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(2708) 株式会社久世

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ブリッジレポート:(2708)久世 vol.1

(2708:JASDAQ) 久世 企業HP
久世 健吉 社長
久世 健吉 社長

【ブリッジレポート vol.1】2012年3月期上期業績レポート
取材概要「当社はメニュー提案と開発支援、食材セミナーと食材展示会の開催、更には情報誌「久世通信」によるトレンド情報の提供といった、他社に無いきめ・・・」続きは本文をご覧ください。
2012年1月17日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社久世
社長
久世 健吉
所在地
東京都豊島区東池袋2-29-7
決算期
3月 末日
業種
卸売業(商業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2011年3月 46,774 230 342 80
2010年3月 42,666 271 394 123
2009年3月 42,181 225 334 171
2008年3月 42,540 283 443 240
2007年3月 42,847 402 507 262
2006年3月 41,491 336 390 246
2005年3月 39,087 255 297 126
株式情報(12/14現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
398円 3,879,022株 1,544百万円 2.1% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
12.00円 3.0% 25.78円 15.4倍 1,006.68円 0.4倍
※株価は12/14終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
JASDAQに株式を上場する久世について、2012年3月期上期決算の概要と共にご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
外食産業や中食産業向けの食材卸を中心に、グループでソース、ブイヨン、スープ及び調理食品など食材の製造・販売も手掛けている。取扱品目は約50,500アイテムに上り、冷凍・常温品はもちろん生鮮品から消耗品等のノンフードまで幅広い。グループは、ソース・スープ類の製造・販売を手掛けるキスコフーズ(株)、生鮮野菜など農産品の仕入・販売を行う(株)久世フレッシュ・ワン、及びニュージーランドでソース類の製造を手掛けるキスコフーズインターナショナルリミテッド、海外戦略の立案と情報収集の役割を担う久世(香港)有限公司の4社がある。
 
メニューの提案と開発の支援、食材セミナー(年9回)と食材展示会(年2回)の開催、更には情報誌「久世通信」によるトレンド情報の提供といった他社に無いきめ細かい顧客フォローで首都圏No.1のポジション確立を標榜している。
 
<沿革>
1934年4月現在本社を置く池袋にてトマトケチャップやソースの製造を開始した。50年1月に(株)久世商店として法人組織に改組し、67年7月に現商号の(株)久世に変更。直販(中間流通を通さず飲食店等に直接販売)を特徴とするケチャップやソースのメーカーとして経営基盤を確立した。

しかし、70年代に入り、トマト加工品の輸入自由化への対応を迫られた事やその後の勃興期を迎えていたファミリーレストランが業務用食材をフルラインで取り扱う米国型ディストリビューター機能を必要としていた事を踏まえ、食材の卸事業に事業をシフトさせた。元来、直販メーカーとして飲食店等のユーザーと直接取引していた強みに加え、外食チェーン等の市場拡大も追い風となり事業が順調に拡大。77年4月には神奈川県横浜市に神奈川営業所を開設し、千葉、埼玉、東京都下にネットワークを広げた。

食材関連ビジネスに限定しつつも多角化を進め、79年8月には結婚式利用の増加で繁忙を極めたホテル厨房を支援するべく連結子会社キスコフーズ(株)を設立し、業務用高級スープやソースの製造を開始。89年7月には、トリュフ、フォアグラ等、高級食材の輸入・販売を目的に連結子会社アクロス(株)を設立した(その後、吸収)。

90年代には、中京地区、関西地区への拠点展開も進め、2001年9月にJASDAQに株式を上場。09年7月には、生鮮品の取扱い強化の一環として、生鮮野菜類の卸に特化した(株)久世フレッシュ・ワンを設立。11年5月には、ソース類の製造強化を目的に、キスコフーズ インターナショナル リミテッド(KISCO FOODS INTERNATIONAL LIMITED)をニュージーランド、クライストチャーチ市に設立した。また2011年9月に、今後の海外戦略の拠点として、久世(香港)有限公司を設立した。
 
<事業内容>
事業は、食材卸売事業、食材製造事業、及びグループ会社向けが大半を占める不動産賃貸事業に分かれ、11/3期の売上構成比は、それぞれ、93.6%、6.1%、0.3%。また、販売チャンネル別売上高は、居酒屋・パブ36%、ディナーレストラン・ホテル・会館18%、惣菜・デリカ・娯楽施設・ケータリング16%、ファーストフード・ファミリーレストラン・カフェ30%。また、(株)モンテローザとの取引が多く、11/3期は売上全体の23.1%を占めた。
 
食材卸売事業
取扱が難しい生鮮品を含めた業務用食材全般に加え、割りばし、ナプキン、洗剤といった消耗品等のノンフードまでを幅広くカバーし、取扱品目は約50,500アイテム。近年、PB商品や生鮮三品の取扱いに力を入れている。また、売上面、利益面で下期偏重である事も当事業の特徴である。
 
食材製造事業
連結子会社キスコフーズ(株)が食品製造工場を有し、ソース、ブイヨン、スープ及び調理食品等の自社ブランド製品及びOEM製品の製造・販売を行っている。
 
 
<「第一次C&G(Change&Grow for The Good Company)経営計画」
 (10/3期~12/3期)>
同社の推計では、外食産業約23兆円のうち同社の事業対象となる全国の業務用食材マーケットは約3兆6千億円で、同社が地盤とする首都圏市場はその約40%に当たる約1兆4,700億円。市場自体に大きな成長を求める事はできないが、現在、同社の首都圏におけるシェアは3%程度にとどまり、シェアアップによる成長の余地は大きい。
この成長戦略を実現するための具体的な施策をまとめたものが、「第一次C&G経営計画」であり、その柱は、①攻めの営業の実践、②物流の効率化と経費削減、③グループ一体の商品開発、④「製法」に基づくグループ品質管理への取り組みの4点。「頼れる食のパートナー」として、「顧客満足度No.1」を目指しグループ力を結集している。

11/3期までの2年間、成果目標の明確化、期限管理の徹底、短期間でのPDCAマネジメントに取り組んできた結果、意識と行動に変化が生まれ、個別の業績向上につながった(連結ベースでは野菜類の卸に特化した子会社や海外製造子会社の設立等の先行投資が利益を圧迫)。
 
 
最終年度となる12/3期は、①「攻めの営業」のための体制構築、②業務見直しによる生産性アップと新たな方向への挑戦、③海外事業の推進、④商品戦略と営業戦略の連鎖、⑤営業戦略の明確化と物流の連鎖、⑥品質への新たな取り組みスタート、⑦C&Gマネジメントの深化と経営理念に基づいた行動と考え、及び⑧人材の育成の8項目を基本施策として掲げ、課題解決に取り組んでいる。尚、今期のC&Gについては、「震災後からの復興」と「昨年度実績を上回る目標を目指す」との思いを込めて、C&GのCについて、従来の“Change”を“Challenge”に読み替えている。
 
 
 
2012年3月期上期決算
 
 
前年同期比6.4%の増収ながら、同65.6%の経常減益
売上高は前年同期比6.4%増の24,511百万円。メニューの提案と開発の支援、食材セミナーと食材展示会の開催、更には情報誌「久世通信」によるトレンド情報の提供といった他社に無いきめ細かい対応が成果をあげ、主要取引先である外食産業各社が苦戦を強いられる厳しい事業環境の中、新規取引先の開拓と既存取引の深耕が進んだ。ただ、シェアを優先したため値上げが遅れ売上総利益率が低下。積極的な新卒採用(同3名増の27名が入社)や海外人材の中途採用等による人件費の増加が負担となり、営業損益が31百万円の損失となった。もっとも、協賛金収入(前年同期と同額の68百万円)を加えた経常損益段階では36百万円の利益を確保。退職給付制度改定益61百万円等を特別利益に計上した事もあり、四半期純利益は38百万円となった(前年同期は税負担が税引前利益を上回ったため、四半期純損失となった)。
 
 
 
上期末の総資産は前期末比1,474百万円増の15,330百万円。売上や仕入の増加に伴い、売上債権、たな卸資産、及び仕入債務が増加。この他、海外事業強化に向けた海外子会社(孫会社)の増資引き受けで投資その他が増加した他、長期借入金を中心に有利子負債も増加した。
 
 
CFの面では、運転資金の増加で営業CFが減少する中、海外子会社(孫会社)の増資引き受けで投資CFのマイナス幅も拡大したものの、224百万円のフリーCFを確保した。運転資金の増加や投資の増加に対応して有利子負債を積み増したため財務CFも黒字となり、現金及び現金同等物の上期末残高は3,083百万円と前期末比331百万円増加した。
 
 
2012年3月期業績予想
 
 
通期業績予想に変更は無く、前期比0.5%の増収、同5.2%の経常増益予想
下期は、仕入割戻しの計上に加え、値上げの浸透と代替え品の調達による仕入価格の抑制が見込まれる上、ニュージーランドへの生産移管も進み、売上総利益率が改善。人件費を中心にした販管費の増加を吸収して営業利益が300百万円と同30.1%増加する見込み。協賛金収入の予想が保守的である一方、金融費用の増加を織り込んだ結果、経常利益は同5.2%の増加にとどまる見込みだが、特別損益の改善等で当期純利益は同24.0%増加する見込み。配当は1株当たり12円の期末配当を予定している。
 
(2)重点施策のレビューと今後の課題
12/3期の重点施策は、①「攻めの営業」の為の体制構築、②業務見直しによる生産性アップと新たな方向への挑戦、③海外事業の推進、④営業戦略の明確化と物流の連鎖、⑤商品戦略と営業戦略の連鎖、⑥品質への新たな取組みスタート、⑦C&Gマネジメントの深化と経営理念に基づいた行動と考え、及び⑧人材の育成、の8項目。進捗状況は次のとおりである。
 
①「攻めの営業」の為の体制構築
テーマとして、「首都圏、中京圏、及び関西圏の強化」を挙げており、上期はそろって売上高が増加した。下期は首都圏で営業拠点の新設を予定しており、中京圏では配送ルートを変更し業務の効率を図る。また、関西県では支店組織への移行準備を進める。
 
②業務見直しによる生産性アップと新たな方向への挑戦
子会社2社を対象としており、上期は、キスコフーズ(株)が製造子会社キスコフーズインターナショナルをニュージーランドに設立。(株)久世フレッシュ・ワンは、課題だった物流を青果卸会社に代行させる事で収支の均衡を図った。下期は、キスコフーズ(株)において、生産性の向上に努め、競争力のある商品の開発と生産量の増大を図る。また、12月よりキスコフーズインターナショナルの商品の販売が本格化する。一方、(株)久世フレッシュ・ワンにおいては、引き続き業務の効率化に努め利益の増大を図る。
 
③海外事業の推進
中国とニュージーランドをテーマとしており、上期は、中国において、今後の海外戦略を担う持株会社 久世(香港)有限公司を9月に設立(12月に増資)。ニュージーランドにおいては、既に説明したとおり、5月にソース類の製造拠点としてキスコフーズインターナショナルを設立した。下期は、久世(香港)有限公司が中国をはじめとする東アジアでの事業展開に着手。キスコフーズインターナショナルは、日本国内だけでなく、中国、東アジアをはじめとする海外に販路を拡大する他、11月よりフォンドヴォーやベシャメルソースの生産を本格化する。
 
④営業戦略の明確化と物流の連鎖
上期は、営業開発課を新設し顧客開拓を推進した他、SC(サプライチェーン)営業部を新設しチェーン店の新規獲得を推進。また、名古屋物流センターの移設や新KZN(久世全国ネットワーク)の拡充・強化に取り組んだ。下期は、新物流センターの計画を進める。
 
⑤商品戦略と営業戦略の連鎖
上期は、商品部の施策として、マーケティングリサーチ、商品集約による販売注力商品の明確化、及びPB商品やノンフードの販売促進に取り組んだ。この一環として、PB商品において新商品やリニューアル品を投入した他、キスコブランドの新商品開発を進めた。下期は商品検索システムの構築を進めると共に、販売注力商品を明確にし、PB商品やキスコブランド商品の販売を強化する。
 
⑥品質への新たな取組みスタート
上期は、「久世グループの品質方針」と品質保証の仕組みである“久世クオス”を策定した他、「商品」だけでなく、「営業」、「物流」、「受発注」、「サポート部門」等、全ての業務品質の向上に取り組んだ。ISO22000/FSSC22000認証の13年9月取得を目指している。
 
⑦C&Gマネジメントの深化と経営理念に基づいた行動と考え
日々の業務の中で明確な目標設定と行動計画を策定し、週間単位でのPDCAによる顧客の課題への迅速な対応に努めた他、経営理念(KUZE WAY)の徹底を図った。
 
⑧“杉の苗を植える。育てる”-人材の育成
次世代を支える人材づくりを念頭に、上期は集合研修、営業マン向け社内勉強会を実施、更には「管理職意識行動変革研修」で管理職のレベルアップに努めた他、海外への若手人材の派遣や中国人社員の採用を行った。下期は、問題解決型人材の育成と海外人材の育成・採用に取り組む。
 
 
今後の注目点
当社はメニュー提案と開発支援、食材セミナーと食材展示会の開催、更には情報誌「久世通信」によるトレンド情報の提供といった、他社に無いきめ細かい顧客フォローを実施しており首都圏No.1のポジション確立を目指している。リーマン・ショック以降は同社も苦戦を強いられたが、ここにきて「第一次C&G経営計画」の成果が顕在化しつつある。顕著に表れているのが個別業績で、11/3期は、主要な取引先である外食産業が厳しい事業環境にさらされる中、売上が前期比9.5%増加し、営業利益に至っては同75.9%増加した。その要因は、成果目標の明確化と、期限管理及び短期間でのPDCAマネジメントの徹底である。具体的には、成果目標を明確化し、その達成に向け期限を定めて目標の必達(週単位での修正と結果報告)を徹底した事が結果につながり、その手段としてPDCAマネジメントをフルに活用した。「成果目標の明確化」、「期限管理」、「PDCAマネジメント」は、いずれも目新しい事ではないが、これを徹底するには意識改革が不可欠。言い換えると、好業績は意識改革が進んでいる事の表れである。
同社は首都圏でトップ企業とは言え、マーケットは巨大であり、未だシェアは3%程度に過ぎない。食材卸と言う業種自体を先入観で見てしまうと気が付かないが、マーケットに開拓余地が大きい事、シェアアップの原動力となる意識改革が進んでいる事等を考えると、同社の潜在成長力の大きさが見えてくる。