ブリッジレポート
(6890) 株式会社フェローテックホールディングス

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ブリッジレポート:(6890)フェローテック vol.21

(6890:JASDAQ) フェローテック 企業HP
山村 章 社長
山村 章 社長

【ブリッジレポート vol.21】2009年3月期業績レポート
取材概要「新興市場の上場企業を中心に決算説明会に出席しているが、業績予想で大勢を占めるのは、「上期苦戦、下期若干の回復」型。このタイプの企業側・・・」続きは本文をご覧ください。
2009年6月16日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社フェローテック
社長
山村 章
所在地
東京都中央区京橋 1-4-14
決算期
3月
業種
電気機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2009年3月 36,653 2,790 2,097 743
2008年3月 36,625 3,057 2,414 1,903
2007年3月 32,517 2,288 2,081 1,703
2006年3月 23,946 1,210 1,040 708
2005年3月 21,105 1,762 1,456 633
2004年3月 15,000 615 -177 -645
2003年3月 12,845 111 -626 -899
2002年3月 14,775 916 984 -357
2001年3月 16,435 2,665 2,561 1,644
2000年3月 7,988 892 629 288
株式情報(6/5現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,180円 21,704,078株 25,611百万円 3.7% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
12.00円 1.0% 36.86円 32.0倍 856.22円 1.4倍
※株価は6/5終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
フェローテックの2009年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
シリコン単結晶引上装置等の太陽電池関連製品、半導体製造装置やフラット・パネル・ディスプレイ(FPD)製造装置の部品、半導体材料、各種温度調節に使われるサーモモジュール等の製造・販売を行っている。いずれも目に触れる機会はないものの、パソコンや携帯電話、液晶やプラズマ等、身近な分野で同社の技術が活かされている。
もともとは磁力を持つ液体である磁性流体応用製品のメーカー。その代表例が、半導体やFPDの製造装置の部品となる真空シールであり、ハードディスクドライブ等で使われていたコンピュータシールである。磁性流体応用製品に次ぐ製品となったサーモモジュールもそうだが、Only Oneの製品であり、超精密部品であるため、金属加工や表面処理等で高い技術が要求される。この技術を中国に持ち込み、現地の安価な労働力と融合させたのが、事業セグメントの一つである受託生産(CMS)事業である。更に、近年、急速な伸びを示しているのが太陽電池関連事業である。太陽電池の材料となるシリコン単結晶の引上装置には、同社の製品である真空シールや石英製品等が主要部材として使われており、これまで蓄積してきた技術やノウハウが活かされている。
 
事業は4セグメントに分かれ、主な製品及びサービスは次の通り
(カッコ内は09/3期売上構成比)。
装置関連事業 (38.9%) 真空シール、石英製品、半導体用シリコン製品、セラミックス、EB-ガン等
太陽電池関連事業 (30.1%) シリコン(多・単)結晶製造装置、太陽電池用シリコン、石英坩堝等
電子デバイス事業 (11.9%) 磁性流体動圧軸受、サーモモジュール、磁性流体等
受託生産(CMS)事業 (19.3%) シリコンウェーハ加工、装置部品洗浄、工作機械製造等
 
 
2009年3月期決算
 
 
前期比0.1%の増収、同13.1%の経常減益。
昨秋以降の半導体・FPD業界や自動車業界の苦戦を受けて装置関連事業、電子デバイス事業、及びCMS事業の売上が落ち込んだものの、大幅な増収となった太陽電池関連事業でカバー、前期並みの売上高を確保した。利益面では、収益性の高い太陽電池関連事業の売上構成比の上昇で売上総利益率が改善したものの、急激な円高に加え、連結子会社の増加やJ-SOX法対応等による管理費用の増加が負担となり営業利益は同8.7%減少した。ただ、フローベースで受けた為替の影響(約△3.3億円の営業減益要因)を除くと同2.3%の営業増益。為替差損の増加(資産評価の面でも影響を受けた)等で営業外損益が悪化した事に加え、製品補償引当金等を特別損失に計上したため、当期純利益は同61.0%減少した。配当は、予定通り1株当たり12円の期末配当を実施する考え。
 
特別利益及び特別損失の主なもの
特別利益:234百万円(投資有価証券売却益135百万円、持分変動益63百万円等)
特別損失:662百万円(固定資産処分損113百万円、製品補償引当金310百万円、特別退職金等118百万円等)
 
 
装置関連事業
当セグメントの主な製品は、真空シール、石英製品、半導体用シリコン製品、セラミックス、EB-ガン等である。セグメント売上高の約38%を占める真空シールは、薄膜系及びシリコン系の太陽電池用製造装置向けが増加したものの、半導体・液晶製造装置向けの落ち込みをカバーできず減収。半導体を生産する際の消耗品である石英や材料である半導体用シリコン(両者で約35%を占める)、半導体製造装置等に遣われるEB-ガン等(約13%)の売上も減少した。尚、昨年7月に子会社化した(株)フェローテックセラミックスの7月~12月(12月決算のため)までの業績が反映されている(売上高1,947百万円)。一方、石英坩堝(るつぼ)、シリコン製品の一部を太陽電池関連事業に振り替えた。
 
太陽電池関連事業
今期より新設した事業セグメントであり、主な製品はシリコン(多・単)結晶製造装置、石英坩堝、太陽電池用シリコン製品等である。中国の太陽電池セルメーカー各社から大型受注に成功した単結晶製造装置及び多結晶製造装置の出荷が順調に進んだ他、太陽電池用シリコン製品や単結晶製造装置に使用される坩堝の売上も増加した。年末にかけて最終仕向け地である欧州の需要減少で中国の太陽電池セルメーカーからの製造装置受注が一時期減少したものの、足下落ち着きを取り戻しつつある。同装置の期末受注残は単結晶120台、多結晶20台。尚、シリコン結晶製造装置はCMS事業から、石英坩堝、シリコン製品の一部は装置関連事業から振り替えた。
 
電子デバイス事業
主な製品は、サーモモジュール、磁性流体等である。サーモモジュールは、米国を初めとする自動車販売の減少に伴い主力の自動車温調シート向けが大幅に減少、バイオ・医療機器向けや民生機器向けが伸びたもののカバーできなかった。尚、セグメント間の製品異動は無い。
 
受託生産事業
当セグメントでは、受託契約による他社製品の製造、及び各種サービスの提供を行なっているが、顧客との守秘義務契約に伴う制約があり、同社では詳細な説明を控えている。装置部品洗浄やメッキ等の表面処理加工の売上は前年同期並みを維持したものの、半導体市場低迷の影響を受けてシリコンウェーハ加工の売上が減少した。また、工作機械製造は自社のシリコン結晶製造装置へ人員をシフトしたため、当初の計画に沿って減産した。
尚、シリコン結晶製造装置を、太陽電池関連事業へ振り替えた。
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
太陽電池関連事業の好調と積極的な先行投資、更には為替ヘッジ目的の預金と借入金の両建等で総資産が増加。CFも資産・負債の増加に連動したものとなった。厳しい経済環境であるが、太陽電池関連の調整は短期間で終了している。有望事業を手掛けているだけに投資の手を緩める事ができない。
 
 
期末総資産は前期末比5,978百万円増の46,951百万円。中国子会社の為替ヘッジ取引に伴い現預金が増加(預金と借入金の両建て)した他、太陽電池関連事業の好調により売上債権やたな卸資産も増加。太陽電池関連を中心にした設備投資やセラミック分野でのM&Aにより固定資産も増加した。これら運転資金や投資資金を借入金で賄ったため、有利子負債が増加。純資産の減少は会計基準変更に伴う米国子会社の「のれん」の一括償却による。
 
 
営業CFの減少は、法人税等の支払額が558百万円から1,401百万円に増加した事も要因。
 
2010年3月期業績予想
 
 
前期比16.8%の増収、同52.3%の経常増益予想。
引き続き厳しい事業環境が続くと見ているが、各事業で足下の引き合いが回復傾向にある。また、第2四半期以降、役員報酬削減や製造部門における人員合理化・一時帰休等の人件費抑制効果も現れてくる見込み。売上の底打ちとコスト削減効果により、下期から来期にかけて、業績回復・拡大への期待が高まってきた。
為替レートの前提は、1ドル=95円、1元=13.9円。設備投資32億円、減価償却費26億円を計画。
 
 
 
装置関連事業
真空シールは半導体向けが依然として厳しいようだが、液晶向けは中国市場での液晶パネル需要の回復など明るい話題がある。また、業績予想には反映されていないものの、足下、引き合いが増加しており、設計部門の仕事量が増えつつあるようだ。経験則で言えば、設計部門が忙しくなると、遠からず受注が増加する(足下の引き合いは、下期以降の売上につながる可能性が高い)。また、単体販売でなく他の部品と組み合わせてモジュール化したサブ・アセンブリ品の受注も好調で下期の売上に寄与する見込み。一方、IC製造プロセスに使用される消耗品の石英製品は、製造ラインの稼働率が上昇すれば需要が増加する。足下、半導体の過度な生産調整が終息し、台湾、韓国、米国等のメーカーで動きが出てきたようだ。若干遅れ気味の日本メーカーも下期から来期にかけての回復期待が高まっている。加えて、品質とコストの両面で優位にある同社製品に興味を示す米国デバイスメーカーが増えており、彼らは北米ベンダーからの切替えに前向きだ。このため、他社製品からの切替えを促すべく積極的な営業活動を行なっている。更に、セラミックス製品も主用途の一つであるフラッシュメモリーの検査装置用を中心に下期以降の回復期待が高まっている。SSD(フラッシュメモリーを使ったHDDの代替装置)搭載のPCが相次ぎ発売されている事に加え、シーゲト社の発表に見られるように、今後、サーバーへの搭載も進む見込み。
 
太陽電池関連事業
投機マネーによる価格無視の最終需要家が金融危機の影響により淘汰された事で、太陽光発電産業は一時期の過熱感こそなくなったものの、その普及については未だ道半ば。低炭素社会施策の推進等もあり、米国、中国及び補助金制度が改めて設けられた日本等での市場拡大が予想される。特に価格競争力があり品質の優れた(このため投資コスト=発電コストを抑える事ができる)太陽電池モジュールに対する需要が強い事から、同社では、シリコン結晶製造装置、セル・モジュール製造装置、蓄電池、インバーター等の各種技術で他を凌駕する日本メーカーが世界の太陽光発電市場をリードすると見ている。原材料であるポリシリコンの価格高騰で首位の座を奪われた日本メーカーだが、その原材料価格も既に下落(金融危機後30%程度下落)しており、足枷もなくなった。同社の前09/3期は仕向け先の98%を中国が占めたが、今10/3期は、中国の他、米国を中心に台湾、韓国、インド、そして日本へと広がる。足下、大型案件2件が進行中であるとの事で、当事業は今期も二桁成長が続く見込み。
 
電子デバイス事業
主力のサーモモジュールはGM破綻の影響が避けられないものの、他社の新車での採用がある他、新型インフルエンザの検査装置であるPCR装置などのバイオ・医療機器向けや光通信等のより収益性の高い分野や、数量効果が期待できる民生品分野向けの拡販等で利益の確保に努める。自動車向けは全体の40%台へ低下する見込みだが、韓国ヒュンダイ向けが4車種も増加する予定のため減収は限定的だ。(09/3期は通期で60%、下期は50%)。
 
受託生産事業
半導体や液晶表示装置の生産の回復に伴い当事業も回復に向かう。実際、下期以降のサービス開始に向けた準備に着手している案件があるようだ。
 
 
 
(3)太陽電池関連事業の体制強化策
 
①中国市場で30%以上の市場シェアを有するシリコン結晶製造装置
同社は、2006年より太陽電池の基となる太陽電池セルの材料やシリコン結晶製造装置の生産を中国子会社 上海漢虹精密機械有限公司で行なっている。シリコン結晶製造装置では、現在、単結晶シリコン製造装置(8インチ135Kg自動制御)及び多結晶シリコン製造装置(450Kgキャスティング)の両装置の生産を行っており、機能、品質、コスト、歩留まり向上への寄与等で取引先からの評価は高い。実際、全世界で太陽電池セル及びモジュールの生産高が最も多い中国市場で30%以上の市場シェアを有しており、これまでに出荷した単結晶シリコン製造装置は600台を数え、多結晶製造装置も昨年から出荷が開始されており、先月には、新たに多結晶製造装置を40台受注したとの発表があった。
 
②消耗品(石英坩堝)の製造・販売でストックビジネスも拡大
更に、同社はシリコン結晶製造装置だけでなく、同装置に組込み消耗製品として使用される石英坩堝の製造を2007年に中国子会社 杭州先進石英材料有限公司で開始した。石英坩堝とは、1回の単結晶シリコン製造において1個消費される消耗品(使い捨て)で、同社納入済みの装置分だけでも年間約90,000個が必要となる。昨年末の能力増強投資により生産能力を年間40,000個に引き上げたものの、市場ニーズ(同社推定で300,000個)を充足するためには引き続き増産投資が必要だ。尚、同社の石英坩堝も価格・品質等の面で高い評価を得ており、同社製造装置以外の装置でも使用されている。
 
③世界各地で安定的かつ短納期で供給できる体制へ
中期的には、世界各地での太陽電池生産計画に合わせて、安定的かつ短納期でシリコン結晶製造装置の組立及び石英坩堝の供給ができる体制を構築したい考え。当面の課題として、中国での設備増強、日本、米国、韓国での石英坩堝の生産体制の整備を挙げており、溶融炉設備等の増強及び各国での工場新設を進めていく。
 
 
④設備投資資金の調達について
上記の工場建設は主要顧客の要望に基づくものであるため、安定した需要が確実に見込めるが、主要顧客の太陽電池製造計画に伴い、工場建設の時期が決定するため資金需要の時期が確定しがたく、また、決定後は速やかな着工が要求されている。この設備投資の資金を確保するべく、この3月に第三者割当てによる新株予約権を発行した。今回の第三者割当てが、新株式ではなく新株予約権の発行となったのは機動的な資金調達ニーズに留意した事と、株式の急激な需給の悪化にも配慮したためだ。
本レポートを作成中の6月3日に約6億円相当の60万株の権利行使の発表がなされたが、翌日、HDDメディア向けにFCA法と呼ばれる超薄膜装置の開発完了のリリースが出され、株価は上昇に転じた。
 
新株予約権に係る調達資金   3,079百万円
発行諸費用          11百万円
差引手取概算額        3,068百万円
新株予約権発行株数      300万株
 
取材を終えて
新興市場の上場企業を中心に決算説明会に出席しているが、業績予想で大勢を占めるのは、「上期苦戦、下期若干の回復」型。このタイプの企業側の気持ちを代弁すると、「足下の状況は厳しいものの、極めて厳しかった前下期に比べれば、若干改善した感がある」、「未だ不透明感は強いが、最初から白旗を揚げるわけにもいかない」と言ったところだろうか。
このため、同社の10/3期の業績予想を見た時、「良くあるパターンだな」と思ったが、説明を聞いてみると全く違った。装置関連事業を考えた場合、半導体や液晶の製造装置メーカー各社を取り巻く環境は厳しいが、それだけにメーカー各社は取引先に対して価格、品質、納期等に対する要求を強めており、こうした要求を満たすためには、仕入先の変更も辞さない考え。このため、同社の中国工場のコスト優位性と製品の高い品質に興味を示すメーカーは多いようだ。また、太陽電池関連事業についても同じ事が言え、品質や価格等での優位性とグローバルな営業力や生産能力の増強効果が相俟って、中国に集中していた太陽電池セルメーカーへの販売先が世界各地に広がりつつある。
更なる世界経済の落ち込みが無ければ、売上の増加とコスト削減効果により、来期11/3期の営業利益は30億円程度に回復するのではないだろうか。世界景気の回復いかんでは、最高益更新も見えてくる。