ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

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ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.1

(2183:東証マザーズ) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.1】事業概要レポート
取材概要「10/3期は創業時から手掛けてきた2件のプロジェクトが中止となり、業績予想の下方修正を強いられた。この背景にあるのは一部のクライアントへの依存度の高さで、これまで同社は有力クライアントへ経営資源・・・」続きは本文をご覧ください。
2010年4月13日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(3/30現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
637円 12,345,000株 7,864百万円 38.6% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
11.00円 1.7% 20.98円 30.4倍 78.46円 8.1倍
※株価は3/30終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
東証マザーズに株式を上場するリニカルについて、ブリッジレポートにてご紹介します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)や医薬品の市販後臨床試験等に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)事業を事業領域としている。治験の最も大切な段階である第II相試験(フェーズII)及び第III相試験(フェーズⅢ)における「モニタリング業務」とこれに付随する「品質管理業務」、及び「コンサルティング業務」に特化している事が特徴で、製薬会社の開発部門と同等の能力を有し、同等の立場で医薬品開発を実行・サポートできるCRO、すなわち、「CDO(Contract Development Organization:真の医薬品開発業務受託機関)」を目指している。
 
(1)沿革
2005年7月、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)で免疫抑制剤等の開発に携わってきたメンバー9名によって設立された。06年1月には、SMO(治験施設支援機関)事業に進出するため同事業を手掛けるアウローラ(株)を子会社化したが、CRO事業への経営資源の集中を図るべく07年5月に全保有株式を売却。08年7月に、国内の製薬会社の米国進出支援を目的に米国カリフォルニア州に全額出資子会社LINICAL USA, INC.を設立。同年10月に東証マザーズに株式を上場した。
 
(2)事業内容
事業は、第II相・第III相試験における「モニタリング業務」とこれに付随する「品質管理業務」、及び「コンサルティング業務」の3事業に分かれる。
 
 
モニタリング業務
新薬開発において最も重要な役割を果たす業務の一つで、治験が手順通り正確に行われているかをモニタリング(監視)する。具体的には、CRA(Clinical Research Associate:治験モニター)が治験を実施する医療機関に対して治験薬や実施計画書・手順書について説明、その後、治験が手順通り正確に行われているかをモニタリングする。
 
品質管理業務
CRAが医療機関から収集したデータが手順書や計画書通りに実施されているかについて、定められたチェックリスト等を用いて確認する業務。品質管理業務は治験の質を左右する重要な役割を果たしている。
 
コンサルティング業務
製薬会社に対して、新薬開発のスケジュール作成から治験企画、承認申請に至るまでのコンサルティングを行う業務。新薬開発をスムーズに進めるための技術的なサポートも行なっている。
 
 
 
 
国内の大手製薬会社が売上高全体の86%を占め、疾患領域も特定せず幅広い。
 
(4)成長戦略 既存事業の更なる成長と新規事業の育成
治験領域の拡大と共に日米欧の3極体制を整備する事で既存事業(CRO)を強化すると共に、新規事業(CSO)の育成により業容の拡大を図る考え。CSOとはContract Sales Organizationの略で、医薬品の販売において重要な位置を占めるMR(医薬品の情報提供者)の派遣等により製薬会社の医療機関向け医薬品販売を支援する。
 
 
①既存事業の更なる成長
国内の大手製薬会社が取り組みを強化しているガン領域を強化すると共に、今(10/3)期中に欧州に拠点を設けて日米欧でのサービス体制を整備する。
 
 
ガン領域強化の一環として、昨年10月にガン領域開発受託事業部を設立した。現在、必要な人材の確保、既存顧客からのガン領域開発品目の受託、新規顧客の獲得、及びガン領域オピニオンリーダーとの関係確立に取り組んでいる。
 
 
また、米欧でのサービス体制の整備は、製薬会社の世界同時申請による収益最大化の流れに対応したもので、3極体制の早期実現によりグローバル品の開発期間短縮に貢献する。08年に現地法人を設立した米国では、当初は国内の製薬会社の米国進出の支援事業に注力し、将来的には 国内の製薬会社が米国において実施する治験の各業務の受託を目指す。
 
②新規事業展開
新規事業としてCSO事業に参入し、新製品上市に伴う支店戦略(学術支援)担当、Area Opinion Leader/Speakers Doctor の育成、及びエリア講演会/研究会の設立・維持といった役割を担う。
 
 
 
 
同社が注力しているモニタリング業務は臨床試験の現場に密着した業務であり、医薬品開発の最前線に位置する。また、第II相試験及び第III相試験は言うまでも無く、新薬の承認取得に向けた最重要フェーズである。
 
 
2000年に156億円だった同協会の会員総売上高が、2010年には1,200億円に拡大する見込み。ただ、国内製薬企業のCROのアウトソ-シング率は20%~25%に過ぎず、欧米諸国の50%を大きく下回っている。このため、依然として成長余地が大きいと見られている。また、新薬価制度の希少疾患領域やドラッグラグ解消に向けた取り組みも受託試験の増加につながると思われ、CRO業界にとって追い風となろう。
 
 
業績
 
 
前年同期比30.9%の増収、同35.5%の経常増益
受注残の消化でCRO事業の売上が増加した他、今期から開始したCSO事業も新規案件の受託に成功し増収に寄与した。利益面では、受託計画に伴い採用した人員の労務費負担等で売上総利益率が低下する一方、人材採用関連費用や東京オフィスの移転費用等で販管費が増加したものの、増収効果で吸収し営業利益は同21.2%増加した。財政面では、第3四半期末の総資産が1,303百万円と前期末比47百万円増加。売上債権の回収が進み現預金が増加した他、オフィス移転に伴う敷金保証金等で固定資産が増加した。
 
 
前期比18.0%の増収、同12.4%の経常減益予想
CRO事業において実施中の受託案件2件が中止となった事や新規受託案件の獲得遅れを理由に通期業績予想を下方修正した。受注残の消化で売上が増えるものの、労務費、人材採用関連費用、及び人員増加に伴う東京オフィス移転費用等が負担となり営業利益が同12.4%減少する見込み。配当は当初の予定通り1株当たり11円の期末配当を実施する考え。
 
 
取材を終えて
10/3期は創業時から手掛けてきた2件のプロジェクトが中止となり、業績予想の下方修正を強いられた。この背景にあるのは一部のクライアントへの依存度の高さで、これまで同社は有力クライアントへ経営資源を集中させる事で高い経営効率と高成長を実現してきたが、今期はそのデメリットが顕在化したと言える。
しかし、この点は同社も認識しているところで、従前からクライアントの拡大と既存クライアントの深耕に取り組んできた。既に成果が現れており、第4四半期に入り、外資系を含む新規クライアントからの数案件が稼動し始めているようだ。
更に、これまで継続的に受注してきた国内大手数社からも、積極的に今後も新規プロジェクトを受注してゆく方針であり、順調に実施プロジェクト数が増加すれば、徐々に個別案件に左右されない体力が付いていくものと思われる。
中期的には市場拡大が見込まれる一方で、新規参入も多く更なる競争激化が予想されるため、同社は事業領域とサービスを絞り込む事で、製薬会社と同等の知識と能力を有し新薬開発をサポートできるパートナーとして比較優位を維持していく考え。ガン領域の強化やCSOへの展開も今後の成長を考える上で興味深く、また、ICH(日米欧医薬品規制調和国際会議)の進展により、日米欧での新薬承認データの相互活用(ブリッジングスタディー)や三極での同時試験(グローバルスタディー)が重要性を増す中、3極体制の整備を進める施策も的を射たもの。今後の展開に期待したい。