ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

スタンダード

ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.36

(2183:東証1部) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.36】2019年3月期第1四半期業績レポート
取材概要「同社の19/3期第1四半期決算は、前年同期比41.3%の経常減益と一見すると厳しい内容となった。また、2018年8月14日時点の受注残高は、前期末・・・」続きは本文をご覧ください。
2018年9月26日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2018年3月 9,113 1,846 1,826 1,295
2017年3月 8,355 2,128 2,076 1,447
2016年3月 7,666 2,012 1,985 1,330
2015年3月 4,872 876 840 437
2014年3月 3,721 706 703 449
2013年3月 3,599 1,003 998 616
2012年3月 3,110 728 723 424
2011年3月 2,512 288 278 147
2010年3月 2,404 480 473 273
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(8/28現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,705円 22,701,457株 38,706百万円 27.9% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
12.00円 0.70% 58.48円 29.2倍 220.20円 7.7倍
※株価は8/28終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
※ROEは前期実績、EPSは19/3月期予想。
 
リニカルの2019年3月期第1四半期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization)事業を中心に、医薬品のマーケティング業務ならびに製造販売後{以下製販後という}臨床研究・調査の受託などを行う育薬事業を手掛ける。
医薬品は発売前に厚生労働省の承認・認可を受けることが義務づけられており、承認前の薬剤(医薬品候補)を患者に投与して効果や安全性を確かめる必要がある。その臨床試験としての治験を支援する事業がCRO(Contract Research Organization)である。また、医薬品は製販後も調査、臨床研究を行う必要があり、その段階を支援する事業が育薬(Contract Medical Affairs)である。
同社は創業以来、がん・中枢神経系(CNS)など、世界中の人々がその撲滅を願い、新薬開発への強いニーズが存在する疾病領域を中心にCRO事業を展開してきた。これらは非常に難易度が高い領域であり、同社の知識・経験豊富なエキスパートが高度な治験を支えている。また、同社は創薬支援・育薬事業にも力を注ぎ、申請業務支援、承認後のマーケティングや臨床研究、製販後調査支援まで、単なるアウトソーシングを越えてお客様の事業を幅広くコンサルティングする「製薬会社の真のClinical Development Partner(医薬品開発パートナー)」を目指している。更に、国際化・大規模化が進む医薬品開発の流れのなかで、グローバルで大規模なプロジェクトにも同社グループのワンストップで十分な対応を行い、製薬会社とともに新しい時代を開拓していく戦略的ビジネスパートナーとして、顧客の市場競争力の拡充をトータルに支援している。
 
【沿革】
2005年6月、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)で免疫抑制剤等の開発に携わってきたメンバー9名によって設立された。大阪発理想の医薬品開発受託(CRO)事業を目的として、設立当初から、CNS領域やがん領域の育成に取り組み、会社設立後まもなく大塚製薬からCNS領域の案件を受注。その後、人材を補強し事業部として受注活動を強化した。また、がん領域も外資系製薬会社等でがん領域の医薬品開発を手掛けた人材等に恵まれ、足元、受注が拡大している。
SMO(治験施設支援機関)事業進出を念頭に、06年1月に同事業を手掛けるアウローラ(株)を子会社化したが、CRO事業への経営資源集中を図るべく07年5月に全保有株式を売却。08年7月に、国内の製薬会社の米国進出支援を目的に米国カリフォルニア州に全額出資子会社LINICAL USA, INC.を設立。同年10月の東証マザーズ上場を経て、13年3月に東証1部に市場変更となった。13年5月に、台湾と韓国に全額出資子会社LINICAL TAIWAN CO.,LTD.とLINICAL KOREA CO.,LTD.を設立。14年4月には、LINICAL KOREA CO.,LTD.と買収した韓国のCROであるP-pro. Korea Co., Ltd.との統合を完了した。14年10月29日には欧州でCRO事業を展開しているNuvisan CDD Holding GmbHの全株式を取得し子会社化するための株式譲渡契約を、Nuvisan Pharma Holding GmbH との間で締結し、12月1日付けで同社の100%子会社となった。更に、グループとしての一体感の醸成と連携強化を図るため、連結子会社となったNuvisan CDD Germany GmbHの名称をLINICAL Europe GmbHに商号変更した。その他、16年3月にLINICAL U.K. LTD.を、同年10月にLINICAL POLAND sp.z.o.o.を、17年9月にLINICAL Czech Republic s.r.oを 設立した。また、2018年4月に米国でAccelovance,Inc.を買収し、Lnical Accelovance America,Inc.に社名変更。国際共同試験の受託体制が強化された。
 
 
【業務内容】
同社は、主にCRO事業(臨床開発事業)、製造販売後の臨床試験や臨床研究とマーケティング活動支援を担当する育薬事業、創薬支援事業を展開している。
 
 
CRO事業(臨床開発事業)
主力のCRO事業においては、新薬の迅速な市場投入につながる高品質で高効率な治験の支援を目指して、高い技術と豊富な経験をもつスタッフが担当にあたっている。今後も拡大するグローバルスタディに対応していくため、アジア(韓国、台湾、シンガポールなど)と欧州、米国に拠点を開設。薬事から企画、実施計画書の作成、モニタリング、データマネージメント、統計解析、ファーマコビジランスまでワンストップで対応。国際共同試験においては、リニカル本社を窓口に位置づけ、各国に医薬品開発事情に精通した人材を配置。日本語ベースで機動的な国際共同試験が可能な開発環境を整えている。10年から20年近くに及ぶ新薬開発プロジェクトの中でも、3年から7年を要するといわれる治験で特に重要とされる患者を対象とする「第II相(フェーズII試験)」「第III相(フェーズIII試験)」のプロセスに特化し、治験の核となる「モニタリング」を「品質管理」「コンサルティング」とともに提供。信頼性の高いデータの収集を行い、迅速、確実な新薬開発の実現を支援している。さらに担当領域も市場からの開発要請の強いがん領域や中枢神経系領域をはじめ難易度の高い領域に特化することで、顧客である製薬会社のニーズに応えている。
※国際共同試験
「国際共同試験」とは、新規の医薬品開発に世界規模で取り組み、早期上市を目指すため、臨床試験を複数の国または地域において同時並行的に行うことをいう。
 
育薬事業
医薬品承認後の臨床研究は、臨床現場における医薬品使用について有効性の検証、安全性の確認、相互作用の検討等を実施するもので、医療の質の向上に寄与するEBM(Evidence Based Medicine)データを創出。近年、臨床研究についてルール整備が進んでおり、従来の医師主導臨床研究に加え、企業主導臨床研究も多く実施される様になってきている。同社は、治験で培った臨床試験のノウハウに加え、最新の規制情報に対応した臨床研究をグローバルで実施することができ、試験の介入研究のみならず、観察研究、データベース研究と各種の臨床研究の受託が可能。今後、製薬会社においては、営業活動の適正化・透明化に伴い、各疾患領域のKOL(Key Opinion Leader)への意見聴取は、MA部(Medical Affairs)のMSL(Medical Science Liaison)が主体として実施することが予測されている。MSLは、KOLエンゲージメント、アドバイスボードの運営、講演会運営等の多種の業務を実施しており、その育成も重要となってきている。同社は、これまでの営業資材作成、ROL(Regional Opinion Leader)支援、臨床研究の手順書作成支援、コンサルティング業務の経験を生かし、各種MSL業務支援をグローバルで実施。
 
創薬支援事業
同社が提供するサービスは、治験のモニタリング業務の受託、 新薬の販売支援などにとどまらず、 開発計画の立案や治験計画書作成から発売に至るまでの医薬品開発業務全般に幅広く対応するなど、クライアントである製薬会社のニーズに的確に対応。更に、医薬品開発の初期段階にある、「クスリの種」となるような化合物について、 創薬ファンドや助成金などを活用したリスクの少ない開発の提案を行う。
 
【5つの強み】
(1)グローバル規模でワンストップ
同社は日本発の唯一のグローバルCROとして、日本を中心にアジア、欧州、米国の3極でサービスを提供可能であり、同社として20ヶ国程度、パートナーを通じてサービスを提供出来る国を含めると30ヶ国程度においてサービスの提供が可能。また、医薬品開発のプランニングから、モニタリング、データマネジメント、統計解析、メディカル・ライティング、薬事、ファーマコ・ビジランスなどあらゆるサービスにおいて経験豊富なプロフェッショナル・メンバーが顧客ニーズに応え、Local試験はもちろん、マルチナショナル・トライアルまでフルサービス、且つ、ワンストップで提供している。
 
LINICAL Global 拠点
「日本・アジア+米国+欧州」の3極体制」
 
(2)創薬支援から臨床開発、臨床研究まで
同社は顧客の真のパートナーとして薬剤の価値最大化に貢献するべく、創薬段階から臨床開発、製造販売後の育薬まで一気通貫で対応出来る体制をとることにより、効率的な新薬開発とライフサイクルマネジメントの延長を可能とし、上市までの期間の短縮(TTM)と売上の早期最大化(TTP)を図っている。
 
 
(3)がん・中枢・免疫にフォーカス
医薬品開発のトレンドは、がん、中枢神経系、免疫領域に集中してきている。同社創業メンバーは免疫領域において豊富な経験を持ち、創業当初より難易度の高い免疫領域等を中心にサービスを提供してきた。その後、日本においては2006年に中枢神経領域、2010年にがん領域へと専門性を拡げていき、現在では難易度の高い、がん、中枢神経系、免疫などアンメット・メディカル・ニーズな領域でのサービスを大きな3本柱として事業を展開している。また、海外子会社においても同じく、がん、中枢神経系、免疫系のサービス実績が多く、同社全体で難易度の高いがん、中枢神経系、免疫系を得意領域としている。
 
 
 
 
(4)グローバル・コラボレーション
日本発グローバルCROとして、顧客へ世界規模のサービスを提供。高品質(Japan Quality)なサービスをご提供する為に、日本に国際事業開発本部を設置し、日本語、英語、母国語を含めたその他言語(韓国語、台湾語、ドイツ語など)が堪能なマルチリンガル・メンバーを大阪本社および東京支社に多数配置し、海外メンバーと適切なコミュニケーションをとっている。日本の顧客とは日本語でのコミュニケーションも可能。海外メンバーもJapan Qualityについて理解を深めており、All LinicalとしてJapan Qualityを提供している。
 
(5)高品質なサービス
同社は顧客へ高品質なサービスを提供すべく、社員に対して量・質ともに充実した教育を実施。その成果として、一般社団法人日本臨床試験学会によるGCPサポート認定試験にて第1回目から高い合格率を維持しており、当学会より高い合格率と質の高い臨床試験の推進に貢献した証として感謝状を授与された。また、GCP適合性調査の経験が豊富にあり、FDA inspectionの経験もある。いずれも適合・問題無しとの評価を受けており、同社の品質については社外からも高い評価を得ている。なお、海外子会社においても、FDAやKFDA 、ANVISAなどからのinspectionの経験があり、日本同様に高い評価を得ている。
 
 
経営戦略
 
(1)CRO事業
CRO事業の重点戦略は、
①グローバル1,000名体制に向け営業力の強化、質の向上、新たなプリファード獲得
②Oncology、CNS、Immunologyに加え、再生医療も強化
③高稼働率の維持
④グローバル体制構築による国際共同試験のワンストップ受託の促進
 
各国の今後の展開
日本、欧州、韓国では、利益の確保を目指す。
・日本は、Oncology、CNS、Immunologyに加え、再生医療にも特化する。
・欧州は、競争力強化により利益率向上を目指す。
・韓国は、早急に100名規模まで拡大するとともに、2期連続の黒字化を土台に高収益体質を確立する。
 
米国、台湾、欧州では、積極的に投資を拡大する。
・米国は、M&Aが成功したLinical Accelovance America, Inc. を起点とし、ビジネスの中心と位置づけ育成する。
・台湾は、シンガポール子会社を含めた新規案件の獲得を図る他、中国への進出を検討する(Linical Accelovance Chinaを核として拡大)。
・欧州は、会社設立が完了したポーランド、チェコの更なる増員と拠点拡大を検討する他、Linical Accelovance Europeの強化を図る。
 
同社は製薬会社のグローバル戦略をサポートするため、各国に医薬品開発事情に精通した人材を配置し、日本語ベースのコミュニケーションを図れる環境を整備している。特に、がん・中枢神経系など難易度の高い疾病領域の国際共同治験においては、日本のリニカルを窓口に国内で早期開発段階を手がけた後、日本・アジアの拠点での開発に拡大している。後期開発段階を日本・アジア+米国+欧州で手がけて各国での同時上市を目指す戦略。
同社は今後も更なる日亜・米・欧3極における国際共同試験受託体制の強化を推進する方針である。
 
 
(同社2018/3期決算説明資料より)
 
買収によるLAA(Lnical Accelovance America,Inc.)の子会社化により、グローバル1,000名体制が現実的となる中、営業力の強化と質の向上が期待される。
 
(2)育薬事業
育薬事業の重点戦略は、
①拡大する企業主導臨床研究関連業務の外注ニーズへ対応する。
②メディカルサイエンティフィックリエゾン業務を通じて学術サポートを行う。
 
他社が手掛けるMRの派遣サービスとは一線を画し、同社が主体となって業務を進める受託サービス型の育薬事業を志向している。具体的には、特定の疾患領域やエリアで経験豊富なMRを採用し、CRO事業部で蓄積したノウハウを活用する事で専門性の高い業務を受託し差別化を図っていく考えで、現在、臨床研究のサポート業務受託とプロダクトマーケティング(リエゾン)業務受託が2本柱。臨床研究のサポート業務受託は、エビデンス創出のための臨床研究において質の確保が課題となっている。同社では、手順書作成などの体制構築サポートやモニタリング、監査などを実施している。プロダクトマーケティング(リエゾン)業務では、未経験領域の新製品上市に伴う新規医療機関・医師の開拓や製品差別化戦略の提案・実行を行う。13/3期は臨床研究の受託に成功し、セグメント損益が黒字転換し、14/3期以降臨床研究等の新規受注により売上・利益の成長が加速してきた。
今後も旺盛な引き合いに対応すべく、積極的な採用を継続する予定である。
 
 
(3)創薬支援事業(新規事業の育成)
創薬支援事業の重点戦略は、
①開発計画立案から薬事当局対応まで幅広いサービスを提供する。
②創薬ファンドを活用する。
日本の行政当局においては、日本発の革新的な医薬品・医療機器を世界に先駆けて実用化したい、また、韓国・台湾の行政当局においては、国際的な競争力を高め、新医薬品を創出していきたいとのニーズを持っている。また、国内外のバイオベンチャーにおいては、医薬品市場世界第3位の日本で自社製品を開発・販売したいとのニーズが高まっている。同社では、こうした昨今のニーズへの対応を念頭に創薬支援事業の育成を目指している。同社は、臨床開発品だけでなく、より早期段階での支援や大手製薬会社で研究・開発・ライセンスを長年経験したプロフェッショナルが、国内外バイオベンチャーのパートナリングまでの支援を提供することが可能である。また、創薬ファンドへの出資も行う。創薬ファンドからの投資案件の増加は、今後の同社のCRO事業の拡大に繋がるとともに、これまでの経験で同社が培ってきた目利きの力が生かされる。更に、開発計画立案から当局対応までの受託経験が蓄積される。
 
 
具体的には、市場分析(売上予想等)、開発戦略立案と薬事対応(PMDA相談等)、パートナリング(ビジネスモデル提案、ライセンス交渉支援等)などを実施する。現在、内外の会社との間で、コンサルティング契約締結済6社と締結中1社に加え、コンサルティング契約から発展したモニタリング契約締結中1社と事業が順調に立ち上がってきている。
 
 
2019年3月期第1四半期決算
 
 
前年同期比29.1%の増収、同41.3%の経常減益
売上高は前年同期比29.1%増の27億59百万円、経常利益は同41.3%減の1億51百万円となった。
同社が属するCRO業界とCSO業界は、医薬品開発・販売のアウトソーシング化及び国際共同試験の増加を背景として、市場規模は緩やかに拡大している。
こうした中、売上面では、日本、アジア、米国、欧州におけるグローバル受託体制の構築を強力に推し進めたことが、国際共同試験の受託件数増加に結びついたことに加え、買収したLinical Accelovance America, Inc.を連結化した効果によりCRO事業で増加した。また、育薬事業においても、新薬販売後の臨床研究を中心とした案件の受託増加により人員の稼働率が上昇したことにより売上高が増加した。
利益面では、先行的な人材投資による人件費の増加の他、 Linical Accelovance America,Inc.買収に関連して発生した取得関連費用やのれんの償却負担の増加が影響し、CRO事業で減益となった。一方、売上高の増加により育薬事業は増益となった。営業利益は86百万円と前年同期比65.8%減少した。売上総利益率は31.0%と前年同期比1.4ポイント低下、売上高対販管費率は27.9%と同7.4ポイント上昇。営業外収益で為替差益72百万円(前年同期は8百万円)が発生したことなどから経常利益は同41.3%の減少の1億51百万円と営業利益に比べ減益幅が小さくなった。その他、特別損益の計上はなかったものの、法人税等の増加により親会社株主に帰属する四半期純利益は42百万円と同73.4%減少した。
 
 
育薬事業では増収増益となったものの、CRO事業では、先行的な人材投資による人件費の増加の他、 Linical Accelovance America,Inc.買収に関連して発生した取得関連費用やのれんの償却負担の増加が影響し増収減益となった。
 
 
CRO事業、育薬事業共に、1年から3年程度の受託契約期間において、契約に従い毎月売上が発生する。受注残高は、既に契約締結済みの受託業務の受注金額の残高である。このため、今後1年から3年程度の期間で発生する売上高を示しており、同社グループの今後の業績予想の根拠となる指標である。
 
2018年8月14日時点の受注残高は、前期末(2018年3月)に比べ、19.8%増加。これは、既存の委受託契約を順調に消化し受注残高の金額が売上高として計上されたものの、これを上回る受託案件の新規契約があった他、2018年4月に同社米国子会社がAccelovance, Inc.(新商号:Linical Accelovance America, Inc.)を子会社化したことにより受注残高が積み増しされたことによるもの。
アウトソーシング化及び国際共同試験の増加を背景に足元の受注環境は良好であり、営業活動の成果により既存・新規顧客からの受託案件の打診が多いことから、同社ではCRA(臨床開発モニター)の増員などにより、受託体制の強化を図る計画。
 
 
18年6月末の総資産は前期末比45億15百万円増の137億62百万円。資産サイドは現預金、売上債権、立替金、のれん等が、負債純資産サイドは、主に短期借入金、未払金、前受金等が主な増加要因。18年6月末ののれんは、44億27百万円と同33億78百万円増加。また、18年6月末の自己資本比率は36.3%と前期末比20ポイント低下した。
 
 
2019年3月期業績予想
 
 
前期比43.7%の増収、同9.1%の経常増益予想。
第1四半期が終わり、19/3期の会社計画は、売上高が前期比43.7%増の131億円、経常利益が同9.1%増の19億93百万円から修正なし。
日本においては、平成30年度から実施される抜本的薬価制度改革では、新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度の抜本的見直しや長期収載品の薬価等の見直しなど、新薬創出を目指す製薬会社に経営的側面から大きなインパクトを与えており、新薬開発の生産性や効率性の向上が求められている。他方、治療満足度の低い疾患や希少疾病用医薬品へのニーズは依然として数多く存在しており、革新性の高い医薬品が待ち望まれている。日本では、希少疾病用医薬品指定制度、先駆け審査指定制度、条件付き早期承認制度が運用され、米国、欧州の規制当局も同様に優遇政策を導入している。今後、製薬会社は革新的新薬の創出並びにその生産性や効率性を更に向上させるため、医薬品開発・販売のアウトソーシングを一層加速させることが不可欠となっている。
こうした環境下、CRO事業においては、高い評価を受けている既存顧客からのリピート受注の獲得と営業活動の強化により新規顧客の獲得を目指す。特に、同社グループが得意とする顧客ニーズの高いがん領域及びCNS領域を中心に、国際共同試験を含む新規案件を受託し、売上高の拡大を図る計画。利益面においては、韓国、欧州子会社のM&Aに伴うのれん償却に加えて、2018年4月に同社米国子会社がAccelovance, Inc.(新商号:Linical Accelovance America, Inc.)を子会社化したことに伴うのれん償却が追加されるものの、海外子会社の経営基盤の更なる強化と北米事業の規模拡大を通じて高収益体質を実現する方針。また、育薬事業においても、新薬発売後の企業主導型臨床研究を中心に営業活動を強力に推進し顧客基盤の拡大を図り、CRO事業で得たノウハウを活かした専門性の高い領域での新規案件の受託を図る方針。
営業利益は前期比10.0%増の20億31百万円の予想。人員の増加に加え、買収にともなうのれん償却費の増加を織り込み、売上高営業利益率は15.5%と前期比4.8ポイント低下する計画となっている。その他、営業外損益と特別損益の大きな計上の予定はない。
配当も1株当たり12円と前期比1円の増配の予定を据え置き。
 
 
 
 
 
(3)最近のトピック
米国Accelovance,Inc.の株式取得(子会社化)
同社及びLINICAL USA, INC.(本社:ニューヨーク州)は、平成30年4月16日付で、Accelovance, Inc.(本社:メリーランド州)を完全子会社化した。Accelovance社は、米国を拠点に、米国、欧州、中国において同社グループが注力しているがん領域の臨床試験を含め、グローバル大手製薬企業や製薬ベンチャー企業に対する国際共同試験をはじめとする豊富な試験の実施経験を有している。また、ワクチン領域ではWorld Vaccine Congressで2009年、2010年、2011年に3年連続で「Vaccine Industry Excellence(ViE)Best CRO」に選出されるなど、極めて高品位のCROサービスを提供しており、今後同社グループとの相乗効果が期待される。加えて、Accelovance社は、米国以外に、欧州地域では英国、オランダ、ルーマニアに、アジア地域では中国に子会社を有しており、日本、米国、欧州を中心とする製薬会社からのグローバル開発案件の受託において大きな相乗効果が期待される他、中国子会社は同社台湾子会社との協業による相乗効果も見込まれる。
同社は、平成30年4月16日付で、Accelovance, Incの社名をLinical Accelovance America, Inc.ヘ変更。買収金額は約35億円で、全額借入金で対応する予定。
 
JPX日経中小型株指数に選出
(株)東京証券取引所及び(株)日本経済新聞社が共同で算出を行っているJPX日経中小型株指数の8月31日の定期入替において、昨年同様構成銘柄の200社の中に選出された。JPX日経中小型株指数は高ROE企業が選出される傾向が強く、同社のROEの高さが評価されたものと思われる。
 
社外取締役の選任
2018年6月26日開催した第13回定時株主総会において、大澤 昭夫氏が社外取締役として選任された。同氏は、複数の外資系大手製薬会社日本法人において代表取締役長や取締役副社長などの重職を歴任され、製薬業界への深い知見や豊富な経営経験に加え、コーポレートガバナンスに関する高い見識を保有されている。今後、同社の業務執行の監督や企業価値の向上に貢献されるものと期待される。
 
 
今後の注目点
同社の19/3期第1四半期決算は、前年同期比41.3%の経常減益と一見すると厳しい内容となった。また、2018年8月14日時点の受注残高は、前期末(2018年3月)に比べ19.8%増加となったものの、2018年4月に同社米国子会社がAccelovance, Incを子会社化したことによる寄与が大きい。同社の主要顧客である日本の大手製薬会社向けの2018年8月14日時点の受注残が、前期末に比べ複数社で減少していることは気がかりではあるが、19/3期第1四半期決算の減益は、先行的な人材投資による人件費の増加の他、Linical Accelovance America,Inc.買収に関連して発生した取得関連費用やのれんの償却負担の増加が影響したもの。今後の成長加速の為の先行投資負担の増加による一時的な収益の落ち込みは避け難いことに加え、受注と売上高計上のタイムラグにより一時的に受注残が減少することも頻繁におこりうることである。今回の米国での買収により日本、アジア、米国、欧州でのグローバル受託体制が強化されたことで、同社グループのみで大規模な国際共同試験の受託が可能となった。これは1件当たりの受注単価の大幅な増加を意味する。今後大規模な国際共同試験の受託の獲得により、市場参加者の成長期待を取り戻せるのか、業績の先行指標である受注残の動向が注目される。とりわけ、主要顧客である日本の大手製薬会社向けの受注動向に注目したい。
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書
コーポレート・ガバナンス・コード適用以降のコーポレート・ガバナンス報告書直近の提出日、2018年7月5日。
<基本的な考え方>
当社は、その有している医薬品開発の技術をもって国内大手製薬会社のパートナーとして医薬品開発に貢献し、医薬品の分野から社会全体の期待に応えてまいります。さらに、企業価値を高めていくためには、健全性と透明性が確保された迅速な意思決定を可能にする体制の整備が必要であると考えております。
そのため、今後は最重要課題であるコンプライアンスの徹底を含む内部統制の強化を図っていく所存でございます。

<コーポレート・ガバナンス・コード各原則の実施について>
 
 
 
<その他>
同社ではこれまで社外取締役を選任していなかったが、29年6月に開催した第12回定時株主総会でアステラス製薬株式会社社長をはじめ、旧藤沢薬品工業株式会社時代から国内外で重職を歴任されてきた、野木森 雅郁氏を社外取締役として選任した。加えて、30年6月に開催した第13回定時株主総会で複数の外資系大手製薬会社の日本法人において代表取締役社長や取締役副社長などの重職を歴任されてきた、大澤 昭夫氏を社外取締役として選任した。
CGCの適用が開始されてから4年目となるが、同社では形式だけではなく、活きたCGCの運用をしていることの証明と言えよう。