ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

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ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.23

(2183:東証1部) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.23】2015年3月期業績レポート
取材概要「同社の受注の拡大が加速している。2015年5月15日時点の受注残高は、14/3期末(2014年3月)に比べ、約97%増加した。これは、既存の受託契約が・・・」続きは本文をご覧ください。
2015年7月14日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2015年3月 4,872 876 840 437
2014年3月 3,721 706 703 449
2013年3月 3,599 1,003 998 616
2012年3月 3,110 728 723 424
2011年3月 2,512 288 278 147
2010年3月 2,404 480 473 273
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(6/11現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,193円 11,394,906株 13,594百万円 22.3% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
14.00円 1.2% 65.78円 18.1倍 180.83円 6.6倍
※株価は6/11終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
リニカルの2015年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization)事業を中心に、CSO(Contract Sales Organization:医薬品のマーケティング業務ならびに製造販売後{以下製販後という}臨床研究・調査の受託)事業を手掛ける。
医薬品は発売前に厚生労働省の承認・認可を受けることが義務付けられており、承認前の薬剤(医薬品候補)を患者に投与して効果や安全性を確かめる必要がある。これら臨床試験としての治験を支援する企業をCRO(医薬品開発業務受託機関)と呼ぶ。製薬会社は開発要員に制限のある中で機動的な開発を遂行するために、業務をアウトソーシングする動きを拡大しており、CROの役割が大きくなっている。 同社は新薬開発に不可欠な治験の最も大切な段階である「第II相・第III相試験」と、主業務である「モニタリング業務」「品質管理業務」「コンサルティング業務」にノウハウを集中する特化型CROとして、製薬会社の真のパートナーを目指し、高品質な治験を支援している。
CRO事業では、治験の最も大切な段階である第II相試験(フェーズII)及び第III相試験(フェーズIII)における「モニタリング業務」に特化している事が特徴。また、統合失調症、うつ病、アルツハイマー等の中枢神経系(Central Nervous System :CNS)領域やがん領域といった難易度の高い領域に注力する事で他社との差別化を図っている(これに対して、生活習慣病等の領域は差別化が難しく受託競争が激しい)。一方、CSO事業では、特定の疾患領域にフォーカスすると共にCRO事業で培ったノウハウを活かし、プロダクトマーケティング業務や製販後データの企画・収集業務の受託を手掛けており、MR派遣が中心の他社のCSO事業と一線を画している。
主な取引先は、武田薬品工業グループ、塩野義製薬、田辺三菱製薬、小野薬品工業、中外製薬等国内主要製薬会社。尚、第II相試験は安全性及び有効性・用法・用量を調べるために実施され、この結果を基に第III相試験において、実際の治療に近い形での効果と安全性を確認する。
 
【沿革】
2005年6月、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)で免疫抑制剤等の開発に携わってきたメンバー9名によって設立された。大阪発理想の医薬品開発受託(CRO)事業を目的として、設立当初から、CNS領域やがん領域の育成に取り組み、会社設立後まもなく大塚製薬からCNS領域の案件を受注。その後、人材を補強し事業部として受注活動を強化した。また、がん領域も外資系製薬会社等でがん領域の医薬品開発を手掛けた人材等に恵まれ、足元、受注が拡大している。
SMO(治験施設支援機関)事業進出を念頭に、06年1月に同事業を手掛けるアウローラ(株)を子会社化したが、CRO事業への経営資源集中を図るべく07年5月に全保有株式を売却。08年7月に、国内の製薬会社の米国進出支援を目的に米国カリフォルニア州に全額出資子会社LINICAL USA, INC.を設立。同年10月の東証マザーズ上場を経て、13年3月に東証1部に市場変更となった。13年5月に、台湾と韓国に全額出資子会社LINICAL TAIWAN CO.,LTD.とLINICAL KOREA CO.,LTD.を設立。14年4月には、LINICAL KOREA CO.,LTD.と買収した韓国のCROであるP-pro. Korea Co., Ltd.との統合を完了した。14年10月29日には欧州でCRO事業を展開しているNuvisan CDD Holding GmbHの全株式を取得し子会社化するための株式譲渡契約を、Nuvisan Pharma Holding GmbH との間で締結し、12月1日付けで同社の100%子会社となった。更に、グループとしての一体感の醸成と連携強化を図るため、連結子会社となったNuvisan CDD Germany GmbHの名称をLINICAL Europe GmbHに商号変更した。
 
 
【業務内容】
事業セグメントは、主力のCRO事業とCSO事業に分かれ、15/3期の売上構成比は、それぞれ92.5%、7.5%。製薬会社の医薬品開発における治験業務の一部を受託するCRO事業を中心に展開。また、CRO事業は「モニタリング業務」に特化しており、これに付随する「品質管理業務」や「コンサルティング業務」も手掛ける。一方、CSO事業は、臨床研究のサポート業務受託やプロダクトマーケティング業務の受託を手掛け、MR派遣を中心とする他社と差別化を図っている。
 
 
迅速に治験を進め新薬開発のスピードアップを図るためCROには製薬会社の開発部門と同等の能力を有し、同等の立場で医薬品開発を実行・サポートできる能力が求められる。同社は治験において信頼性の高いデータを収集するため、事業領域を治験の主業務と主要プロセスに特化し、優秀な人材とノウハウを集中させる戦略をとっている。従来型のCROを脱却し、Development(開発)を中心とした「CDO(Contract Development Organization:真の医薬品開発業務受託機関)」を目指し、製薬会社の開発業務を支援する。
 
 
 
CRO事業部で蓄積された人材教育・マネジメントノウハウを活用できるのが強みとなっている。臨床研究中心に外注ニーズが増加傾向にある中、今後も事業の拡大が期待される。
 
【強み】
(1)知識・ノウハウ・経験等の専門性を集中し製薬会社の様々なニーズに対応
1つの新薬が開発・承認され市場で販売されるまでには 10~18年もの長い歳月を要する。その中でも、3~7年の期間を要する治験では、準備不足やデータ不備、思わぬトラブルのために往々にしてスケジュールが遅れ、販売遅延の原因になる場合がある。 同社は経験豊かなCRAがオリエンテーションの段階から臨床開発におけるプロセスを見通し、「いかにしてスムーズに進められるか」を考え、予測できる問題を未然に防ぎ、高精度のデータをスピーディーに収集するノウハウを持っている。更に、同社は事業特化型CROとして、経営効率の高い下記の3業務へ特化していることころに特徴がある。
① 開発のコアである3つの業務(「モニタリング業務」「品質管理業務」「コンサルティング業務」)に特化し、100%社内で受託する体制を整備。
② 治験の中でも特に重要な2つの試験段階(「第II相・第III相試験」)に特化。
③ 豊富な医薬品開発情報を有する大手製薬会社に特化。
 
(2)難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強み
難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強みを有する。例えば、がん領域であれば、薬の副作用によるものか、がんの進行によるものか、安全性評価が難しく、中枢神経系領域であれば、例えばアルツハイマー病の患者は問診等による薬の有効性評価が難しいため、モニタリングでは高度な対応が必要とされる。この他、急性疾患や特定疾患(いわゆる難病)と呼ばれる領域も難易度が高い分野で、がん領域や中枢神経系領域と共に新薬開発が活発だ(しかし、対応できるCROは限られる)。一方、生活習慣病の治験は患者の状態が比較的安定しており、有効性評価についても比較的容易であるため、難易度は低い(例えば、糖尿病では血糖値の測定データの収集が中心)。
新薬の開発トレンドは生活習慣病から治療満足度が低いがん領域や中枢神経系領域にシフトしているが、上記の通り、がん領域では安全性情報の取り扱いが難しく、中枢神経系領域では有効性評価の標準化が難しい。このため、これらの領域では同社のように受託実績を有し、経験豊富なメンバーを有するCROに案件が集中する傾向がある。
受注残高は、がん領域中心に拡大傾向。
 
 
 
(3)高い収益性
同社が手掛ける案件の逸脱率は非常に低く抑えられており、また、症例の組み入れやデータの回収期間を含め、全案件の8割程度は実施期間の短縮に成功している。同社は難易度の高い分野で高品質・短納期を実現しているため適正価格での受注が可能であり、スケールメリットのハンデを補って、高い利益率を実現している。
収益力の源泉となるのがCRAの質だが、同社CRAの質の高さを示す一例として、GCPパスポート認定試験の合格率をあげる事ができる。GCPパスポート認定試験とは、わが国の臨床試験および臨床研究の推進と質の向上を図ることを目的にした試験で、日本臨床試験学会が実施している。なお、同社では受験資格を得た社員はすべて受験をしており、他社と比べると高い合格率を誇っている。
 
 
 
経営戦略
 
(1)CRO事業
CRO事業の重点戦略は、①がん領域や中枢神経系領域などで実績を積み上げるとともに、リピート受注から独占契約へつなげる、②早期に国内CRA300名体制を構築し、CRAの高稼働率を維持する、③グローバル体制構築による国際共同試験のワンストップ受託を拡大するというもの。
 
 
国内は、案件増加への対応するため、質・スピードを確保しつつ人材を積極的に採用し、早期にCRA300名体制を構築する。更に、CRAの高稼働率を維持するとともに、がん領域や中枢神経系領域などにおける独占契約の拡大を図る。
 
グローバル展開
グローバルでは、確立した日亜・米・欧州における国際共同試験の受託体制を武器に、今後事業の拡大を加速させる。治験の多国間実施体制の整備の一環として、2013年5月に、LINICAL TAIWAN CO., LTD.(台湾台北市、資本金1千万台湾ドル)、及びLINICAL KOREA CO., LTD.(韓国ソウル特別市、資本金10億ウォン)を設立(いずれも100%出資)。2014年4月には、LINICAL KOREA CO., LTDと買収した韓国のCROであるP-pro. Korea Co., Ltd.との統合を完了した。また、2008年7月に設立したLINICAL USA, INC.(米国加州)は業務拡大を目的として2014年9月にサンディエゴ事務所を設立した。更に、2014年10月29日に欧州でCRO事業を展開しているNuvisan CDD Holding GmbHの全株式を取得し子会社化するための株式譲渡契約を、Nuvisan Pharma Holding GmbH との間で締結し、12月1日付けで完全子会社化が完了、同時に商号をLINICAL Europe GmbHと変更した。これにより日亜・米・欧3極による受託体制が確立された。
連結子会社となったLINICAL Europe GmbH(旧Nuvisan CDD Germany GmbH)は、欧州の主要各国でCROの事業を行っているため、同社グループの受託体制が飛躍的に強化、拡充されグローバルによるワンストップサービスが可能となった。LINICAL Europe GmbHの子会社は、ドイツ、スペイン、フランス、オランダ、クロアチアに所在し、それら隣国でのモニタリングサービスを提供している。これにより、同社グループがサービスを提供できる国は、パートナー経由も含めると40カ国前後まで一気に拡大した。また、LINICAL Europeは、同社グループが注力しているがん領域の臨床試験を中心に、グローバル大手製薬企業に対する国際共同試験をはじめとする豊富な試験の実施経験を有しており、同社グループとの大きなシナジー効果が期待される。更に、LINICAL Europeは、国際共同試験のモニタリング以外にも、eCRF、CDISK対応を含めデータマネジメント、統計解析、メディカルライティングにおいて豊富な実績を持っており、今後同社グループにおいて国際共同試験のフルサービスを一括受注することが可能となった。

また、今後の更なる海外拠点の拡張のため米国地域において、日米製薬会社が集中する東海岸(ニュージャージー等)での拠点設立をはじめ、中南米への進出を検討している。アジア地域においても、台湾を活用しながらシンガポールオフィスの設立やフィリピン、中国への進出を検討している。
 
(2)CSO(育薬)事業
他社が手掛けるMRの派遣サービスとは一線を画し、同社が主体となって業務を進める受託サービス型のCSO(育薬)事業を志向している。具体的には、特定の疾患領域やエリアで経験豊富なMRを採用し、CRO事業部で蓄積したノウハウを活用する事で専門性の高い業務を受託し差別化を図っていく考えで、現在、臨床研究のサポート業務受託とプロダクトマーケティング(リエゾン)業務と業務受託が2本柱。13/3期は臨床研究の受託に成功し、セグメント損益が黒字転換し、14/3期以降臨床研究等の新規受注により売上・利益の成長が加速してきた。
 
 
 
(3)創薬支援事業(新規事業の育成)
製薬会社・バイオベンチャーにおいては、短期業績に影響の少ない新薬開発スキームを構築したい、開発計画作成から申請までワンストップで委託したいというニーズが高まっている。また、患者や台湾と日本の行政当局においては、アジア諸国でドラックラグ化合物の積極的な開発を行って欲しい、がん・痴呆・難治性疾患への新薬の開発や再生医療の実用化を行って欲しいというニーズが高まっている。同社では、こうした昨今のニーズへの対応を念頭に創薬支援事業の育成を目指している。このため、治験実施計画書作成、データ回収以降の業務を含む案件の戦略的な受託と経験の拡充に取り組むとともに、助成金/創薬ファンドの活用による早期段階に限定した化合物の自社開発を行うことを計画している。こうした創薬ファンドを活用した化合物の開発は、今後の同社のCRO事業の拡大に繋がるとともに、これまでの経験で同社が培ってきた目利きの力が生かされる。更に、開発計画立案から当局対応までの受託経験が蓄積される。
 
 
2015年3月期決算
 
 
前期比30.9%の増収、同19.4%の経常増益
売上高は前期比30.9%増の48億72百万円、経常利益は同19.4%増の8億40百万円となった。
同社が属するCRO事業とCSO事業の業界は、医薬品開発・販売のアウトソーシング化及び国際共同試験の増加を背景として、市場規模は緩やかに拡大している。
こうした中、売上面では、CRO事業において増加するがん領域及び中枢神経系(CNS)領域の案件の受託体制を強化するとともに営業活動を強力に推進したことが、複数の新規案件の受託の増加につながった。また、国際共同試験の増加に対応するためにグローバル化を強力に推進している成果により、米国、韓国、台湾、欧州の各子会社の売上も増加した。加えて、CSO事業においても営業活動の推進により製販後の臨床研究を中心として新規案件の受託に成功したことにより増収となった。
利益面では、先行的な人員の採用による人件費の増加があったものの、増収効果によりCRO事業、CSO事業ともに増益となった。しかし、韓国と欧州のM&Aに伴うのれん償却が発生したしたことや人材採用、オフィス拡充などの費用が先行し台湾、韓国の子会社が赤字となったことなどにより利益率が低下した。売上総利益率は36.7%と前期比1.5ポイント低下、売上高対販管費率は、18.7%と同0.5ポイント低下した。この結果、経常利益は8億40百万円と同19.4%増加した。その他、退職給付債務の計算に関して簡便法から原則法へ変更したことによる影響額1億5百万円を特別損失に計上したことから、当期純利益は4億37百万円(同2.7%減)と前期比減益になった。
 
 
CRO事業はのれんの償却や先行投資負担の増加により利益率が低下したものの、CSO事業は新規案件の受託による売上高の増加により利益率が高まった。
 
 
CRO事業、CSO事業共に、1年から3年程度の受託契約期間において、契約に従い毎月売上が発生する(受託総額が毎月案分計上される)。受注残高は、既に契約締結済みの受託業務の受注金額の残高である。このため、今後1年から3年程度の期間で発生する売上高を示しており、同社グループの今後の業績予想の根拠となる指標である。

2015年5月15日時点の受注残高は、前期末(2014年3月)に比べ、97.0%増加。これは、既存の受託契約が順調に売上に計上されたものの、これを上回る受託案件の新規契約及び欧州CRO買収による受注残高の増加があったもの。
アウトソーシング化及び国際共同試験の増加を背景に足元の受注環境は良好であり、営業活動の成果により既存・新規顧客からの受託案件の打診が多いことから、同社ではCRA(臨床開発モニター)の増員などにより、受託体制の強化を図る計画。
 
 
2015年3月末の総資産は前期末比28億5百万円増の56億42百万円。当15/3期の第3四半期より買収したLINICAL EuropeをB/S反映。資産サイドはのれんが、負債純資産サイドは長期有利子負債が増加したことが主な要因。CF面では、未払消費税の増加や法人税等の支払額の減少で、営業CFのプラスが拡大。連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出により投資CFのマイナスが拡大し、フリーCFがマイナスへ転換。一方、長期有利子負債の増加により財務CFはプラスとなった。M&Aに伴う借入金の増加などにより2015年3月末の自己資本比率は36.5%と前期末の65.3%から低下した。
 
 
2016年3月期業績予想
 
 
前期比35.2%の増収、同45.8%の経常増益予想。
16/3期の会社計画は、売上高が前期比35.2%増の65億86百万円、経常利益が同45.8%増の12億25百万円の予想。 大手製薬会社は、大型製品の特許切れの影響を補完するため、アウトソーシングによる経営の合理化・効率化並びに有望な医薬品開発品目の確保のための海外ベンチャー企業の買収などを加速させており、医薬品開発のための治験受託件数は増加するものと予想される。特に、がん領域及び中枢神経系領域においては、いまだに有効な治療法が確立していない疾病があるため、その治療薬の開発が強く望まれており、こうしたニーズに対応するための医薬品開発は増加傾向となっている。
こうした環境下、売上面では、CRO事業において、高い評価を受けている既存顧客のリピート受注に加え、新規顧客に対しても引き続き営業活動を強化することにより、同社が得意とする顧客ニーズの高いがん領域及びCNS領域を中心に新規案件を受託し、売上高の拡大を図る方針。加えて海外子会社の売上も、米国、韓国、台湾の各子会社に加え、15/3期の第3四半期に買収した欧州子会社の売上が通年で寄与すること等もあり大幅に増加する予定。また、CSO事業についても、新規顧客に対して営業活動を強力に推進することにより顧客基盤の拡大を図り、これらの顧客からCRO事業で得たノウハウを活かした専門性の高い領域での新規案件の受託を目指す。
利益面では、CRA(臨床開発モニター)増員ならびにアジア・北米の拠点増加などグローバル展開で原価・販管費が増加するものの、増収効果やCRAの稼働率の向上により前期比大幅な増益を見込む。営業利益は前期比40.9%増の12億35百万円の予想で、売上高営業利益率が18.8%と前期比0.8%ポイント高まる見込み。その他、前期に特別損失で計上した退職給付費用が減少することから当期純利益の増益率は同71.5%と高くなる。
1株当たりの配当は、前期と同額の期末配当14円の計画。
 
 
今後の注目点
同社の受注の拡大が加速している。2015年5月15日時点の受注残高は、14/3期末(2014年3月)に比べ、約97%増加した。これは、既存の受託契約が順調に売上に計上されたものの、これを上回る受託案件の新規契約及び欧州CRO買収による受注残高の増加があったものである。また、2015年5月15日時点の受注残高は、買収した欧州子会社の受注残高が考慮された15/3期末(2015年3月)の受注残高との比較においても約12%増加しており、同社グループの受注が好調に推移していることが確認された。
特に強みをもつがん領域において受注額の増加が大きい点は、グローバル体制の強化により同社の競争優位性が更に高まっている証と言えよう。受注残の増加は、同社の売上の先行指標であり、今後同社の売上高の伸びが加速してくるものと予想される。
一方、15/3期の業績は、売上高48億72百万円(期初予想48億46百万円)、営業利益8億76百万円(期初予想10億23百万円)となるなど、売上高は期初予想を上回ったものの、営業利益は期初予想を下回る結果となった。これは、韓国と欧州のM&Aに伴うのれん償却が発生したしたことや人材採用、オフィス拡充などの費用が先行し台湾、韓国の子会社が赤字となったことが影響している。現在成長を加速するために積極的に先行投資を実施していることからやむを得ないと思われるものの、2期連続で期初段階の会社計画を下回る着地となったことは非常に残念である。今期は引き続きCRA(臨床開発モニター)増員ならびにアジア・北米の拠点増加などグローバル展開で原価・販管費が増加するものの、増収効果に加え、CRAの稼働率の向上や海外子会社の収益性の向上などにより利益率が高まる計画となっている。特に、欧州と韓国の子会社は、のれんの償却負担があるものの収益性の改善を目指している。拡大する受注の中、売上高の成長に対する懸念は小さいが、利益計画の達成については株式市場の信頼が厚いとは言えない。有言実行で収益性を改善できるのか、海外子会社を含めた今後の利益改善のための取り組みが注目される。その一役を担うであろう独占契約獲得の状況からも目が離せない。
また、欧州子会社を傘下に収めたことで、日亜・米・欧3極による国際共同試験のワンストップでの受託体制が可能となり、国際共同試験のモニタリング以外の業務も含めたフルサービスの提供が可能となった。欧州子会社との本格的なシナジー効果が表面化するのはこれからである。引き続き欧州子会社とのシナジー効果についても注目していきたい。