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(6090) ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社

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ブリッジレポート:(6090)ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ vol.7

(6090:東証マザーズ)ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ 企業HP
菅野 隆二 社長
菅野 隆二 社長

【ブリッジレポート vol.7】2016年3月期業績レポート
取材概要「幾つかの大きな変化のあった同社だが、それぞれのイベントはもちろん重要であるが、それ以上に重要なのは、同社が真のバイオベンチャーとして・・・」続きは本文をご覧ください。
2016年6月28日掲載
企業基本情報
企業名
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
社長
菅野 隆二
所在地
山形県鶴岡市覚岸寺字水上246-2
決算期
3月末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2016年3月 780 -70 -71 -71
2015年3月 686 -100 -17 -34
2014年3月 610 -12 5 1
2013年3月 496 -104 -93 -95
株式情報(6/22現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,097円 5,333,800株 5,851百万円 -4.6% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
0.00円 - -52.48円 -倍 285.59円 3.8倍
※株価は6/22終値。発行済株式数は3月31日現在。ROE、BPSは前期末実績。
 
ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社の2016年3月期決算概要等についてご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
研究機関や製薬企業等のメタボローム解析試験受託及びバイオマーカー開発を中心事業として展開する慶應義塾大学発のベンチャー企業。バイオマーカーを探索する基盤技術であるメタボローム解析技術で世界的に高い評価を受けている。メタボローム解析事業により着実に利益を生み出すと同時に、将来性豊かなバイオマーカー事業への投資および研究開発を進めるというビジネスモデルにより、安定した収益基盤の下で成長を目指している。
 
 
2001年慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授は、CE-MS法と呼ばれる生体内の低分子代謝物質(メタボローム)の測定方法を開発した。このメタボローム測定法は、それ以前の測定方法が多くの測定条件を用いるため、代謝物質全体を網羅的かつ効率的に測定することが困難だったのに対し、一斉に、かつ、網羅的に測定できる点で画期的な技術であった。

以前よりメタボローム解析技術は、生物学基礎研究から医薬品開発、疾病バイオマーカー開発等に用いられており、その社会的ニーズの拡大が見込まれていたため、このCE-MS法確立を契機に、事業化を目指して、曽我教授や同大学の冨田勝教授、慶應義塾大学等が中心となり、2003年7月に同社を設立。慶應義塾大学のアントレプレナー支援資金制度により出資を受けた慶應義塾大学発ベンチャー企業の第1号となった。

2008年には、ライフ・サイエンス分野で用いられる化学分析機器や電気・電子計測機器の開発・製造・販売・サポートを行う世界的企業Agilent Technologiesの日本法人で、以前より同社及び慶應義塾大学と取引のあった、アジレント・テクノロジー株式会社の代表取締役副社長の菅野 隆二(かんの りゅうじ)氏が社長に就任。
菅野社長は就任後、同社のコア技術に関する研究開発を進めつつ、より具体的な事業化の道やビジネスモデルの整備・構築に着手すると同時に、認知度向上と研究開発資金の調達による成長スピードの加速を目指して株式上場の準備を開始。2013年12月、創立10年目に東証マザーズに上場した。
 
【企業理念】
同社は自社の存在意義を以下の様に定めている。
「未来の子供たちのために、最先端のメタボローム解析技術を用いた研究開発により、人々の健康で豊かな暮らしに貢献する」

また、以下の5つの「共有の価値観」を掲げている。
 
【同社を見るポイント】
同社の事業内容は、重要なキーワードである「メタボローム解析」「バイオマーカー」の説明と共に、以下に記しているが、多数の専門的な用語も出てくるため、そこから読み始めると同社に対する理解が進みにくい場合があると思われる。
そこで、まず同社を見る際の3つのポイントについて簡単に触れておく。
 
①社会的存在意義の大きさ
バイオマーカーとは、特定の病気に関する現在の状態を測定する際に使われる体内の物質で、糖尿病の「血糖」、肝機能障害の「γ-GPT」、痛風の「尿酸」などが代表的。
同社は現在大きな社会問題となっている「大うつ病性障害」のバイオマーカーを発見し、その数値を簡便に測定する診断薬を開発している。
うつ病の患者数が年々増加傾向にあるのに対し、現在の病状を客観的に測定する方法が普及していないため、正しい治療を行えば治癒するはずの患者が治らなかったり、薬漬けになるなど大きな問題が指摘されている。
同社のバイオマーカーや診断薬が普及すれば、うつ病によるこれらの課題を解決し、社会的損失を減少させることが出来る。
この社会的な存在意義の大きさは同社を見る際に欠かすことはできない。
 
②高い技術力
複雑な人間の体の仕組みを調べ、バイオマーカーを発見するための技術が「メタボローム解析技術」であり、同社はこの技術で世界的に高く評価されている。
現在話題になっている大うつ病性障害のバイオマーカーは、あくまでも一例にすぎず、メタボローム解析技術により今後も、様々な新しいバイオマーカーを発見・開発することが期待される。
 
③安定したビジネスモデル
現時点での主力事業は売上の約8割強を占める「メタボローム解析事業」。研究機関や製薬会社等の研究開発を支援する事業であり、前2016年3月期で売上703百万円(前期比+13.4%)、営業利益300百万円(同+30.1%)と、着実に利益を上げている。
一方、中長期的に大きな成長が期待される「バイオマーカー事業」はまだ規模も小さく、損失の状況だが、メタボローム解析事業で生み出した利益を、バイオマーカー事業の成長のための投資に回すという、バランスのとれたビジネスモデルが既に構築されている点は、収益化に苦労している企業が多いバイオベンチャーの中でも大いに注目される。
 
【うつ病について】
同社の今後の成長ドライバーである「バイオマーカー事業」において、現在の代表的な対象疾病がうつ病である。うつ病および大うつ病性障害について、概要や日本における現状などをまとめてみた。
 
◎うつ病とは
気分障害の一種で、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、様々な理由から脳の機能障害が起きている状態。脳がうまく働いてくれないので、ものの見方が否定的になり、自分がダメな人間だと感じてしまう。そのため普段なら乗り越えられるストレスも、よりつらく感じられるという、悪循環が起きる。
中でも、「大うつ病性障害」は、ストレス源が除去された後もその状態が持続する状態を指し、その点で適応障害や一部の不安障害とは区別され、単純なストレス応答ではなく、脳機能の障害によると考えられている。
(ちなみに、大うつ病性障害とは、英語の「major depressive disorder」の和訳で、majorは「主たるもの」という意味合いであり、重篤なうつという意味ではない。)
 
◎日本におけるうつ病患者数
厚生労働省が3年ごとに全国の医療施設に対して行っている「患者調査」によると、1996年には43万人だったうつ病等の気分障害の総患者数は、2011年には95万人と15年間で2.2倍に増加した。
「患者調査」は、医療機関にかかっている患者数の統計データだが、うつ病患者の医療機関への受診率は低いことがわかっており、実際にはこれより多くの患者がいることが推測されると、と同省は記している。
 
 
また、うつ病患者は、一般的に女性、若年者に多いとされるが、日本では中高年でも頻度が高く、うつ病による社会経済的影響が大きい。
うつ病になる事は本人や家族にとっても不幸なことであるが、その属する会社等組織における生産性の低下や、自殺による社会的影響などを考慮すると、解決すべき大きな社会問題である。
 
◎うつ病の治療
うつ病と診断されれば、一般的には「抗うつ薬」による治療が行われる。
抗うつ薬には、SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)といったものから三環系抗うつ薬などいくつかのグループがあり、他に、症状に合わせて抗不安薬や睡眠導入剤なども使われる。
薬物治療では、主治医による処方された薬の効果と副作用についての説明の下、処方された量と回数を必ず守ることが重要と言われている。しかしうつ病患者には、症状がそれほど重くないと感じる、副作用が心配、などの理由から自分で量や回数を勝手に減らすケースが多く見られ、主治医は十分な効果が得られないと判断して薬の量を増す、もしくは別の薬に変えるなどの対応を取ることとなってしまい、信頼関係が構築できず治癒が遅れたり、過剰な薬の投与という結果に結び付いてしまう事も多い。
このため、うつ病であることまたは治癒されたことを示す客観的な評価基準が不可欠であり、同社が発見・開発中の大うつ病性障害バイオマーカーおよび診断薬は治療を迅速かつ適切に行うために極めて重要なものである。
 
【メタボローム解析とバイオマーカー】
同社の事業内容の概要を理解するには、「メタボローム解析」「バイオマーカー」という2つのキーワードについて一定程度の理解をしておく必要がある。
 
<メタボローム解析とは?>
人間をはじめとする生物は、筋肉や臓器、骨といった多様な機能を持つ器官から成り立つが、こうした器官はアミノ酸や脂質、核酸などの「代謝物質(メタボライト)」を共通の構成因子としており、代謝物質は全ての生命活動において欠かせない役割を担っている。

代謝物質は食事により供給され、運動など日々の活動の中で消費される。その機能に応じて体内や細胞内を移動し、多くの化学反応によって新しい物質へと作り替えられていく。
このような化学反応のことを「代謝(メタボリズム)」と呼ぶ。体温を調節したり、呼吸をしたり、心臓を動かしたり、食べ物を消化・吸収したり、古い細胞を新しい細胞に生まれ変わらせたりするのも、全て代謝の働きによるもの。
この新しい物質への作り変え「物質変換」は代謝経路という一定の規則により成り立っている。

人間の体の仕組みを探るための手法として有名なものが、遺伝子の解析を行う「ゲノミクス」である。
現在、生物の遺伝子情報(DNAの塩基配列)は自動的な解読およびコンピュータによる解析が可能になり、ヒトゲノムに関しては、ほぼ全ての情報の解読が終了したが、遺伝子の役割と病気との関係は解明できていない部分がまだまだ沢山ある。
そこで、人間の身体と病気との関係を解明するには、ゲノム解析による遺伝子に伴う情報のみでなく、代謝物質までを調査する事が必要であると考えられるようになり、全ての代謝物質を対象として解析を行う「メタボロミクス(メタボローム解析)」の研究、利用が盛んになっている。
 
メタボローム解析は主として以下のような分野で活用されている。
 
<バイオマーカーとは?>
人間の身体には、様々な機能を精緻に制御して、内的又は外的な影響を最小限にして、身体の状態を一定に保つ仕組みである「恒常性」が備わっている。
例えば、体温や心拍数が一時的に変化しても元に戻るという事などが「恒常性」の一例である。

しかし、病気に罹ってこの恒常性に異常が生じると、代謝物質等にも影響が及び、健康の時とは異なる状況が生まれる。この代謝物質等をバイオマーカーと呼び、バイオマーカーを測定することにより、特定の疾患に対する現在の状況を客観的に評価することができる。
バイオマーカーとして広く知られているものとしては、膵臓の機能指標となる血糖や肝機能の指標となるγ-GPT、腫瘍マーカーとして前立腺がんのバイオマーカーPSAや膵臓がんのバイオマーカーCA19-9などがある。

バイオマーカーは、病気に罹った状況をモニターすることを目的に古くから研究されてきたが、より高感度で一度に多くの物質を分析できる新しい方法が生み出され、様々な新しいバイオマーカーの研究成果が相次いで発表されている。メタボローム解析技術により、探索が進んでいるバイオマーカーには、以下のようなものがある。
 
 
【事業内容とビジネスモデル】
同社の代表的事業は「メタボローム解析事業」「バイオマーカー事業」の2つ。
基盤技術であるCE-MS法の優秀性を研究機関や製薬会社等に普及させながらメタボローム研究関連市場の拡大を図り、メタボローム解析事業を国内外へ展開し、収益基盤を確保している。

一方、従来は現在の主力事業である「メタボローム解析事業」で得られた利益を、将来の成長事業である「バイオマーカー事業」の研究開発に投資し、ここで得られた知的財産を、医薬品開発や疾病診断分野で実用化することによる、中長期的な成長を目指してきたが、2017年3月期以降は、将来のより大きな飛躍を図るために外部からの各種資金調達によってバイオマーカー事業への投資を加速させることとした。

それぞれの事業の収益構造や顧客は以下の通り。
 
 
①メタボローム解析事業
「2016年3月期 売上高 703百万円、営業利益 300百万円」
製薬会社や食品会社等の民間企業、および大学や公的研究機関などを顧客とし、メタボローム解析試験を受託している。
顧客は、解析する試料を同社へ送付。同社は試料から代謝物質の抽出、CE-MS法によるメタボローム解析等を行った後、試験結果を報告書として顧客に納品する。
メタボローム解析サービスで得られた代謝物質データは、製薬企業や大学、研究所では基礎生物学研究から薬剤効果及び毒性の評価等、食品企業では発酵プロセスの解析や機能性食品の機能評価等に用いられ、顧客の研究開発の進展に貢献している。
 
◎海外市場への展開
メタボローム解析受託サービスをアジアで展開するため、2011年6月に、韓国Young In Frontier Co., Ltd.と韓国内におけるメタボローム解析サービス等の独占的販売権供与契約を締結した。また、専任の担当者を採用し、シンガポール、香港等、韓国以外のアジア地域の開拓にも注力している。アジア地域以外への取り組みとしては、北米市場への展開のため、2012年10月に、医学研究の集積地である米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市に、販売子会社Human Metabolome Technologies America, Inc.を設立し、がん研究向け解析サービスC-SCOPEを主力商品として販売活動を展開している。
 
◎がん研究向け解析サービス「C-SCOPE」
2012年8月、がん研究向け解析サービスである「C-SCOPE」を発表した。
C-SCOPEは、がん細胞内で変化している特定の代謝物質を、より高感度、より精密に測定するというニーズに対応したもの。独自に開発したがん細胞からの効率的な代謝物質抽出法および高感度分析法を技術基盤としている。

がんは1981年以降国内死因の第1位であり近年総死因の約3割を占めている。厚生労働省によると、がん研究費は年々増加の一途をたどり2012年には357億円が費やされ、有効な新規抗がん剤の開発は多くの製薬企業にとっても急務となっている。
がん細胞が正常細胞に比べて数倍から数十倍のブドウ糖を消費する「ワーバーグ効果」と呼ばれる現象は、80年以上も前に提唱されたが、当時は代謝物質の網羅的測定法が無かったことから研究が滞っていた。
メタボローム解析技術の劇的な進歩に伴い、近年がんの代謝を阻害する抗がん剤の開発が行われている。
同社のCE-MS法によるメタボローム解析は、がん生物学的な基礎研究から抗がん剤開発における臨床応用まで、それぞれの段階で活用できる有効な解析手法の一つと考えられている。
 
②バイオマーカー事業
「2016年3月期 売上高 31百万円、営業損失 60百万円」
同社は、疾患の早期診断や治療効果をモニタリングする際に重要な役割を果たすバイオマーカーに関する事業を将来の成長事業と位置づけ、大学や製薬、診断薬企業との共同研究開発を通じて、メタボローム解析技術を用いた新たなバイオマーカー探索や臨床検査薬の研究開発を進めている。
自社の研究開発を通じて得られたバイオマーカーや、外部より導入したバイオマーカーを用いて疾病の新たな診断方法を開発するとともに、製品開発・臨床開発等の過程を経て、体外診断用医薬品や診断機器の製造販売を行う。また、開発過程において、共同研究先である製薬企業から研究開発協力金やマイルストン収入、上市後の製品売上ロイヤリティ等が同事業の売上となる。
 
◎知的財産に関する方針
知的財産権・契約担当者が、同社及び共同研究機関の指定特許事務所の弁理士と密接に連携し、すべてのプロジェクトの特許出願、審査請求業務を遂行する他、共同研究における契約の交渉及び契約書類の作成も担当している。発見された疾病バイオマーカーの特許化については、最大限の権利を行使できるよう努めている。
疾病バイオマーカーにより権利範囲が異なるため、発見された疾病バイオマーカーの化学構造を始めとして、診断や創薬での利用法、検出法と測定機器などを広く網羅するように特許出願書類を作成している。
また、各国の臨床検査薬と検査機器企業、製薬企業に関する情報に基づいてライセンス契約先及び市場を想定し、特許協力条約に基づく国際出願を行うことを原則としている。
 
◎バイオマーカー事業の例:大うつ病性障害バイオマーカー
同社では、特にうつ病など客観的診断が難しい中枢神経系疾患(気分障害や精神障害等)や、肝炎、糖尿病などを含んだメタボリックシンドローム等社会問題化している疾患とその関連疾患に焦点を当てて研究開発を進めているが、現在の代表的なものが、「うつ病」のバイオマーカーである。

大うつ病性障害の診断は、米国精神医学会の診断基準や世界保健機構(WHO)の基準に基づいて診断されるが、どちらの手法も医師や患者の主観が反映されているケースが多く、他の病気と異なり客観的な指標に基づく診断法が普及していない。
そこで、同社は、独立行政法人国立精神・神経医療研究センターとの共同研究により、大うつ病性障害の血液バイオマーカーを発見した。
患者と健康者約30名ずつの血液を収集し、CE-MS法を用いたメタボローム解析により成分の比較を行った結果、血漿中のリン酸エタノールアミン(PEA)濃度が、大うつ病性障害患者で固有に低下していることが分かった。
その後の解析により、PEAが精神疾患の中でも大うつ病性障害に特異的なバイオマーカーであることに加え、大うつ病性障害が治癒すると健康基準値まで戻ることも分かった。
 
 
なお、うつ病バイオマーカーに関しては、2013年9月に特許「うつ病のバイオマーカー、うつ病のバイオマーカーの測定法、コンピュータプログラム、及び記憶媒体」及び2015年1月に「エタノールアミンリン酸の測定方法」がそれぞれ日本で成立している。また、海外においては2015年2月に“Biomarker of depression, method for measuring biomarker of depression, computer program, and recording medium”が米国で成立している。
 
◎疾病バイオマーカーの発掘
バイオマーカーの発見において以下の3つのコネクションや制度を活用し、バイオマーカー開発パイプラインの拡充に努めている。
 
<受託解析もしくは共同開発顧客とのコネクション>
大学や企業から、バイオマーカー探索関連試験を受託している。また、試験実施の前後で共同開発の提案を受けることもある。
現在、糖尿病性腎症バイオマーカーの共同開発を進めている。
 
<研究者や医師への直接提案>
同社の研究員が、疾病バイオマーカー開発の研究計画を直接研究者や医師に提案し、医師の承諾及び所属機関と共同研究契約を締結の上、試験を実施している。対象となる疾病は患者数、同社解析技術の特長、社会貢献度、バイオマーカーの必要性等から選択している。大うつ病性障害のほか、非アルコール性脂肪性肝炎、繊維筋痛症のバイオマーカー開発を行っている。
 
<メタボロミクス先導研究助成制度>
同社ではメタボローム解析の有用性を広く社会に利用してもらうとともに、若手研究者の育成のために、大学院学生へのメタボローム解析助成制度(HMTメタボロミクス先導研究助成制度)を実施している。世界各国の大学院生から募集した研究テーマから、優れた提案に対し、無償でメタボローム解析結果を提供して研究を支援しており、過去4年間に14名の大学院生が表彰された。この研究成果には、バイオマーカー発見につながる研究も含まれ、感染症関連脳症バイオマーカーのように、同社と共同研究に発展した例もある。
 
 
 
2016年3月期決算概要
 
 
増収も成長に向けた投資増で損失続く
売上高は前期比13.7%増の780百万円。メタボローム解析事業が国内外共に堅調だった。
営業及びバイオマーカー事業担当者の採用など成長のための人員増や研究開発投資増などで販管費は増加し、引き続き営業損失となったが損失幅は縮小した。人材派遣業を廃止したことに伴い事業撤退損2百万円を特別損失に計上した。
売上に関して一部大型案件の仕様見直し、米国での受注計画に一部遅れが生じたこと、利益に関しては、売上ショート、うつ病バイオマーカーの実用化・事業化投資を一部前倒しで実施したことから、2016年3月10日、業績予想を下方修正した。
 
 
売上高は前期比13.4%増の7億3百万円。機能性表示制度の施行により好調に推移した食品業界向けを中心に2ケタ増となった。
営業利益は同30.1%増の3億円。
前期比で増収・増益となったが、一部大型案件の仕様見直しなどがあり期初計画には達しなかった。
 
(主な活動)
アジア担当営業を採用したことによりシンガポールを中心に開拓が進み、年末にはシンガポールで受注を獲得した。
セミナーを151回開催し、多くのリード案件を獲得した。商談件数は約3割増加した。
米国では営業担当を増員し新規エリアの開拓の準備を進めた。米国法人HMT-Aの年間累計受注高は前期比64.3%増と大きく伸長した。EUエリアからの引合いも増えている。
引き続き大型案件や包括契約の獲得を目指している。
 
 
売上高は前期比56.2%増の31百万円。営業損失は60百万円。

(主な活動)
共同研究を進めてきたシスメックス(6869、東証1部)とライセンス契約(特許通常実施権許諾契約)を締結した。これに伴い、同社とうつ病バイオマーカーの事業化を推進すると同時に、自社開発体制の整備にも着手することとした。
より多面的な観点からバイオマーカー事業を新たな収益源として確立することを目的に、試薬などの製造・販売認可を取得する受け皿として新たに子会社「HMTバイオメディカル」を設立した。
うつ病の有償検査を行うことを目的としたうつ病臨床検査受託の拡大に引き続き取り組んだ。
 
『うつ病バイオマーカーによる検査の状況』
現在同社が手掛けているうつ病バイオマーカーを用いたうつ病検査には2つの種類がある。

1つは「イオンクロマトグラフィー法」によるPEA受託検査。
うつ病バイオマーカーの認知度向上とこれを利用したうつ病の有償検査による事業機会の拡大のために、専門病院との連携により、同検査法を用いた「うつ病臨床検査」を受託しており、前期より開始した。
ただ、測定費用と試料の輸送に時間や手間のコストが想定以上に発生する事がわかり、外部のリソースを活用した問題解決に取り組んでいる。

もう一つが、シスメックスと事業化を進めている、酵素法を使ったうつ病血液診断キット。
うつ病バイオマーカーによる検査を世の中に広めるには低コスト・ハイスピードでの測定が不可欠だが、検査試薬キットの使用によりそれが可能になる。
同社はシスメックス社と事業化を進める事と並行して独自の開発体制も構築しており、自社開発の研究用試薬を2016年度中に上市する目途が立った。

この研究用試薬を、一つは大規模病院や臨床検査センター等の大型検査機器へ提供するとともに、個人の専門医が開業しているメンタルクリニックにも提供する計画だ。その場で容易に測定する事ができるよう、測定機器の開発も進める。
このようにして、多くの医師に使ってもらう機会を多数創出する事で、うつ病診断の認知度を向上させていく考えだ。
 
 
有価証券の減少等で流動資産は前期末に比べ1億58百円減少した一方、投資有価証券の取得等により固定資産が同66百万円増加し、資産合計は同91百万円の減少。買入債務および長短借入金の減少等で、負債合計は同31百万円の減少。利益剰余金のマイナス幅が拡大し純資産は同59百万円減少した。
この結果、自己資本比率は前期末の90.9%から92.3%に上昇した。
 
 
損失の拡大、売上債権の増加等から営業CFはマイナスに転じた。
有形固定資産の取得による支出は減少したが、投資有価証券を取得したため投資CFのマイナス幅は拡大した。
新株予約権の行使に伴う株式の発行による収入が減少し財務CFのマイナス幅は拡大した。
キャッシュポジションは低下した。
 
 
2017年3月期業績予想
 
 
微増収。先行投資拡大で損失幅は拡大
売上高は前期比3.8%増の8億10百万円の予想。メタボローム解析事業は堅調に推移するが、人材派遣事業廃止に伴う売上の剥落により微増収にとどまる。
損失幅は拡大するが、これはビジネスモデルを変更し、離陸準備に入ったバイオマーカー事業に更に本格的に投資するため。
(詳細や背景等については「菅野社長に聞く」を参照)
 
 
事業以外では、安定して収益を稼ぎ出してきたメタボローム事業と同社の成長を牽引するバイオマーカー事業、2つの文化を1つのゴールに向かわせるための社内コミュニケーションがより重要と認識しているという。
 
 
外部環境は引き続き良好
日本国内では、食品の機能性表示制度の施行とTPP参加による国際的な競争力強化を伴う市場カテゴリーが創出されつつある。
また、医療費抑制のための適切なセルフメディケーションの実現の推進、 健康長寿に繋がる分野や予防医療に関する研究分野の予算の増大、日本医療研究開発機構(AMED)発足による新薬創出支援と革新的医薬品等の開発の推進、認知症やアルツハイマー病などの精神神経疾患に対する早期発見・診断・治療法開発への強いニーズなど、同事業の外部環境は引き続き良好だ。
また、米国においても「がん撲滅ムーンショット」などのがん研究予算は増大傾向にある。
 
今期の取組み
そうした環境下、以下のような営業・マーケティング活動を展開して業容拡大を図る。
 
海外展開の加速
米国においては、アカデミア案件・臨床バイオマーカー案件を中心に受注獲得を目指し販促活動を強化する。また、西海岸へも進出し、欧州市場の開拓も今期より開始する。アジア市場では、シンガポール、台湾、香港、中国への展開を進める。
 
大型案件・包括契約の獲得
臨床バイオマーカー探索試験、コホート研究への参画を進め、6件の参画を目指している。年間包括契約は5件の獲得を目指している。この他、臨床バイオマーカー向け新サービスのリリースを予定している。
 
 
ビジネスモデルの変更に伴い投資を加速
将来に向けたより大きな飛躍を目指して、バイオマーカー事業のビジネスモデルを「研究開発&ライセンス・アウト型」から「研究開発&製造・販売型」へ変更することとした。
これに伴い、従来はメタボローム解析事業によって獲得した収益をバイオマーカー事業に投入しバイオマーカー事業の成長を図る、というスタイルであったが、今期以降は、以下のような分野を対象として、メタボローム解析事業からの収益のみでなく、別途資金を調達して更に投資を加速させることとした。
このため、損失幅は前期を大きく上回ることになるが、損失拡大のこうした背景を十分理解する必要がある。
 
 
(3)トピックス
◎第三者割当増資の実施
「研究開発&製造・販売型」ビジネスを展開する事とした同社にとっては、うつ病バイオマーカーの早期の実用化・事業化が最優先課題であり、上記のような研究開発投資をより積極化する必要がある。
また、同バイオマーカーの実用化・事業化を加速するためにエムスリー株式会社(以下、エムスリー)との業務提携を行い、それに伴う協業関係の構築、また、株主の構成をより安定したものとするために、2016年6月10日を割当日とする第三者割当増資を行った。
 
 
3億56百万円から発行にかかる手数料7百万円を控除した3億49百万円を以下のような活動に使用する。
 
 
◎エムスリーと資本業務提携契約を締結
2016年5月、割当先の一つであるエムスリーと資本及び業務提携契約を締結した。
 
<アライアンスの背景>
エムスリーは、日本において約25万人の医師が会員登録する医療従事者向け専門サイト「m3.com」を運営しており、インターネットを通じて医師に薬剤等の情報を提供する「MR君」ファミリーを中心とした製薬会社向けマーケティング支援サービス、治験に参加する施設・対象患者を発見する治験支援サービス「治験君」を核とした治験支援関連サービス等を提供。更に、子会社において新薬や医療機器の開発戦略立案支援等も行っており、メディカル業界においてインターネットを活用したビジネスを広範に展開する日本を代表する企業の一つである。

HMTは、エムスリーグループの総合力を活用し、連携を深めることで うつ病バイオマーカーの実用化・事業化を加速させるとともに、新たなバイオマーカーのパイプラインを創出し、HMTのバイオマーカー開発プラットフォームとしての価値を最大化させることができると判断した。
 
<資本提携の内容>
前述の第三者割当のうち、エムスリーが約2.3 億円を引き受ける。議決権行使割合は約4.9%で第2位の株主となった。
 
<想定するシナジー効果>
今後、HMTのバイオマーカー事業に関し、下記の連携について両社で協議を進め、シナジーを追求していく。
 
STEP1:シーズ探索に関する協業
m3.comの調査プラットフォームを活用し、臨床現場の医師からバイオマーカーのアイデアおよびシーズを募集し、HMTのバイオマーカーシーズ探索にかかる生産性を飛躍的に向上させる。
 
STEP2:開発に関する協業
エムスリーおよびそのグループ会社による臨床研究および臨床試験支援リソース(薬事コンサル、CRO、SMO等)を活用し、HMTのバイオマーカーの事業化を加速する。
 
STEP3:販売に関する協業
「MR君」ファミリーを始めとしたエムスリーグループのマーケティング支援リソースを活用し、HMTが開発中のうつ病バイオマーカーの実用化にかかる市場調査および分析、認知度向上および導入医療機関の拡大、販売拡大等を推進する。また、将来的に、エムスリーはうつ病バイオマーカーのグローバル展開を支援する。
 
STEP4:共同事業の可能性
将来的にはHMTとエムスリーグループ双方の経営リソースを集中し、バイオマーカーの共同開発や共同販売、共同買収等の共同事業展開の可能性を模索し、各国におけるエムスリーグループのプラットフォームを活用した日本発のバイオマーカーのグローバル展開を目指す。
 
 
 
菅野社長に聞く
 
菅野 隆二社長に、「バイオマーカー事業の今後」等を伺った。
 
「バイオマーカー事業を『研究開発&製造・販売型』へ転換。前期は当社にとって画期的な年だった。」
前期は、バイオマーカー事業のビジネスモデルを、それまでの「研究開発&ライセンス・アウト型」のみから「研究開発&製造・販売型」へも対応可能となった点で、当社にとって極めて画期的な変化が生じた年であった。
従来モデルでは、ライセンス・アウト後の投資は不要である一方、事業化のタイミング等を当社が主体的に進めることができないだけでなく、ブランド化もできない。そして最も大きな問題は、将来における収益額が限定的になる事だ。
これに対し後者「研究開発&製造・販売型」の場合は、最終ステージまで投資が必要という面はあるものの、何より自分の意思で事業を進められる点が最も魅力的だ。ブランドも「HMTブランド」を確立する事が出来る。加えて、将来の収益は、前者モデルと比較にならないくらい大きなものとなる。
やはりリスクはあっても自らの意思・力で事業を進めていくことがベンチャー企業の魅力であり、そういう意味では当社も本当の意味で「バイオベンチャー」となったと言えるかもしれない。
 
 
「バイオマーカー事業は離陸準備に入り、収益化の具体的なステップが見えてきた。」
ただ、こうした経営判断を行ったのも、単に「そうしたいから」というわけではもちろんない。
当社ではうつ病バイオマーカーを用いたうつ病診断を一日でも早く普及させたいと考えているが、低コストでスピーディーに診断ができる血液診断キットに用いる研究用試薬の開発に成功し、今年度中に上市できる目途がついた。まずはプロモーション的な意味合いで、多くの医師に使ってもらうことを意図しているが、来期からは本格的に販売する計画だ。
こうした実力が着実についてきたことが、事業モデル転換踏み切った大きな要因だ。
バイオマーカー事業は離陸準備に入った。収益化の具体的なステップが見えてきた。
 
「巨大市場攻略に向けて投資を加速し、アライアンスも締結。」
現在うつ病患者は日本全国で約100万人、うつ病も含めた精神疾患患者は約340万人いると言われているが、うつ病と他の精神疾患との鑑別、薬剤の選択や投与・中止時期の判断など、治療のモニタリングが行われる中で検査対象患者数は拡大する。
更に、次のステージでは患者の検査ではなく、健常者を対象とした健康診断検査にも用いられることとなるだろう。健康診断受診者数は約6,000万人であり、当社ではこのマーケットを最終的なターゲットとしている。
2015年12月1日から施行された改正労働安全衛生法(ストレスチェック義務化法)は、健康診断市場顕在化の大きなきっかけとなると思われる。また昨年起こったドイツの民間航空機事故を契機に運輸会社等からの引合いも増えている。うつ病の社会問題化が一層深刻となる中で、同マーカーを用いた健康診断市場は大きく成長するだろう。
この巨大市場を攻略するにあたり、事業化を一段とスピードアップさせるべく、エムスリーと資本及び業務提携契約を締結した。資金調達により投資を加速させる重要性もさることながら、医師、患者双方に強力なネットワークを有する同社とのアライアンスは、当社事業の今後にとって大変大きな意味を持つ。
 
 
事業モデルの転換、収益化ストーリーの具体化、安定して事業に邁進するための株主作り、強力なアライアンス締結と、将来の飛躍に向けて大きな変化があった1年だった。
是非これからも当社の活躍に期待していただきたい。
 
 
今後の注目点
幾つかの大きな変化のあった同社だが、それぞれのイベントはもちろん重要であるが、それ以上に重要なのは、同社が真のバイオベンチャーとして飛躍する準備が整ったと同社自身が改めて認識したという事かも知れない。菅野社長へのインタビューに際し、そのワクワク感が十分に伝わってきた。一方、そうした段階に至ったからこそ、全社のベクトル統一がより一層重要となるため、社内コミュニケーションの活性化を重視しているのだろう。
短期的には、研究用試薬の発売開始を、中長期的にはそれを使った検査数の推移、およびエムスリーとのシナジーがどのように生み出されるのかを注目したい。