と自家培養角膜上皮に関する「個別共同研究開発契約」(契約期間:3年)を締結した。(株)セルシードが保有する細胞シート工学をJ-TEC社の自家培養角膜上皮の開発に応用するもので、細胞シート工学の導出を含めて共同研究開発を進めていく。J-TEC社は、今回締結する「個別共同研究開発契約」に基づいて製品仕様を一部変更した上で自家培養角膜上皮の研究開発を推進し、速やかに同製品の安全性適合確認申請を提出する方針だ。

尚、J-TEC社は日本初の再生医療製品(自家培養表皮「ジェイス」)の事業化に成功した実績を有し、また、商業レベルの再生医療製品製造能力を備えた設備を保有する唯一の日本企業。富士フィルム(株)が筆頭株主として議決権の41%を保有する。
 
②特許の成立
この上期に、同社は移植用「表皮細胞シート」に関する特許及び「高密度細胞アレイ用基板」に関する特許を取得しており、両特許共に細胞シート工学の新規性・進歩性を示唆する成果として注目されている。
 
②-1 移植用「表皮細胞シート」に関する特許  登録国:日本
細胞シート工学を用いて表皮細胞または粘膜細胞から組織(表皮培養細胞シート、重層化培養皮膚シート)を作製する技術に関する特許であり、表皮系・粘膜系組織(例、角膜再生上皮シート、食道再生上皮シート)の再生に広く応用できる可能性を有する。
 
②-2 高密度細胞アレイ用基板」に関する特許  登録国:日本
新型の温度応答性細胞培養器材である「細胞アレイ用基板」のコンセプトを示す特許である。「細胞アレイ用基板」とは、細胞シート回収用温度応答性細胞培養器材UpCell(アップセル)シリーズの次世代技術の1つで、具体的には、細胞を用いた薬物評価や細胞への遺伝子導入等を行う際に用いる器材表面の事。多数の細胞を規則正しく並べる事ができるように設計されている事が特徴である。このため、温度応答性細胞培養器材の原理によってターゲットとなる細胞だけを選択的かつ損傷なく剥離・回収できるようになる可能性を有する。
 
 
2011年12月期業績予想
 
 
通期業績予想に変更は無く、1433百万円の経常損失見込み(同1002百万円の損失)
売上高は前期206.1%増の202百万円。内訳は、再生医療支援事業が68百万円、細胞シート再生医療事業が134百万円。細胞シート再生医療事業では、角膜再生上皮シートの米国展開に伴う個別契約の一時金収入127百万円(期初予想107百万円)及び人道的使用制度に基づく製品提供にかかる売上7百万円を見込んでいる。利益面でも、上記の細胞シート再生医療事業の売上の上振れ分が上乗せされ、期初予想を上回る見込み。
 
 
(2)11/12期第3四半期以降に想定される主なニュース
角膜再生上皮シート関連では、人道的使用制度に基づく製品提供が始まる見込みで売上高7百万円を業績予想に織り込んでいる。また、エマウスメディカル社との米国共同開発・事業化契約にかかる契約一時金の入金が予定されている。角膜再生上皮シート以外の細胞シート再生医療パイプライン関連では、エマウスメディカル社との共同研究開発基本契約に伴う一時金の入金が予定されている他、食道再生上皮シートの臨床研究や軟骨再生シート臨床研究開始準備が完了する予定。
 
 
 
今後の注目点
角膜再生上皮シート事業の収益化に向けた取り組みが着実に進んでいる。来12/12期は欧州での角膜再生上皮シート事業で人道的使用にかかる売上の拡大が見込まれ、期末までには販売承認が取得できそうだ。続く13/12期は、欧州各国での薬価の決定を受けて欧州域内での角膜再生上皮シートの販売が本格化する見込み。同社が使命とする「日本発の再生医療基盤技術に基づく、世界初の「細胞シート再生医療」の世界普及」が現実のものとなりつつある。
また、今期末までには1,000万米ドルの契約一時金が入金される予定であり、キャッシュ・フローも大幅に改善する見込み。これにより米国での角膜再生上皮シート事業の展開や、他の4つのパイプラインの研究開発に必要な資金を確保する事ができる。