ブリッジレポート
(6498) 株式会社キッツ

プライム

ブリッジレポート:(6498)キッツ 2020年12月期決算

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堀田 康之 社長

株式会社キッツ(6498)

 

 

企業情報

市場

東証1部

業種

機械(製造業)

代表者

堀田 康之

所在地

千葉県千葉市美浜区中瀬1-10-1

決算月

12月

HP

https://www.kitz.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数(期末)

時価総額

ROE(実)

売買単位

648円

90,396,511株

58,576百万円

2.8%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

14.00円

2.2%

37.92円

17.1倍

828.76円

0.8倍

*株価は3/16終値。各数値は2020年12月期決算短信より。

 

連結業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2018年3月(実)

124,566

10,117

9,733

6,518

65.50

17.00

2019年3月(実)

136,637

11,713

11,883

5,625

58.50

20.00

2020年3月(実)

127,090

6,950

7,241

4,937

53.06

20.00

2020年12月(実) *

84,245

3,751

3,169

2,113

23.38

9.00

2021年12月(予)

117,000

5,700

5,400

3,400

37.92

14.00

* 予想は会社予想。単位:百万円、円。2020年12月期は決算期変更のため9ヶ月決算。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下同様。

 

 

(株)キッツの2020年12月期決算概要と2021年12月期業績見通しをご報告致します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2020年12月期決算概要
3.2021年12月期業績予想
4.今後の注目点
参考:ESGを軸にした取り組みとSDGsのゴール
参考:コーポレート・ガバナンスについて

 

 

今回のポイント

  • 20/12期(9か月決算)の売上高は前年同期間比で10.5%減の842億45百万円。バルブ事業、伸銅品事業、及びその他の3セグメント全て減収。営業利益は同25.1%減の37億51百万円。バルブ事業において減収の影響を受け減益となったほか、伸銅品事業、その他は営業損失。社債発行費の計上や、為替差損により経常利益は同34.5%減の31億69百万円。政策保有株式の投資有価証券売却益の減少などで当期純利益は同39.5%減の21億13百万円となった。前期比減収減益であったが、第3四半期は回復傾向にあり、計画を上回った。

     

  • 21/12期(12か月決算)の売上高は前年同期間比1.6%増の1,170億円、営業利益は同7.0%増の57億円の予想。主力のバルブ事業は低調で減収減益予想の一方、伸銅品事業、その他は回復を見込んでいる。4月1日に国内、海外の一部で価格改定(値上げ)を実施する。効果は下期から来期上期にかけ発現すると見ている。配当は第2四半期5円/株、期末9円/株の合計14円/株を予定している。予想配当性向は36.9%。

     

  • 経営体制の若返りを図るため、新社長に就任する河野氏は就任に当たり、「収益構造の変革」「グローバル化の更なる進展」「脱炭素社会への貢献、DX化」を挙げている。収益構造の変革においては、攻めと守りの両利き経営による製品ポートフォリオの変革を進めていく。グローバル化においては堀田前社長の進めてきた戦略をさらに推進し、特に北米、アセアン、中国に注力する。また、脱炭素社会構築に向けた新規事業の展開やDX化にも注力する考えだ。コロナ禍の影響が引き続き残り、事業環境が急速かつ大きく変化する中、どのように同社を牽引していくのか注目していきたい。

     

  • 業績面では、20年12月期は減収減益ではあったが、バルブ事業は第3四半期(10-12月)に市況はボトムを打ち、今期も緩やかながらも回復を予想している。利益の回復はやや遅れる見通しだが、4月から実施する価格改定による押上げ効果を注視したい。

     

1.会社概要

バルブを中心とした流体制御機器の総合メーカー。バルブ事業では、国内トップ、世界でもトップ10に入る。バルブは、青銅、黄銅、鋳鉄、ダクタイル鋳鉄(強度や延性を改良した鋳鉄)、ステンレス鋼等、用途に応じて様々な素材が使われる。同社は素材からの一貫生産(鋳造から加工、組立、検査、梱包、出荷)を基本とする。国内外の子会社36社とグループを形成し、子会社を通して、バルブや水栓金具、ガス機器などの材料となる伸銅品の生産・販売(伸銅品でも国内上位のポジションにある)やホテル事業等も手掛けている。

 

【企業理念 キッツは、創造的かつ質の高い商品・サービスで企業価値の持続的な向上を目指します-】
「企業価値」とは「中長期的な株主価値」であり、「中長期的な株主価値」の向上には、顧客の信頼を得る事によって利益ある成長を持続していく必要がある、と言うのが同社の考え。そして、企業価値を向上させる事により、株主をはじめとして、顧客、社員、ビジネスパートナー、社会に対して様々な形で寄与し、豊かな社会づくりに貢献していきたいと考えている。
同社は、これらの思いを「キッツ宣言」に込め、更なる飛躍を目指している。

 

キッツ宣言

KITZ’ Statement of Corporate Mission

キッツは、

創造的かつ質の高い商品・サービスで

企業価値の持続的な向上を目指し、

ゆたかな社会づくりに貢献します。

To contribute to the global prosperity,

KITZ is dedicated to continually enriching its corporate value

by offering originality and quality

in all products and services.

 

1-1事業セグメントの概要

事業は、バルブ事業、伸銅品事業、及びホテル・レストランの経営(ホテル事業)等のその他に分かれ、20/12期の売上構成比は、それぞれ83.2%、15.4%、1.4%。

 

バルブ事業
バルブは、配管内の流体(水・空気・ガスなど)を「流す」、「止める」、「流量を調整する」等の機能を持つ機器で、ビル・住宅設備用、給水設備用、上下水道用、消防設備用、機械・産業機器製造施設、化学・医薬・化成品製造施設、半導体製造施設、石油精製・コンビナート施設など様々な分野で使用されている。同社は、鋳物からの一貫生産を特徴とし(日本で最初に「国際品質保証規格ISO9001」の認証を取得した)、住宅・ビル設備等の建築設備分野に使用され、耐食性に富む青銅製や経済性に優れた黄銅製の汎用バルブ、或いは付加価値の高いボールバルブ等の工業用ステンレス鋼製バルブと言った主力商品で高い国内シェアを有する。
販売面では、国内は主要都市に展開する販売拠点ときめ細かい代理店網によって全国をカバーしており、海外は、インド、U.A.Eに駐在員事務所を置く他、中国、香港、韓国、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、アメリカ、ブラジル、ドイツ、スペインに販売拠点を設置し、グローバルな販売ネットワークを構築している。生産面では、国内工場の他、海外では中国、台湾、韓国、タイ、インド、ドイツ、スペイン、ブラジルに生産拠点を展開し、グローバルコスト及び最適地生産の実現に向けた生産ネットワークを構築している。

 

建築設備

ホテルや病院、オフィスビル等の建築設備において、空調、衛生、防災設備等に使われるバルブ等。

水道・給水設備

上下水道における配管ラインの機器・装置、水処理・汚泥処理施設に使われるバルブ及び戸建、集合住宅用の給水装置用商品等。

ガス・エネルギー施設

LNG(液化天然ガス)生産施設やパイプライン等で使われるバルブ等。

産業機械・生産設備

産業機械・生産設備のあらゆる場所で使われるバルブを扱っている。

石油精製、コンビナート施設

石油精製、石油化学、化学プラントのプロセスライン等で使われるバルブ等。

半導体製造設備

半導体製造設備向けのバルブ、継手(グループ会社のキッツエスシーティーで製造・販売)。

 

伸銅品事業
伸銅品とは、銅に亜鉛を加えた「黄銅」、すず及びりんを加えた「りん青銅」、ニッケル及び亜鉛を加えた「洋白」等の銅合金を、溶解、鋳造、圧延、引抜き、鍛造等の熱間または冷間の塑性加工によって、板、条、管、棒、線等の形状に加工した製品の総称。キッツグループの伸銅品事業は(株)キッツメタルワークス及び北東技研工業(株)の事業分野であり、黄銅製の材料を用いた「黄銅棒」(黄銅棒はバルブ部材の他、水栓金具、ガス機器、家電等の部材としても使用されている)及びその加工品を製造・販売している。

 

その他
子会社(株)ホテル紅やが手掛けるリゾートホテルの運営(長野県諏訪市)が事業の中心。同ホテルは、諏訪湖畔の好立地を特徴とし、夕日に輝く展望風呂や大小の宴会場に加え、国際会議も開かれる大コンベンションホールを有する。

 

2.2020年12月期決算概要

2-1 連結業績

 

20/3期 3Q

(累計)

構成比

20/12期 

(9カ月)

構成比

前期比

計画比

売上高

94,083

100.0%

84,245

100.0%

-10.5%

+2.1%

営業利益

5,010

5.3%

3,751

4.5%

-25.1%

+13.7%

経常利益

4,842

5.1%

3,169

3.8%

-34.5%

+5.6%

当期純利益

3,494

3.7%

2,113

2.5%

-39.5%

+5.7%

* 単位:百万円。

 

減収減益。計画は上回る。
売上高は前期比10.5%減の842億45百万円。バルブ事業、伸銅品事業、及びその他の3セグメント全て減収。
営業利益は同25.1%減の37億51百万円。バルブ事業において減収の影響を受け減益となったほか、伸銅品事業、その他は営業損失。社債発行費の計上や、為替差損により経常利益は同34.5%減の31億69百万円。政策保有株式の投資有価証券売却益の減少などで当期純利益は同39.5%減の21億13百万円となった。
前期比減収減益であったが、第3四半期は回復傾向にあり、計画を上回った。

 

為替及び原材料相場

 

20/3期 3Q

20/12期

20/12期(計画)

ドル:対円

109.22

105.55

107.00

ユーロ:対円

122.36

122.60

125.00

電気銅建値:円/トン

689,000

714,000

700,000

 

2-2 セグメント別動向

 

20/3期3Q

(累計)

構成比・利益率

20/12期

(9か月)

構成比・利益率

前期比

計画

計画比

バルブ事業

75,792

80.6%

70,129

83.2%

-7.5%

68,800

+1.9%

伸銅品事業

15,912

16.9%

12,952

15.4%

-18.6%

12,600

+2.8%

その他

2,378

2.5%

1,163

1.4%

-51.1%

1,100

+5.7%

連結売上高

94,083

100.0%

84,245

100.0%

-10.5%

82,500

+2.1%

バルブ事業

7,666

10.1%

6,708

9.6%

-12.5%

6,340

+5.8%

伸銅品事業

30

0.2%

-146

-

-

-230

-

その他

78

3.3%

-254

-

-

-250

-

調整額

-2,764

-

-2,555

-

-

-2,560

-

連結営業利益

5,010

5.3%

3,751

4.5%

-25.1%

3,300

+13.7%

* 単位:百万円

 

バルブ事業
減収、減益。
国内売上高は前期比5.3%減の457億39百万円。建築設備向けについては、市中在庫はやや高い水準だが、実需は第2四半期を底に徐々に回復傾向にある。ただ足元はコロナ禍により不透明な状況である。工業用バルブ市場については、医薬品等一部の産業を除き、設備投資が低迷しているが、メンテナンス需要は堅調。水市場向けは、東京都向けを中心に好調を維持している。半導体製造装置向けは、第2四半期は若干踊り場であったが、装置メーカーからの受注が堅調で、第3四半期は回復傾向。

 

海外売上高は同11.3%減の243億89百万円。中国・韓国の半導体製造装置向けは、国内と同じく、第2四半期は踊り場であったが、第3四半期は回復した。新型コロナウイルス感染症拡大により、全エリアで受注が低迷した。米州・欧州は、原油安に伴うOil&Gas関連需要の低迷により減収だが、南米MGAはコロナ禍においても健闘した。アセアンは、各国で経済活動の本格再開が見通せず、減収。中国は、新型コロナウイルス感染症収束後、市況が回復し、データセンター向けを中心に、好調を維持している。

 

引き続き原価低減に取り組んだほか、コストコントロールも進めたが、減収をカバーしきれず減益となった。

 

伸銅品事業
減収、営業損失。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う需要低迷により、販売量・生産量とも大きく減少したが、第2四半期で底打ちし、第3四半期は回復した。原材料相場は、上昇傾向が継続している。
販売量減少の影響が大きく、また新製造ライン稼働により減価償却費が増加したことから、営業損失となった。

 

その他
減収、営業損失。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、4月から5月にホテルを臨時休業したことに加え、8月の花火大会が中止となりサービスエリアの利用客も減少した。

 

2-3 財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)

財政状態

 

20年3月

20年12月

 

20年3月

20年12月

現預金

18,696

33,720

仕入債務

7,289

5,693

売上債権(電子記録債権含)

27,561

24,226

未払法人税等

750

316

たな卸資産

23,975

22,236

賞与・役員賞与引当金

2,393

1,425

流動資産

73,351

81,765

退職金関連

1,264

1,144

有形固定資産

44,241

42,303

有利子負債

37,814

48,266

無形固定資産

7,639

6,211

負債

58,184

65,514

投資その他

9,831

10,401

純資産

76,879

75,167

固定資産

61,712

58,916

負債・純資産合計

135,063

140,681

* 単位:百万円

 

社債発行による現預金増などで資産合計は前期末比56億円増加の1,406億円。同じく社債発行などで負債合計は同73億円増加の655億円。為替換算調整勘定のマイナス幅拡大などで純資産は同17億円減少の751億円。
自己資本比率は前期末より3.2%低下し52.8%となった。

 

キャッシュ・フロー(CF)

 

20/3期 3Q(累計)

21/3期 (累計)

前年同期比

営業キャッシュ・フロー(A)

6,377

10,024

+3,646

投資キャッシュ・フロー(B)

-7,063

-2,379

+4,684

フリー・キャッシュ・フロー(A+B)

-685

7,645

+8,331

財務キャッシュ・フロー

-1,628

7,497

+9,126

現金及び現金同等物期末残高

10,312

33,364

+23,052

* 単位:百万円

 

営業CFのプラス幅が拡大したことなどからフリーCFはプラスに転じた。
社債発行などにより財務CFはプラスに転じ、キャッシュポジションは上昇した。

 

2-4 トピックス・主な取り組み

(1)代表取締役の異動
21年2月、3月30日付で、代表取締役社長、社長執行役員の堀田康之氏が代表取締役会長に、取締役、常務執行役員、バルブ事業統括本部長の河野誠氏が代表取締役社長、社長執行役員に異動すると発表した。
グローバルな産業構造の変化が激しい経営環境の下、経営トップの若返りにより、変革に対する強い意志と実行力をもって、さらなる企業価値の向上を目指すためである。

 

新社長の河野氏は1966年3月生まれの55歳。バルブ事業部プロジェクト営業部長、バルブ事業統括本部の生産管理部長や事業企画部長、経営企画本部長、海外販売子会社社長などを歴任後、2019年6月、取締役、常務執行役員、バルブ事業統括本部長に就任。バルブ事業を中心に幅広いフィールドで経験を積んできた。
2021年3月30日開催予定の第107回定時株主総会及びその後に開催される取締役会において正式に決定される予定である。

 

(2)水素分野への取り組み
気候変動問題の解決に向けて水素活用の動きが世界的に広がりを見せている中、同社も積極的に取り組みを進めている。

 

①経済産業省より「ゼロエミ・チャレンジ企業」の1社として選定
2020年10月、NEDOによる「超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業における、水素ステーションのコスト低減等に関する技術開発」及び「液化水素用大型バルブの技術開発」を通じた取り組みが評価され、経済産業省より「ゼロエミ・チャレンジ企業」の1社として選定された。

 

②水素バリューチェーン推進協議会への参画
21年2月、水素分野におけるグローバルな連携や水素サプライチェーンの形成を推進する新たな団体「水素バリューチェーン推進協議会」に加入した。

 

(参画の理由と今後の展開)
現在、世界各国で水素社会実現に向けた取り組みが加速しているが、その実現のためには水素の需要創出、技術革新によるコスト削減及び事業者に対する資金供給などの課題がある。
「水素バリューチェーン推進協議会」は、こうした課題を解決するため2020年12月に設立された。サプライチェーン全体を俯瞰し、業界横断的かつオープンな組織として、社会実装プロジェクトの実現を通じ、早期に水素社会を構築することを目的としている。
キッツは、2012年7月より、燃料電池自動車などに、燃料となる水素ガスを供給する水素ステーション用バルブの販売を開始し、2018年には長坂工場に自家用設備として水素ステーションを建設した。2020年4月からはパッケージユニット型水素ステーション事業に参入している。
「水素バリューチェーン推進協議会」の活動を通して、クリーンな水素社会の実現に向けて貢献する考えだ。

 

③パッケージユニット型水素ステーション事業の状況
前述のパッケージユニット型水素ステーション事業の現況は以下の通り。
*国内市場では、複数のステーション案件に入札したものの、受注には至っていないが、海外向け案件では、機器ユニットを受注した。今後はキッツパッケージユニットの特徴を活かせる案件を中心に受注を目指す考えだ。

 

(3)国内販売価格改定(値上げ)を実施
21年3月、国内販売価格の改定を発表した。
原材料の他、部品や副資材及び物流費用の高騰により、経営環境は厳しさを増している。生産性の向上や合理化などによる徹底したコストダウン・諸経費の削減に取り組んでいるが、企業努力のみでの価格維持は困難な状況となったため値上げを実施することとなった。
改定実施は2021年 4月 1日より、改定率は5~20%。

 

(4)AI・IoTを活用したバルブメンテナンスソリューションの開発
AI、IoTの活用により、バルブの状態を把握し、故障などの状態予測ができないかという観点から、ソリューション開発を進めている。
角速度からバルブの状態予測と異常検知を行うため、IoTセンサをバルブに後付けし、無線でデータをクラウドに収集し、解析するシステムを開発中である。
ユーザーは、タブレットなどで状態の確認が可能で、現在、ユーザーの協力を得て、複数の流体でデータを取得する活動を始めている。取得したデータをAIに学習させ、状態予測と異常検知のアルゴリズム作成を目指している。

 

(5)データセンター向け戦略
国内・海外市場で、設備投資意欲が低迷する中、中長期の成長が見込まれるデータセンター(DC)市場向け需要取り込み・拡販に注力していく。

 

(成長が期待されるデータセンター市場)
同社資料によれば、国内では、2020年は首都圏を中心に複数のクラウドサービス向けDCが建設され、投資額は前年2019年の1,019億円を大きく上回る1,830億円であった。2021年は1,510億円と反動減の見通しだが、2022年以降は、2,000億円/年以上の投資規模が見込まれる。うち、バルブが主に設置される空調・冷却設備の市場規模は、約800億円と推定している。

 

また、クラウドコンピューティング、5Gによるビッグデータ化等により、DC関連サービス売上市場は、世界的に拡大が続いている。市場規模は2019年 20.3兆円が2025年26.8兆円、2030年36.4兆円へと成長する見通し。2025年以降、アジア地域の急成長が見込まれており、日本の市場規模は、世界の約1割と推定されている。

 

(同社の取り組み)
こうした成長市場の需要取り込みに向けた同社の方針、施策は以下の通り。
データセンターに求められる構成要素は、「災害に耐える建築構造」「空調・冷却設備」「万全のセキュリティ」「非常時の電力供給設備」「ネットワークの冗長性」「ラックのスペックとコストパフォーマンス」などであるが、このうちバルブが主に関連する分野は、「空調・冷却設備」「衛生設備」「消防設備」「非常用電源供給設備」である。
特に、DCでは、機器の冷却に最も多くの電力を消費しており、空調・冷却設備の効率化が重要となるため、空調・冷却設備に数多く使用されるバタフライバルブのラインナップ拡充、拡販に注力する。また、非常用電源供給設備向けについても、製品開発に取り組む。
海外市場については、中国では既に多数の実績があるが、他エリアでも成長が見込まれるため、戦略を策定し、拡販を図る。

 

(6)長坂工場がエネルギー管理優良事業者等表彰を受賞
21年2月、長坂工場の省エネルギーへの取り組みと実績が評価され、関東経済産業局から「エネルギー管理優良事業者等関東経済産業局長表彰」を受賞した。

 

同工場では原単位実績ベースで、前年度に対して、エネルギー3%削減、水1%削減、廃棄物3%削減という目標を設定。環境マネジメントプログラムの運用、コンプレッサーの更新に合わせた運用改善などを実施し、継続的な省エネルギー活動を推進した結果、5年間平均でエネルギー原単位を5.7%削減することができた。

 

3.2021年12月期業績予想

3-1 連結業績

 

20/12期

構成比

21/12期(予)

構成比

前期比

売上高

115,139

100.0%

117,000

100.0%

+1.6%

営業利益

5,329

4.6%

5,700

4.9%

+7.0%

経常利益

5,372

4.7%

5,400

4.6%

+0.5%

当期純利益

3,365

2.9%

3,400

2.9%

+1.0%

*単位:百万円。20/12期は2020年1-12月の前年同一期間、非監査。前期比は前年同一期間比、以下同様。

 

増収増益予想
売上高は前期比1.6%増の1,170億円、営業利益は同7.0%増の57億円の予想。
主力のバルブ事業は低調で減収減益予想の一方、伸銅事業、その他は回復を見込んでいる。
4月1日に国内、北米、アセアンで価格改定(値上げ)を実施する。効果は下期から来期上期にかけ発現すると見ている。
配当は第2四半期5円/株、期末9円/株の合計14円/株を予定している。予想配当性向は36.9%。

 

為替及び原材料相場の前提

 

20/12期 

21/12期(予)

ドル:対円

106.44

104.00

ユーロ:対円

121.97

126.00

電気銅建値:円/トン

700,000

850,000

 

半期ベースでは、売上高が前期下期(7-12月)、営業利益は今上期がボトムと見ている。

 

3-2 セグメント別見通し

 

20/12期

構成比・利益率

21/12期(予)

構成比・利益率

前期比

バルブ事業

95,336

82.8%

95,000

81.2%

-0.4%

伸銅品事業

18,102

15.7%

19,600

16.8%

+8.3%

その他

1,700

1.5%

2,400

2.1%

+41.2%

連結売上高

115,139

100.0%

117,000

100.0%

+1.6%

バルブ事業

9,306

9.8%

9,000

9.5%

-3.3%

伸銅品事業

-185

-

400

2.0%

-

その他

-344

-

20

0.8%

-

調整額

-3,449

-

-3,720

-

-

連結営業利益

5,329

4.6%

5,700

4.9%

+7.0%

*単位:百万円

 

バルブ事業
売上高は前年並。原価低減を進めるが、数量面での回復の遅れが予想されることに加え、原材料価格上昇、為替の影響、コロナ禍で前期減少した営業経費の増加等で減益の予想。

 

(国内市場)
売上高は前期比1%減、618億円の予想。
緩やかな回復傾向にあるものの、コロナ禍による企業業績の悪化、先行きの不透明感から、設備投資意欲は低く、緩慢な回復ペースが継続すると見ている。
工業用バルブ市場は、コロナ禍にあっても、プラント等のメンテナンス需要は堅調であり、パーツ販売、調節弁の拡販等、MROビジネスの拡大を図る。
半導体市場は、国内外において中長期的な成長が見込まれ、データセンター、5G通信施設、EC拡大を受けた物流施設等、デジタル需要を背景とした投資が拡大する見込み。
第4期中期経営計画における重点弁種である、バタフライバルブ、ダクタイルバルブ、自動操作バルブに加え、ステンレス製ボールバルブのシェアアップ、拡販に注力する。

(海外市場)
売上高は前期比2%増、332億円の予想。
新型コロナウイルスは、第二波・第三波となって、各国で感染拡大を続けており、その影響は2021年上期中継続することも想定している。
中国を除く全地域で回復ペースが鈍い中、国内と同じく、データセンター等の需要取り込みに注力する。
中国・韓国向け半導体市場は、国内と同じく成長が見込まれる。
アセアンのミドルゾーン(中価格帯市場)への参入については、資本業務提携先であるマレーシアUnimech社とのシナジー効果創出に加え、現地ニーズに沿った製品開発・販売を図る。
北米は、Oil & Gas関連需要が低迷し、厳しい状況だが、大手代理店とのグローバル契約を活かして拡販を図る。
欧州は、コロナ禍による経済低迷で、厳しい状況が続くと見ている。

 

 

伸銅品事業
増収、黒字転換の予想。
黄銅棒国内需要は、前期比7%増を見込んでいる。生産量がコロナ禍以前の水準に戻りつつあり、一般材に加え、環境対応材料(鉛レス材、カドミレス材)等の拡販に注力する。
また、コスト面では新製造ライン稼働による生産性向上、歩留まり向上、材料費低減を中心にコストダウンに取り組む。
銅価格は前期銅建値平均価格 70万円/トンに対し85万円/トンへの上昇を前提としている。

 

その他
増収、黒字転換の予想。
新型コロナウイルス感染症の影響は、秋頃まで続くと予想するが、収益に影響を与えるGo Toトラベルキャンペーンの再開時期や延長の有無、東京オリンピック・パラリンピックの有無など、先が見通せない1年となる。
経費削減、本館改修に伴う価格見直し等により、黒字化を目指す。

 

3-3 財務前略・資本政策

第4期中計の財務戦略・資本政策をベースに、今期は有事モードを継続する。CF創出を重視し、増加した有利子負債の縮減等、財務安定性を図るとともに、アフターコロナを睨み、M&Aやアライアンスを含めた中長期の戦略投資の為の借入余力の確保並びに社債償還に備える。
手元流動性については、銀行借入金のコミットメントラインを含む連結月商の3ヵ月程度を確保する。
投資は合理化、開発・IT投資、設備の維持更新を中心に償却費の範囲内で実施する。

 

設備投資・減価償却

 

20/12期(12か月)

21/12期(予)

設備投資

39

57

減価償却

68

68

*単位;億円

 

4.今後の注目点

経営体制の若返りを図るため、新社長に就任する河野氏は就任に当たり、「収益構造の変革」「グローバル化の更なる進展」「脱炭素社会への貢献、DX化」を挙げている。
収益構造の変革においては、攻めと守りの両利き経営による製品ポートフォリオの変革を進めていく。グローバル化においては堀田前社長の進めてきた戦略をさらに推進し、北米、アセアン、中国に注力する。また、脱炭素社会構築に向けた新規事業の展開やDX化にも注力する考えだ。
コロナ禍の影響が引き続き残り、事業環境が急速かつ大きく変化する中、どのように同社を牽引していくのか注目していきたい。
業績面では、20年12月期は減収減益ではあったが、主力のバルブ事業は第3四半期(10-12月)に市況はボトムを打ち、今期も緩やかながらも回復を予想している。利益の回復はやや遅れる見通しだが、4月から実施する価格改定による押上げ効果を注視したい。

 

参考:ESGを軸にした取り組みとSDGsのゴール

2019年度を初年度とする第4期中期経営計画では、「ESGのさらなる強化」を重点テーマの一つに掲げており、2020年3月には、同社の重要な取り組み項目と関連性の強いSDGsの目標を「見える化」した。これまでの取り組みを一層強化すると共に、サステナビリティ経営を更に加速させ、SDGsの達成に寄与していく考え。
また、同社は、「長野県SDGs推進企業登録制度」に賛同し、伊那工場と茅野工場がSDGs推進事業所として県に登録されている。

 

大項目

中項目

具体的な実施項目

SDGs

Environment

事業活動を通じて地球環境保全に貢献する

1.環境に配慮した商品・サービスの開発と提供

①鉛レス材・カドミレス材等の環境に優しい材料の開発

②除菌・浄化処理装置の開発

③RoHS指令・REACH規制対応商品の提供

④クリーンエネルギー分野への対応商品の開発

 

2.産業廃棄物の削減と再使用・再利用の推進

①地球温暖化ガス・CO2排出量の低減活動の推進

②環境負荷物質排出の抑制

3.グループ・グローバルでの環境汚染防止と予防

①有害物質を含有する化成品の特定と代替化の推進

②海外拠点別環境法規制の見える化と対策

Social

人財・安全・地域社会を大切にする

1.多様な人財(ダイバーシティ&インクルージョン)の活躍推進

①働きやすい人事制度の導入と定着

②同一労働同一賃金に向けての取り組み

③女性社員の活躍推進

④シニア人財の活躍推進

⑤グローバル人財の登用と育成

⑥ワーク・ライフ・バランスを支える制度の充実

 

2.安全・健康・人権を大切にする社風の醸成

①安全で健康に働くことができる職場環境の整備

②国、宗教、民族等に対する偏見・差別・人権侵害・不正を行わないとするポリシーの徹底

3.適正な事業活動

①公正な取引によるサプライチェーンマネジメントの推進

②品質と安全性確保による顧客満足の追求

4.社会貢献活動

①社会貢献活動の推進

Governance

公明正大な経営

1.健全なコーポレート・ガバナンス体制の確立

①指名委員会と報酬委員会の有効な運用16.平和と公正をすべての人に

②女性役員の登用

③ J-SOX法に加え会社法上の内部統制(内部監査)の強化

 

2.経営における透明性の向上と経営監視体制の強化

①三様監査会合(監査役会・会計監査人・内部監査室)に社外取締役を加えた四様監査・監督会合の実施による情報の共有化

②社外役員によるグループ会社の監査と監督

③内部監査室の強化

3.取締役会の実効性の強化

①取締役会の社外役員の充実

②取締役会の実効性評価の実施と課題への対応

(同社Webサイトより)

 

※同社は自社Webサイトに「サステナビリティ」ページを設け、公開している。
https://www.kitz.co.jp/sustainability/

 

参考:コーポレート・ガバナンスについて

◎組織形態及び取締役、監査役の構成

組織形態

監査役設置会社

取締役

8名、うち社外4名

監査役

5名、うち社外3名

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書(更新日:2020年07月01日)

 

基本的な考え方
当社は、創造的かつ質の高い商品・サービスの提供により持続的に企業価値の向上を図ることを企業理念に掲げ、社会的に責任ある企業として、株主の皆様をはじめ、すべてのステークホルダーに配慮した経営の実現に取り組んでいます。また、経営の効率性とコンプライアンスの強化を図るため、ステークホルダーからの要請や社会動向などを踏まえ、迅速かつ効率が良く、健全で透明性の高い経営が実現できるよう、様々な施策を講じて、コーポレート・ガバナンスの充実を図っています。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
当社は、コーポレートガバナンス・コードの各原則をすべて実施しています。

 

<開示している主な原則>
4.情報開示の充実(原則3-1)
(3) 取締役及び監査役の報酬等の決定に関する方針を有価証券報告書等により開示しています。なお、取締役(社外取締役を除く)及び執行役員の報酬は、業績連動型株式報酬制度を導入しており、その支給総額、配分及び株式の付与方法等については内規により定めています。また、賞与については、内規に基づく一定の条件を満たし、適正な利益確保が行われた場合に支給することとしています。報酬額の決定については、過半数を社外取締役で構成する報酬委員会を取締役会の任意の諮問機関として設置し、報酬方針その他特に重要な事項についての検討を行っており、その結果を取締役会に答申しています。
(4) 取締役候補及び監査役候補の指名並びに取締役及び監査役の解任方針、執行役員の選解任については、過半数を社外取締役で構成する指名委員会を取締役会の任意の諮問機関として設置し、当社が定める「取締役会の構成及び監査役会の構成に関する方針並びに役員(取締役・監査役・CEO・執行役員)の選解任に関する方針」(以下「役員選解任方針」という)に基づき、ジェンダーや国際性の面を含め、人格、能力・識見・経験・専門性・実績、公正性及び年齢など多角的な観点から候補の検討を行い、その答申を踏まえ、取締役会において決定しています。
なお、役員選解任方針を当社ホームページにおいて開示しています。
(5) 取締役及び監査役の候補については、株主総会の招集通知にその略歴及び指名の理由を開示しています。また、取締役及び監査役の解任を行う場合においてもその理由を開示することとしています。

 

9.取締役会の実効性を高める取組内容(補充原則4-11③)
当社は、コーポレート・ガバナンスの実効性を高め、取締役会全体の機能向上を図ることを目的として、毎年、取締役会の実効性に関するアンケート調査を行っており、その結果に基づき、取締役会において分析・評価を行っています。当該アンケート調査は、取締役及び監査役全員に対し、事前に評価の主旨等について説明し、コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づき、特に重要な事項について記名式の質問票を配布し、回答を得る方法で行っています。また、取締役会は、得られた回答の集計結果に基づき、実効性についての分析・評価を行う他、課題について闊達な議論を行っています。2020年5月に実施した取締役会の実効性に関するアンケート調査は、経営戦略の策定及び実行、取締役会の構成、役員の指名・報酬、監査、社外取締役、取締役会の審議の活性化、株主その他ステークホルダーへの対応に関する項目について行いました。その結果、当社取締役会は実効性が概ね確保できているとの評価が得られました。しかし、最高経営責任者等の後継者計画及び取締役会の多様性等について、改善点の提示を含むいくつかの建設的な意見が寄せられたことから、今後、取締役会において、これらの課題について議論し、さらなる実効性確保に努めることとしています。

11.株主との建設的な対話に関する方針(原則5-1)
当社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のためには、経営の受託者としての説明責任を自覚し、株主・投資家等のステークホルダーに対し、適時・適切かつ公正な情報開示を行い、経営の公正性と透明性を維持することが重要であると認識しています。また、必要とされる情報を継続的に提供するとともに、外部者の視点による意見や要望を経営改善に活用するためのIR活動が重要であると考えています。そのため、当社は、経営戦略や経営計画に対する株主の理解が得られるよう、株主との建設的な対話を推進すべく、社長やIR担当執行役員を中心とするIR体制を整備し、次の施策を実施しています。

 

(1) 株主との建設的な対話を実現するため、IR担当執行役員を選任しています。

 

(2) IR担当執行役員を中心に、必要に応じて、IR部門、経営企画部門、経理部門、総務人事部門及び法務部門等による会議を開催するなど、有機的な連携を図っています。

 

(3) 機関投資家及びアナリストを対象とし、四半期ごとに決算説明会を開催しています。また、決算説明会においては、社長またはIR担当執行役員が説明を行っています。さらに、決算短信及び有価証券報告書等の決算情報の他、経営情報、株式・株主総会の情報及びコーポレート・ガバナンスに関する報告書等のIR情報を当社ホームページに掲載し、開示しています。

 

(4) 機関投資家及びアナリストとの対話において把握された意見をIR部門から社長及びIR担当執行役員に定期的に報告し、必要に応じて、社長がその内容を取締役会及び経営会議に報告することとしています。

 

(5) 経理担当執行役員を情報取扱責任者とし、機関投資家及びアナリストとの対話に際して開示する情報の内容について、事前に経理担当執行役員、IR部門及び経営企画部門が協議するなど、インサイダー情報の管理に留意しています。

 

 

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