ブリッジレポート
(4319) TAC株式会社

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ブリッジレポート:(4319)TAC vol.23

(4319:東証1部) TAC 企業HP
斎藤 博明 社長
斎藤 博明 社長

【ブリッジレポート vol.23】2017年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「個人教育事業の四半期ごとの売上高、営業利益の推移を見てみると、売上高に顕著な傾向は見出しにくいものの、営業利益は着実に改善している・・・」続きは本文をご覧ください。
2016年11月29日掲載
企業基本情報
企業名
TAC株式会社
社長
斎藤 博明
所在地
東京都千代田区三崎町3-2-18
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2016年3月 20,007 605 635 213
2015年3月 19,537 140 404 208
2014年3月 20,526 1,034 1,299 816
2013年3月 20,999 136 377 977
2012年3月 22,578 -606 -530 -799
2011年3月 24,575 465 283 -244
2010年3月 23,991 623 442 40
2009年3月 21,092 1,330 1,352 669
2008年3月 20,741 1,069 1,230 443
2007年3月 20,553 1,173 1,333 742
2006年3月 19,828 421 631 249
2005年3月 19,669 459 558 81
2004年3月 19,542 988 943 470
株式情報(11/16現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
207円 18,503,932株 3,830百万円 4.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
4.00円 1.9% 29.72円 7.0倍 236.95円 0.9倍
※株価は11/16終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期実績。
 
TACの2017年3月期第2四半期決算概要等についてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
「資格の学校TAC」として、資格取得スクールを全国展開。社会人や大学生を対象に、公認会計士、税理士、不動産鑑定士、社会保険労務士、司法試験、司法書士等の資格試験や公務員試験の受験指導を中心に、企業向けの研修事業や出版事業等も手掛ける。
 
 
【沿革】
1980年12月、資格試験の受験指導を目的として設立され、公認会計士講座、日商簿記検定講座、税理士試験講座を開講。2001年10月に株式を店頭登録。03年1月の東証2部上場を経て、04年3月に同1部に指定替えとなった。09年9月には司法試験、司法書士、弁理士、国家公務員Ⅰ種・外務専門職等の資格受験講座を展開していた(株)KSS(旧・早稲田経営出版)から資格取得支援事業及び出版事業を譲受。これにより、会計分野に強みを有する同社の資格講座に法律系講座が加わると共に、公務員試験のフルラインナップ化も進んだ。2013年12月、小中高生向け通信教育事業を柱とする(株)増進会出版社と資本・業務提携契約を締結。2014年6月には医療事務分野への進出を狙いM&Aを実施。
 
【強み】
(1)試験制度の変化や法令改正へのきめ細かい対応
同社は、会社設立間もない頃から講師陣が毎年テキストを改訂し、試験制度の変化や法令改正にきめ細かく対応することで他社との差別化を図り受講生の支持を得てきた。事業が200億円規模になると、毎年発生するテキスト改訂コストを吸収することが可能だが、新規参入を考える企業はもちろん、同社よりも事業規模の劣る同業者にとっても、テキストを毎年改訂することは大きな負担である(ノウハウの蓄積が進み高い生産性を実現していることも強みとなっている)。
 
(2)積極的な講座開発と充実したラインナップ
同社は大学生市場の開拓も含めて積極的に新しい分野(新講座の開設)にチャレンジすることで業界トップに上り詰め、業界初の株式上場を果たした。また、09年には、Wセミナーの資格取得支援事業を譲受し、従来手薄だった法律系講座や公務員試験のラインナップを拡充した。法律系講座及び公務員講座は、会計系3講座(公認会計士、税理士、簿記検定)と共に3本柱を形成し、マーケットの大きい3本柱を中心に多様な講座をラインナップしている。
 
(3)受講生中心主義の下でのサービスの先進性
サービスの先進性も同社の強みである。教育メディアや講師を受講生が自由に選択できるシステムを、資格取得学校市場で最初に導入したのは同社である。その背景にある受講生中心主義の経営姿勢は、テキストの品質と共に、「資格の学校TAC」のブランド醸成に一役買っている。
 
 
 
ROEは、前期とほぼ変わらず。比較的高水準なレバレッジにもかかわらず、ROEは低い。売上高当期純利益率の改善がカギとなる。
 
 
2017年3月期第2四半期決算概要
 
売上高について
各講座の受講者は受講申込時に受講料全額を払い込む必要があり(同社では、前受金調整前売上高、あるいは現金ベース売上高と呼ぶ)、同社はこれをいったん「前受金」として貸借対照表・負債の部に計上する。その後、教育サービス提供期間に対応して、前受金が月毎に売上に振り替えられる(同社では、前受金調整後売上高、あるいは発生ベース売上高と呼ぶ)。損益計算書に計上される売上高は、「発生ベース売上高(前受金調整後売上高)」だが、その決算期間のサービスや商品の販売状況は現金ベース売上高(前受金調整前売上高)に反映され(現金収入を伴うためキャッシュ・フローの面では大きく異なるが、受注産業における受注高に似ている)、その後の売上高の先行指標となる。このため、同社では経営指標として現金ベース売上高(前受金調整前売上高)を重視している。
 
季節的特徴について
同社が扱う主な資格講座の本試験は、第2四半期(7月~9月)及び第3四半期(10月~12月)に集中しており、特に公認会計士・税理士講座等の主力講座においては、第2・第3四半期は試験が終了した直後で、翌年受験のための新規申し込みの時期となり、一方、第4四半期(1月~3月)及び第1四半期(4月~6月)は全コースが出揃う時期にあたる。
第2・第3四半期は、現金売上及び売掛金売上は多いものの受講期間に応じて前受金に振り替えられる一方、経費は毎月一定額計上されるため売上総利益率は減少する傾向がある。これに対して第4・第1四半期はこれらの前受金が各月に売上高に振り替えられる期になるため売上総利益率は増加する傾向がある。
 
 
増収・営業減益
現金ベース売上高は前期比3.0%増の107億91百万円。発生ベース売上高は同2.2%増の108億24百万円。財務・会計分野、金融・不動産分野、情報・国際分野、医療・福祉分野が好調だった。
営業利益は同7.0%減の9億79百万円。人件費、市販外注費、広告宣伝費等販管費の増加を吸収できなかった。
特別利益に税務申告ソフト「魔法陣」の総販売代理店取引契約の解約に伴う受取和解金を計上したこと等により四半期純利益は同7.3%増の6億92百万円となった。
 
 
 
【個人教育事業】
増収・増益だった。
 
講師料、教材制作のための外注費、賃借料等の営業費用は前年同期比1.7%減の62億27百万円とコストコントロールが奏功した。
 
【法人研修事業】
減収・減益だった。
 
【出版事業】
2桁の増収だったが利益は2桁の減少となった。
(TAC出版)
簿記・宅建士・FP等で展開している図解を多く用い、かつ、フルカラー化することで分かりやすさ・見やすさ・使い勝手の良さが高まった書籍が好評で増収。
ケアマネジャーや社会福祉士など福祉系資格の書籍も堅調。
資格試験対策書以外の新分野として2016年5月に刊行した旅行本「おとな旅プレミアム」(初回10タイトル、全30タイトル予定)も好調。
講座別では、簿記、宅建士、FP、社労士は売上が大きく増加。
(W出版)
会社法や商業登記法の改正による需要が収束し減収。
 
東京国際ブックフェアへ初出店し、TAC出版および早稲田経営出版の知名度向上に努めた。
大幅増収も、「おとな旅プレミアム」を中心に制作費や販促費等が増加したため利益は2桁の減少。
 
【人材事業】
増収・増益だった。
監査法人をはじめとする会計業界の人材ニーズが旺盛で会計士・税理士向けの就職説明会が好評。
昨年より開始した法人プロモーション用ビデオ制作の受注も好調。
人材紹介も増収、人材派遣売上は前期並みを確保。
医療系人材サービスは、(株)医療事務スタッフ関西が前年並みの売上だった一方、(株)TAC医療事務スタッフは、苦戦続く。
(株)TAC医療事務スタッフでは人材紹介の幅を広げるため看護師の求人の取扱いを開始し、「TACナースナビ」サイトを2016年6月にオープンした。
 
 
【マーケット概要】
同社が取り扱う各種資格試験の2015年の本試験申込者は2,513千人と、前年の2,510千人から微増。5年ぶりに前年を上回った。
主な資格マーケットは以下の様な概況となっている。
 
簿記検定申込者数は全体では2年ぶりに増加した。
会計士は前年を6.3%下回ったが、就職環境下好転しており今後の回復に期待している。
税理士は長期低落中。
 
財務・会計分野
増収だった。
(公認会計士試験講座)
現金ベース売上高は前年同期比2.7%減
大手監査法人を中心に多くの監査法人で積極採用姿勢が続いており、本試験合格者はほぼ全員が採用される良好な状況
年2回の短答式試験の受験者数(名寄せした合計ベース)は、2010年度をピークに5年連続で減少していたが、2016年度は10,256人(前年度から76人増加)と6年ぶりに前年度の受験者数を上回った。
こうした状況を受け、新規学習者向け入門コースの受講申込みは好調に推移したが、受験経験者向けコースは過年度の少ない時期の受験生がベースとなるため低調だった。
 
(簿記検定講座)
現金ベース売上高は同21.3%増
簿記検定試験の申込者数が持ち直し傾向にあることや、日商簿記検定試験の出題区分改定によりやや難化したことで講座申し込みは増加傾向。
「スッキリわかる日商簿記」「みんなが欲しかった簿記の教科書」など受験対策書籍が好調。
 
経営・税務分野
現金ベース売上高は前年並みだった。
(税理士試験講座)
受験申込者数は44,044名(前年比6.6%減、国税庁発表速報値)と依然として減少傾向が続いている。
税理士講座では、日商簿記検定試験の受講生が税理士講座へスムーズにステップアップできるよう出題試験区分改定にあわせたカリキュラムやテキストの見直しを行うなど様々な施策を行っているが、全体的な受験生の減少による影響が大きく、現金ベース売上高は同6.6%減となった。
 
(中小企業診断士講座)
平成22年度をピークに5年連続で減少していた試験申込者数が平成28年度は6年ぶりに前年度を上回った。
8月に実施された一次試験の合格率が低かったこともあり、次年度向けの上級コースの申込みは好調に推移している。
新規学習者向けコースは前年度を上回るところまでは至っていないが受講者は戻りつつあり現金ベース売上高は前年並みとなった。
 
金融・不動産分野
多くの講座とも好調で2ケタの増収だった。
 
法律分野
前年並みの売上だった。
(司法試験講座)
2016年の司法試験予備試験出願者数が12,767人(前年12,543人)と予備試験ルートで司法試験合格を目指す受験者数は依然として高い水準にあり、当社の「4A基礎講座」も初心者から受験経験者まで幅広く支持を集めている。
予備試験向けの過去問分析講義や模試等の商品も好調。
人気講師の講義をリアルタイムで地方拠点(横浜校、梅田校)にライブ配信する「ライブ中継クラス」を新設し、集客に努めている。
 
(司法書士講座・行政書士講座)
初学者向け・受験経験者向けともに低調。現金ベース売上高はそれぞれ同17.9%減、同7.6%減。
 
(弁理士講座)
各種キャンペーンや販促活動により受講生の確保に努め、現金ベース売上高は同7.3%増。
 
公務員・労務分野
微増収だった。
(社会保険労務士講座)
受験申込者数の減少が続いているが、カリキュラムの改訂や各種キャンペーンの実施等で集客に努めたこと、直前対策講座などのオプション講座への申込が堅調に推移したこと、出版物の売れ行きが好調だった結果、現金ベース売上高は同1.9%増となった。
 
(公務員講座)
国家総合職試験の申込者数の減少が続いていたが、2015年度は4年ぶりに増加に転じ、2016年度も昨年度を上回り2年連続で増加。
これを受け、国家総合職・外務専門職講座は好調に推移。国家一般職・地方上級講座も、安定した公務員人気を背景に順調で、現金ベース売上高は同4.9%増となった。
ただ、前受金調整額が同74.4%減と大きく減少したため、発生ベース売上高は前年並みにとどまった。
 
情報・国際分野
増収だった。
(情報処理講座)
個人向けでは2016春より試験が開始された情報セキュリティマネジメントをはじめ、セキュリティ関連の講座への申込みが好調だった。
ITパスポートは前年を下回った。
法人向けの企業研修は前年同期をやや下回り、講座全体の現金ベース売上高は同4.1%増となった。
 
(米国公認会計士、米国税理士(EA)、米国公認管理会計士(USCMA)、TOEIC(R)TEST等の国際資格)
米国公認会計士が来年4月に新試験制度に変更が予定されていることから講座への申し込みを手控えている動きもあり、現金ベース売上高は同5.0%減。
 
(CompTIA講座)
前期並み。
 
医療・福祉分野
大幅増収だった。
関西エリアで医療事務スタッフの派遣を行う(株)医療事務スタッフ関西は1.6%の減収。
関東エリアで医療事務関連人材サービスを提供する(株)TAC医療事務スタッフは人材のマッチングが難しく苦戦が続いている。本格な立ち上がりにはまだ時間がかかると考えている。
医療事務スタッフを養成する医療事務講座は、2015年1月の開講以来、一定の受講者数を確保している。
 
その他
2ケタ減収だった。
(人材ビジネス)
夏の会計業界向け就職説明会を含む広告売上高が前年を上回ったほか、会計系人材不足により人材紹介も順調に推移。派遣売上も前年並みだった。
 
(その他)
TACBOOKは「おとな旅プレミアム」が貢献し同95.6%増と大きく伸長した。
税務申告ソフト「魔法陣」は(株)ハンドとの総販売代理店取引契約を合意解約したことに伴い2016年3月31日をもって販売を終了している。
 
 
2017年3月期第2四半期における受講者数は、講座への申し込みや学内セミナーが好調に推移したことで、前年同期比5.9%増の133,730名となった。
個人受講者は同6.1%増、5,227名増の90,792名、法人受講者は同5.4%増、2,208名増の42,938名。
 
講座別(個人・法人合算)動向
<増加>
公務員講座(国家一般職・地方上級コース:同19.5%増)、簿記検定講座(同13.5%増)、宅地建物取引士(同11.9%増)、FP講座(同5.6%増)
<減少>
税理士講座(同6.6%減)、司法書士講座(同7.4%減)、ビジネススクール(同17.2%減)
法人受講者は、大学内セミナーが同19.0%増、通信型研修は同1.4%減、提携校が同2.3%減、委託訓練は同15.0%減となった。
 
 
現預金、売上債権の増加等で流動資産は前期末比16億18百万円増加した。投資有価証券の増加等で固定資産は同30百万円減増加し、資産合計は同16億49百万円増加の232億81百万円となった。
有利子負債残高が同11億57百万円増加し、負債合計は同10億13百万円増加の181億5百万円となった。純資産は利益剰余金の増加等で同6億35百万円増加の51億76百万円。
この結果、自己資本比率は前期末より1.2%上昇し22.2%となった。
 
 
有価証券の償還による収入が発生したほか、定期預金が減少し投資CFはプラスに転じたが、売上債権の増加などで営業CFがマイナスに転じた結果、フリーCFのプラス幅は縮小。
短期借入金の増加などで財務CFのプラス幅は拡大した。
キャッシュポジションは上昇した。
 
 
2017年3月期業績予想
 
 
業績予想に変更無し。増収増益を予想。
業績予想に変更は無い。現金ベース売上高は前期比4億96百万円増、2.5%増の206億円を予想。税務申告ソフト「魔法陣」の販売が終了したため、前期売上分3億円をカバーするため実質は8億円の増収を目指す。
営業利益は同37.0%増の830百万円を予想。引き続き売上原価、販管費のコントロールを継続する。
配当は前期より2円増配の4.00円/株を予定。予想配当性向は13.5%。
 
(2)中長期の取り組み
①新規事業の開発・コストコントロール
資格や就職に対する価値観が変化する中、消費者ニーズも多様化しており、適時適切な把握と柔軟な対応が欠かせない。
既存事業の継続的な磨き上げ(例:司法試験講座での人気講師による「ライブ中継クラス」)に加え、新しい事業分野への挑戦(例:旅行本「おとな旅PREMIUM」の創刊)に取り組むと共にコストコントロールを継続する。

②新規開講講座の収益化
2012年11月に開講した建築士講座は優秀な講師陣を揃え、オリジナル教材を開発した取り組みが功を奏し、合格実績や価格優位性に対する評価が高まり、申込者はここ2年で3倍以上と大きく伸長し、着実に売上を伸ばしている。
この他、教員採用試験対策講座においては県別対策のエリアを拡大した。医療事務関連事業においては看護師求人の取扱いを開始した。
 
 
今後の注目点
個人教育事業の四半期ごとの売上高、営業利益の推移を見てみると、売上高に顕著な傾向は見出しにくいものの、営業利益は着実に改善している事が見て取れる。
公認会計士市場が底入れしたこと、建築士講座など新規開講講座も着実に売上を拡大している。
低迷が続いてきた株価もやや上向き基調にあるが、持続的な上昇を継続させるためには足元の業績回復を確実にするとともに、ここ数年で仕掛けたM&Aの成果結実が強く求められる。
 
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書
同社は最新のコーポレートガバナンス報告書を2016年6月29日に提出している。