ブリッジレポート
(2483) 株式会社翻訳センター

スタンダード

ブリッジレポート:(2483)翻訳センター vol.5

(2483:JASDAQ) 翻訳センター 企業HP
東 郁男 社長
東 郁男 社長

【ブリッジレポート vol.5】2015年3月期業績レポート
取材概要「残念ながら第二次中期経営計画の売上・利益目標は達成できなかったが、成長のための基盤は構築できたようだ。後はいかにして「成果を上げるか・・・」続きは本文をご覧ください。
2015年6月16日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社翻訳センター
社長
東 郁男
所在地
大阪市中央区久太郎町4-1-3 大阪御堂筋ビル
決算期
3月末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2015年3月 9,191 504 502 283
2014年3月 8,772 364 359 179
2013年3月 7,267 422 422 220
2012年3月 5,536 440 439 227
2011年3月 4,756 279 270 139
2010年3月 4,239 236 239 105
株式情報(6/2現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
3,480円 1,684,500株 5,862百万円 10.4% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
53.00円 1.5% 189.96円 18.3倍 1,671.18円 2.1倍
※株価は6/2終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期実績。
 
(株)翻訳センターの会社概要、2015年3月期決算概要等について、ブリッジレポートにてご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
翻訳業界の国内最大手で唯一の上場企業。特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務分野において、産業翻訳と呼ばれる技術文書やビジネス文書の翻訳を行う。語学力、専門性、文章力に優れた約6,300名の登録翻訳者・通訳者を有する。高い品質と専門性、対応言語約70言語という幅広さが特徴。M&Aによって、通訳も含めた言語サービスにおける事業領域の拡大を図る。
 
【沿革】
江戸時代から薬の町として有名な大阪・道修町(どしょうまち)で、医薬専門の翻訳サービスを提供するために設立された(株)メディカル翻訳センターが前身。その後、特許などへ翻訳業務の範囲を広げる過程で東京、大阪、名古屋に設立した数社を整理・統合して1997年8月に(株)翻訳センターとなる。2006年株式上場後、海外へも進出。2012年9月に通訳、国際会議企画・運営、人材派遣で実績を持つ(株)アイ・エス・エスを子会社化。
 
 
【社長プロフィール】
東 郁男社長は1961年7月15日生まれ。
1992年8月同社入社後、1997年8月取締役就任。2001年9月に創業者からバトンを引き継ぎ、代表取締役に就任し、2006年の株式上場の指揮を執る。
 
【企業理念・経営方針】
 
<企業理念>
 
<経営ビジョン>
「すべての企業を世界につなぐ言葉のコンシェルジュ」
 
【市場環境】
翻訳ビジネスは大きく分けて、「産業翻訳」、「出版翻訳」、「映像翻訳」があるが、同社の中心的な事業は、企業や官公庁で発生する技術文書、ビジネス文書の翻訳のことを指す「産業翻訳」と言われる分野。
日常生活においては出版翻訳や映像翻訳を目にすることが多いが、年間2,000億円といわれる日本の翻訳市場において、産業翻訳は90%と圧倒的な大半を占めている。
一般社団法人日本翻訳連盟によると、国内には約2,000社の翻訳会社・事業者があるが、売上高61億円(単体、2015年3月期)の同社の以下は、10位で売上高数億円程度と、小規模事業者が大多数の業界となっている。
 
日本企業の活動のグローバル化が進むにつれて、翻訳ニーズは益々拡大するものと予想されている。
高速鉄道、プラント設備・装置技術、水道など日本企業による現地インフラ事業の受注拡大。
震災、洪水などの教訓からリスク分散に伴う生産拠点の多極化。
医療分野が成長戦略の重要な柱の一つと位置付けられており、研究の進展、新薬の開発、日本製医療用機器の輸出拡大
所謂「クールジャパン」戦略に基づいた、コンテンツ、製品・サービスの輸出拡大や、来日誘致策の積極化
海外に目を向けてみると、アメリカの調査会社コモンセンスアドバイザリー社発表による2014年の世界の語学サービス会社の売上高ランキングにおいて、同社は3年連続で世界で12位、アジア地域では1位にランクインされた。
同社レポートによると、世界の翻訳市場は約2兆3,500億円と、日本市場の10倍以上にあたる巨大市場が形成されている。当然競争も激しい事は予想されるが、同社は事業拡大のため、新規領域への取組も開始しており、早期の売上高100億円達成、世界トップ10入りを目指している。
 
 
【事業内容】
特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務など、専門性の高い事業分野における産業翻訳を行っている。
産業翻訳の具体例としては、以下の様なものが挙げられる。
デジタル機器等における複数言語で書かれている取扱説明書
海外生産工場での機械の仕様書や現地従業員向けの作業マニュアル
現地会社で使う規程類などの人事労務資料
ソーシャルゲームを含めた各種ゲームやアニメ、マンガなどのコンテンツ類
日本国あるいは外国へ特許出願する際の特許明細書
日本国あるいは外国で医薬品の承認申請を取得するための資料
決算短信などのディスクロージャー関連資料
 
現在の顧客数はグループで約4,000社。9割が法人顧客。
売上ベースで対応言語の80%が英語で、中国語5%、独・仏が数%と続くが、近年、東南アジア言語の翻訳依頼が増えている。
現在、約70言語に対応している。
 
◎ビジネスモデル
翻訳作業は、同社に登録している6,297名(2015年3月期。(株)アイ・エス・エスを含むグループ連結のべ人数)が行う。質の高い翻訳者をどれだけ確保できるかが事業拡大の上で大きなポイントとなる。
そのために、登録の際トライアルというテストを実施し、語学力のみでなく、技術知識など専門性や文章力、スピードも評価して一定以上の能力を有した翻訳者のみと契約している。合格率は約40%ということだが、一次審査として書類審査も行っていることから、実際の合格率はもっと低く、狭き門となっている。
登録翻訳者の確保が重要な経営課題と認識しているが、実際のところは、翻訳者の数がボトルネックになった事はないということで、安定的に仕事を発注できる同社の事業規模の大きさもあり、登録者数は順調に拡大している。
同社の売上原価のほぼ大半が登録翻訳者への支払報酬で、原則的に「対応言語 1ワードあるいは1文字」当たりの従量制となっている。
業務フローを示したのが以下の図だが、同社が安定的に利益を生み出すためには以下の2点が最も重要であり、そのために様々なシステムを導入している。
 
 
①翻訳者の選定
品質確保のためには、顧客から依頼された原稿の内容に適した翻訳者を言語、専門性、スピード、発注単価などを加味して選定しなければならない。
この選定でミスをすると、納品までの後工程に支障をきたし、収益低下につながる。

同社では基幹業務システム「SOLA」を使用し、常に適切な選定が行う事が出来るような体制を構築している。
「SOLA」は、2003年4月に導入した、案件の受注から納品、回収までを一括管理する同社独自開発の基幹業務システムで、販売管理だけでなく、登録者に関する、専門分野、過去の実績、スケジュール等、詳細なデータが蓄積されている。
コーディネーターと呼ばれる社内の担当者が、このデータベースを用いて適切な翻訳者を選定する。「SOLA」を使うことでコーディネーターの属人的な経験などに頼らずに適切な翻訳者の選定を行う事が出来る。
なお、第三次中期経営計画期間中に「SOLA」のバージョンアップを予定している。
 
②翻訳のスピードアップ及び品質チェック
顧客に納品する前に必要な校正作業は社内の校正スタッフ、ネイティブスタッフなど、専門スタッフが行っている。また、翻訳作業をより確実かつスピーディーに行えるよう、自社開発の「HC TraTool」を始めとした翻訳支援ツールを使用している。
 
 
従来の手作業による翻訳では、大量の原稿の重複箇所の表現統一を手作業で処理しており、業務の精度を高めるためには、多くの人手を投入するなど、効率的ではなかった。
この問題を解決するために同社は、翻訳支援ツール「HC TraTool」を開発し、2010年4月から本格導入した。これは、重複箇所の表現統一を機械的に処理するもので、ツール導入により、翻訳作業に関わる人出を減らし、より速く正確に行うことが可能となった。
 
◎事業セグメント
翻訳事業が売上、利益の大半を占める。
特許分野、医薬分野、工業・ローカライゼーション分野、金融・法務分野からなる。

①特許分野
主に、特許事務所および各種メーカーの知的財産関連部署を顧客とした、電気、電子、機械、自動車、半導体、情報通信、化学、医薬、バイオ分野における、外国出願ならびに日本出願等に伴う特許出願明細書、特許公報等の翻訳を行っている。

②医薬分野
主に、製薬会社を顧客とした、新薬等医薬品開発段階での試験実施計画書、試験報告書、医薬品の市販後の副作用症例報告、学術論文、および、医薬品・医療機器類の導入や導出に伴う厚生労働省、米国FDA(食品医薬品局)等への申請関連資料等の翻訳、医療機器メーカーを顧客としたマニュアルの翻訳や化学品、農薬関連の翻訳も行っている。

③工業・ローカライゼーション分野
主に、自動車、電気機器、機械、半導体、情報通信関連の輸出・輸入メーカーを顧客とした、技術仕様書、規格書、取扱説明書、品質管理関連資料の翻訳、メディアコンテンツ類の翻訳も行っている。

④金融・法務分野
主に、銀行・証券会社・保険会社等金融機関を顧客とした、市場分析レポート、企業業績・財務分析関連資料、運用報告関連資料、人事関連資料、マーケティング関連資料、報告書等の翻訳、また、各種メーカー等を顧客とした、株主総会招集通知やアニュアルレポート、有価証券報告書等のディスクロージャー関連資料の翻訳、会社案内・法律関連文書、人事規程等の翻訳も行っている。
 
派遣事業は、顧客企業内において機密保持上、社外に持ち出せない文書類などの翻訳業務を行う翻訳者派遣、ならびに、会議、商談、工場見学等の通訳業務を行う通訳者の派遣事業と、外資系企業をメインターゲットとした人材紹介事業の2つから構成される。人材派遣事業は(株)アイ・エス・エス・コンサルティングが行っているが、2016年3月に(株)アイ・エス・エス・コンサルティングの全株式を売却している。
 
(株)アイ・エス・エスにおいて、大規模国際会議や企業内会議、商談、工場見学などの際の通訳を請負っている。
 
(株)アイ・エス・エス・インスティテュートにおいて通訳者・翻訳者養成のための語学教育を提供している。
 
(株)アイ・エス・エスにおいて、国際会議・国内会議(学会・研究会)やセミナー・シンポジウム、各種展示会の企画・運営を行っている。
 
子会社(株)外国出願支援サービスが行っている外国出願用の特許明細書の作成業務など。
 
【特徴と強み】
翻訳業界最大手で唯一の上場企業である同社は、以下の様な強みや特徴を有している。
 
◎専門性
特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務の4分野において高い専門性を有している。
言語としての専門性はもちろんだが、外国特許出願に際しての出願書類の作成やメディカルライティング(新薬申請資料の作成)も手掛けるのに加えて、本業である翻訳も行う等、その業界に関する高い専門性と翻訳に付随した付加価値サービスを展開している。
近年様々な機械翻訳サービスがWEBを通じて提供されるようになっては来ているが、現在のところ、同社が手掛けるレベルの産業翻訳で使用に耐えられるものではなく、今後も顧客が要求する専門性と言う観点からすれば普及、浸透には相当な時間と開発コストが必要になるのではないかと思われる。
 
◎総合力
2006年4月の株式上場時は翻訳事業のみの事業形態であったが、2012年9月に通訳業界で大きな実績をもつ(株)アイ・エス・エスを買収し、事業を拡大した。「すべての企業を世界につなぐ言葉のコンシェルジェ」という経営ビジョンのもと、コア事業である翻訳だけにとどまらず、通訳、人材派遣、国際会議企画・運営人材紹介、通訳者・翻訳者育成事業など、言葉の総合サプライヤーとして体制を構築している。また、対応言語数が70言語という幅広さ、前述の外国特許出願時におけるワンストップ・サービスなど、守備範囲の広さが大きな競争優位性に繋がっている。
 
 
総資産回転率、レバレッジに大きな変化は無かったが、売上高当期純利益率の上昇によりROEは10%に乗せた。 今期より目標とする経営指標に「ROE10%以上」を掲げており、資本効率に対する意識を高めている。
 
 
2015年3月期決算概要
 
 
売上高、利益共に過去最高を更新
売上高は前期比4.7%増収の91億円。主力の翻訳事業が医薬分野を中心に好調で、通訳事業も順調だった。
(株)翻訳センター単体の粗利率上昇及び翻訳事業の売上構成比の上昇により粗利率は1.0%上昇した。
人件費が増加したが前期にあった東京本部の移転費用が無くなり、販管費は同4.0%の増加にとどまったため、営業利益は同38.5%と大きく増加した。関係会社(株)アイ・エス・エス・コンサルティング株式の売却益により当期純利益は同58.1%増加した。売上、利益は連結、単体とも過去最高を更新した。計画に対して売上は若干の未達だったが、利益は超過した。
翻訳者の登録数は2015年3月末で6,297名。前期末6,239名から60名ほどの増加と例年に比べ増加数は小さいが、量より質を重視し、稼動状況やクオリティの点でスクリーニングを行い、入れ替えを行った結果であり、今後の事業展開に問題はないということだ。
2015年3月期の売上構成比で約27%を占める特許分野の登録翻訳者の拡充を目指しているが、登録者の同分野構成比率は2015年3月末で14.1%と開きは依然大きい。翻訳者の養成機関である(株)アイ・エス・エス・インスティテュートにおける特許翻訳講座のリニューアル実施や、素養のある人をオンサイトで受入れて研修を行い育成するなど、引き続き人材の拡充に注力している。
 
 
*調整額は、セグメント間取引消去とのれん償却額の合計
*営業利益の構成比は損益計算書計上の営業利益に対するもの。
*2015年3月期より、「その他」に含めていた「コンベンション事業」について、量的な重要性が増したため報告セグメントとして記載する方法に変更している。2014年3月期は、2015年3月期の区分に基づき作成したもの。
 
①翻訳事業
<特許>
既存顧客である大手化学メーカー子会社からの大量案件獲得や世界的な米系コングロマリットの日本法人との取引開始に加え、複数の大手電機メーカーからの受注拡大など、企業の知的財産関連部署での受注は順調に推移したが、主要顧客である特許事務所からの受注が低迷し、売上高は横這いだった。
 
<医薬>
新薬申請資料の翻訳において、プリファードベンダー(※)契約に基づく外資系メガ・ファーマや国内製薬会社からの受注が好調に推移したことに加え、国内製薬会社、国内化学メーカーの医薬品開発部門からの新薬申請と製造工程に関する大型スポット案件獲得もあり順調だった。
プリファードベンダー(※):企業が優秀な人的リソースの確保と費用低減を狙い、優先的に業務を委託する特定の調達先のこと。
 
<工業・ローカライゼーション>
売上の中心となる自動車関連企業において、複数の部品メーカーから大型スポット案件を獲得したことに加え、新規分野として注力しているエネルギー関連企業の継続案件や総合電機メーカーでのローカライズ案件を受注するなど順調だった。
 
<金融・法務>
法律事務所や保険関連企業における受注増加や企業の管理系部署への営業活動の奏功に加え、金融情報サービス企業から大型のスポット案件獲得もあり2桁の増収だった。
 
② 派遣事業
人材派遣事業は、主にITコンサルタント会社、外資食品・飲食関連企業、銀行や保険などの金融関連企業などからの長期派遣案件の受注が堅調に推移したが、人材紹介事業は、候補者の確保に苦戦し売上が低迷したため、事業全体では減収となった。
 
③ 通訳事業
製薬会社、通信関連企業からの受注が引き続き好調に推移したことに加え、官公庁の売上も寄与。株式市場の活況を受けてIR通訳案件も増加し好調だった。
 
④ 語学教育事業
子会社(株)アイ・エス・エス・インスティテュートの通訳者・翻訳者育成のレギュラーコースの受講申込が計画通りに推移し堅調だった。
 
⑤ コンベンション事業
前期に受注した大型スポット案件の反動による減収を予想していたが、「第26回日本心エコー図学会」などの医学会案件や「日本・カタール経済フォーラム」などの国際会議案件を実施したことにより増収となった。
 
⑥ その他
外国への特許出願に伴う明細書の作成や出願手続きを行う(株)外国出願支援サービスが好調に推移した。
 
 
現預金、売上債権の増加等で流動資産は前期末比5億57百万円の増加。固定資産はのれん等の減少で同1億18百万円の減少で資産合計は同4億38百万円増加した。仕入債務の増加等で負債合計は同2億11百万円増加した。純資産は利益剰余金増などで同2億27百万円増加した。この結果自己資本比率は前期末の63.6%から62.5%へ1.1%低下した。
 
 
営業CFは、利益増、売上債権の減少額増加などでプラス幅は拡大。投資CFは、無形固定資産の取得による支出は増加したものの、差入保証金の差入による支出が減少してプラスに転じ、フリーCFもプラスとなった。財務CFは、ほぼ変わらず。キャッシュポジションは上昇した。
 
(4)トピックス
◎多言語コンタクトセンターサービスを提供する新会社を設立
キューアンドエー(株)とともに、訪日および在留外国人を顧客やユーザーとする企業や団体を対象とした電話通訳サービスである多言語コンタクトセンターサービスを提供する新会社「ランゲージワン株式会社」を2015年4月1日に設立した。
 
<新会社設立の背景>
訪日外国人観光客や在留外国人の増加、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催など、多言語コンタクトセンターのニーズは急速に拡大するものと思われる。そうした市場環境を見据え、2014年8月に(株)翻訳センターは、キューアンドエー(株)の子会社で多言語コンタクトセンターを運営するディー・キュービック(株)と戦略的な業務提携契約を締結し、同サービスの拡充と事業体制強化に向けて協議を進めてきた。
その結果、両社の強みを活かし、多言語コンタクトセンターサービスにおける事業をさらに拡大・強化していくためは、新会社を設立することが良策と判断した。
 
<両社の役割>
(株)翻訳センターは、翻訳・通訳事業で構築したネットワークを活用し、観光や医薬分野の顧客開拓を行うと共に、翻訳センターグループの通訳者養成機関である(株)アイ・エス・エス・インスティテュートを通じたオペレーターなどの人材供給を行う。
ディー・キュービック(株)の親会社であるキューアンドエー(株)は、ディー・キュービック(株)で運営している多言語コンタクトセンターサービスにおける事業全部をランゲージワン(株)に移管するとともに、人材・設備などのコンタクトセンターサービス基盤とサービス運用を提供し、センター運営とサービスのさらなる強化を図る。

ディー・キュービック(株)が運営してきた多言語コンタクトセンターサービスは、現在7カ国語(英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、タイ語、ロシア語)に、24時間365日の運営体制で対応しており、官公庁自治体、公共交通機関、消防防災、ホテル、通信キャリアなど幅広い分野で導入されている。
今後、新会社ランゲージワンは、市場のサービスニーズ拡大に対応し、国内最多の対応言語数と最大規模のサービス運用体制を持つ、多言語コンタクトセンターサービスのナンバーワン企業を目指す。
 
 
ランゲージワン(株)の社名には、「世界を一つにつなぐ」、「イチバンのサービスを提供する」、「MLS(Multi Language Service)業界でNo.1を目指す」の3つの意味が込められている。
(株)翻訳センターからは、取締役2名、監査役1名が就任、従業員4名が出向している。
今期の業績に対する影響は軽微とのこと。
 
 
2016年3月期業績予想
 
 
利益率の高い翻訳事業の伸びで、売上高、利益ともに連続して過去最高更新へ
売上高は前期比3.3%増の95億円を計画。翻訳事業、通訳事業が堅調。コンベンション事業も増収を予想。翻訳事業の売上構成比上昇と翻訳事業の中でも利益率の高い医薬分野の構成の上昇による粗利率アップ効果がある一方、利益率の高かった(株)アイ・エス・エス・コンサルティングの売却により、粗利率は1.0%低下する。ただ、同社の販管費が無くなる事などから販管費率は低下し、営業利益は同8.9%増の5億5百万円を見込む。売上、利益ともに連続して過去最高を更新。配当は前期48.00円に対し、設立30年の記念配当5円を含む53.00円/株を予定。予想配当性向は29.7%。
 
 
<翻訳事業>
後述の第三次中期経営計画に基づき、医薬、特許、工業・ローカライゼーション、金融・法務の主要4分野における分野特化戦略を推し進め、専門性を強化し、シェア拡大を図る。

医薬分野では、プリファードベンダー契約の獲得に努め、主要ターゲットであるメガ・ファーマへの深耕を図り、開発関連文書の受注拡大を推進する。
特許分野では、子会社である(株)外国出願支援サービスとの連携を図り、企業の知的財産関連部署の開拓と拡販に加え、前期やや低調だった特許事務所へのサービス強化を進める。
工業・ローカライゼーション分野では、主要顧客である自動車関連企業からの受注拡大に加え、エネルギーや電機、情報通信・ITなど他産業分野へのサービス展開に重点を置き、専門性の確立を図る。
金融・法務分野では、企業の管理関連部署からの受注拡大を軸に、従来からの顧客である国内外の金融機関や法律事務所へのサービスを強化する。
 
<派遣事業>
企業内での多様な需要を満たす通訳者・翻訳者の確保を強化し、製薬企業、情報通信関連企業、金融関連企業での業績拡大を目指す。
 
<通訳事業>
情報通信関連業界や製薬業界に対する通訳サービスの専門性の高度化を図ると同時に、外国人投資家の日本企業に対する投資意欲の高まりを受け、新たにIR通訳業務の拡大を図る。
 
<語学教育事業>
引き続き首都圏における通訳訓練の需要を確実に取り込むとともに、新規講座の開設を通して翻訳者育成の拡充も推進する。
 
<コンベンション事業>
官公庁や財団の会議に積極的に対応するとともに、一般企業のイベントニーズの獲得も目指す。

その他、(株)外国出願支援サービスの特長を生かしたサービスを展開する。
 
 
第三次中期経営計画
 
1.第二次中期経営計画の振り返り
「事業領域の拡大」、「情報・経験の集約と活用」、「お客様の期待を上回るサービス品質」を基本方針とした第二次中期経営計画では、(株)アイ・エス・エスの子会社化や、メディカルライティング専門子会社(株)パナシアの設立など、領域拡大、専門性の向上を推進することが出来たが、売上利益共に未達に終わり、グループ会社間、拠点間における連携が想定通りに進まなかったこと、ローカライゼーション中心に制作体制を増強したため利益率が低下したなど課題も残った。
 
 
「言葉のコンシェルジェ」という同社が目指す姿に変わりは無い。
基本方針においては、「市場に対応する新たな価値を創造する」ことに注力する。
 
3.重点施策
以下3点を重点施策として推進する。
 
(1)顧客満足度向上のための分野特化戦略のさらなる推進
*専門特化の組織体制による高付加価値サービスの提供
従来は東京・大阪・名古屋の営業地域別の組織体制であったが、特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務の4分野について専門特化型組織体制に変更し、顧客ニーズの多様化や高度化に対応。高付加価値サービスを提供して、他社に対する差別化を一層推進する。
 
*分野・ドキュメント別の分化型マーケティング活動の実施
上記4分野について各分野に適した分化型マーケティングを推進し、翻訳市場内でのシェア拡大を図る。
 
 
(2)ビジネスプロセスの最適化による生産性向上
*ICTの活用による業務フローの改善
現在利用している基幹業務システム「SOLA」のバージョンアップを進め、生産性をアップさせる。
また、引き続き翻訳支援ツールの活用も進める。自社開発の「HC TraTool」に加え、様々な翻訳支援ツールをどのように活用するかがポイントとなる。
現在IT系企業の機械翻訳への参入が進んでおり、今後どのように対応していくかも研究を進めている。
 
*人材の能力を最大限活用する多様で柔軟な働き方の推進
専門特化を追求する同社において、専門性の高い人材の確保は最も重要である。また、翻訳・通訳業界は他の業界と比較して活躍する女性が多く、女性がキャリアを積みやすい環境にある。同社でも全社員の約65%が女性で、常時一定程度の社員が時短、産休、育休制度を利用している。フルタイム社員とのバランスを考慮しながら、それぞれの社員がより働きやすく、高いモチベーションを保つことができる職場環境や仕組みを作り上げ、生産性・効率性の向上に繋げる事が重要と考えている。
 
(3)ランゲージサービスにおけるグループシナジーの最大化
*新規事業開発・サービス拡充による新たな市場の開拓
*顧客ニーズに適応する戦略的グループシナジーの創出
第二次中期計画において(株)アイ・エス・エスの子会社化等、成長・拡大のための基盤を構築することができた。
第三次中期経営計画では、サービス内容をより充実したものに作り上げていく。
全てのグループ企業をあげてシナジーを創出し、ワンストップで顧客に付加価値の高いサービスを提供する。
グループ間での顧客の紹介にとどまらず、例えば、翻訳と通訳を同時に提案するなど、戦略的な提案営業を「攻め」の姿勢で展開する。
また、訪日外国人観光客の増加、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催などランゲージサービスの幅が広がる中、新規事業の開発や新たな市場の開拓も目指す。
 
4.業績目標
 
翻訳事業においては、特許分野が緩やかな伸びであるのに対し、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務が牽引役になる。
特に医薬分野は、現在約20社のプリファードベンダー契約企業数を更に拡大させ、メディカルライティングにも注力する。
これまでは目標とする経営指標として、「売上高総利益率50%」と「営業利益率10%」を掲げていたが、これは翻訳事業のみの事業形態だった時のものであり、現在は事業領域も大きく拡大しているため、上記2つに変更した。投資家の期待に応えるためROEも指標に加える事とした。
 
 
今後の注目点
残念ながら第二次中期経営計画の売上・利益目標は達成できなかったが、成長のための基盤は構築できたようだ。
後はいかにして「成果を上げるか?」となるが、社員の意識もそちらに大きく向かっているという。
グループを挙げての戦略的提案など、これまで以上によりアクティブな営業を展開することができるかを各事業の進捗を通じてウォッチしていきたい。