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(4549) 栄研化学株式会社

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ブリッジレポート:(4549)栄研化学 2026年3月期上期決算

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瀨川雄司 社長

栄研化学株式会社(4549)

 

 

会社情報

市場

東証プライム市場

業種

医薬品(製造販売業)

代表執行役社長

瀨川雄司

所在地

東京都千代田区神田駿河台4-6 御茶ノ水ソラシティ20階

決算月

3月末日

HP

https://www.eiken.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数

時価総額

ROE(実)

売買単位

2,373円

34,541,438株

81,966百万円

5.0%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

58.00円

2.4%

114.34円

20.8倍

1,294.08円

1.8倍

*株価は11/17終値。発行済株式数は11/17現在。2026年3月期第2四半期決算短信より。ROE、BPSは前期実績。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2022年3月(実)

42,996

8,387

8,508

6,218

168.28

51.00

2023年3月(実)

43,271

7,457

7,568

5,736

155.17

51.00

2024年3月(実)

40,052

3,377

3,568

2,634

71.69

51.00

2025年3月(実)

40,539

2,999

3,198

2,228

64.82

53.00

2026年3月(予)

42,200

3,250

3,100

3,770

114.34

58.00

*単位:円、百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

 

 

栄研化学株式会社の2026年3月期上期決算概要、瀨川社長へのインタビューなどをご紹介致します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2026年3月期上期決算概要
3.2026年3月期業績予想
4.ROIC向上への取組み進捗
5.瀨川社長に聞く
6.今後の注目点

<参考1:「EIKEN ROAD MAP 2030」>

<参考2:新中期経営計画「Challenges to Innovation」>
<参考3:コーポレートガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 2026年3月期上期の売上高は前年同期比3.6%増の204億円。国内は堅調、海外は便潜血試薬・装置の売上が好調で2桁の増収。営業利益は同10.4%増の17億円。売上総利益は同2.0%増と、物流及び原材料調達などのコスト上昇により増収率を下回ったが、販管費のコントロールが寄与し、2桁の増益。海外援助を管轄する米国国際開発局(USAID)の閉鎖による結核など感染症対策援助資金の縮小に加え、微生物検査用試薬が想定を下回り、売上・利益とも予想を下回った。

     

  • 業績予想に変更は無い。売上高は前期比4.1%増の422億円、営業利益は同8.4%増の32億円の予想。国内はほぼ前年並みも、海外は引き続き便潜血検査用試薬が伸長する見込み。配当は前期比5.00円/株増の58.00円/株を予定。予想配当性向は50.7%。

     

  • 中期経営計画「Challenges to Innovation」における財務・資本戦略の重要なテーマの一つである「ROICの向上」については、2025年3月期の5.2%から2028年3月期8.1%への引き上げを目標としている。「収益力の強化」と「資本収益性向上」のため、ROIC経営を徹底し、ROICツリーにより現場の目標・施策への展開を社内外に明示するとともに、経営システムを強化し、企業価値向上を図る。「財務の最適化」にも取り組んでいる。2026年3月期上期は、収益製品の拡販強化策、主力製品である便潜血検査用試薬における海外での販売増、一時的な特許料収入、低収益品の価格改定により原価率が改善。製造面では、尿検査用試薬の製造拠点を中国から野木工場へ集約した。人員構成・要員計画の最適化により、2026年3月期上期の売上高人件費率は前年同期比0.6ポイント低下。売上高販管費率も同0.6ポイント低下した。

     

  • 瀨川雄司代表執行役社長に、自身のミッション、同社の競争優位性、中期経営計画における重点施策、今後の課題、株主・投資家へのメッセージ等を伺った。「当社をあらゆる挑戦ができる風土に変革し、ROIC経営、全員経営で着実に収益力向上を図り、企業価値向上に繋げていくのが私のミッションです。また、成長のための戦略的な投資とのバランスの下、株主還元についても重要な課題と認識しております。スピード感をもってポジティブに経営の変革に取り組んでまいりますので、今後のさらなる発展、成長に向けて、これからも応援していただきたいと思います。」とのことだ。

     

  • 2026年3月期上期の国内および海外売上高の進捗率はそれぞれ49.7%、45.2%となっている。国内についてはほぼ例年並みの水準だが、海外については若干低い水準。米国国際開発局(USAID)閉鎖の影響はあるものの、便潜血検査中心に海外の事業環境は良好であり、第3四半期以降のキャッチアップを期待したい。一方、中期的には、会社側が課題と認識している製品開発のスピードアップに向けた、意識改革を含めた組織構造の見直し・改善の進捗を注目していきたい。

     

     

1.会社概要

臨床検査の内、免疫血清検査、微生物検査、生化学検査、尿検査、遺伝子検査など、人体から採取した試料(検体)を調べる臨床検査薬の総合メーカー。検査機器の開発・販売も行っている。
国内シェア60%以上の便潜血検査を始め、尿検査や微生物検査など他社にはない独自技術・ノウハウを利用した高シェア製品多数。また独自開発の遺伝子増幅技術「LAMP法」は世界的に高い評価を得ている。便潜血検査、尿検査とLAMP法などの独自技術を武器にグローバル企業への成長を目指している。

 

【1-1 沿革】

1939年、興亜化学工業(株)として創立し、家畜臓器を原料とした栄養食品および医薬品の製造販売を開始し、1949年には日本で初めて細菌検査用粉末培地(SS寒天培地)の製品化に成功。1961年に臨床検査部門を開設し、臨床検査薬の研究開発を開始した。
1989年には便潜血検査において世界初の全自動分析装置「OC-センサー」を発売。同分野における現在の圧倒的なポジショニング構築につながっていく。
その後も、尿検査用試薬や微生物検査用試薬など事業ドメインを拡大するとともに、1998年に新規遺伝子増幅技術LAMP法を開発。従来の検査法に比べ簡易・迅速・精確なLAMP法を用いた各種製品を上市している。
2005年には「FIND(Foundation for Innovative New Diagnostics)」とLAMP法を利用した結核の遺伝子迅速検査法の共同開発契約を締結したことを皮切りに、マラリア、HIV等の検査に関する共同開発を進める。
全世界で感染拡大が進む新型コロナウイルスに対しても、2020年3月にLAMP法を利用した新型コロナウイルス検出用試薬を発売した。
*LAMP法、FINDについては「1-6 特徴と強み④LAMP法の優位性」を参照

 

【1-2 経営理念】

*経営理念:「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」
*経営ビジョン:「EIKENグループは、人々の健康を守るために、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。」
*モットー:「品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”」

 

これらを中心に各ステークホルダーへの考え方として、EIKEN WAYを策定している。


(同社資料より)

【1-3 市場環境】

<国内市場>
臨床検査薬市場は、新型コロナウイルス検査薬関連の売上増の影響が残り、2024年度で約4,862 億円、研究用試薬と検査用機器を含めると約8,523億円(一般社団法人日本臨床検査薬協会調査。栄研化学提供データ)となっている。行政は増大している医療費を抑制するために特定健診(メタボ健診)やがん検診の受診率向上やOTC検査薬(薬局で購入できる検査薬)の規制緩和といった予防医療に力を入れており、今後、高齢化の進展と共に臨床検査数(検体数)の増加が見込まれる。

 

一方でマイナス面としては、価格競争による単価の低下、診療報酬改定(引き下げ)及び長期的には少子化による人口減少がある。ただ、診療報酬改定の対象である保険(検体検査実施料)の推移を見ると、1997年から2006年までの期間に約4割引き下げられたものの、その後はほぼ横ばいないし微減となっている(2024年度検体検査実施料 - 0.95%)。これは同社を含めた業界全体として予防、検査の重要性を働きかけた結果という事で、新型コロナの影響を除けば中期的には国内市場は年率2%程度の微増傾向が続くと思われる。
前述の協会会員141(2025年11月時点)の内メーカーは約80社で、売上100億円以上の企業は15社程度となっており、大多数は中堅・中小企業という構造。臨床検査は検査項目が多岐にわたっているため企業ごとに得意とする分野が異なり、企業間での棲み分けが出来ている。そのため、他社から原料・製品を仕入れて製造・販売するといった業務提携が多く見られる。また、そうした棲み分けが出来ている中、市場は小幅ながらも拡大しているため、明確な淘汰は現在のところ起きていないということだ。

 

<海外市場>
世界の体外診断用医薬品市場規模は2023年に779億ドルといわれており、地域別市場シェアは米国42.3%、欧州26.6%、アジア23.1%などとなっている。(Horizon Databookによる栄研化学調査結果)
市場規模自体が国内市場の約10倍超と巨大であると同時に、先進国では高齢化の進展に伴う検査数の増加、また新興国においては経済成長、所得増加に伴う医療ニーズの拡大などにより、年率3.9%以上と国内市場を大きく上回る成長が見込まれるため、国内企業は積極的にグローバル化を進めている。
ただ、グローバル市場においては、ロシュ、アボット、シーメンス、ダナハーなど世界的大企業がメインプレーヤーとなっており、日本企業が競争に勝ち抜くためには独自性のある製品・システムの開発など競争力強化が不可欠である。

 

<便潜血検査市場>
世界的な老年人口の増加や、がん有病率の上昇を背景に、がん診断関連の世界市場規模は拡大しており、がん診断市場は約1,243億ドル、うち大腸がん診断市場は約163億ドルで、便潜血検査市場は約1.7億ドル。
「内視鏡医師不足に伴う検査キャパシティ不足」「便潜血検査の医療経済性の高さへの評価」「新興国における健診(検診)の重要性認識向上」などに加え、先進国ではがん検診の対象年齢拡大の動きが更に活発化するものと見込まれており、便潜血検査市場は今後ますます拡大するものと見られる。

 

大腸スクリーニング検査を全世界52ヵ国で展開し、既に世界で約7割のシェアを有する同社は、「豊富なエビデンス」「優れた採便容器の開発」「ヘモグロビンの安定性」「便潜血検査における高い精度管理」「豊富な経験で充実したサポートサービスの提供」といった優位性を有している。

 

今後も、「検診受診率の向上」「検査精度の向上」「新規スクリーニングの獲得」などの拡大戦略を推進するとともに、「大腸がんによる死亡リスク減少」「早期治療による医療費の抑制」「QOLの向上・健康寿命の延伸」といった価値創造により企業の社会的な存在意義を高めていく考えだ。

 

製品展開国数は、2025年3月期の52ヵ国から2028年3月期には61ヵ国に拡大させることを目指している。

 

【1-4 事業内容】

1.臨床検査とは
臨床検査には、レントゲン、CT、MRI、心電図、超音波など、医療機器を使用して体を直接調べる「生体検査」と、患者から採取した血液、尿・便、細胞などの生体試料(検体)を調べる「検体検査」がある。
同社が取り扱う臨床検査薬とは、検体検査に使用する試薬の事で、例えば感染症の検査や便に含まれる微量の血液の測定など、病気の診断をサポートするもの。これら試薬の大部分は体外診断用医薬品と呼ばれ、医薬品医療機器等法の規制を受け、試薬メーカーなどがPMDA(医薬品医療機器総合機構)に対し申請し、認可を受けたものである。ユーザーは、病院、医院、診療所、依頼を受けて検査を行う検査センター、健診センター、保健所、衛生検査所など。

 

2.主力製品
主として以下の各検査用試薬や測定装置を製造・販売している。
同社は幅広い検査薬を取り扱うために、自社製品に加え他社製品の仕入販売も行っている。
主要な自社製品は、便潜血検査用試薬、微生物検査用試薬、免疫血清検査用試薬、尿検査用試薬、遺伝子検査用試薬など。自社製品と他社製品の売上比率は約60:40。粗利率は自社製品が約55%、他社製品が約35%。

 

製品群

売上高

売上構成比

便潜血検査用試薬

12,941

31.9%

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

9,599

23.7%

尿検査用試薬

4,620

11.4%

微生物検査用試薬

4,501

11.1%

生化学検査用試薬

573

1.4%

器具・食品環境関連

1,960

4.8%

遺伝子関連(機器含む)

1,980

4.9%

医療機器・その他(遺伝子関連機器除く)

4,362

10.8%

売上高合計

40,539

100.0%

*2025年3月期実績。単位:百万円

 

便潜血検査用試薬
大腸がんのスクリーニング検査として糞便中ヒトヘモグロビンを特異的に検出・測定する便潜血検査用試薬・採便容器を主力製品とし、グローバルに販売している。

 

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)
リウマチや炎症性疾患の診断及び胃がんリスク層別化検査(ABC分類)に使用する汎用自動分析装置用試薬「LZテスト‘栄研’」を始め、各種検査用試薬の開発、製造、販売を行っている。また東ソー(株)から、全自動エンザイムイムノアッセイ装置用試薬及び自動グリコヘモグロビン分析装置用試薬を導入・販売している。

 

尿検査用試薬
尿中の潜血、たんぱく質、ブドウ糖など多項目の検査が行える尿検査用試験紙「ウロペーパーⅢ‘栄研’」、全自動尿分析装置用には専用試験紙の「ウロペーパーαⅢ‘栄研’」などを開発・製造・販売している。
また、海外については、2017年よりシスメックスと業務提携し、販売を行っている。

 

微生物検査用試薬
同社は創立以来、感染症及び食中毒の予防を目的とし、生体試料や食品・環境の微生物検査用試薬を開発してきた。現在では、各種細菌検査用培地(増菌用培地、分離用培地、生物学的性状検査用培地、同定検査用培地)、薬剤感受性検査用試薬、迅速検査試薬など、微生物感染症の診断・治療に有用な各種検査用試薬を開発・製造・販売している。

 

生化学検査用試薬
生活習慣病との関連性が注目されている検査項目を中心に、血清や尿を検体とし生体成分を測定・分析する「エクディアXL ‘栄研’」シリーズなど、生化学検査用自動分析装置に対応する各種検査用試薬を開発・製造・販売している。

器具・食品環境関連
食中毒原因微生物の検査などの食品微生物検査用試薬や作業環境の汚染実態などを把握できる環境微生物検査用試薬及び検査用器具・器材の販売を行っている。

 

遺伝子関連(機器含む)
同社は1998年、新規遺伝子増幅技術LAMP法を独自開発し、このLAMP法を利用した遺伝子検査用試薬を開発・製造・販売している。このLAMP法は、「簡易、迅速、精確」という特徴を有しており、今後の国内及びグローバル展開のための大きな武器となっている。(詳細は後述)

 

医療機器・その他(遺伝子関連機器除く)
各種自動分析装置を販売している。自社試薬を使用する専用装置は製造委託を行っている。便潜血測定装置「OCセンサー」は1989年の発売以来、技術革新と品質向上を重ねている。また、独自技術である画像処理システムを使用した尿自動分析装置「US」、LAMP法リアルタイム濁度測定装置「LoopampEXIA」などを取り揃えている。

 

3.販売体制
国内の販売体制は9営業部。学術部門が販売促進の支援を行っている。
2025年3月期の全従業員702名(連結)中、約290名が営業部門。
ユーザーである病院など医療機関向けチャネルに関する直接の販売先は医療系卸会社で、殆ど全ての卸会社と取引を行っている。

 

海外販売においては、基本的に1ヵ国・1代理店体制をとっており、販売とメンテナンスを委託しており、本社の海外企画営業室が管理している。輸出先は約45ヵ国。米国、ドイツ、イタリア、スペイン、イングランド、フランス、オーストラリア、韓国、台湾が海外売上の大半を占めている。アムステルダム(オランダ)に欧州支店を有し、販売体制を強化している。2023年11月には米国現地法人を設立し、直販体制の構築にも取り組んでいく考えだ。
2024年3月期には、海外売上高が101億15百万円と初めて100億円台に達し、2025年3月期は更に伸長。海外売上高のうち便潜血検査用試薬は約6割を占めている。

 

【1-5 ROE分析】

 

16/3期

17/3期

18/3期

19/3期

20/3期

21/3期

22/3期

23/3期

24/3期

25/3期

ROE(%)

8.9

10.0

8.3

10.3

9.9

12.9

14.3

12.1

5.6

5.0

売上高当期純利益率

7.55

8.77

7.45

9.64

9.67

13.04

14.46

13.26

6.58

5.50

総資産回転率

0.83

0.80

0.78

0.77

0.75

0.73

0.73

0.67

0.63

0.65

レバレッジ

1.42

1.43

1.43

1.38

1.36

1.35

1.36

1.36

1.35

1.40

*単位:%、回、倍

ROEは売上高当期純利益率の低下を主要因に、一般的に日本企業が目標とすべきとされる8%を2期連続で下回った。継続的なROEの上昇・水準維持のためには、高付加価値製品の開発、新規事業・新規市場の創出及び原価率及び販管費率の低減による利益率及び生産性向上に加え、低下傾向にある総資産回転率の改善も欠かせない。

 

 

【1-6 特徴と強み】

①高シェアの製品群
便潜血検査用試薬の国内シェアは68%でトップであるほか、尿検査用試薬で約29%(1位)、微生物検査用試薬で約14%(4位)等と他社にはない独自技術・ノウハウを利用した多くの自社製品において高いシェアを有している。同社が便潜血検査用試薬で高いシェアを獲得することができた背景としては、1987年に発売した目視判定法用の便潜血検査用試薬「OC-ヘモディア」が、競合品に比べユーザーニーズに合致した製品であったこと、1989年には測定原理に免疫法(ラテックス凝集法)を採用し世界初の全自動分析装置「OC-センサー」を発売したことがある。
また、便潜血検査は1992年に老人保健法の改正が行われ、大腸がん検診のスクリーニング検査法として公費で受診が可能(受診者負担が無料)になったのをきっかけに、普及が加速し競争が激しくなったが、同社は、機能を一新した「OC-センサーneo」を2001年に発売し、シェアを拡大してきた。

 

(同社資料より)

 

便潜血検査に関してはこの特徴を活かして海外展開を進めている。
同社の免疫法は、ヒトの血液のみに反応する試薬であり、また、自動分析装置による大量処理が可能である。

 

海外では2010年に欧州の検診ガイドラインで免疫法による自動装置測定が推奨され、市場が大きく変化した。
また、市場が最も大きいアメリカでは、かつては化学法が主流であったが、徐々に免疫法へシフトしている。2016年6月に発行されたUSPSTF(米国予防医療特別委員会)の大腸がんスクリーニングに関する新ガイドラインでは、従来の化学法ではなく免疫法が優れていると指摘されたことに加え、同社の便潜血検査製品『the OC FIT-CHEK family of FITs』が、高い感受性と特異性で最高の検査パフォーマンスを有していると評価された。さらにアジア、南米の先進国・新興国には未開拓な大きな市場が控えている。
便潜血検査市場は、ニッチな市場であるため、いち早く免疫法を開始した日本企業の技術が最も進んでおり、同社の試薬・装置がグローバルスタンダードとなっている。

 

②研究開発に注力
研究開発型企業として独自性のある技術の研究開発と、それをベースとした顧客ニーズに対応したオリジナル製品の開発に注力している。研究開発要員は約200名。
顧客の要望は医療のクオリティ向上。具体的には、高感度・高品質による疾患の鑑別精度の向上、検出率の改善といった点が挙げられる。加えて、使用法が簡便であれば医療従事者の負荷軽減につながるため、そうしたニーズへの対応も重要なポイントとなっている。
同社には、1939年の創業以来培ってきた試薬製造の独自技術が蓄積されており、またその試薬の性能を有効に活用するための装置に関しても、便潜血検査用装置や尿自動分析装置、遺伝子検査などで他社にはない独自技術が用いられている。

 

③アライアンス戦略による多品種・多分野展開
臨床検査薬はその対象、項目が多岐にわたり、開発・製造・販売のすべてを自社で手掛けることは困難である。同業他社の多くは自社の得意な技術・製品に絞っているが、同社は臨床検査薬の総合メーカーとして、収益構造の安定化をめざし、アライアンス戦略を通じて自社の有する強みの拡大、機能の補完、新技術の取得といったシナジー効果を追求しつつ、広範に取扱製品を揃え、医療機関を始めとした顧客、ユーザーのニーズに対応している。
多品種・多分野に展開しているもう一つの理由としては、経営理念「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」にあるように、人々の健康を守るという責務を達成するためには、幅広い臨床検査に対応することが企業としての社会的責任であるとの想いも根底にある。

 

④「LAMP法」の優位性
遺伝子検査の中の過程の一つである遺伝子増幅プロセスにおける現在の主流技術は「PCR法」と呼ばれるもの。これに対し同社は1998年「LAMP法」という独自技術を開発した。
「LAMP法」はPCR法と比較して、以下の様な優れた特徴を持ち、簡易で迅速に特異性の極めて高い遺伝子検査を行うことが出来るものである。

 

簡易

一定温度で増幅反応が進む。(PCR法は増幅に温度変化が必要)

迅速

増幅効率が高く30~60分で検出可能。(一般的なPCR法は2~3時間)。

精確

特異性が極めて高い。

 

現在、医療分野では、感染症検査である新型コロナウイルスや結核、マイコプラズマ(真正細菌の一属で、肺炎の原因となることもある。)、レジオネラ、百日咳等の検査に使われている。
同社はLAMP法の地位確立のため感染症検査に注力すると同時に、LAMP法の普及・認知度向上のために、畜産・水産、食品・環境など医療以外の分野での利用を推進しており、実際にLAMP法に基づく製品は2002年以降次々と実現している。

 

LAMP法を世界的に普及させるための中心的な取り組みの一つが、「FIND」とのアライアンスである。
「FIND」は「Foundation for Innovative New Diagnostics」のことで、2003年5月に開催された国連の世界保健会議の場で設立されたスイス政府認可の非営利財団。当初5年間、Bill & Melinda Gates Foundationからの助成金を受けて活動を本格化している。途上国における感染症撲滅のために、手頃な価格で、取り扱い易く、先進的な検査・診断方法を開発・導入する事を活動の目的としている。

 

FINDでは対象とする感染症として、結核、マラリア、アフリカ睡眠病などを挙げているが、このうち結核については途上国で実施されている顕微鏡検査(塗沫検査)よりも精度を向上させることを目的として、LAMP法による結核検査の共同研究が同社とFINDによって2005年7月より開始された。
途上国の現場でも利用できるように、前処理工程の簡略化(PURE法)、試薬保存方法の改良(室温保存)、装置の簡略化など、PCR法では実現できない改良が加えられた(TB-LAMP)。LAMP法を利用したこの製品は2011年に日本で既に販売となっている。その後、WHO(World Health Organization、世界保健機関)の推奨獲得のために、途上国14ヵ国での評価試験を終了し、WHOに資料を提出していたが、2016年8月、顕微鏡検査に代わる、あるいは顕微鏡検査を補強する検査としてWHOの推奨を取得することができた。
WHOが2025年11月に発表した世界の結核に関する報告書によれば、2024年の結核の罹患患者数は1,070万人で、死亡者数は123万人であるという。そのほとんどが未診断例や未治療例と見られ、「診断や治療へのアクセスが整備されていない国での対策強化が必要」としており、TB-LAMPの普及、浸透はこうした問題解決に大きく貢献するものと同社では考えている。
加えて、結核以外にも前述の疾病のほか、リーシュマニア症及びシャーガス病といったNTDs(顧みられない熱帯病)の検査薬に関して、FINDと共同開発を進めている。

 

同社ではLAMP法を利用した次世代の小型全自動遺伝子検査装置および多項目検査チップによる検査システム「Simprova(シンプローバ)」を開発した。ただ、装置の海外製造委託先における供給面の課題等から、製造を国内に変更し、発売に向けた準備を行っている。
本装置は、検体前処理(核酸抽出・精製)から増幅・検出までを全自動で行え、従来の高純度な核酸抽出・精製を行う装置と増幅・検出装置で合わせて2時間以上を要していた操作時間を、LAMP法の特徴を活かした独自プロトコルの開発により、1時間以内に短縮することが可能。呼吸器感染症パネルの開発を進めてきたが、今後はがん・ヘルスケアの領域の開発へ大きく転換した。
同社では、「Simprova(シンプローバ)」はLAMP法の普及を加速させるとともに、新たな市場を構築していく中でグローバルスタンダードとしての地位を確立させるものと期待している。

 

*遺伝子増幅法
遺伝子検査では、検体に含まれる目的の遺伝子量が極めてわずかなため、遺伝子を検出するためにはまず目的とする遺伝子を増幅させなければならず、遺伝子検査において最も重要なポイントが遺伝子増幅となる。

 

*アフリカ睡眠病
熱帯アフリカの風土病で、トリパノソーマという原虫がヒトに感染して引き起こす重大な熱帯病。ツェツェバエが媒介する。ヒトの血液中のトリパノソーマがツェツェバエに吸血され、その体内で発育、増殖し2~5週で終末トリパノソーマ型となって次の感染源となる。高熱、頭痛、嘔吐などをきたし、ひたすら眠るようになる。食事が摂れなくなるので痩せ、全身衰弱となり、多くは合併症を引き起こして死亡する。

 

*リーシュマニア症
リーシュマニアという原虫の感染によって引き起こされ、黒熱病といわれる内臓リーシュマニア症、皮膚と粘膜をおかすブラジルリーシュマニア症、皮膚をおかす熱帯リーシュマニア症があり、いずれも吸血昆虫、とくにサシチョウバエが媒介する。内臓リーシュマニア症は約3か月の潜伏期の後、高熱、発汗や下痢が生じ、1か月ぐらいすると肝臓と脾臓が腫れ、貧血が進み、放置すると衰弱し、半年から2年で死亡することもある。

 

*シャーガス病
米国南部や中南米において哺乳類吸血性であるオオサシガメ亜科のサシガメを媒介とする感染症。すぐには発病せず、一般的に30年ほどの潜伏期間がある。リンパ節、肝臓、脾臓などの腫脹、筋肉痛、心筋炎、心肥大、脳脊髄炎、心臓障害といった症状をもたらす。

 

【1-7 資本コストや株価を意識した経営への対応】

(1)現状分析
【1-5 ROE分析】で見られるように、同社のROEは2023年3月期まで8%以上を維持していたが、2024年3月期、2025年3月期と2期連続して8%を下回った。
こうした状況およびPBRが一時期、1倍台前半まで低下したことを踏まえ、現状評価を行い改善に向けた方針、具体的な取り組み等について取締役会にて協議を実施している。

 

(2)取り組み
①資本収益性の向上
収益力の強化、資本収益性向上のため、ROIC経営を徹底するとともに経営システムを強化し、企業価値向上に向けた資本政策を実行する。

(同社資料より)

 

②株主還元
株主に対する利益還元を経営の最重要課題のひとつと位置づけたうえで、財務体質の強化と積極的な事業展開に必要な内部留保の充実を勘案し、安定した配当政策を実施することを基本方針としている。
株主への株主還元のさらなる強化を図るため、これまでの「連結配当性向30%以上」の目標に代えて、株主還元における指標を配当と自己株式の取得を含めた総還元性向とし、「総還元性向50%以上」を目指すこととした。

 

③キャッシュ・アロケーション
新中期経営計画「Challenges to Innovation」では、借入金の利用と資産売却によるキャッシュの創出を原資に、前中期経営計画では9億円としていた戦略投資を50億円以上と大幅に拡大する計画だ。

 

【1-8 サステナビリティ】

(1)マテリアリティの特定と目標・活動
分野別マテリアリティを特定し、「ありたい姿」「KPI」「方策と活動」を掲げている。
マテリアリティKPIは、2030年度の目標に向かって毎年実績を開示し、2025年4月には新中期経営計画の最終年度2027年度の目標を公表した。

 

①医療
ありたい姿:世界中の人々の健康で豊かな生活への貢献
◎マテリアリティ:医療アクセス向上
2030年度KPI:製品展開国数 18ヵ国(15か国から上方修正)
「方策と活動」
開発途上国への製品供給
・結核高負担国におけるTB-LAMPの普及定着を図る。
・アフリカ開発会議TCAD、日経・FT感染症会議など国際会議において発表する。・産学官民とのパートナーシップを推進する。

 

◎マテリアリティ:医療課題の解決
2030年度KPI:大腸がんスクリーニング展開国数 67ヵ国(57か国から上方修正)
「方策と活動」
グローバルでの医療課題の解決、先端技術開発とイノベーションの推進
・大腸がんスクリーニングへの同社製品の採用拡大
・採便容器緩衝液の安定性改良
・受診率向上に向けた啓発活動

 

<取り組み事例>
誰一人取り残さない結核検査体制の実現に向け、ナイジェリアにおいてTB-LAMPが大規模採用された。
従来のプログラムでは、症状ベースで病院に来る患者のみを検査対象としていたが、今回のプログラムでは巡回健診により見逃されている結核患者を見つけ出すことができた。
このナイジェリアでの採用が継続されており、さらに各国のグローバルファンド予算獲得への水平展開も進めていく。
世界的なNGOなどとの連携による更なるTB-LAMPの認知度向上・普及促進を図る。

 

②環境
ありたい姿:地球環境と調和した事業活動

 

◎マテリアリティ:気候変動への対応
「2030年度KPI」
Scope1+2:CO₂排出量 56%削減 (2021年度比)
Scope3 :CO₂排出量 25%削減 (2022年度比)
Scope1+2については、CO2排出量 30%削減 (2018年度比) から削減量目標を上方修正している。

 

「方策と活動」
CO₂排出量削減
・再生可能エネルギーの利用(工場・研究所に水力発電を採用。太陽光の自家発電、EV車の導入)
・SBT認定を取得
◎マテリアリティ:循環型社会への貢献
「2030年度KPI」
廃棄物 15%削減 (2018年度比)
環境配慮型包装資材の採用率 30%
バイオマスプラスチック等資材の採用率 8%
「方策と活動」
廃棄物削減(包装資材の削減・再生可能資材の利用)
・廃プラスチックリサイクル(単一素材プラスチックの再生利用やその他廃プラの固形燃料、サーマルリサイクルへの活用を促進)
・製品包装の改良(製品ケースのサイズダウン、梱包仕様の見直しによる輸送効率の向上)
③社会
「人財戦略」
同社グループの未来は従業員が創り、従業員の可能性を拡げることが会社の成長と社会への貢献に繋がるものと考えている。
その方針のもと、「人を活かした活力ある企業」を目指している。多様性を尊重し受け入れ合える組織風土を育むとともに、 従業員の安全と健康に十分配慮し、従業員が付加価値の高い業務に集中できる環境を整えている。
また、すべての従業員が活躍を実感し、新たなイノベーションを創出する人財を育成している。

 

(2)統合報告書の発行
サステナビリティに対する考え方や取り組みについての情報発信力強化を目指し、2023年8月より統合報告書を発行している。2025年8月に発行した最新号では、瀨川社長のメッセージや「Challenges to Innovation」をスローガンとする中期経営計画、その背景にある考え方、経営理念「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」に沿った価値創造ストーリー等を掲載している。
https://www.eiken.co.jp/uploads/eiken_integrated_report_2025_jp.pdf

 

(3)ESGインデックスへの組み入れ
GPIFが日本株投資にて採用する各種インデックスに選定されている。
・FTSE Blossom Japan Sector Relative Index(3年連続で選定)
・FTSE Blossom Japan Index(2025年7月に初選定)
・S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数
・Morningstar Japan ex-REIT Gender Diversity Tilt Index

 

(4)イニシアティブへの賛同・署名や第三者評価・認証
*医療分野
2022年6月に、顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)の制圧を目指す「キガリ宣言」に署名したほか、2023年11月には、感染症制圧に向けて闘う国際的な官民ファンド「GHIT Fund」に賛同した。

 

*環境分野
2023年2月にTCFDに賛同した。
英国の慈善団体が管理する非政府組織で、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営するCDPの気候変動に関する評価において最高評価である「Aスコア」を取得した。
2024年2月には、温室効果ガス排出量削減に対する国際認証であるSBT(Science Based Targets)認証を取得した。

 

*社会分野
2024年、健康経営優良法人に5年連続で認定された。
子育てや家庭生活との両立をサポートする企業として「プラチナくるみん」に認定されたほか、女性活躍推進企業として「えるぼし」の3つ星認定を取得している。

 

*ガバナンス分野
内閣官房国土強靱化室より国土強靱化貢献団体としてレジリエンス認証された。

 

2.2026年3月期上期決算概要

【2-1 連結業績概要】

 

25/3期上期

構成比

26/3期上期

構成比

前年同期比

期初予想比

売上高

19,729

100.0%

20,430

100.0%

+3.6%

-3.6%

国内

14,831

75.2%

14,981

73.3%

+1.0%

-

海外

4,898

24.8%

5,449

26.7%

+11.3%

-

売上総利益

8,207

41.6%

8,371

41.0%

+2.0%

-

販管費

6,640

33.7%

6,642

32.5%

-0.0%

-

営業利益

1,566

7.9%

1,729

8.5%

+10.4%

-18.4%

経常利益

1,698

8.6%

1,730

8.5%

+1.9%

-15.6%

中間純利益

1,309

6.6%

2,979

14.6%

+127.6%

-1.7%

*単位:百万円

 

増収増益も予想を下回る
売上高は前年同期比3.6%増の204億円。国内は堅調、海外は便潜血試薬・装置の売上が好調で2桁の増収。
営業利益は同10.4%増の17億円。売上総利益は同2.0%増と、物流及び原材料調達などのコスト上昇により増収率を下回ったが、販管費のコントロールが寄与した。
中間純利益は同127.6%増の29億円。中国連結子会社の持分譲渡により売却益20億円を特別利益に計上した。
海外援助を管轄する米国国際開発局(USAID)の閉鎖による結核など感染症対策援助資金の縮小に加え、微生物検査用試薬が想定を下回り、売上・利益とも予想を下回った。

 

(1)製品群別売上高

 

製品群

25/3期上期

26/3期上期

前年同期比

(a)

便潜血検査用試薬

6,613

6,858

+3.7%

(b)

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

4,870

4,886

+0.3%

(c)

尿検査用試薬

2,293

2,362

+3.0%

(d)

微生物検査用試薬

2,194

2,148

-2.1%

(e)

生化学検査用試薬

295

300

+1.6%

(f)

器具・食品環境関連

1,001

949

-5.2%

(g)

遺伝子関連(機器含む)

712

1,012

+42.0%

(h)

医療機器・その他(遺伝子関連機器除く)

1,748

1,912

+9.4%

 

売上高合計

19,729

20,430

+3.6%

*単位:百万円

 

 

 

海外向けの便潜血検査用試薬、尿検査用試薬および医療機器が堅調に推移した。遺伝子関連は、一時的な特許料収入があり増収となった。ナイジェリアのTB-LAMP受注は再開したが、USAID閉鎖による影響を注視していく。

 

<増収>
・便潜血検査用試薬
・免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)
・尿検査用試薬
・生化学検査用試薬
・遺伝子関連(機器含む)
・医療機器・その他(遺伝子関連機器除く)

 

<減収>
・微生物検査用試薬
・器具・食品環境関連

 

(2)海外動向

 

25/3期上期

26/3期上期

前年同期比

海外売上高

4,898

5,449

+11.3%

米州

1,243

1,216

-2.2%

EMEA

1,715

2,109

+22.9%

APAC

1,938

2,123

+9.6%

*単位:百万円

 

*米州
減収。
ただし、米州における主力製品である便潜血検査については、大腸がんスクリーニングの対象年齢の拡大、内視鏡トリアージの浸透、化学法から免疫法へのシフトによる需要増加の流れは継続している。

 

*EMEA
増収。
イングランドおよびフランスにおける便潜血検査による大腸がん国家スクリーニングを継続して獲得した。イングランドは2026年7月に、フランスは2026年1月に開始する。また、フランスでは2025年6月より受検対象者全員に採便容器の配布が開始された。。
前年同期は便潜血で一過性の減収要因があったが、今上期は対象年齢拡大や採便容器配布方法拡充などが寄与し各国とも堅調に推移した。一方で、USAID閉鎖の影響により結核遺伝子検査TB-LAMPの販売が遅延している。

 

 

*APAC
増収。
尿検査用試薬・装置ともに堅調に推移した。

 

【2-2 財務状態】

◎主要BS

 

25年3月末

25年9月末

増減

 

25年3月末

25年9月末

増減

流動資産

31,532

32,327

+795

流動負債

14,376

14,931

+555

現預金

9,873

9,533

-340

買入債務

8,489

8,015

-474

売上債権

11,740

11,704

-36

固定負債

4,397

4,384

-13

たな卸資産

8,499

9,064

+565

社債

3,000

3,000

0

固定資産

30,840

30,926

+86

負債合計

18,773

19,315

+542

有形固定資産

22,121

23,774

+1,653

純資産

43,598

43,938

+340

無形固定資産

670

399

-271

利益剰余金

34,700

36,778

+2,078

投資その他の資産

8,048

6,752

-1,296

自己株式

-6,756

-7,942

-1,186

資産合計

62,372

63,253

+881

負債純資産合計

62,372

63,253

+881

*単位:百万円。売上債権には電子記録債権を、買入債務には電子記録債務を含む。

 

たな卸資産及び、新研究棟建設に伴う有形固定資産の増加により資産合計は前期末比8億円増加の632億円。
負債合計は同5億円増加の193億円。
利益剰余金の増加、自己株式の増加等で純資産は同3億円増加の439億円。
この結果、自己資本比率は前期末と変わらず69.3%。

 

【2-3 トピックス】

(1)本社移転
2025年9月、東京都台東区から東京都千代田区の御茶ノ水ソラシティ に本社を移転した。
より円滑なコミュニケーションを図るべく全部署をワンフロアに集約。フリーアドレスを導入し多様な働き方を支えるオフィスデザインを施している。従業員の快適性と健康や環境にも配慮している。ステークホルダーエンゲージメントの向上にも寄与すると考えている。

(同社資料より)

 

(2)中国現地法人を設立
2025年5月、100%子会社、栄研医薬(上海)有限公司(EIKEN MEDICAL SHANGHAI COOPERATION)を設立した。
中国市場における診断用医薬品、医療および理化学機器・器具に関するマーケティングおよび栄研化学の研究サポート機能により、中国事業の拡大と展開に寄与することを目的としている。
マーケティングにおいては、市場調査「中国市場における臨床検査を含むヘルスケア分野の動向調査」、技術調査「中国発の新規技術トレンドと欧米由来の先進技術導入状況の包括的調査」を行う。
研究サポートにおいては、現地技術・製品評価「新技術の見極め」、栄研化学の研究支援「現地先端的研究への挑戦支援、データ取得サポート」を行う。

 

(3)TICAD9(アフリカ開発会議)での活動
2025年8月に、パシフィコ横浜で開催されたTICAD9(第9回アフリカ開発会議)で、アフリカ地域の結核を中心とした感染症対策支援の一環として、TB-LAMPをはじめとする同社製品の有用性を訴求した。
アフリカ各国政府代表団および国際機関関係者に対し、同社技術の貢献可能性の理解促進を図り、今後の事業展開に向けた連携基盤を強化した。

 

TICAD9終了後も、そこでの活動を踏まえ、ロビー活動と国際連携の強化を継続している。2025年10月にはドイツでアフリカ各国大使を招いた会合を開催し、各国の結核対策の現状と課題について意見交換を行った。TB-LAMPスターターキット(装置と試薬)を寄贈し、現地での導入促進と医療アクセス向上を支援しており、TB-LAMPは、アフリカの感染症診断体制を強化する技術として、認知が広がりつつある。

 

(4)コーポレート・ガバナンス体制の強化
企業価値の向上のため、経営の健全性、迅速性および透明性を高め、株主視点を重視したコーポレートガバナンスの充実を継続的に図っている。
経営の透明性向上のため、2025年6月末以降は、指名委員会、報酬委員会、監査委員会の委員長および委員はすべて社外取締役とした。
また、取締役会の独立性強化のため、同じく2025年6月末以降は、取締役会における社外取締役の人数を5名から7名に増加し、その比率をそれまでの62.5%から70%に引き上げた。議長も社外取締役とした。

 

(5)積極的に企業PRを展開
企業認知度向上、自社の価値・魅力をアピールする目的で企業PRを開始した。

媒体

概要

ニッポン放送ラジオCM放送

*「かもしれない、のために」編(2025年3月、7~12月)•

*時報CM「お知らせの前に」編(2025年4月~6月)

ポッドキャストCM放送

*「栄研化学の使命」編、「かもしれない、のために」編(2025年5月~8月)

*「大腸がん検診のススメ」編(2025年9月~11月)

スカイマーク機内誌

*「空の足跡」紙面広告(2025年9月~10月)

 

ビジネスモデルはBtoBではあるが、便潜血検査の重要性を訴求することなどで認知度向上や事業内容の理解促進を図る。

 

3.2026年3月期業績予想

【3-1 連結業績予想】

 

25/3期

構成比

26/3期(予)

構成比

前期比

進捗率

売上高

40,539

100.0%

42,200

100.0%

+4.1%

48.4%

国内

29,829

73.6%

30,150

71.4%

+1.1%

49.7%

海外

10,710

26.4%

12,050

28.6%

+12.5%

45.2%

売上総利益

16,512

40.7%

17,050

40.4%

+3.3%

49.1%

販管費

13,512

33.3%

13,800

32.7%

+2.1%

48.1%

営業利益

2,999

7.4%

3,250

7.7%

+8.4%

53.2%

経常利益

3,198

7.9%

3,100

7.3%

-3.1%

55.8%

当期純利益

2,228

5.5%

3,770

8.9%

+69.2%

79.0%

*単位:百万円

 

業績予想に変更なし、増収増益を予想
業績予想に変更は無い。売上高は前期比4.1%増の422億円、営業利益は同8.4%増の32億円の予想。
国内はほぼ前年並みも、海外は引き続き便潜血検査用試薬が伸長する見込み。
配当は前期比5.00円/株増の58.00円/株を予定。予想配当性向は50.7%。

【3-2 売上高見通し】

(1)製品群別売上高の見通し

製品群

25/3期

26/3期(予)

前期比

進捗率

便潜血検査用試薬

12,941

13,640

+5.4%

50.3%

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

9,599

9,680

+0.8%

50.5%

尿検査用試薬

4,620

4,740

+2.6%

49.8%

微生物検査用試薬

4,501

4,900

+8.8%

43.8%

生化学検査用試薬

573

610

+6.3%

49.2%

器具・食品環境関連

1,960

1,860

-5.1%

51.1%

遺伝子関連(機器含む)

1,980

2,440

+23.2%

41.5%

医療機器・その他(遺伝子関連機器除く)

4,362

4,330

-0.7%

44.2%

売上高合計

40,539

42,200

+4.1%

48.4%

*単位:百万円

 

(2)海外売上高の見通し

 

25/3期

26/3期(予)

前期比

進捗率

海外売上高

10,710

12,050

+12.5%

45.2%

米州

2,430

2,530

+4.1%

48.1%

EMEA

4,282

5,260

+22.8%

40.1%

APAC

3,997

4,260

+6.6%

49.8%

*単位:百万円

 

4.ROIC向上への取組み進捗

中期経営計画「Challenges to Innovation」における財務・資本戦略の重要なテーマの一つである「ROICの向上」に向けた取り組みの進捗は以下の通りである。

 

【4-1 基本方針】

ROICを2025年3月期の5.2%から2028年3月期8.1%へ引き上げる。「収益力の強化」と「資本収益性向上」のため、ROIC経営を徹底し、ROICツリーにより現場の目標・施策への展開を社内外に明示するとともに、経営システムを強化し、企業価値向上を図る。「財務の最適化」にも取り組む。

 

【4-2 施策と進捗】

(1)収益力の強化
原価及び販管費の低減を図り、営業利益率を2025年3月期の7.4%から2028年3月までに12.6%に向上させる。
①原価低減

施策

28年3月期

営業利益率における改善目標

*主力・収益・育成製品群への集中投資

*新製品・改良品上市・拡販

*低収益製品群の整理・撤退

*製品剤型の整理・改廃

*需要予測の精度向上

*工場ロスコストの削減

*尿検査、免疫血清検査の生産拠点を野木工場へ集約

*データ駆動型スマートファクトリーへの取り組み

+2.0pt

主力・収益・育成製品群への集中投資のため、自社の製品群を市場成長性と事業収益性の2軸で4象限に分類している。主力製品群・収益製品群・育成製品群に投資を集中し、低収益製品群については、「見直し・検討」から「整理・撤退」へと舵を切る。2026年3月期上期は、収益製品であるPOCT(※)新製品(アデノ・ストレプトA)の拡販強化策を開始したほか、主力製品である便潜血検査用試薬においては、海外の対象年齢拡大効果が販売増につながった。EMEAエリアにおいては、カルプロテクチンの拡販策により販売が増加した。低収益品(製品群)である粉末培地および器具品137品目について市場適正価格に改定した結果、原価率が改善した。

 

製造面では、尿検査用試薬の製造拠点を中国から野木工場へ集約したことで尿試験紙の原価率が改善した。
データ駆動型スマートファクトリー実現に向けては現在研究を進めている。

 

※POCT: Point of Care Testing、臨床現場即時検査。診察室、病棟、救急外来、在宅など患者のそばで医療従事者が行う迅速な検査のこと。中央検査室で行う検査とは異なり、その場で結果を得ることで、迅速な診断と治療、患者QOLの向上に貢献することが期待されている。

 

②販管費低減

施策

28年3月期

営業利益率における改善目標

*製品ポートフォリオに基づく委託研究費の適正化

*人員構成・要員計画の最適化による労働生産性の向上

+3.2pt

 

人員構成・要員計画の最適化については随時取り組んでおり、2026年3月期上期の売上高人件費率は前年同期比0.6ポイント低下した。
売上高販管費率も同0.6ポイント低下し32.7%となった。

 

(2)資本効率性の向上
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の最適化
2025年3月期実績106日を、2026年3月期102日、2028年3月期85日に改善させる。
2026年3月期上期は売上債権回転期間について、主要取引先との取引を順次電子債権取引へ切り替え、資金化までのリードタイムを約4日短縮しキャッシュフローを強化することができた。
一方、棚卸資産回転期間については、USAID閉鎖に伴うTB-LAMPの受注遅延により、原材料および中間製品の在庫が一時的に増加したほか、取引先との契約に基づき機器在庫が増加した。10月以降のTB-LAMP出荷および機器の計画通りの販売により在庫圧縮を進める。

 

資産適正化に向け、中国連結子会社である栄研生物科技(中国)有限公司の持分を、2025年9月に譲渡した。売却益約20億円を2026年3月期上期の特別利益に計上した。
稼ぐ力の強化を進める中で、栄研生物科技(中国)有限公司における来料加工を野木工場に集約することで生産効率の向上、製造原価の低減が見込めることから、栄研中国の持分を譲渡することが企業価値向上に資すると判断した。

 

(3)財務の最適化
◎最適資本構成・適正自己資本
自己資本比率目標を70%以下としている。2025年9月末の自己資本比率は69.3%と目標に適合している。

 

◎株主還元
株主還元方針として「総還元性向50%以上」を掲げている。
2026年3月期は中間配当29円/株、期末配当29円/株で合計58円/株の予想。2025年7月までに200万株の自己株式の取得 を完了している。

 

◎自己株式の償却
2025年11月に400万株の自己株式を消却した。
消却後の自己株式数は約157万株で、自己株式保有比率は消却前の14.5%から4.6%に低下した。
自己株式は、原則使途が明確化された部分を除き消却する方針で、残りの自己株式は役員および従業員への譲渡制限付株式報酬として活用し、モチベーションアップによる企業価値向上を図る。

 

(4)社長キャラバンの実施
ROIC経営徹底のためには、ROICツリーにより現場の目標・施策への展開を明示するとともに、社員一人一人の理解促進が欠かせない。
2025年6月に就任した瀨川社長は、全事業所を訪問し、全従業員との対話を進めている。中期経営計画目標達成に向け従業員のモチベーションアップを図り、ROIC経営の重要性を説明している。
上期にはタウンホールミーティングを16回、座談会を20回実施し、206名の社員と対話した。
瀨川社長も新たな気づきを得ることができたということで、今後も継続的に実施していく考えだ。

 

5.瀨川社長に聞く

瀨川雄司代表執行役社長に、自身のミッション、同社の競争優位性、中期経営計画における重点施策、今後の課題、株主・投資家へのメッセージ等を伺った。
瀨川社長は1965年11月生まれ。子供のころから「モノづくり」に関心が高く、1990年4月にソニー株式会社に入社。液晶ディスプレイ開発や生産技術開発に取り組んだのち、2005年頃よりメディカル分野で遺伝子増幅検出デバイス等の開発に携わる中で、栄研化学株式会社と出会い、共同研究が始まる。これを機に、本格的にメディカル分野に取り組みたいと考え、2013年7月、栄研化学株式会社入社。研究開発統括部 応用技術研究所長および営業統括部 マーケティング室長を経て、2025年6月、代表執行役社長兼取締役に就任した。

 

Q:まず初めに瀨川社長御自身のミッション、栄研化学社長としてなすべきことは何でしょうか。

 

今回の中期経営計画のスローガン「「Challenges to Innovation」がまさに私のミッションです。当社は非常に高い技術力を有していますが、その優位性を更に強化し、当社の企業価値を向上させるには、今まで以上にChallengeを重視するポジティブな企業風土に変革する必要があります。挑戦を原動力にして変革に繋げる、活力あふれる会社にすることが、私のミッションであると考えています。

 

 

Q:続いて、改めて栄研化学の競争優位性、御社だからこそ創出できる価値について教えてください。

 

当社は便潜血検査はじめ、国内市場で高いシェアを有していますが、その背景にあるのは高い技術力であり、これが最大の競争優位性となっています。例えば便潜血検査においては、1989年に測定原理に免疫法を採用した世界初の全自動分析装置「OC-センサー」を発売しました。そこに使用されている採便キット(採便容器、試薬等)で採取した検体から、大腸がん検査(便潜血検査)に限らず、その他の消化器関連疾患、生活習慣病やら未病マーカーなどの多岐にわたる情報を得ることができます。多くの可能性を秘めたこの採便キットを利用し、様々な情報を定量的に測定できる検査系を構築していきたいと考えています。また、便潜血検査のほか、尿検査、微生物検査、遺伝子検査など、幅広い分野で高度な基盤技術を有している点も、強力な競争優位性です。遺伝子検査の独自技術であるLAMP法の特許は切れましたが、蓄積してきたノウハウは膨大で、こちらも圧倒的な優位性であると考えています。当社は、こうした基盤技術を、知的財産やノウハウとして保有しておりますので、他社が簡単にキャッチアップできるものではありません。

 

 

Qそうした高い技術力、競争優位性を今後もさらに磨き上げていくためにはどんな取り組みが必要でしょうか。

 

便潜血検査や遺伝子検査については、ベースとなる技術の改良を継続的に進めていくと同時に、中期経営計画でも言及していますが、高感度POCTは大きく伸びる余地が大きいと考えており、人的投資、研究開発投資によって市場の開拓、需要の取り込みを図っていきます。先程も触れましたが、便の中には私たちの健康に関する様々な情報が存在しています。当社はそれらを的確にデータとして取得する基盤技術を構築してきましたので、検出に留まらず、得られた情報を分析し、ソリューションも提供していくことで人々の健康に貢献していきたいと考えています。ただ、当社はソリューションを有する会社ではありませんので、当社の基盤技術を強みとして、オープンイノベーションを通じて様々な企業と協業し、ヘルスケア領域もビジネスの一つの軸になるように進めてまいります。

 

 

Q:中期経営計画「Challenges to Innovation」では様々な戦略や取り組みを掲げていますが、その中でも社長が特に重視している目標や施策を教えてください。

 

3点挙げさせていただきます。

 

1つは「海外市場の開拓・拡大」です。
便潜血検査、結核検査および免疫血清ラテックス試薬のグローバル展開に注力し、海外売上高を2025年3月期の107億円から2028年3月期には151億円まで拡大させます。

 

便潜血検査においては、米国やイングランドなどでの検査対象年齢の拡大に加え、欧米のみではなくアジアなど新規採用国の増加もあり、検査需要は大幅に増加することが予想されます。これまで構築した圧倒的なエビデンスを有している当社の優位性を訴求すればこの拡大する需要を確実に取り込むことができると見ています。米国子会社設立による営業力強化も大きく寄与するものと考えています。

 

結核検査においては、国連・WHOが、顕微鏡検査から、弊社の得意分野であるより精度の高い遺伝子検査へ移行する方針を示しています。米国国際開発局(USAID)の閉鎖による結核・マラリアなど感染症対策援助資金の縮小という問題が浮上してきましたが、各グローバルファンドとの対話も進めて予算を獲得し、市場でのシェアを拡大させていきます。

 

前中期経営計画で海外売上高は目標未達でしたが、売上高そのものはしっかりと伸ばしてきました。引き続き「海外比率40%」という目標実現に向けて、代理店との更なる関係強化を図るとともに各海外拠点での販売およびマーケティング体制強化を進めます。

 

2つ目は「製品ポートフォリオの再構築」です。
当社は長年の活動の中から多くの製品を産み出してきましたが、今後、収益性を向上させて成長を目指すためには製品ポートフォリオを整理することが重要です。低収益製品群においては、同一製品でも複数種存在する剤型を集約したり、適正な価格への改訂を行ったり、お客様に大きな迷惑をお掛けしない製品については一部撤退も検討したりしていきます。主力製品群・収益製品群・育成製品群・低収益製品群という4分類の棚卸はほぼ終わり、スピード感をもって方向性を決定するフェーズに入っております。

 

3つ目は「ROIC経営の徹底」です。
ROIC経営徹底のためには、ROICツリーにより現場の目標・施策への展開を明示するとともに、社員一人一人の理解促進が欠かせません。ただ、ROIC経営徹底のために社員は何か特別なことを始めなければならないということではありません。これまでも取り組んできた目標管理をしっかりと行うことが「ROIC経営の徹底」に繋がるということを、社員との直説対話の場であるタウンホールミーティングで説明しています。タウンホールミーティングでは、社員の様々な意見も聞くことができ、大変貴重で有効な機会であると感じており、今後も継続していく考えです。

 

 

Q:続いて御社の課題について伺います。前中期経営計画では目標未達の部分もありましたが、今後の成長を実現するための課題、反省点及び課題解決のために必要なアクションなどをお聞かせください。

 

「新製品上市の遅れ」、つまり製品化スピードが遅くなっている点が大きな問題点です。
その課題の一つとして、当社の組織の役割分担を明確にすることがあると考えています。研究開発を起点に製造までの過程は、例えば大きな流れとして「基礎研究・開発」→「製品開発・設計」→「生産移管(生産技術)」→「製造」となります。当社の場合、研究開発を行いながら製品設計も行い、研究部門から製造部門に直接生産移管を実施するというような流れがありました。会社の規模が小さいときは、誰もが一連の流れを把握できるという意味でうまく回っていたと考えられます。しかし、人が増え会社規模が拡大するにつれて、役割分担の曖昧領域が生まれやすくなり、組織機能としての責任所在も曖昧になり、各領域での役割意識が分散してきたと感じられます。結果的に、設計開発のやり直しが必要になってしまうケースも増え、製品化スピードの遅れの原因となっていると考えています。
当社が従来培ってきた方法に加え、よりスピーディーに、より良い製品開発に向けた意識改革をベースに組織構造の見直し・改善は継続的に進めていきます。

 

 

Q:最後に、株主・投資家へのメッセージをお願いいたします。

 

当社をあらゆる挑戦ができる風土に変革し、ROIC経営、全員経営で着実に収益力向上を図り、企業価値向上に繋げていくのが私のミッションです。また、成長のための戦略的な投資とのバランスの下、株主還元についても重要な課題と認識しております。スピード感をもってポジティブに経営の変革に取り組んでまいりますので、今後のさらなる発展、成長に向けて、これからも応援していただきたいと思います。

 

6.今後の注目点

2026年3月期上期の国内および海外売上高の進捗率はそれぞれ49.7%、45.2%となっている。国内についてはほぼ例年並みの水準だが、海外については若干低い水準。米国国際開発局(USAID)閉鎖の影響はあるものの、便潜血検査中心に海外の事業環境は良好であり、第3四半期以降のキャッチアップを期待したい。
一方、中期的には、会社側が課題と認識している製品開発のスピードアップに向けた、意識改革を含めた組織構造の見直し・改善の進捗を注目していきたい。

 

<参考1:「EIKEN ROAD MAP 2030」>

事業を取り巻く環境変化に対応するとともに、サステナビリティ経営の視点を取り込むため、経営構想「EIKEN ROAD MAP 2019」を見直し、2030 年をゴールとして、新たに「EIKEN ROAD MAP 2030」として再定義した。

 

2030 年の同社グループが目指す姿を「EIKEN Vision 2030」として明確化し、スローガンとして、「Beyond the Field ~ Team×Challenge ~」を掲げた。
従業員一人ひとりがそれぞれの能力を高め自らが活躍できる領域を広げて、その高めた個の力を、領域を超えて結集しチームでチャレンジすることで新しい可能性を生み出す。加えて、現在の事業領域から一歩踏み出し、医療のプロセスにイノベーションを起こし、検査の未来を創っていく。

 

(同社資料より)

 

(1)事業戦略:注力事業分野
現在の事業領域を中核事業としつつ、注力事業分野として「がんの予防・治療への貢献」「感染症撲滅・感染制御への貢献」「ヘルスケアに役立つ製品・サービスの提供」の 3 分野を設定している。

 

①がんの予防・治療への貢献
これまで検診事業(予防と早期発見)に注力し、特に大腸がんではスクリーニングプログラムをグローバルに構築し、早期発見により死亡率減少と医療費抑制に貢献してきた。
一方で、がんの治療には高額の医療費を必要とすることから適切な治療の選択が重要である。がんの予防・早期発見だけではなく、こうした医療課題に対しても対応すべく、治療薬の選択や治療効果の判定まで網羅した検査システムを開発し提供することによって、がんによる死亡率の更なる減少を目指す。

 

②感染症撲滅・感染制御への貢献
脅威となる感染症への対策として製品ラインアップを拡充し、グローバルでの結核やマラリアなど遺伝子検査システムを展開する。また、より簡易で誰でもどこでも使える迅速で精確な感染症診断システムを開発することで、医療アクセスの向上に寄与する。

 

③ヘルスケアに役立つ製品・サービスの提供
健康寿命の延伸に向けて、遠隔診療や在宅での検査の領域を広げ、モバイルヘルスへ発展させる。最終的には本人が意識しなくても健康状態を知らせてくれる暮らしに寄り添ったモニタリングシステムの開発を目指す。

 

(2)サステナビリティ経営の推進
「地球環境と調和した事業活動」「人を活かした活力ある企業」を経営戦略とし、サステナビリティ経営を推進する。
「人を活かした活力ある企業」となることが成長ドライバーであると考えている。
持続可能な社会の実現に向けて、優先的に取り組むべき 11のマテリアリティ(重要課題)を特定し、具体的な行動計画を開示した。社会課題の解決を通じて、さらなる企業価値の向上と持続可能な社会の実現につなげる。
マテリアリティとKPI詳細 https://www.eiken.co.jp/sustainability/eiken#03

 

(3)目標
①財務目標
2031年3月期の目標は「売上高750億円、営業利益率20%以上、海外売上高比率40%以上、ROE15%以上」としている。

 

②非財務目標
世界の人々の健康を守る企業として「医療」の課題、および「環境」・「社会」・「ガバナンス」の課題に取り組む。特定したマテリアリティについては、達成度を評価する指標(KPI)を設け、進捗状況をモニタリングする。また、KPI の達成度を評価し、執行役の業績評価と報酬に反映する。
マテリアリティとKPI詳細 https://www.eiken.co.jp/sustainability/eiken#03

 

 

(同社資料より)

 

 

<参考2:中期経営計画「Challenges to Innovation」>

2026年3月期 から 2028年3月期 までの 3か年を対象とした中期経営計画は以下の通り。

 

【1 前中期経営計画の振り返り】

前中期経営計画で目標としていた「2025年3月期 売上高435億円、営業利益62.5億円、営業利益率14.4%、ROE9.2%」は「売上高405億円、営業利益29億円、営業利益率7.4%、ROE5.0%」と、未達に終わった。
未達の要因としては、新型コロナ検査試薬の急激な需要減少や物流・原材料調達コストの上昇という外部要因もあるものの、「成長ドライバーである海外売上高の目標未達」「新製品上市の遅れ」といった内部要因が大きく影響した。

 

そこで新中期経営計画に向け、取り組むべき課題を「事業戦略」「財務・資本戦略」「ガバナンス」の3カテゴリに整理し、それぞれにおける具体的な取り組み方針を掲げた。

 

(同社資料より)

 

【2 中期経営計画の概要】

(1)全体像
スローガンを「Challenges to Innovation ~稼ぐ力の強化に向けた抜本的変革への挑戦~」とした。
全社一丸となって、変革に挑戦する。

 

(2)各戦略の概要
①事業戦略
基本方針は、「海外市場の開拓・拡大」「製品ポートフォリオの再構築」「新製品の開発」。
それぞれの目標、具体的な取り組みは以下のとおりである。
◎海外市場の開拓・拡大
便潜血検査、結核検査(TB-LAMP)および免疫血清ラテックス試薬のグローバル展開に注力し、海外売上高を2028年3月期には151億円まで拡大させる。

地域

売上高

(25/3期)

売上高

(28/3期

CAGR

事業環境及び取組み

米州

2,430

3,260

+10.3%

便潜血検査

対象年齢の拡大

南米市場への積極的な展開

カルプロテクチンの上市、展開

 

免疫血清検査

動物検査用試薬の展開と直販体制

EMEA

4,283

6,700

+16.1%

便潜血検査

各国の対象年齢拡大、受診率向上

東欧、中東およびアフリカ諸国での新規採用

 

結核検査:TB-LAMP

アフリカ諸国での事業拡大

APAC

3,997

5,140

+8.8%

便潜血検査

東南アジアでの便潜血検査の促進

 

結核検査:TB-LAMP

中国、インド、インドネシアでの事業拡大

 

ラテックス試薬

現地有力企業との協業による製品展開

全社

10,710

15,100

+12.1%

-

*単位:百万円。CAGRはインベストメントブリッジが計算。
*便潜血検査

 

今後、米国では対象年齢が45歳に引き下げられ対象人口は約2,000万人増加すると見られている。
そのほか、イングランドでは50歳への引き下げにより対象人口は約300万人増加、オーストラリアでは45歳に引き下げられ、対象人口は約160万人増加など、各国で対象人口の拡大が予想される。
合わせて新規採用国の増加もあり、検査需要は大幅に増加すると同社では見ており、2028年3月期の海外便潜血検査売上高は82億円と、2019年3月期比でCAGR8%成長を見込んでいる。

 

*結核検査(TB-LAMP)
年間の潜在的結核検査数(結核検査を行うべき検査回数)が8,200万テストであるのに対し、実際の実施数は6,250万テストで、そのうち遺伝子検査数は4,100万テストに過ぎない。国連・WHOは、結核検査の方法を顕微鏡検査から、より精度の高い遺伝子検査へ移行する方針を示している。
こうした状況下、ナイジェリアはTB-LAMPの採用拡大を進めている。世界で最も結核負担が高い国として、大統領主導の国策で結核対策を推進しているインドネシアでは、国連・WHOの方針を踏まえナイジェリアモデルの水平展開を模索している。
現在のTB-LAMPのシェアは10%未満であり、伸びしろは極めて大きい。
同社では検査の高度化により、結核見逃しゼロを目指し、検査アクセスを飛躍的に向上させ、感染制圧を実現する考えだ。

 

◎製品ポートフォリオの再構築
自社の製品群を市場成長性と事業収益性の2軸で4象限に分類した。
主力製品群・収益製品群・育成製品群に投資を集中し、低収益製品群については、「見直し・検討」から「整理・撤退」へと舵を切る。

(同社資料より)

 

主な注力製品は以下の通り。
*便潜血検査
方針:圧倒的なエビデンスとシェアを活かし、新技術で付加価値を高め、新たな顧客を獲得する

基本戦略

新中期経営計画でのアクション

・便潜血検査受診機会の拡大

・診断精度の向上、高精度のスクリーニングによる内視鏡検査価値の最大化

・新規スクリーニングの獲得:中東、中央アジア、アフリカ(25/3期 52ヵ国を28/3期 61ヵ国へ)

・新採便容器を活用した国内郵送検診の対象拡大と掘り起こし

・便潜血検査と同一の採便容器を活用した炎症性腸疾患検査(カルプロテクチン)の拡販

・便遺伝子検査(FIT+)の開発促進

・新製造棟の稼働による供給能力倍増

 

便遺伝子検査(FIT+)は、大腸がんスクリーニングにおける検査精度・正診率向上のための便潜血検査(FIT:Fecal Immunochemical Test)を補完する新規項目・技術である。

 

*微生物(POCT)

基本戦略

新中期経営計画でのアクション

・販売チャネルの最適化

・高感度POCTへの投資と育成

・開業医市場の販売体制強化(国内)

・呼吸器感染症項目の開発(ナノティス社、他)

・米国拠点による販売体制の確立

 

*遺伝子関連

基本戦略

新中期経営計画でのアクション

・差別化による競争力の確保(がん・CDx)

・グローバルファンドの予算獲得(感染症)

・MINtS適用項目の拡大(肺がん3項目を8項目へ)

・インド、アフリカ諸国への結核検査の普及促進、採用国拡大(25/3期 8ヵ国を28/3期 13ヵ国へ)

・結核検査薬の供給体制の確立と製造コストの低減

 

*尿検査

基本戦略

新中期経営計画でのアクション

・グローバル市場でのシェア拡大

・コスト削減と生産性向上の追求

・Sysmex社との協業によるグローバルでの顧客獲得

・尿試験紙(ウロペーパーおよびウロペーパーアルファ)の生産拠点集約と製造コストの低減

 

*免疫血清

基本戦略

新中期経営計画でのアクション

・生化学・免疫搬送システムの展開

・米国での動物検査事業の強化

・日立ハイテク社、東ソー社との連携による拡販(国内)

・循環器やがん分野への新製品・改良品の上市(国内)

・動物検査用試薬の展開と米国における直販体制の確立

 

各製品の2028年3月期売上高目標、成長率は以下の通りで、便潜血と遺伝子(LAMP)を海外で伸ばし、成長の牽引役とする考えだ。

(同社資料より)

 

(各製品群の売上高目標・成長率)

製品群

25年3月期 実績

28年3月期目標

伸び率(25年3月期比)

CAGR

便潜血

12,941

15,000

+15.9%

+5.0%

遺伝子関連

1,980

5,100

+157.6%

+37.1%

微生物

797

1,700

+113.3%

+28.7%

尿検査

4,620

5,000

+8.2%

+2.7%

免疫血清

9,599

10,300

+7.3%

+2.4%

全社

40,539

46,900

+15.7%

+5.0%

*単位:百万円。CAGRはインベストメントブリッジが計算。

 

 

◎新製品の開発
便潜血、免疫血清、遺伝子関連で新製品のリリースを準備中である。

 

*便潜血
大型便潜血測定装置の後継機を発売し、トップシェアの維持、海外市場の更なる開拓・拡大を図る。

 

*免疫血清
国内市場における競争力強化を図り、自社製品であるラテックス試薬の新規項目に循環器疾患及びがんを追加する。

 

*遺伝子関連
MINtSの肺がん3項目を8項目に拡大するほか、顧みられない熱帯病(NTDs)にシャーガス病など、新規項目を追加する。個別化医療の浸透やNTDs制圧への貢献を目指す。

 

②財務・資本戦略
今回の中期経営計画では、借入金の利用と資産売却によるキャッシュの創出を原資に、前中期経営計画では9億円としていた戦略投資を50億円以上と大幅に拡大する。
ROICの引き上げ(2025年3月期5.2%から2028年3月期8.1%へ)にも注力する。収益力の強化、資本収益性向上のため、ROIC経営を徹底し、ROICツリーにより現場の目標・施策への展開を社内外に明示するとともに、経営システムを強化し、企業価値向上を図る。
株主還元については、さらなる強化を図るため株主還元の目標を「連結配当性向30%以上」から、配当と自己株式の取得を含めた「総還元性向50%以上」へ変更した。

 

(同社資料より)

 

 

 

(同社資料より)

 

③ガバナンス
◎新執行体制による変革の推進
「EIKEN ROAD MAP 2030」の実現のため、執行体制を一新した。
ソニー株式会社出身で、2013年に栄研化学に入社し、応用技術研究所長、マーケティング室長などを歴任した瀨川雄司氏が2025年6月、代表執行役社長兼取締役に就任した。
合わせて、組織の若返り・新たな視点や機動力の導入・スピードの向上を図り、執行役10名中6名が交代した。
製品開発およびグローバル浸透策の加速や計画の精緻化、投資規律の強化をミッションとする。

 

◎サステナビリティ戦略の推進
医療、環境、社会、ガバナンスの各領域において、目指す姿、マテリアリティを定め、KPI達成により、社会課題解決への貢献と持続的成長の実現を目指している。

 

(同社資料より)

 

 

(3)業績目標
以上の事業戦略を推進するほか、生産拠点集約により、主力製品群の供給体制の強化と生産効率の向上を図り、「2028年3月期 売上高469億円、営業利益59億円、営業利益率12.6%」の達成を目指す。
資本効率については、2028年3月期のROE9.3%達成のための財務・資本政策を推進。「EIKEN ROAD MAP 2030」に掲げているROE15%達成に向けた基盤を構築する。

 

 

25/3期

実績

構成比

利益率

26/3期

予想

構成比

利益率

28/3期

目標

構成比

増減

CAGR

売上高

40,539

100.0%

42,200

100.0%

46,900

100.0%

+15.7%

+5.0%

国内

29,829

73.6%

30,150

71.4%

31,800

67.8%

+6.6%

+2.2%

海外

10,710

26.4%

12,050

28.6%

15,100

32.2%

+41.0%

+12.1%

営業利益

2,999

7.4%

3,250

7.7%

5,900

12.6%

+96.7%

+25.3%

当期純利益

2,228

5.5%

3,770

8.9%

4,200

9.0%

+88.5%

+23.5%

ROE

5.0%

-

8.8%

-

9.3%

-

+4.3pt

-

ROIC

5.2%

-

5.1%

-

8.1%

-

+2.9pt

-

*単位:百万円。増減は25/3期との比較。CAGRはインベストメントブリッジが計算。

 

営業利益率は、物流・原材料調達コストの上昇分を吸収し、2025年3月期比5.2ポイントの改善を見込んでいる。
事業戦略で触れた高利益製品群の売上拡大とともに、原価率については、低収益製品群の整理・撤退、製品剤型の整理・改廃、需要予測の精度向上、工場ロスコストの削減、野木工場への集約などで2.0ポイントの改善を計画。販管費率については、製品ポートフォリオに基づく委託研究費の適正化、人員構成・要員計画の最適化による労働生産性の向上などにより3.2ポイントの改善を見込んでいる。

 

【3 長期ビジョンに向けた成長戦略】

(1)成長戦略概要
「EIKEN ROAD MAP 2030」において2030 年の同社グループが目指す姿である「EIKEN Vision 2030」の実現に向けては、収益基盤となる既存事業の成長とナノティス社をはじめとした新規事業への戦略投資を推進する。
既存事業においては便潜血を中心とした海外市場の開拓がカギを握る。

 

 

 

 

「EIKEN Vision 2030」では、注力事業分野として「がんの予防・治療への貢献」「感染症撲滅・感染制御への貢献」「トータルヘルスケアシステムの提供」の 3 分野を設定している。

 

「がん分野」においては、今まで以上に治療に直結する領域での開発に取り組み、「がん検診・診断分野のリーディングカンパニー」「消化器がん検査のブランド化」を目指す。

 

「感染症分野」においては、より簡易な検査技術の確立に取り組む。COVID-19のようなパンデミックの再来が予想されることから、「新興感染症対策体制の構築(100日ミッション)」「あらゆる感染症に対する検査の提供」を目指す。

 

「ヘルスケア分野」においては、遠隔診療や在宅検査に対応した製品・サービスの拡大を図る。具体的には、QOLを向上させる製品・サービス、場所を選ばない検査(POCT/モバイル)、アンコンシャスモニタリング、予防につながる検査(健康予測)などを挙げている。

 

(2)主な集中投資
以下のような投資を積極的に実行する。
◎大腸がん検診
採便容器の付加価値を追求するとともに、大腸がんスクリーニング検査におけるEIKENブランドの確立を図る。
2025年までのステージ1では、高温下での検体輸送に適応してきたが、今後は、2030年までのステージ2では、高精度な大腸がん検査による前がん病変患者の早期発見のための仕組みづくりを、将来的には全世界における便遺伝子検査(FIT+)の浸透を目指す。

 

◎Simprovaプラットフォームの新たな展開
LAMP法を利用した小型全自動遺伝子検査装置および多項目検査チップによる検査システム「Simprova」は、感染症よりも利益性の高いがん項目に特化する計画へ変更し、信頼性向上など改良に取り組み中。システム全体として適用がん項目の拡大などを目指している。まずは乳がんをターゲットに製品開発を実施中。
◎がん遺伝子検査の開発・提供(MINtS)
次世代シーケンサーを用いた多遺伝子変異検索システム「MINtS」は、2024年12月に保険収載され、検査の受託を開始した。
2025年には先進医療参加施設を中心に国内20施設へ導入を、2027年にはその他の北東日本研究機構(NEJSG)参加施設へ展開し国内200施設による採用を目指す。2030年までには検査項目ラインナップの拡充とともに全国展開を図る。
まずは肺がん項目を充実させ、さらに適応がん種の拡大とリキッドバイオプシー適用により、がん治療に貢献する。

 

◎ナノティス社への投資戦略
2024年10月、唾液による次世代の感染症デジタル検査デバイスの研究開発を行う東京大学発ベンチャー、ナノティス株式会社へ、同社初の戦略的投資を実施した。
特許取得済みのコア技術である「NANOTIS法:Nucleic Acid Navigated Optically Traceable Immuno Sensing」は、世界で初めて誘電泳動法による「濃縮」という概念を検出技術に融合した革新的な次世代のプラットフォーム技術で、感染症をはじめ生体粒子全般をスコープとする技術適応のポテンシャルを持つ。
現在、実装に向けて共同で開発を進めており、すべての人がいつでも・どこでも利用可能な次世代検査キットの製造販売を目指す。

<参考3:コーポレートガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

指名委員会等設置会社

取締役

10名、うち社外7名(女性2名)

指名委員会

3名、うち社外3名

報酬委員会

3名、うち社外3名

監査委員会

4名、うち社外4名(うち女性1名)

 

◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2025年6月25日

 

<基本的な考え方>
当社のコーポレートガバナンスの考え方は、経営理念、経営ビジョン、モットーを基本としております。
*経営理念
ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。
*経営ビジョン
EIKENグループは、人々の健康を守るため、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品・サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。
*モットー
品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”

 

当社は、経営の健全化、迅速化及び透明性を高め、企業価値の向上を図るためにも、株主の視点を重視したコーポレートガバナンスの充実を経営の重要課題の一つと認識し、その取り組みを行っております。
当社は、指名委員会等設置会社の体制を採用しており、経営の業務執行機能と監督機能を分離しております。経営の基本方針に係わる重要事項については、取締役会の審議を経て決定し、業務執行については、社内規則・規程に基づき、適正な指示命令系統のもと迅速かつ円滑に行っております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
当社はコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示(抜粋)>

原則

開示内容

【原則1-3 資本政策の基本的な方針】

当社は、持続的な株主価値の維持・向上を実現するため、資本効率の向上と安定的な株主還元を資本政策の基本方針としております。支配権の変動や大規模な希薄化をもたらす資本政策を実施する場合には、その必要性と合理性について取締役会で十分に審議し、適正な手続きを確保するとともに、株主・投資家への十分な説明を尽くしてまいります。

株主還元については、財務体質の強化と成長に向けた積極的な戦略投資・事業展開による企業価値の持続的な向上を経営目標に掲げております。資本コストを意識しつつ、投下資本効率の向上を図り、株主の皆様への継続的な利益還元を経営上の最重要施策の一つとして位置付けております。本方針に基づき、中間配当及び期末配当の年2回の剰余金配当を基本とし、株主還元の強化を目的として「総還元性向50%以上」を目指してまいります。

【原則1-4政策保有株式】

1.上場株式の政策保有に関する方針

当社は、営業活動の円滑な推進、取引関係維持、業務及び資本提携のため、合理性があると認める場合に限り、取引先の株式を保有し、これら政策保有株式について、当社事業の発展に資すると判断する限り保有を継続することを基本方針としております。保有意義の検証については、毎年取締役会において当社の資本コストを踏まえ、リターン(配当や取引状況等の定量要素に加え、経営戦略上の重要性や事業上の関係等を総合的に判断)とリスクが見合っているかどうかについて議論しております。保有する意義が乏しいと判断される銘柄については、株価動向等を勘案した上で売却を進めることとしております。上場株式について、2024年度においては、2024年5月9日の取締役会において2銘柄の売却を決定し、さらに2025年3月17日の取締役会において1銘柄の取得を決定しました。

2.政策保有株式に係る議決権行使基準

当社は、政策保有株式の議決権について、当該企業のコーポレート・ガバナンスの整備状況、株主価値の向上に資する議案であるか、当社に与える影響等を総合的に判断して行使しております。

【補充原則 3-1③ サステナビリティについての取り組み等】

当社は、「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」の経営理念のもと、事業活動を通じてさまざまな社会課題の解決に努めてまいりました。より積極的に、グループ全体でサステナビリティの推進を図るため、サステナビリティ方針を策定し、 代表執行役社長を委員長、各機能・事業グループの担当執行役で構成されるサステナビリティ委員会を設置して活動を推進しております。サステナビリティ委員会の内容は取締役会にて報告され、監督される体制となっております。

「EIKEN ROAD MAP 2030」では、持続可能な社会の実現に向けてマテリアリティを特定のうえ、具体的な行動計画に展開し、指標(KPI)を設けて進捗状況をサステナビリティ委員会でモニタリングしながら取り組みを進めております。

当社のサステナビリティの考え方や方針、推進体制、取り組みについては、当社ウェブサイトにて情報開示を行っております。

https://www.eiken.co.jp/sustainability/

また、当社は、気候変動が金融市場にもたらすリスクを認識し、2023年2月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同し、そのフレームワークに基づき、気候変動がもたらすリスクと機会を特定しています。特定したリスクと機会が及ぼす財務影響についてもシナリオ分析を行い、これまでの気候変動に関する取り組みをより一層推進するとともに、 TCFD提言に沿った情報開示をしております。

https://www.eiken.co.jp/sustainability/environment/weather/

人的資本への投資については、当社は、人財にフォーカスした経営を推進し、社員のやりがい・働きがいを高め、イノベーションを創出できる環境を整備し、持続的な成長と着実な収益性の向上を目指してまいります。詳細は当社ウェブサイトに掲載しております。

https://www.eiken.co.jp/sustainability/social/engagement/

また、知的財産への投資については、既存事業を着実に成長させるとともに、当社のコア技術の周辺事業への拡大及び外部とのオープンイノベーションによる新規事業の開発に経営資源を配分してまいります。詳細は当社ウェブサイトに掲載しております。

https://www.eiken.co.jp/rd/license/

【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】

当社は、取締役会で承認されたディスクロージャーポリシーを制定し、基本方針、開示情報、情報開示方法、沈黙期間等を開示しており、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、合理的な範囲で株主からの対話に対応しております。

当社は、サステナビリティ推進部をIR担当部署とし、サステナビリティ推進部を管掌する経営管理統括部長をIR担当執行役としたIR体制を整備し、株主・投資家との対話の場を設けており、理解と信頼を得るよう努めております。経営管理統括部長は経営企画部、経理総務部、人事部等のIRに関連する部署も同時に管掌しており、情報共有を密にすることで部署間の連携を図っております。

株主に対しては、定期的にアナリスト・機関投資家向けに決算説明会を開催し、代表執行役社長による説明及び対話を行うとともに、説明会の動画や当日使用した資料は当社ウェブサイトで公開しております。また、株主・投資家との個別面談に関しては、サステナビリティ推進部が対応しておりますが、合理的な範囲で必要に応じ経営陣幹部及び社外取締役が面談に対応しております。

対話によって把握された株主・投資家の主要な意見等は、定期的にIR担当執行役から取締役会へ報告されます。

なお、当社は、ディスクロージャーポリシーに基づき、株主・投資家との対話を行っており、インサイダー情報が含まれないように十分留意することはもちろん、所定の法令等を踏まえて社内規程を制定し、それに基づき適正に情報を管理しております。

【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】【英文開示有り】

当社は、経営構想「EIKEN ROAD MAP 2030」において、売上高・海外売上比率・営業利益率・ROEを重要な経営指標として定めております。資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応についての詳細については、2025年5月13日開示の新中期経営計画資料

https://www.eiken.co.jp/ir/presentation.html

をご参照ください。

【株主との対話の実施状況等】

「原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針」に基づき、代表執行役社長及び担当執行役が出席する決算説明会を半期毎に開催しているほか、IR担当者が、国内外のアナリスト・機関投資家との間で、年間延べ約100件の個別面談を実施しております。

株主との対話においては、決算や業績予想の概要に加え、中長期的な成長戦略や資本効率を意識した経営状況等が主なテーマとなっており、これらの内容は、定期的にIR担当執行役から取締役会へ報告されております。

上記の取り組みにより得られた知見を経営施策に適切かつ効果的に反映し、更なる企業価値向上に努めてまいります。

【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】

当社は、経営構想「EIKEN ROAD MAP 2030」において、売上高・海外売上比率・営業利益率・ROEを重要な経営指標として定めております。資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応についての詳細については、2025年5月13日開示の新中期経営計画資料

https://www.eiken.co.jp/ir/presentation.html

をご参照ください。

 

本レポートは情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。また、本レポートに記載されている情報及び見解は当社が公表されたデータに基づいて作成したものです。本レポートに掲載された情報は、当社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。当該情報や見解の正確性、完全性もしくは妥当性についても保証するものではなく、また責任を負うものではありません。本レポートに関する一切の権利は(株)インベストメントブリッジにあり、本レポートの内容等につきましては今後予告無く変更される場合があります。投資にあたっての決定は、ご自身の判断でなされますようお願い申しあげます。

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