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(6826) 本多通信工業株式会社

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ブリッジレポート:(6826)本多通信工業 vol.16

(6826:東証1部) 本多通信工業 企業HP
佐谷 紳一郎 社長
佐谷 紳一郎 社長

【ブリッジレポート vol.16】2018年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「好調な業績を背景に、市場を大きく上回るパフォーマンスとなっている。会社側は、原材料価格の値上がり、外注加工費の上昇などリスク要因も・・・」続きは本文をご覧ください。
2017年12月05日掲載
企業基本情報
企業名
本多通信工業株式会社
社長
佐谷 紳一郎
所在地
東京都品川区北品川5-9-11 大崎MTビル
決算期
3月末日
業種
電気機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2017年3月 17,205 1,425 1,476 1,542
2016年3月 17,119 1,301 1,237 1,364
2015年3月 16,639 1,415 1,565 1,440
2014年3月 14,824 932 975 1,479
株式情報(11/27現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
2,419円 11,954,907株 28,919百万円 15.0% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
15.00円 1.2% 50.12円 24.1倍 942.42円 2.6倍
※株価は11/27終値。発行済株式数、BPSは直近期決算短信より。ROEは前期実績。
17年12月1日付で1:2の株式分割を実施。DPS、EPSは分割後の数値。
 
本多通信工業の2018年3月期第2四半期決算概要などをお伝えします。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
通信インフラ、FA機器、民生機器、車載用途向けの電気コネクタおよび光コネクタの製造販売を行う。「Segments No.1」を掲げ、特定分野での高い競争力を追求している。長い歴史の中で培われた幅広い設計技術力、産業用機器向けで培った長期信頼性と堅牢性に関するノウハウ、多品種少量生産体制などが特長。子会社ではソフトウエア開発なども手掛けている。グループ認知度の向上に向けて、複数存在していたブランドを「HTK」に統一。グループは同社と連結子会社7社(国内2社、海外6社)の計9社で構成されている。(2017年9月末現在)
 
【沿革】
1932年5月に精密ねじ加工業として現在の東京都目黒区で創業。第二次大戦後は、日本電信電話公社(現NTT)の電話交換機用プラグ・ジャック、防衛庁向けプラグ・ジャックを始め、その発展形となるコネクタの製造販売を手掛け、業容を拡大。2001年に東証2部に上場した。だが、ITバブル崩壊で売上が急減。数度のリストラクチャリングを経て、成長路線への復帰と拡大発展をめざし、2008年に松下電工株式会社(現パナソニック株式会社)と資本業務提携契約を締結。2014年2月、約80年に亘って本社を置いていた目黒から品川区へ本社を移転した。
2016年3月、東証1部に上場した。
 
【経営理念など】
特定分野で特徴あるソリューションを提供することで顧客に「この分野なら本多通信グループに限る」と高く評価される事をめざし、「Segments No.1」を掲げている。
また、新中期経営計画「GC20」策定に際し、グループの企業理念として「Value by Connecting」を新たに掲げた。 豊かな未来のために「人」、「もの」、「情報」をつなぎ、価値を創造し続ける事を目指すというビジョンを示したもの。
 
【佐谷 紳一郎社長プロフィール】
佐谷紳一郎社長は1957年11月生まれの現在60才。松下電工株式会社(現パナソニック株式会社)では事業戦略企画部門に在籍し、M&Aや他社とのアライアンス締結等に長年に亘り携わってきた。そうした中、コネクタ事業のアライアンス先として幅広い技術力・製品ラインアップを有する企業を調査している中、本多通信工業の実力に着目し、アライアンスを推進、2008年資本業務提携を実現させた。同年、取締役就任。2009年にはパナソニック電工を退社し、同社副社長に就任。2010年4月に同社社長に就任した。社長就任後は中期経営計画「Plan 80」を策定・実行。基本戦略として「Segments No.1」を設定し、複数のニッチ分野でNo.1となることを目指すと共に、様々な構造改革を断行し、黒字体質の確立、財務基盤の安定化を実現した。中期経営計画「DD15」で事業拡大と体質強化を進めた現在は、良い会社(Good Company)かつ過去最高業績更新をターゲットとする新中期経営計画「GC20」を推進中で、ワンランク上の企業作りに取り組んでいる。
 
【事業内容】
事業セグメントはコネクタ事業と情報システム事業の2つ。
 
 
◎コネクタ事業
<コネクタとは?>
電子回路や光通信において配線基板同士を接続し、電気や信号を繋ぐために用いられる部品・器具のこと。基板をはんだ付けや圧着で接続した場合、分断時にはケーブル切断等が必要になり再接続は困難となるが、コネクタを使用した場合、手または簡易的な工具を用いて容易に繰り返し脱着することが可能であるため、ほぼ全ての電子機器で使用される。
 
<利用分野>
長年の経験で培われた高い技術力により、以下の6分野を中心に付加価値の高く、顧客志向のコネクタを始めとした製品をラインアップしている。
 
 
2017年3月期の分野別売上構成比率(全売上高に対する構成比)は、車載分野35%、FA分野19%、通信分野17%、民生分野11%となっている。
最も構成比の高いで車載分野において、安全性や運転性能向上の観点から車載カメラやセンサの搭載台数が増加しているカーエレクトロニクスの成長に対応して投資や製品開発を進めている。
 
◎情報システム事業
通信分野でのソフトウエアの重要性が高まる中、1983年に事業をスタート。
システム開発から保守運用まで幅広いソリューションを展開している。なかでも仮想化(*)サーバの構築では業界屈指の技術を有し、クラウドコンピューティングの広がりに貢献している。
世界的ベンダーとの連携により、上流工程からの受注に力を入れている。
 
*仮想化とは?:1台のサーバ(物理サーバ)を複数台の仮想的なサーバ(仮想化サーバ)に分割して利用する仕組み。それぞれの仮想化サーバではOSやアプリケーションを実行させることができ、あたかも独立したコンピュータのように使用することが可能となる。
サーバ台数の適正化や消費電力を含めた運用管理コストの低減など、企業のITコスト見直しニーズに対応し、注目が集まっている。
また、仮想化環境下ではハードウェア等を新たに購入しなくても新サーバを容易に追加することができるため、ビジネスの変化に迅速かつ柔軟に対応するというITシステムニーズに対する有効なソリューションの一つとなっている。
 
【特徴と強み】
① 幅広い設計技術力
前述のように、同社のコネクタは、様々な分野で用いられている。
同社は、日本電信電話公社(現NTT)を始めとした多くの顧客からの様々なニーズに対応したカスタマイズによる製品作りに長年取り組んできた。この「顧客密着度の高さ」が、同社の幅広い設計技術力の源泉である。
 
② 長期信頼性と堅牢性
制御装置に用いられる「1.27mmピッチコネクタ」、FTTH(Fiber To The Home:光通信のための光ファイバーを家屋内に引き込むこと)に用いられる「シャッター付きSC形プラグ」、プロジェクタに用いられる「高耐圧電源用コネクタ」などで強みを持っている。
これらは、顧客から長期信頼性や堅牢性が求められる分野であり、長年に亘って培ってきた同社の技術力や製造能力が顧客に高く評価されている証となっている。こうした強みを活かし、安全性という面でハードルの高い車載分野での売上を大きく伸ばしている。
 
③ 多品種少量生産
同社は現在約4,000品目のコネクタを生産しているが、このうちの月間生産個数が1万個未満の品目数は94%を占める。また生産金額ベースでも1万個未満の生産が62%、1万個以上が38%と、多品種少量生産が同社の特長となっている。
こうした状況に対応し、国内工場、海外工場の2つの車輪で最適なものづくりを行っている。
国内工場(安曇野工場:旧松本工場)は1万個未満の多品種少量生産の拠点。今後も同社の得意技を磨き、迅速な納入を行うため国内で稼動を続ける。
海外工場(深圳工場)は1万個以上の中量品の一気通貫生産を行い、機動力を高め世界で戦うための拠点とする。

一方、多品種少量生産ながらも短納期を実現させ、顧客から発注を受けたら1週間以内での製品配送を確約する「1weekデリバリーサービス」に2013年から積極的に取組んでいる。
現在の取扱品目数はシステム化を進めた安曇野物流ハブの完成によりそれまでの倍にあたる約1,000品目に拡大している。
 
 
2017年3月期のROEは前期を上回り15.0%となった。総資産回転率、レバレッジは低下したがマージンが改善した。
2020年に向けた目標とする経営指標に「ROE 13%以上」を掲げている。
原価低減や新製品開発によるマージンの向上に加え、在庫水準のコントロールによる総資産回転率の向上にも取組んでいく考えだ。
 
 
2018年3月期第2四半期決算概要
 
 
大幅な増収増益
売上高は前年同期比18.7%増の96億16百万円。旺盛な設備投資需要を受けFA分野が牽引。引き続き車載分野が好調だった。
営業利益は同84.8%増の10億41百万円。第2四半期では初の10億台となった。固定費増、情報システム分野の減収をFA、通信、車載の増収で吸収。営業利益率も約4%上昇し、10%を超えた。
経常利益は同134.7%増の10億98百万円。前年同期114百万円あった為替差損が36百万円の為替差益に転じた。
四半期純利益は同86.0%増の7億15百万円。安曇野工場において土壌汚染浄化を実施することとしたため、環境対策費80百万円を特別損失に計上した。
為替は期中レート111円/USD(前年同期 105円/USD)。
 
 
*FA
スマホ、半導体向けおよび自動化・省人化など設備投資需要が引き続き旺盛。
 
*通信
国内FTTH向けは季節要因で減収。光ファイバーメンテナンス商品が伸長した。
 
*民生
中国における監視カメラ向けが引き続き好調だった。ハイエンドPC向けが立ち上がってきた。
 
*車載
車載カメラ用が順調に拡大。軽自動車向けの本格納入がスタートした。
 
*情報システム
大口案件の遅延、SEの不足で減収となった。
 
 
現預金、売上債権の増加で流動資産は前期末比5億37百万円増加。有形固定資産の増加で固定資産は同1億99百万円増加し、資産合計は同7億35百万円増加の156億48百万円となった。
負債合計は同3億57百万円増加の43億80百万円。利益剰余金の増加で純資産合計は同3億77百万円増加の112億67百万円。
この結果、自己資本比率は前期末比1.0%低下し、72.0%となった。
 
 
利益増で営業CFのプラス幅は拡大。投資CFは前年同期とほぼ変わらず。フリーCFのプラス幅は拡大した。
自己株式の取得を行ったが配当金の支払い額の減少などで財務CFのマイナス幅は縮小。
キャッシュポジションは上昇した。
 
(4)トピックス
◎株式分割を実施予定
投資に必要な金額を引き下げることにより、株主数の増加と株式の流動性の向上を図るため、2017年11月30日を基準日、12月1日を効力発生日とし、1:2の株式分割を実施した。
 
◎安曇野工場の土壌汚染浄化実施へ
1980年代まで生産活動をしていた安曇野工場の旧棟を解体するに先立ち、土壌調査を行ったところ、敷地の一部で基準を超える鉛による土壌汚染を確認した。地下水には汚染が無いことも確認している。

オンサイト洗浄方式(対象土全量を敷地内で洗浄・分級し、浄化土を埋め戻す方式)により、2018年1月ごろより汚染土1,653㎡を浄化する。全量場外搬出方式に比べ、工期は1.5倍となるが、搬入搬出の車両往来は10分の1となる見込み。工期は2018年1月から8月の予定。
土壌汚染浄化対策にかかる費用80百万円を特別損失に計上した。
 
 
2018年3月期業績予想
 
 
業績および配当予想上方修正
好調な業績を踏まえ通期見通しを上方修正した。
売上高は前期比10.4%増の190億円の予想。引続き車載分野が牽引するほか、FAが貢献する。
営業利益は同29.8%増の18億50百万円を計画。設備や人材などへの投資を拡大させるが、増収効果、合理化、生産性向上により吸収し、2桁の増益を見込む。
配当予想は9期連続増配の27.00円/株(前期比1円増。分割後13.5円/株)を予定していたが30円/株(分割後15円/株)に引き上げた。予想配当性向は30%。
為替の前提は、期中1USD = 110円、期末108円。(前期実績はそれぞれ、108円、113円、修正前はそれぞれ108円、104円。)
 
 
通期予想を上方修正したが、下半期は前年同期比では増収減益、対上期比較では減収減益となる。
対上期の分野別動向見通しは以下の通り。
 
 
プラス要因、マイナス要因がそれぞれあるがトータルでは概ね上期水準の売上高を見込んでいる。
 
 
中期計画「GC20」の進捗状況
 
GC20における仕込みの時期「Season1」最終年度となる今期は、当初計画「売上高200億円、営業利益18億円」に対し現在の予想は「売上高190億円、営業利益18.5億円、営業利益率9.7%」とほぼ達成の見込みとなっている。
最終年度2021年3月期の「売上高250億円、営業利益25億円、営業利益率10%」達成に向け、今後も仕込みを加速させていく考えだ。

業務用コネクタ事業、車載コネクタ事業、プラットフォーム(事業基盤)、それぞれについて以下のような仕込みを進めていく。
 
①業務用コネクタ事業
特長ある製品やサービスで高付加価値化を図るため、以下の3点で仕込み(投資)を行う。
 
(対象市場の拡幅)
投資額0.5億円。
同社の強みとするセグメントNo.1商品をその特長が活きる市場へ拡大させる。 一つは、「SDカード UHS-IIソケット」。
高速伝送が可能でノイズを低減し放熱性も高い同製品は現在主に一眼レフカメラに用いられているが、今後はハイエンドPCや撮影用ドローンなどへの採用を提案する。 次が、小型I/Oコネクタ。
長期信頼性、堅牢性、小型、高速という特徴を持ち、FA分野で用いられているが、半導体製造装置、蓄電池、医療機器、社会インフラなど広範なフィールドでの利用が可能と考えている。
 
(多品種少量の深耕)
投資額1億円。
ロボット導入による合理化、省人化を進め同社が得意とする多品種少量生産サービス「1weekデリバリー」を拡充する。
 
(新事業の創出)
投資額1億円。
次代の主力製品の一つと位置付けるのが8K対応の光コネクションである「AOC(Active Optical Connector)」。

2020年の東京オリンピック・パラリンピック、次世代のICT社会の実現に向けて超高精細映像(4K・8K)が注目されており国内潜在市場は約3.8兆円とも言われている。
4K・8Kの普及に伴い、インターフェースの高速化が必要となり、従来のメタルから光ファイバーによる伝送への移行が進むと見込まれている。
光コネクタのフロンティアである同社は、FTTH等のアクセス系での実績を基盤に、光ファイバーによる機器間接続の領域への拡幅を目的に、AOCの技術開発を進めてきたが、要素技術開発が進展したことから、基本方針を「2×2戦略」と名付けてAOCを全方位で事業展開することとした。

*「2×2 戦略」とは?
「光接続技術」、「長期信頼性・堅牢性ノウハウ」、「産官学連携」といった同社の強みを活かしたAOCの事業戦略。
 
FA市場等でのニーズが高い「角型コネクタ」と、医療や放送機器分野で標準的な「丸型コネクタ」の2つを商品化
現在普及している「石英ファイバー」と、柔らかさやアセンブリの容易さで今後が期待される「GI-POF:高速プラスチックファイバー」の2つに対応
2×2=4と、幅広い用途に対応し全方位に展開。同社ならではの特徴あるAOCを創出する。

対象としては、FA機器におけるマシンビジョン、医療用機器の内視鏡や手術モニタ、セキュリティにおける監視カメラ、パブリックモニタなど、同社が得意とする少量多品種マーケットを想定している。
第1弾として、石英ファイバー対応のエンジニアリング・サンプルを2017年11月開催の「SYSTEM CONTROL FAIR 2017(SCF2017)」に出展。2017年12月から提供を開始した。
2018年4月には、石英ファイバーと高速プラスチックファイバーを自由に選択できる第2弾のリリースを計画している。
 
②車載用コネクタ
2020年売上高100億円、10%の利益率達成に向けてQCDを強化する。売上高100億円のうち2割程度は非カメラで構成したいと考えている。
 
(製造力の増強)
投資額3億円。年間生産個数を2016年の1,000万個から2020年には2,000万個まで引き上げる。
カメラ用コネクタ向けに全自動生産ラインを導入する。2018年初頭の稼働開始を予定しており、供給力自体が拡大するとともに、生産性も2.6倍に向上する見込み。
また製造拠点の追加として以前より言及していたASEANでの生産拠点については建設地はほぼ決まり、届け出・認可など最終段階に入っている。2018年中には稼働を開始し、年間2~300万個の生産を行う計画。
現在ほぼ100%稼働の深圳工場に関しては自動化投資を進める。
 
(品質力の強化)
投資額1億円。
品質モニタリングシステムを導入する。
サプライヤーも含めたグローバルなトレーサビリティを確立する。
 
(次世代商品の開発)
投資額1億円以上。
自動運転技術が進化するに伴い搭載されるカメラは台数が増加するのみでなく、より高性能な次世代デジタルカメラが利用されることとなることを見据え、次世代デジタルカメラ用コネクタの創出に取り組む。
また、カメラ以外に車内ネットワーク用コネクタの開発も進める。
 
③プラットフォームへの仕込み
職場環境と情報インフラを整備する。
 
(厚生棟の新設)
投資額2.5億円。
より働きやすい職場環境を構築するため安曇野工場にカフェテリアと独身若手向けのシェアハウスから成る厚生棟を建設する。
コンセプトは「混じり、学び、伸びる安曇野キャンパス」。
2019年4月のオープンを目指している。
 
(基幹システムの刷新)
投資額3億円。
SAPの導入を決定した。
ヒト・モノ・カネ・情報を一元管理し経営や事業のスピードアップや生産性の向上を図り、基幹システム導入の目的をオペレーションの遅滞ない推進ではなく、重要な経営判断の決定にシフトする。
 
以上の3分野で仕込みを進める中で、設備投資には当初計画比1.5億円増、人材投資には同0.5億円の追加投資を実施することとした。
 
 
佐谷社長に聞く
 
佐谷社長に中期計画「GC20」の進捗状況などを伺った。
 
「8K用光コネクションおよび車内ネットワーク用コネクタの事業化に注力。新規顧客開拓で着実に実績」
Season1の最終年度の目標である「売上高200億円、営業利益18億円」はほぼ達成の見込みだ。
ここからは最終目標である「売上高250億円、営業利益25億円」に向けて、特に売上高をどう積み上げていくかが課題と考えている。
そのためには新製品のリリース、新規顧客の開拓が重要なポイントとなる。

(新製品開発)
業務用コネクタ事業では「AOC:Active Optical Connector」と呼ぶ8K用光コネクションの実用化が大きな鍵となる。
ハイビジョンよりも高精細な4K、8Kは来年からテレビの試験放送が始まるなど今後の用途拡大が見込まれているが、当社では「セグメントNo.1」の事業コンセプトからテレビなどのボリューム・ゾーンではなく医療やFA分野といった多品種少量市場の開拓を推進していく。
11月29日(水)から12月1日(金)に東京ビッグサイトで開催された展示会「SYSTEM CONTROL FAIR 2017(SCF2017)」にAOCを出展したが、引き合いも多く、手応えを感じている。
2019年からの収益貢献を目指している。

車載用コネクタ事業においては、更にボリュームを拡大させるにはカメラ用コネクタ以外への広がりが欠かせない。そこで当社が注力しているのが「車内ネットワーク用コネクタ」だ。
自動運転技術の進歩に伴い自動車内外でやり取りされる通信量は飛躍的に拡大し、コネクタやケーブルなど車内LAN(ローカルエリア・ネットワーク)を構成する機器の数も増加の一途を辿っている。
当社では車内LAN向けにはEthernet(※)が主流となるとみているが、車内Ethernet用コネクタ技術は世界的にも確固たる技術はまだ確立されておらず、大きなビジネスチャンスが広がっている。
 
※Ethernet:コンピュータネットワークの規格のひとつで、世界中のオフィスや家庭で一般的に使用されているLAN(ローカルエリア・ネットワーク)で最も使用されている技術規格。LANで接続された多数のコンピュータが、効率よく通信回線を利用できるように考えられた通信方法で、大量の機器が導入している圧倒的なコスト・パフォーマンスの良さや、相互接続性、拡張性の高さなどから車内LANでも主流になると言われている。
 
当社が車載カメラ用コネクタで確かなポジションを築き認知度も高めることができた大きな背景・理由の一つは、他社の半分の時間で顧客の要望に応えた試作品を納品することができる「スピーディーな試作力」だ。
自動車の設計において車内ケーブルの引き回しは最終確定まで何度も変更されるのが通常で、その都度試作品が必要となる。
当社では「多品種少量生産」と「短納期」という得意技を活かし試作品を短期間で納品し、お客様に大変喜んでいただいている。これまでに様々な顧客ニーズに対応してきた結果、現在では約350種類の品目を製造しており、これらの蓄積によって多品種少量生産の技術力はさらに磨きがかかっている。
車載カメラ用コネクタで培ったポジショニングやアドバンテージを活かし、創業以来「通信」で大きく飛躍してきた当社としては「車内ネットワーク用コネクタ」でも必ずやトップランナーに立つという決意で取り組んでいく。
こちらも2019年からの収益貢献を見込んでいる。

(新規顧客開拓)
これまで車載用カメラの納入先は日本の大手電機メーカー1社であったが、今期より別の日本の大手電機メーカー向け納入が本格的に立ち上がった。
同社を通じた製品供給先は現時点では国内自動車メーカー1社だが、今後は複数社に広がる予定であり、まずは着実な進捗を遂げることができたと考えている。

当社はこれまで、限られた製品、顧客への依存度が高いのが課題であったが、以上のような取り組み、進捗によって課題の克服が進みつつある。今後も更に事業基盤の強化を図っていく考えだ。

「更なる成長に向け研修体系の研究を開始した。また社員のモチベーション維持・向上のための環境作りも進んでいる。」
企業が成長するうえで最も重要な投資である「人材投資」については、教育投資に加え研修体系の研究を始めている。
2000年代初頭のITバブル崩壊でリストラを進めた当社は2011年にようやく新卒採用を再開した。2032年に創業100周年を迎える当社がその後も更に成長を遂げるためには、その時点で30~40歳となる新卒採用再開時の入社社員の育成が不可欠であり、どのように育成していくかをモデルとして確立しなければならない。
そのためには現在のゼネラルマネジャークラスの意識も変えていく必要があり、どんな研修制度・体制が必要かを検討するプロジェクトをスタートさせた。
社員のモチベーション維持・向上も重要なポイントだ。
現在本社では業務用コネクタ事業については「AOC」実用化や既存コネクタのリニューアル、車載用コネクタに関しては自動運転のレベル4(高度運転自動化)での採用に向けた大変重要な時期を迎えている。また工場はフル生産体制が続き、全社的に大変多忙を極めており、効率的に仕事を進めると同時に、精神的なゆとりを持つことも重要になっている。
こうした状況の中、当社では働き方の指針として「楽勤」という標語を掲げている。
「生産性向上」というと益々息苦しく感じてしまい、精神的につらくなってしまう嫌いがある。そうではなく「気持ちを切り替えて仕事に臨もう。」、「明日、来年を今よりも楽しく楽に働けるよう、今工夫しよう。」という呼びかけだ。

加えて、生産現場のモチベーション維持・向上のため私自身は安曇野工場での時間を増やしている。
全メンバーとの個別面談やグループでの懇親会などを通じて社員の意見を吸い上げ、工場スタッフのモチベーション向上に努めている。
また、安曇野における厚生棟の建設については、カフェテリアのイメージ造りやそれに基づいた壁、床、テーブル選びなどの詳細について、若手社員が意見を交わしながら進めている。あれこれとアイデアを出し合う彼らはイキイキとしており、その場に同席する私にとっても大変楽しい交流の場となっている。
残念ながら土壌汚染対策のため竣工は1年伸びてしまったが、社員との対話を含めたより働きやすい環境作りはしっかりと進めることができている。
 
 
今後の注目点
好調な業績を背景に、市場を大きく上回るパフォーマンスとなっている。
会社側は、原材料価格の値上がり、外注加工費の上昇などリスク要因も十分認識しており、FAおよび車載両分野の良好な受注環境から短期的には大きな下振れリスクは小さそうだ。
そうした中、投資家の視線はいよいよ仕上げの「Season2」に向くこととなろう。売上高250億円実現に向けたAOCを始めとした新製品の収益寄与、第2、第3の主要顧客開拓の進捗を注目したい。
 
 
 
 
<参考1:中期経営計画「GC20」>
 
全てのステークホルダーから信頼と期待をされる「よい会社」であるとともに、過去最高の売上、利益を更新し持続的成長企業へのスケールアップを目指すのが2021年3月期を最終年度とする新中期経営計画「GC20」。
 
(1)基本コンセプト
GC20の基本コンセプトは、『事業戦略として「Segments No.1戦略の深耕」、プラットフォーム戦略として「コンパクト経営の追求」により価値を創造し続けるGood Companyを目指す。』というもの。
また、Good Companyを持続的なものにするのが、グループ企業理念とコーポレートガバナンス基本方針である。
 
(2)グループ企業理念
今回のGC20策定に際し、同社ではグループの企業理念として「Value by Connecting」を新たに掲げた。
豊かな未来のために「人」、「もの」、「情報」をつなぎ、価値を創造し続ける事を目指すというビジョンを示したもの。
 
 
(3)コーポレートガバナンス基本方針
金融庁と東京証券取引所により策定された「コーポレートガバナンス・コード」が2015年6月1日から適用されるのに先立ち、2015年5月22日、「コーポレートガバナンス基本方針」を公表した。
株主を始めとした全てのステークホルダーとの信頼関係構築のためのコーポレートガバナンスの重要性を深く認識したうえで、最良のコーポレートガバナンスを実現することが自社の責務であると宣言している。
 
(4)事業戦略
特定分野で特徴あるソリューションを提供することで顧客に「この分野なら本多通信グループに限る」と高く評価される事を目指すのが「Segments No.1戦略」。
これまでも同社では、様々なNo.1商品を生み出してきたが、現在の形ではそれぞれの商品の持続性・継続性は不十分と考えている。

そこで、それぞれのNo.1商品を核に水平展開と次世代化で「Segments No.1 領域」を創り出し、特長のある価値を提供する事で持続的成長を目指していく。




その展開モデルは、現在のSegments No.1商品/サービスを核に、次世代商品やサービスを創出し、顧客の具体的な欲求である「ウォンツ」を解決するというもの。
同社の強みである、スピード、カスタム対応、少量短納期、周辺技術を差異化要因とし、新たな顧客、新たな市場への展開を図る。
 
分野別のSegments No.1 戦略は以下の通りである。
 
①業務用コネクタ Segments No.1 戦略:サービスとの融合戦略で顧客価値を倍化
長年培ってきた堅牢性や長期信頼性というハードの強みに、少量短納期、カスタマイズに加え、コネクタに付随する適切なハーネスもあらかじめ接続するワンストップ受注といった「サービス」を融合させ、顧客満足度を引上げる。
世界的にIoT、4Kや8Kの高画質化ニーズが高まる中、通信分野(海外における光通信化)、FA分野(グローバルな生産性向上ニーズ)、業務分野(セキュリティニーズ)において、堅牢性や長期信頼性といったノウハウの展開や高速POFによる市場創出により、通信分野やFA分野で規模と収益性を堅持する。
 
 
②車載用コネクタ Segments No.1 戦略:ADASコネクタへ進化させ、将来価値を倍化
自動車の安全系機能の進化スピードは目を見張るものがある。
自動車の目となる車載カメラも、パーキングアシストなど「撮る」機能から、ADAS(Advanced Driving Assistant System:先進運転支援システム)というコンセプトの下、車線検知、歩行者認識、衝突防止といった「測る」機能がより重要になると同時に、各自動車メーカーに限らずGoogleなど大手IT企業も含め、自動運転システムの開発が加速している。

ADASを構成するものは、車載カメラに加え、センサ、ミリ波レーダー(ミリ波帯の電波を用いて100m程度の範囲の状況を探知可能なレーダーシステム)、レーザー、ECU(エンジンコントロールユニット:エンジンの運転制御を電気的な補助装置を用いて行う際に、それらを総合的に制御するマイクロコントローラ)、電子ミラー、カーナビ、HUD(Head Up Display:フロントガラスに運転者向けの基本的な情報の画像を提供する)など、多岐にわたり、その全てがデジタル高速伝送により情報のやり取りが行われ、コネクタの活躍するシーンはますます拡大する。

こうした流れの中、車載カメラ数量は2014年度から2020年度で約3.5倍の14,000万個に、ADAS市場も同期間に2.5倍の7,700億円に急成長すると見られており、同社では高速伝送、小型化などコネクタメーカーならではのノウハウを注入したADAS用コネクタを開発し、急成長市場に投入する。

販売は、北米のTier1(自動車部品メーカーのうち、自動車メーカーに直接納入する一次サプライヤー)メーカーへの参入を狙う。また、製造においては中国、東アジアに次ぐ拠点づくりの検討を開始している。
 
 
③情報システム Segments No.1 戦略:インテグレーションで事業価値を倍化
サーバ効率化のための仮想化において業界屈指の技術を有しており、現在はクラウドコンピューティングの広がりの中、世界的ベンダーとの連携により、上流工程からの受注に力を入れ高付加価値の一括案件の獲得を進めている。今後は、データの収集から分析までを一括して請け負うビッグデータ基盤ソリューションを提供し、特徴あるSegments No.1の獲得を目指す。
成長市場において、企画から運用までフルサポートする総合提案で収益性の向上にも取り組む。
 
 
(4)プラットフォーム戦略:コンパクト経営の追求
以上の様な事業戦略の下で営業利益率の向上を目指す同社だが、繰越欠損が無くなること等から今後の実効法人税率の上昇は避けられず、市場の期待に応える水準のROE、ROAを実現するためには「資産の軽量化/高回転化」、具体的には総資産回転率の引き上げが重要な課題となる。
前期の同回転率は1.39回だったが、以下のような取り組みによって1.4~1.5の達成を目指す。
ROICを意識した事業投資。設備は小型、省スペースおよび転用が可能なものとする。またEMSの活用など、社外リソースとの共創を進める。
ロスや無駄をなくしての生産性向上。製造や業務品質の向上。遊休資産や過剰在庫の極小化に取り組む。
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の短縮
機動的な資本政策
 
(5)目標とする経営指標
2016年3月期から2018年3月期までの「貯めのSeason1」と、2019年3月期から2021年3月期までの「収穫のSeason2」の2つの期間から構成される「GC20」において、以下のような経営指標の達成を目指している。
>策定当初の計画<
 
(6)よい会社に向けて
全てのステークホルダーからの信頼と期待の下、組織力と人材力の強化に最注力し、持続的成長を遂げる「よい会社」を目指す。
 
 
<参考2:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2017年6月27日