ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

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ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.32

(2183:東証1部) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.32】2018年3月期第1四半期業績レポート
取材概要「2017年8月14日時点の受注残高は、2016年3月末に比べ17.8%増加した。主要顧客の受注残が大幅に増加していることに加え、その他顧客の受・・・」続きは本文をご覧ください。
2018年1月7日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2017年3月 8,355 2,128 2,076 1,447
2016年3月 7,666 2,012 1,985 1,330
2015年3月 4,872 876 840 437
2014年3月 3,721 706 703 449
2013年3月 3,599 1,003 998 616
2012年3月 3,110 728 723 424
2011年3月 2,512 288 278 147
2010年3月 2,404 480 473 273
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(9/12現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,471円 22,752,457株 33,469百万円 40.7% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
11.00円 0.7% 70.40円 20.9倍 179.97円 8.2倍
※株価は9/12終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
※ROEとBPSは前期実績、EPSは18/3月期予想。
 
リニカルの2018年3月期第1四半期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization)事業を中心に、医薬品のマーケティング業務ならびに製造販売後{以下製販後という}臨床研究・調査の受託などを行う育薬事業を手掛ける。
医薬品は発売前に厚生労働省の承認・認可を受けることが義務づけられており、承認前の薬剤(医薬品候補)を患者さまに投与して効果や安全性を確かめる必要がある。その臨床試験としての治験を支援する事業がCRO(Contract Research Organization)である。また、医薬品は製販後も調査、臨床研究を行う必要があり、その段階を支援する事業が育薬(Contract Medical Affairs)である。
同社は創業以来、がん・中枢神経系(CNS)など、世界中の人々がその撲滅を願い、新薬開発への強いニーズが存在する疾病領域を中心にCRO事業を展開してきた。これらは非常に難易度が高い領域であり、同社の知識・経験豊富なエキスパートが高度な治験を支えている。また、同社は創薬支援・育薬事業にも力を注ぎ、申請業務支援、承認後のマーケティングや臨床研究、製販後調査支援まで、単なるアウトソーシングを越えてお客様の事業を幅広くコンサルティングする「製薬会社の真のClinical Development Partner(医薬品開発パートナー)」を目指している。更に、国際化・大規模化が進む医薬品開発の流れのなかで、グローバルで大規模なプロジェクトにも同社グループのワンストップで十分な対応を行い、製薬会社とともに新しい時代を開拓していく戦略的ビジネスパートナーとして、顧客の市場競争力の拡充をトータルに支援している。
 
 
【沿革】
2005年6月、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)で免疫抑制剤等の開発に携わってきたメンバー9名によって設立された。大阪発理想の医薬品開発受託(CRO)事業を目的として、設立当初から、CNS領域やがん領域の育成に取り組み、会社設立後まもなく大塚製薬からCNS領域の案件を受注。その後、人材を補強し事業部として受注活動を強化した。また、がん領域も外資系製薬会社等でがん領域の医薬品開発を手掛けた人材等に恵まれ、足元、受注が拡大している。
SMO(治験施設支援機関)事業進出を念頭に、06年1月に同事業を手掛けるアウローラ(株)を子会社化したが、CRO事業への経営資源集中を図るべく07年5月に全保有株式を売却。08年7月に、国内の製薬会社の米国進出支援を目的に米国カリフォルニア州に全額出資子会社LINICAL USA, INC.を設立。同年10月の東証マザーズ上場を経て、13年3月に東証1部に市場変更となった。13年5月に、台湾と韓国に全額出資子会社LINICAL TAIWAN CO.,LTD.とLINICAL KOREA CO.,LTD.を設立。14年4月には、LINICAL KOREA CO.,LTD.と買収した韓国のCROであるP-pro. Korea Co., Ltd.との統合を完了した。14年10月29日には欧州でCRO事業を展開しているNuvisan CDD Holding GmbHの全株式を取得し子会社化するための株式譲渡契約を、Nuvisan Pharma Holding GmbHとの間で締結し、12月1日付けで同社の100%子会社となった。更に、グループとしての一体感の醸成と連携強化を図るため、連結子会社となったNuvisan CDD Germany GmbHの名称をLINICAL Europe GmbHに商号変更した。その他、16年3月にLINICAL U.K. LTD.を、同年10月にはLINICAL POLAND sp. z.o.o.を設立した。
 
 
【業務内容】
CRO事業
主力のCRO事業においては、新薬の迅速な市場投入につながる高品質で高効率な治験の支援を目指して、高い技術と豊富な経験をもつスタッフが担当にあたっている。今後も拡大するグローバルスタディに対応していくため、アジア(韓国、台湾、シンガポールなど)と欧州、米国に拠点を開設。薬事から企画、実施計画書の作成、モニタリング、データマネージメント、統計解析、ファーマコビジランスまでワンストップで対応。国際共同治験においては、リニカル本社を窓口に位置づけ、各国に医薬品開発事情に精通した人材を配置。日本語ベースで機動的な国際共同治験が可能な開発環境を整えている。10年から20年近くに及ぶ新薬開発プロジェクトの中でも、3年から7年を要するといわれる治験で特に重要とされる患者を対象とする「第II相(フェーズII試験)」「第III相(フェーズIII試験)」のプロセスに特化し、治験の核となる「モニタリング」を「品質管理」「コンサルティング」とともに提供。信頼性の高いデータの収集を行い、迅速、確実な新薬開発の実現を支援している。さらに担当領域も市場からの開発要請の強いがん領域や中枢神経系領域をはじめ難易度の高い領域に特化することで、顧客である製薬会社のニーズに応えている。
 
 
*国際共同治験
「国際共同治験」とは、新規の医薬品開発に世界規模で取り組み、早期上市を目指すため、臨床試験を複数の国または地域において同時並行的に行うことをいう。
 
育薬事業
医薬品承認後の臨床研究は、臨床現場における医薬品使用について有効性の検証、安全性の確認、相互作用の検討等を実施するもので、医療の質の向上に寄与するEBM(Evidence Based Medicine)データを創出。近年、臨床研究についてルール整備が進んでおり、従来の医師主導臨床研究に加え、企業主導臨床研究も多く実施される様になってきている。同社は、治験で培った臨床試験のノウハウに加え、最新の規制情報に対応した臨床研究をグローバルで実施することができ、試験の介入研究のみならず、観察研究、データベース研究と各種の臨床研究の受託が可能。今後、製薬会社においては、営業活動の適正化・透明化に伴い、各疾患領域のKOL(Key Opinion Leader)への意見聴取は、MA部(Medical Affairs)のMSL(Medical Science Liaison)が主体として実施することが予測されている。MSLは、KOLエンゲージメント、アドバイスボードの運営、講演会運営等を多種の業務を実施しており、その育成も重要となってきている。同社は、これまでの営業資材作成、ROL(Regional Opinion Leader)支援、臨床研究の手順書作成支援、コンサルティング業務の経験を生かし、各種MSL業務支援をグローバルで実施。
 
 
創薬支援事業
同社が提供するサービスは、治験のモニタリング業務の受託、新薬の販売支援などにとどまらず、 開発計画の立案や治験計画書作成から発売に至るまでの医薬品開発業務全般に幅広く対応するなど、クライアントである製薬会社のニーズに的確に対応。更に、医薬品開発の初期段階にある、「クスリの種」となるような化合物について、創薬ファンドや助成金などを活用したリスクの少ない開発の提案を行う。
 
 
【強み】
(1)知識・ノウハウ・経験等の専門性を集中し製薬会社の様々なニーズに対応
1つの新薬が開発・承認され市場で販売されるまでには 10~18年もの長い歳月を要する。 その中でも、3~7年の期間を要する治験では、準備不足やデータ不備、思わぬトラブルのために往々にしてスケジュールが遅れ、販売遅延の原因になる場合がある。 同社は経験豊かなCRAがオリエンテーションの段階から臨床開発におけるプロセスを見通し、「いかにしてスムーズに進められるか」を考え、予測できる問題を未然に防ぎ、高精度のデータをスピーディーに収集するノウハウを持っている。更に、同社は事業特化型CROとして、経営効率の高い下記の①、②、③に特化していることころに特徴がある。
① 開発のコアである3つの業務(「モニタリング業務」「品質管理業務」「コンサルティング業務」)に特化。
② 治験の中でも特に重要な2つの試験段階(「第II相・第III相試験」)に特化。
③ 豊富な医薬品開発情報を有する大手製薬会社に特化。
 
(2)難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強み
難易度が高く競争相手が少ないがん領域や中枢神経系領域のモニタリング業務に強みを有する。例えば、がん領域であれば、薬の副作用によるものか、がんの進行によるものか、安全性評価が難しく、また、中枢神経系領域であれば、例えばアルツハイマー病の患者は問診等による薬の有効性評価が難しいため、モニタリングでは高度な対応が必要とされる。この他、急性疾患や特定疾患(いわゆる難病)と呼ばれる領域も難易度が高い分野で、がん領域や中枢神経系領域と共に新薬開発が活発だ(しかし、対応できるCROは限られる)。一方、生活習慣病の治験は患者の状態が比較的安定しており、有効性評価についても比較的容易であるため、難易度は低い(例えば、糖尿病では血糖値の測定データの収集が中心)。
新薬の開発トレンドは生活習慣病から治療満足度が低いがん領域や中枢神経系領域にシフトしているが、上記の通り、がん領域では安全性情報の取り扱いが難しく、また、中枢神経系領域では有効性評価の標準化が難しい。このため、これらの領域では同社のように受託実績を有し、経験豊富なメンバーを有するCROに案件が集中する傾向がある。
受注残高は、急性疾患や特定疾患などのその他領域とCNS領域(中枢神経系)を中心に拡大傾向。がん領域、育薬(CMA)の2017年3月末の受注残高は、2016年3月末に比べ若干減少したものの、今後複数の大型プロジェクトが控えており拡大が期待される。
 
 
 
(3)高い収益性
同社が手掛ける案件の逸脱率は非常に低く抑えられており、また、症例の組み入れやデータの回収期間を含め、全案件の8割程度は実施期間の短縮に成功している。同社は難易度の高い分野で高品質・短納期を実現しているため適正価格での受注が可能であり、スケールメリットのハンデを補って、高い利益率を実現している。
収益力の源泉となるのがCRAの質だが、同社CRAの質の高さを示す一例として、GCPパスポート認定試験の合格率をあげる事ができる。GCPパスポート認定試験とは、わが国の臨床試験および臨床研究の推進と質の向上を図ることを目的にした試験で、日本臨床試験学会が実施している。なお、同社では受験資格を得た社員はすべて受験をしており、他社と比べると高い合格率を誇っている。
 
 
 
経営戦略
 
(1)CRO事業
CRO事業の重点戦略は、
① がん領域や中枢神経系領域などで実績を積み上げるとともに、リピート受注から独占契約へつなげる
② 早期に国内CRA300名体制を構築し、CRAの高稼働率を維持するとともに、米国・台湾の規模を拡大する
③ グローバル体制構築による国際共同治験のワンストップ受託を拡大する
というもの。
 
 
国内は、案件増加に対応するため、質・スピードを確保しつつ人材を積極的に採用し、早期にCRA300名体制を構築する。なお、CRAは18/3期に300名体制となる見込みであるが、マネージャーが約2割を占めている模様。同社は、早期にマネージャーを除く最前線のCRA300名体制の構築を目指している。18/3期は、薬学を中心とした定期採用で確実な増員を確保するとともに、中途採用は競争激化も前年並みの採用を確保する計画。更に、CRAの高稼働率を維持するとともに、がん領域や中枢神経系(CNS)領域などにおける独占契約の拡大を図る。
 
グローバル展開
グローバルでは、確立した日本・アジア、米国、欧州における国際共同治験の受託体制を武器に、今後事業の拡大を加速させる。治験の多国間実施体制の整備の一環として、2013年5月に、LINICAL TAIWAN CO., LTD.(台湾台北市、資本金1千万台湾ドル)、及びLINICAL KOREA CO., LTD.(韓国ソウル特別市、資本金10億ウォン)を設立(いずれも100%出資)。2014年4月には、LINICAL KOREA CO., LTDと買収した韓国のCROであるP-pro. Korea Co., Ltd.との統合を完了した。また、2008年7月に設立したLINICAL USA, INC.は業務拡大を目的として2014年9月にサンディエゴ事務所を設立した。更に、2014年10月29日に欧州でCRO事業を展開しているNuvisan CDD Holding GmbHの全株式を取得し子会社化するための株式譲渡契約を、Nuvisan Pharma Holding GmbH との間で締結し、12月1日付けで完全子会社化が完了、同時に商号をLINICAL Europe GmbHと変更した。これにより日本・アジア、米国、欧州3極による受託体制が確立された。
同社は製薬会社のグローバル戦略をサポートするため、各国に医薬品開発事情に精通した人材を配置し、日本語ベースのコミュニケーションを図れる環境を整備している。特に、がん・中枢神経系など難易度の高い疾病領域の国際共同治験においては、日本のリニカルを窓口に国内で早期開発段階を手がけた後、日本・アジアの拠点での開発に拡大している。後期開発段階を日本・アジア+米国+欧州で手がけて各国での同時上市を目指す戦略。
同社は今後も更なる日亜・米・欧3極における国際共同治験受託体制の強化を推進する方針である。
 
 
 
同社は、英語・日本語のできるCRAを採用・教育し、国際共同治験のCRAやリーダーとしての経験を積み、お客様と各国の治験がスムーズに進められるグローバルな人材の育成に努めている。
 
 
米国では早急に20名規模まで人員を拡充する予定で、拠点増設を検討している他、積極的なM&Aも検討している。また、台湾ではCRA20名規模まで拡大するとともにシンガポール子会社を含めた新規案件の獲得を目指す他、中国への進出も検討する。加えて、欧州でも、設立したポーランド子会社を含め、更なる増員と拠点拡大を検討する。
 
(2)育薬事業
他社が手掛けるMRの派遣サービスとは一線を画し、同社が主体となって業務を進める受託サービス型の育薬事業を志向している。具体的には、特定の疾患領域やエリアで経験豊富なMRを採用し、CRO事業部で蓄積したノウハウを活用する事で専門性の高い業務を受託し差別化を図っていく考えで、現在、臨床研究のサポート業務受託とプロダクトマーケティング(リエゾン)業務受託が2本柱。臨床研究のサポート業務受託は、エビデンス創出のための臨床研究において質の確保が課題となっている。同社では、手順書作成などの体制構築サポートやモニタリング、監査などを実施している。プロダクトマーケティング(リエゾン)業務では、未経験領域の新製品上市に伴う新規医療機関・医師の開拓や製品差別化戦略の提案・実行を行う。13/3期は臨床研究の受託に成功し、セグメント損益が黒字転換し、14/3期以降臨床研究等の新規受注により売上・利益の成長が加速してきた。
現在同事業の人員は60名前後まで急拡大したが、今後も旺盛な引き合いに対応すべく、積極的な採用を継続し、早期に100名体制を構築する予定である。
 
 
(3)創薬支援事業(新規事業の育成)
日本の行政当局においては、日本初の革新的な医薬品・医療機器を世界に先駆けて実用化したい、また、韓国・台湾の行政当局においては、国際的な競争力を高め、新医薬品を創出していきたいとのニーズを持っている。また、国内外のバイオベンチャーにおいては、医薬品市場世界第3位の日本で自社製品を開発・販売したいとのニーズが高まっている。同社では、こうした昨今のニーズへの対応を念頭に創薬支援事業の育成を目指している。同社は、臨床開発品だけでなく、より早期段階での支援や大手製薬会社で研究・開発・ライセンスを長年経験したプロフェッショナルが、国内外バイオベンチャーのパートナリングまでの支援を提供することが可能である。また、創薬ファンドへの出資も行う。創薬ファンドからの投資案件の増加は、今後の同社のCRO事業の拡大に繋がるとともに、これまでの経験で同社が培ってきた目利きの力が生かされる。更に、開発計画立案から当局対応までの受託経験が蓄積される。
 
 
具体的には、市場分析(売上予想等)、開発戦略立案と薬事対応(PMDA相談等)、パートナリング(ビジネスモデル提案、ライセンス交渉支援等)などを実施する。現在、内外の会社との間で、契約締結済3社、契約交渉最終段階2社の他、契約検討中1社と事業が順調に立ち上がってきている。
 
 
 
2018年3月期第1四半期決算
 
 
前年同期比9.5%の増収、同19.2%の経常減益
売上高は前年同期比9.5%増の21億36百万円、経常利益は同19.2%減の2億58百万円となった。
同社が属するCRO業界とCSO業界は、医薬品開発・販売のアウトソーシング化及び国際共同治験の増加を背景として、市場規模は緩やかに拡大している。
こうした中、売上面では、日本、アジア、米国、欧州におけるグローバル受託体制の構築を強力に推し進めたことが、国際共同治験の受託件数増加に結び付きCRO事業を中心に増加した。育薬事業においても新薬販売後の臨床研究を中心とした案件の受託により増加した。
利益面では、売上の増加が先行的な人材投資による人件費の増加と東京オフィス移転に伴う費用等を吸収しきれずCRO事業で減益となったことが影響した。育薬事業は新薬販売後の臨床研究を中心とした案件の受託により人員の稼働率が上昇し増益となった。営業利益は2億53百万円と同29.8%減少した。売上総利益率は32.4%と前年同期比5.8ポイント低下、売上高対販管費率は20.5%と同0.8ポイント上昇。前年同期に発生した為替差損36百万円がなくなったことなどから経常利益は2億58百万円と同19.2 %の減少となった。また、特別損益の計上はなく、親会社株主に帰属する当期純利益は1億60百万円と同29.4%減少した。
 
 
CRO事業は増収減益となったものの、育薬事業は大幅な増収増益となった。
 
 
CRO事業、育薬事業共に、1年から3年程度の受託契約期間において、契約に従い毎月売上が発生する。受注残高は、既に契約締結済みの受託業務の受注金額の残高である。このため、今後1年から3年程度の期間で発生する売上高を示しており、同社グループの今後の業績予想の根拠となる指標である。

2017年8月14日時点の受注残高は、前期末(2016年3月)に比べ、17.8%増加。これは、既存の委受託契約を順調に消化し受注残高の金額が売上高として計上されたものの、これを上回る受託案件の新規契約があったもの。アウトソーシング化及び国際共同治験の増加を背景に足元の受注環境は良好であり、営業活動の成果により既存・新規顧客からの受託案件の打診が多いことから、同社ではCRA(臨床開発モニター)の増員などにより、受託体制の強化を図る計画。
 
 
17年6月末の総資産は前期末比18百万円増の83億18百万円。資産サイドは現預金、繰延税金資産等が減少した一方、売掛金、有形固定資産、のれん等が増加した。負債純資産サイドは、未払法人税、賞与引当金等が減少した一方、短期借入金、未払金等が増加した。17年6月末ののれんは、10億97百万円と同47百万円増加。また、17年6月末の自己資本比率は48.8%と前期末比0.6ポイントの低下となった。
 
 
18/3期第1四半期連結累計期間の営業利益は、上期会社計画に対して約22%の進捗率と計画達成に向けハードルは低くない。
 
 
2018年3月期業績予想
 
 
前期比14.0%の増収、同12.8%の経常増益予想。
18/3期の会社計画は、売上高が前期比14.0%増の95億28百万円、経常利益が同12.8%増の23億42百万円の予想から修正なし。
大手製薬会社は、大型製品の特許切れの影響を補完するため、アウトソーシングによる経営の合理化・効率化並びに有望な医薬品開発品目の確保のため、海外ベンチャー企業の買収などを加速させており、医薬品開発のための治験受託件数は増加するものと予想される。特に、がん領域及び中枢神経系領域においては、いまだに有効な治療法が確立していない疾病があるため、その治療薬の開発が強く望まれており、こうしたニーズに対応するための医薬品開発は増加傾向となっている。また、使用方法の難しい新薬を中心に適正使用を促進するための企業主導型臨床研究は拡大傾向にあり、臨床研究法の成立によりアウトソーシングはますます加速するものと期待される。
こうした環境下、CRO事業においては、高い評価を受けている既存顧客からのリピート受注の獲得と営業活動の強化により新規顧客の獲得を目指す。特に、同社グループが得意とする顧客ニーズの高いがん領域及びCNS領域を中心に、国際共同治験を含む新規案件を受託し、売上高の拡大を図る計画。利益面においては、韓国、欧州子会社のM&Aに伴うのれん償却の影響が続くとともに、米国子会社等で先行投資が発生するものの、海外子会社の経営基盤を強化し高収益体質を確立することにより、利益の拡大を目指す。また、育薬事業においても、新薬発売後の企業主導型臨床研究を中心に営業活動を強化し、CRO事業で得たノウハウを活かした専門性の高い領域での新規案件の受託を拡大する。
営業利益は前期比11.1%増の23億65百万円の予想。国内の増員と米国の拡大など先行投資負担の増加を織り込み、売上高営業利益率は24.8%と前期比0.7%ポイント低下する保守的な計画となっている。その他、営業外損益と特別損益の大きな計上の予定はない。なお、同社の18/3期の会社計画は、各地域の計画の積み上げとなっており、グローバル体制強化による国際共同試験のワンストップ受注や海外拠点とのシナジー効果は考慮されていない模様。
配当も1株当たり11円の予想と前期比1円の増配の期初の予定を据え置き。
 
(2)社外取締役の選任
平成29年3月27日開催の取締役会において、アステラス製薬株式会社で代表取締役社長を務めた野木森 雅郁氏を社外取締役候補者として株主総会に付議する決議をした。6月下旬開催予定の定時株主総会での選任決議を経て、7月1日から就任の見込みである。野木森氏は、アステラス製薬株式会社の代表取締役社長をはじめ、旧藤沢薬品工業株式会社時代から国内外で重職を歴任、製薬業界への深い知見や豊富な経営経験に加え、コーポレートガバナンスに関する高い見識を有している。今後、社外取締役として同社の業務執行監督と企業価値の向上に重要な役割を担うものと期待される。
 
 
今後の注目点
2017年8月14日時点の受注残高は、2016年3月末に比べ17.8%増加した。主要顧客の受注残が大幅に増加していることに加え、その他顧客の受注残の規模も高水準を保っている。売上を拡大させながら、受注残高を積み上げており、改めて、同社を取り巻く業界環境の良好さと同社の受注競争力の強さと顧客バランスの良さを確認できた内容と言えよう。売上高の先行指標である受注残高を更に積み上げていけるのか、今後の受注動向が注目される。とりわけ、同社が得意とするがん領域や中枢神経系領域における大型プロジェクトからは目が離せない。
こうした良好な受注環境の一方、同社の第1四半期決算は営業利益が前年同期比29.8%減益の厳しいスタートとなった。これは、先行的な人材投資による人件費の増加と東京オフィス移転に伴う費用が影響したものである。第1四半期の営業利益は、上期会社計画の営業利益に対して約22%の進捗率と上期会社計画の達成に向けて、ハードルは低くない。今第2四半期において売上の順調な消化と、人員の稼働率向上を通じて、どこまで利益を積み上げることができるのか、第2四半期の業績動向が注目される。
また、今後増加が予想される国際共同治験において大型の受託を獲得するためには、米国拠点の早期の拡充が不可欠である。米国拠点の事業基盤の拡充は、受注プロジェクトの大型化につながるため、同社の成長性を一気に加速させる可能性を秘めている。こうした環境下、早期に事業基盤を手に入れるため欧州同様にM&Aを実施することが予想される。その最有力候補であろう米国におけるM&Aの動きにも引き続き注目していきたい。
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書
コーポレート・ガバナンス・コード適用以降のコーポレート・ガバナンス報告書直近の提出日、2017年7月6日。

<基本的な考え方>
当社は、その有している医薬品開発の技術をもって国内大手製薬会社のパートナーとして医薬品開発に貢献し、医薬品の分野から社会全体の期待に応えてまいります。さらに、企業価値を高めていくためには、健全性と透明性が確保された迅速な意思決定を可能にする体制の整備が必要であると考えております。
そのため、今後は最重要課題であるコンプライアンスの徹底を含む内部統制の強化を図っていく所存です。
 
 
 
<その他>
同社ではこれまで社外取締役を選任していなかったが、29年6月に開催した第12回定時株主総会でアステラス製薬株式会社社長をはじめ、旧藤沢薬品工業株式会社時代から国内外で重職を歴任されてきた、野木森 雅郁氏を社外取締役として選任した。
CGCの適用が開始されてから3年目となるが、これまでエクスプレインで対応してきた事項についても、コンプライにした方が良いのかの要否を検討した結果であり、同社では形式だけではなく、活きたCGCの運用をしていることが確認できた。