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(6826) 本多通信工業株式会社

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ブリッジレポート:(6826)本多通信工業 vol.1

(6826:東証2部) 本多通信工業 企業HP
佐谷 紳一郎 社長
佐谷 紳一郎 社長

【ブリッジレポート vol.1】2014年3月期業績レポート
取材概要「同社は2014年2月、創業以来約80年間にわたり本社としていた目黒から品川に本社を移転した。移転に当たっては、定款変更のために『臨時株主総会』を・・・」続きは本文をご覧ください。
2014年6月17日掲載
企業基本情報
企業名
本多通信工業株式会社
社長
佐谷 紳一郎
所在地
東京都品川区北品川5-9-11 大崎MTビル
決算期
3月末日
業種
電気機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2014年3月 14,824 932 975 1,479
株式情報(6/6現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
507円 12,054,285株 6,111百万円 23.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
12.00円 2.4% 62.22円 8.1倍 572.83円 0.9倍
※株価は6/6終値。発行済株式数は直近期決算短信より(発行済株式数から自己株式を控除)。ROE、BPSは前期末実績。
 
東証2部上場の本多通信工業株式会社について、ご紹介します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
通信インフラ、FA機器、民生機器、車載用途向けの電気コネクタおよび光コネクタの製造販売を行う。「Segments No.1」を掲げ、特定分野での高い競争力を追求している。長い歴史の中で培われた幅広い設計技術力、顧客からの長期信頼性と堅牢性、多品種少量生産体制などが特長。子会社ではソフトウエア開発なども手掛けている。グループ認知度の向上に向けて、複数存在していたブランドを「HTK」に統一。グループは同社と連結子会社7社(国内2社、海外5社)の計8社で構成されている。
 
 
1932年5月に精密ねじ加工業として現在の東京都目黒区で創業。第二次大戦後は、日本電信電話公社(現NTT)の電話交換機用プラグ・ジャック、防衛庁向けプラグ・ジャックを始め、その発展形となるコネクタの製造販売を手掛け、業容を拡大。2001年に東証2部に上場した。だが、ITバブル崩壊で売上が急減。数度のリストラクチャリングを経て、成長路線への復帰と拡大発展をめざし、2008年に松下電工株式会社(現パナソニック株式会社)と資本業務提携契約を締結。2014年2月、約80年に亘って本社を置いていた目黒から品川区へ本社を移転した。
 
【経営理念など】
特定分野で特徴あるソリューションを提供することで顧客に「この分野なら本多通信グループに限る」と高く評価される事をめざし、「Segments No.1」を掲げている。
 
【佐谷 紳一郎社長プロフィール】
佐谷紳一郎社長は1957年11月生まれの現在56才。松下電工株式会社(現パナソニック株式会社)では事業戦略企画部門に在籍し、M&Aや他社とのアライアンス締結等に長年に亘り携わってきた。そうした中、コネクタ事業のアライアンス先として幅広い技術力・製品ラインアップを有する企業を調査している中、本多通信工業の実力に着目し、アライアンスを推進、2008年資本業務提携を実現させた。同年、取締役就任。2009年にはパナソニック電工を退社し、同社副社長に就任。2010年4月に同社社長に就任した。社長就任後は中期経営計画「Plan 80」を策定・実行。基本戦略として「Segments No.1」を設定し、複数のニッチ分野でNo.1となることを目指すと共に、様々な構造改革を断行し、黒字体質の確立、財務基盤の安定化を実現した。現在は次の中期経営計画「DD15」を推進中で、成長分野への投資による更なる事業拡大と企業体質の一層の強化に取り組んでいる。
 
【事業内容】
事業セグメントはコネクタ事業と情報システム事業の2つ。
 
◎コネクタ事業
「2014年3月期 売上高 12,826百万円、営業利益 845百万円、営業利益率 6.6%、売上構成比 86%」
 
<コネクタとは?>
電子回路や光通信において配線基板同士を接続し、電気や信号を繋ぐために用いられる部品・器具のこと。基板をはんだ付けや圧着で接続した場合、分断時にはケーブル切断等が必要になり再接続は困難となるが、コネクタを使用した場合、手または簡易的な工具を用いて容易に繰り返し脱着することが可能であるため、ほぼ全ての電子機器で使用される。
 
<利用分野>
長年の経験で培われた高い技術力により、以下の6分野を中心に付加価値の高く、顧客志向のコネクタを始めとした製品をラインアップしている。
 
 
 
2014年3月期の分野別売上構成比率(全売上高に対する構成比)は、FA分野 20%、通信分野30%、民生分野 14%、車載分野22%となっている。
なかでも、安全性向上や運転性アップの観点から車載カメラやセンサの搭載台数が増加しているカーエレクトロニクス分野の成長に対応して投資や製品開発を進めている。
 
◎情報システム事業
「2014年3月期 売上高 2,058百万円、営業利益 87百万円、営業利益率 4.3%、売上構成比 14%」
 
通信分野でのソフトウエアの重要性が高まる中、1983年に事業をスタート。
システム開発から保守運用まで幅広いソリューションを展開している。なかでも仮想化(*)サーバの構築では業界屈指の技術を有し、クラウドコンピューティングの広がりに貢献している。
 
*仮想化とは?:1台のサーバ(物理サーバ)を複数台の仮想的なサーバ(仮想化サーバ)に分割して利用する仕組み。それぞれの仮想化サーバではOSやアプリケーションを実行させることができ、あたかも独立したコンピュータのように使用することが可能となる。
サーバ台数の適正化や消費電力を含めた運用管理コストの低減など、企業のITコスト見直しニーズに対応し、注目が集まっている。
また、仮想化環境下ではハードウェア等を新たに購入しなくても新サーバを容易に追加することができるため、ビジネスの変化に迅速かつ柔軟に対応するというITシステムニーズに対する有効なソリューションの一つとなっている。
 
 
特徴と強み
 
① 幅広い設計技術力
前述のように、同社のコネクタは、様々な分野で用いられている。
同社は、日本電信電話公社(現NTT)を始めとした多くの顧客からの様々なニーズに対応したカスタマイズによる製品作りに長年取り組んできた。この「顧客密着度の高さ」が、同社の幅広い設計技術力の源泉である。
 
② 長期信頼性と堅牢性を武器にFA分野、通信インフラ分野に強み
売上構成で見ると、FA分野、通信分野の2つでコネクタ事業の約5割を占めている。
特に制御装置に用いられる「1.27mmピッチコネクタ」、FTTH(Fiber To The Home:光通信のための光ファイバーを家屋内に引き込むこと)に用いられる「シャッター付きSC形プラグ」、プロジェクタに用いられる「高耐圧電源用コネクタ」などで強みを持っている。
これらは、顧客から長期信頼性や堅牢性が求められる分野であり、長年に亘って培ってきた同社の技術力や製造能力が顧客に高く評価されている証となっている。
 
③ 多品種少量生産
同社は現在約4,000品目のコネクタを生産しているが、このうちの月間生産個数が1万個未満の品目数は94%を占める。また生産金額ベースでも1万個未満の生産が62%、1万個以上が38%と、多品種少量生産が同社の特長となっている。
こうした状況に対応し、国内工場、海外工場の2つの車輪で最適なものづくりを行っている。

国内工場(松本工場)は1万個未満の多品種少量生産の拠点。今後も同社の得意技を磨き、迅速な納入を行うため国内で稼動を続ける。
海外工場(深圳工場)は1万個以上の中量品の一気通貫生産を行い、機動力を高め世界で戦うための拠点とする。
 
 
2014年3月期決算概要
 
 
小幅増収ながらも大幅な増益を達成
売上高は前期比7.1%増の148億円、コネクタ事業のうち、車載分野が伸長した。情報システム事業も好調だった。
増収効果、粗利率上昇、合理化の進展及び円安効果もあり、営業利益、経常利益は約4割の増益となった。
本社移転及び売却に伴う固定資産売却損益732百万円(固定資産売却益 764百万円、固定資産除却損 31百万円)を計上したため当期純利益は前期比約3倍増となったが、これを控除したベースでも前期比で45%増加した。
海外販売も好調で全売上高に占める海外販売比率は前期の36%から38%に上昇した。

2月10日に合理化効果および円安効果で営業利益の大幅増を見込むと共に、本社売却に伴う損益を勘案して、通期業績を上方修正し、これに伴い配当予想も従来の8円/株から12円/株に修正した。
 
 
◎コネクタ事業
車載分野が前期比1.5倍増と伸長し、FA分野と同規模まで拡大している。
営業利益率は2ポイント上昇した。
 
◎情報システム事業
仮想化ソリューションが好調で売上は2ケタの増収で、初めて20億円に達した。
ただ子会社HTKエンジニアリングの創業30周年に関するイベント費用や社名変更など一時的に費用が増加したため、利益は減少した。実質ベースでは5%台の営業利益を確保しており、今期以降も期待しているという。
 
 
本社売却と利益増により流動資産は現預金を中心に前期比24億円増加した。固定資産は同2億円の減少で総資産は同22億円増加した。負債は、設備関係支払手形の増加などで同8億円増加した。
純資産は、利益剰余金の増加などで13億円増加した。自己資本比率は前期より0.6%低下の63.1%となった。
 
◎キャッシュ・フロー
 
営業CFのプラス幅が前期に比べ大幅に拡大。投資CFがプラスとなった事も加え、フリーCFはプラスに転じた。
 
◎CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)
2014年3月期のCCCは在庫削減などで前期の87.3日から80.9日へと6.4日短縮させることが出来た。70日台を目指している。
 
 
◎ROA(総資産経常利益率)
前期の8.0%から9.9%に上昇した。中期経営計画では2ケタを目標として掲げている。
 
 
2015年3月期業績予想
 
 
 
戦略投資によるコスト増を車載分野中心とした増収で吸収し、前期並み利益確保へ
売上高は前期比4.6%増の155億円を見込む。前期に大きく伸長した車載分野を今期も着実に伸ばす。情報システム事業も前期に続きしっかりと増収を達成する。
成長のための戦略投資を行うため、利益は前年並みの計画。当期純利益は大幅減益となるが、前期あった本社移転に係る売却損益を除いたベースでは、同1.4%の増益。
配当は前期と同じく12円/株を予定。予想配当性向は19.3%。
 
(2)持続的成長に向けた戦略投資
現在中期経営計画「DD15」を推進中の同社だが、目標達成のため以下の各分野に今期も前期に続いて積極的な投資を行う。
 
 
(各分野および目標については、「中期経営計画「DD15」」をご参照ください。)
 
 
中期経営計画「DD15」
 
同社は2014年3月期から2016年3月期までの3年間の中期経営計画「DD15」を掲げている。
 
(1)基本コンセプト
DD15は「Double-Digits by 2015」の略で、2015年度に向け3つの2桁(double digits)で成長性・収益性・効率性をワンランクアップさせ、特長と魅力ある「Segments No.1プロバイダ」となることを目指している。
また、DD15には「どんどん 行こう!」という意味も含めている。
早い・軽い・上手いが特長の、業界No.1のフットワークを武器に、以下の数値目標の達成に挑戦する。
 
 
 
① 基幹分野での2桁利益率
一般的に少品種大量生産は生産性・効率性が高く、多品種少量生産となるほど生産性や効率性が低くなるというトレードオフが働いてしまうが、同社は、FA分野、通信分野といった基幹事業分野においてこのトレードオフ関係の解消を目指しており、営業利益率を現在の8%台から10%超へと引き上げることを目指している。
 
 
このためには、短納期、在庫の極小化、スピード開発、生産自動化、ROI向上などを実現しなければならないが、具体的な施策としては、以下の様な、「コンビニ3兄弟」という取り組みを進めている。
 
 
このコンビニ3兄弟を核に、以下の様な施策を推進し「製造力の強化」を図る。
 
「1week デリバリー」
多品種少量生産ながらも短納期を実現させ、顧客満足度を向上させるべく2013年から積極的に取組んでいるのが、「1weekデリバリーサービス」だ。
これは、顧客から発注を受けたら1週間以内での製品配送を確約するもの。

同社は多品種少量生産を特徴としてきたが、一方で多品種少量生産は一般的には納期が遅くなりがちで、同社もそれは仕方のない事という認識があった。
佐谷社長は、こうした多品種少量生産のデメリットを克服し、進化したものづくり実現のためにこの「1week デリバリー」というアイデアを導入した。

コンビニ3兄弟の取り組みの結果、同社製品約4,000品目のうち「1week デリバリー」の対象品目数は、2013年10月の150品目から、2014年4月には500品目へ大幅に拡充され、今後も対象品目を拡大していく。

サービスの拡充と品目数の拡充により「1week デリバリー」を同社の看板サービスとすることを目指している。
 
「ECサイト:HTK AZショップ」
4月1日より会員制ネット販売サイト「HTK AZショップ」をオープンし、顧客の拡大を進めている。同サイトは、直接的な売上の拡大を目的とするというよりは、現在は取引のない潜在顧客からの試作品の注文などを同サイト経由で受け付ける事で、顧客の窓口を拡大することを狙いとしている。

この他、4月14日には24時間フルタイムの組み立て工場が稼働を開始した。

同社の特長である多品種少量生産を鍛え、国内においては「ものづくりの強化」を、海外においては「地産地消化」を進める。
 
② 新・旬分野での2桁成長
新たな事業分野や旬の市場分野を年率10%超のスピードで拡大させ、2016年3月期には現在の倍 60億円の売上、売上構成比30%を目指す。
 
<新事業分野での取り組み>
*コネクタ事業
大きな成長が見込まれるカーエレクトロニクス市場で、同社の特長を生かした製品開発、販売を進める。

自動車メーカーは各社とも、「環境、安全、快適」を高めるためにカーエレクトロニクスの進化に取り組んでいる。
中でも、自動走行を含めた走行制御、ドライバーの負荷を減らす運転アシスト、危険警告の進化などの機能強化に伴い、車体周辺の状況を常に監視・感知するアラウンドビューカメラ、バックカメラ、路面センサ、衝突探知センサなど、搭載するカメラやセンサの台数が増加している。
また、自動車メーカーは、快適な運転をサポートするためのナビゲーションやエンタテインメント機能の充実にも力を入れており、カーナビ、リアモニター、スピーカー、スマートデバイスとの接続など、車内・車外の通信機能の進化が著しい。

こうした状況下、同社では「車載カメラ用コネクタ」や「車載高速伝送コネクタ」などにフォーカスし販売を拡大する。
車載カメラ用コネクタに関しては、前期、電機メーカー3社目への納入が決まり、売上は前期比5割増となったが、今後も4社目、5社目の納入先を開拓し、水平展開を進める。
また両コネクタとも、同時並行で、収益性向上のための合理化および次世代製品に向けた投資・開発を行っていく。

車載関連分野は高い安全性や信頼性が求められる分野である。同社は特長・強みであげたように、長年にわたる製品開発で培ってきた長期信頼性・堅牢性に関するノウハウを活用し、上記2つのコネクタにとどまらず、カーエレクトロニクスの新しい部位へも進出していく考えだ。
 
 
車載分野以外では、GI-POF(高速大容量プラスチック光ファイバー)の開発にも着手している。これは、伝送速度、伝送容量共に従来の光ファイバーを大きく上回るもの。FA用や現在のフルハイビジョンモニターの4倍の高解像度を有する4K映像用など、産学連携で新たな市場を創出しようと考えている。
実用化に向け先行したポジションにあり、今後は使い易さの向上に注力していく。
 
*情報システム事業
同社の強みの一つである機器制御技術を活かして、スマートメーター等の通信・制御機能を活用して停電防止や送電調整のほか多様な電力契約の実現や人件費削減等を可能にした電力網「スマートグリッド」、家電や設備機器を情報化配線等で接続し最適制御を行うことで、生活者のニーズに応じた様々なサービスを提供する「スマートハウス」といった、コンピュータネットワークに繋がれた機械同士が人間を介在せずに相互に情報交換し、自動的に最適な制御が行われるシステムである「M2M:Machine to Machine System」におけるビジネス拡大を目指す。初期の設計段階である上流工程からいかにして参画するかが課題と認識している。
 
<旬市場分野>
*コネクタ事業
コアとする技術、製品、ソリューションを以下の旬市場で応用展開。業種別営業体制による顧客開拓に取り組む。
 
◎医療
多品種少量対応、高信頼性という強みを武器に活躍できる分野と考えており、カスタム対応で市場に参入する。
 
◎セキュリティ
監視カメラ世界No.1メーカーに採用されている実績を武器に、グローバルマーケットでの水平展開を目指す。
 
◎環境エネルギー
通信技術資産をフルに活用し、スマートグリッドや蓄電池、パワーコンディショナー(*)などでの応用展開を図る。
 
*パワーコンディショナー(パワコン):太陽光発電システムや家庭用燃料電池を利用する上で、発電された電気を家庭などの環境で使用できるように変換する機器であり、インバータの一種。ソーラーパネルなどから流れる電気は通常「直流」であり、これを日本の一般家庭で用いられている「交流」に変換することで、通常利用可能な電気にすることができる。
 
旬市場での期待製品の一つが、SDメモリカードソケットの最新規格「UHS-Ⅱ」。
同社には、従来規格の「UHS-Ⅰ」がある。これはソケットの両面を金属シェルで構成し、堅牢性と耐ノイズ性で業務用・産業用途に浸透し高い信頼性を得ている製品で、「UHS-Ⅱ」は、この特徴を継承した上で更に進化させたもの。
今後搭載が始まるプロ用ハイエンド機種への採用を狙う。
既に国内外で高評価を得ており、レンズ交換式カメラ・PCから引き合いが入っている。

このほか、「Segments No.1」製品を中国や新興国市場で拡販し、海外売上高比率を現在の35%から40%まで引き上げる。
 
*情報システム事業
得意とする仮想化技術を更に深めてクラウドコンピューティングのインテグレーターを目指す。
 
③ 経営効率を高め、2桁のROA(総資産利益率)実現
同社は前中期経営計画「Plan 80」において過剰資産の売却、在庫削減、有利子負債の返済でバランス・シートをスリム化し、総資産回転率を引き上げるとともにROAを8%まで引き上げてきたが、総資産回転率1.5回を堅持しつつ、高回転ビジネスモデルを確立し、ROA10%を目指す。
 
(3)成長戦略のためのインフラ投資
今回の数値目標を達成するためには風土改革も必須と佐谷社長は考え、様々な基盤強化への投資も行っている。
 
◎本社移転と最新設備への投資
2014年2月24日、創業以来約80年間本社を置いていた東京・目黒から品川のオフィスビルへ移転した。
旧本社は、面積は広いが部門間が分断される構造であり、社員間のコミュニケーションが取りづらい状況だった。

新本社は、「Close Communication」というコンセプトに基づいて設計された。
顧客に対しては、什器備品を一新し、新しい「HTK」で迎えるほか、3Dプリンター備えた試験室を設置し、顧客に対する提案のスピードアップを図っている。
従業員に関しては、営業と設計と本社部門が1フロアに集結。広々とした様々なエリアで部署・部門を超えてのコミュニケーションを加速させ、生産性の向上を目指している。
また、ITの活用により業務、テレビ会議、打合せなどがいつでもどこでも可能になったほか、整理整頓から服装までの5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を佐谷社長自らの徹底で進めている。例えば、社員は毎日終業し帰宅する際は、机の上に何も置いてはならず、全て自分のロッカーにしまわなければならない。また、移転に当たり多くの書類や資料をデジタル化し、不要な紙の資料を廃棄した。

こうして、本社移転を契機とした「風土改革」により、『早い・軽い・上手い』という業界No.1のフットワークを実現させ、生産性を一気に高めることを狙っている。
実際に社員の声として、「企業風土や仕事の仕方を大きく“CHANGE”するきっかけになる本社移転であった。企業に変革を促す有効な手法の一つだと認識した。」との声も上がっている。
 
◎組織と人材の強化
組織力及び人材の強化は今後の経営における大きなポイントと認識しており、人材育成、増員、処遇アップにより事業活動のベースを固めていく。
 
グループ新卒採用は2014年度17名に拡大
中堅リーダーの育成
管理職の指導力強化
執行役員への若手起用
 
新卒社員の採用を拡大し、同社DNAの継承を図ると共に、中堅や管理職ではキャリア採用を拡大する。
これは、同社の「変えなければならない古い部分」を壊すためには外部の風や力が必要との考えからきている。
 
 
佐谷社長に聞く
 
2010年より同社を率い、歴史ある同社の良い部分は発展・拡大させつつ、課題を克服し新しい「本多通信工業」への変革を進める佐谷 紳一郎社長に、お話を伺った。
 
<同社についての評価>
「社長に就任してすぐに行ったことは、まず全社員と面談し、内部から改めて同社を評価すること。ものづくりの中心である松本工場には長期出張で、じっくりとし工場の現場社員の話に耳を傾けた。
すると、『長所』、『短所』が明らかになった。」

「まず長所として感じたのは、松下電工在籍時、当社に入る前から認識していた通り、何と言っても80年の歴史に培われた高い専門性。また、日本電信電話という大企業に評価された製品の長期信頼性や、そうした顧客らの要望に応える中で、磨かれてきた技術力に加え、そうしたことにコツコツと取組むまじめな姿勢も長所だ。」

「一方短所としては、業績が悪くリストラが行われたこともあり、閉塞感が漂っていた。また、顧客が伸びてきたから当社も伸びてきたが、自らの戦略を持って市場を切り拓いていくという姿勢が弱く、良きフォロワーではあってもフロンティアではない点が課題と理解した。ほぼ同時期に、同じく通信用プラグ・ジャックなどの製造を始めたヒロセ電機(6806 東証1部)が、世界的な大企業となった事からも、当社が新しい分野への挑戦という姿勢に欠けていた点は残念ながら明らかであった。顧客の要望にしっかりと応えるという長所が、半面短所にもなってしまい、プロダクトアウトが苦手な企業となっていた。」
 
<長所を伸ばし、短所を克服するために>
「ではどうするのかというと、まず当社の特徴である多品種少量生産を、さらに強みとして磨き上げることに取り組んでいる。
街中にあるコンビニエンスストアは、2,000から3,000というまさに多品種少量の製品を欠品させることなく効率よく販売している。
これと同様の仕組みを作り上げ、多品種少量生産の言い訳となりがちだった納期の遅さを是正することで、顧客満足度を向上させる。そのためにコンビニ3兄弟にという取り組みによって多品種少量を鍛え、製造力を強化する。」

「一方、本社移転に伴う社内の風土改革を進め、生産性を向上させると共に、成長のための投資を行い、カーエレクトロニクスを始めとした新市場を自ら開拓していく。
新本社では、営業スタッフと技術スタッフがすぐ近くにいるので、円滑なコミュニケーションが図られるようになってきた。また、営業面でも個人のノウハウに依存してきた部分が多く、組織としての共通化、共有化を進めなければならないが、その点でも本社移転は大きなきっかけとなっている。」
 
<今後の取組み>
「最初の中期経営計画「Plan 80」を進める事で、黒字体質が定着し、財務基盤も強固となったため、安定性は格段に向上した。
ただ、同時に、単にコストを削減して黒字路線に回帰しただけではないという事を経営者として証明したいと強く考えており、そのためにはトップラインを伸ばすことが不可欠である。そこで、「DD15」にあるように、明日及び将来に開花するような投資も行っていく。また、誇るべきDNAを継承しつつも、古くて短所となっている遺物・遺産を壊すためにも、外部の優秀な人材を積極的に採用していく。」
 
<社員へのメッセージ>
「社長就任以来、ほぼ2日に1回のペースで社内専用ブログ「独り言」にコメントを書き続けている。
収支報告もあれば、昨日のプロ野球の結果についてなど、硬軟交えてテーマを限定することなく日々感じたこと等を書いている。」

「社長と社員の距離を近づけるという狙いもあるが、それ以上に重要と考えているのが、社員に「気づき力」を高めてもらいたいという事。
私は以前から「感性の豊かさが仕事力のアップにつながる」と考えている。「こんな出来事に社長はこんなことを感じているんだ。」ということを知って貰えば、「自分だったらどう感じたか?」など自らの気づき力に目を向けるきっかけになると思う。気づき力の高い社員が多くなればなるほど当社の実力もアップするし、本人も仕事の幅が広がるだろう。」
 
<IR活動について>
「ファンの株主を増やしたいと強く考えている。本多通信工業という会社の立ち居振る舞い、もっと言えば、社長である私の立ち居振る舞いや考え方に共感し、応援してくれる株主を一人でも多く増やしたい。」

「そのためにはもっともっと当社に近づいて貰い、当社の事を知って貰わなければならないので、IR活動も社会貢献も積極的に行う。
当社は株主総会もユニーク。もちろん法律で決められた事項や手続きはその通り進めるが、堅苦しくなく、普通の言葉で説明し質問に答える。質問は出尽くすまで全て受け付ける。
当社の株主構成はパナソニックを除けば7割が個人株主。この個人株主の支持を固めることで、自由度の高い、将来に向けた経営が出来ると考えている。」

「地味な会社ではあるが、投資家、株主の皆さんには、当社の強みや特長、将来に向けた戦略を理解し、是非中長期の視点で応援していただきたい。」
 
 
 
今後の注目点
本文中にあるように、同社は2014年2月、創業以来約80年間にわたり本社としていた目黒から品川に本社を移転した。
移転に当たっては、定款変更のために『臨時株主総会』を開催し、その際、OBも含めての懇談会を同時に開催し、社外の方に、80年以上に亘り目黒で事業を行うことが出来たことへの感謝の念を伝えたそうだ。(通常、本店登記変更の場合、臨時株主総会をわざわざ開催するケースは稀ということだが、同社の場合、長い年月を過ごした目黒の地に別れを告げる節目として敢えて開催したということだ。)
また、従業員対象のFarewell Party開催時には、近隣のお世話になった飲食店からパーティー料理等を調達したほか、町内会にはリヤカーを寄付するなど、長年に亘って支えてくれた地元に対する感謝の念を様々な機会で表現した。これに対して地元のある会合では、「本多さんの引越しに当たっての地元への配慮は素晴らしかった」との言葉があったということで、佐谷社長を始めとした同社のステークホルダーを大切にする気持ちがしっかりと伝わったということだろう。インタビューにおいても、企業を強くするための株主を始めとしたファン作りに対する強い想いが感じられた。

こうしたステークホルダーの満足感を向上させるためにも、中期経営計画「DD15」の達成が必要となるわけだが、今期の売上高155億円に対し、2016年3月の最終年度売上目標は180億円であり、増収率は+16%となる。前期実績が+7.1%、今期予想が+4.6%という事なので、決して楽な数字とは言い難いようだ。その意味では、来期に向けて今期どれだけバネを効かせることが出来るか?がポイントとなるだろう。特に注力中の車載分野で、第4、第5の供給先を開拓できるかを注目したい。また旬市場での具体的案件が出てくることも期待して見守りたい。