ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

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ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.19

(2183:東証1部) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.19】2014年3月期業績レポート
取材概要「高成長を続けてきた同社であるが、14/3期は内定プロジェクトの遅れや開発等の中止により、前期比増収となったものの期初に計画した売上高を下回・・・」続きは本文をご覧ください。
2014年7月8日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2014年3月 3,721 706 703 449
2013年3月 3,599 1,003 998 616
2012年3月 3,110 728 723 424
2011年3月 2,512 288 278 147
2010年3月 2,404 480 473 273
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(6/12現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
927円 11,394,906株 10,563百万円 26.1% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
14.00円 1.5% 54.35円 17.1倍 162.52円 5.7倍
※株価は6/12終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
リニカルの2014年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization)事業を中心に、CSO(Contract Sales Organization:医薬品のマーケティング業務ならびに製造販売後{以下製販後という}臨床研究・調査の受託)事業を手掛ける。
医薬品は発売前に厚生労働省の承認・認可を受けることが義務付けられており、承認前の薬剤(医薬品候補)を患者に投与して効果や安全性を確かめる必要がある。これら臨床試験としての治験を支援する企業をCRO(医薬品開発業務受託機関)と呼ぶ。製薬会社は開発要員に制限のある中で機動的な開発を遂行するために、業務をアウトソーシングする動きを拡大しており、CROの役割が大きくなっている。 同社は新薬開発に不可欠な治験の最も大切な段階である「第II相・第III相試験」と、主業務である「モニタリング業務」「品質管理業務」「コンサルティング業務」にノウハウを集中する特化型CROとして、製薬会社の真のパートナーを目指し、高品質な治験を支援している。
CRO事業では、治験の最も大切な段階である第II相試験(フェーズII)及び第III相試験(フェーズIII)における「モニタリング業務」に特化している事が特徴。また、統合失調症、うつ病、アルツハイマー等の中枢神経系(Central Nervous System :CNS)領域やがん領域といった難易度の高い領域に注力する事で他社との差別化を図っている(これに対して、生活習慣病等の領域は差別化が難しく受託競争が激しい)。一方、CSO事業では、特定の疾患領域にフォーカスすると共にCRO事業で培ったノウハウを活かし、プロダクトマーケティング業務や製販後データの企画・収集業務の受託を手掛けており、MR派遣が中心の他社のCSO事業と一線を画している。
主な取引先は、武田薬品工業グループ、第一三共、大塚製薬、塩野義製薬、田辺三菱製薬、小野薬品工業等国内主要製薬会社。尚、第II相試験は安全性及び有効性・用法・用量を調べるために実施され、この結果を基に第III相試験において、実際の治療に近い形での効果と安全性を確認する。
 
【沿革】
2005年6月、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)で免疫抑制剤等の開発に携わってきたメンバー9名によって設立された。大阪発理想の医薬品開発受託(CRO)事業を目的として、設立当初から、CNS領域やがん領域の育成に取り組み、会社設立後まもなく大塚製薬からCNS領域の案件を受注。その後、人材を補強し事業部として受注活動を強化した。また、がん領域も外資系製薬会社等でがん領域の医薬品開発を手掛けた人材等に恵まれ、足元、受注が拡大している。
SMO(治験施設支援機関)事業進出を念頭に、06年1月に同事業を手掛けるアウローラ(株)を子会社化したが、CRO事業への経営資源集中を図るべく07年5月に全保有株式を売却。08年7月に、国内の製薬会社の米国進出支援を目的に米国カリフォルニア州に全額出資子会社LINICAL USA, INC.を設立。同年10月の東証マザーズ上場を経て、13年3月に東証1部に市場変更となった。13年5月に、台湾と韓国に全額出資子会社LINICAL TAIWAN CO.,LTDとLINICAL KOREA CO.,LTDを設立。14年4月には、LINICAL KOREA CO.,LTDと買収した韓国のCROであるP-pro. Korea Co., Ltd.との統合を完了した。
 
 
【業務内容】
事業セグメントは、主力のCRO事業とCSO事業に分かれ、14/3期の売上構成比は、それぞれ92.3%、7.7%。CRO事業は「モニタリング業務」に特化しており、これに付随する「品質管理業務」や「コンサルティング業務」も手掛ける。一方、CSO事業は、プロダクトマーケティング業務や製販後データの企画・収集業務の受託を手掛け、MR派遣を中心とする他社と差別化を図っている。
 
 
 
【強み】
(1)知識・ノウハウ・経験等の専門性を集中し製薬会社の様々なニーズに対応
1つの新薬が開発・承認され市場で販売されるまでには 10~18年もの長い歳月を要する。 その中でも、3~7年の期間を要する治験では、準備不足やデータ不備、思わぬトラブルのために往々にしてスケジュールが遅れ、販売遅延の原因になる場合がある。 同社は経験豊かなCRAがオリエンテーションの段階から臨床開発におけるプロセスを見通し、「いかにしてスムーズに進められるか」を考え、予測できる問題を未然に防ぎ、高精度のデータをスピーディーに収集するノウハウを持っている。更に、同社は治験の中でも特に重要な2つの試験段階(「第II相・第III相試験」)と、開発のコアである3つの業務(「モニタリング業務」「品質管理業務」「コンサルティング業務」)に特化し、100%社内で受託する体制を整えている。
 
(2)難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強み
難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強みを有する。例えば、がん領域であれば、薬の副作用によるものか、がんの進行によるものか、安全性評価が難しく、中枢神経系領域であれば、例えばアルツハイマー病の患者は問診等による薬の有効性評価が難しいため、モニタリングでは高度な対応が必要とされる。この他、急性疾患や特定疾患(いわゆる難病)と呼ばれる領域も難易度が高い分野で、がん領域や中枢神経系領域と共に新薬開発が活発だ(しかし、対応できるCROは限られる)。一方、生活習慣病の治験は患者の状態が比較的安定しており、有効性評価についても比較的容易であるため、難易度は低い(例えば、糖尿病では血糖値の測定データの収集が中心)。
新薬の開発トレンドは生活習慣病から治療満足度が低いがん領域や中枢神経系領域にシフトしているが、上記の通り、がん領域では安全性情報の取り扱いが難しく、中枢神経系領域では有効性評価の標準化が難しい。このため、これまでは製薬会社が社内で対応していたが、近年、こうした難易度の高い領域でもアウトソーシングされるケースが増えている。同社にとって、中枢神経系領域は会社設立時からの注力分野であり、がん領域は4年前にアストラゼネカのイレッサ開発メンバーを迎え受注活動を本格化した。
受残残高は、がん領域中心に拡大傾向。
 
 
(3)高い収益性
同社が手掛ける案件の逸脱率は非常に低く抑えられており、また、症例の組み入れやデータの回収期間を含め、全案件の8割程度は実施期間の短縮に成功している。同社は難易度の高い分野で高品質・短納期を実現しているため適正価格での受注が可能であり、スケールメリットのハンデを補って、高い利益率を実現している。
収益力の源泉となるのがCRAの質だが、同社CRAの質の高さを示す一例として、GCPパスポート認定試験の合格率をあげる事ができる。GCPパスポート認定試験とは、国際共同治験に対応できる人材の育成を目的にした試験で、日本臨床試験研究会が実施している。なお、同社では受験資格を得た社員はすべて受験をしており、合格率の他社比較でも突出した合格率であることがわかる。
 
 
 
 
経営戦略
 
①高品質・短納期・適正価格の浸透と継続的な成長によるリニカルブランドの確立、②がん/中枢などのさらなる強化、CRA270名体制とグローバル体制の整備によるCRO事業の強化・拡充、③リエゾン業務、製販後研究・調査・グローバル対応などの強化によるCSO事業の強化・拡充、④計画立案・申請審査対応、助成金・ファンドの活用などの創薬支援事業の育成が経営戦略の柱。
 
(1)CRO事業
CRO事業は第II相試験、第III相試験における「モニタリング業務」に特化し、また、がん領域や中枢神経系領域といった難易度の高い領域で評価を得ている。引き続き高難易度領域で実績の積み上げを図ると共に、事業の拡大に向けCRAを増員していく。国内はCRA 270名が常時稼働できる体制を早期に確立する。
 
 
また、厚生労働省が力を入れている日本主導型国際共同治験に対応するべく、治験の多国間実施体制の整備にも力を入れる。この一環として、2013年5月に、LINICAL TAIWAN CO., LTD.(台湾台北市、資本金1千万台湾ドル)、及びLINICAL KOREA CO., LTD.(韓国ソウル特別市、資本金10億ウォン)を設立(いずれも100%出資)。2014年4月には、LINICAL KOREA CO.,LTDと買収した韓国のCROであるP-pro. Korea Co., Ltd.との統合を完了した。今後、欧州にも拠点を設け、2008年7月に設立したLINICAL USA, INC.(米国加州)と共に、日+米・欧・亜のグローバル体制を早期に確立したい考え。
また、東アジア諸国の国際共同治験の動きが高まる中、設立したアジア子会社による現地採用・育成や同社によるグローバル採用・育成などを通じて、アジア(日韓台)試験受託体制の整備も行っている。こうした中、非小細胞がん対象のAsian Study(日韓台)が稼動した。
 
(2)CSO事業
他社が手掛けるMRの派遣サービスとは一線を画し、同社が主体となって業務を進める受託サービス型のCSO事業を志向している。具体的には、特定の疾患領域やエリアで経験豊富なMRを採用し、CRO事業部で蓄積したノウハウを活用する事で専門性の高い業務を受託し差別化を図っていく考えで、現在、プロダクトマーケティング業務と製販後データの企画・収集業務の受託が2本柱。今後は、これら2事業の強化に加え、市場拡大が期待できる臨床研究のグローバル案件等の受託事業を第3の事業として育成していく。
13/3期は臨床研究の受託に成功し、セグメント損益が黒字転換したが、14/3期は臨床研究等の新規受注により売上・利益ともに前期比増加となった。
 
 
 
(3)創薬支援事業(新規事業の育成)
短期業績に影響の少ない新薬開発スキーム、アジア諸国のドラックラグ化合物の積極的な開発、更には開発計画作成から申請までのワンストップ委託といった昨今のニーズへの対応を念頭に創薬支援事業を育成していく。このため、治験実施計画書作成、データ回収以降の業務を含む案件の戦略的な受託と経験の拡充に取り組むとともに、助成金/創薬ファンドの活用による早期段階に限定した化合物の自社開発を日韓台で行うことを検討する。こうした創薬ファンドを活用した化合物の開発は、今後の同社のCRO事業の拡大に繋がるとともに、これまでの経験で同社が培ってきた目利きの力が生かされる。
 
 
2014年3月期決算
 
 
前期比3.4%の増収、同29.5%の経常減益
売上高は前期比3.4%増の37億21百万円、経常利益は同29.5%減の7億3百万円となった。
同社が属するCRO事業とCSO事業の業界は、医薬品開発・販売のアウトソーシング化及び、国際共同治験の増加を背景に市場は緩やかに拡大している。既存企業の規模拡大、事業譲渡、廃業などによる業界再編から業界内の競争は激化しているものの、同社の受注状況は改善している。こうした中、売上面では、CRO事業及びCSO事業ともに営業活動の強化により新規案件の受託に成功したことから増加した。
一方、利益面では、新規案件の売上寄与によりCSO事業は増加したものの、新規受託案件に対応するために先行的に人員を採用し教育を行っていることから、一時的にCRAの稼働率が低下しCRO事業は減少した。売上総利益率が38.2%と前期比7.8ポイント悪化したことに加え、人材紹介料の増加などにより販管費が63百万円増加したことから、営業利益が7億6百万円と同29.6%減少した。 受取利息や為替差益により営業外収益が若干増加、特別損益の計上はない。
1株当たりの配当は、期初予想の期末配当14円の予定。
 
 
CRO事業、CSO事業共に、1年から3年程度の受託契約期間において、契約に従い毎月売上が発生する(受託総額が毎月案分計上される)。受注残高は、既に契約締結済みの受託業務の受注金額の残高である。このため、今後1年から3年程度の期間で発生する売上高を示しており、同社グループの今後の業績予想の根拠となる指標である。

2014年5月12日時点の受注残高は、前期末(2013年3月)に比べ、27.1%増加している。アウトソーシング化及び国際共同治験の増加を背景に足元の受注環境は良好であり、売上以上の受注が獲得できている。足元の受注環境の改善や営業活動の成果により既存・新規顧客からの受託案件の打診が多いことから、同社ではCRA(臨床開発モニター)の増員などにより、受託体制の強化を図る計画。
 
 
 
2014年3月末の総資産は前期末比1億94百万円増の28億36百万円。資産サイドでのれんが増加し、負債純資産サイドで当期純利益の計上により利益剰余金が増加したことが主なもの。CF面では、売上債権の増加などにより営業CFの黒字が減少したことや、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得により投資CFの赤字が拡大し、フリーCFの黒字も縮小した。また、配当金の支払いにより財務CFの赤字が拡大した。しかし、実質無借金で流動比率も高く財務体質は健全であり、自己資本比率も65.3%と引き続き高い。
 
 
2015年3月期業績予想
 
 
前期比30.2%の増収、同44.9%の経常増益予想。
15/3期の会社計画は、売上高が前期比30.2%増の48億46百万円、経常利益が同44.9%増の10億20百万円。
売上面では、CRO事業については、創業以来から高い評価を受けている既存顧客のリピート受注に加え、顧客ニーズの高いがん領域及びCNS領域を中心にグローバル案件を含む新規案件の受注を見込んでいる。また、CSO事業についても、新規顧客に対する営業活動の強化を図り、CRO事業で得たノウハウを活かした専門性の高い領域での新規案件の受託を目指す。
また、利益面でも、CRA(臨床開発モニター)増員ならびにグローバル展開で原価・販管費は増加するものの、増収効果やCRAの稼働率の向上により前期比大幅な増益を見込む。
1株当たりの配当は前期と同額の14円の期末配当の予定。
 
 
今後の注目点
高成長を続けてきた同社であるが、14/3期は内定プロジェクトの遅れや開発等の中止により、前期比増収となったものの期初に計画した売上高を下回ったことから、積極的な採用増加によるコストアップを補うことができず前期比大幅な減益決算となった。一見すると同社の高成長が今後ストップしてしまうのではとの懸念を抱かされる内容となったものの、将来の成長原資である受注残高は、得意のがん領域の受注獲得が貢献し、2014年5月12日時点において、14/3月末との比較で7.7%増加、13/3月末との比較で27.1%増加するなど、成長鈍化への不安を払拭できる内容となっている。一方、足元の受注環境は堅調ではあるものの、CRO業界では再編・淘汰が進み、競争は今後益々激しくなる事が予想される。そうした中、他社との差別化を図り、安定的に受注を獲得するために、同社では国際共同治験のワンストップ受託体制構築に力を入れている。既に米国、韓国、台湾に子会社を設立し、グローバル案件を実施するとともに、欧州への進出を検討中である。実現すれば日本のCROで唯一、国際共同治験を自前でワンストップ受託できる企業になるということだ。短期的には、今期の業績回復度合いを、中長期的には国際共同治験体制構築を通じた受注拡大の進捗に注目したい。