ブリッジレポート
(4549) 栄研化学株式会社

プライム

ブリッジレポート:(4549)栄研化学 vol.13

ブリッジレポートPDF

 

和田 守史 社長

栄研化学株式会社(4549)

 

 

会社情報

市場

東証1部

業種

医薬品(製造販売業)

代表取締役社長

和田 守史

所在地

東京都台東区台東4-19-9 山口ビル7   〒110-8408

決算月

3月末日

HP

http://www.eiken.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数

時価総額

ROE(実)

売買単位

1,850円

36,881,788株

68,231百万円

10.3%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

27.00円

1.5%

70.50円

26.2倍

942.37円

2.0倍

*株価は6/12終値。発行済株式数は19年3月期決算短信より(発行済株式数から自己株式を控除)。ROE、BPSは前期末実績。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2014年3月(実)

30,027

3,008

3,095

1,984

54.57

17.50

2015年3月(実)

31,014

2,826

3,013

2,100

57.57

17.50

2016年3月(実)

32,163

3,536

3,570

2,429

66.43

20.00

2017年3月(実)

33,274

3,976

4,112

2,918

79.69

25.00

2018年3月(実)

34,991

3,478

3,549

2,608

71.21

25.00

2019年3月(実)

35,761

4,611

4,681

3,447

93.63

30.00

2020年3月(予)

35,900

3,600

3,650

2,600

70.50

27.00

*単位:円、百万円。予想は会社側予想。2019年3月期は会社側予想。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
2018年4月1日付で1:2の株式分割を実施。EPS、DPSは遡及して調整。

 

栄研化学株式会社の2019年3月期決算概要、EIKEN ROAD MAP21019と新・中期経営計画、和田社長へのインタビュー等をご紹介致します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2019年3月期決算概要
3.2020年3月期業績見通し
4.EIKEN ROAD MAP21019と新・中期経営計画
5.和田社長に聞く
6.今後の注目点
<参考:コーポレートガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 19年3月期の売上高は前期比2.2%増の357億円。国内は便潜血検査用及び尿検査用試薬が増加したが、AIAの減少により前期並み。海外は豪州・欧州・米国における便潜血検査用試薬の売上が増加した。営業利益は同32.6%増の46億円。プロダクトミックスの変化で粗利率が約2%改善し、粗利額も同6.8%増加した一方、販管費は110億円と同1.2%減少した。海外向けの便潜血検査用試薬の新規採用の遅れおよび国内の東ソー導入品AIAの減少により売上は計画未達だったが、販管費が計画比3%減であったことから営業利益以下、計画を上回った。創立80周年を迎えたこと及び通期の業績を勘案した結果、期末配当を直近の配当予想から3円/株増配し17円/株とした。年間配当は30円/株で配当性向は32.0%。

     

  • 20年3月期の売上高は前期比微増収の359億円の予想。国内は減収、海外は米国、欧州で便潜血検査用試薬が引き続き堅調。減価償却費増など販管費が同8.6%増加し、営業利益は同21.9%減の36億円を見込む。配当は、年間合計27円/株の予定。予想配当性向は前期を上回る38.3%。

     

  • 持続的成長を継続し、事業のスピードアップと拡大を図るために、今期をスタートとする「EIKEN ROAD MAP 2019」を新たに策定した。第1ステージとなる3ヵ年の新中期経営計画では最終年度となる22年3月期「売上高387億円、海外売上高比率24.4%、営業利益率13.7%、ROE10%」を目指している。

     

  • 和田社長に、前期決算の振り返り、新中期経営計画のポイント、株主・投資家へのメッセージを伺った。「2028年のありたい姿に向けて着実に歩みを進め、同時にしっかりと利益も上げて、株主や投資家の皆様に還元してまいりたいと考えていますので、是非とも引き続き当社を長い目で応援していただきたいと思います。」とのことだ。

     

  • 前期の海外売上高は60億円と、前期比2桁の増収だった。減収となったアジア・オーストラリアも前々期からは年率2割の成長であり、同社の成長のカギを握る海外市場の成長性について疑う余地はないだろう。一方で、各地域とも予想を下回った点は気になるところだ。新中期経営計画では「2022年3月期海外売上高94億60百万円、海外売上高比率24.4%」を掲げており、19年3月期からの年平均成長率は15.9%となる。前中計3年間の同成長率20.2%からは低下するが、主要市場で一定のシェアを確保している同社が予想通り海外売上高を伸長させるには、ガイドライン変更により需要拡大が期待される米国市場での拡販に加え新規市場の獲得は欠かせないだろう。引き続き、海外市場開拓の進捗を注目したい。

     

1.会社概要

臨床検査の内、免疫血清検査、微生物検査、生化学検査、尿検査、遺伝子検査など、人体から採取した試料(検体)を調べる臨床検査薬の総合メーカー。検査機器の開発・販売も行っている。
国内シェア60%以上の便潜血検査を始め、尿検査や微生物検査など他社にはない独自技術・ノウハウを利用した高シェア製品多数。また独自開発の遺伝子増幅技術「LAMP法」は世界的に高い評価を得ている。便潜血検査、尿検査とLAMP法などの独自技術を武器にグローバル企業への成長を目指している。

 

 

【1-1 沿革】

1939年

興亜化学工業(株)として創立し、家畜臓器を原料とした栄養食品および医薬品の製造販売開始

1949年

日本で初めて細菌検査用粉末培地(SS寒天培地)の製品化に成功

1961年

臨床検査部門を開設し、臨床検査薬の研究開発開始

1969年

創立30周年にあたり、栄研化学(株)と社名変更

1972年

尿試験紙「ウロペーパー‘栄研’」発売

1987年

便潜血検査用試薬「OC-ヘモディア」(目視判定法)発売

1989年

便潜血測定装置「OCセンサー」発売

1990年

東京証券取引所市場第二部に株式を上場

1992年

尿自動分析装置「US-2100」発売

1998年

新規遺伝子増幅技術LAMP法を開発、特許出願

2001年4月

臨床検査薬・装置の自社販売を開始

2002年3月

東京証券取引所市場第一部に株式を上場

2002年3月

LAMP法が米国で特許成立

2002年3月

LAMP法を用いた第1号製品の「Loopamp牛胚性判別試薬キット」及び専用装置を発売

2002年5月

LAMP法が日本で特許成立

2003年12月

LAMP法を用いた体外診断用医薬品「Loopamp SARSコロナウイルス検出試薬キット」発売

2004年11月

便潜血検査用試薬及び装置の米国(FDA)での承認取得、発売

2005年7月

FINDとLAMP法を利用した結核の遺伝子迅速検査法の共同開発契約を締結

2008年2月

LAMP法に用いる超簡易前処理法(PURE法)の開発に成功

2008年10月

FINDと新たにマラリア、アフリカ睡眠病、HIVの共同開発の契約を締結

2009年3月

新経営構想『EIKEN WAY ・ EIKEN ROAD MAP 2009』策定

2011年6月

「Loopamp 結核菌群検出試薬キット」及び「Loopamp PURE DNA抽出キット」を日本で発売

2011年6月

オランダ・アムステルダムに欧州事務所開設(現・欧州支店)

2011年12月

FINDとリーシュマニア症の共同開発の契約を締結

2012年11月

イムノクロマト法による「イムノキャッチ-ノロ」発売

2013年3月~7月

BLEIA-1200専用試薬である「BLEIA'栄研'HCV抗体」、「BLEIA'栄研'HCV抗原」、「BLEIA'栄研'HBs

抗原」発売

2014年1月

FINDとシャーガス病の共同開発の契約を締結

2014年11月

便潜血測定装置「OCセンサーPLEDIA」発売

2015年1月

LAMP法を利用した次世代の小型全自動遺伝子検査装置及び多項目検査チップを開発

2015年2月

全自動尿分析装置「US-3500」発売

2016年1月

シスメックス株式会社と海外市場の尿検査事業において業務提携

2016年8月

TB-LAMPがWHO(世界保健機構)の推奨を取得

HUMAN社とTB-LAMP、マラリア検査のグローバル販売提携

2016年10月

尿試験紙の新製造棟竣工

2019年4月

新経営構想『EIKEN ROAD MAP 2019』策定

*LAMP法、FINDについては「2.特徴と強み④LAMP法の優位性」を参照

 

 

【1-2 経営理念】

*経営理念:「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」
*経営ビジョン:「EIKENグループは、人々の健康を守るために、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。」
*モットー:「品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”」

 

これらを中心に各ステークホルダーへの考え方として、EIKEN WAYを策定している。

(同社資料より)

 

【1-3 市場環境】

<国内市場>
臨床検査薬市場は、2017年度で約3,600億円、研究用試薬と検査用機器を含めると約5,929億円(一般社団法人日本臨床検査薬協会調査)となっている。行政は増大している医療費を抑制するために特定健診(メタボ健診)やがん検診の受診率向上やOTC検査薬(薬局で購入できる検査薬)の規制緩和といった予防医療に力を入れており、今後、高齢化の進展と共に臨床検査数(検体数)の増加が見込まれる。

 

一方でマイナス面としては、価格競争による単価の低下、診療報酬改定(引き下げ)及び長期的には少子化による人口減少がある。ただ、診療報酬改定の対象である保険(検体検査実施料)の推移を見ると、1997年から2006年までの期間に約4割引き下げられたものの、その後はほぼ横ばいないし微減となっている(2018年度検体検査実施料 -0.4%)。これは同社の含めた業界全体として予防、検査の重要性を働きかけた結果という事で、中期的には国内市場は年率2%程度の微増傾向が続くと思われる。

 

前述の協会会員132社(2019年4月時点)の内メーカーは約80社で、売上100億円以上の企業は15社程度となっており、大多数は中堅・中小企業という構造。臨床検査は検査項目が多岐にわたっているため企業ごとに得意とする分野が異なり、企業間での棲み分けが出来ている。そのため、他社から原料・製品を仕入れて製造・販売するといった業務提携が多く見られる。また、そうした棲み分けが出来ている中、市場は小幅ながらも拡大しているため、明確な淘汰は現在のところ起きていないということだ。

 

<海外市場>
2015年の世界の検体検査薬・機器市場は約623億USDといわれており、地域別構成比は米国44%、欧州29%、アジア17%などとなっている。

 

市場規模自体が国内市場の10倍超と巨大であると同時に、先進国では高齢化の進展に伴う検査数の増加、また新興国においては経済成長、所得増加に伴う医療ニーズの拡大などにより、年率5%以上と国内市場を大きく上回る成長が見込まれるため、国内企業は積極的にグローバル化を進めている。
ただ、グローバル市場においては、ロシュ、アボット、シーメンス、ベックマンなど売上高が30~110億USDにも上る世界的大企業がメインプレーヤーとなっており、日本企業が競争に勝ち抜くためには独自性のある製品・システムの開発など競争力強化が不可欠である。

 

【1-4 事業内容】

1.臨床検査とは
臨床検査には、レントゲン、CT、MRI、心電図、超音波など、医療機器を使用して体を直接調べる「生体検査」と、患者から採取した血液、尿・便、細胞などの生体試料(検体)を調べる「検体検査」がある。
同社が取り扱う臨床検査薬とは、検体検査に使用する試薬の事で、例えば感染症の検査や便に含まれる微量の血液の測定など、病気の診断をサポートするもの。これら試薬の大部分は体外診断用医薬品と呼ばれ、医薬品医療機器等法の規制を受け、試薬メーカーなどがPMDA(医薬品医療機器総合機構)に対し申請し、認可を受けたものである。ユーザーは、病院、医院、診療所、受託を受けて検査を行う検査センター、健診センター、保健所、衛生検査所など。

 

2.主力製品
主として以下の各検査用試薬や測定装置を製造・販売している。
同社は幅広い検査薬を取り扱うために、自社製品に加え他社製品の仕入販売も行っている。
主要な自社製品は、便潜血検査用試薬、微生物検査用試薬、免疫血清検査用試薬、尿検査用試薬、遺伝子検査用試薬など。自社製品と他社製品の売上比率は約60:40。粗利率は自社製品が約55%、他社製品が約35%。

 

製品名

売上高

売上構成比

便潜血検査用試薬

10,016

28.0%

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

9,972

27.9%

尿検査用試薬

3,097

8.7%

微生物検査用試薬

5,153

14.4%

生化学検査用試薬

595

1.7%

器具・食品環境関連培地

2,169

6.1%

遺伝子(LAMP法)関連(機器含む)

1,315

3.7%

医療機器関連(遺伝子関連機器を除く)

3,440

9.6%

売上高合計

35,761

100.0%

*2019年3月期実績。単位:百万円

 

便潜血検査用試薬
大腸がんのスクリーニング検査として糞便中ヒトヘモグロビンを特異的に検出・測定する便潜血検査用試薬・採便容器を主力製品とし、グローバルに販売している。

 

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)
リウマチや炎症性疾患の診断及び胃の健康度評価(ABC分類)に使用する汎用自動分析装置用試薬「LZテスト‘栄研’」を始め、各種検査用試薬の開発、製造、販売を行っている。また東ソー(株)から、全自動エンザイムイムノアッセイ装置用試薬及び自動グリコヘモグロビン分析装置用試薬を導入・販売している。

 

尿検査用試薬
尿中の潜血、たんぱく質、ブドウ糖など多項目の検査が行える尿検査用試験紙「ウロペーパーⅢ‘栄研’」、全自動尿分析装置用には専用試験紙の「ウロペーパーαⅢ‘栄研’」などを開発・製造・販売している。
また、海外については、2017年よりシスメックス株式会社と業務提携し、販売が開始されている。

 

微生物検査用試薬
同社は創立以来、感染症及び食中毒の予防を目的とし、生体試料や食品・環境の微生物検査用試薬を開発してきた。現在では、各種細菌検査用培地(増菌用培地、分離用培地、生物学的性状検査用培地、同定検査用培地)、薬剤感受性検査用試薬、迅速検査試薬など、微生物感染症の診断・治療に有用な各種検査用試薬を開発・製造・販売している。

 

生化学検査用試薬
生活習慣病との関連性が注目されている検査項目を中心に、血清や尿を検体とし生体成分を測定・分析する「エクディアXL ‘栄研’」シリーズなど、生化学検査用自動分析装置に対応する各種検査用試薬を開発・製造・販売している。

 

器具・食品環境関連培地
食中毒原因微生物の検査などの食品微生物検査用試薬や作業環境の汚染実態などを把握できる環境微生物検査用試薬及び検査用器具・器材の販売を行っている。

 

遺伝子(LAMP法)関連
同社は1998年、新規遺伝子増幅技術LAMP法を独自開発し特許を取得し、LAMP法を利用した遺伝子検査用試薬を開発・製造・販売している。また、ライセンスも積極的に実施している。このLAMP法は、「簡易、迅速、精確、安価」という特徴を有しており、今後のグローバル展開のための大きな武器となっている。(詳細は後述)

 

医療機器
各種自動分析装置を販売している。自社試薬を使用する専用装置は製造委託を行っている。便潜血測定装置「OCセンサー」は1989年の発売以来、技術革新と品質向上を重ねている。また、独自技術である画像処理システムを使用した尿自動分析装置「US」、臨床検査分野で世界初となる全自動生物化学発光免疫測定装置「BLEIA-1200」、LAMP法リアルタイム濁度測定装置「LoopampEXIA」など取り揃えている。

 

3.販売体制
国内の販売体制は10営業部。学術部門が販売促進の支援を行っている。
2019年3月期の全従業員719名(連結)中、約300名が営業部門。
ユーザーである病院など医療機関向けチャネルに関する直接の販売先は医療系卸会社で、殆ど全ての卸会社と取引を行っている。
海外販売においては、基本的に1か国・1代理店体制をとっており、販売とメンテナンスを委託しており、本社の海外事業室が管理している。輸出先は44ヵ国(2019年3月期)。米国、イタリア、フランス、スペイン、ドイツ、オーストラリア、韓国、台湾が海外売上の大半を占めている。アムステルダム(オランダ)に欧州支店があるほか、中国に関しては連結子会社「栄研生物科技(中国)有限公司」での生産・販売体制の強化を行う他、中国事業室を設置しビジネス拡大を図っている。今後は規模拡大に伴い現地法人化も検討していく。
2019年3月期の海外売上高は6,070百万円。うち便潜血検査用試薬は3,940百万円で構成比は64.9%。

 

【1-5 ROE分析】

 

12/3期

13/3期

14/3期

15/3期

16/3期

17/3期

18/3期

19/3期

ROE(%)

7.0

10.9

8.3

8.3

8.9

10.0

8.3

10.3

 売上高当期純利益率

5.27

8.56

6.61

6.77

7.55

8.77

7.45

9.64

 総資産回転率

0.84

0.84

0.84

0.83

0.83

0.80

0.78

0.77

 レバレッジ

1.58

1.52

1.50

1.47

1.42

1.43

1.43

1.38

*単位:%、回、倍

 

19/3期のROEは9.2%を見込んでいたが、実績はこれを上回った。「新中期経営計画」では最終年度2022年3月期10%を掲げている。
引き続き高付加価値製品の開発、新規事業・新規市場の創出及び原価率及び販管費率の低減による利益率及び生産性向上を一段と強化する。

 

【1-6 特徴と強み】

①高シェアの製品群
便潜血検査用試薬の国内シェアは60%以上でトップであるほか、尿検査用試薬で約26%(2位)、微生物検査用試薬で約16%(4位)等と他社にはない独自技術・ノウハウを利用した多くの自社製品において高いシェアを有している。同社が便潜血検査用試薬で高いシェアを獲得することができた背景としては、1987年に発売した目視判定法用の便潜血検査用試薬「OC-ヘモディア」が、競合品に比べユーザーニーズに合致した製品であったこと、1989年には測定原理に免疫法(ラテックス凝集法)を採用し世界初の全自動分析装置「OC-センサー」を発売したことである。
また、便潜血検査は1992年に老人保健法の改正が行われ、大腸がん検診のスクリーニング検査法として公費で受診が可能(受診者負担が無料)になったのをきっかけに、普及が加速し競争が激しくなったが、同社は、機能を一新した「OC-センサーneo」を2001年に発売し、シェアを拡大してきた。

(同社資料より)

 

便潜血検査に関してはこの特徴を活かして海外展開を進めている。
日本で実施されている免疫法は、ヒトの血液のみ反応する試薬となっており、また、自動化装置による大量処理が可能である。
一方海外では化学法による古いタイプの試薬が使用されており、精度面に課題がある。2011年になりようやく欧州の検診ガイドラインで免疫法による自動装置測定が推奨され、大きな市場の変化が現れ始めた。
また、市場が最も大きいアメリカでも化学法が主流であるが、徐々に免疫法へのシフトが始まっており、USPSTF(米国予防医療特別委員会)の大腸がんスクリーニングに関する新ガイドラインが2016年6月に発行されたが、その中で従来の化学法ではなく免疫法が優れていると指摘されたことに加え、当社の便潜血検査製品『the OC FIT-CHEK family of FITs』が、高い感受性と特定性で最高の検査パフォーマンスを有していると評価された。さらにアジア、南米の先進国・新興国には未開拓な大きな市場が控えている。
便潜血検査市場は、ニッチな市場であるため、いち早く免疫法を開始した日本企業の技術が最も進んでおり、同社の試薬・装置がグローバルスタンダードとなっている。

 

②研究開発に注力
研究開発型企業として独自性のある技術の研究開発と、それをベースとした顧客ニーズに対応したオリジナル製品の開発に注力している。研究開発要員は約100名。
顧客の要望は医療のクオリティ向上。具体的には、高感度・高品質による疾患の鑑別精度の向上、検出率の改善といった点が挙げられる。加えて、使用法が簡便であれば医療従事者の負荷軽減につながるため、そうしたニーズへの対応も重要なポイントとなっている。
同社は、1939年の創業以来培ってきた試薬製造の独自技術が蓄積されており、またその試薬の性能を有効に活用するための装置に関しても、便潜血検査用装置や尿自動分析装置、生物化学発光免疫測定装置(BLEIA法)、遺伝子検査などで他社にはない独自技術が用いられている。

 

③アライアンス戦略による多品種・多分野展開
臨床検査薬はその対象、項目は多岐にわたり、すべてを自社で開発・製造・販売を手掛けることは困難である。同業他社の多くは自社の得意な技術・製品に絞っているが、同社は臨床検査薬の総合メーカーとして、収益構造の安定化をめざし、アライアンス戦略を通じて自社の有する強みの拡大、機能の補完、新技術の取得といったシナジー効果を追求しつつ、広範に取扱製品を揃え、医療機関を始めとした顧客、ユーザーのニーズに対応している。
多品種・多分野に展開しているもう一つの理由としては、経営理念「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」にあるように国民の健康を守るという責務を達成するためには、幅広い臨床検査に対応することが企業としての社会的責任であるとの想いも根底にある。

 

④「LAMP法」の優位性
遺伝子検査の中の過程の一つである遺伝子増幅プロセスにおける現在の主流技術は「PCR法」と呼ばれるもの。これに対し同社は1998年「LAMP法」という独自技術を開発した。

 

「LAMP法」はPCR法と比較して、以下の様な優れた特徴を持ち、簡易で迅速に特異性の極めて高い遺伝子検査を行うことが出来るものである。

 

簡易

一定温度で増幅反応が進む。(PCR法は増幅に温度変化が必要)

迅速

増幅効率が高く30~60分で検出可能。(PCR法は2~3時間)。

精確

特異性が極めて高い。

 

現在、医療分野では感染症検査である結核やマイコプラズマ(真正細菌の一属で、肺炎の原因となることもある。)、レジオネラ、百日咳等の検査に使われている。
同社はLAMP法の地位確立のため感染症検査に注力すると同時に、LAMP法の普及・認知度向上のために、畜産・水産、食品・環境など医療以外の分野での利用を推進しており、実際にLAMP法に基づく製品は2002年以降次々と実現している。
また同様の目的から、LAMP法陣営構築のために外部に対し積極的なライセンス許諾を行っている。
LAMP法を世界的に普及させるための中心的な取り組みの一つが、「FIND」とのアライアンスである。
「FIND」は「Foundation for Innovative New Diagnostics」のことで、2003年5月に開催された国連の世界保健会議の場で設立されたスイス政府認可の非営利財団。当初5年間、Bill & Melinda Gates Foundationからの助成金を受けて活動を本格化している。途上国における感染症撲滅のために、手頃な価格で、取り扱い易く、先進的な検査・診断方法を開発・導入する事を活動の目的としている。

 

FINDでは対象とする感染症として、結核、マラリア、アフリカ睡眠病などを上げているが、このうち結核について途上国で実施されている顕微鏡検査(塗沫検査)よりも精度を向上させることを目的として、LAMP法による結核検査の共同研究が同社とFINDによって2005年7月より開始された。
途上国の現場でも利用できるように、前処理工程の簡略化(PURE法)、試薬保存方法の改良(室温保存)、装置の簡略化など、PCR法では実現できない改良が加えられた(TB-LAMP)。LAMP法を利用したこの製品は2011年に日本で既に販売となっている。その後、WHO(World Health Organization、世界保健機関)の推奨獲得のために、途上国14ヵ国での評価試験を終了し、WHOに資料を提出していたが、2016年8月、顕微鏡検査に代わる、あるいは顕微鏡検査を補強する検査としてWHOからの推奨を取得することができた。

 

WHOが2017年11月に発表した世界の結核に関する報告書によれば、2016年の世界202カ国における結核の罹患患者数は1,040万人で、2014年の960万人から80万人増加し、死亡者数は170万人で、2014年の150万人から20万人増加したという。そのほとんどが未診断例や未治療例と見られ、「診断や治療へのアクセスが整備されていない国での対策強化が必要」としており、TB-LAMPの普及、浸透はこうした問題解決に大きく貢献するものと同社では考えている。

 

加えて同社は、結核以外にも前述の疾病のほか、リーシュマニア症及びシャーガス病の検査薬に関して、FINDと共同開発を進めている。

 

また、同社はLAMP法を利用した次世代の小型全自動遺伝子検査装置および多項目検査チップ「Simprova(シンプローバ)」を開発している。
本装置は、検体前処理(核酸抽出・精製)から増幅・検出までを全自動で行え、従来の高純度な核酸抽出・精製を行う装置と増幅・検出装置で合わせて2時間以上を要していた操作時間を、LAMP法の特徴を活かした独自プロトコルの開発により、1時間以内に短縮することが可能となる。まず、複数の呼吸器感染症原因微生物の同時検出を目的とした臨床性能試験を実施するが、その使用用途は広い。
同社では、これらの製品はLAMP法の普及を加速させるとともに、新たな市場を構築した中でグローバルスタンダードとしての地位を確立させるものと期待している。

 

*遺伝子増幅法
遺伝子検査では、検体に含まれる目的の遺伝子量が極めてわずかなため、遺伝子を検出するためにはまず目的とする遺伝子を増幅させなければならず、遺伝子検査において最も重要なポイントが遺伝子増幅となる。

 

*アフリカ睡眠病
熱帯アフリカの風土病で、トリパノソーマという原虫がヒトに感染して引き起こす重大な熱帯病。ツェツェバエが媒介する。ヒトの血液中のトリパノソーマがツェツェバエに吸血され、その体内で発育、増殖し2~5週で終末トリパノソーマ型となって次の感染源となる。高熱、頭痛、嘔吐などをきたし、ひたすら眠るようになる。食事が摂れなくなるので痩せ、全身衰弱となり、多くは合併症を引き起こして死亡する。

 

*リーシュマニア症
リーシュマニアという原虫の感染によって引き起こされ、黒熱病といわれる内臓リーシュマニア症、皮膚と粘膜をおかすブラジルリーシュマニア症、皮膚をおかす熱帯リーシュマニア症があり、いずれも吸血昆虫、とくにサシチョウバエが媒介する。内臓リーシュマニア症は約3か月の潜伏期の後、高熱、発汗や下痢が生じ、1か月ぐらいすると肝臓と脾臓が腫れ、貧血が進み、放置すると衰弱し、半年から2年で死亡することもある。

 

*シャーガス病
米国南部や中南米において哺乳類吸血性であるオオサシガメ亜科のサシガメを媒介とする感染症。すぐには発病せず、一般的に30年ほどの潜伏期間がある。リンパ節、肝臓、脾臓などの腫脹、筋肉痛、心筋炎、心肥大、脳脊髄炎、心臓障害といった症状をもたらす。

 

2.2019年3月期決算概要

(1)連結業績概要

 

18/3月期

構成比

19/3月期

構成比

前期比

期初予想比

売上高

34,991

100.0%

35,761

100.0%

+2.2%

-2.7%

 国内

29,586

84.6%

29,691

83.0%

+0.4%

-0.7%

 海外

5,405

15.4%

6,070

17.0%

+12.3%

-11.6%

売上総利益

14,699

42.0%

15,692

43.9%

+6.8%

-

販管費

11,220

32.1%

11,080

31.0%

-1.2%

-

営業利益

3,478

9.9%

4,611

12.9%

+32.6%

+9.8%

経常利益

3,549

65.7%

4,681

77.1%

+31.9%

+10.7%

当期純利益

2,608

48.3%

3,447

56.8%

+32.1%

+13.5%

*単位:百万円

 

前期比増収・増益
売上高は前期比2.2%増の357億円。国内は便潜血検査用及び尿検査用試薬が増加したが、東ソー導入品AIAの減少により前期並み。海外は豪州・欧州・米国における便潜血検査用試薬の売上が増加した。
営業利益は同32.6%増の46億円。プロダクトミックスの変化で粗利率が約2%改善し、粗利額も同6.8%増加した一方、販管費が110億円と同1.2%減少した。
海外向けの便潜血検査用試薬の入札遅延および国内でのAIAの減少により売上は予想に対し未達だったが、利益は販管費が計画比減であったことから予想を上回った。
創立80周年を迎えたこと及び通期の業績を勘案した結果、期末配当を直近の配当予想から3円/株増配し17円/株とした。年間配当は30円/株で配当性向は32.0%。

 

(2)製品別売上高

製品名

18/3期

19/3期

前期比

予想比

便潜血検査用試薬

9,085

10,016

+10.2%

-5.9%

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

10,027

9,972

-0.5%

-3.8%

尿検査用試薬

2,905

3,097

+6.6%

+1.0%

微生物検査用試薬

5,096

5,153

+1.1%

-1.5%

生化学検査用試薬

608

595

-2.1%

-

器具・食品環境関連培地

2,182

2,169

-0.6%

-

遺伝子(LAMP法)関連(機器含む)

1,192

1,315

+10.3%

-5.1%

医療機器関連(遺伝子関連機器を除く)

3,894

3,440

-11.7%

-

売上高合計

34,991

35,761

+2.2%

-2.7%

*単位:百万円

 

○便潜血検査用試薬
国内は前期比3.7%増。大型施設での新規採用があったほか、全国的な検体数増により堅調だった。
一方、海外は同22.1%の増収。米国ではACS(American Cancer Society)ガイドラインが改訂され、受診対象年齢が50歳から45歳に引き下げられた。さらに、USPSTF(U.S. Preventive Services Task Force:米国予防医療専門委員会)が40歳までの引き下げ案を発表したことを受け、新規対象者への啓発及び販売促進を積極的に展開した。
欧州では、ドイツにおいて主要検査センター向けが堅調でシェアが拡大した。フランスでは受診率向上に向けた施策が実を結び受診率が向上した。また数か国での入札への対応を行った。
中東各国で大腸がん国家スクリーニング獲得に向けた活動を継続したほか、オーストラリアでの国家スクリーニングは順調に推移している。

 

○免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)
AIA関連試薬は、新製品オートタキシン(肝繊維化マーカー)の販売促進を行ったが、他社との競争激化、市場価格の下落により減収となった。自社製品では胃の健康度評価(ABC分類)の普及促進に努めた。

 

○尿検査用試薬
国内は、大手検査センター採用等により売上が増加した。尿沈査機器とUS-3500の組み合わせによる提案により新規採用が拡大した。
海外では、シスメックス社向け尿試験紙の売上が寄与した。米国FDAへの申請を対応中である。

 

○微生物検査用試薬
迅速検査試薬は、イムノキャッチシリーズの新規採用等により増収。他社との競争は激化傾向にある。
薬剤感受性検査用試薬は、新規顧客獲得により増収。MALDIバイオタイパーとの組み合わせによる提案を継続中。
糞便培地検査の遺伝子検査への変更の影響を受け、生培地(ポアメディア)は減収だった。臨床検査用培地、改良品の販売を進めた。

 

○遺伝子(LAMP法)関連
国内では、診療報酬改正の加算および百日咳が全数把握疾患に指定されたことにより、結核菌群および百日咳菌検出試薬キットが好調だった。
海外では、TB-LAMPがカメルーンで採用され、販売会社である独HUMAN社を通じた販売が拡大した。加えて、フィリピンなどを対象にカメルーン採用事例を水平展開した。
特許料収入は前期比9百万円増加の512百万円。

 

(3)海外動向

 

17/3期

18/3期

19/3期

前期比

予想比

海外売上高

4,086

5,405

6,070

+12.3%

-11.6%

 北米

1,008

1,229

1,447

+17.7%

-18.2%

 欧州

1,396

1,550

2,134

+37.7%

-5.2%

 アジア・他

1,682

2,626

2,489

-5.2%

-12.7%

  うち、OC

2,414

3,228

3,940

+22.1%

-

 その他

1,671

2,177

2,130

-2.2%

-

*単位:百万円

 

便潜血検査用試薬は豪州・欧州及び米国で売上が順調に推移した。
一方、機器を含むその他は、シスメックス社向け尿検査分析装置の各国初期展開用在庫の影響により減収となった。各地域とも予想は下回った。

 

(4)設備投資・研究開発・減価償却

 

17/3期

18/3期

19/3期

19/3期

期初予想

研究開発費

2,336

3,238

2,904

3,200

設備投資

3,959

1,102

1,685

2,500

減価償却費

1,563

1,660

1,594

1,750

*単位:百万円

 

(5)財務状態とキャッシュ・フロー

◎主要BS

 

18年3月末

19年3月末

 

18年3月末

19年3月末

流動資産

27,197

25,852

流動負債

11,550

10,981

 現預金

9,734

7,554

 買入債務

7,464

6,580

 売上債権

11,718

11,959

 未払法人税等

701

770

 たな卸資産

5,294

5,825

固定負債

1,136

1,284

固定資産

17,968

21,427

負債合計

12,687

12,265

 有形固定資産

11,391

11,095

純資産

32,478

35,014

 無形固定資産

435

744

 株主資本

31,876

34,537

 投資その他の資産

6,140

9,587

負債純資産合計

45,165

47,279

資産合計

45,165

47,279

自己資本比率

71.2%

73.5%

*単位:百万円。買入債務には電子記録債務を含む。

 

現預金の減少などで流動資産は前期末比13億45百万円減少。長期預金の増加等で固定資産は同34億59百万円増加。資産合計は同21億13百万円増加の472億79百万円となった。
買入債務の減少等で、負債合計は同4億22百万円減少の122億65百万円となった。
純資産は利益剰余金増などで同25億35百万円増加の350億14百万円となった。
この結果、自己資本比率は前期末の71.2%から73.5%へ2.3%上昇した。

 

◎キャッシュ・フロー

 

18年3月期

19年3月期

増減

営業CF

4,091

3,318

-773

投資CF

-3,250

-4,435

-1,185

フリーCF

841

-1,117

-1,958

財務CF

-1,175

-1,083

+92

現金及び現金同等物

6,651

4,448

-2,203

*単位:百万円

 

仕入債務の減少などで営業CFのプラス幅は縮小。定期預金の預入増などで投資CFのマイナス幅は拡大し、フリーCFはマイナスに転じた。財務CFはほぼ変わらず。キャッシュポジションは低下した。

 

3.2020年3月期業績予想

(1)連結業績予想

 

19年3月期

構成比

20年3月期(予)

構成比

前期比

売上高

35,761

100.0%

35,900

100.0%

+0.4%

 国内

29,691

83.0%

28,980

80.7%

-2.4%

 海外

6,070

17.0%

6920

19.3%

+14.0%

営業利益

4,611

12.9%

3,600

10.0%

-21.9%

経常利益

4,681

13.1%

3,650

10.2%

-22.0%

当期純利益

3,447

9.6%

2,600

7.2%

-24.6%

*単位: 百万円。予想は会社側発表

 

微増収減益を予想。
売上高は前期比微増収の359億円の予想。国内は減収、海外は米国、欧州で便潜血検査用試薬が引き続き堅調。
減価償却費増など販管費が同8.6%増加し、営業利益は同21.9%減の36億円を見込む。
配当は、年間合計27円/株の予定。予想配当性向は前期を上回る38.3%。

 

(2)設備投資・研究開発・減価償却

 

17/3期

18/3期

19/3期

20/3期期初予想

研究開発費

2,336

3,238

2,904

3,440

設備投資

3,959

1,102

1,685

3,330

減価償却費

1,563

1,660

1,594

1,880

*単位:百万円

 

19年3月期は研究開発費、設備投資ともに期初予想を下回り、研究開発費は18年3月期も下回ったが、今期は小型全自動遺伝子検査システム(Simprova)や基幹システムへの投資を確実に行う。

 

4.EIKEN ROAD MAP 2019と新・中期経営計画

(1)EIKEN ROAD MAP2019

10年単位でありたい姿を掲げ、その実現に向け基本戦略を構築・推進していく同社は、持続的成長を継続し、事業のスピードアップと拡大を図るために、今期をスタートとする「EIKEN ROAD MAP 2019」を新たに策定した。
「EIKEN ROAD MAP 2019」におけるグランドビジョンは、創立90周年にあたる2029年3月期に「Saving Your Health: 世界的な臨床検査薬企業として、人々の健康を守り続ける」というもの。

 

ビジョン実現に向け以下3つの基本戦略を挙げている。

 

基本戦略

概要

(1)基本戦略1:成長と利益性の向上

①グローバル展開の推進

②国内販売の維持・シェアアップ

③利益性の向上

(2)基本戦略2:新たなビジネスの創出

①オープンイノベーションによる戦略的提携

②新規事業、新規市場の創出と進出

(3)基本戦略3:基盤整備

①IoT、AIによる生産性の向上

②人財の育成・確保と機構改革

③販売網整備とマーケティングの強化

 

「EIKEN ROAD MAP 2019」では、10年間を3つのステージに分け、各ステージにおける実現すべきテーマを設定している。

 

期間

テーマ

2020年3月期~2022年3月期

構造改革期:しっかりと基盤を鍛える

2023年3月期~2025年3月期

ブランド価値向上期:骨太な体制からグローバルに通用するブランド価値を育成

2026年3月期~2029年3月期

持続的成長期:創造された新たな価値をベースに着実な成長

 

(2)新「中期経営計画」(2020年3月期~2022年3月期)

「EIKEN ROAD MAP 2019」の第1ステージとなる中期経営計画を策定した。
構造改革期と位置づけ、グローバル企業「EIKEN」の実現に向けた社内体制の整備を行い、ヘルスケアを通じて世界に貢献するとともに持続的な成長と着実な収益性の向上を目指す。

 

①前中計の振り返り
売上高、営業利益とも未達だった。売上未達の主な要因は、目標に対する海外向け売上高の見込みとの差異であり、各国の情勢の変化、および新規製品投入の遅延等による。一方、営業利益率は10%を超え、高収益製品群の売上比率を高めることができた。

 

 

中計策定時の目標

結果

業績

営業利益4,700百万円

売上高37,880百万円

海外向け売上比率21.4%

ROE10.4%

営業利益4,611百万円

売上高35,761百万円

海外向け売上比率17.0%

ROE 10.3%

基本方針

国内市場での自社製品のシェアアップ

・自社製品群のラインアップ拡大による成長

・国内売上高29,691百万円

主に便潜血検査用試薬の売上拡大

グローバル展開の加速

・海外売上高8,120百万円

・安定成長できる事業ポートフォリオの構築

・海外売上高6,070百万円(年平均成長率20.2%)

便潜血検査及び尿検査の売上拡大により年成長2ケタ増収も、各国の情勢等により未達

研究開発力の強化

・新技術創生・導入による大型製品群の開発

・製品の改良、製品ラインアップの拡大

・Simprova呼吸器感染症パネル承認申請済み2019年度上市予定

・POCT製品追加(肺炎球菌/レジオネラ)

経営効率を高めるための基盤整備

・生産能力拡大と製造原価の低減

・全社最適化による経営効率の向上

・尿試験紙、便潜血検査用試薬およびLZ試薬増産に対応する生産体制確立

・全社ITシステムに着手

 

②重点施策
「構造改革期:しっかりと基盤を鍛える」として4つの重点施策を掲げている。

 

重点施策

概要

(1)経営効率を高めるための基盤整備

*基幹システムの統合、品質システムのIT化及び営業サービス部門のIT化による付加価値の高いサービスの提供。全社IT化を進める。

*グローバル展開を促進するためのシンプルかつフラットな組織機能・構造の改革。

*生産及び流通拠点の強化と整理統合による効率化のアップ。野木事業所の拡張を計画している。

(2)グローバル展開の推進

*大腸がんスクリーニング検査の普及促進と国家スクリーニングの獲得、新興国市場の開拓

*免疫血清学的検査用試薬、特に、ABC分類(胃の健康度評価)の普及拡大

*シスメックス株式会社との販売提携による尿定性検査分野での販売拡大

*LAMP法を用いた結核菌群検査及びマラリア検査等の展開加速。アフリカ・アジアを中心にカメルーン・フィリピンモデルの水平展開を推進する。

(3)国内販売の維持とシェアアップ

*自社製品群のラインアップ拡大による着実な成長。腎臓病早期スクリーニングや学童検診市場の構築に注力する。

*大腸がん、ABC分類(胃の健康度評価)の普及拡大と消化器がんスクリーニングブランドの確立

*小型全自動遺伝子検査システム(Simprova)の販売展開

(4)研究開発力の強化

*小型全自動遺伝子検査システム(Simprova)の新規パネルの開発推進

*オープンイノベーションによる新規バイオマーカーの開発

*プライマリケア領域などを対象とした新たなPOCTプラットフォームの開発

 

③研究開発・設備投資

 

19年3月期

20年3月期

21年3月期

22年3月期

研究開発費

2,904

3,440

3,380

3,400

設備投資

1,685

3,330

3,860

5,040

減価償却費

1,594

1,880

2,320

2,500

*単位:百万円。19年3月期は実績、以降は計画。

 

しっかりと基盤を鍛えるために積極的な投資を実行する。

 

研究開発においては、「コア技術のブラッシュアップと新技術への進化」、「新規試薬・技術、及び抗体生産技術開発推進」、「Simprovaにおける多項目チップのラインアップの充実」、「便潜血検査用測定装置後継機の開発」を主要テーマとしている。

 

設備投資においては、「基幹システムの統合:品質および営業サービス部門のIT化」、「新生産システム」、「野木事業所の隣接エリアを含めた再構築」、「Simprovaの生産体制」に注力する。

 

④業績目標

 

19年3月期

20年3月期

21年3月期

22年3月期

売上高

35,761

35,900

37,000

38,700

海外売上高

6,070

6,920

7,930

9,460

海外売上高比率

17.0%

19.3%

21.4%

24.4%

営業利益

4,611

3,600

3,950

5,320

売上高営業利益率

12.9%

10.0%

10.7%

13.7%

ROE

10.3%

7.4%

8%

10%

*単位:百万円。19年3月期は実績、以降は計画。

 

海外売上高比率の着実な上昇を見込む一方、持続的成長を実現するための積極的な投資により今期・来期は19年3月期の営業利益を下回る見込みである。

 

⑤株主還元
引続き配当性向30%以上の安定した配当を目標とする。

 

5.和田社長に聞く

和田社長に、前期決算の振り返り、新中期経営計画のポイント、株主・投資家へのメッセージを伺った。

 

Q:「前期決算に関してお話しください。まず海外の便潜血検査用試薬の結果についてはいかがでしょうか?」
A:「海外における便潜血検査用試薬販売はドイツでのシェア向上などにより順調に拡大させることができました。今後はアメリカでの更なる売上拡大、新市場の開拓などに着手していきます。」

 

海外における便潜血検査用試薬販売は順調に拡大させることができました。ドイツでは、免疫法が保険収載されたことにより採用が進み、継続的にアプローチしてきた大手検査センター中心にシェアを向上させました。
米国ではACS(American Cancer Society)ガイドラインが改訂され、受診対象年齢が50歳から45歳に引き下げられ、これに伴い対象人口が5,500万人から7,700万人に拡大しました。さらに、USPSTFが対象年齢を40歳への引き下げを検討しており、対象人口は1億4,000万人と拡大する可能性があります。もちろん計算上の話ではありますが、マーケットが更に拡大することは確かで、米国においても化学法から免疫法への転換が進む中で当社は免疫法のトップ企業としてそのニーズを確実に取り込んでいきたいと思います。
一方アジア・オセアニアは減収ではありましたが、前々期との比較では年率2割の伸長であり、引き続き成長市場であると考えています。
今後は大きな市場として残されているイングランドの他、東欧、ロシア、中南米などまだまだ化学法が圧倒的なシェアを持つ国や地域への進出を検討しており、現在市場調査を進めています。

 

Q:「Simprovaの上市時期についてはいかがでしょうか?」
A:「今期中の上市に向け準備を進めています。新たな市場開拓に繋がるものとして期待しています。」

 

今期中の上市に向け準備を進めています。
簡便・迅速に多項目同時検査を実現する小型全自動遺伝子検査システム「Simprova」は大病院や検査センターだけでなく、新たな市場開拓に繋がるものとして期待しています。

 

Q「続いて新中期経営計画のポイントをお話しください。」
A:「全社IT化、大腸がんスクリーニング検査における新規市場の獲得、消化器がんスクリーニングといえば「EIKEN」というブランド確立、オープンイノベーションの拡大による新規バイオマーカーの開発などに注力します。」

 

経営効率を高めるための基盤整備に関しては、これまで同様全社IT化が生産性および品質の向上、価格競争力の強化といった観点から不可欠なので一層注力していきます。
グローバル展開の推進は先程申し上げたように、大腸がんスクリーニング検査における新規市場の獲得を目指します。
また、シスメックス社との販売提携による尿定性検査分野での販売も順調に進捗していますので、今後も積極的に取り組んでいきます。

 

国内販売の維持とシェアアップに関しては、大腸がんスクリーニング検査の更なる普及の他、腎臓病早期スクリーニングや学童検診市場の構築にも取り組みます。
どちらも、早期発見により、我が国の医療財政健全化に対する貢献に繋がるものと考えています。
また大腸がん検診で成長してきた当社として、胃がんを含めた消化器がんスクリーニングといえば「EIKEN」というブランド確立も安定した事業基盤構築につながるものとして注力していきます。

 

研究開発力の強化については、オープンイノベーションにさらに力を入れていきます。
現在も国内外の大学や研究機関との協力関係を構築していますが、新規バイオマーカーや新技術の探索をメインテーマにオープンイノベーションの輪を更に広げていきます。
また、病気の予防という観点からプライマリケア領域を対象としたPOCT(Point Of Care Testing:臨床現場即時検査)プラットフォームの開発にも取り組みます。

 

Q:「では最後に株主や投資家へのメッセージをお願いします。」
A:「初心を忘れることなく、「人々の健康を守る」という経営理念を今後も追求してまいります。EIKEN ROAD MAP 2019に掲げた、ありたい姿に向けて着実に歩みを進め、同時にしっかりと利益も上げて、株主や投資家の皆様に還元してまいりたいと考えています。是非とも引き続き当社を長い目で応援していただきたいと思います。」

 

当社は今年2月に創立80周年を迎えたわけですが、初心を忘れることなく、「人々の健康を守る」という経営理念を今後も追求していく企業でなければならないと思っています。
そのためには、経営だけでなく全社員が一丸となってそうした目標に向かい、持続的な成長を実現することができる体制を構築していきたいと考えています。

 

持続的な成長を実現するという意味では、モノづくりの基本である「品質とコストとスピード」に的確に対応したうえで、これからの世の中で本当に求められているものを見極めて、オープンイノベーションなども駆使し新たな製品やサービスの創造に取り組むことが必要です。その過程で、当社の収益拡大だけでなく日本の明るい将来に対しても貢献できるような企業にしていきたいと考えています。

 

そのために今年を初年度とするEIKEN ROAD MAP 2019と新・中期経営計画を策定しました。
1年、2年ですぐに結果が出るものではありませんが、2028年のありたい姿に向けて着実に歩みを進め、同時にしっかりと利益も上げて、株主や投資家の皆様に還元してまいりたいと考えていますので、是非とも引き続き当社を長い目で応援していただきたいと思います。

 

6.今後の注目点

前期の海外売上高は60億円と、前期比2桁の増収だった。減収となったアジア・オーストラリアも前々期からは年率2割の成長であり、同社成長のカギを握る海外市場の成長性について疑う余地はないだろう。
ただ一方データ、各地域とも予想を下回った点は気になるところだ。
新中期経営計画では「2022年3月期海外売上高94億60百万円、海外売上高比率24.4%」を掲げており、年平均成長率は15.9%となる。前中計3年間の同成長率20.2%からは低下するが、主要市場で一定のシェアを確保している同社が予想通り海外売上高を伸長させるには、ガイドライン変更により需要拡大が期待される米国市場での拡販に加え新規市場の獲得は欠かせないだろう。引き続き、海外市場開拓の進捗を注目したい。

 

 

<参考:コーポレートガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

指名委員会等設置会社

取締役

8名、うち社外5名

指名委員会

3名、うち社外2名

報酬委員会

3名、うち社外2名

監査委員会

3名、うち社外3名

 

 

◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2018年11月15日

 

<基本的な考え方>
当社のコーポレートガバナンスの考え方は、経営理念、経営ビジョン、モットーを基本としております。
*経営理念
ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。

 

*経営ビジョン
EIKENグループは、人々の健康を守るため、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品・サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。

 

*モットー
品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”

 

当社は、経営の健全化、迅速化及び透明性を高め、企業価値の向上を図るためにも、株主の視点を重視したコーポレートガバナンスの充実を経営の重要課題の一つと認識し、その取り組みを行っております。
当社は、指名委員会等設置会社の体制を採用しており、経営の業務執行機能と監督機能を分離しております。経営の基本方針に係わる重要事項については、取締役会の審議を経て決定し、業務執行については、社内規則・規程に基づき、適正な指示命令系統のもと迅速かつ円滑に行っております。

 

<実施しない主な原則とその理由>
「当社はコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しております。」。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示>

原則

開示内容

【原則1-3 資本政策の基本的な方針】

当社は、株主価値の維持向上を実現するために、資本効率の向上と持続的かつ安定的な株主還元を資本政策の基本方針としております。具体的な指標として、2019年3月期業績予想の見直しを踏まえ、自己資本当期純利益率(ROE)9.2%を目指します。また、株主還元につきましては、財務体質の強化と積極的な事業展開に必要な内部留保の充実を勘案した上で、連結配当性向30%以上の配当の継続を目標としております。

なお、支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)を行う際には、取締役会において、その必要性と合理性について十分検討し、適正な手続きを確保いたします。また、株主・投資家への十分な説明に努めてまいります。

【原則1-4 政策保有株式】

1.上場株式の政策保有に関する方針

当社は、営業活動の円滑な推進、取引関係維持、業務及び資本提携のため、合理性があると認める場合に限り、取引先の株式を保有し、これら政策保有株式について、当社事業の発展に資すると判断する限り保有を継続することを基本方針としております。毎年、取締役会にて個別の政策保有株式の保有目的や経済合理性を確認し、保有する意義の乏しい銘柄については、株価動向等を勘案した上で売却することにより、政策保有株式の縮減に努めております。

2.政策保有株式に係る議決権行使基準

当社は、政策保有株式の議決権について、当該企業のコーポレートガバナンスの整備状況、株主価値の向上に資する議案であるか、当社に与える影響等を総合的に判断して行使しております。

【補充原則4-11-3 取締役会の実効性の評価と結果の開示】

当社は、2016年度における取締役会の実効性に関する分析・評価を行いましたので、その結果の概要を開示いたします。

1.実施の目的

取締役会が適切に機能し、実効的に運営されていることを客観的に確認するとともに、指摘された課題については必要に応じて改善を図る。

2.実施対象及び実施方法

全取締役に対して、記名式・自由記述式のアンケートを実施

3.アンケート項目

(1) 取締役会の構成 (2) 取締役会の運営 (3) 取締役会の監視・監督状況等

4.分析・評価の結果概要

以下の点に鑑み、取締役会は適切に機能し、実効性が十分に確保できている。

(1)現在の取締役会の人数、社内・社外の構成比は適切であり、経験・知見・多様性のバランスがとれている。

(2)前年度アンケート結果を受け、資料の提供時期、審議時間、説明資料や説明方法を工夫したことにより、取締役会の運営に改善の効果がみられる。

(3) 前年度アンケート結果を受け、毎月の業務執行状況に加えて、重要事項の進捗状況を定期的に報告したことにより、取締役会の監視・監督がより充実した。

一方で、指摘された課題に対しては、以下のとおり取り組むことを確認した。

(1) ダイバーシティの観点からの取締役候補者の選定については、今後の指名委員会、取締役会で継続して検討する。

(2) 議論の実効性を高めるため、よりポイントを絞った資料作成・説明を行うなど、取締役会運営の更なる改善に努める。

【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】

当社は、取締役会で承認されたIRポリシーを制定し、基本方針、開示情報、情報開示方法、沈黙期間等を開示しており、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、合理的な範囲で株主からの対話に対応しております。

当社は、広報課をIR担当部署とし、広報課を管掌する経営管理統括部長をIR担当執行役としたIR体制を整備し、株主・投資家との対話の場を設けており、理解と信頼を得るよう努めております。

経営管理統括部長は経営企画部、経理部、人事総務部等のIRに関連する部署も同時に管掌しており、情報共有を密にすることで部署間の連携を図っております。

株主との対話といたしましては、決算短信及び第2四半期決算短信発表時の年2回、アナリスト・機関投資家向けに決算説明会を開催し、代表執行役社長による説明及び対話を行っております。また、株主・投資家との個別面談に関しては、広報課が対応しております。株主・投資家本人からの要望や、保有株数によっては、合理的な範囲で経営陣幹部や取締役が面談に対応しております。対話によって把握されました株主・投資家の意見等は、必要に応じてIR担当執行役から取締役会へ報告されます。

なお、当社は、IRポリシーに基づき、株主・投資家との対話を行っており、インサイダー情報が含まれないように十分留意することはもちろん、所定の法令等を踏まえて社内規程を制定し、それに基づき適正に管理しております。

 

 

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