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(2708) 株式会社久世

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ブリッジレポート:(2708)久世 vol.7

(2708:JASDAQ) 久世 企業HP
久世 健吉 社長
久世 健吉 社長

【ブリッジレポート vol.7】2013年3月期業績レポート
取材概要「全国の外食店舗数はこの10年間で約60万~63万店で推移しており、大きな変化はないと言う。新陳代謝が活発な業界である事がその理由で、出退店が容易・・・」続きは本文をご覧ください。
2013年6月25日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社久世
社長
久世 健吉
所在地
東京都豊島区東池袋2-29-7
決算期
3月 末日
業種
卸売業(商業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2012年3月 51,053 380 408 173
2011年3月 46,774 230 342 80
2010年3月 42,666 271 394 123
2009年3月 42,181 225 334 171
2008年3月 42,540 283 443 240
2007年3月 42,847 402 507 262
2006年3月 41,491 336 390 246
2005年3月 39,087 255 297 126
株式情報(6/19現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
710円 3,879,022株 2,754百万円 8.4% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
12.00円 1.7% 95.38円 7.4倍 1,184.88円 0.6倍
※株価は6/19終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
久世の2013年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
外食産業や中食産業向けの食材卸を中心に、グループでソース、ブイヨン、スープ及び調理食品など食材の製造・販売も手掛けている。取扱品目は約21,000アイテムに上り、冷凍・常温品はもちろん生鮮品から消耗品等のノンフードまで幅広い。
グループは、同社の他、ソース・スープ類の製造・販売を手掛けるキスコフーズ(株)、生鮮野菜など農産品の仕入・販売を行う(株)久世フレッシュ・ワン、ニュージーランドでソース類の製造を手掛けるKISCO FOODS INTERNATIONAL LIMITED(以下、KFI)、及び海外戦略の立案と情報収集の役割を担う久世(香港)有限公司の連結子会社4社と、中国での業務用食材卸売事業を目的に12年5月に設立した久華世(成都)商貿有限公司の非連結子会社1社。
 
【事業内容】
事業は、食材卸売事業、食材製造事業、及びグループ会社向けが大半を占める不動産賃貸事業に分かれ、13/3期の売上構成比は、それぞれ、92.4%、7.4%、0.2%。また、販売チャンネル別(個別ベース)では、居酒屋・パブ30.8%、ディナーレストラン・ホテル・会館20.7%、惣菜・デリカ・娯楽施設・ケータリング16.9%、ファーストフード・ファミリーレストラン・カフェ31.6%。
 
食材卸売事業
取扱が難しい生鮮品を含めた業務用食材全般に加え、割りばし、ナプキン、洗剤といった消耗品等のノンフードまでを幅広くカバーし、取扱品目は約21,000アイテム。近年、PB商品や生鮮三品の取扱いに力を入れている。また、売上面、利益面で下期偏重である事も当事業の特徴である。
 
食材製造事業
キスコフーズ(株)及びKISCO FOODS INTERNATIONAL LIMITEDが、ホテル、レストラン等向けの専門性の高いスープ、ソース、ブイヨン等の製造・販売を行っている。
 
【沿革】
1934年4月、現在本社を置く池袋にてトマトケチャップやソースの製造を開始。直販(中間流通を通さず飲食店等に直接販売)を特徴とするケチャップやソースのメーカーとして経営基盤を確立したが、トマト加工品の輸入自由化が進められた70年代に食材の卸事業にシフト。元来、直販メーカーとして飲食店等のユーザーと直接取引していた強みに加え、外食チェーン等の市場拡大も追い風となり事業が順調に拡大した。
食材関連ビジネスに限定しつつも多角化に取り組み、79年8月には結婚式利用の増加で繁忙を極めたホテル厨房等を支援するべく、キスコフーズ(株)を設立して業務用高級スープやソースの製造を開始。89年7月には、トリュフ、フォアグラ等、高級食材の輸入・販売を目的にアクロス(株)を設立した(その後、吸収)。90年代には、中京地区、関西地区への拠点展開も進め、2001年9月にJASDAQに株式を上場。09年7月には、生鮮品の取扱い強化の一環として、生鮮野菜類の卸に特化した(株)久世フレッシュ・ワンを設立。11年5月には、ソース類の製造強化を目的に、キスコフーズ インターナショナル リミテッド(KISCO FOODS INTERNATIONAL LIMITED)をニュージーランド、クライストチャーチ市に設立した。また2011年9月に、今後の海外戦略の拠点として、久世(香港)有限公司を設立した。更に12年5月に中国内陸部での業務用食材卸売事業を目的に、久華世(成都)商貿有限公司を設立した。
 
 
第2次C&G(Challenge and Grow for The Good Company)中期経営計画
 
同社の推計では、外食産業約23兆円のうち同社の事業対象となる全国の業務用食材マーケットは約3兆8,300億円で、同社のシェアは未だ1.4%に過ぎない(トップシェアを誇る首都圏に限っても、約3.4%のシェアにとどまる)。国内業務用食材市場自体に大きな成長は望めないが、同社にとってフィールドは十分に広い。
 
 
(1)「第2次C&G経営計画」(13/3期~15/3期)
同社は10/3期に「C&Gプロジェクト(Change and Grow for The Good Company)」を立ち上げ、“三大都市圏No.1・お客様満足度No.1”の実現を目指し、「意識と行動の変化」に取り組んでいる。「C&Gプロジェクト」では、創業85周年を迎える20/3期に売上高1,000億円、営業利益20億円の達成を目指しているが、そのプロセスとして3年毎の「C&G経営計画」が策定され、現在、「第2次C&G経営計画」が進行中。今期は“change”を“challenge”に読み替えて、より高い目標に挑戦する。
 
「第2次C&G経営計画」は、国内外での攻めの営業体制の確立、商品開発を軸とした戦略推進、及び1,000億円企業への体制構築、という4つの基本戦略の下で進められている。
 
 
(2)13/3期(初年度)レビュー
同社に加え、国内外の子会社の業績が順調に伸びた他、中国での事業基盤の整備も進み、計画を上回る売上・利益を計上した。
 
 
(3)14/3期の施策
取り組み方針として、①徹底的な攻めの営業、②すべての業務プロセスの品質向上、③海外事業展開の促進、④グループ力の強化、の4点を挙げている。
 
①徹底的な攻めの営業
円安と原料価格高騰に対応した粗利改善が急務であり、値上げを実施し浸透を図る。その上で、中京圏・関西圏での新規顧客開拓に全社で取り組む。また、「給食・惣菜営業部」を新設し、老人ケアやシルバー向け等、専門分野の強化を図る。この他、生産性の向上と競争力の底上げを図るべく、最新の物流システムを導入する事で精度の向上と効率化を進めると共に、独自性のある商品の販売を強化する(ノンフードPB新ブランド「キッチンサポート」の拡販等)。
 
 
②すべての業務プロセスの品質向上
同社は、10年に「久世グループ品質方針」及び、ISO22000(食品安全マネジメントシステムの国際規格)に基づいた久世グループの品質保証の仕組みである「久世クオス(久世QUALITY SYSTEM)」を策定し、改めて品質への取組みを開始した。現在、商品の品質だけでなく、営業、物流、受発注などサポート部門を含めた全ての業務プロセスの品質向上に取組んでおり、13年4月には、子会社キスコフーズ(株)がISO22000の認証を取得。同社自身も13年7月の認証取得を目指して取り組みを進めている。
 
③海外事業展開の促進
ニュージーランドで製造事業を手掛けるキスコフーズインターナショナル(KFI)は 設立2年目となる前期に黒字化を達成した。14/3期は更なる収益の拡大を図るべく、フランス料理やイタリア料理のベース材料となるフォンドヴォー(仔牛のブイヨン。ソースを作る際等に用いられる)やベシャメルソース(牛乳で作った白いソース)との増産に取組むと共に、東南アジアへの販路拡大の準備を進める(現在、生産量の98%が日本への輸出)。
また、中国での食材卸売事業では、子会社久華世(成都)が、取扱商品を拡大し(肉、スパゲッティー、チーズ、ハム、鮮魚、タレ等)、現地の日本料理店に加え、西洋料理店、コンビニ、更には四川料理店の開拓を進める。一方、資本・業務提携先である上海峰二食品は新規顧客開拓(上海・蘇州・南京でのシェア拡大)と既存顧客の深耕に取組む。
 
④グループ力の強化
キスコフーズ(株)は“スープ&ソースのソリューションカンパニー”を目指し、キスコブランド商品の開発と販売を強化すると共に(開発強化に向け、新テストキッチンをオープン)、ISO22000導入による品質向上と生産の効率化に取組む。また、KFIとのグループシナジーも追求する。
 
生鮮野菜など農産品の仕入・販売を行う(株)久世フレッシュ・ワンは、特徴ある鮮度の良い商品を扱う元気な「八百屋」を目指す。具体的な施策として、重点エリアの新規開拓及び既存顧客のシェアアップ、大口ユーザーの開拓、生産農家との連携推進、及び築地市場の豊洲への移転(15年の移転を予定)を見据えた対応準備、の4点を挙げている。
 
 
 
2013年3月期決算
 
 
前期比9.8%の増収、同70.8%の経常増益
売上高は前期比9.8%増の560億60百万円。新規顧客の獲得と既存顧客との取引拡大で食材卸売事業の売上が519億10百万円と同8.7%増加。食材製造事業も、グループの販売力活用と各エリアで実施した提携先卸業者との連携強化が成果をあげ、売上が41億37百万円と同26.2%増加した。
 
販売チャネル別では、居酒屋・パブ向けの売上が微増にとどまったものの、低価格志向の一巡と高品質志向の高まりが追い風となったディナーレストランを中心にディナーレストラン・ホテル・会館向けが同16%増加。惣菜・デリカやカフェ等で新規開拓に注力した成果で、惣菜・デリカ・娯楽施設・ケータリング向けが同13%、ファーストフード・ファミレス・カフェ向けが同14%、それぞれ増加した。
 
利益面では、人件費や運賃を中心に販管費の伸びが大きくなったが(同10.9%増の90億03百万円)、売上の増加と利益率の高い商品への入れ替えが進んだ事による売上総利益率の改善(16.6%→17.0%)で吸収。営業利益は5億44百万円と同43.2%増加した。持分法投資損失がなくなった(△1億02百万円→0)事等による業外損益の改善と税効果会計の影響で当期純利益は3億67百万円と同112.1%増加した。
 
 
 
 
 
期末総資産は前期末比17億87百万円増の192億22百万円。借方では、国内外での事業拡大で売上債権やたな卸資産が増加した他、拠点増設で有形固定資産も増加。貸方では、同様の理由で仕入債務や未払金等が増加した他、事業拡大に伴う当座の流動性を確保するべく有利子負債も増加。ただ、有利子負債の残高は現預金の50%にも満たず実質無借金。純資産も増加し、事業拡大に伴い総資産が増加する中で、自己資本比率は23.9%と前期末と同水準を維持した。
 
 
CFの面では、国内外での事業拡大に伴う運転資金の増加で営業CFが減少したものの、子会社関連の投資が減少したため投資CFのマイナス幅が縮小(前期はKFIの増資や久世(香港)有限公司の設立等で投資がかさんだ)。この結果、4億86百万円のフリーCFを確保した。
 
 
2014年3月期業績予想
 
 
前期比7.0%の増収、同2.9%の営業増益予想
「第2次C&G経営計画」(13/3期~15/3期)の2年目となる。施策として掲げている4項目(①徹底的な攻めの営業、 ②すべての業務プロセスの品質向上、 ③海外事業展開の促進、及び ④グループ力の強化)に注力する事で業績予想の達成を目指している。
 
仕入れ価格や原材料価格の上昇による原価率悪化を織り込み、上期は前年同期比6.5%の増収ながら、同40.7%の営業減益予想。ただ、夏から秋にかけて価格転嫁が進む見込みで、下期は増益に転じる(同7.6%の増収、同17.2%の営業増益)。この結果、通期の営業利益は前期比2.9%増の5億60百万円となり、2期連続で最高益を更新する見込み。配当は1株当たり12円の期末配当を予定。
 
 
 
今後の注目点
全国の外食店舗数はこの10年間で約60万~63万店で推移しており、大きな変化はないと言う。新陳代謝が活発な業界である事がその理由で、出退店が容易なだけに1店舗当たりの平均売上高は小さいが、トータルの市場規模(売上ベース)は約23兆円と膨大だ。一方、こうした店舗に食材を供給している商社(卸業者)は全国に約2,000社程度あり、首都圏だけでも400~500社を数得るが、その多くが後継者難等の問題を抱えている。このため、今後5~10年で多機能な大手に集約されていくとみられており、中長期での同社のビジネスチャンスは大きい。
小規模な店舗を取り込んでいくため、きめ細かいネットワークの構築とローコストオペレーションの確立が欠かせないが、同社は、「第2次C&G経営計画」の基本戦略4において、“1,000億円企業への体制構築”として、人材育成、次世代情報システムの導入、M&Aやアライアンス推進等を挙げ、対応を進めている。上記の通り、大手による寡占化が予想される中では、売上高1,000億円は現実的な目標であり、目標達成のための施策が着実に進められている事がわかる。
尚、14/3期業績については、秋口にかけてしっかりと値上げ(価格転嫁)を浸透させる事ができるかどうか、がポイント。今後の消費税率引き上げ等への対応力を図るうえでの試金石ともなる。