ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

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ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.15

(2183:東証1部) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.15】2013年3月期業績レポート
取材概要「近年、医薬品開発のスピードアップを念頭に国際共同治験が実施されるケースが増えている。国際共同治験では米国主導型の治験スタイルが一般的だが・・・」続きは本文をご覧ください。
2013年6月25日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2012年3月 3,110 728 723 424
2011年3月 2,512 288 278 147
2010年3月 2,404 480 473 273
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(6/10現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,446円 11,394,906株 16,477百万円 46.3% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
14.00円 1.0% 60.31円 24.0倍 139.05円 10.4倍
※株価は6/10終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
リニカルの2013年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)や医薬品の市販後臨床試験等に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization)事業を中心に、CSO(Contract Sales Organization:医薬品の営業・マーケティング受託)事業を手掛ける。
CRO事業では、治験の最も大切な段階である第II相試験(フェーズII)及び第III相試験(フェーズIII)における「モニタリング業務」に特化している事が特徴。また、統合失調症、うつ病、アルツハイマー等の中枢神経系(Central Nervous System :CNS)領域やがん領域といった難易度の高い領域に注力する事で他社との差別化を図っている(これに対して、生活習慣病等の領域は差別化が難しく受託競争が激しい)。一方、CSO事業では、定の疾患領域にフォーカスすると共にCRO事業で培ったノウハウを活かし、プロダクトマーケティング業務や市販後データの企画・収集業務の受託を手掛けており、MR派遣が中心の他社のCSO事業と一線を画している。
主な取引先は、武田薬品工業グループ、第一三共、エーザイ、大塚製薬、塩野義製薬等の国内主要製薬会社。尚、第II相試験は安全性及び有効性・用法・用量を調べるために実施され、この結果を基に第III相試において、実際の治療に近い形での効果と安全性を確認する。
 
【沿革】
2005年6月、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)で免疫抑制剤等の開発に携わってきたメンバー9名によって設立された。大阪発理想の医薬品開発受託(CRO)事業を目的として、設立当初から、CNS領域やがん領域の育成に取り組み、会社設立後まもなく大塚製薬からCNS領域の案件を受注。その後、人材を補強し事業部として受注活動を強化した。また、がん領域も外資系製薬会社等でがん領域の医薬品開発を手掛けた人材等に恵まれ、足元、受注が拡大している。
SMO(治験施設支援機関)事業進出を念頭に、06年1月に同事業を手掛けるアウローラ(株)を子会社化したが、CRO事業への経営資源集中を図るべく07年5月に全保有株式を売却。08年7月に、国内の製薬会社の米国進出支援を目的に米国カリフォルニア州に全額出資子会社LINICAL USA, INC.を設立。同年10月の東証マザーズ上場を経て、13年3月に東証1部に市場変更となった。
 
 
【業務内容】
事業セグメントは、主力のCRO事業とCSO事業に分かれ、13/3期の売上構成比は、それぞれ95.3%、4.7%。CRO事業は「モニタリング業務」に特化しており、これに付随する「品質管理業務」や「コンサルティング業務」も手掛ける。一方、CSO事業は、プロダクトマーケティング業務や市販後データの企画・収集業務の受託を手掛け、MR派遣を中心とする他社と差別化を図っている。
 
 
 
【強み】
(1)難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強み
難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強みを有する。例えば、がん領域であれば、薬の副作用によるものか、がんの進行によるものか、安全性評価が難しく、中枢神経系領域であれば、例えばアルツハイマー病の患者は問診等による薬の有効性評価が難しいため、モニタリングでは高度な対応が必用とされる。この他、急性疾患や特定疾患(いわゆる難病)と呼ばれる領域も難易度が高い分野で、がん領域や中枢神経系領域と共に新薬開発が活発だ(しかし、対応できるCROは限られる)。一方、生活習慣病の治験は患者の状態が比較的安定しており、有効性評価についても比較的容易であるため、難易度は低い(例えば、糖尿病では血糖値の測定データの収集が中心)。
新薬の開発トレンドは生活習慣病から治療満足度が低いがん領域や中枢神経系領域にシフトしているが、上記の通り、がん領域では安全性情報の取り扱いが難しく、中枢神経系領域では有効性評価の標準化が難しい。このため、これまでは製薬会社が社内で対応していたが、近年、こうした難易度の高い領域でもアウトソーシングされるケースが増えている。同社にとって、中枢神経系領域は会社設立時からの注力分野であり、がん領域は2年前にアストラゼネカのイレッサ開発メンバーを迎え受注活動を本格化した。13/3期末受注残高47億50百万円に対して、がん領域は11億55百万円(構成比24%)、中枢神経領域は19億98百万円(同42%)。
 
(2)高い収益性
有効性確認や安全性確認といった臨床の現場での高い業務遂行力に加え、CRO業務全般での知識・技術水準の高さも同社の強みである。同社が手掛ける案件の逸脱率は非常に低く抑えられており、また、症例の組み入れやデータの回収期間を含め、全案件の8割程度は実施期間の短縮に成功している。同社は難易度の高い分野で高品質・短納期を実現しているため適正価格での受注が可能であり、スケールメリットのハンデを補って大手を凌ぐ利益率を実現している。
尚、収益力の源泉となるのがCRAの質だが、同社CRAの質の高さを示す一例として、GCPパスポート認定試験の合格率をあげる事ができる。GCPパスポート認定試験とは、国際共同治験に対応できる人材の育成を目的にした試験で、日本臨床試験研究会が実施している。
 
 
 
 
経営戦略
 
高品質・短納期・適正価格の浸透と継続的な成長によるリニカルブランドの確立、サービスの拡充による既存事業(CRO事業、CSO事業)の強化・拡充、及び新規事業の育成が経営戦略の3本柱。新規事業では、CRO事業の経験と実績を活かし、治験の計画から当局対応までをカバーする付加価値の高い創薬支援事業の展開を念頭に置いている。
 
(1)CRO事業
CRO事業は第II相試験、第III相試験における「モニタリング業務」に特化し、また、がん領域や中枢神経系領域といった難易度の高い領域で評価を得ている。引き続き高難易度領域で実績の積み上げを図ると共に、事業の拡大に向けCRAを増員していく(早期270名体制の確立)。
 
 
また、厚生労働省が力を入れている日本主導型国際共同治験に対応するべく、治験の多国間実施体制の整備にも力を入れる。この一環として、2013年5月に、Linical Taiwan Co., Ltd.(台湾台北市、資本金1千万台湾ドル)、及びLinical Korea Co., Ltd.(韓国ソウル特別市、資本金5億ウォン)を設立(いずれも100%出資)。今後、欧州にも拠点を設け(現在、欧州CROに関する情報収集を行っている)、2008年7月に設立したLinical USA Inc.(米国加州)と共に、日+米・欧・亜のグローバル体制を早期に確立したい考え。
 
 
グローバル展開に併せて、アジア人を対象にしたグローバル採用も進めており、母国語、日本語、英語のできるAsian CRAを採用し、日本品質のサービスと教育研修を実施している。当初はGlobal Studyのサポート業務が中心となるが、中期的にはAsian Studyのコアスタッフとしての役割を担う人材の育成につなげ、Asian Studyのモニタリング受託や日本発POC(proof of concept:概念実証)試験のモニタリングといった顧客ニーズに応えていく(新設した台湾と韓国の子会社が、これら人材の受け皿となる)。
 
 
(2)CSO事業
他社が手掛けるMRの派遣サービスとは一線を画し、同社が主体となって業務を進める請負サービス型のCSO事業を志向している。具体的には、特定の疾患領域やエリアで経験豊富なMRを採用し、CRO事業部で蓄積したノウハウを活用する事で専門性の高い業務を受託し差別化を図っていく考えで、現在、プロダクトマーケティング業務と市販後データの企画・収集業務の受託が2本柱。今後は、これら2事業の強化に加え、市場拡大が期待できる臨床研究のグローバル案件等の受託事業を第3の事業として育成していく。
尚、13/3期は医師主導臨床研究の受託に成功し、セグメント損益が黒字転換する原動力となった。
 
 
CRO事業とCSO事業により開発から販売後までをカバーする
 
(3)創薬支援事業(新規事業の育成)
短期業績に影響の少ない新薬開発スキーム、アジア諸国のドラックラグ化合物の積極的な開発、更には開発計画作成から申請までのワンストップ委託といった昨今のニーズへの対応を念頭に創薬支援事業を育成していく。このため、治験実施計画書作成、データ回収以降の業務を含む案件の戦略的な受託と経験の蓄積に取組んでいく考えである。
 
 
2013年3月期決算
 
 
営業利益が過去最高を更新
売上高は前年同期比15.7%増の35億99百万円。CRO事業は、上期に中止案件が発生したものの、既存プロジェクトの増員及び新規案件の獲得による受注増で吸収。医師主導臨床研究の受託でCSO事業の売上も増加した。
 
営業利益は同37.7%増の10億03百万円。CRO事業は、下期は受託案件の中止・中断が無くCRA稼働率が改善し、通期のセグメント利益改善につながった。一方、CSO事業は売上高が損益分岐点を超え黒字転換。この結果、営業利益率が27.9%と4.5ポイント改善し、営業利益は過去最高となった前期の実績を大きく上回った。
 
期末受注残高は前期末比35.4%増の47億50百万円。新薬開発が活発な塩野義製薬向けが20億44百万円と9倍に拡大した他、田辺三菱製薬も16倍強に拡大。一方、承認が進んだ大塚製薬が減少した。構成比は、がん領域24.3%、中枢神経(CNS)領域42.1%、その他29.7%、CSO3.9%。
 
配当は、普通配当を3円増配すると共に、東証1部への市場変更に伴う記念配当2.5円を加えた期末16.5円を予定(13年3月に東証1部に市場変更となった)。
 
 
 
 
 
 
期末総資産は前期末比4億87百万円増の26億42百万円。CFの改善と好調な業績を背景に、現預金と純資産が増加した。実質無借金で流動性に富んだ財政状態に磨きがかかり、自己資本比率は同9.8ポイント改善の60.0%。CFの改善は、利益の増加と売上債権の回収が進んだ事等による営業CFの増加が要因。
 
 
 
2014年3月期業績予想
 
 
前期比12.0%の増収、同14.6%の経常増益予想。8期連続増収、3期連続過去最高益更新を見込む
売上高は前期比12.0%増の40億31百万円。一部受託内定案件の期ズレを想定するなど慎重な予想となったものの、既存プロジェクトの増員と新規案件の受注で吸収し8期連続の増収を見込んでいる。利益面では、CRAの増員やグローバル展開に伴い営業費用が増加するものの、増収効果で吸収し営業利益は11億51百万円と同14.7%増加。3期連続の最高益更新が見込まれる。
配当は記念配を落とし1株当たり14円の期末配当を予定している。
 
 
今後の注目点
近年、医薬品開発のスピードアップを念頭に国際共同治験が実施されるケースが増えている。国際共同治験では米国主導型の治験スタイルが一般的だが、有効性、安全性の証明方法等で米国主導型の課題を指摘する声は国内外で多く、実際、アルツハイマー等、中枢神経領域の医薬品開発においては、あまり成果があがっていないと言う。このため、厚生労働省が中心となり、緻密な日本主導型国際共同治験のデファクトスタンダード化に向けた取り組みが進められており、同社も、Asian CRA の採用や台湾・韓国での子会社設立等、日本主導型国際共同治験への対応を本格化させている。採用した人材に対しては、研修を通じて日本品質の治験に対する知識やノウハウが注入され、海外各国において日本の製薬会社のニーズに応えられるよう、日本の治験に対する考え方の理解促進にも力が入れられている。言うまでも無く、同社の経営資源は優れた人材であり、同社では国際戦略においても人材育成(特に日本品質の徹底した教育)がポイントになると考えている。