ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

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ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.4

(2183:東証マザーズ) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.4】2011年3月期上期業績レポート
取材概要「従来、同社のCRO事業は免疫抑制剤等の分野に強かったが、ここ数年は製薬メーカーが開発を強化しているパーキンソン病やアルツハイマー型認知症等・・・」続きは本文をご覧ください。
2010年12月14日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年3月 2,404 480 473 273
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(12/3現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
348円 12,344,961株 4,296百万円 27.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
11.00円 3.2% 27.84円 12.5倍 84.44円 4.1倍
※株価は12/3終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
リニカルの2011年3月期上期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)や医薬品の市販後臨床試験等に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)事業を事業領域としている。治験の最も大切な段階である第II相試験(フェーズII)及び第III相試験(フェーズⅢ)における「モニタリング業務」とこれに付随する「品質管理業務」、及び「コンサルティング業務」に特化している事が特徴で、製薬会社の開発部門と同等の能力を有し、同等の立場で医薬品開発を実行・サポートできるCRO、すなわち、「CDO(Contract Development Organization:真の医薬品開発業務受託機関)」を目指している。
 
<事業内容>
事業は、第II相・第III相試験における「モニタリング業務」とこれに付随する「品質管理業務」、及び「コンサルティング業務」の3事業に分かれる。
 
モニタリング業務
新薬開発において最も重要な役割を果たす業務の一つで、治験が手順通り正確に行われているかをモニタリング(監視)する。具体的には、CRA(Clinical Research Associate:治験モニター)が治験を実施する医療機関に対して治験薬や実施計画書について説明、その後、治験が手順通りに行われているかをモニタリングし、治験データを回収する。
品質管理業務
CRAが医療機関から収集したデータが法令や計画書通りに実施されているかについて、定められたチェックリスト等を用いて確認する業務。品質管理業務は治験の質を左右する重要な役割を果たしている。
コンサルティング業務
製薬会社に対して、新薬開発のスケジュール作成から治験企画、承認申請に至るまでのコンサルティングを行う業務。新薬開発をスムーズに進めるための技術的なサポートも行なっている。
 
<中期事業戦略>
がん領域を中心にした治験領域の拡大と日米欧の3極体制の整備により既存事業(CRO)を強化すると共に、新規事業(CSO)展開により業容の拡大を図る。CSOとはContract Sales Organizationの略で、医薬品の販売において重要な位置を占めるMRの派遣やマーケティング支援等により製薬会社の医療機関向け医薬品販売を支援する。CRO事業に加え、CSO事業を手掛ける事で新薬の開発段階から上市後に至る一気通貫のサービスが可能となり、付加価値向上はもとより、製薬会社の利便性も高まる。尚、がん領域は、国内の大手医薬品会社がM&Aを含めて強化している領域で、世界の主要抗がん剤の売上は右肩上がりで推移している。また、3極体制の整備では、先ず米国での拠点整備に取り組む。米国法人LINICAL USA, INC.(米国カリフォルニア州、08年7月設立)が現地でモニタリング・コンサル業務を手掛けており、今後、国内で育成した人材を子会社へ出向させ人員の拡充を図る考え。
 
 
2011年3月期上期決算
 
 
前年同期比1.5%の増収、同39.1%の経常減益
CRO事業において、高度な対応力が要求され付加価値も高い中枢神経系領域やがん領域等の案件を複数受託した他、前期より開始したCSO事業も、未だ水準は低いものの収益への貢献が始まった。ただ、新たに受託した案件は、いずれも本格的な稼動が第3四半期以降である事に加え、第1四半期に発生した大型案件の開発中止の影響が大きく、売上高は12.5億円と前年同期比1.5%の増加にとどまった。このため、売上高は期初予想の14.4億円を下回り(開発中止を受けて1Q時に売上高予想を修正している)、受託計画に従い増員した臨床開発モニター(CRA)の稼働率が低下。営業利益は2.2億円と同41.7%減少した。
尚、CRO事業では症例数や治験の難易度等により受託総額が決まり、1年から3年程度の治験実施期間において毎月売上が計上されるが、この計画実施を前提に先行して必要な人員の手当てを進めて行く。
 
 
既存案件の増員契約や新規の受託案件が本格的に稼動するのは下期以降となるが、順調な受注を背景に第2四半期(7-9月)の売上高は6.1億円と同11.9%増加した。利益面では、受託案件の実施に備え先行して確保した臨床開発モニターの稼働率低下の影響をカバーする事はできなかったが、減益幅はわずかなものにとどまった。
 
 
同社はアステラス製薬を除く大手5社にフォーカスした営業展開を進めており、補完的に外資系製薬メーカーとの取引を拡大している。武田薬品向けの売上構成比が低下したのは、大型プロジェクトが終了し、プロジェクトの端境期となったため。
 
 
2011年3月期業績予想
 
 
通期業績予想に変更はなく、前期比20.0%の増収、同19.5%の経常増益予想
通期予想に対する進捗率は、売上高が43.6%、営業利益が37.6%、経常利益が38.0%にとどまる。しかし、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症等の中枢神経系(CNS)領域やがん領域といった新領域を中心に足下の受注が好調に推移しており、10月末現在の受注残高は前期末比73.5%増の39.4億円と、過去最高となった09/3期末の39.5億円に並ぶ水準。加えて、受注契約を終えているものの契約書が手元に届いていないため受注計上していない案件が3件(新規案件2件、既存案件の増員契約1件)ある。豊富な受注残の消化で通期業績予想の達成を目指す。配当は、1株当たり11円の期末配当を予定している。
 
 
(2)中期的成長に向けての経営戦略  既存事業の成長と新規事業展開
治験領域の拡大と日米欧の3極体制の整備により既存事業(CRO)を強化すると共に、新規事業(CSO)展開により業容の拡大を図る。
 
①治験領域の拡大
がん領域を中心に領域を拡大させていく。世界の主要抗がん剤の売上は右肩上がりで推移しており、国内の大手医薬品会社はM&Aによりがん領域の拡大を進めている。同社は2009年10月にがん領域開発受託事業部を設立すると共に、大手製薬メーカーで抗がん剤の開発に携わったこの分野のスペシャリストを統括シニアコーディネーターに迎えてプロジェクトチームを編成した。また、がん領域同様に今後の市場拡大が見込める統合失調症多極障害治療薬やアルツハイマー治療薬の分野も強化し、領域拡大、専門化、Global対応をキーワードに事業展開を進めていく考えで、早期の200名超・20プロジェクト体制の確立を目指している。
また、医薬品開発のグローバル化に対応し、日米欧3極での事業展開を目指している。この一環として2008年7月に設立した米国法人LINICAL USA, INC.(米国カリフォルニア州)が、現地でモニタリング・コンサル業務を開始した。
この他、安全性情報に関するアウトソーシングニーズに対応するべく、10年9月にファーマコビジランス課を設置した。ファーマコビジランスとは市販後の安全性情報収集と評価の科学的かつ適切な実施の事(世界保健機関では「医薬品の有害な作用または医薬品に関連するその他の問題の検出・評価・理解・予防に関する科学と活動」と定義している)。
 
 
 
②新規事業(CSO)展開
従来型のCSOの領域(派遣型MR:Contract MR)ではなく、より上層にあるプロダクト・マーケティングの領域において製薬会社の営業戦略を支援するCSO事業を展開していく。具体的には、LMP(Linical Marketing Planner)として新製品上市に伴う支店戦略(学術支援)担当、Area Opinion Leader/Speakers Doctor の育成、及びエリア講演会/研究会の設立・維持といった役割を担っていく考え。
 
 
また、新薬の創出頻度が減少する中、ライフサイクルマネジメントによる利益の極大化戦略が重要性を増している事から、育薬事業を開始し、市販後の情報収集を含めた新薬のエビデンス構築のためのサポート体制を整備していく。
 
 
 
取材を終えて
従来、同社のCRO事業は免疫抑制剤等の分野に強かったが、ここ数年は製薬メーカーが開発を強化しているパーキンソン病やアルツハイマー型認知症等の中枢神経系領域やがん領域での営業に力を入れており、この成果が受注に現れてきた。これらの新領域は市場が拡大している上、「薬の副作用なのか病気の影響なのか」と言った治験結果の評価が難しく、臨床開発モニター(CRA)の質が問われる分野でもあるため付加価値も高い。受注が順調なだけに、今後はCRAの増員がポイントとなってくる。
また、この上期はプロジェクトの中止が苦戦の原因となったが、CRO事業においてプロジェクトが中止となる事は珍しい事ではない。しかし、年商30億円弱の同社の事業規模では、3億円のプロジェクトが1件中止となっただけでも、売上の10%を失う事になり影響額が極めて大きい。このため、同社は早期にCRA 200名、20プロジェクト体制を構築したい考えで、収益安定化の観点からもCRAの増員がポイントとなってくる。