ブリッジレポート
(1909) 日本ドライケミカル株式会社

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ブリッジレポート:(1909)日本ドライケミカル vol.4

(1909:東証1部) 日本ドライケミカル 企業HP
遠山 榮一 社長
遠山 榮一 社長

【ブリッジレポート vol.4】2014年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「防災業界における同社の大きな特徴である「アライアンス戦略」が着実な進展を見せている。沖電気防災との一体化は、オフィス移転という・・・」続きは本文をご覧ください。
2014年1月21日掲載
企業基本情報
企業名
日本ドライケミカル株式会社
社長
遠山 榮一
所在地
東京都港区台場2-3-1 トレードピアお台場
決算期
3月末日
業種
機械(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2013年3月 28,931 1,612 1,576 809
2012年3月 23,765 1,041 994 404
2011年3月 21,248 738 729 343
2010年3月 21,409 618 580 1,403
2009年3月 23,624 991 1,000 687
2008年3月 10,232 159 165 445
2007年9月 19,756 -38 4 -69
2006年9月 17,024 -222 -204 -229
2005年9月 17,927 48 66 18
株式情報(12/19現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
2,289円 3,225,206株 7,382百万円 14.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
70.00円 3.1% 318.24円 7.2倍 2,098.13円 1.1倍
※株価は12/19終値。ROE、BPSは前期末実績。
 
日本ドライケミカル(株)の2014年3月期第2四半期決算概要、2014年3月期見通し、成長に向けた取組みなどについて、ブリッジレポートにてご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
「消火・防災のプロフェッショナル」として高い評価を受けている国内最大級の総合防災企業であり防災エンジニアリング企業。
一般建築物やプラント向けの消火設備の設計・施工、船舶用消火設備の製造・販売、消火設備の保守・点検サービス、各種消火器・防災製品、消防自動車の製造・販売など幅広く事業を展開。
長年にわたって培われた経験と実績、高いエンジニアリング能力、独自の製品開発力などが強み。
2000年12月上場廃止となったが、2011年6月に再度東京証券取引所市場第2部へ上場。2013年12月には市場第1部に銘柄指定された。積極的なアライアンス戦略で顧客に新たな付加価値を提供する。
【沿革】
1955年 4月   粉末消火器、粉末消火設備および自動火災報知設備の製造・販売を主業として設立。
1991年 9月  東証2部へ上場。
1995年 6月  東証1部へ上場。
2000年12月  米国の総合セキュリティー・防災メーカーであるタイコインターナショナル社のTOBにより100%子会社となり、上場廃止。
2010年 3月  株式上場を視野に取引先を中心に資本政策を実施。
2011年 6月  東証2部へ再上場。
2012年 2月  取引先を中心に資本政策を実施、大和PI社の持株比率38%へ。
2012年 5月  (株)初田製作所(非上場)との基本業務提携契約締結。大和PI社の持株比率0%へ。
2012年 8月 (株)イナートガスセンター設立
2012年10月 沖電気防災(株)を子会社化
2013年 2月 新日本空調(株)と資本業務提携を締結
2013年12月 東証1部へ上場。
【社長プロフィール】
遠山 榮一社長は、1950年生まれの63歳。
1972年に三菱商事に入社後、経理、財務部門、海外子会社などを歴任後、2004年1月同社入社。2005年8月に代表取締役就任。
認知度・信用力の拡大を通じた企業価値の向上と企業体質の強化を図るために、再上場を目指し同社を牽引。
従来の発想にとらわれない発想で「消火・防災市場」の創造・開拓を目指す。
 
【企業理念・経営方針】
以下の企業理念と経営方針の下、事業を展開している。
 
<企業理念>
① プロフェッショナル
消火・防災のプロフェッショナルとして、人々に安心と安全を提供する。
② パートナーシップ
関係するすべての会社とともに、お客様に最良の製品・サービスを提供する。
③ 人財育成
変化を捉えて未来を拓く、人を活かし、人を育てる。
④ 環境
環境にやさしい製品作りを通じ、社会に貢献する。
 
<経営方針>
・コア事業の発展:市場動向の変化に強い企業となるべく消火・防災に関わる事業に経営資源を集中し、各事業を継続して強化・整備していく。
 
・事業連携によるさらなる発展:各事業が相互に協力し、情報を提供することでさらなるビジネス機会を創出する。
 
・経営基盤の強化:人事制度の整備と人財育成、技術部門の集中による開発力向上及び全社横断的な品質保証体制を構築していく。
 
【市場環境】
◎経済産業省の「平成22年 工業統計調査」(平成24年4月6日公表・掲載)によれば、「消火器・消火装置(消防自動車の艤装品を含む)」と「消火器具・消火装置の部分品・取付具・附属品」の出荷額合計は、2010年で568億円となっている。
国内の設備投資サイクルに応じた上下はあるが、1998年の794億円と比較すると、3割弱低い水準となっており、成熟市場と位置付けられる。
 
 
参入障壁の高い業界であることから新規参入は少ないが、既存企業間でのシェア争いは激しいものとなっている。
 
◎上場の同業他社としては以下の3社を挙げることができる。
 
 
 
他3社に比べると同社の事業規模、時価総額は小さい。
一方、過去1年間の株価パフォーマンスは日経平均とほぼ同じで、決して悪いものではないが、PERは4社の中で最も低い。従来の防災業界には例のない積極的な活動で、新市場の創造・開拓にチャレンジしているものの、株式市場においては更なる認知度の向上が必要と考えられる。
 
【事業内容】
総合防災企業として「防災設備事業」、「メンテナンス事業」、「商品事業」、「車輌事業」の4事業部門から構成されている。各事業において「火を消す」というニーズ全てに対応し、顧客満足度の最大化を図っている。また、新たな顧客ニーズを開拓し、新しいビジネスの開発に結び付けていくという方針を掲げている。
 
<防災設備事業>
売上高の約半分を占める同社の主力事業。建築防災設備、プラント防災設備、船舶防災設備の3分野がある。
どの分野においても顧客の防災・消火ニーズは多様化、大型化、高度化、複雑化している。
同社は、長年培ってきた豊富な実績・ノウハウと高い技術力によって、顧客に対し最適な防災システムを提供している。
 
「建築防災設備」
55年を超える歴史を持つ同社において最も実績のある分野。
対象建築物は、オフィスビル、高層マンション、大型ショッピングセンター、駐車場、トンネルなど。
 
 
最近でも都内の大型再開発において数多くの施工実績をあげている。
 
同社はこれら建築物の建築主もしくは建築に携わる大手建設会社や設備工事会社から消火・防災設備の設置を受注している。
 
一般建築物の消火・防災設備は、消防法によってその設置が義務付けられており、設置基準も詳細に定められている。また、設置後の点検に関しても厳格な基準が設けられている。
消防法の歴史は常に強化の歴史であるが、同社はその強化に迅速且つ適切に対応し、大切な人命と貴重な財産を守るという社会的使命を担い、責任を持って遂行。顧客からの高い信頼を獲得してきた。
 
「プラント防災設備」
原子力、火力、ガス、石油、石炭などさまざまなエネルギープラントから、石油化学、医薬、鉄鋼など広範な産業分野の製造工場および倉庫などが対象。
 
 
顧客は電力会社や重電メーカーなど。
 
エネルギープラントでは、火災が発生し初期消火に失敗すると油流出を伴う大規模火災に発展する恐れがある。
そこで、このような火災には大量の消火薬剤を散布できる泡やガスといった消火設備が最適である。
同社は、このように、対象物の危険性、特殊性、形状に最も適した消火・防災設備をデザインし、構築している。
 
「船舶防災設備」
30年の歴史と実績を持つ。
船舶用の消火・防災設備は船舶安全法、海上人命安全条約、船級協会などの規定により設置・点検が義務付けられている。
 
 
自船消火設備として機関室や貨物艙には二酸化炭素消火設備、ガス運搬船甲板部には粉末消火設備、他船消火設備としてタグボートや消防艇には泡水消火設備や粉末消火設備などがある。
対象船舶は大型タンカー、旅客船・フェリー、消防艇など多岐にわたる。
 
<メンテナンス事業>
設置した消火・防災設備もいざというとき確実に作動しなくては何の意味もない。
消火・防災設備の点検は消防関係法令に規定され、最低年間2回の点検が義務付けられている。
同社は消防設備士の資格を持つスタッフによる各種消火・防災設備の保守点検業務およびそこから派生する修繕及び改修工事を行っている。
主要顧客は施主及びビル管理会社など。
同事業については、社会的な要請やコンプライアンス意識の高まりを背景に成長が見込まれること、また収益性の観点から今後も収益の柱として強化していきたいと考えている。そのためには、幅広く消火・防災の知識を有し、お客様に信頼される人財の育成・強化が必要と認識している。
 
<商品事業>
同社は日本初の粉末消火器を開発したパイオニアであり、以来、研究・開発を重ね、独自の技術で幅広いニーズに応えるさまざまな消火器や防災関連商品を企画・開発している。
 
 
オフィス・工場などに設置される一般的なタイプの消火器のほかに、発電所や石油関連施設などの危険物施設向けの大型消火器、自動車に搭載する消火器、家庭用消火器などさまざまなタイプの消火器の製造・販売を行っている。
 
1999年には日本で初めてアルミ製容器を市場で最も流通しているABC粉末消火器10型に採用して販売を開始し、その後もアルミ製容器を用いた多くの製品を展開してきている。このアルミ製容器を用いた消火器は、軽くて耐食性に優れ、リサイクル性が高く環境にやさしいという利点がある。現在同社は鉄製以外の容器を用いた消火器においてトップシェアを誇る。
 
アルミニウム製消火器は、
・鉄製に比べ約20%軽いため、操作性が格段に向上する。
・錆びにくい性質から腐食による破裂を起こしにくい。
・環境にやさしく、ISO14000Sやごみゼロ工場などに適している。
といった特徴がある。
 
同社はアルミ製消火器の先駆的メーカーであり、アルミ製消火器の国内市場はほぼ独占の状況となっている。
今後は殆どが未だ鉄製である海外市場へ進出していく考えだ。
消火器以外には、火災報知器、避難器具、防災キットなど各種防災用品の仕入・販売を行っている。
 
 
同社は全国14ブロック、計237社(平成25年9月末現在)の販売代理店で構成されている「エクスチン会」により、全国をカバーする強力な販売体制を構築している。
(「エクスチン」は、消火器の英語「a fire extinguisher」からとっている。)
 
<車輌事業>
消防自動車には、消火栓や河川から水を汲み上げ放水する消防ポンプ自動車、水源のない場所で放水可能な水槽付消防ポンプ自動車、油火災等の消火を行う化学消防ポンプ自動車などさまざまな種類があるが、同社は、消火・防災技術の最先端を結集することで、こうした専門性の高い消防自動車のニーズに対応している。
 
 
同社は、消防ポンプ自動車、水槽付消防ポンプ自動車、化学消防ポンプ自動車の他、支援車、指揮車、小型動力消防ポンプ付水槽車など、各種の消防自動車を製造・販売している。
主要装置の機能の高度化のみならず、自動揚水モニター装置、泡自動混合装置などの電子化、自動制御化も進めることで、操作性・安全性の向上および省力化に貢献している。

車輌メーカーよりトラックシャーシを購入した後、顧客ごとの仕様に合わせた艤装(*室内外の各種装備などを車体に取り付ける工程のこと)を施し消防自動車として納入する。
顧客のほとんどは地方自治体で、交換需要が中心となっている。
競争は厳しいが長年携わってきた中で同社独自のアイデアや技術も具現化してきており、今後も注力していく考えだ。
 
 
特徴と強み
 
同社の事業ドメインである消火・防災業界は、防災設備に関して消防法を始めとする詳細な規定があり、工事・保守点検では消防設備士の資格が必要である。また商品分野においても日本消防検定協会などによる検査の合格が必須であることなどから、参入障壁が高いことが特徴である。
これに加えて同社独自の特徴としては以下の4点があげられる。
 
①長年にわたって培われた経験と実績
同社の創業は1955年4月。今年で58年の歴史を有しており、長年にわたり培ってきた経験と実績に基づく信用力は、大きな財産と考えられる。
 
②高度なエンジニアリング能力
一般建築物、プラント、船舶など幅広い分野における多数の、そして多様な消火・防災設備の施工実績は、同社の高度なエンジニアリング能力に裏付けられている。
 
③独自の製品開発力
アルミニウム製消火器は同社が業界に先駆けて開発・量産化に成功。現在国内ではほぼ独占状態である。今後も同社オンリーの製品開発を進めていく。
 
④積極的なアライアンス戦略
防災業界は、専門領域が分化され、また他社と共同で事業を展開するといったことは極めて例がない業界。
そうした中で、同社はアウトサイダーであった遠山社長のリーダーシップの下、従来の発想に囚われることなく新たな消火・防災マーケットを創造しようという経営戦略により、再上場以来、積極的なアライアンスを展開している。
 
 
2014年3月期第2四半期決算概要
 
 
前年同期比減益ながらも期初計画は上回る。
沖電気防災(株)の子会社化が増収に寄与。防災設備事業での不採算案件も少なく粗利率は2%改善したが、同社子会社化で販管費も増加したため、営業利益、経常利益は前年同期を下回った。
ただ、これは想定以上に好調だった前期第2四半期実績からの反動とのことで、売上、利益は期初計画を上回っている。
 
 
◎防災設備事業
東日本大震災後の大型プラント物件が一巡したものの、子会社化した沖電気防災(株)の業績組み入れがあった。また、工事原価管理の改善にも努めた。
 
◎メンテナンス事業
改修・補修工事案件にかかる引き合いはあったものの、工事そのものの先送り等が見られた。
 
◎商品事業
消火器点検基準の法令改正による消火器の買替え需要が継続している一方で、東日本大震災後の防災関連用品の需要についてはここにきて若干落ち着きが見られた。
 
◎車輌事業
車輌の引渡しが少なく、機器類の販売が主だった。
 
 
固定資産は前期末に比べ238百万円増加したが、現預金、売上債権の減少で流動資産は同31億円減少し、資産合計も28億円の減少となった。負債合計は、有利子負債の約4億円の減少などで、同28億円の減少となった。
この結果、自己資本比率は31.1%と前期末に比べ4.5ポイント上昇した。
 
 
営業CF、フリーCFともにプラスだったが、前年同期に比べ幅は縮小した。借入金の返済、配当金の支払いなどで財務CFはマイナス。キャッシュポジションは7億円低下した。
 
 
2014年3月期通期業績予想
 
 
 
業績予想に変更無し。売上高は300億円到達。小幅ながらも増収・増益を計画。
業績予想に変更は無い。前期に比べ売上、利益ともに伸び率は小さいものの、売上高は300億円に到達する見込み。利益率もほぼ同水準で推移する。
配当は2013年4月1日付で1:2の株式分割を実施したため、実質前期同様の中間25.00円/株、期末45.00円/株の年間70.00円/株を予定。
 
(2)東証1部へ市場変更
2013年12月20日付で、東京証券取引所市場第一部に銘柄指定された。
2011年6月の再上場以来、ほぼ順調にステップアップできたと会社側は考えている。
同業他社は全て東証1部でもあり、東証1部市場変更はあくまでもスタート地点と認識し、今後は更に認知度および企業価値の向上を目指していく。
 
 
成長に向けた取組み
 
成長に向けた現在の取組み、今後の展望などを、遠山社長、経営企画部 阿部部長に伺った。
 
①沖電気防災(株)との一体化
営業活動を中心とした沖電気防災(株)との一体化をより効果的に進めるために、2013年10月、本社を移転し同じビルに両社が入居した。
各地方でも拠点を統一し、一体営業を展開するためのインフラ作りが完了した。
全ての消火・防災需要に対して、ワンストップで製品やサービスを提供する事ができる体制を、長い歴史を持つ防災業界において初めて手にした同社に対する顧客の反応は良好で、同業他社に対する大きな強み・差別化要因になると確信している。
 
遠山社長の考えは、今回の子会社化は「どちらが、どちらを買収した」というようなものではなく、新しい総合防災エンジニアリングカンパニーの誕生であり、社員にもその意味を深く自覚させる必要があるというもの。
一体営業を展開できる体制となった事で、社員の防災の知識・経験が深まり、クオリティーが向上すれば、NDCグループのクオリティーおよび総合力向上に繋がると考えている。
 
次のステップとしては、人事、組織の流動化を進めつつ、具体的には来年度、以下の2つのプロジェクトを進めていく。
一つは「設計・デザインセンター」の新設。
火災感知・報知から消火までの設備・システムの設計、積算(見積もり)を統一して行い、建築物一棟のリニューアル時などにトータル提案を行うための重要な社内機能であり、両社のスタッフ・技術を融合する。
もう一つが「営業開発部隊」の設置。
効率的で、安心・安全かつ環境に優しい一体型の総合防災システムを開発するためのアイデア作りを行うセクション。自社のみでなく顧客の意見も吸収して、多様な意見を反映させていく。新規顧客の開拓、新製品の開発を両社一体で推進していく。
 
更にその次のステップとして、営業部隊の統一や顧客に提案する対象の拡大も進め、顧客満足度が向上すれば、大きな自信にもつながり、真の意味での総合防災エンジニアリングカンパニーとしてのポジションを確立できると考えている。
 
②アライアンスの強化・進展
前回のレポートで紹介した、松山酸素(株)との合弁会社(株)イナートガスセンターは順調に伸長しており、また新日本空調(株)との提携により新規案件の発掘が進み、受注機会も増大しているという事だ。
 
また、沖電気工業(株)ともアライアンス確立に向けて協議を進めている。
沖電気工業(株)は2016年に向けた中期経営計画の中で、中心的な経営戦略として「次世代社会インフラ分野への参入」を掲げ、安全で快適な社会の実現のためのICT(Information and Communication Technology)を活用した「防災・減災」を3つの柱の一つに据えている。
 
同社の同業他社は大株主に大手防犯会社が見られるように、「防犯と防災」という組み合わせでの事業展開を志向してきた。
これに対し同社は迅速かつ効率的に貴重な社会インフラを守るためには、他社にはない「通信と防災」というコンセプトの方が優れていると考え、沖電気工業とのコラボレーションによる新市場開拓を目指していく。
例えばスマートシティの運営においては、いかに早く火の元を感知・通知し、消火活動に入るかが重要であり、ICT技術の利活用が欠かせないものとなる。
 
遠山社長は、「防犯と防災」というコンセプトよりも「通信と防災」の方がより分かり易いし、具体的であると捉えている。沖電気防災(株)子会社によって生まれたチャンスを活かし、防災というコンセプトの裾野の広さを、沖電気工業とのコラボレーションを通じて具現化することを目指し、沖電気工業との協議を進めている。
 
③(株)初田製作所との協業の進捗
重要なアライアンス先である(株)初田製作所との協業も着実に進展している。
現在、消火器の販売では両社合わせると国内シェアトップと推定されるが、それに加え、新たな協業として、簡易型消火設備などを共同開発するプロジェクトを推進中で、(株)初田製作所が開発要員を1名同社に派遣している。
(簡易型消火設備は、認知症高齢者グループホーム、診療所など、スプリンクラーの設置が義務付けられている建築物向けニーズが高まっており、今後は高齢化の進展に伴って一般家庭での導入も進むとも同社では考えている。)
 
現在同社、初田製作所、沖電気防災合わせて約800の販売店を有しているが、優れた共同開発製品が実現すれば各社は、各々の販売店に供給し、顧客満足度を高めることができる。
加えて、初田製作所の販売店に同社製品を供給するのはもちろんだが、沖電気防災製品を供給する事も可能だ。
 
「すべてを自社単独で開発・供給するというのは困難な時代・環境であり、信頼できる先とのアライアンスによって、より良い製品をより広範な顧客に提供する事が重要」というのが遠山社長の考えである。
その意味で初田製作所とのアライアンスは防災業界の「核」になりつつあり、今後の更なる拡大に向けて、積極的にコラボレーションを推進していく。
 
④海外メーカーとの提携
海外の防災機器メーカーとも相次いで関係を構築。国内にはない優れた製品を顧客のために取り込んでいくことは総合防災メーカーとしての義務であると認識している。これも、従来の防災業界では見られなかった発想、展開だ。
 
『VESDA超高感度煙感知器』
高感度煙感知器として世界的に高く評価されているVESDA超高感度煙感知器の販売契約をXtralis社と締結した。
データセンター、美術館などの大型案件での導入を進めていく。
 
『FireDos水動力混合装置』
FireDos社の泡混合装置。世界中のプラントで広く導入されている。消火にあたっては水ではなく、泡が適しているケースも多く、消防車両への搭載、国内プラントでの代替などをターゲットとしている。同業他社製品に対する優位性、競争力が高く、コンパクトな点なども評価され、顧客満足度は高いという事だ。
 
また、以前の株主であった米国・TYCOグループとの販売店契約締結を進め、品揃えの強化を進めていく。同業他社がこれらの製品を国内で扱う可能性は極めて低く、事実上の独占販売の状況となっており、幅広い品揃えは同社の差別化要因となっている。
 
⑤成長投資のための資金調達を実施
公募増資と自己株式処分により約15億円の資金調達を実施することを2013年11月29日に発表した。
この資金調達額のうち、約9億円を設備投資に、約6億円を沖電気防災への投融資(主として設備老朽化への対応)に充てる計画。
 
設備投資のうち、今回最も力を入れるのが実験棟の改築や実験デモ施設の新設だ。
社員の教育も含め消火設備の試験を自ら実施することはもちろんだが、同社が取り扱う消火設備による消火の実演や実験の状況を顧客や販売店に実際に見てもらうことが、製品に対する理解促進には一番効率的であると考えた。
前述の海外製品や消防自動車のデモ車輛なども展示する計画。
 
また、同社ではTYCOから導入した消火用ガス「IG-541」の拡販を進めているが、この「IG-541」を始めとした、水以外の消火剤としての消火ガスの実験を行うための実験棟も改築する。
 
「IG-541」は窒素・アルゴン・二酸化炭素を混合した消火剤で、「人体に安全な新しい消火ガス」として、米国で開発された。
単に酸素濃度を下げる窒息消火剤では人体への危険性が懸念されるが、「IG-541」には二酸化炭素が適量添加されているため、消火剤放出時に、人体への影響がほとんどない。
適量の二酸化炭素には肺換気促進作用や脳血管拡張作用があることがわかっているが、「IG-541」はこの作用を応用し、室内の酸素濃度を約12%~13%に下げて、消火を行いつつ、二酸化炭素濃度は3~4%に引き上げて呼吸機能を刺激して、呼吸量と血流を増やし、脳への酸素供給量を確保し、火災現場での正常な退避行動を可能にする。
この安全性が欧米で高く評価され、日本でも多数の納入実績を誇っている。
データセンター、コンピュータルーム、博物館・美術館、電力変電施設等、水による消火が適切ではない各種施設でのニーズが高い。
「IG-541」を取り扱っているのは日本国内では同社のみであり、これも重要な差別化製品として拡販に注力する。
 
 
今後の注目点
防災業界における同社の大きな特徴である「アライアンス戦略」が着実な進展を見せている。
沖電気防災との一体化は、オフィス移転というインフラ構築も完了し、実質的な一体営業が今下期から来期にかけてドライブがかかると見られるし、「信頼できる先」と高く評価する初田製作所とのアライアンスも順調のようだ。さらに、具体的な結果となって現れるのはもう少し先になるかもしれないが、遠山社長自らが先頭に立って進めている沖電気工業との協業も中期的な大きな注目点となる。

こうした事業の進捗と共に今回のインタビューで最も印象に残ったのは、「会社の歴史の中で今自分が何をなすべきかを社員に自覚して欲しい。」という遠山社長の言葉だ。

沿革で示したように、同社は約58年前の創業以来さまざまな株主の変遷の中2011年に新たな会社として再上場し、今回東証1部に銘柄指定された。また、子会社となった沖電気防災も同じく60年前の創業で、同社同様に幾度かの株主の変化を経て、昨年NDCグループの一員となった。
ただ本文中にも記したように、遠山社長は今回の子会社化は、どちらが、どちらを買収したという話が重要なのではなく、日本に今までなかった真の総合防災エンジニアリングカンパニーを目指すためのベストな2社が縁あって一つになり、チャレンジのための権利を獲得できたということが最も重要だと考えている。
その上で、社員には、そうした会社の歴史をしっかりと把握し、自分が成すべきことは何かを自問、自覚して業務に取り組んで欲しいとメッセージを送っている。BSやP/Lには直には現れない、しかし企業の将来に最も大きな影響を与える社員の意識や行動の変化といったものも、今後このレポートで報告できればと考えている。