ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

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ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.18

(2183:東証1部) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.18】2014年3月期第3四半期業績レポート
取材概要「同社の14/3第3四半期は、先行投資負担により32.2%の経常減益となるなど、一見すると投資家の目を引く数字とはなっていない。しかし、14/1月末・・・」続きは本文をご覧ください。
2014年3月11日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2013年3月 3,599 1,003 998 616
2012年3月 3,110 728 723 424
2011年3月 2,512 288 278 147
2010年3月 2,404 480 473 273
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(2/28現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
903円 11,394,906株 10,289百万円 46.3% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
14.00円 1.6% 36.54円 24.7倍 139.05円 6.5倍
※株価は2/28終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
リニカルの2014年3月期第3四半期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization)事業を中心に、CSO(Contract Sales Organization:医薬品のマーケティング業務ならびに製造販売後(以下製販後という)臨床研究・調査の受託)事業を手掛ける。
医薬品は発売前に厚生労働省の承認・認可を受けることが義務付けられており、承認前の薬剤(医薬品候補)を患者に投与して効果や安全性を確かめる必要がある。これら臨床試験としての治験を支援する企業をCRO(医薬品開発業務受託機関)と呼ぶ。製薬会社は開発要員に制限のある中で機動的な開発を遂行するために、業務をアウトソーシングする動きを拡大しており、CROの役割が大きくなっている。 同社は新薬開発に不可欠な治験の最も大切な段階である「第II相・第III相試験」と、主業務である「モニタリング業務」「品質管理業務」「コンサルティング業務」にノウハウを集中する特化型CROとして、製薬会社の真のパートナーを目指し、高品質な治験を支援している。
CRO事業では、治験の最も大切な段階である第II相試験(フェーズII)及び第III相試験(フェーズIII)における「モニタリング業務」に特化している事が特徴。また、統合失調症、うつ病、アルツハイマー等の中枢神経系(Central Nervous System :CNS)領域やがん領域といった難易度の高い領域に注力する事で他社との差別化を図っている(これに対して、生活習慣病等の領域は差別化が難しく受託競争が激しい)。一方、CSO事業では、特定の疾患領域にフォーカスすると共にCRO事業で培ったノウハウを活かし、プロダクトマーケティング業務や市販後データの企画・収集業務の受託を手掛けており、MR派遣が中心の他社のCSO事業と一線を画している。
主な取引先は、武田薬品工業グループ、第一三共、大塚製薬、塩野義製薬、田辺三菱製薬、小野薬品工業等国内主要製薬会社。尚、第II相試験は安全性及び有効性・用法・用量を調べるために実施され、この結果を基に第III相試験において、実際の治療に近い形での効果と安全性を確認する。
 
【沿革】
2005年6月、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)で免疫抑制剤等の開発に携わってきたメンバー9名によって設立された。大阪発理想の医薬品開発受託(CRO)事業を目的として、設立当初から、CNS領域やがん領域の育成に取り組み、会社設立後まもなく大塚製薬からCNS領域の案件を受注。その後、人材を補強し事業部として受注活動を強化した。また、がん領域も外資系製薬会社等でがん領域の医薬品開発を手掛けた人材等に恵まれ、足元、受注が拡大している。
SMO(治験施設支援機関)事業進出を念頭に、06年1月に同事業を手掛けるアウローラ(株)を子会社化したが、CRO事業への経営資源集中を図るべく07年5月に全保有株式を売却。08年7月に、国内の製薬会社の米国進出支援を目的に米国カリフォルニア州に全額出資子会社LINICAL USA, INC.を設立。同年10月の東証マザーズ上場を経て、13年3月に東証1部に市場変更となった。13年5月に、台湾と韓国に全額出資子会社LINICAL TAIWAN CO., LTD.とLINICAL KOREA CO., LTD.を設立。14年1月には、LINICAL KOREA CO., LTD.により韓国のCROであるP-pro. Korea CO., Ltd.を買収した。
 
 
【業務内容】
事業セグメントは、主力のCRO事業とCSO事業に分かれ、13/3期の売上構成比は、それぞれ95.3%、4.7%。CRO事業は「モニタリング業務」に特化しており、これに付随する「品質管理業務」や「コンサルティング業務」も手掛ける。一方、CSO事業は、プロダクトマーケティング業務や製販後データの企画・収集業務の受託を手掛け、MR派遣を中心とする他社と差別化を図っている。
 
 
 
【強み】
(1)知識・ノウハウ・経験等の専門性を集中し製薬会社の様々なニーズに対応
1つの新薬が開発・承認され市場で販売されるまでには 10~18年もの長い歳月を要する。 その中でも、3~7年の期間を要する治験では、準備不足やデータ不備、思わぬトラブルのために往々にしてスケジュールが遅れ、販売遅延の原因になる場合がある。 同社は経験豊かなCRAがオリエンテーションの段階から臨床開発におけるプロセスを見通し、「いかにしてスムーズに進められるか」を考え、予測できる問題を未然に防ぎ、高精度のデータをスピーディーに収集するノウハウを持っている。更に、同社は治験の中でも特に重要な2つの試験段階(「第II相・第III相試験」)と、開発のコアである3つの業務(「モニタリング業務」「品質管理業務」「コンサルティング業務」)に特化し、100%社内で受託する体制を整えている。
 
(2)難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強み
難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強みを有する。例えば、がん領域であれば、薬の副作用によるものか、がんの進行によるものか、安全性評価が難しく、中枢神経系領域であれば、例えばアルツハイマー病の患者は問診等による薬の有効性評価が難しいため、モニタリングでは高度な対応が必要とされる。この他、急性疾患や特定疾患(いわゆる難病)と呼ばれる領域も難易度が高い分野で、がん領域や中枢神経系領域と共に新薬開発が活発だ(しかし、対応できるCROは限られる)。一方、生活習慣病の治験は患者の状態が比較的安定しており、有効性評価についても比較的容易であるため、難易度は低い(例えば、糖尿病では血糖値の測定データの収集が中心)。
新薬の開発トレンドは生活習慣病から治療満足度が低いがん領域や中枢神経系領域にシフトしているが、上記の通り、がん領域では安全性情報の取り扱いが難しく、中枢神経系領域では有効性評価の標準化が難しい。このため、これまでは製薬会社が社内で対応していたが、近年、こうした難易度の高い領域でもアウトソーシングされるケースが増えている。同社にとって、中枢神経系領域は会社設立時からの注力分野であり、がん領域は3年前にアストラゼネカのイレッサ開発メンバーを迎え受注活動を本格化した。
 
(3)高い収益性
同社が手掛ける案件の逸脱率は非常に低く抑えられており、また、症例の組み入れやデータの回収期間を含め、全案件の8割程度は実施期間の短縮に成功している。同社は難易度の高い分野で高品質・短納期を実現しているため適正価格での受注が可能であり、スケールメリットのハンデを補って、高い利益率を実現している。
収益力の源泉となるのがCRAの質だが、同社CRAの質の高さを示す一例として、GCPパスポート認定試験の合格率をあげる事ができる。GCPパスポート認定試験とは、国際共同治験に対応できる人材の育成を目的にした試験で、日本臨床試験研究会が実施している。なお、同社では受験資格を得た社員はすべて受験をしており、合格率の他社比較でも突出した合格率であることがわかる。
 
 
 
経営戦略
 
①高品質・短納期・適正価格の浸透と継続的な成長によるリニカルブランドの確立、②がん/中枢などのさらなる強化、CRA270名体制とグローバル体制の整備によるCRO事業の強化・拡充、③リエゾン業務、製販後研究・調査・グローバル対応などの強化によるCSO事業の強化・拡充、④計画立案・申請審査対応、助成金・ファンドの活用などの創薬支援事業の育成が経営戦略の柱。
 
(1)CRO事業
CRO事業は第II相試験、第III相試験における「モニタリング業務」に特化し、また、がん領域や中枢神経系領域といった難易度の高い領域で評価を得ている。引き続き高難易度領域で実績の積み上げを図ると共に、事業の拡大に向けCRAを増員していく(早期270名体制の確立)。
 
 
また、厚生労働省が力を入れている日本主導型国際共同治験に対応するべく、治験の多国間実施体制の整備にも力を入れる。この一環として、2013年5月に、LINICAL TAIWAN CO., LTD.(台湾台北市、資本金1千万台湾ドル)、及びLINICAL KOREA CO., LTD.(韓国ソウル特別市、資本金5億ウォン)を設立(いずれも100%出資)。2014年1月にはLINICAL KOREA CO., LTD.による韓国CROのP-pro. Korea CO., Ltd.の株式取得による子会社化を実施した。今後、欧州にも拠点を設け(現在、欧州CROに関する情報収集を行っている)、2008年7月に設立したLINICAL USA INC.(米国加州)と共に、日+米・欧・亜のグローバル体制を早期に確立したい考え。
 
 
 
(2)CSO事業
他社が手掛けるMRの派遣サービスとは一線を画し、同社が主体となって業務を進める受託サービス型のCSO事業を志向している。具体的には、特定の疾患領域やエリアで経験豊富なMRを採用し、CRO事業部で蓄積したノウハウを活用する事で専門性の高い業務を受託し差別化を図っていく考えで、現在、プロダクトマーケティング業務と製販後データの企画・収集業務の受託が2本柱。今後は、これら2事業の強化に加え、市場拡大が期待できる臨床研究のグローバル案件等の受託事業を第3の事業として育成していく。
 
CRO事業とCSO事業により開発から販売後までをカバーする
 
(3)創薬支援事業(新規事業の育成)
短期業績に影響の少ない新薬開発スキーム、アジア諸国のドラックラグ化合物の積極的な開発、更には開発計画作成から申請までのワンストップ委託といった昨今のニーズへの対応を念頭に創薬支援事業を育成していく。このため、治験実施計画書作成、データ回収以降の業務を含む案件の戦略的な受託と経験の拡充に取り組むとともに、助成金/創薬ファンドの活用による早期段階に限定した化合物の自社開発の検討を行う。
 
 
2014年3月期第3四半期決算
 
 
前年同期比3.6%の増収、同32.2%の経常減益
売上高は前年同期比3.6%増の26億74百万円、経常利益は同32.2%減の4億72百万円となった。
同社が属するCRO事業とCSO事業の業界は、医薬品開発・販売のアウトソーシング化及び、国際共同治験の増加を背景に市場は緩やかに拡大している。既存企業の規模拡大、M&Aによる業界再編などにより業界内の競争は激化しているものの、同社の受注状況は改善している。こうした中、売上面では、CRO事業及びCSO事業ともに営業活動の強化により新規案件の受託に成功したことから増加した。
一方、利益面では、新規案件の売上寄与によりCSO事業が増加したものの、新規案件に対応するために先行して積極的に人員の採用と教育を行っているCRO事業で減少した。売上総利益率が37.8%と前年同期比7.4ポイント悪化したことに加え、販管費が72百万円増加したため、営業利益が4億73百万円と同32.6%減少した。 営業外収益で為替差益が2百万円発生した。特別損益の計上はない。
 
 
CRO事業、CSO事業共に、1年から3年程度の受託契約期間において、契約に従い毎月売上が発生する(受託総額が毎月案分計上される)。受注残高は、既に契約締結済みの受託業務の受注金額の残高である。このため、今後1年から3年程度の期間で発生する売上高を示しており、同社グループの今後の業績予想の根拠となる指標である。

四半期末の受注残高は、前期末(2013年3月)に比べ、2.3%増にとどまった。しかし、2014年1月31日時点の受注残高は、前期末(2013年3月)に比べ、19.4%増加している。アウトソーシング化及び国際共同治験の増加を背景に足元の受注環境は良好であり、既存・新規顧客からの受託案件の打診も多いことから、同社ではCRA(臨床開発モニター)の増員などにより、受託体制の強化を図る計画。
 
 
 
2013年12月末の総資産は前年同期末比6百万円増の26億48百万円。資産面で売掛金が増加し、有価証券が減少、負債面で短期借入金が増加し、未払法人税等が減少したことが主なもの。CF面では、法人税等の支払額4億17百万円及び、売上債権の増加額1億73百万円などによりフリーCFが赤字となった。しかし、実質無借金で流動比率も高く財務体質は健全であり、自己資本比率も64.2%と引き続き高い。
 
 
2014年3月期業績予想
 
 
前期比2.9%の増収、同30.6%の経常減益予想。
2月24日に14/3期の会社予想を下方修正。新しい計画は、売上高が前期比2.9%増の37億3百万円、経常利益が同30.6%減の6億93百万円。
売上面では、受託見込み案件の開始時期が想定よりも後ろ倒しになったこと等により、通期の売上高が期初の想定を下回る見込みとなった。利益面でも、受託計画に従い人員を採用し、人件費等が計画通りに増加したことから、営業利益及び経常利益も期初予想を下回る見込みとなった。
一方、配当は、1株当たり期末14円の予定を据え置き。
 
 
今後の注目点
同社の14/3第3四半期は、先行投資負担により32.2%の経常減益となるなど、一見すると投資家の目を引く数字とはなっていない。しかし、14/1月末の受注残高は、前期末(2013年3月)に比べ、19.4%増加しており、今後の高成長の原資が積み上がっている。好調な受注の背景には、顧客の製薬会社が薬価引き下げや新薬開発の難易度の上昇、国際競争の激化等から、より費用対効果の高いアウトソーシング先を求めて、自社に経験・ノウハウを持たない疾患領域の新薬開発実績を有するCROに委託を増加させているためである。とりわけこうした動きは、がんやCNSなど開発品目が増えている難易度の高い領域を含め、質の高い治験を迅速に実施できる会社との信頼が厚い同社へ恩恵をもたらしているものと推測される。更に、臨床研究でのデータ改ざんが大きな問題となる中、今後同社がCSO事業で手掛ける製販後臨床研究関連業務のアウトソーシング化が加速する可能性も出てきている。事業環境に追い風が吹く中、今期に積極的に採用した優秀な人材が即戦力となり、来期以降の高成長のドライバーとなる受注を積み上げていけるのか、第4四半期以降の同社の受注残高の動向に注目したい。
更に、中長期的な事業の柱と期待される創薬支援事業を始めとする新規事業育成の取り組みにも引き続き注目していきたい。